西日だけが入る狭い部屋で(亀梨和也)二人だけが幸せだったのだ(深田恭子)
舞台芸術を見て感動したことのない人に「コンテンポラリーダンス」を説明するのは難しい。
「歌舞伎」や「バレエ」、「シェイクススピア」でも「小劇場」でもいい。
とにかく、目の前で「凄いこと」が起きているという衝撃を受けたことのない人にはわからないことがある。
キッドの場合は寺山修司の舞台で目の前でむきだしの男性器を躍動させる男優さんの舞踏を見て「うわあ」と思った瞬間があった。
一言で言うと「ちんちんがぴょんぴょん」である。
その一瞬に・・・生きていることのどうしようもなさ、何者かを恋慕するということ、未知の世界、遥かな歴史、虚しい人生のようなものが激しく胸に迫ってきたのである。
このドラマを見ていて・・・意味がわからないという人は・・・まだ人生の意味を知らないのだろうと思う。
ひょっとすると一生わからないかもしれないが・・・気にすることはない。
大衆というものはそういうものだからである。
ダンサーと振付師と演出家と舞台監督と興行主の関係なんか知らなくても生きていけますし。
で、『セカンド・ラブ・第4回』(テレビ朝日201502272315~)脚本・大石静、演出・塚原あゆ子を見た。何が幸せってやつなのか。これが幸せってやつなのか。教えてほしい人とそうでない人はいる。日本に生まれたことが幸せなのはあったかいごはんを食べればわかるのか、川崎にはなるべく近付かない方が幸せなのか、どうしても献金は幸せなのか、原発稼働が幸せなのか・・・幸せではないニュースだけが幸せなのか・・・いろいろと大変なんだなあ。そして・・・今年も春が近付いています。この恋が終る時・・・愛が始るのか。それともただ桜が咲くだけなのか。白い季節はゆっくりと流れて行くのです。
不倫は文化でもあり罪でもある。
不倫をいけないことと決めつけるのは息苦しいが・・・正々堂々とされても困惑するのである。
第一、愛人と外食した後で家族と家ごはんするのは肥満の原因になる。
平慶(亀梨和也)と恋に落ちた西原結唯(深田恭子)は同僚教師・高柳太郎(生瀬勝久)との不倫関係を解消する。
飛行機事故も離陸や着陸の時に起きやすいと言われるが、不倫も終焉に発覚しやすいのである。
終わらせたい方は無防備に急ぐし、終わらせたくない方は焦りで失策する。
安定期には完璧だった隠匿工作が破綻し・・・周囲にあらぬ疑いの目を生じさせる結唯と高柳だった。
県立山王女子高校は進学校であるために生徒にはある程度の鬱屈がある。
弱みを見出した生徒たちは鬱憤晴らしの機会を見逃さない。
「不倫」と騒がれて戸惑う結唯。
(今は)してません・・・と反駁できないのである。
もちろん・・・結唯には罪の自覚や・・・自分が加害者であるという自覚もあまり感じられない。
何しろ・・・死んでいる気分だったのである。
事態の鎮静化を図ろうと・・・内藤教頭(永田耕一)と木田校長(越村公一)は密室での事情聴取を通達する。
しかし、自分は狡猾であると信じる高柳は職員室での偽証に踏み切るのだった。
「私と西原先生には不適切な交際はありません」
「しかし・・・火のないところに煙は立たないと申します」
「何が問題なのでしょうか」
「高柳先生と西原先生がファミレスとデートしていた・・・高柳先生と西原先生がドライブをしていた・・・高柳先生と西原先生が通学路で痴話喧嘩をしていたという噂があります」
同僚の上田波瑠子(秋山菜津子)はくのいちだった。
「それは・・・生徒のことについて相談を受けたからです。時間が長引いたので西原先生をお宅まで車でお送りしたことがありました。その時は西原先生のご母堂にもご挨拶申し上げています。通学路の口論は指導方針の意見交換です」
「私が・・・もう少し時間をいただけないかとお願いしていたのです」
慣れ合いで口裏をあわせる二人だった。
一種の阿吽の呼吸である。
なにしろ五年間も秘密を共有していた二人なのである。
隠蔽の素材として使われた竹内そら(小芝風花)は高柳もしくは西原に特別な感情を抱いているようで・・・同級生の噂話に「先生はそんな人じゃない」と釘をさす。
まあ・・・そんな人だったわけだが・・・。
「不倫相手にナギナキはないと思う」という意見に反対なら・・・ナギナギに好意を抱いていることになるが・・・よくわからんな。
まあ・・・人殺しとだって恋をすることができるのが青春だからな。
「やってるやってるって・・・やってるとこみたのかよ」と机をドンするそらだった。
廊下で囃したてる女生徒たちについに爆発する恋の力。
「私が一緒に暮らしているのは年下の独身男性です」
居合わせたナギナギは複雑な気持ちになるのだった。
「ここは勉強をする場所ですよ・・・わきまえなさい」と胸を張る結唯である。
