一夜城は一夜にしてならず(山田孝之)
「墨俣一夜城伝説」を否定する人は基本的に他人の手柄話が嫌いな人と言える。
そして、次に豊臣秀吉の立身出世物語が嫌いなのである。
こういう人を野放しにしておくとそのうち「豊臣秀吉は実在しなかった」とか言い出すので注意が必要である。
墨俣城が斉藤方にあったとか、信長が秀吉に墨俣築城を命じた文書がないとか・・・そういうあれやこれやで「一夜城なんかないさ」という人はやはり一種のバカなのであろう。
敵前で「砦」を構築するのは織田信長の常套手段であった。
「付城」という発想は戦術としては珍しいものではない。
しかし、信長は「土木力」というものに注目し、効率的に短期間で城を作る技術を開発していたのである。
すでに・・・桶狭間の合戦で・・・今川方の城に対して、囮を兼ねた砦を構築している。
この後、信長は常に敵対する城に対して、包囲のための砦を築くことを心がけるのである。
美濃攻略戦において、斉藤龍興の稲葉山城(後の岐阜城)を攻略するために信長はじわじわと主城を前衛に移しながら、包囲のための砦を構築していった。
墨俣砦もまたその一つであり、それが秀吉の出世の糸口の一つとなったのは明白な歴史的事実なのである。
夢々疑うことなかれ。
で、『信長協奏曲・第4回』(フジテレビ20141103PM9~)原作・石井あゆみ、脚本・宇山佳祐、演出・林徹を見た。催眠の演出家なのだが・・・素材の勝利で今回はなんとか乗り切ったな。最も、今回は開始以来、最も合戦シーンが少なかったのである。墨俣攻防戦なのにだ。もちろん・・・永禄三年(1560年)の桶狭間の合戦から、永禄九年(1567年)の墨俣一夜城まで七年の歳月が過ぎ去らないこの「時空間」では・・・高校生のサブロー(小栗旬)が到着したのは天文二十年(1551年)なので史実通りなら16年の月日が経過してサブローも三十代過ぎのおっさんになっているはずなのだ・・・もう年末には天下布武が完成する勢いなのである。感じとしては三ヶ月くらいで天下統一しちゃう織田信長・・・二十歳そこそこで天下人になるので世界征服も夢ではないな。
そうなると「織田のもとの世界平和」が実現してしまうんだな。
そこには当然、アメリカ合衆国も、ロシア共和国も、中華人民共和国も、EUもないわけである。
テームズ川で鵜飼いが盛んに行われているんだ・・・きっと。
世界各地に信長大明神が祀られ・・・いい加減にしておけよ。
さて・・・斉藤道三に歴史を託されたサブローこと織田信長の元へ徳川家康(濱田岳)がやってくる。
松平元康が松平家康になるのは桶狭間の合戦後、まもなくである。
家康は松平一族の作る松平党の党首であるが・・・その立場はまだ不安定だった。今川傘下から脱し、信長と同盟するのは尾張国と三河国という隣接する国主がお互いの背後を固める意味もあるし、弱小国として経済的に豊かな信長に後ろ盾となってもらうためでもある。
史実では家康が徳川を名乗るのは信長の尽力で永禄九年、朝廷および足利幕府より従五位下三河守に任じられて後である。
徳川という名は松平家の祖先が新田氏庶流の得河三郎義秀だったとう伝承に基づくものとされている。
天文二十年(1551年)、永禄三年(1560年)、永禄九年(1567年)が一月ほどに圧縮されたこの時空間ゆえに・・・松平元康は一気に徳川家康に改名するのだった。
「え・・・徳川家康・・・聞いたことある」
しかし・・・徳川家康が何をした人なのかは知らないサブローだった。
これは・・・超ウルトラスーパーデラックスバカと言っても過言ではない。
とにかく・・・家康の業績を知るために高校の日本史の教科書を捜すサブローだったが・・・教科書は見つからないのである。
やはり・・・信長夫人・帰蝶(柴咲コウ)の侍女・ゆき(夏帆)はただものではなく・・・何故か、教科書を隠蔽してしまうのだった。
はたして・・・その正体は・・・?
