いそかげのまつのあらしやともちどりいきてなくねのすみにしのうら・・・と豊臣秀次(岡田准一)
豊臣秀吉の姉・日秀の子で関白となった豊臣秀次は鎌倉の将軍家伝来の「源氏物語」を所有していたと言われる。
秀次は叔父・秀吉の期待に応えるために文武両道の探究者だった。
もちろん・・・素性の定かならぬ家の出である・・・その努力は涙ぐましいものと言える。
秀次の辞世には・・・源氏物語第12帖「須磨」を思い起こさせるものがある。
奔放な美女・朧月夜との不適切な関係により都を追われ、無位無官となった光源氏は須磨で侘び住まいをする。都での様々な光と影を懐かしむ光源氏だったが海辺でただならぬ嵐に襲われ恐怖に慄くのである。
その一節に・・・「友千鳥が声をあわせて啼いている明け方は一人泣き暮らす者をなぐさめるようだ」とあるわけである。
「磯陰の松の嵐や 友千鳥」なのである。
「生きて啼く声の澄みにしの浦」なのだった。
友千鳥は秀吉を含める豊臣一族である。その声は・・・かっては一族を思い美しく響いていたというのに・・・今は・・・迫ってくる滅びの時をただ待っているようではないか・・・ということだ。
怨みの歌ではあるが・・・なかなかに趣きがあるのだった。
秀次の所有していた「源氏物語」は徳川家康の手に移り、今に伝わっている。
で、『軍師官兵衛・第44回』(NHK総合20141102PM8~)脚本・前川洋一、演出・鈴木航を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は幽かに減って27行。秀吉を間に挟んで・・・野望を推し進める石田三成・淀組と・・・時の流れに茫然とする官兵衛の対比はなかなかに面白いのですが・・・どうしても「日本号」のことは盛り込みたいという・・・美術さんの情熱が水を差すのですな。一同爆笑ですな。前にも述べましたが・・・茶器などの「それらしい品々」については物凄く力の入っている大河ドラマとは言えます。今回の大杯もなかなかの一品でしたしねえ。そういうことでどうするっ・・・とは思いますけれど。それはさておき・・・予想外の淀殿の描き下ろしイラスト大公開で感無量でございました。とにかく、二階堂ふみは素晴らしいのでございます。ああ・・・「熱海の捜査官」でも見るかな。
文禄三年(1594年)八月、石川五右衛門は京都三条河原で「石川や浜の真砂はつきるとも世に盗人の種はつくまじ」と辞世を残して煎り殺される。文禄四年(1595年)七月、前関白の豊臣秀次は切腹を命じられ死亡。蜂須賀小六と並ぶ股肱の臣だった前野将右衛門長康や黒田官兵衛の従兄弟で播磨以来の臣である明石則実なども連座して死を賜る。忠臣を自らが粛清する成り上がり者にありがちな轍を秀吉も踏むのである。愛児・秀頼の後継者レース参加者を排除することは・・・豊臣政権の行く末を暗示するのだった。その中で秀吉の義弟となった徳川家康だけは容易く排除できない実力を兼備していたのである。忠臣として石田三成を評価する向きもあるが・・・結局、目先の利益に目が眩んだ小悪党であることはこの一点で明白なのだった。秀吉の手足となって働く五奉行(三成、浅野長政、増田長盛、長束正家、前田玄以)は秀吉の威を借る狐だった。秀吉こけたら皆こける宿命である。秀吉の正室・寧々の血縁である浅野一族、木下一族は生き残りを家康に賭ける他なくなるのである。秀頼誕生後、寧々の兄・木下家定の子、秀秋は嫡子のない小早川家に養子に出ることで難を逃れる。黒田如水はこの縁組に関与しており、それは一つの布石だった。小早川隆景の隠居により、小早川秀秋は筑前三十万石の領主となる。文禄五年(1596年)十月、伊予地震、豊後地震、伏見地震など天変地異が相次ぎ、慶長に改元。慶長元年十二月、秀頼元服。慶長二年(1597年)二月、秀吉は再び朝鮮への出兵を号令する。軍監として出陣した黒田如水は・・・秀吉の逝去を前提とした専守防衛作戦を展開する。
如水は釜山浦の築城が思ったより進捗していないことを出迎えた九郎右衛門に問う。
「やはり・・・人夫不足か」
「はい・・・とにかく人手が足りませぬ。朝鮮王の支配を嫌い、協力を申し出る賤民は多いのですが・・・文盲のものが多く、筆談ができませぬ。読み書きが出来て大工仕事の技術のあるものはほとんど逃亡しており、結局、土地のものには雑用しかさせられませぬ」
「朝鮮語を話せるもの、大和言葉を話せるものの育成はどうなっている」
