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2014年12月 6日 (土)

目蓋のシャッターを閉じた時、暗闇が視える(榮倉奈々)

伏線は時限爆弾や地雷のようなものである。

前提として受け手には記憶力が要求される。

作り手は・・・それが爆発した時のショックを期待するものであるが・・・スルーされる場合もある。

どちらかと言えば・・・複雑なストーリーを求める人は伏線が効くとやられた感じがするのである。

最近では「フラグ」という要素があって例の「戦争前に結婚式の話をしたら死亡」のような「お約束のギャグ」にまで発展してしまった悲しい伏線もあるが・・・。

このドラマは伏線もそれなりに美しい。

「うちの家系の男はみんな短命や五十まで生きたやつはおらん・・・親父は四十八、 じいさんは四十三で死んだ・・・五十まで俺も残りあと三年・・・今まであくせく働いてきた分・・・残りの三年、好きに生きたってええやろ」

ドラマの冒頭で・・・破天荒な行動に出た主人公の父親は・・・捨てた家族に・・・心情を語る。

ここで・・・主人公は「病気でも見つかったのか」と聞く・・・。

父親はそれを否定する。

そして・・・時は流れ・・・主人公は遺伝的な流れの余命宣告を受けている。

伏線とは隠された筋書きである。

嘘の重ねられるこの物語・・・。

それも嘘ではないかと疑いもしたが・・・誰もいない夜の道で主人公が倒れた時・・・地雷が踏まれてしまったことを・・・せつなく思うのである。

で、『Nのために・第8回』(TBSテレビ20141205PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・阿南昭宏を見た。非常識な振る舞いをする人々を見て良識ある人々は眉を顰めて時に思う。「どうしてそんなことをするのか」と・・・。たとえば飲酒運転で幼い子供を轢死させる人の行為がある。その愚かな行為による悲しい結果に「何故」は渦巻く。他に選択の余地はなかったのかと。だが、運命というものがあるとすれば・・・それは避けられぬことなのである。酒を飲まずにはいられない。車を運転せずにはいられない。子供を轢かずにはいられない・・・飲酒メーカーが酒を作り、自動車メーカーが車を作り、人間が子供を作るのはよくあることなのだから。

これはそういう悲しい物語である。

【2004年・12月25日未明】

取調室で顔に打撃による腫れを示す西崎真人(小出恵介)は淡々と聴取に応じる。

「年齢は・・・ニ十五歳・・・職業は・・・作家。あの男を殴ったのは俺です。あの男のことをいい人だったとみんなは言うかもしれないが・・・あの旦那は・・・クソみたいな奴だ・・・あんな奴・・・死んでいいと思って殴った・・・それを殺意と言うならその通り。俺と奈央子の関係を杉下は知らない・・・俺がやったことを黙っていてくれって頼めるほどの仲じゃない。まして・・・口封じに殺すなんてことはできない。顔見知りに顔を見られたんじゃ・・・逃げたって無駄だろう。だから・・・杉下の同級生に・・・名前は覚えていないな・・・警察に通報してくれって頼んだ・・・奈央子がいないから・・・俺には失うものなんてもうない。奈央子のことを想いながら・・・刑に服するのも悪くないって思った。自分のしたことに・・・反省も後悔もしていない・・・今はそう思っている」

お茶の間は・・・その証言が・・・事実とは異なることをすでに知っている。

西崎が野口貴弘(徳井義実)を「クソ野郎」と思っていたのは本当かもしれない。

西崎にとって野口奈央子(小西真奈美)は「掛け替えのない女」だったのも間違いないかもしれない。

しかし、杉下希美(榮倉奈々)は西崎と奈央子の関係を知っていたし・・・杉下の同級生である成瀬慎司(窪田正孝)を事件に巻き込んだのは西崎本人なのである。

西崎は嘘と真実を絡めて・・・辻褄の合う「話」をしたのだった。

【2014年(現在)】高野(三浦友和)と妻の夏恵(原日出子)は青影島の墓地で・・・父親の墓前に佇む慎司と再会する。

「ずっと・・・捜しとったんよ」

「今・・・厨房で働いとる・・・」

夏恵は席を外した。

「さざなみの事件・・・来年時効じゃろう・・・俺はお前と希美ちゃんが関与している疑いをどうしても捨てきれん・・・」

「杉下は何もしとらんけん・・・火つけたのも俺やない」

「お前と・・・希美ちゃんが・・・人よりも苦労しているのを俺は知っとる・・・お前と希美ちゃんを疑ったって・・・何一ついいことはない・・・しかし・・・疑わずにはおられんのよ・・・」

