花は花は花は遅かった(榮倉奈々)
いつの時代だよ。
1967年の第18回NHK紅白歌合戦で聴きました。
なにもかも・・・なつかしいな。
山本リンダ(初)は「こまっちゃうナ」を歌ったぞ。
なんだかんだ・・・NHKだな。
榮倉奈々は「瞳」のヒロインだしな。
窪田正孝は「花子とアン」の朝市だしな。
賀来賢人も「花子とアン」の安東吉太郎だしな。
ご近所さんだったんじゃないかっ。
小出恵介だって「梅ちゃん先生」の竹夫だ。
いや・・・最近では「吉原裏同心」やってたぞ・・・・。
駆け落ちしてたな。
ああ・・・かけおちしてた。
江戸時代ではやり手だったのになあ・・・まさか・・・作戦の中心人物が遅刻するなんてなあ。
で、『Nのために・第9回』(TBSテレビ20141212PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・山本剛義を見た。ついに・・・第一の事件からの時の流れが第二の事件にたどり着いた今回。もう・・・この調子で・・・それからの十年を10クールぐらいで描いてもらいたいよね。建築事務所でのし上がっていくN・・・海外をたらいまわしにされるN・・・料理人として腕をあげていくN・・・獄中のN・・・そして・・・夫に秘密を隠し続けるN・・・せつない十年に流れ続ける「Silly」・・・誰が見るんだよ。獄中の西崎(小出恵介)は別として・・・慎司(窪田正孝)と安藤(賀来賢人)が希美(榮倉奈々)と逢えなくなってしまう理由が・・・何なのか・・・楽しみだなあ・・・まさか・・・お互いが相手を希美の意中の人だと勘違いして・・・身を引くのか・・・。だが・・・希美は西崎の出所を待つつもりだったのか・・・。ここまできて・・・まだまだ妄想できる余白がいっぱい・・・傑作だなあ・・・。
【2014年(現在)】なんとか・・・主治医の多田(財前直見)の元へたどり着いた希美である。それとなく家族への連絡を促す多田医師だったが・・・終末医療はホスピスのある施設で・・・と計画する希美。
誰にも看取られずに一人で死ぬ覚悟である。
慎司は青影島のフェリー乗り場で・・・あくまで・・・慎司が犯人であってほしい・・・高野(三浦友和)に呼び止められる。
「夏恵が・・・こんな置き手紙を残していなくなったんよ」
<14年前の夏・・・さざなみに火をつけたのは周平さんでした・・・周平さんは自殺するつもりだったのです。火事で死ねば生命保険で慎司くんを大学に行かせてやれる・・・だから・・・死なせてくれと周平さんは燃えさかる炎の中で私に言いました・・・どうしてそんなことが認められるでしょう。私は無我夢中でした・・・渦巻く煙の中で放火の証拠を隠滅すると・・・周平さんを担ぎ出したのです・・・私は警察官の妻でありながら・・・犯人隠避罪と証拠隠滅罪という二つの罪を犯したのです・・・このことが発覚したら・・・夫が駐在ではいられなくなる・・・私はこうして秘密を持つ女になったのです。夫が定年を迎え・・・事件が時効を迎えようとしている今が・・・最後の機会だと思い、警察ですべてを白状しようと決意しました・・・どうか、これまでのことをお許しください>
「どう思う・・・」
「どう思うって言われても」
「咄嗟にそんなことできるもんかな・・・」
「でも・・・きっとそうなんでしょう」
「本当は・・・お前のことかばって・・・こんなこと書いておるんじゃ・・・」
「まだ・・・疑ってんですか」
「夏恵・・・周平さんと・・・なんかあったんかな」
「さあ・・・」
「くそ」
「でも・・・俺は父がやったんだってことは薄々気がついていました」
「・・・」
「だって・・・そうでしょう・・・店を人手に渡すことになって・・・自暴自棄になってたんですから」
「知ってて・・・だまっとったのか」
「自分が疑われているなら・・・それでええかなって・・・」
「すまん・・・俺の目は節穴じゃった・・・」
「っていうか・・・気がきかない感じですよね」
「ほうか・・・」
「すみません・・・身元引受人相手に言いすぎました」