「それも思うにまかせませぬ・・・なにしろ・・・土地土地で言葉が違いまする」
「だが・・・最低限の意思疎通はできるだろう」
「それはそうなのですが・・・話せるものほど・・・朝鮮王への忠誠心も強いわけでございます」
「なるほど・・・身分の差が・・・忠誠心の差になっておるのか」
「さようでございます」
「年貢のことはどうなっておる」
「文禄の折に逃げた百姓たちは停戦の間に戻って参りましたので・・・半数ほどは支配下に入っております」
「秋までには前線を押し上げ、漢城あたりまでは支配下におく。百姓どもを安堵させるのが何よりの要じゃ」
「若殿は大殿の言いつけ通り、百姓を慰撫しておりますが・・・各陣によって・・・」
「まあ・・・それは仕方あるまい・・・若い輩も多いからのう・・・後で痛い目を見ればわかるだろう」
「黒田本陣は北東の丘に構築が終わっておりまする」
「明の水軍の様子はどうか」
「何度か、補給船を襲撃してきましたが・・・その度に撃退しております。もはや、組織だった水軍はないようです」
「おそらく・・・漢城周辺に集結させているのだろう」
「東と西・・・どちらの道も・・・二十里ほどは完全に我が軍が制しております。おそらく進軍を開始すれば漢城までは一月とかかりますまい」
「斥候の報告はどうだ」
「気になるのは文禄の頃、石田殿や小西殿が逃走の際に放棄した鉄砲弾薬がかなりの量、敵の手に渡っております。明軍はこれで訓練を重ねていると思われます」
「しかし・・・鉄砲のしごきにはそれなりの年月がかかるからな・・・」
「そうではございますが・・・下手な鉄砲も数撃ちゃあたると申します」
「一理あるのう」
「終わりの決まっている戦でございますからな」
「そうじゃ・・・殿下の命があと五年あれば・・・明の国境も犯せようが・・・それはできぬ相談じゃ・・・この戦は・・・兵の損耗を抑え・・・持久戦に持ち込まねばならぬ」
「幸い・・・朝鮮兵は・・・討って出れば必ず退却しますからな・・・」
「命のありがたさを知っておるのじゃ・・・見習うべきところぞ」
「しかし、明軍はあなどれません」
「それは・・・そうじゃ・・・なにしろ・・・兵法のふるさとじゃからのう」
「いかにも・・・」
二人の老将は微笑む。
釜山浦には春風が吹いていた。
関連するキッドのブログ→第43話のレビュー
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コメント
お邪魔いたします
毎日お疲れ様です
レビューのおかげで生の合戦を妄想することができました
この世の黄昏を感じました
ドラマの終わりが近づいているのを実感しました
それにしてもおばかちんの二男と黒田家の行く末が気になります
二階堂ふみさん、すばらしいですね
「江」の宮沢りえさんとの対照さがこれまた乙です…
(りえさんも素敵でしたー)
投稿: mi-mi | 2014年11月 3日 (月) 23時22分
aDayinOurLife~ mi-mi様、いらっしゃいませ~アタラシイナニカヲミツケルネェ
ねぎらいのお言葉ありがとうございます。
妄想を楽しんでいただけて幸いです。
秀吉の朝鮮出兵はいかにも無謀な戦だった風な
誤解があるわけですが・・・
明の次が清でなく日本だった可能性は十分あったわけで
これが歴史の醍醐味というものでございますよね。
本当に敗戦ならば
日本が朝鮮国になっていたわけですし。
現代の感覚で歴史を語る罪みたいなものがございます。
黒田家の次男の運命に関しては・・・
次回をお楽しみくだされますように・・・。
それがネタバレかっ。
ふふふ・・・キッドの大河ドラマ淀の方ベスト10はすでに更新されておりますぞ。
①二階堂ふみ「軍師官兵衛」2014年
②夏目雅子「徳川家康」1983年
③深田恭子「天地人」2009年
④宮沢りえ「江〜姫たちの戦国〜」2011年
⑤松たか子「秀吉」1996年
⑥樋口可南子「独眼竜政宗」1987年
⑦小川眞由美「葵 徳川三代」2000年
⑧若尾文子「武蔵 MUSASHI」2003年
⑨永作博美「功名が辻」2006年
⑩瀬戸朝香「利家とまつ〜加賀百万石物語〜」2002年
・・・でございます。
ドラマの出来不出来ではなく・・・
秀吉の愛した女として・・・魅力最優先となっています。
やはり・・・どうしてもピチピチが勝利しますけどねえ。
投稿: キッド | 2014年11月 4日 (火) 02時30分