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2014年12月30日 (火)

美しき死に至る闘争~あしたのジョー(山下智久)

二十世紀の不朽の名作といえる「あしたのジョー」・・・。

二十一世紀に不死鳥のように蘇る・・・。

劇画、アニメ、実写映画と様々な先行系がある以上・・・それぞれに派生した妄想空間があるわけだが・・・山下智久の演じる矢吹丈は文句なく・・・ジョーである。

もちろん・・・伊勢谷友介の力石徹、香川照之の丹下段平、香里奈の白木葉子も素晴らしい。

そういうキャストに支えられて・・・映画「あしたのジョー」はあの日を思い出させる。

もはや戦後ではないと呼ばれながら・・・どうしようもなく敗戦の傷跡を残していた高度成長時代と・・・その終焉の日々を・・・。

白人種と有色人種のどちらにも赤い血が流れていることを証明し続けた時代。

占領と隷属と友好の混沌を・・・。

で、『あしたのジョー(2011年劇場公開作品)』(TBSテレビ20141228PM9~)原作・ちばてつや/高森朝雄(梶原一騎)、脚本・篠崎絵里子、監督・曽利文彦を見た。原作劇画の連載開始は昭和四十二年(1967年)である。それは戦後22年目にあたる。主人公の矢吹丈(山下智久)は不良少年であるために戦後の生まれだが・・・終戦直後のどさくさに生まれたわけであり・・・基本的には戦災孤児の影を宿している。浮浪児として育ち・・・無法地帯を生きてきた少年なのである。当然のことながら・・・世界を憎悪しているのだ。

ジョーという名前そのものに混血児の匂いさえ感じる。

父は米兵、母はパンパンだったのかもしれない。

ジョーのボクサーとしての天性の素質を見出す丹下段平(香川照之)は戦後のドサクサの中で失速した元ボクサーである。家族もなく・・・その父性をもてあましている。なにしろ、敗戦国民なのである。教育者として語る言葉などないのだ。しかし・・・ボクサーである以上、拳で語ることはできる。言葉狩りによって失われた仇名・・・拳闘気違いのケンキチは・・・ボクシングの前の人間平等の象徴なのである。

もちろん・・・野生児であるジョーは・・・段平の言葉には耳を貸さない。

ジョーを導くのは・・・ジョーよりも先に「ボクシング」に目覚めた力石徹(伊勢谷友介)である。力石もまた天涯孤独である。しかし・・・すでに天才ボクサーとしての栄光に包まれており・・・二人が「少年院」(映画では刑務所)で出会うのは・・・神秘的な運命によるものである。

なにしろ・・・力石の名はパワー・ストーンという妖しいものなのである。

名前で言えば・・・力石が生死の境を彷徨うのは虚構だと考えられる。

力石の恋人である白木葉子(香里奈)の名前がそれを物語る。白木の箱といえば死者の収納容器に決まっている。力石は生きながら白木の箱に抱かれていたのである。

財閥令嬢という妖しい存在も不思議だ。ボクシングジムを経営する財閥そのものが怪しい。

白木幹之介(津川雅彦)はまさに戦後のドサクサで成りあがった新興財閥の趣きがある。

だから・・・ヨーコには清楚なお嬢様と・・・妖艶な娼婦の匂いが交錯する。

年齢を問わなければ・・・その配役には・・・①壇ふみ、②松下奈緒、③北川景子、④宮崎あおい、⑤堀北真希、⑥武井咲、⑦綾瀬はるか、⑧仲間由紀恵、⑨戸田恵梨香、⑩長澤まさみなど・・・様々な女優が浮かぶが・・・共演歴なども考えて香里奈というのは申し分ないのだな。

力石が逝った後は・・・白木の箱の呪いは矢吹丈にかかってくるのだ。

サンドバックに 浮かんで消える

憎い あんちくしょうの

顔めがけ たたけ!

たたけ! たたけ!