とにかく・・・実際に天下を統一したのが徳川家康だとは知らず・・・サブローは「天下統一」の方法を模索するのだった。
柴田勝家(高嶋政宏)、丹羽長秀(阪田マサノブ)、池田恒興(向井理)、森可成(森下能幸)など主だった家臣に問うサブロー。
「ねえ・・・どうしたら天下統一できるの」
「それは・・・京にのぼらねば」
「じゃ・・・行こうか」
「そのためには敵である美濃を通らねばなりませぬ」
「ええと・・・美濃は・・・」
「先頃、病死した斎藤義龍(史実では永禄四年病没)の嫡男・斉藤龍興がおさめております」
「いつの間に・・・・」
龍興(間宮祥太朗)は永禄四年に14歳だがこの世界では21歳くらいに見えます。
「龍興はたいしたことないですが・・・武将の一人に竹中半兵衛と申すものがありまして・・・これが物凄い智将です。知力100くらいございます」
「なんか・・・凄そう・・・」
竹中氏は本来、平氏だが・・・美濃竹中氏は土岐氏の傘下にあるうちに婚姻を重ねその庶流となっている。
系譜というものは曖昧なものである。
源氏が足利の地に土着すれば足利氏となる。この時、土地の豪族の娘と婚姻して子を為せば、そこで新たな支族が生まれたりもする。
平氏である竹中氏から源氏の土岐氏に娘を差し出す。
源氏の土岐氏から平氏の竹中氏に娘が下げ渡される。
そうこうするうちに、主が土岐氏であれば・・・従である竹中氏は源氏の庶流となるのである。
美濃には藤原氏を祖とする遠山氏もいるが・・・ここに土岐氏が婿として入り、土岐支流である明智遠山氏が誕生する。これが史実の明智光秀の祖となる。
帰蝶の母親の小見の方は明智氏の娘であり、帰蝶と光秀は従兄妹にあたるとされている。明智氏と同様に土岐氏庶流の竹中半兵衛は帰蝶にとって遠い親戚という感じになるのだった。
その竹中半兵衛(藤木直人)が龍興の家来を辞し、信長の家臣になるために参上する。
しかも・・・織田家に龍興の間者(スパイ)がいると言い出す。
「うちにはそういう人はいません」とサブローは半兵衛を投獄するのだった。
帰蝶に「半兵衛殿は・・・戦のない世を作りたい・・・と申していた」と教えられ・・・牢獄の半兵衛にルービックキューブを差し入れる信長。
「戦のない世の作り方教えてくれませんか」
「それは夢物語・・・塵芥(ちりあくた)のようなもの」
「でも・・・塵もつもればなんとやらって言うじゃないですか」
「山です」
「それそれ」
一方、今川の間者だった木下藤吉郎(山田孝之)は今川の忍び段蔵(早乙女太一)を殺し、今川家と訣別する。
しかし・・・藤吉郎には・・・織田信長に私怨があったのだ。
定説では織田信長の初陣は天文十六年(1547年)とされている。傅役の織田家次席家老・平手政秀が後見し、三河国の吉良大浜に出陣した。今川領地の村を襲撃し、放火して一夜野営を行い、尾張に帰陣するという一種の軍事訓練である。
どうやら・・・その村で家族を殺され、信長に斬り殺されそうになった・・・藤吉郎である。
「信長を苦しませて・・・殺す」
藤吉郎の復讐の炎は燃える。そのために忍びとしての腕を磨いてきたのだろう。
しかし・・・それは・・・サブローの知らぬことであった。
やがて、サブローに取り入り、復讐の機会を狙う藤吉郎は・・・美濃攻略の奇策として「墨俣一夜城作戦」を提案するのだった。
すでに本城を清州から美濃尾張国境に近い小牧山城に移した信長は犬山城(城主・織田信清)、鵜沼城(城主・大沢二郎左衛門)など斉藤方の諸城を攻略するものの稲葉山城攻めには永禄四年、永禄六年、永禄九年の三度に渡り失敗を繰り返している。
その攻め口を確保するために稲葉山城の南に位置する墨俣築城は常に求められていた。
しかし、美濃国からは守りやすく、尾張国からは攻めにくい対岸に砦を構築するのは難度が高かったわけである。
