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2014年11月29日 (土)

邪魔をしないで・・・私たちこれから共犯するところ(榮倉奈々)

十代から三十代まで・・・時を越えて存在する主人公。

アンチエイジングの発達によって・・・「幸せの黄色いハンカチ」の桃井かおりより、現在の桃井かおりの方が若く見えたりする恐ろしい時代である。

しかし、昔の桃井も桃井なのだった。

まあ、今の桃井はCGかもしれないがね。

・・・おいっ。

あえて老けるのは・・・若返るよりいろいろな意味で難しいわけである。

それぞれの演技プランがぶつかり合う。

髪型で表現するもの、体重変化で表現するもの、メイクで表現するもの、セリフ回しで表現するもの。

それだけですでにかなり面白いわけである。

年齢不詳なのであえて・・・何もしないようなアクターもいたりする。

しかし・・・ラスト・シーンで見せる・・・共犯者たちの凄みのある微笑み・・・。

突然、焦点をあわせてくるような演出のコーディネイトもなかなかに見事だな。

それだけでこれはもう傑作に違いない。

で、『Nのために・第7回』(TBSテレビ20141128PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・山本剛義を見た。複雑に見える時空間のシャッフルだが・・・基本的には現在と過去の転換である。複雑に見えるのは過去が2004年12月という中間点に向かってゆっくりと近づいてくる点だろう。16年前に十代で高校二年生の少女だった主人公は・・・10年前の2004年11月には二十代の若者である大学四年生になっている。そして現在は三十代の大人なのだ。空白の十年が描かれるのかどうかは不明だが・・・とにかく中間点は目前である。人は間違いを犯す。それは愚かさのもたらす結果である。しかし・・・この物語は賢い選択など・・・実はないのではないかという恐怖を匂わせている。定められた運命はどんなにあがいても変えられない。愚かな結果は最初から決められている。だから・・・愚かな人間は哀愁を漂わせる。どうしようもないからである。

【2014年(現在)】高野(三浦友和)は突然、辞職した杉下希美(榮倉奈々)の自宅を訪問する。高野は西崎真人(小出恵介)の出所との関連を疑う。しかし・・・希美に「ガンを発症し、余命一年である」と告げられ・・・牙を抜かれた獣と化すのだった。

「2004年のクリスマスイブに・・・スカイローズガーデンで起こった事件で私の知っていることをすべてお話します。あの日・・・私は野口貴弘(徳井義実)さんに将棋を指南するために・・・部屋を訪ねました。書斎に置かれた盤上の対局は安藤望(賀来賢人)の有利な展開で止まっています。私の役目は逆転の戦略を伝授することでした。安藤に将棋を教えたのは私ですから・・・ある程度の手筋は読めます。そうやって私は野口氏に勝利をもたらしてきたのです。しかし、その日、私にはちょっとした悪戯心が芽生えました。たまには安藤に勝たせてやりたいと思ったのです。あの時、素直に必勝の手筋を伝えていれば・・・私はあの場所にいなかった。もしかしたら・・・あのような悲劇は起こらなかったのかもしれません。私があえて考え込んだために・・・安藤は到着してしまいました。野口氏は安藤をラウンジで待たせ・・・私になんとか勝ち筋を見つけるように命じて・・・席を外したのです。それからしばらく時がすぎ・・・物音に気付いた私は・・・リビングルームに様子を見に行きました。すると・・・野口氏と野口夫人の奈央子(小西真奈美)さんが倒れ・・・燭台を持った西崎さんが立ちすくんでるのが目に入ったのです」

「しかし・・・火を恐れていた西崎は・・・燭台を凶器に選ぶとは思えないのだが・・・」

「西崎さんが・・・何をしたのかは・・・分りません。私が見たのはそういう光景だったのです」

「・・・」

高野が部屋を去ると・・・希美は指輪を取り出す。

安藤から渡された指輪。

「君と結婚したい」

「付き合ってもいないのに・・・」

「でも・・・ずっと君を思っていた」

「十年の間・・・他に付き合った人だっていたでしょう」

「でも・・・結婚したいとは思わなかった」

「私も・・・今は誰とも結婚するつもりはないの」

指輪を返そうとする希美を止める安藤。

「持っていてくれ・・・今はその気がなくても・・・いつか気が変わるかもしれないだろう・・・三年後・・・五年後のことなんか誰にもわからないじゃないか」

それ以上・・・指輪を拒絶することはできなかった。

しかし・・・余命宣告が事実なら・・・希美には三年後も五年後も・・・ないのである。

だが・・・希美はそのことを安藤には伝えない。

希美は安藤の報われぬ恋心を思うのか一人泣く・・・。

帰宅した高野は憎しみの対象を見失い、茫然自失となった。

もの言わぬ妻・夏恵(原日出子)は夫の顔色を窺う。

(散歩でもしませんか・・・)