「あの時・・・希美ちゃんはお前になんて言うたんや」
「励ましてくれましたよ・・・俺なら何にでもなれるって・・・買いかぶりでしたよね」
「全く・・・俺は愚か者じゃのう・・・」
「・・・」
気がきかない高野は・・・個人情報ということにこだわったのか・・・慎司に希美の病状のことを伝えずお茶の間を唖然とさせるのだった。
夏恵(原日出子)は駐在所に出頭し・・・すべてを告白していた。
これで放火事件が解決したということになれば・・・慎司は放火の容疑者から・・・放火犯人の息子に立場を変えるのである。
とにかく・・・料亭「さざなみ」放火事件は・・・慎司と希美のものから・・・野口夫妻のものになったらしい。
妻は犯罪者になってしまったが・・・高野はそれなりに気持ちにけじめがついたのかもしれない。
高野は妻に秘密があることから目をそむけて生きて来た。だから・・・嘘をついていたと妻が告白しても心から信じる気にはならない。彼は最初から救われない男なのである。信じない者は救われないのである。
高野は虚しく過ぎ去った歳月を・・・茫然とふりかえる。もちろん・・・高野が慎司への疑念を捨てきれないように・・・これが真実とは限らないわけだが・・・一応・・・慎司は無実で・・・希美はする必要のない偽証をしてしまったことになる。
だが・・・これはあくまで二人の個人的な問題である。
慎司は・・・希美に疑われ・・・かばわれて・・・きっとうれしかったんだな。
「スカイローズガーデンの事件のあと・・・またお互い遭わんようになって・・・杉下がどんな気持ちでおったんか・・・ようやくわかった気がする」
「・・・どういう意味や?・・・十年前、それぞれに大事な相手がいたんやろ・・・」
「俺は・・・杉下やった」
「お前のNは・・・希美ちゃんやったか・・・なのに・・・会わなくなったのか・・・」
その頃・・・希美は安藤と会っていた。
安藤は友人たちとの宴席に希美を招き入れた。
その賑わいに・・・希美は笑顔になる。
「笑ったね」
「え」
「前みたいに笑わないから・・・気になっていた」
「安藤が笑えないこと言うからだよ」
「今度はもっと笑える感じで言うよ」
「もう・・・言わなくていいよ」
安藤は希美の余命宣告を知らないのだった。
希美の思いはお茶の間にも窺い知れない。
特に・・・希美の愛のありかは・・・。
西崎は・・・実家・・・母親と離婚した父親の家に顔を出していた。
「事件のことで・・・迷惑をかけ申し訳ありませんでした」
「大変だったが・・・いろいろと考えた・・・お前の母親と別れた俺にも責任がある・・・虐待するような女にお前を渡したことも・・・」
「それでも・・・育ててくれましたから」
「前科者に世間は冷たいぞ」
「覚悟しています」
「世話になった人には恩を返すことだ」
「はい」
「時々は・・・帰ってこいよ」
「・・・」
西崎は家庭の温もりを感じた。
西崎は迷う・・・希美の余命宣告を・・・安藤に伝えなくてもいいものかと・・・。
西崎は安藤に会った。
「関わらないって言ってたのに・・・」
「前科者だからな」
「俺は気にしないよ」
「・・・」
「なんで自分がやったなんて言ったの?」
「旦那を殺したのは俺だよ・・・まさか・・・殺すことになるとは思わなかった」
「・・・」
「安藤君のおかげで・・・償いは終わった・・・マイナスだった俺がゼロになった。これからはプラスを目指すさ・・・」
「・・・」
「さて・・・本題は杉下のことだ」
「会ったんだ・・・俺も会ったけど」
「杉下が助けを叫んだら・・・君はどうする」
「杉下はそんなに簡単に助けてって言わないよ」
「もしもの話だよ・・・」
「杉下に何かあったの・・・?」
その時・・・思い出の「ジングルベル」が鳴り響く。
何故か・・・西崎は真実を飲みこむのだった。
希美が西崎に・・・安藤には内緒にしてほしいと頼んだからなのか・・・。
「何もない・・・ただ・・・あの日がなければ・・・杉下はもっと幸せになっていたんじゃないかと・・・胸が痛むんだ」
「これからだよ・・・西崎さんも・・・杉下も・・・俺もね」
