世界観戦争勃発中、超絶消化学の怠惰渇望欺瞞絶望と殺人美談、アホの火の旗を掲げよ(真木よう子)
世の中というものは清濁が入り混じり、循環しているものである。
人は皆、荒波に漂うサーファーなのだ。
サーフィン・ボードを小脇に抱え、砂浜をウロチョロしている分には波はそれほど恐ろしいものではない。
しかし、時には津波、大津波が押し寄せてくる。
そこそこの波の上で波に乗れる人さえ・・・それほど多くない。
なんとか、波に乗っている人は・・・波間に沈む人につぶやく。
「緩やかな男尊女卑くらい我慢しろ」と・・・。
「イスラム国が男を殺したり、女を奴隷にしたり、少年を兵士にしたり、少女を人間爆弾にしたりしても・・・それは遠い世界の彼方のこと・・・何が何でも人質の命は大切だ」と・・・。
「黙って働け、黙って人に尽くせ、黙って子供を育てろ、黙ってこの世を愛せ」と・・・。
「ゴルゴ13は殺し屋ではなくて狙撃手です」と・・・。
「結局、殺すけどな・・・」と・・・。
「大人げないこというなよ・・・みんな折り合いつけてなんとかやってんだよ」と・・・。
「(前略)命を助けてください(後略)」と・・・。
しかし・・・巨大津波は達者なサーファーさえ飲みこんでいくのである。
あああああああああああああああああああああ。
で、『問題のあるレストラン・第2回』(フジテレビ20150122PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。喧嘩上等というドラマである。女たちは理不尽な仕打ちを受けて叛旗を翻すのだ。もちろん・・・理不尽さというものには個人差がある。何が「理」かという尺度に個人差があるからだ。妻を愛し、夫を愛し、親を愛し、子供を愛している一家に武装した無法者が現れて、夫を殺し、妻を犯し、子供たちを攫って行く・・・それを理不尽と思う人もあれば・・・原理であると思う人もいるのが現実だ。たとえば相当な予算をかけて過去の歴史を描くドラマが・・・人に優しい戦国時代を描いていれば・・・「今、シリア周辺は戦国時代に突入しています」と言ってもお茶の間にはピンと来ない。今、そこでは聖なる武将マホメットを理想とした群雄が割拠し、恐るべき下剋上を繰り広げているのである。無政府状態が生み出した軍事的空白地帯で・・・「暴力こそが正義」の風が吹きまくっているのだ。男が女に理想を求め、女が男に理想を求める先進国の夢想は今・・・破られようとしている。「女が男を殺そうとするなら女が男を殺すしかない」と決意した主人公。「まあまあ・・・そこまで憤怒しなくても」と宥める人々は・・・「敵」なのである。「サービス」で戦うならいいけどね。男側は陰湿な嫌がらせをしてくるよね。そうしたら最後は放火するしかないよね。でも「火(feu)」じゃなくて「アホ(fou)」を放つんだよね・・・きっと。「理不尽」には「アホらしい」と言うしかない時があるからね。
時代錯誤とも・・・現実直視とも言える男尊女卑の企業「ライクダイニングサービス」の女性社員に対する差別待遇に激怒した田中たま子(真木よう子)は「ライクダイニングサービス」の直営店ビストロ「シンフォニック表参道」をぶっつぶすために・・・近隣のビルの屋上にライバル店を出店することを決意する。
そのために・・・女装好きのゲイのパティシエ・几(おしまずき)ハイジ(安田顕)を含める無職の女たちに共闘を呼び掛ける。
しかし・・・残ったのはハイジと「ライクダイニングサービス」の社長・雨木太郎(杉本哲太)の娘で対人恐怖症によるコミュニケーション障害のある天才シェフ・雨木千佳(松岡茉優)だった。
「あまちゃん」の駅長と・・・「あまちゃん」のリーダーが父と娘でこれ以上なく殺伐としています。
それでも・・・たま子の「復讐の炎」は消えることなく燃えあがる。
自己資金はたま子の退職金。廃墟とした屋上の改装に着手すると同時に・・・条例により定められている食品衛生責任者養成講習を受講して食品衛生責任者の資格を獲得するのだった。
一方、「ライクダイニングサービス」の社風と折り合えず、「愚民ども」に見切りをつけて退社した東大出身の秀才・新田結実(二階堂ふみ)は自己評価と評価に落差があるために再就職先が決まらず・・・結局、臨時のゼネラルプロデューサーとして志願するのだった。
「ゼネラルプロデューサー・・・釘とって」とハイジ。
「はい・・・」
「それじゃなくて・・・もっと長い奴」
「はい・・・」
「ゼネラルプロデューサー・・・板あげて」
「はい・・・」