「杉下・・・元気だったか」

「会っとらんの?」

高野は疑心暗鬼に満ちた眼差しで・・・希美の連絡先だけを慎司に伝える。

夏恵は・・・夫の顔色をそっと窺っていた。

お茶の間は高野が問いただす相手を間違えていることを知っている。

しかし・・・本当は高野もそのことに気がついているのかもしれない。

「お前も・・・希美ちゃんも・・・島を出て前向きに生きている・・・十四年間、自分に嘘をついているのは・・・俺だけなんか・・・」

遠く離れた野バラ荘では・・・希美と西崎が微笑み合っていた。

西崎の部屋で・・・希美は西崎から送られた大金を返す。

「どうして・・・私が病気だって知ったの」

「興信所を使って調べた」

「私・・・西崎さんに出会わなきゃよかったって思ったこと・・・一度もないよ」

「俺にできることは・・・ないのか」

「気持ちは・・・嬉しいけど」

「誰にも頼らないか・・・」

「そんなことはないよ・・・人は誰かに頼って誰かに頼られて生きていくんだって今はわかっとる・・・でも・・・病気のことは・・・人に頼ってどうなるわけでなし・・・」

「大丈夫か・・・」

「大丈夫・・・楽しいことたくさんあったから・・・」

「・・・」

「安藤の次は私がここを出ていくつもりだったのに・・・西崎さんが先にいなくなって・・・淋しかったよ」

「・・・」

「この前・・・安藤に結婚しようって言われた・・・」

「断ったんだろう・・・」

「うん」

「もったいないことをしたと・・・」

「心を読まないで・・・安藤には弱い私を見られたくない」

「あとで・・・知ったら・・・あいつは怒るぞ」

「その時は・・・西崎さんがなだめて・・・」

「・・・」

「火は・・・まだ・・・怖い?」

「いや・・・そっちは冷蔵庫に食べ物いっぱいか?」

「今は食べたいものだけ食べるようにしてる・・・食欲ないし・・・」

「・・・十年間、ありがとう」

「それは・・・私のセリフ・・・先に言うなんてずるい・・・」

心が通じ合う二人。

希美にとっての「N」が・・・慎司なのか・・・安藤なのか・・・それとも西崎なのかは不明である。

最後まで明かされないのかもしれない。

人が誰か一人を愛するというのも「嘘」の一種に過ぎないからな。

しかし・・・シーンによって・・・希美は慎司も安藤も西崎も愛しているように見える。

そういうことだって・・・あるだろうし。

【2004年・11月下旬】慎司は野バラ荘の希美の部屋で・・・闖入者の西崎の話を聞く。

もちろん・・・慎司の心は・・・希美を抱きたい気持ちでいっぱいなのである。

しかし・・・その心を知ってか知らずか・・・暴力亭主によって塔に閉じ込められた人妻を救出する「N作戦2」への協力を慎司に求める西崎だった。

「ご主人は本当に奥さんに暴力を・・・西崎さんの妄想じゃなくて・・・」

「君も・・・なかなかに無礼だな・・・しかし・・・本当のことだ」

「人妻を略奪するんですよね」

「そういう下種な言い方はしないでくれ」

「成瀬くん・・・無理せんで・・・」

そう言う希美の心情も複雑である。そもそも・・・こうなることを希美が予測できないとは言えない。希美がこの席を設けたのは・・・西崎に対する好意なのか・・・慎司との共同作戦を望むのか・・・それとも全く別の思いがあるのか・・・。

「申し訳ないですけど・・・協力はできません。僕は料理をお客さんに楽しんでもらうために働いているので・・・職場に人助けは持ちこみたくないのです。大体・・・本当に助けたいのなら・・・警察に相談した方が・・・」