「・・・」
西崎は・・・希美と約束していない・・・もう一人の男に連絡する。
「成瀬くん・・・」
「西崎さん・・・」
「もう一度・・・杉下を助けてやる気はないか」
「また・・・N作戦ですか」
「杉下は・・・誰の助けも必要としていない」
「・・・」
「しかし・・・成瀬くんならそれでも助けたいと思うんじゃないか」
「文学ですか・・・」
「杉下は・・・はっきりいって・・・」
西崎の言葉に衝撃を受ける慎司だった。
施設の資料に目を通す希美。
そこへ・・・慎司から電話がある。
「今・・・家の前にいる」
「なんで・・・」
「島に帰っとったで・・・うどん買ってきた」
「なんで・・・ここに」
「何度か府中刑務所に差し入れに行ってたんで・・・西崎さんが教えてくれたんよ」
「急にこんでよ」
「少し・・・話さん?」
希美にとって安藤も特別な存在、西崎も特別な存在・・・そして慎司もまた特別な存在なのだろう。
人は特別な存在にも優先順位をつけたがるが・・・希美ははたして・・・。
「十年ぶりやね・・・島はどうだった」
「変わらんよ・・・さざなみの事件は決着がつきそうやけど」
「え」
「みんな・・・俺を疑ってたけど・・・杉下はかばってくれて助かった・・・」
「真犯人がおったの」
「もう・・・この世にはおらん人や・・・うらみごとも言えん相手や」
「成瀬くんや・・・ないん・・・」
「ないよ」
「ほうよね・・・私、あの時、咄嗟に嘘ついてしまったんよ・・・ギリギリのところにおったでしょ・・・自分じゃどうにもならんで・・・つらかった・・・あの夜・・・あの炎を見て・・・なんやわからん・・・すっきりしたんよ・・・父親も母親も・・・父親の愛人も・・・みんな燃えてしまったような気がして・・・成瀬くんが・・・みんな燃やしてくれたような気がしたんよ・・・ごめんね・・・成瀬君の大事な家が燃えとるのに・・・私・・・なんてこと考えとったんやろう・・・でも・・・おかげで・・・私は上をむけたんよ」
「野望はかなった?」
「ほうねえ・・・私、気が付いたら欲しいものはそんなにない。食べるもんがあって帰る家があって・・・それを誰にも奪われんなら・・・それでええんよ・・・あの時は・・・暗い井戸の底におって・・・ふつうの暮らしが・・・手の届かない高みにあるように・・・錯覚しとったんやね・・・きっと」
「俺・・・今、神楽坂のフレンチに勤めとるけど・・・島でオープンする店に誘われたんよ・・・そこで・・・人の思い出に残るような料理やら作れんかなって」
「ええね・・・成瀬くんらしい・・・」
「一緒に帰らん?」
「・・・」
「ただ・・・一緒におらん?」
慎司は・・・希美の首にマフラーを巻いた・・・。
立ちすくむ希美・・・。
もう・・・それでいいじゃないか・・・。
しかし・・・島に帰ると高野がしつこくしそうだからな。
え・・・退場じゃないのか。
いや・・・最終回に出番がないことはないな・・・痩せても枯れても百恵の夫だし。
・・・おいっ。
【2004年・12月】人間関係の基本は二人が結ばれた線分であるが・・・関係が問題となるのは三角関係である。父と母と子の三角関係。夫婦と愛人の三角関係。犯人と刑事と被害者の三角関係。この時点では希美には二つの三角関係が生じていると考えられる。幼馴染の慎司と・・・大学生仲間の安藤との三角関係。二人の男は奇しくも相手を希美の恋人のようなものと誤解している。もう一つは西崎と奈央子(小西真奈美)と希美の三角関係である。希美は・・・西崎の中にもう一人の自分を見出しているし・・・西崎に保護され、西崎を保護したいと考えている傾向がある。そこに・・・奈央子が介入し・・・西崎の目は奈央子に向かう。希美は奈央子に対して複雑な感情を持つが・・・結局、西崎の望みを叶える方向で動いて行く。希美の愛の複雑さは官能的でさえある。安藤にはどこまでも高みを目指してもらいたい。慎司には無事でいてもらいたい。西崎には傷を癒してもらいたい。複雑な親子関係のもたらした希美の歪んだ感情は正しい出口を求めて彷徨っているようだ。
