善男善女の幸福と悪党の不幸(星野真里)
1981年度生まれを代表する女優といえばナタリー・ポートマンだが・・・そこかよっ。
星野真里も当然、その一人である。ここには柴咲コウ、池脇千鶴がいて尾野真千子もいる。滝沢沙織、中村ゆり、 佐藤江梨子、初音映莉子、安倍なつみなどもいる。
人生いろいろあるわけである。
ここまでたどりつくのだってなかなか大変だ。
幸福にも不幸にも慣れた女優暮らし・・・時代劇ではその起伏は激しい。
「鼠、江戸を疾る」では亭主に裏切られるお常だったが・・・今回は遊女である。
すでに不幸なわけだが・・・できれば幸せになってもらいたいと思うわけである。
で、『吉原裏同心・第9回』(NHK総合20140828PM8~)原作・佐伯泰秀、脚本・尾崎将也、演出・田中英治を見た。法律とは別に善悪というものが世界には存在するという想念がある。たとえば・・・恋愛で一方的な別れを告げる側のあくどさがある。しかし、告げられた側がどう振る舞うかもまた善悪で裁かれるのである。リベンジポルノをしたり、殺したりするのは問題外だが・・・相手の決断を尊重するのが難しいものであるのは明らかだ。今週、「HERO」ではDV男と依存症の女の葛藤が題材となっていた。ヒーローである久利生は悪を正すという姿勢で罪に対する罰を下す。法律家でありながら・・・人として善悪を問うのである。時代劇はそれをさらに具体化することが可能である。いろいろな諸事情からみねうち(殺傷力の抑制)も多様されるが・・・基本的に「たたっ斬る」しかない悪党を造形できるのだ。今回の悪党は「ペテロの葬列」でこれ以上なく下衆な男・井手正男を演じる千葉哲也がキャスティングされ・・・いい味を出しているわけである。
「若者たち2014」では理不尽な三角関係の敗者となった高校生が暴走のスタンバイをしているわけだが・・・彼も一方的な別れを切り出した方が悪だとしても・・・すっぱりとあきらめなければもっと悪という・・・この世の不条理な鉄則を時代劇で学ぶ必要があるのだった。
それは・・・善男善女でなければ幸せにはなれないという・・・この世の基本設定なのである。
吉原遊郭・桜木屋の遊女・柳里(星野真里)は年季明けで身請け話が決まった。
相手は裕福ではないが身も心も男前の畳屋・圭次(成河)だった。
年季が明けて、好いた男と所帯を持つ・・・それは遊女たちの「夢」であった。
しかし、幸せに向かう柳里に風の噂が不吉な報せを届ける。
柳里の浮かぬ気持ちを察した遊女たちの手習いの師匠を務める汀女(貫地谷しほり)は事情を聞く。
「昔の話でございますが・・・私には圭次さんとは別に言い交わした相手があったのでございます。やくざな遊び人で名を徹三郎(千葉哲也)と申しました。私も若かったのでそういう男にも惚れたのです。一度、きれると手のつけられない乱暴者で・・・廓内でも暴力沙汰を起こし、私も殴られたことさえありました。しかし、その後で優しい言葉をかけられると惚れた弱みでつい許すというくりかえし。年季が明けたら所帯を持つと言う約束もいたしました。しかし、徹三郎は賭場でもめ事を起こし、ついに関東処払い(江戸追放)となりました。縁が切れて私は目が覚めたのです。なんであんな男が好きだったのか。自分でも馬鹿らしくなりました・・・。そして圭次さんと出会い・・・本当の優しさを知ったのです。ところが・・・徹三郎が江戸に戻ってくるという噂が立ちました。私が自分以外の男と所帯を持ったなどと知れたら・・・どんな恐ろしい目にあうか・・・きっと私は殺されるでしょう・・・」
「そんな・・・」
事情を知った汀女は一計を案じ・・・吉原裏同心の神守幹次郎(小出恵介)と共に吉原遊郭の顔役・七代目四郎兵衛(近藤正臣)を訪ねる。
一方、番方の仙右衛門(山内圭哉)はぎっくり腰となり、柴田相庵(林隆三)の診療所に担ぎ込まれていた。
四郎兵衛は幼馴染のお芳(平田薫)の看護を受ける。
実は・・・この二人は相思相愛である。しかし、四郎兵衛はそうとは知らず、娘の玉藻(京野ことみ)を仙右衛門にけしかけるのだった。玉藻も仙右衛門を憎からず思っていたのである。
つまり、仙右衛門とお芳そして玉藻は柳里と圭次そして徹三郎と平行して展開する三角関係である。
