孫子・虚実篇に曰く、夫兵形象水・・・と軍師黒田如水(岡田准一)
今回、軍師官兵衛のセリフは司馬遼太郎の小説「播磨灘物語」丸出しである。
しかも・・・官兵衛のセリフではなく・・・司馬氏の解釈による地の文の「セリフ」化である。
つまり・・・史実とは全く無関係であるばかりか・・・官兵衛のセリフではなく、司馬氏のセリフなのである。
バカなのか。
軍師としての官兵衛の述べる「水」とは「兵」つまり「戦争」の本質を述べるものだ。
孫子の虚実篇が語る「戦争の本質」とは「水」のようなものであるという論から・・・戦に生死を賭けた官兵衛は自らを「戦」すなわち「水」だと名乗ったのである。
「戦争の本質とは水のようなものである。水は高きところから低きところへと流れる。戦争も強いものが弱いものを攻めることに尽きる。水が地形によって流れるように戦争も敵の強弱によって勝敗が決する。戦争が水のようなものである以上、戦争には定石というものはない。臨機応変に敵の強きを避け、弱きを衝く。これが唯一の必勝法である」
強きに逆らわず弱きを打つ。身もふたもない非情の論理が・・・如水には込められている。
で、『軍師官兵衛・第43回』(NHK総合20141026PM8~)脚本・前川洋一、演出・田中健二を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は微増の30行。シナリオ的な危機は脱しましたが・・・基本的に苦言ですよね。まあ、三成を演じるあらかじめ死を感じさせたら天下一の田中圭の顔芸は一見の価値ありですが・・・頭を丸めて土下座で命乞いの元祖のように描かれる主人公・・・ハゲ落ちって・・・「ハッピーフライト」かっ・・・でございますよねえ。とにかく・・・秀吉も妻子も侍女も笑った軍師官兵衛・剃髪後のイラスト大公開でお得でございます。まあ・・・黒田如水の方が知名度は高かった傾向が・・・軍師官兵衛によって逆転するわけでございますね。主人公の本名の孝高についてはほとんど告知せずって凄いですよねえ。織田信長がずっと織田上総介で通してるみたいな・・・。まあ・・・作劇なので・・・仕方ないのですが・・・「軍監帰国騒動」は基本的には総司令官(秀吉)と現地司令官(孝高)の戦略方針の齟齬に尽きるのですな。「ここは攻めて攻めて攻めまくる手じゃ」「いや、いったん退いて様子見です」「なんだとう」「アホですか」「こなくそ」「やってられっか」みたいな・・・。そして官兵衛は現地に残る息子に文をしたためる。「ベンチがアホやから試合にならんぞな・・・頭にきたから坊主になっちゃった・・・おえりゃせんのう」なのでございます。とにかく・・・茶々(二階堂ふみ)は最高ですな。
文禄二年(1593年)正月、前天皇である正親町天皇が崩御。殯(もがり)の期間に鹿狩りをしたという噂で豊臣秀次は殺生関白という影口をたたかれる。明国司令官の李将軍が平壌を防衛する小西行長軍を攻める。明軍は重火器で武装したおよそ四万。小西軍は一万五千。大砲はないが鉄砲の数は明軍を上回っており、篭城戦は充分可能だったが・・・包囲を恐れた小西軍は退却を選択。追撃戦で小西軍は大打撃を受け敗走。退路にあたる龍泉山城の黒田長政は小西軍を収容しきれずに漢城への撤退を決意する。明軍は漢城への進路にある開城に進出。月末に漢城攻略戦に突入する。宇喜多秀家は四万で迎撃。激戦の末に銃撃戦力で上回る宇喜多軍が勝利し、敗走した明軍は平壌まで撤退する。二月は平壌と漢城の中間での押し合いとなる。三月、明軍は宇喜多軍の兵糧貯蔵庫の焼き打ちに成功し、双方が兵糧不足となる。両軍は停戦交渉を開始し、双方が一時停戦に合意する。石田三成と小西行長は合戦における失敗を糊塗するために秀吉に勝利を報告する。朝鮮半島は北に明軍、南に秀吉軍が対峙する状態で七月、休戦状態となる。八月、茶々が秀吉の三男(豊臣秀頼)を出産。秀吉は外征の休戦期間に・・・後継者問題への対処を余儀なくされる。十月に太閤秀吉の嫡子と関白秀次の娘の婚約が成立。二年足らずの緊張関係の後、文禄四年七月、秀吉は秀次に謀反の疑いをかけ、高野山に追放する。
大阪城の石田屋敷の奥の間。
男と男の官能の宴を過ごした三十五才の石田三成と二十八才の真田幸村は息を整えていた。
男色の道も極めた信長と違い、秀吉は衆道嫌いである。
そのために石田三成はその筋の関係を隠していた。
真田幸村は優れたくのいちの術の使い手であった。
幸村が真田家の人質として大阪城にあったことから・・・二人の関係は発展したのだった。
幸村は男でもあり女でもあるという妖しい魅力で・・・三成の心を捉えていた。
性的に満足した二人は・・・趣味の陰謀に走りはじめる。
「石田様・・・御存じかな」
「何をじゃ・・・」
「関白秀次様が・・・唐入りから帰国した武将を続々と聚楽第に呼んで・・・現地の事情聴取をしているそうだ」
「ほう・・・」
「そこでは・・・小西様の大敗走や・・・石田様の兵糧大損失の話が実しやかに語られているそうな」
「それはそれは・・・」
石田三成の顔に凄惨な笑みが浮かぶ。
「そのような根も葉もない噂に・・・石田様は動じられまいが・・・関白様は・・・近く、太閤様にそういう話をまとめて告げるつもりだそうな」
「ふっ・・・」
「いかがなさる」
「しれたことを・・・陥れられる前に陥れる・・・これに限るじゃろう・・・」
「御意・・・」
「関白様にはすでに・・・謀反をしていただく準備が整っておるわ・・・」
「さすがでございますなあ」
「連座して・・・やり玉にあがるものが・・・また大金を運んでくるにちがいなし」
「ふふふ・・・謀反発覚で大儲けでございますな」
「細工は流々、仕上げをご覧じろよ」
陰謀の暗い香りに着火して・・・再び官能の宴に舞い戻る男と男である。
文禄四年の春が終ろうとしていた。
関連するキッドのブログ→第42話のレビュー
| 固定リンク
コメント