愚かさは罪ゆえに愛され、賢さは悪ゆえに憎まれる(広末涼子)
愚かさが罪であるのは「してはいけないことをしてしまう」からである。
賢さが悪であるのは「餌食にされたもの」にとってである。
人間は賢さで百獣の王となり、あらゆるものを食いものにした。
食い物にされたものたちはどれほど人間を憎んでいることだろう。
そのあげく・・・人間は時に人間さえ食いものにしてしまうのである。
その愚かさゆえに・・・人間は愛されてしかるべきだろう。
で、『聖女・第4回』(NHK総合20140917PM10~)脚本・大森美香、演出・日比野朗を見た。連続殺人および殺人未遂の被告・肘井基子(広末涼子)の裁判は基本的に淡々と進む。法廷劇としては見ごたえがないが・・・脚本的にはそこはどうでもいいのだろう。そもそも・・・「あの女、絶対に刑務所に送り込んでやる」という東京地方検察庁検事の千葉恒雄(池田成志)・・・どれだけ、決定的な証拠を持っているのかと思えば・・・ほぼ状況証拠である。この状況では起訴も難しいのではないか・・・ある意味、弁護側は反証する必要もないくらいである。そもそも二人を殺害し、一人を殺そうとして放火した被告である。検察側の求刑は「死刑」であるべきであり・・・セリフとしては「死刑にしてやる」が正しいのだが・・・いろいろとそういう言葉を使いたくないスタッフの意向が反映しているような気さえする。しかし・・・まあ・・・本題は裁判ではなくて・・・聖女だか悪女だか不明の女に翻弄されるちょっとおバカな男たちの話なんですよねえ。
さて・・・フェルメールの「聖女」には聖女プラクセディスとは別にもう一人の女性が描かれている。推測として・・・この女性が聖女プラクセディスの姉妹である聖女プデンティアナだということが囁かれるわけである。そもそも二人は伝説上の姉妹である。1世紀から2世紀の間にいたらしい・・・と囁かれているわけである。しかし・・・姉妹のために作られたサンタ・プラッセーデ教会とサンタ・プデンツィアーナ教会はローマに実在するわけである。姉妹の伝説で教会が建っているのだな。聖女プラクセディスが妹で聖女プデンティアナが姉というのが通説だが・・・逆だと囁くものもいるわけである。姉妹の運命さえ定かではないのである。伝説では二人はローマの元老院議員プデンスの娘であるとされている。ドラマ「ペテロの葬列」でおなじみの聖ペテロ(ローマではピエトロ)はローマ市民権を持つテント職人で迫害者から殉教者に転じ「パウロの回心」で知られた聖パウロとともにプデンスの屋敷に滞在していたという。つまり、プデンスはローマにおける初期キリスト教の保護者であったのである。そして、姉妹はこの時にキリスト教徒になったと囁く人もいる。聖ペテロも聖パウロも一世紀中に殉教しているわけである。その洗礼を受けた姉妹は二世紀にはかなり老いてしまっている。そういう伝説の題材なのである。二人の姉妹は殉教者たちの看取りをした後で殺害され、遺体は井戸に投げ込まれたという説もあり・・・平穏に天寿を全うしたという説もある。とにかく・・・キリスト教を信仰することが基本的に命がけの時代があったわけである。
「愛とは・・・お金をいただきそれなりの奉仕をすること」という信念を持つ肘井基子(広末涼子)の偽名は緒沢まりあであった。基子にとって「聖女」は「罪の女」の一人である売春婦のマリアである。アートコーディネーターとして美術史を学んだ過程でフェルメールの「聖女」がマリアではないことを知っていた基子だが・・・すべての「聖女」がマリアへと統合されている基子にとってそれは些細な問題であったと思われる。
「聖女」であれば聖母マリアも聖プラクセディスもマグダラのマリアも・・・すべてキリストに許された売春婦マリアに還元されて行く・・・それは狂気の香りを漂わせている。
基子に童貞を捧げた新人弁護士・中村晴樹(永山絢斗)は・・・その恐ろしさをまだ知らない・・・と考えられるのだった。
裁判は弁護側が圧勝する。
