どんよりくもる的にゼロの真実〜監察医・松本真央〜(武井咲)
ゼロはこわい数字である。
なにしろ・・・何をかけてもゼロになってしまうのである。
逆に・・・1×0=0である。もう9999999999999×0=0なのである。
ゼロにはかけられたら虚無に還るという恐怖がつきまとっている。
しかし・・・ドラマはさらに、マイナスの真実という展開を主軸にしていく。
「真実が解明されること」が解明以前より「不幸」というのが基本である。
「そんな真実なら知りたくはなかった・・・」と関係者が思う真実の追求・・・。
つまり・・・この物語の主人公はダーク・ヒロインなのである。
もちろん・・・その前提が郷田マモラ原作のドラマ「きらきらひかる」(1998年)であることは言うまでもないだろう。
因縁のある二人の監察医。新人とベテランの対峙は明らかに換骨奪胎というか・・・オマージュになっている。
ただし・・・「きらきらひかる」はある意味、真実が救いとなり、ちょっといい話が完成するのが基本だが・・・こちらでは概ね、真実が痛いことになるのである。
もちろん・・・真実そのものはゼロだということなのだろう。
それをプラスに感じるか、マイナスに感じるかは・・・周囲の人間の心にすぎない。
しかし、法医学教室を舞台にした「ヴォイス~命なき者の声~」や葬儀社を舞台にした「最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜」といった亜流よりも・・・ストレートに監察医でパクりながら新境地を開いている感じがするのは・・・脚本の勝利と言えるかもしれない。
しかも・・・「いい話」よりも「悪い話」の方がネタに困らないような気がする。
で、『ゼロの真実〜監察医・松本真央〜・第1回~最終回(全8話)』(テレビ朝日20140717PM9~)脚本・大石静、演出・常廣丈太(他)を見た。専門分野に特化したクールな天才美少女というキャラクターを「お天気お姉さん」で確立した脚本家と主演女優がそのニュアンスを持ちこんでいる。こうなると三部作にしてもらいたいが・・・コレの続編になるのかもしれない。
ちなみに「きらきらひかる」のトリオは・・・。
新人監察医・天野ひかる(深津絵里)
東京監察院嘱託医・杉裕里子(鈴木京香)
刑事・月山紀子(松雪泰子)
・・・だったわけだが・・・コチラでは・・・。
新人監察医・松本真央(武井咲)
ベテラン監察医・印田恭子(真矢みき)
刑事・屋敷一郎(佐々木蔵之介)
・・・という布陣になっている。
「きらきらひかる」では杉がクールな役どころだが・・・コチラではヒロインが超クールな役柄なのである。
そして・・・松本真央の母親の「死の真相」に印田と屋敷が深く関わっているということで・・・一話完結でありながら・・・連続ドラマとしての要素を深めていくという趣向だ。
真央の赴任する関東中央監察医務院は泉澤部長監察医(生瀬勝久)の元、岩松(六角精児)、中山(尾美としのり)、児玉(青柳翔)などの監察医や、監察医補佐の保坂(でんでん)、事務員の秋山晴子(水沢エレナ)、臨床検査技師の佃(小松和重)、久米みどり(宮﨑香蓮)などが配置されている。
指導医たちよりも知識が豊富な真央は・・・ぬるま湯に浸っていた監察医たちを圧倒する。
しかし・・・印田だけは・・・「真実を追求しすぎる真央」を生温かく見守るという展開である。
実は・・・真央の母親の死に・・・印田が「悪人」として関わっているのではないか・・・という疑惑が最後まで怪しく漂うのである。
悪女が似合う真矢みきの魅力炸裂である。
そういう意味では上司に冷淡な水沢エレナや同僚に冷淡な宮﨑香蓮もいい味を出している。
「きらきらひかる」では基本的にいい人だった周囲が・・・ギスギスしているのが醍醐味なのである。
「きらきらひかる」では「死体にしか興味がない」のはヒロインの敵対者だが、コチラではヒロインが「死体にしか興味がない」のだった。
「きらきらひかる」では刑事が「私を誰だと思っている」が口癖の熱血漢なのだが・・・。
こちらでは・・・「金貸してくれ」が口癖なのだった。
「きらきらひかる」では「真実」を追及することで遺族の心が温まるのが基本だが・・・コチラではたとえば最終回・・・。
転落死して自殺だと思われていた遺体・内野ひかり(小島藤子)が実は恋愛関係のもつれで・・・ひかりの姉・良美(黒川芽以)が突き落とし、殺害していたことを真央が暴いてしまうのである。
姉妹の母親は・・・「姉が妹を殺したなんて・・・そんな真実、知りたくはなかった」と嘆くのだった。
「目の不自由な人が暴行を受けました」
「犯人の心ない行為は絶対、許せません」
「犯人は重度の知的障害者でした」
「ああああああああああああああ」
・・・みたいなことだな・・・そのたとえはどうかな。
そういう真央に・・・印田は問いかけるのである。
「真実は必ずしも良い報せじゃないわよ」
しかし・・・真央は「真実に善悪は関係ありません」と主張する。
やがて・・・真央の母親が「自殺」していたことを印田が隠蔽してきたことが明るみに出る。
「あなたの母親は酷い人だった。貴方を生んですぐに交番の前に捨て・・・あなたと再会しようとした時も男に裏切られて自殺した・・・生まれて母に会う日に・・・幼いあなたに・・・真実を告げる勇気が私にはなかった・・・だから・・・死因は不詳とした・・・私はそれでよかったと思う。真実を求めて・・・今のあなたがここにいるから・・・」
「それは・・・先生の独りよがりですよ・・・どんな母親でも・・・私には受け入れる準備がありました」
「そう・・・」
「ひどい母親かもしれませんが・・・死んだ母親が・・・生きていたと知るのは私にはうれしいことでした」
「あなたにも・・・うれしいことがあるんだ」
「人間ですから・・・」
「人間だったんだ・・・」
おい・・・もう少し甘い決着だったんじゃないか・・・だったとしてもっ。
さらにブラックな第二シリーズに期待したい。
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