美しい女(中越典子)綺麗な人(小西真奈美)何かを隠す女(原日出子)胸に秘めた野望(榮倉奈々)
サイコな希美ママが更生すると・・・今度は西崎ママがバトンを受け継ぐのか・・・。
実に飽きさせない展開をしてくるな。
「夜行観覧車」もろくでなしママのパレードだったが・・・「ふつうの家庭」に縁薄い子供たちの話は・・・どうしても面白いんだなあ。
希美に対する虐待がソフトなものに感じられるハードな西崎の記憶。
十字架にかけられるために生まれてくるものの聖なる夜に殺人事件はフィットするんだなあ。
究極の愛を求めずにはいられないものの生い立ち・・・それは「ふつうの家庭」では育まれにくいんだよねえ。
で、『Nのために・第4回』(TBSテレビ20141107PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・山本剛義を見た。ジグソーパズルのジグソーとは糸鋸のことである。バラバラにするために使うわけだ。そういう意味でジグソーパズルにはほんのりとホラーの香りがするわけである。回想はドラマの常套手段だが、このドラマのように時間を断片化させたものが苦手な人は多いかもしれず、そういう人はジグソーパズルも苦手のような気がする。断片化したピースが原型を取り戻す興奮というのは一種の変態性を醸しだすような気もする。もちろん、図形や立体と違い、時間の境界線は一般人にとって曖昧なものである。それは人間の認識力が現在を永遠に認識できないことと無関係ではないだろう。それでも些細な疑問は湧く。同窓会のために島へ帰り、成瀬慎司(窪田正孝)の父親の通夜の後で杉下希美(榮倉奈々)はどこに泊ったのか・・・とか。
【2014年】高野(三浦友和)は「スカイローズガーデン殺人事件」で被告となった西崎真人(小出恵介)の弁護人となった法律事務所を訪れる。
「なぜ・・・この事件を調べているんですか」
「半年前、この事件に二人の人間が関わっていることを知りまして・・・」
「二人?」
「慎司と希美です・・・この二人は別の事件にも関わっているんです」
「その事件は未解決なんですか」
「はい」
高野は資料に書かれた二人の調書から・・・過去へ向かって旅立って行く。
【2004年】クリスマスで賑わう東京。高層タワーマンション・スカイローズガーデン48階では大手商社に勤務するエリートビジネスマンの野口貴弘(徳井義実)と希美が将棋を指していた。野口が中座したために希美は別室の出来事に気付かず、時を過ごした。
料理のデリバリー会社に勤務する慎司は偶然にも幼馴染のいる部屋へ宅配して惨劇を目撃する。
野口貴弘が不倫した妻の奈央子(小西真奈美)を殺害し、奈央子の愛人の大学生・西崎真人が貴弘を殺害したのだった。
しかし・・・その場にいた安藤望(賀来賢人)は・・・「僕のせいだ・・・僕のせいでこんなことに・・・」と呟く。
慎司は希美に呼び出され、「希美」と名前を呼びながら室内に入った。
希美の鮮やかな黄色の衣装は・・・血で汚れていた。
横たわる二つの死体。
座り込んだ西崎・・・。
【2014年】希美と再会した安藤はディナーを共にする。
「高野さんが来たんだって」
「事件のことを聞きに・・・杉下のところへも行くんじゃないのか」
「・・・でも、今夜は懐かしい友達に会えてうれしかったわ」
「もう・・・事件のことは忘れよう」
「忘れられるの・・・私には無理」
「僕がいけないんだ・・・僕のせいで・・・」
「もう・・・やめて」
ちぐはぐな二人の会話・・・店を飛び出す希美・・・。
逃れようとする過去の「何か」から・・・亡霊のように高野が飛び出すのである。
【2002年】島を出て明央大学に通う希美は二年生になっている。下宿する「野ばら荘」の住人である西崎と安藤とも良好な関係を築いている。第一の時間がゆっくりと第二の時間である【2004年】に迫っているのだった。