何しろ・・・忌まわしき過去は清算されたのである。
しかし・・・それが結唯の一方的な思いであることは確実で・・・犯した罪は消えたりはしないのである。
ヒロインの幸せを願うお茶の間はハラハラドキドキするのだった。
二人の恋のもう一つの障害である結唯の心を病んだ母親・真理子(麻生祐未)・・・。
真理子は慶の職場を急襲するのだった。
「結唯は本当に私の可愛い子供なんです・・・私に返してください」
「それはできません」ときっぱり断る慶だった。
「経済的問題はどうするんです・・・まともな仕事もしていないのに・・・私や結唯を養っていけるんですか」
「養っていく気はありません」
「そんな・・・私は誰を頼ればいいんですか」
通りがかりの仕事仲間の田島(寺島進)はつぶやく。
「この間は若い子だったのに・・・今度は熟女かよ」
「なんですって・・・うちの結唯は若いとは言えないから・・・別に女がいるのね・・・そういうことね」
「いません」
「嘘・・・娘を騙す気なのね」
「騙しません」
「じゃ・・・結婚する気なの」
「結婚はまだ考えてません」
「なんですって・・・結婚する気もないのに・・・一緒に暮らすなんて・・・許せない」
慶を鉄拳制裁する真理子だった。
とにかく、自分の幸せは願っても娘の幸せは願わない真理子だった。
「お母さんに会ったよ」
「え」
「仕事場に来た」
「ひどいこと言われなかった?」
「平気だよ・・・面白い人だった・・・どんなに反対されても俺の気持ちは変わらないから」
見つめ合う二人はさっそく身体も合わせるのだった。
身体能力に自信があり、性的遊戯に興味がある慶は・・・結唯に様々なプレーを仕掛けるのだった。
「こんなの・・・はじめて」と喜びで満たされる結唯なのである。
恋する男のためにお弁当をつくる女。
しかし・・・いつも母親にお弁当を作ってもらっていた結唯はあまり上手にはできないのだった。
「お母さんはすごいなあ・・・こんなの毎日」と感心する結唯。
レッスン場で寄り弁と化した結唯のはじめての弁当に微笑む慶だった。
今は・・・すべてが輝いている時なのである。
一方・・・不倫の噂を消火した高柳は・・・受験のために息子をホテル宿泊させるという妻(片岡礼子)の発する不穏な空気に気がつかない。
失われた愛人を惜しむ気持ちで心が満たされていたからである。
愛人との離別が引き金になって配偶者と離婚はよくあるパターンだ。
つまり・・・二兎を追うものは一兎も得ずなのである。
お茶の間の皆さんもご注意ください。
最愛の寄生相手を失った真理子は堕落し、卵かけご飯三昧の日々を送る。
娘の仕送り待ちである。
一之瀬佑都(大貫勇輔)の主演する「美しい悲劇」の日本公演で通訳を務める慶。
ドイツ人演出家の意図を的確に伝えて行く慶。
そして・・・一之瀬佑都の演技を見た慶。
慶は・・・自分のダンサーとしての夢が終焉したことを悟るのだった。
一之瀬の美しいダンスが自分を越えていることを認める慶。
圧倒的な芸術に感動すると同時に打ちのめされる慶。
涙を泣かさずにはいられない慶だった。
帰宅した慶の微妙な変化を感じる結唯だった。
「通訳の仕事・・・私のために無理をしているんじゃ・・・」
「そんなことはない。確かに結唯に出会わなければ通訳の仕事は引き受けなかったかもしれない」
「・・・」
「しかし・・・わかったこともある・・・俺は・・・主役の座を奪われるべくして奪われたんだ」
「それって・・・」
言い淀む慶。
彼を傷つけたと感じる結唯。
「一之瀬佑都は素晴らしいダンサーだった・・・今は演出家の気持ちが分かる・・・誰もが最高の表現を求めているからだ」
「でもその人があなたを・・・」
「クビにしたのさ・・・しかし・・・彼は俺の恩人だ」
「よくわからない・・・」
「舞台を見てみないか・・・」
「でも」と言葉を荒げる慶に怯える結唯は迷う。
「俺のこと・・・知りたいんだろう・・・そのために・・・本物のコンテンポラリーダンスを見て欲しい」
「わかったよ・・・」
「じゃあ・・・夜のストレッチだ」
「え~」
「さあ・・・もっと股を開いて」
「ああん・・・無理無理・・・痛い痛い」
「フフフ」
冬なのに汗ばむ二人だった。
舞台の初日に招待された結唯。
先に出た慶とは楽屋の出口で待ち合わせである。
ありふれたドラマでは見なければいけないドラマを結唯が見ることができないというお約束であるが・・・二人の心の結びつきを深めるために「舞台」を避けては通れない。
虚しく妨害の電話をかける真理子。
「痛い痛い・・・結唯ちゃん・・・お母さんお腹が痛いの」
「仮病でしょう」
「あら・・・わかる・・・やはり母子ねえ・・・ねえ、結唯ちゃん、帰って来てよ」
