さらぬだにうちぬるほどもなつのよのわかれをさそうほととぎすかな・・・とお市の方(二階堂ふみ)
なぞに満ちたお市の方の辞世である。
12世紀の歌人・藤原俊成の「さらぬだに臥す程も無き夏の夜を待たれても鳴く時鳥」(短い夏の夜は横になる間もなくホトトギスの声を聞くばかりだ・・・新勅撰和歌集)を手本にしていると考えられ、一種の即興詩の趣きもある。
率直に訳せば「そうでなくても夏の夜のホトトギスは眠らずに待つものと決まっていますのに今生の別れを誘うようですよ」ということになるでしょう。
しかし・・・ここは戦場。
そして敵はお市にとっては前夫・浅井長政の仇・羽柴秀吉である。
ここは「去らぬダニのようなあやつを、討ち果たすこともできないままに・・・ほととぎすかよっ」ぐらいの諧謔がこめられていてほしいものですな。
これに対して柴田勝家は「夏の夜の夢路はかなき跡の名を雲井にあげよほととぎす」と応じています。
まあ、勝負は時の運とは言うものの・・・「面目ない」と素直に謝罪なのですな。
「けれどお市の方の名声は後の世まできっと伝わります」と慰めているわけです。
主筋であり天下一の美人妻に仕える騎士の感慨が匂い立ちますな。
ちなみにほととぎすは冥界と現世を往来する神秘の鳥なのです。
で、『軍師官兵衛・第31回』(NHK総合20140803PM8~)脚本・前川洋一、演出・尾崎裕和を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はややトーン・ダウンの27行でございました。まあ・・・なんていいますか・・・画伯、われらの戦国絵巻はどこいったんでしょうね・・・あの峠に巻き起こる血わき肉踊る華々しい合戦は・・・という感じでございますからねえ。清州会議は・・・長浜城攻略は・・・岐阜城攻めは・・・滝川一益の挙兵は・・・賤ヶ岳の戦い・・・中川清秀の戦死は・・・美濃返しは・・・七本槍は・・・前田利家の裏切りは・・・すべてダイジェスト版でございますか~。画伯も東京出張でお疲れで・・・イラスト公開もお休みでございます。もう、おとくなところがなにもなし・・・せめて江がおとく(鈴木梨央)だったらよかったのに・・・でも、茶々が二階堂ふみだったからいいか・・・。
天正十年(1582年)六月十三日、明智光秀死亡。織田政権に対する反乱が鎮圧された所で、二十七日、織田家の相続に関する会議が尾張国清州城で開催される。所謂、清州会議である。織田信長および嫡男・信忠の死亡により・・・天下は再び混迷する。それを避けるために・・・秀吉は信忠の遺児・三法師の相続を主張する。信長三男の信孝を後継者に推す柴田勝家は・・・宿老・丹羽長秀、信長の乳兄弟・池田恒興が秀吉についたことで敗退した。信長の次男・北畠信雄が尾張国、三男の神戸信孝が美濃国、四男の羽柴秀勝が丹波国を相続し、勝家は秀吉から近江国長浜を譲り受け、秀吉は山城国を得た。ここから・・・秀吉・信雄組と勝家・信孝組の跡目相続根回し合戦が始るのである。そうなれば秀吉は勝家の数段上を行くことになる。やがて、信長の妹・お市を室に迎えた勝家は伊勢国の滝川一益を味方に加えたものの・・・配下の前田利家・金森長近・不破勝光までもを調略される始末である。秀吉は大和の筒井家、摂津の池田家、中川家なども味方に引き入れ、十二月、ついに長浜城を奪取、さらに岐阜城の織田信孝を降伏させる。北国の柴田勝家は冬の合戦を封じられていた上、秀吉は背後の上杉家と密約を交わしていたのである。明けて天正十一年(1583年)正月、伊勢の滝川一益が挙兵し、二月、柴田勝家が南下を開始、しかし、秀吉は伊勢国、近江国周辺に防衛陣を築き、戦線は膠着する。四月、織田信孝が美濃国で挙兵し、秀吉軍は三方向からの圧迫を受けることになる。しかし、播磨、丹波、丹後、大和、摂津、山城、若狭、尾張という八ヶ国の動員力を持つ秀吉は賤ヶ岳に突出した勝家軍の前衛部隊を撃破、そのまま越前に攻め込み、勝家・お市の方の夫婦を二十四日、自害に追い込んだ。織田信雄も弟の信孝を二十九日に自害させる。五月、滝川一益が降伏し・・・ここに秀吉は織田家の実質上の後継者として天下統一の道を歩み始める。
越前国北ノ庄城にも初夏の気配が立ち込めていた。
奥の間にはお市の方がいる。
人影が揺らぎ・・・お市の方の前に神明尼が現れる。
二人は瓜二つであった。
神明尼はお市の双子の妹である。
「お弐か・・・」
「いかにも・・・」
「戦の様子はどうじゃ・・・」
「元より・・・勝家殿に万に一つも勝ち目はありませぬゆえ・・・」
「そうじゃろうのう・・・」
「無理をなされましたな・・・」
「小谷(長浜)は我がふるさとも同じ・・・殿(浅井長政)と暮らした日々はいかにしようと忘れられぬ・・・影に生きるそなたにはなかなかに判るまいがな・・・」
「姉上は・・・人の幸せを味わいすぎましたな・・・」
「それは悲しみを味わったも同じぞ・・・」
「さようかもしれませぬ・・・」
「気になるのは・・・娘たちの行く末・・・」
「さりとて織田の血を引くものならば・・・」
「長女の茶々・・・末の娘の江は・・・なかなかのくのいちになるに違いない」
「でありましょうな・・・」
「影に身をまかせてもよいが・・・なかなかそうはなるまいのう・・・」
「光りある場所に生まれた宿縁がございましょう・・・」
「我が妹よ・・・」
「はい・・・姉上・・・」
「娘たちを頼み参る・・・そなたにとっても姪っ子じゃ」
「されど・・・姉上はいかがなされます・・・」
「妾はのう・・・いささか疲れたのじゃ・・・影の世と違い、こちらはそれなりに気ぜわしいものよ」
「・・・でございまするか」
「・・・お弐よ・・・さらばじゃ・・・」
「お市様・・・」
二人のくのいちに別離の涙はない。
日差しが表より降れば・・・そこに神明尼の姿は消えていた。
一人残されたお市の元へ・・・柴田勝家の敗北の報せが届く。
城から見下ろす森のどこかで不如帰が鳴いていた。
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