武士の誇り、遊女の誇り、線香花火の如く儚く(貫地谷しほり)
誇りほど説明しにくい言葉はない。
そもそも・・・誇りとは自分を敬う気持ちである。
あらゆる宗教はこれを否定するのが基本だ。
なにしろ、敬うべきなのは人ではなくて神だからである。
しかし、現代社会はそれを基本的人権の核心としている。
つまり、人間としての尊厳こそが最も大切なことなのである。
この二律背反の要素を持つ言葉は・・・一方で傲慢とよばれ、一方で愛と呼ばれる。
つまり、自分を好きになることが出来なければ世界を愛することはできないからである。
堕天使が神よりも自身を愛し地獄に堕ちて以来・・・誇りは様々なおかしみを生みだした。
人間の誇り、武士の誇り、騎士の誇り、将軍の誇り、男の誇り、女の誇り、花魁の誇り、医師の誇り、研究者の誇り、プロフェッショナルの誇り、ジャーナリストの誇り、従軍慰安婦の誇り・・・誇りほど馬鹿馬鹿しいものはないのである。
それでも人は問われることがある。
君に誇りはないのか・・・と。
で、『吉原裏同心・第7回』(NHK総合20140807PM8~)原作・佐伯泰秀、脚本・尾崎将也、演出・西谷真一を見た。映画「GODZILLA ゴジラ」祭りから映画「ホットロード」祭りへと推移した七月下旬から八月上旬・・・頭の中がゴジラと能年玲奈で爆発しそうなのであるが・・・世の中は淡々と広島の日から長崎の日へ向かい・・・敗戦の日にたどり着くのである。ゴジラ映画を見てこれほど・・・被曝を意識したことはなかったので・・・やはり「フクシマ」はものすごい影響力を持っているのだと感じる。考えてみれば「ゴジラ」は放射能汚染物質そのものなのである。幸いにして直撃を免れてもゴジラの通過した後は物凄い放射線量なのではないか。子供なんかが「ゴジラ頑張れ」などと言っている場合ではないのだ。防衛軍の皆さんも全員被曝しているわけである。運よく戦死しなくても長い発癌との戦いが待っているのだ。次に日本版「ゴジラ」を作る時に・・・そこは避けて通れないのではないか・・・いや、あっさりスルーするんじゃね。
吉原一の花魁・薄墨太夫(野々すみ花)は基本的には「呼出し」格の遊女である。
大見世「三浦屋」の遊女でありながら・・・客は茶屋に遊女を呼びださないと会えないという仕来りである。
金のかかる茶屋遊びをしなければ会うこともできない格上の高級遊女なのである。
つまり、相当な経済力が要求されるわけである。
今、薄墨太夫には伊勢亀(真夏竜)という上客がついており、花魁として吉原遊郭で稼ぐ様々な男女のためにも・・・搾りとれるだけ散財をさせなければならない。
それが花魁の使命なのである。
しかし、薄墨太夫は身辺に危機が迫っていると感じていた。
何者かが・・・薄墨太夫をつけ狙っているらしい。
伊勢亀の散財が一段落したところで、三浦屋の主人(中平良夫)を通じて報せを受けた吉原遊郭の顔役・七代目四郎兵衛(近藤正臣)は薄墨太夫の警護を請け負う。
「薄墨太夫が吉原入りした時に世話したのは私だ・・・ここで何かあっては面目が立たない」のである。
吉原裏同心の神守幹次郎(小出恵介)は「しかし、どうして太夫は早く危機を告げなかったのか」と訝しむ。
しかし、遊女たちの手習いの師匠を務める汀女(貫地谷しほり)は「上客が来るのに妙な噂が立ってはならぬという心遣いでしょう」と諭す。
「吉原のものたちの暮らしの心配か・・・」と幹次郎もようやく腑に落ちるのだった。
やがて・・・一人の若い浪人が捜査線上に浮上する。