「警察は・・・事が起こってからじゃないと動かない・・・」

希美は知っている。

家族を家から追放した夫を放置した警察。

放火事件が起これば動く警察を・・・。

もちろん・・・それは慎司も知っている。

「そういうことはエスカレートするんだ・・・何かあってからじゃ・・・遅いだろう・・・」

「連れ出して・・・それからどうする気です」

「DVシェルターやらそういう安全な場所に保護してもらう」

「だけど・・・奥さんにその気があれば・・・とっくにそうしてるのでは・・・」

「歪んだ場所にずっといるとな・・・そこが歪んでいることに気がつかなくなる・・・彼女にはそこが歪んだ場所だということに気がついてほしいんだ・・・」

西崎はもちろん・・・希美も・・・慎司も・・・歪んだ場所の出身者なのである。

「・・・」

「駆け落ちするんじゃないんですね」

「そういう気持ちはない・・・奈央子が無事なら・・・それでいいんだ」

「・・・」

「・・・馬鹿な相談を持ちかけてすまなかった・・・ここに君がいると思うといてもたってもいられなかったのだ・・・いいところを邪魔してすまない」

部屋から退場しようとする西崎を希美が制止する。

「もういいよ・・・とりあえず・・・鍋を食べよう」

ええっ・・・三人でと・・・慎司は萎えるのだった。

片思いをしている女子の部屋にだれかいる・・・暗澹たる思いを抱えながら営業の酒の席に着いている安藤望(賀来賢人)だった。

「ゴルフはやらないとな・・・今度連れてってやる」

「お願いします」

今頃・・・やってるのか・・・と安藤は気持ちが乱れるのだった。

できれば・・・西崎が本来の意味で壁ドンしてくれと思うのだった。・・・おいっ。

かけつけた杉下の部屋からは笑い声が響く。

際中だったら・・・どうしようと思いながら安藤は叫ぶ。

「杉下!」

「入って来い」・・・部屋にいたのは西崎だった。

笑い声はテレビだった。喘ぎ声でなくてよかった。

「杉下は・・・」

「友人を駅まで送りに行った・・・」

接待で余ったカニを土産として持ち帰った安藤は・・・冷蔵庫の中にスイーツという先客を発見してもやもやする。

「カニ・・・食べる?」

「喰う」

「杉下の分・・・残しておいて・・・あいつ・・・食べ物のことは根に持つから」

「わかってる」

希美と慎司は夜の道を行く。

「今日はごめんね・・・せっかく来てくれたのに」

何もいいことがなくて・・・と言いたいのか・・・希美。

「西崎さん・・・真剣なんだな」

「ほうかな」

希美は西崎が奈央子を愛しているのを快くは思わない。しかし、奈央子の境遇には複雑な気持ちを持つ。西崎が駆け落ちする気がないのかどうかも疑っている。しかし、自分のために優しい気持ちになる慎司は大切なのである。希美にはわからない。欲しいのが西崎なのか、慎司なのか、安藤なのか・・・希美の心は半分くらい死んでいるからである。