敗戦国民として蔑まれて育った人々は・・・世界からの差別に耐えぬくしかない。

その格差は恐ろしいものだったのである。

現在の国内における貧富の差など・・・それに比べればどうってことのないレベルである。

実際は当時から暗渠になっている泪橋の荒川区側は犯罪者である日本国民の世界・・・台東区側が全世界なのだ。

日本国民は泪橋を逆に渡り・・・「戦後ではない世界」を目指す夢の中にある。

台東区に行けば飴屋だかアメリカ屋だかよくわからないアメ横やアメ横女学園が待っているのだから。

丈は・・・白いリングにあがれば・・・連合軍の物量作戦に飲み込まれる帝国陸海軍の悪夢は解け・・・一対一の平等な勝負があることを・・・力石から拳で伝えられる。

力石もまた・・・世界で唯一の同族と出会い・・・人と人として拳で語りあうこと以外には考えられなくなるのである。

しかし・・・階級差別という現実的なルールのために・・・二匹の獣は・・・不自由なデートを強いられるのだった。

力石は本来はウェルター級(66キログラム)、出所後はフェザー級(57キログラム)の壁を越え・・・丈のいるバンタム級(53キログラム)まで過酷な減量を重ねる。

一方、丈は・・・必殺のクロスカウンターに磨きをかけるために・・・ノーガード戦法という無謀な作戦を展開する。勝利を重ね、力石への挑戦の狼煙をあげるのだ。

まさに・・・愛し合う二人なのである。

愛し合うためには命を賭けるしかない二人・・・。

そして・・・若く情熱的なジョーは・・・恋人が無理に無理を重ねていることを・・・気が付きながら喜びに変えるタイプなのだった。

行け荒野を 俺らボクサー

夕陽が ギラギラ 男の夢は

親無し宿無しの名もないボクサーは

鎖をかみ切った!

星飛雄馬の姉が電信柱の影から見守ったように・・・白木葉子も・・・男たちの闘争をリングの下で見上げるしかないのである。

そして・・・炸裂する・・・戦いが好きで好きでたまらない男と男の愛の世界。

そういう宿命を封印することでしか・・・平和な世界など構築できないのである。

きのうはぐれた 狼が

きょうはマットで血を流し

あしたをめざして立ちあがる

立たなきゃ きのうに逆戻り

減量苦にあえぐ力石だったが・・・その実力は丈を大きく上回る。

正攻法で挑むが圧倒されリングをのたうちまわる丈。

「立て・・・立つんだ・・・ジョー」

しかし・・・丈の一撃が・・・力石を転倒させ・・・後頭部に致命的な傷を負わせるロープがヒットする。

死に向かいながら丈に対峙する力石は・・・。

トリプルクロスカウンターを狙う丈を必殺のアッパーカットでリングに沈める。

丈は敗北を認めるという幸福に満たされる。

だが・・・勝者である力石はすでに死んでいたのだった。

物語は・・・唯一の友を失った丈と・・・恋人を失った葉子との複雑な愛の軌跡を描きつつ・・・丈が真っ白に燃え尽きるまで続く。

しかし・・・それはまだ先の話。

丈と力石の死闘が描かれれば・・・「あしたのジョー」は充分なのである。

だから・・・この映画は素晴らしいのである。

世界なんて滅びたっていい。

二人がリングで時を分かち合えれば・・・。

関連するキッドのブログ→なぜ少女は記憶を失わなければならなかったのか?~心の科学者・成海朔の挑戦~

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コメント

キッドさん、こんにちは

年末の挨拶も済ませてしまったのに、
たびたびお邪魔します(^。^;)

いつもキッドさんの視点には、
なるほどなあ、と唸らされます。
企画では、現代に移す案もあったようですが、
やはりあの時代でなければならなかったのですね。
(余談ですが、映画版も設定上では少年院です(^_^;)
見えなくても…伊勢谷さん本人もツッコんでいましたが)

ジョー、力石、白木さんの名前は、確かにそうですね。
映画版オリジナル(テレビではカットされていましたが)の謎設定では、葉子さんがドヤ街出身なのですが、
やっと理由がわかった気がします。
お祖父様、怪し過ぎますよねー

香川さんも、上映当時のインタビューで、
孤独な段平が孤児のジョーと会う話と仰っていましたが、
更に踏み込んだレビューで読み応えがありました。
ありがとうございます。
寺山修司さんの歌詞も心に染みます。

映画上映があった2011年は、東日本大震災があって、
映画上映自体が中止になった映画館もあり、
先が見えない不安にかられたものですが、
こうしてテレビで無事に見られるようになったんだ、と
思うと感慨深いものがありますわ。

寒い日が続きますが、
御身お大事に、良いお年をお迎えくださいませ

投稿: mi-nuts | 2014年12月30日 (火) 16時59分

✭クイーン・オブ・ザ・ランチ✭mi-nuts様、いらっしゃいませ✭親切百回接吻一回✭

ふふふ・・・ジョーにも力石にも少年の面影がありますが
セリフに「丈には前科がある」があるので
妄想上は刑務所設定にいたしました。

少年院では「前科」がつきませんので
刑務所を出所後に少年院に入ることは
考えにくいのでございます。

まあ・・・あくまで妄想レビューなので
お許しくだされませ・・・。

ちなみに少年法は昭和23年に成立しています。

時代というものはいつも同じという考え方もありますが
安易に現代に移せば
火傷は不可避だったと思います。

ジョーという存在を構築するだけでも
ものすごい時間を必要とするはずですし
そうまでしても
共感を得るキャラクター造形は難しいかも・・・。

監督が造形力があるタイプなので
昭和四十年代という虚構空間を視覚化した方が
無難だったと思われます。

現代の若者たちがどう捉えたかは
想像するしかないですが
キッドはかなりのダイジェストであるにもかかわらず
最初のダブルノックアウトで
もう涙が止まらない感じでした。