さらに・・・お大尽によって身請けが囁かれる吉原一の花魁・薄墨太夫(野々すみ花)は心に幹次郎への想いを秘めており、物語は三角関係の三重奏を奏でるのだった。
もちろん、遊女が複数の客に体を売る生業である以上・・・その背景には複雑で悲しい重低音が鳴り響くのだった。
急病を発した柳里が診療所に担ぎ込まれる。
柴田相庵が脈を見るがすでに手遅れだった。
柳里を運び込んだ男衆が合掌して去るとむくりと起きあがる柳里。
事情を知らぬ、療養中の仙右衛門は腰を抜かす。
汀女による「柳里擬装死亡計画」である。
柳里を死んだことにして徹三郎を誤魔化す作戦だった。
「遊女・柳里は死んだ・・・これからは畳屋圭次の女房おちよとして生きなさい」
柴田相庵は良かれしことを遺言のように語るのだった。
柳里の死は吉原中に知れ渡る。
そこへ・・・徹三郎が現れる。
「柳里を出せ」
「柳里は病で死んだ」
暴れる徹三郎を叩き伏せ・・・幹次郎が告げる。
しかし・・・悪はしょうこりないものなのである。
桜木屋の主人・幸造(永田耕一)を待ち伏せた徹三郎。
「柳里が残した金があるはずだ・・・それをよこしな」
「なんだ・・・お前、金が目当てか」
「女なんかに未練があるかよ・・・金を出すのか・・・出さねえのか」
「三両やろう・・・それきりにしておくれ・・・」
「いいだろう」
「とんだ祝儀だぜ・・・」
「なんだと・・・」
香典と言えばいいものをうっかり口をすべらせた幸造は拷問されて憐れな骸になり果てる。
「桜木屋さんはおちよ夫婦の新居は知らねえはずだ」
「しかし・・・診療所がこの件に絡んでいるのは知ってた」
「診療所が危ねえな」
番方たちの報せで幹次郎は診療所へ走る。
しかし、一足先に徹三郎は診療所に現れる。
相庵は留守で身動きの不自由な仙右衛門とお芳が危機に直面する。
「柳里(りゅうり)はここで死んだそうだな」
「そうらしいねえ。私はちょうど出かけていて後から聞いたんだけど、その時、千住でこの人が腰を傷めちまってね」
「そうか・・・」
お芳の機転で難を逃れた二人。
幹次郎が到着した時には徹三郎は去っていた。
「しつこい野郎だ」
「この分じゃあ、おちよ夫婦の居所もすぐに着きとめられてしまうな」
汀女は自分の発案で人死にが出たことで落ち込む。
「私が迂闊なことを・・・」
「そんなことはないですよ・・・柳里の幸せを願う気持ちは皆同じです」
今度は幹次郎が一計を案じるのだった。
おちよ夫婦を一時、隠すことにしたのだった。
しかし、おちよは圭次と別れて徹三郎の元へ行くと言い出す。
「なんでそんなことを言う」
「だって・・・お前さんに迷惑がかかる」
「何言ってんだ・・・夫婦は迷惑かけてお互い様だろう」
「あんた・・・」
二人のやりとりに微笑む汀女と幹次郎だった。
一方、仙右衛門の見舞いにやってきた玉藻は・・・お芳の様子から二人の仲を察し、身を退くのだった。
潔さとはこのことなのである。
ふられたものはストーカーにならずに潔くあるのが美しいのだ。
玉藻は女をあげたのだった。
一方、浪人者を雇い、吉原の動向を探る徹三郎はついに柳里の隠れ家をつきとめる。
「確かに金になるんだろうな」
「ああ・・・畳屋はきっと小金をためこんでくる。金も命もいただきよ」
男を下げ続ける徹三郎である。
隠れ家に乗り込んだ一味・・・。
しかし、そこに潜んでいたのは幹次郎と汀女だった。
「かかりやがったな」
「くそ・・・罠か・・・」
「観念しろ・・・」
虚しい抵抗をする徹三郎だが・・・無論、幹次郎の必殺剣の敵ではない。
一件落着だった。
晴れて・・・おちよ夫婦は新婚生活に突入するのだった。
「あんたのために・・・おいしいおまんまをこしらえるよ・・・汀女さんに教わるんだ」
「そいつはありがてえ・・・なにしろ・・・おまえの料理の腕は・・・」
仲睦まじい新婚夫婦だった。
「遊女が女房になるのは大変そうだな」
「あの二人ならきっと大丈夫ですよ」
苦難を乗り越えて来た汀女は断言するのだった。
勧善懲悪が時代劇の基本だが・・・善悪が定かならぬ世の中で・・・それはある程度の揺らぎを求められるのだった。
それに成功しないと大衆の心を捉えることができないわけである。
この物語はおそらく成功しているのだろう。
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