「一度・・・島に帰ってみようか・・・」

高野はわだかまりの原点を再確認する必要に迫られた・・・。

【2004年・12月】クリスマスで賑わう東京。高層タワーマンション・スカイローズガーデン48階の野口氏の部屋の玄関の外付けのチェーンをロックしたのは安藤だった。野口氏に暴行された西崎はドアを開けて逃れようとしたが果たせなかった。そして・・・誰かが燭台で野口氏を背後から殴打する。昏倒する野口氏・・・。希美の黄色い衣服は赤く染められている。そして・・・西崎は指紋を残さぬように凶器の刃物を倒れた野口氏に握らせる・・・。

【2004年・秋】希美と安藤は野口氏から野口夫人の病状を聞かされる。

「流産して・・・精神失調になってしまったのだ・・・時々、徘徊するので・・・安全を考えて私が留守の間は・・・幽閉するしかないのさ」

二人になった安藤は希美にささやかな疑念を漏らす。

「奈央子さんが・・・不倫しているという噂があるんだ」

「そんな・・・奈央子さんがそんなことをするはずがないよ」

希美にとって野口夫妻は「幸福」の象徴である。

それが汚されることは希美の心を激しく揺さぶる。

就職活動中の希美は建設会社からの内定の報せを受け・・・前途が開けた喜びを感じる。西崎に報告に行った希美は・・・思いつめた表情の隣人に驚くのだった。

「奈央子となんとか・・・連絡をとりたいんだ・・・」

「奈央子・・・」

希美は・・・西崎と野口夫人のただならぬ関係を察知して動揺する。

「まさか・・・奈央子さんの不倫相手って・・・」

「奈央子は・・・夫からの暴力で苦しんでいる・・・」

「野口さんが・・・暴力なんて」

「俺は奈央子を助けたい」

「おかしいよ・・・奈央子さん・・・監禁されているんだよ・・・それも西崎さんのせいかもしれないのに」

「奈央子と連絡がとりたいんだ」

「夫婦のことなんか・・・外からはわからない・・・愛しあっているように見えても冷え切っているかもしれない。暴力をふるわれてよろこぶ人もいる・・・そんなことに関わりたくないの」

