浮世をば今こそ渡れもののふの名を高松の苔に残して・・・と清水宗治(岡田准一)
戦国武将たちは多かれ少なかれ死後の世界を夢見た。
当然、目指すのは極楽浄土である。
殺生戒を犯しまくっても南無阿彌陀仏を唱えれば往生出来る御仏の教えは甘美なものであった。
この世では武士として高名を残して浄土に渡る・・・と備中高松城主・清水宗治は辞世を詠む。
その前に能の「誓願寺」をひとさし舞うわけである。
「誓願寺」は14~5世紀の能作家・世阿弥の作品である。
SFホラーものなので13世紀の僧侶・一遍智真と10世紀の歌人・和泉式部の邂逅が描かれる。
舞台となるのが7世紀に天智天皇が創建した誓願寺という時空を超えた壮大な物語だが・・・つまるところ、成仏できないで彷徨っている和泉式部の霊が「浄土に定員があるか」と尋ねるので一遍が「誰でも成仏できます」と応じ、和泉式部がめでたく往生するという話だ。
つまり、それにあやかりたいと清水宗治は謡い舞うのである。
「我が力には往き難き、
御法の御舟の水馴棹、
ささでも渡るかの岸に至り至りて楽しみを極むる国の道なれや、
十悪万邪の迷ひの雲も空晴れ、
真如の月の西方も、
ここを去る事遠からず、
唯心の浄土とはこの誓願寺を拝むなり」
もう極楽往生する気満々なのである。
ちなみに和泉式部は父・大江氏、母・平氏の出自である。
大江氏の毛利家と平氏の清水家の和合も象徴していてなかなかにくどい趣向である。
そして・・・清水宗治は切腹して果てた。
で、『軍師官兵衛・第29回』(NHK総合2014070620PM8~)脚本・前川洋一、演出・本木一博を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は倍増の二十六行で・・・チョイ悪おやじ風官兵衛と恵瓊のコンビが受けました模様でございますな。まあ、ここはある意味、最大の見せ場でございますからねえ。そして、ついに、待ちに待った、一同待望の、首を長くして待ちわびた黒田官兵衛の正室・櫛橋光の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。おとくだけにひもで釣りたいくらいです。女性陣続々登場で歓喜ですな。濃姫は一期一会でしたが光はまだまだ長生きしますものねえ。万歳です。堰を切らないのは・・・津波映像の自粛か・・・まさかとは思いますが・・・もう予算がないのでは~・・・。来週、吉川家の侍がいくらか流されるといいですなあ。
天正十年六月三日の深夜・・・明智謀反、信長殺害の報せが秀吉陣営に届く。毛利が先にそれを知ることができなかったのは運の成せるわざという考えもあるが・・・変事が起ったのが後方だったから当然という見方もできる。山陰道の因幡国、山陽道の播磨国は共に羽柴軍の勢力圏であり、さらに瀬戸内海の制海権も羽柴軍が握っていた。明智が毛利に向けてはなった密偵は届かなかったのである。秀吉にとって幸いだったのは和睦の条件が整いつつあったことである。四日に清水宗治が切腹し、両家が兵をひくことは約束済みであった。もちろん、信長本軍進出までの一時的停戦である。毛利軍としては羽柴軍と交戦中であるよりも織田家との和平交渉の余地を残すためには停戦中であることの方が望ましかったのである。武田家のように滅ぼされるよりもたとえ安芸一国の安堵になろうとも毛利家の存続を小早川・吉川両家は選択したのだった。その頃、魚津城攻略中の柴田勝家は変事を知り撤退を開始。上杉景勝は命拾いをする。滝川一益は北条家を相手に身動きを封じられ、徳川家康は伊賀越えで脱出中、織田信孝と丹羽長秀は光秀の娘婿・津田信澄を五日に殺害。その日、秀吉軍は備中の戦場から反転する。明智光秀は近江国の反明智勢力を排除しながら六日に安土城を占領。しかし、その時、すでに秀吉は播磨国に向かっていた。丹後半国の主で光秀にもっとも近い同盟者である細川父子は何故か、中立を表明する。光秀の勝算はたちまち狂って行くのだった。
安国寺恵瓊が京の変事を知ったのは石見のくのいち宇多田小糸から・・・清水宗治が切腹を同意した旨の報告を受けている時だった。京の僧しのびが・・・異変の第一報をもたらしたのである。しかし・・・京で何かが起ったという報せの後は具体的な報せが届かない。本能寺の変の事実を知らせる忍びはすべて秀吉しのびの結界にからめ捕られていた。
情報不足のまま・・・事態は動き・・・数時間後には清水宗治は見事に切腹し、和睦が整った。双方の人質が交換され・・・毛利軍、羽柴軍の撤退が開始される。
清水城に取りついていた巨大な羽柴鉄甲船が川を下り姿を消すと・・・戦場には静寂が残る。
羽柴軍の殿(しんがり)を務める黒田軍が堤防を結界させると泥沼と化した高松城下が広がった。
その時、ようやく、山陰道経由の情報がもたらされる。
「そうか・・・もう信長はいないのか」
恵瓊はすでに姿を消した羽柴の軍勢を目で捜す。
そして、舌うちをした。
「まんまと・・・計られたか」
しかし・・・と恵瓊は考える。
備中国が空白地帯となっただけで毛利軍は無傷で残ったのである。
瓦解した信長体制がどうなるのかは不明だが・・・毛利家の滅亡の危機はひとまず去ったと言える。
(わが殿・・・小早川隆景にとっては満足のいく結果じゃのう・・・)
恵瓊は情報をまとめながら・・・毛利本陣へと向う。
天下の行く末を占い・・・毛利家の安泰の道を探るのが・・・父を毛利元就に殺された安芸の守護・武田氏の末裔の今の仕事なのである。
恵瓊は羽柴軍が勝つと読み始める・・・。
なにしろ・・・これほど早く・・・秀吉が退陣すると・・・光秀は考えないだろうと恵瓊には思えるのだ。
伊賀山中では京の変事を受けて活性化した山賊たちが徳川家康一行を襲撃していた。
しかし・・・全員が忍びである家康一行は山賊風情の敵するところではない。
徳川四天王はたちまち山賊の集団を殲滅していく。
そこへ血の匂いを嗅ぎつけたように新たな黒装束の集団が現れた。
「殿、ご無事でございますか」
初代・服部半蔵が跪く。
「遅いだに」
家康は肥大した身体を倒した敵の死体の上に休ませながら、一服していた。
家康はこの日のことを最初から読んでいたように・・・伊賀山中に影の軍団を配置していたのだった。
異常に用意周到な男なのである。
山中には・・・茶室を持つ隠れ家まであらかじめ準備されていたのだ。
半蔵は家康の慧眼に惧れいる。
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