天は大任を降さんとする時ことごとくその志に反せしめる(川島海荷)
孟子・告子下篇は「若い時の苦労は買ってでもしろ」の原点である。
「天の将に大任を是の人に降さんとするや、必ず先づ其の心志を苦しめ、其の筋骨を労し、その体膚を餓やし、其の身を空乏し、行ひ其の為すところに払乱せしむ」
つまり・・・天が選んだ人は・・・物凄い試練を与えられるわけである。
この前段で孟子は過去の偉人の例をあげている。
古代の聖王舜は庶民出身で、殷の賢相傅説は人夫、殷の賢臣たる膠鬲は行商人、斉の賢相たる管仲は囚人、秦の賢相たる百里奚は奴隷・・・と卑しい身分から身を起こしたものは多い・・・だから、今はどんなに苦しくてもまわるまわるよ世界はまわるなのだと言うわけだ。
ここで・・・一生奴隷だったり、終身刑だったり、庶民の場合もあるのではないですか・・・などというのは無粋なのである。
辛い境遇の人への慰めにはならんからな。
絶望して刃物を振り回すバカが多いだけに。
で、『花燃ゆ・第6回』(NHK総合20140208PM8~)脚本・宮村優子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は吉田松陰が萌えたと噂の淫乱未亡人・高須久子の描き下ろしイラスト大公開でかなりお得でございます。「流星ワゴン」と井川遥のはしごキターッですな。また尽心上篇の「孟子曰、萬物皆備於我矣、反身而誠、樂莫大焉、強恕而行、求仁莫近焉」の件もご確認できましてありがたいのでございます。とにかく孔子やら孟子やらで勉強嫌いな人は困惑の大河ドラマですからねえ。まあ・・・基本処世術ですから・・・参考になる人もいるのかもしれませんな。東に間違いを犯した人があれば悔い改めればよいと励まし、西に苦労している人があれば生きていればきっといいこともあるよと慰める。まさに聖人君子ここにありでございますねえ。そして・・・結局・・・こんな世の中ぶっこわせばいいと囁く。まさに天才と狂人は紙一重の見本でございます。ある意味・・・広島や長崎に原爆を落し東京を焼け野原にした張本人ですからな。吉田松陰は。尊敬する他ありません。そして画伯のレビューが去年より長めでうれしい今日この頃でございます。
大河名物、停滞の巻である。安政二年(1855年)一月で停まりました。ドラマとしては行動主義だった吉田松陰が密航失敗、弟子の獄死と挫折を経験し、懊悩して再出発する件を野山獄の描写で描いて行くという趣向。あんなに脱獄しやすそうな牢獄からなぜ逃げないのかと疑問の向きもあると思うが・・・それが鎖国というものなのだ。生産される食糧が決まっていて供給のシステムが固定されているのである。この牢にいるから食えるのだ。出れば餓死が待っているのである。下手に脱走できません。高須杉原家の娘である久子は糸子という娘を出産し道具としての役割は果たしている。たとえ不義密通の罪を犯しても飼い殺しにされるぐらいの身分の高さがあるわけである。毛利興元の娘婿である杉原盛重の血族は幕末にあっても家格が高かったのだ。そうせい侯と仇名される藩主・毛利敬親は凡庸だったが周囲の人材は優秀だった。慢性的な借財に苦しんでいた長州藩は家老に出世した村田清風の改革により密貿易でたんまり儲けたのである。しかし・・・そうなると権力闘争が盛んになるわけである。この頃、藩政は坪井九右衛門、椋梨藤太、周布政之助らが激しい主導権争いを繰り広げている。椋梨藤太が失脚し村田清風が返り咲いたかと思えば椋梨藤太がまた復活というような案配だったのである。吉田松陰はそういう政争とは関わらず・・・もっと恐ろしいことを考えていたわけである。藩なんてそのうち消えてなくなるさと・・・。
幕藩制では人間の往来は激しく制限されている。
しかし、その中で掟に縛られないものもあった。たとえば海の男たちである。
漁師や廻船の水夫たちは容易に国境を越えることが可能だった。
その中にツナギと呼ばれる忍びが潜んでいる。
幕末といえども・・・公儀隠密はそれなりに機能している。
江戸には服部半蔵がいて・・・全国の草のものの探索の成果をツナギを通じて集積しているのだ。
草のものは・・・江戸幕府が開かれる頃より、各藩に潜伏し、あるものは藩の重役であったり、富裕な農民だったりもする。代々、密偵としての使命を果たしてきたのである。草のものたちは藩の実情をツナギに伝え、ツナギたちは服部半蔵に情報を届ける。二百年続く秘密の制度である。
代を重ねた服部半蔵は・・・その名を明らかにしているわけではない。影の軍団としてその首領は大奥を通じて歴代将軍に仕えてきたのだった。
勝海舟が半蔵の一人であることは言うまでもない。
江戸のツナギの一人、弦蔵から報告を受けた覆面の男は一通りの話の後で聞きだした。
「吉田寅次郎はどうしてる?」
「ペルリの船に密航を企てた男ですな」
「おう、そうよ」
「野山獄の座敷牢につながれております」
「ほう・・・」
「周布の一派に連なる男ではありますが・・・まあ、戦力外でございましょう」
「いいかい・・・寅次郎からは目を離さないように草に指図を頼むわ」
「承知・・・」
「おめえにはわかるまいが・・・あれは・・・なかなかに恐ろしい男なのよ」
「必ずつなぎます」
「頼んだぜ」
公儀隠密ツナギ者の疾風の弦蔵は姿を消した。
覆面の男は裏店から大川へ出る。
川船に乗り込むと船頭は漕ぎ出る。
船を降りた時、男は異国応接掛附蘭書翻訳御用・勝麟太郎義邦に戻っていた。
江戸には冷たい北風が吹いていた。
関連するキッドのブログ→第五話のレビュー
| 固定リンク
コメント