ジョー・・・よくやったと言うしかないですからねえ。

オンエア版では
白木葉子の謎設定が
見事にクリアになってましたねえ。
最初からとりはずしOKだったということですよね。

何人かの重要人物が映画には登場しませんが・・・
「あしたのジョー2」があれば
ぜひ追加してもらいたいですな。

どこまでも優しく
どこまでも平和的で
どこまでも穏やかさが尊ばれる時代・・・。

時にはパンチドランカーのように
黙って海を見つめていたい・・・。

それは感傷主義ですが・・・。
暮れも押し迫る中・・・
テレビで見る映画としては
最高でございました・・・。

市場で買ってきたおせち料理を
もはや半分くらい食べてしまった今日この頃・・・。
食べすぎにご注意ください・・・お前だろう・・・

投稿: キッド | 2014年12月31日 (水) 01時04分

キッドさん こんにちは
今年も残すところあと1日になりましたね!
私的には冬は明日ママいじめ?に憤慨し 春は数多くのエンタメ作品を見倒し 夏は不倫ものにうんざりして 秋はクドカンをはじめ充実していたな~という感じです。
連日のハードレビューお疲れさまでした。
キッドさんのブログ休止中に公開された あしたのジョーが思いがけず約4年の月日を経てテレビオンエアされ
レビューまで書いていただき ちょっと寂しい年末にご褒美をもらった気分です。
尺の関係で思った以上にカットされ 原作を知っている人しかとお楽しめなかったんじゃないかという気もしますが
葉子さんのドヤ街出身にしなくても十分ストーリーは成立していたなと しみっじみと思わせるテレビ放送でした。若い女性を意識しての原作改変だったのかもしれませんが 代わりにジョーが子どもたちと楽しくすごしているシーンをいれてくれたほうがよかったんじゃないかな なんて思っちゃいました。
映画のさわりで 溶炉が出て泪橋とジョーのテーマ曲が流れるところが 映像として特に気に入ってます

キッドさんが休止中のコメ返を先日 読み返していましたが こうやって毎日更新してくれることの
ありがたさを改めて感じました。

良いお年をお迎えくださいませ。

投稿: chiru | 2014年12月31日 (水) 11時44分

シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン

紅白も終わり、ゆく年くる年、今はTBSテレビでライブの時間。

あけましておめでとうございます。

一年はあっという間でございますねえ。
2014年もなんだかんだと
素晴らしい作品がいくつもありましたな。

「ウシジマくん」「なぞの転校生」
「サイレントプア」「死神くん」
「HERO」「アオイホノオ」
「Nのために」「ごめんね青春!」

それぞれの季節で二本も記憶に残るドラマがあるのは
凄いですな。

それぞれにスタッフとキャストが精魂込めて
とりくんだ結果・・・。
涙と汗の結晶でございますからねえ。

他にも素晴らしい作品はありましたけれどね。

「あしたのジョー」はテレビサイズの
これが・・・結構・・・いい感じではないかと思ったりもします。

もちろん・・・大河ドラマのような感じで
連続ドラマを作ってもらいたい気もしますが・・・
まあ・・・無理ですしね。

脚色というのは・・・よほどのことがない限り
原作を越えられないんですよね。
なぜ白木葉子が・・・高貴でなければならないのか
そういう必然性が理解できないのが
若さというものですからねえ。

そもそも・・・原作からして
原作者と漫画家が・・・魂のぶつかりあいをして
生み出したものですからねえ。

そこで繰り広げられるドラマは・・・
ある意味、現実と同じで・・・
ちょっとした思いつきが入る余地はないものなのですな。

テレビサイズの編集はそこのところが
ものすごくわかっていた感じでございました。

実際にはない泪橋・・・
そして橋の下のジム・・・
しかし・・・その周辺には
ドヤ街があり
南千住のあかずの踏み切りがあり
はるか彼方にはお化け煙突が煙を吐く・・・。

鼻水でガビガビになった袖を持つ
少年少女たちが
元気に走り回る・・・。
そんな幻想の昭和が一瞬過ぎ去っていくのが
よかったですねえ。

今年がchiru様にとって素晴らしい一年でありますように。
そして・・・キッドは頑張って日々の更新を続けて参りたいと考えます。


投稿: キッド | 2015年1月 1日 (木) 01時35分

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