下っ端としてキッチンの天井作りをするゼネラルプロデューサー。
「まっしろ」にはない・・・。
二階堂ふみ、かわいいよ二階堂ふみがここにはあります。
一方、男尊女卑の世界で賢く生きて行く「順応する狐」としての「ライクダイニングサービス」の社員で「シンフォニック表参道」のウエイトレス・川奈藍里(高畑充希)は上司にたま子の動向をご注進。
早速、嫌がらせにやってくるセクハラ部長・土田(吹越満)、窓際痴漢・西脇(田山涼成)、傲慢なシェフ・門司(東出昌大)・・・。
「なにしてんの」とセクハラ部長。
「ビストロの開店準備です」
「メイドカフェにすればいいのに」
「おばさんカフェになっちゃいますよう」と窓際ハゲ。
「なんだ・・・俺に怒ってんの」とゴーマン門司。
「なんで・・・」
「三十過ぎた女に手を出したら一回寝ただけで恋人気どりになるから気をつけろと姉ちゃんが言ってた」
「寝てません・・・」
「寝たかったくせに・・・」
「どいてください」
「龍馬伝」の龍馬の恋人・お龍と「花燃ゆ」の龍馬の盟友・久坂玄瑞が激突である。
「ごちそうさん」的兄妹近親相姦な・・・現在の傲慢シェフの恋人きどりの藍里はふと不安を感じる。
「門司さんにとって恋愛って何ですか」
「独占欲のある性欲だろう」
「え」
傲慢シェフ門司はつまり・・・女の惚れた弱みに付け込む性悪ホストの人格を持つ一般人です。乙女の皆さん、基本、イケメンはそういう側面を持っています。ご注意ください。
それでも・・・そういう男に尽くしてこそ女という人は多いですよね~。
「○○妻」は才能があると思っている男(脚本家自身を含む)の理想の女ですし~。
だからといって男性アイドル文化を否定するつもりはありません。
芸の道は所詮、邪道ですからな。
一方、内装仕事が終わった頃を見計らい登場するソムリエ・烏森奈々美(YOU)・・・。
「ユーはなにしに屋上へ・・・」
「まあ・・・ワインでもいかが」
「売上原価率30%。人件費対売上高比率35%。諸経費対売上高比率25%。開業資金返済費10%として・・・ひと月に売り上げが222万円必要です。このお店、開店して88日目に潰れますね」と電卓を叩く東大卒才女(差別用語)・・・。
そして・・・アートとしてのガストロノミーを披露する天才ひきこもりシェフ・千佳。
「芸術ですか・・・」
「怠惰、渇望、欺瞞、そして絶望を示すアントレ、スープ、ポワソン、ヴィアンド・・・」
「この肉料理・・・砂の中に虫があああああああああ」
「これって・・・二億ドルくらいのものかしら・・・」
「ビストロですから・・・美術館じゃないですから」
ビストロは高級レストラン(オートキュイジーヌ)に対峙する概念としての大衆的な食堂である。
しかし・・・フランス料理を出す以上、ターゲットは貧困層にはできない。
良質な料理とサービスを求める富裕層でなければならない。
たま子の復讐は「男女差別」に捧げられるもので「貧富の差」には頓着しないと予想する。
「ライクダイニングサービス」および「シンフォニック表参道」をぎゃふんと言わせればいいのである。
はたして・・・正攻法でそれができるのか・・・いろいろな意味で楽しみだ。
ちなみに天才女シェフの料理は・・・怠惰(マネージャー)、渇望(たま子)、欺瞞(ゲイ)、絶望(シェフ)を表現していると推定される。
もちろん、自己表現として怠惰(読書)、渇望(殺意)、欺瞞(折り合い)、絶望(衝動)を示しているという解釈も可能だ。
なにしろ・・・アートなんだから・・・。
さて・・・たま子店長、秀才マネージャー、ゲイのパティシェ、お気楽ソムリエ、ひきこもり芸術家シェフで五人。
七人の侍であるためには・・・あと二人である。
六人目にたま子が目をつけているのが・・・。
セクハラ犠牲者のシンボル・藤村五月(菊池亜希子)と同じくたま子の高校時代の同級生・森村鏡子(臼田あさ美)である。
専業主婦だった鏡子は愛人を家に引き込んだ夫の森村真三(丸山智己)によって家を追われ、息子の幼い洋武(庵原匠悟)と二人暮らし。
「一緒にやらないか」と誘われても「私なんかには無理」と断る。
「そんなことないよ」
「上の人から言われても困る」
「え」
支配的な夫・真三によって箱入り娘だった鏡子は家畜として飼育され・・・ダメな人間として洗脳され・・・とにかく謝罪する人間と化していた。
しかし・・・ついに息子を夫に奪われて・・・たま子の元へ漂泊するのだった。
「生まれてからのおいしかった記憶が全て消え去ってしまうまずさだ」と夫から告げられ、すべての自信を喪失した女である。