自分と大切な人とそうでもない人の三角関係は複雑に絡み合い社会を構築しているのだ。
野口(徳井義実)と外出した奈央子は・・・公衆電話で西崎に救いを求めるが・・・結局、「イブの日に花屋に変装して来てほしい」という伝言を残して野口に捕縛される。
野口夫婦と三角関係を構築する西崎は高層タワーマンション・スカイローズガーデンにやってくるが・・・野口夫婦は要塞へと消える。
ここで・・・抑制された表現だが・・・野口夫婦が家庭内暴力関係の典型であることが明らかとなる。
野口は社会生活にストレスを感じると、妻の奈央子に暴力を行使する。日常的な暴力によって支配された奈央子はそれを愛情表現として受容する。暴力から謝罪そして慰安という相互依存による癒着が生じているのだった。
「ちくしょうちくしょうごめんねごめんねあいしてるあいしてる」
プレイであれば単なる変態だが・・・病理となると生命の危機が生じるのである。
「許してくれ・・・どうしてもお前をめちゃくちゃにしたくなる」
「怒らせてごめんなさい・・・」
「だれか・・・助けてくれ」
奈央子からの伝言によって・・・N作戦2は変更を余儀なくされるのだった。
西崎と希美の作戦会議。
「奈央子は殺されてしまうかもしれない・・・」
「今すぐ・・・警察に通報した方が・・・」
「いや・・・作戦は続行する・・・俺が花屋に変装して・・・侵入する」
「私と・・・成瀬くんがどうすればいいのかは・・・西崎さんが決めて・・・」
①午後5時に希美が野口宅へ・・・希美は野口を書斎で将棋をコーチ。
②午後5時30分に西崎が花を持って到着。
③奈央子を西崎が連れ出し、DVシェルターへ移送
④午後6時に成瀬が到着。
相変わらず・・・危うい計画である。
まあ・・・時に作戦はシンプルな方がいいが・・・今回は安藤抜きで立案されたために・・・招待客の一人である安藤は不確定要素として計画を破綻させかねない存在になっているのだった。
希美は計画の変更を伝えるために慎司が働くレストラン「シャルティエ・広田」にやってくる。
希美は三人で作戦会議をしたいと伝えるが・・・広田から・・・安藤が希美にプロポーズするかもしれないと聞かされた慎司は・・・わだかまりを抱えているのである。
「暮れまで結構・・・忙しいんだ」
「ほっか・・・じゃ・・・クリスマスイブに・・・」
「・・・うん」
希美は・・・安藤を巻き込まないために・・・動向を探る。
「クリスマスイブのことなんだけど・・・六時より前に着くようなら連絡くれる?」
「杉下は何時に行くの?」
「五時には・・・奈央子さんを手伝いたいし・・・」
「野口さんと・・・戦略練るんでしょ」
「え」
「野口さん・・・杉下みたいな手で反撃してくるから・・・」
「違うよ・・・」
希美を同期の忘年会に連れ込む安藤・・・この男は十年間、行動パターンが一緒なのか。
にぎやかな雰囲気に笑顔になる希美。
闇の仲にいる希美は・・・安藤によって光の中に連れ出されることをうれしく感じるのだ。
「安藤の彼女?」
「誤解されてるよ」
「いいじゃないの~」
「ダメよダメダメ~」
「何それ?」
「十年後の流行語大賞になるんよ」
慎司は広田に声をかけられる。
「どうした・・・元気ないな・・・彼女となんかあったか」
「プロポーズされるんですよ」
「え」
「この間の・・・」
「え・・・のぞみちゃんなの・・・でもさ・・・まだわからないじゃない」
「・・・」
「彼女がOKするとは限らないし・・・それより、先にお前がプロポーズすりゃいい」
「そんな・・・」
「こういうことは・・・早い者勝ちなんだよ」
「適当なことを・・・」
「適当でいいんだよ・・・適当ってのはほぼ正解ってことだから」
しかし・・・慎司は・・・適当なことが苦手なのだった。
幸せになるチャンスはいくらでもあるのに・・・若者たちはそれを見送り続ける。
みんな・・・ウサギとカメの物語に呪われているのである。
【2004年・12月24日】運命の日がやってきた。
「私・・・野口さんちに行くよ」
「杉下が頼りだ」
