余命一日の人体模型と私(桐谷美玲)
21世紀初頭に学力の標準を低位させる教育的試行錯誤が行われた。
人間力の養成という不可解な目標を掲げた教育方針の混迷は結果として全体的学力の低下の傾向を示す。
日本における経済的停滞とあわせ、「向上心」を「悪」とする傾向は「一位でないとダメなんですか」という言葉に集約される。
まあ、一位を目指さない人間は二位にも三位にも最下位にすらなれないからな。
この学力の向上の停滞と少子化という全体数の減少により21世紀初頭に教育期間を迎えたものに「ゆとり世代」が冠される。
切磋琢磨しないために競争力が乏しく、全体が縮小しているために頂上も低い。
そこから生じる「なんとなくバカ」なイメージが「ゆとり世代」に与えられると・・・当然のことながら・・・「ゆとり」でも優秀な人間に反発が生じ、「ゆとり」は「差別的言動」という批判が生じる。
そこで生み出されたのが「さとり世代」である。
新しく生じた「素晴らしいインターネットの世界」に最初から順応した「仮想」と「現実」の狭間に棲む彼らには流血と根性のフィギュア・スケーター羽生結弦も含まれる。
で、『地獄先生ぬ〜べ〜・第5回』(日本テレビ20141108PM9~)原作・真倉翔・岡野剛、脚本・佐藤友治、演出・佐久間紀佳を見た。「学校の怪談」あるいは「学校の七不思議」において真夜中に歩きだす人体模型は定番の一つである。人体模型は内蔵剥き出しのグロテスクさでゾンビ的要素が造形に含まれている凄いアイテムだと思う。映画「学校の階段3」(1997年)では野田秀樹的な人体模型が大活躍である。人体模型をこよなく愛するヒロインのドラマ「ヤマトナデシコ七変化♥」(2010年)などというものもあり、人気の高さが偲ばれる。
「頑張ったりするのはなんだか性に合わないし、なんとなく生きていければいいので将来の目標は特になし」という童守高校 2年III組の生徒・山口晶(清水一希)が進路希望を空欄のまま提出するので困惑する担任教師のぬ~べ~こと鵺野鳴介(丸山隆平)である。
妖狐である玉藻京介(速水もこみち)に相談すると・・・「いわゆるひとつのさとり系ですね」と言われ、思わず自宅に居候している妖怪サトリ(矢部太郎)を連想するぬ~べ~だった。
「素晴らしいインターネットの情報によって世界を熟知した気分にひたる・・・夢見がちな若者のことですよ・・・そういう人間は私が生まれた江戸時代からいます」
「夢を見るのはいいことじゃないですか」
「現実で夢を見るのと・・・現実を夢と見なすのは違いますよ」
「玉藻先生の夢は何ですか」
「私の夢・・・目標というなら・・・この世の支配者となり、人間を恐怖のどん底にたたき落とすことです」
「それはちょっと・・・」
熱血を秘めた高橋律子先生(桐谷美玲)は「妖怪現象はすべてプラズマで説明できる」という意味不明な主張で実験を続ける。偏差値の低い童守高校において成績上位の山口晶に進学を勧めるが、晶は目標を定めてそれに向う行為がなんとなく恐ろしいのだった。
「人体模型・・・君はいいよな・・・いつもありのままで」
「じゃあ・・・変わるかい」
「え」
童守高校の理科準備室の人体模型はもののけ化していたのである。
人体模型に生じた魂は晶に憑依して・・・人格を支配するのだった。
「やった・・・僕は人間になれたぞ」
どこか・・・知的障害者風の人体模型の晶は獲得した自由を謳歌する。
世界最高の霊能力者となり大金をせしめるのが目標のイタコ見習い・葉月いずな(山本美月)は童守寺和尚(マキタスポーツ)の大太鼓伴奏で人体模型の晶と微妙なダンスバトルを展開する。
勢いのついたいずなはぬ~べ~の下宿を尋ね、押し掛け女房的雪女のゆきめ(知英)たち居候の妖怪たちと意気投合し、妖怪サーカス計画の夢想にひたるのだった。
妖怪サーカスは子供にしかみえないサーカスの心あたたまるメルヘンだが・・・ここではこれで通過かな。
