女に生まれてとがりながらふるえている問題のあるレストラン(菊池亜希子)
菊池亜希子といえば映画「森崎書店の日々」(2010年)で鬼畜男子に失恋して傷心を神田の古本屋街で癒す三浦貴子を演じて鮮烈な印象を残している。
そんな菊池亜希子だから・・・男尊女卑の自覚なき男社会で凌辱され泣き寝入りする女性という困難な役柄を見事に演じるわけである。
メッカの男・マホメットの説くイスラム(神の奴隷)教は千年の時を越え、それなりに変質しているが、預言者自身が多妻主義者であったために男女の不平等を根本に宿している。
結果として、男女不平等の歪みを顕在させ・・・異端で過激な男尊女卑を実現させているのだった。
「女に教育が必要ではない」という信念は「女の学徒」を迫害し、「女が男の所有物である」という曲解は「女生徒」を誘拐し、「人間爆弾化」することを辞さない男たちを生みだす。
そういう「宗教」に対して寛容であることは・・・男女平等社会にとっては危険極まりないことである。
「宗教を風刺すること」を「表現の自由に属さないこと」と土下座してしのごうとする日本の大新聞の姿勢は・・・このドラマで描かれる超ブラックな男尊女卑の姿勢を持つ企業と瓜二つなのである。
「その人について語ることがタブー」という流れがどんな歪な社会を作りだしたか・・・日本人ほど身に沁みて知っているものはないはずだろうに・・・。
で、『問題のあるレストラン・第1回』(フジテレビ20150115PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。もちろん、日本社会においては良識が支配し、ゆっくりとだが・・・男女平等社会は実現の方向に向かって進んでいるように見える。しかし、男女比に対して、政治でも経済でも支配的なのは明らかに男性である。日本ではまだ女性総理大臣が誕生しておらず、東大生の五人に四人までは男性なのである。男性と女性の学力に大きな開きがない以上・・・それが男尊女卑の結果であることは火を見るより明らかだ。そうした歪みは局所では信じられないような現象を引き起こすのである。
問題意識からはかけ離れた前向きで仕事好きな三十二歳の女性・田中たま子(真木よう子)は逆さに読んだらこまたかなたである。小股が切れあがって彼方にまで波及しているいい女なのだ。もちろん、下ネタである。
雨木太郎(杉本哲太)が一代で築きあげた大手飲食会社「ライクダイニングサービス」に勤務していた仕出し会社が吸収合併され、たま子は社員となる。
「働いて食べて寝る」だけで満足できるたま子は「ライクダイニングサービス」が企画する「シンフォニック表参道」というビストロの出店のために全力を注ぐ。
しかし・・・「ライクダイニングサービス」は時代に逆行し、女性に対するセクハラを一切禁止しないことで業績を伸ばしてきた恐ろしい会社だったのである。男尊女卑でいいと言われただけで実力が発揮できる恐ろしい男性社員の吹き溜まり・・・それが「ライクダイニングサービス」の実態だった。
直属の上司である土田数雄(吹越満)は「三十過ぎた女性社員は不要、子供を生まずに働く女は負け組、痴漢に遭うのは女が馬鹿だから」という精神構造で・・・女性社員を奴隷のように使役するのだった。
そういう社風が許されるのは窓際族である西脇太一(田山涼成)までが男尊女卑を貫徹し、女性に権利を主張させない陰湿な空気を醸しだすからである。
「ライクダイニングサービス」の女性は男性社員に体を触られても感謝しなければならないのである。
しかし・・・従順な神経の持ち主であるキラキラ巻き髪量産型女子・川奈藍里(高畑充希)は「女の敵は女」理論で男に阿り、この会社に順応する。つまり・・・女さえもが男尊女卑に融合するのである。
しかし、東大出身の新田結実(二階堂ふみ)は優秀な頭脳で・・・「これはちょっとおかしいんじゃないか」と気がつくのである。
ウエイトレスの制服会議で「ストッキングを脱いで生足を見せろ」と言われた時・・・結実は愚民たちに「愚民どもめ」と吐き捨てて退社を決意するのだった。
しかし・・・自分が女だと自覚しない風のたま子は・・・仕事に専念する。
やがて・・・たま子は高校時代の剣道部仲間の藤村五月(菊池亜希子)が同僚であることを知る。
実家がレストランである五月はたま子と同様に情熱を持って働いていたが・・・男尊女卑の社風に押しつぶされて廃人のようになっていた。
何があったかは知らぬままにたま子は「秘伝のレシピ」の提供を呼びかけ、五月の事業部参加を約束させる。
ビストロ「シンフォニック表参道」出店のために・・・恋人の国際コンクールに入賞した天才料理人・門司誠人(東出昌大)をシェフとしてスカウトし、ゲイのパティシェである几(おしまづき)ハイジ(安田顕)の雇用も決めたたま子だったが・・・気がつくと手柄はすべて土田部長に奪われ、ゲイであるハイジは社風に沿わないという理由で排除され、五月の復帰も叶わず、恋人のシェフは藍里に寝とられるという結果となる。