「君だって・・・奈央子のことを好きだったじゃないか」

「あの人は・・・見境のない人・・・断りもなくドレッサーを送ってきたり・・・まして不倫なんてするなんて・・・そういう人が私はこわいの」

不倫は心ない父親を・・・ドレッサーは不敵な愛人と不甲斐ない母親を希美に想起させる。

台所に立った希美は無意識でコンロに着火する。

燃えあがる青い炎。

パニックに陥る西崎・・・。

心に傷を持つ二人の男と女は・・・見つめ合う。

希美は火を加減する。

「ごめんなさい・・・」

「・・・」

同級生が結婚し・・・希美は故郷に帰る。

島へ渡る連絡船の中で希美はついに成瀬慎司(窪田正孝)と再会する。

言葉が心にあふれ・・・言葉を失う二人。

一体・・・なぜ・・・妻は火の中に飛び込んだのか。

一体・・・慎司と希美は何を隠しているのか。

鬱屈した思いに苛まれる高野は船着き場で二人の到着を張り込む。

「結婚式か・・・」

「はい」

「二人で来たのか・・・」

「たまたま・・・船が一緒になったんです・・・」

「・・・」

「じゃ・・・私、先に行きます」

二人のかけがえのない時間を壊したことに・・・高野は気付かないフリをする。

「元気やったか」

「あの時は・・・ありがとうございました」

「いや・・・」

感謝してるなら・・・本当のことを教えてくれという言葉を高野は飲み込む。

高野は苛立ちを膨らませながら声を失った妻の元へと帰る。

希美と慎司は結婚式で合流する。

「大学やめて・・・レストランで働きおるんやて」

希美の耳に「シャルティエ・広田」という店の名前が届く。

「その店・・・有名」

「え・・・そうなん」

友人はさりげなく慎司の隣席を希美のためにあける。

同級生たちは・・・二人の仲をそれとなく知っている。

高野が・・・二人の仲を疑うのは当然なのである。

「どうして・・・シャルティエのこと・・・」

「私の知り合いが・・・その店でプロポーズされたって言ってたんよ」

「へえ」

「泣いてしまったら・・・店の人がカバーしてくれて・・・うれしかったと言っていた」

「うちの店は・・・そういうお客さんを大切にする店なんよ」

「うちの店か・・・その言葉・・・久しぶりに聞いた・・・成瀬くん・・・変わらんね」

逢えなかった時間に起きたことを束の間・・・忘れる二人。

希美は慎司を三次会に誘う。

慎司は希美を二人きりになれる桜花亭に誘う。

二人が高校生時代にデートした亭である。

二人は自動販売機のドリンクで祝杯をあげる。

「大学に入ってから・・・どうしとったん?」

「杉下が奨学金譲ってくれたのに・・・大学やめて・・・ごめん」

「・・・」

「親父が急に死んで・・・何もかもがどうでもよくなって・・・詐欺師みたいなことまでやって・・・でも・・・親父みたいな料理人になりたくて・・・修行できる店を探して・・・」

「私・・・譲ってなんかないよ」

「え」

「奨学金を捜していて・・・村瀬くんの成績なら受けられると思って・・・私の親は・・・大学のお金は出してくれるって言ったから・・・」

希美は嘘をつく。

「でも・・・あんなことがあったから・・・励ましてくれたじゃないか」

「私・・・なんていった」

希美が慎司に囁いた言葉はあくまで秘められる。

「俺なんて・・・大したことないのになんで・・・と思ったけど・・・ずっと励みになった」

「私、譲ったつもりなんてない・・・だから・・・シャーペンでよかったねって合図したでしょう」

「よかったね?」

「そう・・・よかったね」

「俺・・・馬鹿野郎かと思ってた」

「えーっ、なんでーっ」

「よかったねだったのか・・・希美はもう就職決まったの?」

「決まったよ」

「野望は何か叶ったの」

「野望か・・・宝くじは当たった?」

「当たった・・・五百円・・・」

「安い・・・」

「富豪とは出会った?」

「油田は賭けなかったけど・・・将棋は役に立ったよ」

「本当?」

二人は失った時間を取り戻すようにはしゃぐ。

その頃・・・安藤は内定祝いのワインを持って希美を訪ねていた。

西崎はそんな安藤を言葉責めにする。

「島に帰ったよ・・・妙にうれしそうだったな・・・服を新調してじいさんに見せてた・・・誰か逢いたい人でもいるんじゃないか・・・」

西崎は野口夫人からメールを受け取っていた。

(話したい・・・不安なの)

西崎の表情からは火にあぶられている焦燥感は窺えない。

西崎はそういう男なのだ。

灼熱バードはいつも地獄の業火に焼かれているから。

ただ・・・天国と地獄を思わせる高層タワーマンション・スカイローズガーデン48階を下界の野バラ荘の窓から見上げるばかり・・・。

島から戻った希美は土産を持って野口家を訪ねる。

しかし、高級マンションのフロントマンは慇懃無礼に・・・野口氏の許可のない訪問者の入室は拒絶するのだった。

希美は「秘密」の匂いを嗅ぐのだった・・・。

野バラ荘に戻った希美は西崎に居酒屋「串若丸」へと呼びだされる。

希美は焼き鳥が好きなんだなあ・・・。

焼き鳥が好きな女子大生なのに学費は愛人の前で父親に土下座して捻出し、放火犯人の疑いのかかる同級生を庇って偽証し、富豪の夫人のエアを止める。こんな女に誰がした・・なのだった。

その開きかけた前途にのしかかる・・・西崎と野口夫人の心の闇・・・。

「野口さんちにもお土産持って行ったけど・・・奈央子さんには会えなかったよ」

「そうか・・・」

西崎は文芸誌を取り出した。

新人賞の第一次予選通過者に「貝殻/西崎真人」が記されている。

「うわあ・・・すごい・・・」

「俺は・・・奈央子のために・・・これを書いた」

「・・・」

「島はどうだった・・・」

「・・・」

「彼には会えたのか」

「元気だった・・・島から出てからいろいろあったけど・・・島から出られてよかったねとお互いを讃えあいました・・・彼は・・・野口夫妻が利用しているレストランで働いています・・・出張給仕とかもしてるみたい・・・」