幹次郎は「加門麻に天誅を下す」という脅迫状を発見するのだった。
やがて・・・四郎兵衛から・・・薄墨太夫の身の上を聞く幹次郎。
「太夫は武家の娘であり、名を加門麻と申しました。両親が借金を残して病死したために・・・自ら遊女になったのでございます」
幼き日の加門麻(仲愛理)には間宮慶一郎(水原光太)という許嫁もいた。
身替り屋の佐吉(三宅弘城)に探らせると・・・間宮慶一郎は婚約解消後に病死・・・加門家も間宮家も断絶している。
しかし・・・間宮家には養子に出ていた弟の間宮鋭三郎(辻本祐樹)がいたのである。
鋭三郎もまた身を持ち崩し無宿人になっているという。
幹次郎は薄墨太夫に現状を話す。
窓辺で線香花火を楽しみながら太夫は頷くのであった。
「吉原の遊女になってからは外の世界のことは知りませぬ。しかし・・・許嫁が遊女になってしまった慶一郎様の苦悶、そのことに憤る鋭三郎殿の気持ち・・・今となっては知らぬこととは申せませぬ」
「だが・・・そなたは武家の娘として・・・けじめをつけたのではないか・・・」
「幼さゆえの気負いでございますよ」
「・・・」
「勝手なお願いを申し上げれば・・・どうか・・・鋭三郎殿の命を救ってくださいませ」
「あいわかった」
しかし・・・上客の伊勢亀は廓外での屋形舟遊びに薄墨太夫を誘い出すのであった。
大盤振る舞いであるために・・・誘いを受ける太夫。
しかし・・・廓の外に出れば警護を手薄になる。
幹次郎は「誘いを断るように」と申し入れるが薄墨太夫は拒絶する。
「ならば・・・鋭三郎の命を助けることはできぬかもしれぬぞ」と幹次郎は告げる。
やがて・・・舟遊びの日。
医者の柴田相庵(林隆三)の偽物が現れ、遊郭に入る。
「なんと・・・儂の偽物とは・・・これは危うい匂いがするの・・・」
相庵の危惧通りに・・・薄墨太夫を廓内の稲荷神社の境内で追い詰める鋭三郎だった。
薄墨太夫の前に白刃が煌めく。
しかし、幹次郎はこのことを予見していた。
「警護のものが外に目を向ければ中が手薄になると読んだのだろう」
「兄の無念を晴らすため・・・義姉上を討たねばならぬのです」
「加門の家と間宮の家の縁は消えておろう」
「義姉上は私に武家の誇りを諭してくれたお方・・・それがこともあろうに花魁になろうとは・・・許せませぬ」
「私は武家の誇りは捨てました・・・今、私にあるのは遊女としての誇りでありんす」
幹次郎のみねを返した剣を見た鋭三郎は叫ぶ。
「武士ならば尋常に勝負せよ」
幹次郎は鋭三郎の捨て身の覚悟を悟る。
冴え渡る幹次郎の剣技は鋭三郎を薙ぎ払う。
「許せ・・・約束は守れなかった・・・」
「幹次郎様は・・・鋭三郎殿の武士としての誇りを守ってくださったのですね」
「・・・」
幹次郎抜きで向いあう汀女と薄墨太夫・・・。
「私と太夫は・・・似たもの同志・・・武家の娘と生れ・・・家のために身を売って・・・」
「しかし・・・私と汀女様ではちがうところもあります・・・私には助けてくれた人がおりませぬ」
よろめきまくる夏ドラマにあって・・・もっとも静かに儚く燃える線香花火のような三角関係である。
雨が降り・・・家路をたどる幹次郎と汀女は仲睦まじく相合傘である。
「私も・・・夫の武士の誇りを傷つけた女なのですね」
「・・・」
「だからこそ・・・私はあなたを誇りに思います」
それが・・・汀女の誇りなのである。
人にとって誇りとは命よりも大切なものなのだから。
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