しかし、藤吉郎の作戦は加工済みの用材を水路で搬入するという理に叶ったものであった。
早速・・・実行に移したサブロー。しかし、用材の調達部隊となった藤吉郎や前田犬千代(藤ヶ谷太輔)は斉藤方の野武士に襲撃され、犠牲を出す。情報が漏れていたのである。
藤吉郎が突き止めた間者は森可成であった。
ちなみに森氏は由緒正しい源氏の一族である。その領地は美濃国にあり、信長の父・信秀の頃には斉藤道山の配下であった。
つまり、斉藤家とは所縁が深いので・・・この裏切りはありうることだった。
そもそも・・・下剋上の時代、主従関係は力の論理に支配されている。
だから、森可成は道三の死後、織田家に鞍替えをしたのである。森一族にあって森可成は野武士の戦に優れていたと言われる。つまり、忍びのものである。野武士とは戦乱の果てに領地を失った武士の姿なのである。当然、その戦法は奇襲略奪を主とした山賊のものとなるのだった。
そのために信長は森一族を美濃攻略の先鋒として起用したのである。
美濃の地侍だからこそ・・・地の理を知っているからだ。
しかし、それは美濃に馴染みがあることによって裏切りの危険も孕んでいるのである。
史実では森可成が斉藤家に情報を流した事実は明白になっていないが・・・織田、斉藤のどちらにが勝ってもいいようにするのは・・・地侍の身過ぎ世過ぎなのであった。
情報漏洩発覚で・・・切腹沙汰となる森可成だったが・・・サブローは切腹が大嫌いなのだった。
「そんなことしないでいいよ・・・お父さんが死んだら可愛い蘭丸くんたちが泣くじゃないか」
柴田勝家、池田恒興についで森可成も・・・切腹を止められて心を信長に奪われるのだった。
その様子に心を奪われる半兵衛・・・。
「道三殿も・・・戦のない世が来るとおっしゃっていた」
「そりゃ、そうだろうね、未来人だから」
「ミライジン・・・なにやら・・・甘美な響きですなあ・・・とにかく・・・そうおっしゃった道三殿も・・・結局、戦で命を落された」
「でもさ・・・同じ戦うのなら・・・夢を求めて戦った方がテンションあがるでしょう」
「天照・・・つまり・・・陽の輝きですか・・・」
「さあ・・・意表をついて一夜城作戦再開だ」
燃えあがる織田家家臣一同。
しかし、築城現場に・・・半兵衛の弟・竹中久作重矩(上山竜治)がやってくる。
「どうか・・・兄をお救いください・・・兄は斉藤を裏切った罪で処刑されようとしています」
半兵衛は・・・斉藤の間者として・・・城に放火する任務を放棄したのだった。
サブローに絆されて裏切った半兵衛だったが倫理観が強すぎるために裏切りの罪に服す覚悟だったらしい。
一夜城を捨て・・・救出に向かうサブロー。
「そんな・・・」とガッカリする藤吉郎。
「心配ご無用」と森可成。
「でも・・・人手が・・・」
「拙者には・・・闇の手配手段がありまする」
美濃国の野武士である森可成は・・・美濃・尾張国境を縄張りとする野武士の棟梁・蜂須賀小六(勝矢)との絆があったのだ。
小六と藤吉郎・・・運命の出会いだった。
そして・・・墨俣築城成功である。
半兵衛を救出した信長一行は万歳三唱である。
帰蝶や信長の同母妹・市姫(水原希子)もかけつけ戦勝を祝うのだった。
そして・・・竹中半兵衛は調略につぐ調略で・・・美濃の国衆を味方につけ・・・斉藤龍興は国を追われるのだった。史実では永禄10年(1568年)のこととされている。
こうして・・・サブローは尾張・美濃の二国の領主となったのだった。
美濃を手中にして・・・道三の墓参りを帰蝶とすませたサブロー。
そこへ・・・本物の信長が現れる・・・。
どうやら・・・彼はこの世界の明智光秀になるらしい・・・。
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