「それを利用して・・・奈央子に接触できないかな」

「やめて・・・彼を巻き込まないで・・・」

「彼とまた会う約束はしたのか・・・」

「アパートがぼろいと言ったら・・・どんだけぼろいか見に来るって・・・」

「そうか・・・」

「とにかく・・・変なことには付き合わないわよ」

「・・・」

「西崎さんも・・・彼女のことは忘れて・・・」

「僕の母親は・・・火事で死んだ・・・」

「え」

「助けようと思えば助けられたが・・・僕は助けなかった」

「・・・」

「今度は助けたい」

西崎と希美は恐ろしい炎で結ばれていたのだった。

【2004年・11月下旬】慎司は・・・お土産として店のスイーツを選ぶ。

「彼女か・・・」

「そんなんじゃないですよ」

店の人間のひやかしに微笑む慎司。

希美を訪ねて来た見知らぬ若い男を胡乱気な視線で見つめる「野バラ荘」を愛する大家・野原兼文(織本順吉)・・・。別に恋のライバル登場を警戒しているわけではない。ここは鎌倉ではないからだ。就職祝いに希美の頭を叩くのはスイーツな雑誌仕込みの恋愛テクニックではないのです。だから・・・誰もそんなこと思わんわっ。しかし・・・このままでは心を完全に奪われてしまいそうでこわいのです。

しかし・・・希美が嬉しそうに慎司を迎えるのを見て野原は安堵したようだ。

希美は「シャルティエ・広田」のスイーツに目を細める。

「食べるのがもったいないね」

幼馴染の二人にはつもる話が山ほどあるわけだが・・・その語らいの時を阻止する西崎だった。

「やあ・・・いらっしゃい・・・君の話はよく聞いているよ」

「はあ」

「西崎さん・・・勝手に入ってこないで・・・ごめんね・・・隣の住人なの」

「ああ」

「君は何のために・・・働いている」

「え・・・自分のためですけど・・・」

「もしも・・・今にも崩れ落ちそうな吊り橋の上で・・・杉下が助けを呼んでいたら・・・君はどうする」

「そりゃ・・・助けに行きますけど・・・」

「俺も・・・助けたいんだ・・・ラプンツェルを・・・」

「ラプンツェル・・・」

「グリム童話で魔女が塔に閉じ込めた金髪美少女よ・・・スーパーマリオブラザーズのピーチ姫みたいなもの」

「ああ・・・この人・・・演劇関係の人・・・?」

「小説家なの・・・」

「へえ」

「そこで・・・君にぜひ頼みたいことがある」

「やめてください」

そこへ・・・安藤からの着信がある。

「今度・・・野口さんの家へ二人で行かないか・・・」

「ごめん・・・いま・・・来客中なの・・・後でかけ直すから」

「え」

「塔に閉じ込められた奈央子を救出する・・・俺はこれをN作戦2と名付ける」

「・・・」

唖然とする・・・西崎以外の人々だった。

【2014年(現在)】高野夫妻は青景島を訪れていた。

料亭「さざなみ」の跡地に建てられたパチンコ屋もつぶれたらしい・・・希美の両親や愛人がその後どうなったのかは不明である。

成瀬周平(モロ師岡)の墓参に出向いた二人は・・・墓前に佇む慎司と邂逅する。

幸福から見放されたような三人は息を飲む・・・。

その頃・・・野バラ荘の西崎の部屋の呼鈴を鳴らす希美。

出迎えた西崎と秘密を共有する犯罪者の視線で見つめ合う二人。

西崎がニヤリとした。

希美もニヤリとした。

【2004年・12月24日】床に倒れた野口夫妻。泣きじゃくる血まみれの希美・・・。

西崎は布で凶器を掴み・・・野口氏の手に握らせる・・・。

福岡ソフトバンクホークスの誕生が承認され・・・二日後にはスマトラ沖地震が発生し・・・二十二万人の命が失われる・・・。

西崎と希美が共犯者となった夜の始り・・・。

ああ・・・なんて・・・愚かな・・・

救いを求め満たされたくて許されるなら・・・

なんて・・・愚かな・・・なんて・・・愚かな・・・

ああ・・・なんて・・・愚かな・・・

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のNのために

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