飛龍が飛ばなかったので自転車を投げたのでしょうか?(蒼井優)
気高い人間の魂を辱めるのが悪魔の生業だとすれば、恥ずかしい人間の営みを謳いあげるのがつかこうへいである。
このドラマが「飛龍伝/つかこうへい」を劇中劇として挿入してきて・・・思わずニヤニヤしてしまうわけだが・・・そうであるならもう少し最初に匂わしたいところである。
ま、前回、根岸季衣が出てたけどな。
つかこうへい的世界を想起すればドラマ冒頭の兄弟たちのかけあいが・・・お茶の間に受け入れられないのは・・・もう少し稽古が必要だったとも言えるし・・・主人公が役に入りすぎてしまった結果だとも言える。
恥ずかしさと美しさは紙一重なのである。
かなり慣れてきても・・・もう少しがならないで・・・寅さんができるといいのになあと思ったりする。
橋本愛は神林美智子の器(歴代・井上加奈子、菅野園子、岩間たか子、富田靖子、牧瀬里穂、石田ひかり、内田有紀、広末涼子、黒木メイサ、黒木華、桐谷美玲など・・・)だと思うが・・・そうか、つかこうへい(1948~2010)はもういないのか。
で、『若者たち2014・第3回』(フジテレビ20140723PM10~)脚本・武藤将吾、演出・並木道子を見た。「飛龍伝」はつかこうへいの代表作の一つである。既成概念からのズレで笑いを構築するつかこうへいは1960年の樺美智子の死を倒錯的に昇華させて幻の革命戦士的ヒロイン・神林美智子を創出する。世界同時革命を夢見る美智子は恋人である学生運動のカリスマ桂木により、機動隊員・山崎の元へスパイとして送り込まれる。やがて・・・稀代の女闘士と純情な公僕の間にはロミジュリ的な許されぬ愛が芽生えるのである。飛龍とは機動隊の盾をも撃ち抜く磨き抜かれた投石の名器なのだった・・・。時代の交錯するこのドラマはついに1970年代に突入する。演劇部がつかこうへい一色だったあの頃・・・。
「俺はあのことを許さない・・・」と前科者の次男・暁(瑛太)が佐藤旭(妻夫木聡)を責めるのは・・・父の死が非業のものだったからだった。
旭の勤務するサワタリ道路で働いていた兄弟たちの父親は佐渡社長(岩松了)の杜撰な工事計画によって事故死していたのだが・・・それを知りつつ、経済的な問題から真相を隠すことに同意して「父親を殺した社長」の元で働いてた旭を・・・暁は許せなかったのだ。
「生きるために長いものにまかれた兄」を真相を知ったハルこと陽(柄本佑)、タダシこと旦(野村周平)も責める。
「訴えるべきだった」
「父さんの名誉を守るべきだった」
しかし、ひかり(満島ひかり)は「本当にそんなことができたのかな」と兄弟たちを宥める。
「俺はただ・・・必死だったんだ」と呟く旭・・・。
「自分に酔ってただけじゃないのかよ」と吐き捨てる暁・・・。
そんな旭に佐渡社長は原爆を落して敗戦に追い込んだからこそ高度成長ができた的な慈愛で・・・「暁を雇用する」と言い出す。
一方で旭は梓(蒼井優)との結婚を許してもらうために梓の母親(余貴美子)を訪ねる。
「私は・・・結婚には反対だ・・・結婚前に子供を作るような無責任な男に娘はやれない」とものすごいことを言い出すわけである。
「娘さんと生まれてくる子供は必ず幸せにしますから・・・」
「根拠は・・・?」
「根拠はありません」
人生一寸先は闇なので根拠のある親なんていないわけである。
そんなこと言われたら難民キャンプで子育てしている人たちの立場はないのである。
しかし・・・親は子の幸せを願う以上、いつだって保証は欲しいのだ。
鬱屈を抱えて現実逃避を続ける暁の前には屋代多香子(長澤まさみ)が現れる。
「人手不足なんだ・・・うちの畑を手伝って」
「やだね」
「気が変わったら連絡して・・・」
しかし・・・耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んできた旭の心を悟った暁は・・・佐渡社長の申し出を受け入れることにする。
就職の挨拶に出向く兄弟。
しかし・・・酒に酔った佐渡社長は暁を「犯罪者」と親しみを込めて呼んでしまう。
逆上して社長を殴らずにはいられない旭だった。
「あんたを親だと思ったことはない・・・あんたなんか大嫌いだ」
「首だ・・・解雇だ・・・馬鹿野郎」
最近、首都高速を走ると思う。錆びたガード・・・道路公団が美酒を飲んでこんな貧しい景観を作る・・・。
台風で痛んだ田舎の町は労働力不足で補修ができない。
だけど俺たちいなくなりゃ、ビルも道路もできやしない時代である。
妊娠した詐偽だった永原香澄(橋本愛)に女優魂を見出したハルは逃げ出した主演女優・市ノ瀬沙紀(大谷英子)の穴を埋めるために稽古場に香澄を引きずり込む。
「ごめんだね」
「ただセリフを読むだけじゃないか・・・男を騙すより簡単だぜ」
とにかくセリフはくさすぎて意味不明だが・・・香澄は負けん気を発揮するのだった。
「季節のない町で愛を知らずに育った私はマルクスもレーニンも知りません。しかし、女として生まれたことが幸せだったと思えるような美しい日本を作りたい。そういう男の言葉にだまされることだけは上手にできたのです。そんな私をあなたは優しく包んでくれた。朝が来ておはようと挨拶をした後にあなたは機動隊の制服に着替え、私はヘルメットとタオルで武装して右と左に別れるけれど・・・あなたの無事を祈らずにはいられない。その心に芽生えたものを愛と呼んでいけないわけがありますか。国会議事堂前に降り積もった雪を血に染めて私たちが命の炎を燃やす時・・・世界は二人をきっと祝福してくれる。そう信じて何が悪いのです」
いきなり大女優の香澄にうっとりするタダシだった。
失職という逆風の中・・・再び、結婚の挨拶に向かう旭。
「娘さんをどうしても笑顔にしたいんです」
「その気持ちが大事だよ」と手のひらを返す梓の母親。
実は・・・暁が事情を説明して梓の母親の心を動かしていたのだった。
結局、なかよし兄弟か・・・。
けれど・・・要するに・・・多香子の老いた母(根岸季衣)と同じで梓の母親も暁に色ボケしただけなんじゃないのか。
そして・・・暁は多香子の農場へ出向くのだった。
旭は無職になったが・・・すべては決着したと思わせて・・・「ブラックジャックによろしく」ごっこを展開するひかりと新生児特定集中治療室(NICU)の医師・新城正臣(吉岡秀隆)の不倫問題にスポットライトが当たるのである。
「未熟児だって生きているのに」
「親だって生きていかなくちゃいけないんだ・・・仕方ないじゃないか」
「奥さんがいるのに愛し合うのも・・・」
「仕方ないじゃないか」
萌え殺しのコトーナース、つか版ユイちゃん、モテキドラマ版のヒロインとモテキ映画版のヒロインが交錯する第三話・・・。
とにかく・・・女優陣は・・・最高レベルなんだよな。
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