「あんな高い所に住んどるのに・・・幸せやない人もおるんやな」

聳え立つ・・・高層タワーマンション・スカイローズガーデン・・・。

「・・・」

そこは・・・希美にとってたどり着く場所・・・帰還する場所だったはずなのに・・・。

「帰って少し考えてみるよ」

「そんなことせんでええんよ」

「将棋のことも考えとく」

「ありがとう」

慎司に・・・西崎のことや・・・安藤のことを考えさせる希美・・・すでに女として壊れているのである。

「そうや・・・ケーキのこと忘れとった」

「まだ喰うん?」

「甘いものは別腹~」

最初から・・・鍵をかけて・・・二人でスイーツを食べればよかったのに・・・。

希美にはそういう選択肢はないのか・・・。

希美が部屋に戻ると・・・安藤と西崎がじゃれあっていた。

「人の部屋でいやらしいことしないで」

「安藤君に合コンの話を聞いてた」

「へえ・・・合コンとか・・・行くんだ」

「し、仕事だよ」

「大変だねえ・・・それで可愛い子はいたの」

「別に・・・じゃあ・・・僕はこれで・・・野口さんが・・・来週、遊びに来いってさ・・・あとでメールする」

とにかく・・・希美の貞操の無事を確認した安藤は・・・他の女の話題から逃れるために帰宅を決意したのだった。

「帰っちゃった・・・」

「忙しいんだろう」

「なんで・・・カニを握ってるの」

「安藤君の土産だ・・・冷蔵庫、見てみろ」

慎司のスイーツと安藤のカニがぎっしりつまった冷蔵庫。

幸せか・・・幸せを感じたのか・・・希美。

騎士として希美の望みには応じる慎司は・・・スケジュール表に・・・クリスマス・イブのキャンセル発生を見出す。

誰も運命からは逃れられないのである。

すべてはあらかじめ起こることが決まっている。

そうやって宇宙は生まれ、やがて死ぬのである。

すべてはつかのまの夢なのだ。

それでいいのだ。

「西崎さん・・・クリスマス・イブなら・・・出張サービスの予約がとれるって・・・成瀬君が・・・」

「ありがとう・・・杉下」

「・・・」

「彼が・・・罪の共有者か」

「・・・」

「どんな罪を共有したんだ」

「それは言えない」

「そうだな・・・それを言ったら俺も共犯者になってしまうものな」

希美にとって・・・男と女の特別な関係とは・・・そういうことなのだ。悲しいぞ。

「奈央子さん・・・無事だといいね・・・今度、安藤とお見舞いに行ったらいろいろと探ってみるよ」

「頼む・・・」

安藤は野口と・・・重役との面談中だった。

本命である希美とはできないのだが・・・入社一年目なのに仕事は異常にできるらしい。

「安藤君・・・君が取引をうまくまとめてくれたおかげで・・・うちはほぼノーリスクだ・・・やるなあ」

重役に褒められる安藤に・・・同席する野口は明らかに心中穏やかではないのである。

「野口くんも・・・うかうかしておられんな」

二人になると野口はそっとギリギリの本心を口にする。

「しかし・・・安藤君は年配者に受けがいいな」

皮肉の影をスルーして安藤は社交辞令で応ずる。

「すべて野口さんのおかげですよ」

安藤も・・・野口の裏の顔を意識しないではいられない。

スカイローズガーデンのコンシェルジュは希美と安藤の入室を認める。

野口によって支配された密室に招き入れられた二人。

奈央子から虐待の形跡は感じられない。

野口と安藤は将棋の対局を開始し・・・希美と奈央子は女同士の話を始める。

「シャルティエ広田のこと・・・希美ちゃんが教えてくれたそうね」

「奈央子さんに喜んでもらえたらと思って」

「主人が・・・お二人をお招きしたいって・・・」

「お邪魔じゃないですか」

「ううん」

「奈央子さん・・・顔色良くなりましたね」

「・・・」

野口は安藤に賭けを持ちだす。

「ダリナ共和国での太陽光発電所についての人事の件だ」

野口の口調ではそれは「島送り」のようなものであるらしい。

「僕が勝ったら君の名を推す・・・負けたら名前が挙がっても僕が認めない」

「僕が負けたら・・・とばすっていうことですか」

「それは・・・まあ・・・君の受け取り方次第さ・・・」

野口は意味ありげに希美を見る。

その目が・・・彼女は待ってくれるかな・・・と告げているような気になる安藤。

希美は奈央子の心を探る。

「野口さんは奈央子さんのこと・・・大事にしてくれますか」

「そうね・・・欲しいものは何でも主人が与えてくれる」

「・・・」

「でも・・・一人で生きていく力は・・・私にはないし」

「そんなことはないですよ」

「・・・」

「本当に望めば・・・手に入るはずです」

いつの間にか背後に立つ野口。

「何の話?」

「・・・クリスマス・イブに・・・希美ちゃんたちも来てくれるって・・・」