「お前は女として不良品だ」と夫に決めつけられ、卑下することが人格にこびりついてしまったのだった。
「義母の介護中に居眠りして怪我させるなんて人間として最悪だ」と夫に裁かれて家を追い出されたのである。
たま子は鏡子に付き添って良妻賢母に育てられた男女雇用機会均等法を嘲笑する優秀な男性に対峙する。
「専業主婦は・・・家政婦、ベビーシッター、老人介護を無料であなたにサービスしているんですよ」
「それが・・・当り前だろう・・・」
「トイレはきれいでしたか」
「なんの話だ」
「トイレを誰が・・・清潔にしていたか・・・聞いてるんです」
「・・・」
「誰かが掃除しなければ便器なんてたちまちクソまみれですよ。そういう想像力があなたには欠如している。あなたは人間として欠陥品です」
「馬鹿を言うな。俺の母親は頑固な父親を文句ひとつ言わずに支えていた・・・父が寝たきりになっても寝る間も惜しんで面倒見た・・・そして僕を育ててくれた・・・妻として母として無償の愛を捧げてくれたんだ・・・そんな素晴らしい母に・・・この女は怪我させたんだぞ」
「ごめんなさい」
「あなたもお母さんの面倒を」
「俺には仕事がある」
「すべてを妻に押し付けた上で・・・責任を問うなんて・・・呆れる・・・美しい話は基本的に恐ろしい話なんですよ」
「とにかく・・・息子の養育権を渡すつもりはない・・・なんだって、俺の息子を育てる権利があると思うんだ・・・その根拠はなんなんだよ」
「あなたのような人間に育てたくないからです」とついに本音をもらす鏡子だった。
「何を言ってる・・・じゃ・・・俺と争う気か」
「洋武をあなたには渡せません」
交渉決裂だった。
もちろん・・・鏡子の料理は・・・そこそこ家庭的で美味しいのだった。
父親に拉致された洋武から着信がある。
たま子は親友の息子に問う。
「あなたの好きな食べ物は何?」
「おかあさんのごはん」
消化器(ガストロス)のつなぐマザー・コンプレックスの連鎖こそが人間の歴史なのだった。
三千院(旧姓)鏡子が仲間になった!
しかし・・・鏡子のそこそこ美味しい料理を口にしたひきこもり天才女シェフ(差別用語)はそれを吐き出す。
その暗黒の脳細胞を刺激する・・・何らかのトラウマ。
劇画「ゴルゴ13/さいとうたかお」全巻を読み終えた天才女シェフは・・・営業を開始した「シンフォニック表参道」へ・・・。
「千佳ちゃんがいない・・・」
「どうしたの・・・」
「初めて会った時・・・あの子は・・・父親を殺そうとしてたんです」
「え」
「文明の衝突」と囁かれた前世紀・・・しかし、今や「世界観戦争」の時代であると考える。
個人はそれぞれの世界観によって分断され・・・時に狂信者や狂信的団体によって簡単に迫害されるのである。
異性が異教徒がいかに平和共存を望んでも得られない時代がすぐそこまで来ているのだ。
杞憂だといいですね。
このドラマはある意味、人生観戦争の物語です。
関連するキッドのブログ→第1回のレビュー
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コメント
一話を見逃して二話から観てみて、
☆二階堂ふみの喪服ちゃんが主人公を張るべきドラマ☆
★入間しおりが隠すのは首筋くらいでお願いします★
でした……。ごちそうさん親子とか兄妹も含めた「役者ブースト圧」?が無ければ来週観るかどうかわからない感じだなぁ…わずか二話目で臼田あさみを掘り下げちっゃちゃあ、視聴者付いてこれないんでは。もったいないもったいない。
投稿: 幻灯機 | 2015年1月24日 (土) 11時40分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
とにかく・・・「まっしろ」が
堀北真希と志田未来という
二大妖艶スターを起用して
まったく萌え要素を消し去っているのに対し
こちらは二階堂も入間も明らかに
そこそこ萌えを醸しだしてます。
このあたりが
坂元脚本の素晴らしさですな。
井上脚本は最近、振幅あるな~。
とにかく・・・NHK軍団の
はてしないゲスっぷりだけでも
お花畑のお茶の間が
ゲゲッとなる。
そこが楽しいのでございますよね。
臼田の戦いもまだ始ったばかりですからな。
最後は血みどろになることを期待しています。
何人かは死者が出るかもしれませんしねえ。
お茶の間はついてこなくてもキッドは旗を振り続ける所存。
投稿: キッド | 2015年1月24日 (土) 14時50分