①2009年10月29日に港区のマンションで死亡した会社経営者・阿川博之(浜野謙太)の殺害の件・・・検察側は・・・被害者の経営する会社の幹部を証人として・・・被害者には自殺する意志がなかったと主張。
これに対し弁護側は・・・被害者を被告に紹介した経緯を持つ内藤あかね(上野なつひ)から・・・事件前に事業に行き詰り、被告との交際も思わしくなくなった被害者が「死んでしまいたい」と漏らしていたという証言を引き出す。
そもそも・・・自殺にみせかけた他殺という検察側の主張の根拠を揺るがせるのだった。
②2012年10月12日に伊勢原市山中で死亡したテレビ局プロデューサー・坂東幸雄(森岡豊)の殺害の件・・・検察側は崖下から現場を目撃した証人が被告を崖から蹴り落としたと主張。
これに対し弁護側は・・・目撃者は視力に問題があり・・・そもそも現場は見えないと反証する。
そもそも・・・目撃証言の信憑性・・・なかったわけである。
③2012年12月4日に練馬区のアパートで重傷を負った企業役員・千倉泰蔵(大谷亮介)に一億三千七百万円の保険金をかけ殺害未遂に至った件・・・検察側は被告による放火を主張。
これに対し弁護側は・・・意識を回復した被害者本人を出廷させ・・・「出火の原因は私の煙草の不始末だった」と証言させるのだった。
これで「有罪」を宣告できる裁判員は・・・いないだろう・・・。
それなのに・・・千葉検事は「ただちに控訴手続きをとれ」と部下に叫ぶのだった。
その根拠は一体・・・。
「私は裁判を通じて・・・私が多くのあやまちを犯し・・・多くの皆さんにご迷惑をおかけしたと痛感しました・・・もし・・・できることなら・・・その間違いを正して・・・生きなおしたいと思います」
聖女として・・・姿勢を正す・・・基子だった。
本能的に・・・基子の危険性を察知している看護師・本宮泉美(蓮佛美沙子)は魔に魅入られた婚約者の晴樹に囁く。
「無罪になったら・・・あの人は・・・千倉さんと結婚するのかしら」
最も痛いところを突かれた晴樹だったが・・・誑かされているので聞く耳は持たないのである。
基子と晴樹のただならぬ関係を察知した前原弁護士(岸部一徳)は苦言を呈する。
「お前は・・・そのことを誰にも言うなよ」
千倉の妻の文江(中田喜子)は夫に離婚届を突き返すが・・・夫の心は妻にはないのである。
「だまされているのがどうしてわからないの」
文江の言葉は届かない。
しかし・・・怪しい兄の克樹(青柳翔)は・・・晴樹に対して不気味な言葉を投げつける。
「実は・・・俺は検察から・・・証言を求められているんだ・・・俺が務めていた会社を辞めたのは阿川さんの会社にヘッドハンティングされたからなんだ・・・驚いたのは・・・阿川さんの女が・・・お前が高校生の頃、勉強部屋でセックスしていた女だったことだよ・・・」
克樹は・・・明らかに・・・自分もセックスしてもらいたかったのだった。
一審で無罪を得た基子は・・・すでに自分が自由になったように振る舞う。
タクシーの中で晴樹の手を握る基子。
その時・・・婚約者からの着信音がなるが・・・無視する晴樹。
「私のこと・・・嫌いになった」
「僕はあなたを守るためにここにいます」
基子の手を握り返す晴樹である。
タクシーの後部座席は密室ではないと全国のタクシードライバーが叫ぶのだった。
そして・・・千倉は突然・・・思い出す・・・。
基子が・・・床に火のついた煙草を投げ捨てた情景を・・・。
「私は・・・思い出してはいけないことを・・・思い出してしまった・・・」
とにかく・・・晴樹の人生はただならぬ危機的状況に陥っている。
ただ・・・本人は幸せの絶頂にいるのだった。
そして・・・聖女は悪女へと変貌して行く。
全国の一部お茶の間男性に問いかけるこのドラマ・・・あなたはどちらの基子がタイプですか?
関連するキッドのブログ→第3話のレビュー
| 固定リンク
« こんなことしかできないけれど一石を投じたら波紋が世界に広がりますように(木村拓哉) | トップページ | 耳には届かない私の愛(蒼井優)女優なら見せなさい(長澤まさみ)パイオツナイデー(瑛太) »
コメント