「・・・そう・・・よかった」

希美と安藤は天国の牢獄を出る。

「勝負つかなかったの」

「うん」

「野口さん・・・劣勢か・・・」

「予約・・・よくとれたね・・・人気の店なんでしょう」

「春まで予約で一杯だけど・・・キャンセルが出たのを昔の同級生が教えてくれた」

「この前・・・来た人?」

「うん」

「そいつと・・・つきあってんの」

「つきあってない!」

希美にとって・・・それはあの日から決められたことなのだ。

安藤にはその深い意味は分からない。ただ安堵するばかりなのだ。

「そうか・・・来年・・・海外に赴任することになるかも・・・」

「え」

「まだ・・・決まったわけじゃないけど」

「いいなあ・・・」

「行き先は先進国とは限らないからね・・・電気もガスもない・・・砂漠とかジャングルとかかも」

「そんなところで・・・大丈夫なの」

「杉下なら・・・大丈夫だろうけどさ」

「日本じゃ・・・安藤には勝てないけどね」

「明日から・・・無人島で暮らせって言われたらどうする?」

「無人島で一人暮らしか・・・なんだか楽しそう」

「・・・そう言うと思ったよ」

探りを入れる安藤は希美の言葉に希望を見出す。

「でも・・・一人じゃ淋しいかな・・・」

安藤の心をもてあそんでいるようにも見える希美だった。

二人を送りだした野口夫妻の会話・・・。

「二人を呼んでくれてありがとう」

「今度は・・・外に連れて行って・・・」

「よくなったら・・・どこにだって連れてくよ・・・」

野口の言動からひょっとしたら・・・夫のDVではなくて・・・自傷行為の疑いも生じる奈央子である。

だが・・・自傷行為なら必要なのは監禁ではなくて監視だよな。

監視のための監禁と言う可能性もあるけどな。

つまり・・・室内の奈央子は24時間監視されているのか。

しかし・・・基本的に嘘だらけのドラマなので疑惑は深まるのみ・・・なのだった。

【2004年・12月上旬】慎司は野バラ荘の希美の部屋を度々訪問して・・・大家の野原兼文(織本順吉)とも顔馴染みになっていた。

「あんた・・・よく来るね」

いろいろと想像するが顔には出さない理想の大家なのである。

希美の部屋ではN作戦2の作戦会議が行われていた。

慎司は・・・きっと他にしたいことがあるよね。

「当日は午後六時で野口さんから予約が入ってる・・・人数は四人・・・野口夫妻と・・・杉下と・・・」

「もう一人は安藤望という野口さんの部下・・・この間までこのアパートに住んでいた共通の知り合いなんよ・・・」

「のぞみが・・・二人おるんや・・・」

「安藤はこの計画では部外者なの・・・仕事で時間ギリギリになるらしいし・・・」

野口氏の部屋の見取り図の上で駒となったメンバーは図上演習を繰り広げる。

時間よりすこし早目に到着する「シャルティエ・広田」の慎司と・・・助手を装う西崎。

先着している希美は野口を書斎に引き留めておく計画である。

一人になった奈央子を西崎が外に連れ出す・・・。

以上である。

「そんなにうまくいっていいのか」

「・・・」

「で・・・その後は・・・」

「店にはトラブル発生と連絡します」

「旦那が逆上して・・・成瀬くんに八つ当たりしたらどうする」

「私が体当たりして助けるよ」

「俺が書斎に突入して・・・二、三発殴られて・・・警察を呼ぶというのはどうだろう」

「暴力沙汰はちょっと・・・」

「あとのことは・・・私と成瀬くんがなんとかするから・・・西崎さんは奈央子さんのことだけ考えて」

「・・・分った」

杜撰な計画である。

奈央子が西崎と脱出したら・・・責任のすべては・・・不審人物を招き入れた・・・成瀬にかかってくるのは明らかなのだ。

しかし・・・まあ・・・成瀬は希美のためなら何でもする男だし・・・。

希美はそれを当然と考えるところがあるんだなあ・・・。

主従だからな。

ずっと肝心なことはやらない二人なのである。

「成瀬くん・・・迷惑かけちゃって・・・」

「気にせんでええんよ・・・困っとる人は助けたいし」

「・・・」

「これ・・・例の将棋の手筋なんだけど・・・」

希美が安藤に初めて負けた棋譜から逆転の一手を考えた慎司だった。

「捨て身の思いで龍で銀を獲りにいくんよ・・・」

「すごいよ・・・成瀬くん」

慎司の心に響く・・・希美のシャープペンのノックの音。

(す・ご・い・・・す・ご・い・・・)

別のことでそれを言ってもらいたいよね・・・男だから。

「また・・・成瀬くんに将棋を教えてもらえるなんて・・・思わんかった・・・このアパートだって・・・びっくりするくらいボロやけど・・・島にいる頃より何倍もマシって・・・そういうこと分かってくれるのは・・・成瀬くんだけだよね」

