苦しんで死ねばいい泣き寝入り教習所の教官たちへ(真木よう子)
ろくでなしの人々にお似合いのろくでなしの世界があります。
ろくでなしの親にお似合いのろくでなしの子供がいます。
ろくでなしの夫にお似合いのろくでなしの妻がいます。
ろくでなしの働き手にお似合いのろくでなしの仕事があります。
ろくでなしの国民にお似合いのろくでなしの国家があります。
ろくでなしの平和にお似合いのろくでなしの戦争があります。
ろくでなしだとお思いでしょうがろくでなしほどまっすぐを欲しがるものでございます。
曲がりくねった心をすっきりさせてみたいから。
で、『問題のあるレストラン・第5回』(フジテレビ20150212PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。男女平等を目指す世界は男が自由であるように女が自由であるべきである。世の中の半分の自由さが解放される時、世の中の半分は自由の半分を奪われたように感じるかもしれない。世の中の半分は自由であることに不自由を感じるかもしれない。世界観戦争は果てしなく続く。たとえそれが不毛しか生まないとしても止めることはできないのである。そして世界はきっとなるようになっていくのだ。
カレーの美味しいレストランでランチでデートを楽しむ二組のカップル。
ソムリエ・烏森奈々美(YOU)は怪しいイタリア人に「ナポリタン」について語る。
お尻を触らずにはいられない土田(吹越満)は不倫中の秘書(松本若菜)に責められる。
「家族と仲がいいのね」
「接待だよ」
「アスレチック公園のわんぱく広場で」
「やめろよ」
「秘書課の女に手を出して左遷された人いたわ」
「おい」
ソムリエの注文したナンが誤配されて秘書は土田をナンで往復ビンタするのだった。
閑古鳥の鳴く「ビストロ・フー」に「街で見かけたろくでもないカップルの話」を報告するソムリエ。
しかし・・・たま子(真木よう子)やパテシェのハイジ(安田顕)は脱走した東大出身の秀才・ゼネラルプロデューサー新田結実(二階堂ふみ)の身の上を案じていた。
ソムリエは「東大ちゃんは・・・六本木ヒルズでコンテンポラリーな感じになっていた」と目撃情報を告げる。
一方、傲慢なシェフ・門司(東出昌大)が仕上げたポトフはテレビ番組などで紹介され、「ビストロ・シンフォニック表参道」は行列のできる繁盛ぶりである。
形勢逆転を目指しミーティングをするメンバーたち。
「ワンコインランチはどうかしら」という三千院鏡子(臼田あさ美)の提案を受けて「ランチボックスを販売しよう」とたま子は宣言する。
シェフ・雨木千佳(松岡茉優)も賛成するのだった。
そこへ・・・土田をお伴にシェフの実の親である雨木社長(杉本哲太)が現れる。
「娘がお世話になってるからね」
「いらっしゃいませ」
最初は客として二人に接するたま子だが・・・外道の極みを歩む雨木社長の言動に呆れかえるのだった。
「俺はもう何も気にしていないよ。君は裸になったなんとかって子のためになんかしたようだけどあの子もそういうことをエンジョイするべきだったんだよな。体育会系のノリなんだから。まあ、綺麗なおっぱいしてたけどね。そういうことは水に流して君のことは援助したいと思っている。こんな店なんかやめて俺の愛人にならないか。月三百万円でどうだ。なんなら一月おためししてもいいよ」
「お帰り下さい」
「この店は客を追い返すのか」と土田。
「害虫は駆除しないといけないので」
「なんだと」と土田。
「ナンだね」とソムリエ。
「この店にやってきたみんなは一人一人目的が違います。私は夢破れた友達のためにこの店を始めました。すべてはあなたに復讐するためです」
「年商三百億の我が社にか」と土田。
「あれ・・・携帯の充電が切れちゃった」とあくまで自己中心の雨木社長。
ハイジに料理を運ぶように薦められたシェフちゃんだったが・・・。
「おお、千佳じゃないか・・・パパと一緒に」