なにしろ・・・児童ではなく生徒が相手のドラマになっているものですから。
翌日、学校に現れた人体模型の晶の・・・豹変ぶりに驚くクラスメイトたち。
「わーい、今日もがんばって勉強するぞ」
「え」
霊能力で人体模型の晶の正体を見破り、強制成仏にかかるぬ~べ~に玉藻先生が疑問を投げかける。
「人間のために・・・妖怪の魂を滅する・・・それが・・・本当に正義と言えるのか」
「・・・」
「晶の魂は一日くらいなら・・・消滅することはないだろう・・・一日、執行猶予を与えてやったらどうだ」
はつらつとした人体模型の晶に絆されて・・・強制成仏を思いとどまるぬ~べ~だった。
事情を聞いたクラスメイトたちは一日留学生として人体模型の晶と接することで合意する。
栗田まこと(知念侑李)は「人体模型だから・・・ジンタと呼ぼう」と提案、人体模型の晶はジンタとなるのだった。
ジンタでいいや・・・とクラスメイトに納得される晶・・・存在感ゼロだったのか。
授業を受け、サッカーに興じるジンタは・・・ある意味で・・・人間初心者であり・・・生徒たちは物珍しさも手伝って和気藹々である。
ジンタが妖怪とは知らずに・・・律子先生は生徒を励ます「夢がかなうお守り」をプレゼントするのだった。
実は・・・ジンタはいつも人体模型を優しく磨いてくれる律子先生に恋をしていたので歓喜するのだった。
そして・・・ジンタにとって夢の時間はあっというまに過ぎ・・・別れの時がやってきた。
「楽しかったよ」
「これでお別れなんて残念だ」
「ジンタ、さようなら」
クラスメイトの優しい言葉に感激するジンタ。
「このまま、お別れなんていやだ・・・このまま、人間でいたい」
「じや・・・晶はどうなるの」
「これ以上、憑依されたままでいると人間の晶の魂は消えてしまうかもしれない」
「それはひどい・・・ジンタ、晶を戻してくれ」
「なんだ・・・晶よりジンタがいいって言ったのは嘘だったのか」
教室から逃げ出すジンタだった。
「ぬ~べ~・・・晶を助けて」
やはり・・・妖怪より人間を愛する人間たちである。
律子先生に救いを求めるジンタ。
しかし、その姿は人体模型化し始める。
「律子先生・・・僕の夢はかないました。律子先生、僕はあなたが大好きです」
愛を囁きながら迫ってくる人体模型に・・・お化け嫌いの律子先生は気絶するのだった。
「律子先生・・・」
「ジンタ・・・すまない」
鬼の手を発現させ晶の身体からジンタの魂を抽出したぬ~べ~は強制成仏を実施する。
ジンタはこの世から消滅した。
「ジンタはどうなるの・・・」
「きっと・・・人間に生まれかわるよ・・・あんなに人間になりたがっていたんだから・・・」
「律子先生が気絶していてよかった」
しかし・・・途中から目覚めていた律子先生は・・・すべてを知ってしまうのだった。
晶にはジンタの遺言が残されていた。
「きみのからだをかりて人間になれてうれしかった・・・きみが人間として・・・もっともっと楽しいと・・・いいなとおもいます」
晶は・・・ジンタの喜びと悲しみを傍観していた。
そして・・・ただ生きていることの本当の意味を知ったのだった。
「ぬ~べ~・・・ボクは・・・ジンタの分まで人生を楽しむことにしたよ」
「そうか・・・」
「なんとなく生きていたらなんとなくしか楽しくない・・・もっと凄く楽しいことを捜す」
「ありがとう・・・晶」
「なんで・・・ぬ~べ~が感謝するんだい」
「俺は・・・そういう男だからさ」
そんなぬ~べ~を追いかける律子先生。
「私・・・本当のことを知ってしまいました」
「え」
「それとは別に・・・気がついたことがあります」
なぜか熱くぬ~べ~を見つめる律子先生。
そんな二人を嫉妬に燃えた眼差しでゆきめは見た。
何かを得ると言うことは何かを失うということなんだな。
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