私が殺すしかないという気持ち(水野美紀)
水槽のメダカが増殖し、親が子をバリバリ食べるので隔離する。
なんとなく神様になったような気分を味わうわけだが、美味しい生きた餌を取り上げられた親メダカにとっては悪魔なのかもしれない。
世界はなんという油断ならない弱肉強食の論理で満ちていることか。
とんでもないことをしでかしかねない子を持った親は・・・殺さなければ何をしていたと言われ、殺せば鬼と言われるわけである。
正気とは言えない認知症患者が親になってしまえば子供は正気を保つだけでも大変だ。
家族が家族の面倒を見る。
その普通のことが困難であることは多い。
いい家族とは単に運のいい家族に過ぎないのだった。
その幸運を噛みしめるドラマである。
で、『家族狩り・第6回』(TBSテレビ20140808PM10~)原作・天童荒太、脚本・泉澤陽子、演出・坪井敏雄を見た。脚本家チェンジで後半戦開幕である。「あぽやん〜走る国際空港」「安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜」「トクボウ 警察庁特殊防犯課」と手堅いまとめ役として登場する若手である。ものすごくまとめてきました。同時に写真のみの登場だった「ベル電気」の鈴木渓徳(北山宏光)の歌舞伎狂いの妻・佳苗(松浦雅)が顔見世興行である。連続テレビ小説「ごちそうさん」の西門ふ久で「GTO」でなんちゃって女子高校生(19)もやっている。ちなみに松浦雅は「第1回JUNONプロデュース ガールズコンテスト」(2012年)のグランプリ受賞者なのだった。ついでに第2回のグランプリ受賞者・川鍋朱里(13)は「おはスタ」(テレビ東京)でおはガールをやっています。・・・おいっ。その情報いるのかよっ。
・・・さて。
いろいろと豪快に引いた前回・・・である。
まず・・・油井(谷田歩)の策謀に乗って・・・夫・馬見原刑事(遠藤憲一)の愛人・冬島綾女(水野美紀)を剪定鋏で殺害しようとした佐和子(秋山菜津子)は相手が誰かも確かめることもせずに包丁を突き上げた綾女に先手をとられ転倒。
「誤解です・・・あの人は亡くなられた息子さん・・・勇男さんに重ね合わせて・・・ウチの子を守ろうとしていただけです」
その言葉を信じた佐和子は思わず自決しようとするが・・・修羅場をくぐっているらしい綾女は素手で鋏を受け止めるのだった。
打ちのめされた佐和子は・・・放浪し、入水自殺を図った所で保護される。
大騒ぎである。
かけつけた馬見原刑事に「私が・・・あの人のように自立した女だったら・・・勲男だって・・・あんなことにはならなかったもしれない・・・あの子を殺したのは私です」と懺悔する佐和子。
しかし・・・何故か・・・馬見原刑事と冬島母子の写真を入手した石倉真弓(篠田麻里子)は父親を罵るのだった。
「あんたってどこまで酷い男なの・・・兄さんだけでなく・・・母さんも殺す気・・・この死神」
だが・・・初対面の真弓の夫・鉄哉(佐野和真)は冷静に挨拶をする。
「この子は・・・お義父さんにとっては孫になります。抱いてやってください・・・それにお義母さんはやはりお義父さんと暮らした方がいいと思います」
まあ・・・父親としては頭のおかしな祖母を孫の側に置いておきたくないよな。
妄想的には「奥さんを狂気においやった人が責任もって始末してください」ということになるのだった。
綾女はとっとと夜汽車に乗るべきだしな。
一方、アラフォーで一途に結婚したいだけの国語教師・岡美歩(山口紗弥加)に恥ずかしいところを見られて逆上した実森勇治(岡山天音)は石膏象をふりあげるが・・・元引きこもりの巣藤浚介(伊藤淳史)の制止の声には従うのだった。
そして、自宅に暴れに帰るのだった。
あわてて・・・追いかける適当にお人よしの浚介。一方、実森の母親(占部房子)は東京都児童ケアセンター職員で児童心理司の氷崎游子(松雪泰子)を呼びだす。
合流した二人は土足で実森家に上がり込むが暴れるだけ暴れた実森は部屋に引きこもる。
「何かあったら相談してください」
「子供を生んでないあなたたちに親の気持ちがわかるわけない」
自信喪失中の游子は山賀葉子(財前直見)の名刺を渡す。