小説家志望の西崎は処女作「灼熱バード」を書きあげ、希美たちに読ませる。
「幻想小説ですよね」と希美。
「いや・・・SF小説だろう」と安藤。
「これは・・・究極の愛の小説だ」と断言する西崎。
【西崎の過去】西崎の紡いだ言葉と西崎の記憶には乖離がある。
幼い西崎は美しい女(中越典子)に凌辱され、その肉体には醜悪な刻印が標される。
「本当の生は灼熱の中にある。餌はオーブンに投げ込まれている。私は灼熱の中に身を投げるもっとも愚かなバードとなったのだ。火あぶりにされるか、ひと思いに殺されるか・・・」
【2002年】西崎は希美に問う。
「君にとって・・・究極の愛とはどんなものだ」
「罪の共有です・・・共犯ではなくて・・・罪の意識を共有して・・・誰にも知られずに相手からも身を引いて行くこと・・・」
それは・・・希美・・・単なる思いこみじゃないのか。
安藤は希美が「居酒屋」と「清掃会社」の二つのアルバイトを掛け持ちしている理由を問う。
「父親に入学金を借りているので・・・早く返したいの」
「入学金を・・・返す?」
希美より恵まれている安藤には理解が難しかった。
深夜、希美の寝込みを襲う・・・呪われた母親・早苗(山本未來)からの電話。
「のぞみちゃあん・・・お母さん、さみしいんよお」
「何時だと思ってるの・・・明日、朝からバイトなんよ」
「まさか・・・男とおるんやないやろうね」
「いいかげんにして・・・私には私の生活があるの・・・もう夜中に電話せんで」
もはや・・・妖怪のような早苗の後ろ姿である。
希美に島から届く同窓会の報せ。
「会いたい人がいるんだろう」と「野バラ荘」の大家・野原兼文(織本順吉)・・・。
「いるけど・・・来るのかどうか」
「会えるといいねえ」
恐ろしい島に勇気を出して向う希美。
母親は福祉課の職員・池園(山中崇)の手配でなんとか魚市場で働いている。
その姿に少し安堵する希美。
島の光景には懐かしく心を癒すものもあった。
慎司との思い出が蘇る・・・。
そこに同窓会の幹事・磯野友子(梨木まい)から連絡が入る。
「同窓会中止になるかもしれん」
「中止って・・・」
「成瀬くんのお父さん・・・亡くなってしもうたの」
「え」
周平(モロ師岡)は心不全だった。
時間を遡上する時に紛れ込む葬儀の断片はこれだったらしい。
「慎司に具合の悪いの隠しとったんや・・・」
「頑張ってる息子に心配かけたくなかったんじゃろう」
やたらと慎司に無用のプレッシャーをかける島の人々だった。
なぜか・・・周平の遺体を見て身ぶるいする高野の妻・夏恵(原日出子)・・・。
それを見逃さない高野。
「周平さんと何かあったのか」
横に首をふる夏恵だが・・・。
ものすごく腑に落ちない高野だった。
つまり・・・妻が真実を語らないので・・・十年以上も高野は希美と慎司を追いかけるのか・・・。
そして・・・夏恵と周平の間にただならぬ関係があったのは決定的なのだな。
傷心の慎司の元へやってくる高野。
「生命保険は」
「借金払ったら残らん」
「放火事件は犯人が出頭しないことには・・・どうにもお手上げじゃ」
「・・・」
慎司の中ではこみ上げるものがあったが・・・口には出さなかった。
放火の真犯人も・・・慎司が高野に何を言いたかったかも・・・謎に包まれているのである。
通夜の席で・・・無言で見つめ合う希美と慎司。
その姿を忌々しく見つめる高野だった。
希美には語りたいことがあった。
慎司にも語りたいことがあった。
だが・・・会う時にはいつも他人の二人なのである。
「がんばれN」とは口に出せないのだ。
【2003年】M-Vロケット5号機によって小惑星探査機「はやぶさ」が打ち上げられた五月・・・就職活動中の安藤はすでに大手商社から内定を得ていた。しかし、「亡き妻の思い出の残るじいさんの野バラ荘を都市開発の地上げから守ろう大作戦・・・略してN作戦」の発動を西崎が告げる。