その結果さえ、笑って受け入れたたま子。
しかし・・・五月が受けた仕打ちを知った時・・・堪忍袋の緒が切れるのだった。
五月は不細工な同僚からストーカー行為をされたあげくに人事による裁断で子会社に飛ばされ、本社の尻拭いのために見捨てられそうになった子会社の窮地を救うために重役会議で全裸で土下座させられていたのである。
会社を訴えようと決意した五月は男尊女卑社会における女の敵である女だった母親に「恥ずかしいからやめてくれ」ととどめを刺されて廃人になっていたのだった。
「みんなをぶっ殺してやりたかった」と去っていく五月のために・・・五月を辱しめた男たちに冷や水を浴びせるたま子。
社長を目前にして警備員に捕獲され・・・警察に引き渡されるのだった。
たまたま・・・その場に居合わせたのが・・・もう一人の天才シェフで・・・雨木太郎の娘と生まれ・・・極度の人間嫌いになってしまった雨木千佳(松岡茉優)だった・・・。
ここまで・・・朝ドラマの関係者である「あまちゃん」の駅長、「あまちゃん」の観光協会長、「ごちそうさん」の夫、「ごちそうさん」の義妹・・・すべてが極悪のろくでなしだったが・・・どうやら埼玉出身のリーダーだけは善玉側にとりこめるらしい。まあ・・・基本、誰だかわからないスタイルですがああああああああっ。
完全に朝ドラをおちょくってるよね。
もちろん・・・たま子の中に復讐の炎は赤く燃えるのだった。
憎き仇の「ライクダイニングサービス」が出店するビストロ「シンフォニック表参道」の向いにある雑居ビルの屋上に・・・集合をかけるたま子。
そのメンバーは・・・仕出し屋時代の同僚のソムリエ・烏森奈々美(YOU)、覆面の天才シェフ・雨木千佳(家出中)、東大出身の新田結実、一流の腕を持つパティシエ・ハイジ、そして、たま子と五月の高校時代の友人で・・・夫の森村真三(丸山智己)と息子の洋武(庵原匠悟)の親権をめぐり離婚調停中の専業主婦・鏡子(臼田あさ美)だった。
「一体・・・何をする気なの・・・」
「ここでビストロをします」
「屋根もないのに・・・」
「ちんちんついてないのは女性の欠陥ですか」
「下ネタかよっ」
「やりますよ・・・シンフォニック表参道を・・・ぶっつぶしてやりますよ」
「・・・」
「悔しさを握りしめすぎたこぶしの中で爪が突き刺さってますから」
こうして・・・たま子の復讐劇は幕をあげるのだった。
とにかく・・・たき火好きな男でなくても・・・火の気がないと・・・インフルエンザに・・・。
どうやら・・・坂元裕二の素晴らしい世界がまたひとつ増えるようだ。
ここには気持ちのいい表現があるから。
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コメント
「Nのために」、「ごめんね青春」、「選taxi」…1ヶ月前は良かったなあと恋しく思い続けて、やっと続きが楽しみと思うドラマが始まりました。
よくこれだけ曲者な女性陣が揃ったなあ、と感心していたのですが、あの誰だかわからない彼女はリーダーだったんですね〜。近いうちにお顔が見られるんでしょうか。
ちょっと苦手だった真木さんも、なんかどんくさい感じが、可愛かったですね。氷水ぶっかけは、痛快でした。駅長にもかけてやりたかったけど、これからのお楽しみですね。
今年もレビュー、楽しみにしています。
投稿: ギボウシ | 2015年1月16日 (金) 12時31分
寒中お見舞い申し上げます。
収穫の秋ドラマでしたからねえ。
一方、今季はここまで
やや低調なスタート。
(月)「デート」
(火)「まっしろ」
(水)「夫」VS「家政婦」
(木)「問題レストラン」
(金)「未定」
(土)「カイダン」
(日)「花より幕末」
この流れではやはり
ダントツの「問レス」ですねえ。
初回から坂元ポエム魂爆発でしたな。
なるべく再現性低めを目指して
いつしか・・・高まりまくる
いつものパターンになりそう・・・。
登場人物・・・面白すぎですな。
「ごちそうさん」が「ごちそうさま」とか・・・。
たま子・結実の「大河ドラマ」ラインと
「朝ドラ」軍団の激突必至ですな。
NHKなのかっ・・・。
昔にくらべたら男女平等だなどと言う方には
真の男女平等がいかに遠いものかということが
理解できないのですな。
それはある意味既得権益にあぐらですからねえ。
そういうことに気がつかなければ
人生は楽かもしれないが
気がついてしまえば
どうしてもヒリヒリする心。
その清廉を・・・
謳いあげてくれ・・・。
祈りたい気持ちでございます。
吐き気がする野郎たちを
地獄の業火にたたきこめなのですな。
がんばってレビューしたいと考えます~
投稿: キッド | 2015年1月16日 (金) 21時23分