「ほうかな・・・」

「辛い時・・・助けてもらうと嬉しいよ・・・やけん・・・私も奈央子さんを助けようと思った」

「その役に立てるんなら・・・よかった」

二人でいると島の言葉に戻る二人。

心は通じ合う・・・しかし・・・お互いの思いはすれ違う。

二人が越えられない壁・・・。

一人になった西崎は記憶の彼方に向かう。

奈央子は言った。

「灼熱バードは・・・あなたなんでしょう?」

西崎(若山耀人)は幼い日々の追憶に沈んでいく。

女子小学生が囁く。

「西崎くんちって・・・リコンしてお父さんいないでしょう」

「西崎くんのお母さん・・・鈴木先生と付き合っているんだって」

「車の中でキスしたらしいよ」

「やらしいよね」

母親として・・・女として・・・人間として規格外だった西崎の母親・美雪(中越典子)・・・。

鈴木という教師に捨てられて狂気を深めた美雪は・・・。

我が子を虐待するという行為に溺れる。

「愛してるって言って」

「愛してる」

「この傷はみんな・・・愛の証なのよ」

歪んだ母親の支配する歪んだ世界で歪んでいく西崎・・・。

おそらく火の不始末で眠ったままの母親が燃えあがるのを傍観するのだった。

母を残し火事場から逃げ出した西崎・・・。

(助けないとお母さんが死ぬと思いました・・・だけど・・・僕はお母さんを助けませんでした・・・僕がお母さんを殺しました)

奈央子の言葉が蘇る。

「この傷は・・・彼の気持ちを受け止めた印なの」

「主人は・・・本当の気持ちを私にだけ・・・見せてくれるの」

「あの人は・・・私よりも苦しんでいるの」

その時、希美が訪れる。

「奈央子は・・・俺に連れ出してほしいと思っているのかな」

「・・・」

「家から出たくないと言われないとも限らない」

「・・・」

「この世には・・・本当に正しいことなんて・・・」

「奈央子さんに断られたら・・・それはしょうがないよ・・・でも・・・何もしないでいたら・・・あの時・・・なんで助けなかったんだろうって・・・後悔するかもしれない」

「それは・・・嫌だ」

「じゃあ・・・やろうよ・・・私と成瀬くんがついているから」

希美にとって・・・慎司は一心同体の存在なのだった。

慎司はきっと普通に合体したいんだけどな。

野口夫妻は外食中である。

西崎は大家に新人文学賞の二次予選落ちを報告している。

奈央子はトイレに向かう。

大家は西崎をなぐさめる。

奈央子は店の外に出て公衆電話の箱の中。

大家と西崎は電話のベルに気がつく。

奈央子は受話器を握りしめる。

「もしもし」

「助けて・・・クリスマスイブに希美ちゃんがうちにくるの・・・主人と書斎で将棋をするの・・・花屋のフリをして・・・六時に家に来て・・・ラフルールマキコって花屋に注文したことにしておくから」