具体的な再開発計画が始動したのだった。
「この辺の大地主である野口氏も計画に反対しているらしい・・・我々は野口氏の意図を探るために野口氏の息子・・・貴弘氏に接したい」
「珊瑚を守ろうとか・・・ボランティアにも熱心みたい・・・」
「小笠原で中国密漁船と一戦交えるのか」
「いや・・・それは台風にまかせておこう・・・沖縄でスキューバ・タイビングだ・・・」
「そういえば・・・バイト先もボランティア活動に熱心で・・・スキューバ・ダイビングの資格を無料で拾得させてくれるって・・・私、資料取ってくる」
二人になった西崎と安藤。
「どうして・・・彼女まであんなに熱心に・・・」
「君には帰る家があるが・・・俺や彼女にはないからな」
「え」
「彼女が高校生の時に父親が愛人を連れ込んで家から彼女と母親を追い出したそうだ」
「・・・彼女はそんなことまで西崎さんに・・・」
「いや・・・彼女がじいさんに話したのを俺がじいさんから聞きだした」
「・・・」
「君は彼女が好きなんだな」
「まあ・・・彼女は何とも思ってないみたいですけど」
「君と彼女は似ている」
「どこがですか・・・」
「俺と違って現実の中で夢をかなえようとしている」
「・・・」
「俺は君たちが好きだ・・・君たちを見ていると現実も捨てたものじゃないかもと思うことがある」
三人は・・・野口の主宰する「珊瑚を守る会」のイベントに参加する。
希美は見た。
高みに住む野口夫妻の輝く姿を・・・。
野口貴弘の金色のジャケットを・・・。
チャンスがあるなら
高い所にいる誰かと知り合いたいと思ってた
自分が今いる場所から
もっと 遠くへ行くために
すべてを手に入れた誰かの背中に近づいて
その肩に 手をかけてみたかった
それをバネに
今よりもっと高い所に行くために
そして・・・西崎は・・・野口夫人の美貌に心を奪われる。
貴弘にコンタクトした西崎は情報を収集してくる。
「二人はスキューバダイビングの資格をとれ」
「なんで・・・僕まで」
「貴弘は・・・君の就職する会社のエリートらしい」
「えええ」
「そして・・・・趣味は将棋だ」
「ついに・・・将棋が役に立つ日が来たのね」
西崎は夢と現実の狭間に生きる男だった。
現実の野望に目を向けた希美と安藤はその狭間に巻き込まれて行く。
スキューバ・ダイビングの講習会に参加する希美と安藤。
「西崎さんの水着にならない主義ってなんなんだよ」
「水着にはならない・・・か」
希美は知っていた。台風の日に・・・ふと目にした西崎の身体の傷跡。
「ところでなんで・・・清掃会社のバイトなんて・・・」
「高層ビルの窓ふきのゴンドラに乗ってみたかったの・・・でも女子はやらせてもらえないらしい」
「なんでまた・・・」
「島から見える海には水平線がなかった・・・高い所に登ってずっとずっと遠くを見るのが・・・私の野望・・・約束したから・・・」
「約束って誰と」
「・・・」
そこへ通りすがりの慎司が現れる。
思わず追いかける希美。
「おい・・・一緒に焼き鳥食べるんじゃ」
「ごめん・・・先に帰って・・・」
しかし・・・胸を揺らせて慎司を追いかけた希美を阻む赤信号。
慎司は幻のように雑踏に消える。
実際の慎司は荒んだ生活を送っていた。
大学も休みがちである。
希美を失い・・・父親を失い・・・目標を失った慎司。
そんな慎司に・・・悪の誘惑が忍びよる。
法外の収入をもたらすビジネスは悪事と相場が決まっているのである。
そうとは知らず・・・希美は・・・野口夫妻と知りあいになるための沖縄ツアーに参加するのだった。
過去から逃れるためにひたむきに前向きに生きようとする希美。
しかし・・・未来からは・・・第二の事件が・・・ゆっくりと近づいてくるのだ。
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