「この人なら子育ての経験があるので・・・」
何故か、游子を崇拝する浚介は「他人にまかせるなんて」と不満を口にする。
しかし・・・游子は何もかもを背負いこみ、心が折れかかっているらしい。
自宅に戻れば・・・母の民子(浅田美代子)は不在で・・・父親の清太郎(井上真樹夫)は空腹のためにトイレットペーパーを痛快丸かじりであった。
実は民子は・・・家計を助けるためにパチンコ屋に就職したのだったが・・・何故かそれを娘に告げない。
娘は認知症の父親と家庭を顧みない母親、そして虫食いで床板の鳴る古い家に心を蝕まれて行く。
実森が登校した件がネットに投稿され・・・何故か・・・父親に切りつけた後、消息不明だった芳沢亜衣(中村ゆりか)が「感動して改心した」と登校してくる。
そのために・・・浚介の桐明学院高校での評価は上がったのだった。
美歩も「学校で猥褻な動画を鑑賞していたこと」を許してくれるらしい。
しかし・・・何か特別なことに憧れる浚介には・・・そういう日常はどうでもいいことなのである。
彼にとっては不登校の少年と心が通い合ったことが人生で最大の痛快事だったのである。
一体・・・どんな人生だったんだ・・・。
游子は山賀によって実森家に呼び出される。
別居中の実森の父親も訪れていた。
「あの子は成績優秀だったんですが、中学受験にも高校受験にも風邪を引いて失敗したのです・・・そして・・・」
母親は体調管理の責任を感じていたらしい。
「私には・・・もう・・・妻や息子を愛するモチベーションがゼロなんです」
父親の残酷な心情吐露に思わず服毒自殺を図る母親。
それを制する游子。
「どうしてこんな薬を・・・」
「いざとなったら・・・あの子を殺そうと・・・でも・・・できなくて・・・こうなったら私が死ぬしか・・・」
「お父さんもお母さんも・・・辛かったですねえ・・・大丈夫です・・・方法はありますから」
自信を持って微笑む山賀に・・・たじろぐ游子だった。
(この家族を・・・助ける方法なんて・・・あるんですか)
そういう気分だったのである。
両親の会話に耳を傾ける実森は浚介にメールを送る。
「この世界には自分とあなた以外にも人間がいることを思い出した」
「今度は家で二人きりで会おう」
「ボクは大人になって底辺の人間になるのが苦しい」
「他人と比べる必要はない・・・キミはキミじゃないか」
「またあなたに会いたい」
「また会おう・・・」
浚介は友達ができた喜びを游子と分かち合おうと思った。
その頃、游子は「母親の健康診断の結果」を医師から知らされていた。
今時、58歳の成人女性の「がんの疑い」を本人できなくて家族に告知するものなのかどうかは別として・・・とにかく・・・游子が「家族」を重荷に感じさせるための設定なのである。
父親は認知症、無責任な母親はガン、仕事には自信が持てない。
游子は街を彷徨うのだった。
「もう・・・ピリオドの向こう側に行きたい・・・」
脳腫瘍の父親に「ご飯が柔らかい」と文句を言われ、認知症の母親に「お水を少なめに炊けばいいのよ」とアドバイスされた時のようないたたまれなさである。
幻想の中で游子は遺体を床に落としていく。
どんだけ思わせぶりな描写をすれば気が済むのか・・・。
そんな游子を思い出したように尾行する馬見原刑事・・・。
しかし、妻・佐和子から着信があり・・・游子を見失うのだった。
浚介は游子不在の氷崎家を訪問し、鈴木一家とともに和気藹々の家族ごっこを楽しむ。
そこへ・・・新人の駒田幸一(岡田浩暉)を連れた白蟻駆除業者の大野甲太郎(藤本隆宏)が害虫駆除の見積もりに現れる。
氷﨑家は白アリに冒されている。
そして・・・游子のシャンプーを使った浚介は甘い香りを嗅ぐのだった。
翌朝・・・浚介は端末に残された実森からのただならぬメッセージに気がつく。
「さよなら」
あわててかけつけた浚介は器物破損で家庭に不法侵入し、実森の両親の死体と息絶えた実森自身を発見し、思わず「美しい・・・」と呟くのだった。
現場は物凄い臭気がたちこめてそれどころではないはずだが。ドラマだからな。
そして・・・何故か両親の死体を動かしている血まみれの游子も発見する浚介だった。
ミステリ好きのお茶の間が・・・そんなことしたらダメでしょうと思わずつぶやきまくる惨状である。