「奈央子さんを連れ出せたら・・・二人で逃げちゃいなよ」
「・・・」
「本当は奈央子さんと一緒にいたいんでしょ・・・奈央子さんの幸せばっかり考えないで・・・西崎さんの幸せも考えなよ」
「そのうちにな・・・さあ・・・作戦開始だ」
「遅れないでね・・・野口さんをそんなに長く引きとめることはできないから」
「きっかり・・・五時半に・・・」
しかし・・・クリスマスイブの花屋は・・・早い者勝ちの世界なのである。
希美は定刻通りに4803号室に到着する。
奈央子への挨拶もそこそこに・・・書斎に籠る希美と野口。
しかし、花屋のラッピングは二十分待ちである。
「何故だ・・・何故・・・こんなに花を買う男たちが・・・」
西崎の知らない世界が展開していた。
「今日は・・・クリスマスイブですから」
「・・・」
盤上に残された勝負途中の展開に・・・希美は見覚えがあった。
手筋が・・・希美が安藤に初めての敗北を喫したあの日と同じだった。
逆転の一手は・・・慎司から教わっている。
しかし・・・簡単には教えられない事情がある。
「これは・・・私が一度だけ・・・安藤に負けた時の手筋です」
「そうなの・・・」
「少し・・・考えさせてください」
「うん・・・まだ時間はあるはずだから・・・」
しかし・・・何も知らない安藤は早めに到着する。
あるいは・・・希美の指南を妨害する意図が安藤にはあったのかもしれない。
なにしろ・・・この勝負には・・・ダリナ共和国行きがかかっているのである。
安藤をラウンジで待たせる野口。
野口は希美を急かせる。
(五時半を過ぎたのに・・・西崎さん・・・どうしたの)
西崎は走っていた。
そして・・・プロポーズについて懊悩する慎司は渋滞に巻き込まれていた。
(これ以上・・・伸ばせない)
希美は逆転の手筋を打ち始める。
「ここに龍を・・・」
(西崎さん)
「そうか・・・これで・・・勝てる・・・安藤君は海外行き決定だな」
「どういうことです」
「賭けをしたんだよ・・・彼が負けたら電気もガスも通ってないこの世の果てのようなダリナ共和国に赴任することになる」
「そんなことを・・・将棋できめるんですか」
「何事も経験だからね・・・まあ・・・彼はかなり苦労するだろうが・・・」
野口の顔に・・・人を苛むことに快感を覚える嗜好が浮かぶ。
十五分遅れで西崎が到着した。
「ラ・フルール・マキコ様がお花を届けにいらっしゃいました」と伝えるコンシェルジュ。
奈央子が入室を許可する。
二人は玄関でひしと抱き合う。
それは・・・もう・・・逃げてからやってとお茶の間が絶叫する中・・・。
「さあ・・・安藤君を呼んで・・・食事の前に決着をつけてしまおう」
「安藤に勝ちたいなら・・・野口さん一人で勝ってください」
「人外魔境へのチケットをくれたのが・・・希美ちゃんだって知ったら・・・安藤君びっくりだよね」
「これは・・・正当な勝負じゃないでしょう」
「ずるい卑怯は敗者の戯言だよ」
「お願いです・・・こんなことで安藤の将来を・・・」
「必ずしも・・・悪い話じゃないんだよ・・・若い時の苦労はしておくもんだ・・・さて・・・希美ちゃんはどうするの・・・安藤くんについていくのかな」
すでに舌舐めずりをする野口だった。
希美は土下座をした。
土下座をした時の希美の恐ろしさを・・・野口は知らないのだった。
「やはり・・・若い女の子には無理かもねえ・・・結構、危険なところだからね・・・ダリナ共和国はだりーなあ・・・なんちゃって」
(どうすればいい・・・)
沸騰する希美の思考。
その時・・・西崎の一言が蘇る。
奈央子を旦那から引き離すには警察ざたにするのが手っ取り早い・・・
希美は大切な人のことを考えた。
その人の未来が幸せであるように・・・。
一番大切な人のことを・・・。
だが・・・それがその人を幸せにするかどうかは別の話なのである。
そして・・・聖なる夜は・・・ジングルベルを奏でるのだった。
恐ろしいほどに完璧なつづく・・・。
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