「もう・・・私を解放して」
「あんな男、結唯ちゃんと結婚する気はないと言ったのよ」
「嘘つき・・・」
電話を着る結唯だった。
「嘘じゃないのに・・・少し悪意を込めただけなのに・・・」
真理子はあくまで自己中心的な母親だった。
娘の結唯が愛おしくないわけではなかったがそれ以上に自分が愛おしいのである。
一方、舞台ではアクシデントが発生していた。
一之瀬が負傷してしまったのだ。
「腕が動かないので演じることができない」
主演が踊らなければ幕が上がらない。
演出家も公演の中止に傾く。
困惑する主催者たち。
「慶・・・代役をするか」
演出家は譲歩した提案をする。
ありふれた展開では主人公が脚光を浴びるお約束だが・・・深みを目指してお茶の間の期待を裏切るのだった。
「振付を変えれば大丈夫だ」と意見を述べる慶。
「しかし・・・完璧なパフォーマンスでなければキャリアに傷がつく」と一之瀬。
「君には与えられた舞台がある・・・そこで踊らない方が罪深い・・・大丈夫・・・君は美しい」
一度は主役を務めた慶である。
誰よりも演出家の意図を掴み、理解を深めていた慶。
踊りは一之瀬が上でも・・・表現には自信があった。
慶の提案する振付に目を輝かす踊り子と演出家。
「素晴らしい解釈だ」
「これなら・・・負傷をカバーできる」
慶は一之瀬の負傷と腕の固定さえもダンスに取り込み昇華させるのだった。
一之瀬の表情に蘇る自身。
上京した結唯は用意された席に着く。
幕は上がった。
慶の指示により訂正された照明が舞台に光を与える。
この世に生まれ落ちたダンサーはすでに手負いだった。
苦難を暗示し、もがくようなアクロバティブを展開する一之瀬。
結唯は最初から舞台に魅了される。
高みを目指す若者はこの世の不条理に耐え天上世界を目指す。
美しさと悲しみが交錯し終幕する世界。
観客たちは惜しみない拍手を贈るのだった。
舞台の成功に祝福される慶。
「君がいなければ・・・この成功はなかった」
「素晴らしい舞台でした」
喧騒を抜け、闇へと続くバックステージ。
楽屋口の扉の向こうは雪だった。
雪の中に佇む結唯。
微笑む慶。
結唯は小さく賞賛の拍手を贈るのだった。
「凄かったよ・・・」
二人は「美しい悲劇」に高揚するのだった。
芸術を愛する文化的な人々から好評を得た舞台。
成功の立役者として慶は好意的に紹介される。
振付師・慶の誕生だった。
やがて・・・興行主の紹介により、CMの振付の仕事が舞い込む。
「エビエビカニカニ~」
開花する振付師の才能。
慶は脚光を浴びるのだった。
「凄いね・・・」
「他にも振付の仕事が来ているんだ・・・俺が踊る仕事も・・・」
「やったね」とエビエビカニカニでいろいろとする二人だった。
受験シーズンに突入した高校。
職員室には東大合格者の報告が入る。
高柳の息子も東大に合格するのだった。
しかし・・・祝いのステーキを購入した高柳は・・・妻からの離婚の申し立てに度肝を抜かれるのだった。
「なぜだ・・・」
「自分の胸にお聞きください」
部屋からは家具が消えていた。
高柳は家も家族も失う運命なのである。
「なんという・・・仕打ちだ」
上田波留子からお茶に誘われる結唯。
実は上田は二十歳年下の男と交際していた。
「年下の男と付き合ってるもの同志なのよ」
「まあ」
「仲良くしましょう」
「はい」
「若い子はいいでしょう・・・身体が」
「美しいです」
「私の相手はずんぐりむっくりだけどね」
「あら」
「そういう話がしたかったの・・・不安だもの」
「どうしてですか」
「だって・・・絶対に先に老いていくのよ・・・」
「・・・」
結唯の心に一瞬・・・不安がよぎるのだった。
その夜・・・慶はシャンパン・ドンペリオンを買って帰る。
結唯はハンバーグを焼いた。
「ギャラが出たんだ」
「ドンペリなんて・・・乾杯」
「何に」
「ギャラに」
「本当に・・・結唯は僕の女神様だ」
「いつまでも・・・慶の女神でいられるといいけど」
「もっと・・・いい部屋に引っ越さないと」
「私・・・この部屋が好きよ・・・レッスン場も学校も近いし・・・下は銭湯だし」
「後で・・・お風呂に行こうね」
しかし・・・結唯を求める慶。
「お風呂に行ってからじゃないの」
「お風呂に行ってから・・・またすればいいよ」
慶は結唯の髪に顔を埋め・・・女神の香りを楽しむのだった。
「私たち・・・しすぎじゃない」
「嫌なの」
「嫌じゃない」
とにかく・・・世界にどんなに不幸が満ちていても慶と結唯は幸せだった。
幸福の絶頂がここにあるのだ。
慶は結唯に突き刺した。
結唯は慶を飲みこんだ。
二人は高みを目指していく。
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