まあ・・・頭のおかしなスタッフのすることなのである。
もはや・・・そういうレベルのドラマだと言う他はない。
とにかく、修羅場詐偽が終焉し、新たな犠牲者が発生したのはホッと心が和む展開だった。
はたして・・・天才少女・芳沢の一家の運命はいかに・・・である。・・・おいっ。
ところで・・・「私が殺すしかないという気持ち」とは「殺意」のことである。
このドラマのプロデューサーはどちらかと言えばサービス精神が旺盛で、それがくどすぎる場合があるわけだがこの脚本家はそれをふまえて抑制できるタイプである。思いついたことを全部盛り込みたいプロデューサーは一種の統合失調症なのでそれをいなして統合するのはなかなかの人格者なのである。まあ、そのうち神経衰弱になる惧れはあるけどね。たとえば今回も主人公に恨みを持つ幼児虐待者が自宅にやってきてイヒヒというあくどいフリがあるわけだが・・・そこを軽めにおさえている。ここで「殺意」を匂わすこともできるが・・・主人公が殺されない以上、やりすぎになる。そういう勘が冴えているんだな。
それでなくても「殺意」はくどいほど散りばめられているわけである。
愛人を殺すしかないと思う佐和子。
子供の実の父を殺すしかないと思う綾女。
自分以外の世界を殺したい実森。
佐和子は自分を殺したいと思う。
実森の母は息子を殺すしかないと思う。
そして自分を殺すしかないとも思う。
自殺を図った二人の女がいて・・・愛人よりも警察官役が似合う綾女や女刑事の匂いがする主人公がそれを制止する。
これもかぶっているのと重ねているのとの危うい境界線に立ってしまうところをうまくまとめています。
そういう中で・・・超人を夢見る凡人である浚介と天才である芳沢の危うい関係が浮かび上がるのである。
馬見原の父と娘がどこか不器用なところが似ているように・・・。
主人公と母親がお互いに言葉足らずのところがあるように・・・。
尊敬と軽蔑が似たもの同志であるように・・・。
私が助けるしかない気持ちと私が殺すしかない気持ちは・・・実は同じ気持ちなんだな。
関連するキッドのブログ→第5話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の家族狩り
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コメント
佐世保の事件見てると、他人を殺してしまうように
なるくらいなら、一家心中の方がよそさまに
迷惑かけないだけマシなのでは・・・なんて思ってしまうほど
現代社会って腐りまくりですヨ!
知らない内に侵食するシロアリの害のように
家族の中にも発生してしまう危険な何か・・・
きょわい・・・
ふ久ちゃんはマイルドヤンキーなのですかーっ!?
ヤンキーなのに歌舞伎のような高尚げな趣味に
走るとはマジリスペクッ!!!
投稿: まこ | 2014年8月 9日 (土) 13時53分
「ヒロシマ」も「ナガサキ」も軍港にちなんだ町でございますので
他人事ではないという感じもお強いのでございましょうねえ。
信じられないくらいの「殺意」は
「悪意」を感じさせないものだったりしますからな。
恐ろしいことでございます。
お嬢様方は腐った現代社会とは無縁の
高貴なお生まれでございますのに・・・
下々の汚れた空気に心をお痛めになって・・・。
天晴れでございます。
じいやバカ夏休みモード発動中・・・。
お屋敷のシロアリはミクロアリクイロイドが
徹底的に退治しますのでどうかご安心を。
シロアリを喰って食って喰いまくりますので~。
なになに・・・夏休みの宿題の
アリの観察日記用のアリも食べられたと・・・。
お、お嬢様・・・それは小学校の宿題だったのでは・・・。
なになに・・・お部屋の地下でずっと飼っていたのですか・・・。
駆除班出動・・・まこ様ルームの地下が
アリの王国になってますぞ~。
馬見原の娘がマジヤンキーで
ふ久ちゃんはマイルドヤンキー。
ユイちゃんはヤンキーライトメンソールくらいですかな。
お嬢様の地元のお友達はどヤンキーですけどな~。
投稿: キッド | 2014年8月 9日 (土) 14時32分