「もしもし」

「お願い・・・助けて・・・あなたにしか」

「奈央子」

奈央子がふりむけばそこには夫が立っている。

奈央子は西崎の電話番号のメモを排水口に投棄する。

怒りに蒼ざめた野口は・・・妻を乱暴にタクシーに押し込む。

凶悪な気配を運転手は感じる。

「シャルティエ・広田」では店主が・・・成瀬に伝言を伝える。

「24日の野口さんのワインリストにシャンパン1本追加・・・それからデザートも変更するかな」

「男性一名、女性三名様ですよね」

「いや・・・男性二名、女性二名だよ・・・」

「でも一人は安藤のぞみじゃ・・・」

「男でものぞみだよ」

「・・・」

「なんか・・・成り行きではサプライズで・・・プロポーズもあるかもってことだから」

「・・・」

「おい・・・どうした?」

「いや・・・なんか・・・俺・・・勘違いしていたのかもしれないなと」

やるべき時にやらないと・・・やれない運命なんだな。

誤解とか・・・そういう問題じゃなくて・・・。

悪夢の中でもがく希美を目覚めさせる王子様は・・・きっと誰でもよかったような気がする。

【2014年(現在)】希美はがん患者のメンタルケアのセミナーに参加している。

「がんと共に生きる」

「死という不安」

「家族や友人」

月並みな言葉が希美の心をすり抜けていく。

同病相憐れむことを望む見知らぬ人を拒絶するように去る希美。

西崎は大家に将棋を指南されている。

「希美ちゃん・・・また遊びに来るといいね」

「・・・」

「実家には挨拶に行ったの?」

「・・・」

「事件のことはごめんなさいって謝ってくりゃいいんだ・・・なんなら・・・私が一緒に」

「一人で行けるよ」

西崎の実家とは・・・養父母の家なのか・・・。

慎司は島でなにやら店の下見をしている。

高野は妻の置き手紙を見つける・・・。

茂さんへ

もっと早く伝えられたらどんなにかよかったかと思います

春には伝えようときめていたのに冬になってしまいました

十四年前に・・・さざなみに火をつけた人のことです・・・

その人が誰かを知っていて・・・今まで隠していました・・・

慎司はふと・・・希美に電話してみようと思う。

希美は着信音を聞きながら・・・夜の町で意識を失っていく。

希美の身体を包む死の影・・・。

慎司は希美から遠く離れて・・・。

なんで・・・そこにいるんだよ・・・慎司。

誰か、希美を幸せにしてくれる人はいませんかああああああっ。

余命一ヶ月の花嫁でいいじゃないか・・・。

まあ・・・それだとこんなに夢中で見ないけどね。

【2004年・12月24日】床に転がる火のついた蝋燭。空になった燭台を握るのは・・・奈央子だった。

ええええええええええええええええええっ。

恐ろしいほどの傑作である。

これほど再現性を高めても・・・素晴らしさを伝えきった気がしない。

なんてことだ。

これは・・・一部お茶の間はついてこれんかもしれない。

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コメント

「面白い」とか「感動する」とか、単純な言葉では表せないような、様々な感情や感覚を味わう1時間、あっという間に過ぎてしまいます。

終わりが近づいていますね…。

慎司との強い結びつきを感じながら、普通の幸せを思い描くことができるのは、安藤とだったのかなと思ったり。
でもそれも結局は、叶わないのですよね。

西崎といる時の希美は、一番自然体のように見えますし、のばら荘も含め全てのNが、希美にとってはかけがえのない存在なんですね。

幸せの形は様々だと思いますが、最後の四人が少しでも心穏やかで、幸せであるように、願わずにはいられません。

いろいろな謎が気になるようで、解けてしまうのが勿体ない、このまま少しずつ騙され続けていたいと思います。終わったら、寂しくなります…。

以前コメントでお返事頂いた「白夜行」、やはり傑作なんですね。こちらを見るのを、終わってからの楽しみにしたいと思っています。

投稿: ギボウシ | 2014年12月 9日 (火) 21時33分

オチツキレイセイシズカナヒト~ギボウシ様、いらっしゃいませ~ワクイエミダイスキ!

ドラマは夢のようなものでございます。

これはとびきりの悪夢。

夢はどんなに面白くてもたちまち熔けて消えてしまいますが・・・この悪夢は一週間後に続きが始るところがミソですな。

そして・・・毎回、我を忘れるという・・・。

ああ・・・そっちにいっちゃだめだと
叫んでも悪夢なので・・・
最悪の結果に向かっていくという・・・。

そのやりきれなさが心に沁みるのですな。

なんで・・・悪夢にこんなにも心ひかれるのか・・・。

これは一種の魔法なのではないかと考えます。

ドラマ版の「白夜行」にも
確かに魔法はかかっているような気がします。

あれもまた・・・素晴らしい悪夢でございました。

投稿: キッド | 2014年12月10日 (水) 03時37分

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受信: 2014年12月 7日 (日) 10時14分

» Nのために 第8話 [ドラマハンティングP2G]
第8話「エリート夫の嘘と罠…炎に消えた真実」2014年12月5日 2014年。青景島で成瀬(窪田正孝) と再会した高野(三浦友和)は、希美(榮倉奈々)の携帯番号をメモして渡す。 2004年。西崎(小出恵介)から奈央子(小西真奈美)救出作戦“N作戦II”を手伝って欲しいと相…... [続きを読む]

受信: 2014年12月 7日 (日) 22時54分

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