「この料理は豚の餌じゃない・・・藤村五月さんのごはんです」
席を立った雨木社長は笑みを浮かべる。
「次に裸になるのは君だな」
「一昨日きやがれ」と地中海の塩を撒くソムリエだった。
雨木社長は立派なカリスマ経営者で普通に悪の権化・・・素晴らしい演技である。
トレビアンと言いたい。
「ランチボックス作戦」を開始するたま子。
街頭売りは好評でついに完売の日を迎える。
噂を聞いた傲慢なシェフはピンクからホワイトになったウエイトレス・川奈藍里(高畑充希)に変装させて敵情視察をする。
「ビストロ・フー」をぶっつぶすためにより豪華でより安価なランチボックスを始める「ビストロ・シンフォニック表参道」だった。
たちまち・・・売れ行きは急降下である。
「つぶしにきたんだ・・・焼け死ね」と呪うシェフちゃんだった。
街角でいいインターネット風の東大ちゃんを発見するたま子。
駆け寄ろうとするがシェフちゃんは止める。
東大ちゃんはビジネスマンと待ち合わせをしていた。
東大ちゃんだけにいい就職が見つかったのだろうと推測するシェフちゃんだった。
しかし・・・東大ちゃんはよりどす黒くブラックちゃんになろうとしていたのである。
一方・・・小さなお子様お断りの「ビストロ・シンフォニック表参道」ではホワイトちゃんに対する池辺(川口覚)のストーカー行為がエスカレートしていた。
一度食事をしただけで恋人きどりの池辺は・・・勝手にホワイトちゃんのロッカーを整理し、連日自撮り画像を送りつけてくるのだった。
「キモイと思わない?」と女友達に相談するホワイトちゃん・・・。
しかし・・・ホワイトちゃんを本当は快く思っていない女たちは「自慢してるの?」と冷たく突き放す。
望まぬ「いい子いい子攻撃」に晒されるホワイトちゃん。
ブラックちゃんにけしかけた実は悪魔くんである星野大智(菅田将暉)も「六本木方面」に用事があるためにつれない。
「なによ・・・あんた最近・・・」
「実は俺、ベンチャーしようと思ってるんす」
「べ」
教えていない実家に勘違い男・池辺から電話があり・・・帰宅したホワイトちゃんを待ちうけるのは一人暮らしのドアの前に張り付くストーカー・池辺の不気味な姿だった。
逃げ場を失ったホワイトちゃんは傲慢なシェフがポトフ作りに燃える厨房に逃げ込む。
「またフォン作りですか。あんなに人気があるからもういいじゃないですか。あ、私、洗いもの手伝いますね」
「俺は客のために料理しているわけじゃない」
傲慢なシェフは単に傲慢なだけでこの異常な男尊女卑社会ではややまともな男である描写が展開し始める。
まあ・・・ろくでもないことには変わりはないんだがね。
傲慢なシェフは嫌な奴だがダメな奴ではない風に描かれてきた。
ただし・・・そうなると雨木社長もそうなってしまうし、土田もそうなってしまう。
この描写はまるで異次元境界線を飛び越えた唐突さを感じさせる。
しかし、そう思わないお茶の間もあるだろう。
それが世界観戦争の醍醐味なのである。
そしてホワイトちゃんの中で激しく懊悩する本音と建前の表出である。
洗いもの用手袋を投げた傲慢なシェフの気配り。
「あ・・・だめなんですよ。うちの方の田舎じゃ洗いものしている時に手袋なんかするとお高くとまっている風になって母親が蔭口たたかれるんです。そうすると母親に愚痴られるから手袋なんてできないんです。私はそんな閉塞感に満ちた田舎の女なんですよ」
「ふ」
「だからカラオケに行きましょうよ」
「いやだ」
「ち・・・今、打ち解けたきがしたのに。ごめんなさい・・・じゃ、趣味の話しましょう。シェフはバイク通勤ですよね。ツーリングとかいかれる人なんですか。サーフィンもしますよね。私、ブギ・ボードならしたことあるんですよ。あの人のことまだ好きなんですか。料理に心がないって言われて意地になってるんですか」
「・・・」
「ごめんなさい・・・だからカラオケに行きましょう・・・私、天城越えが歌いたいんです」
「いやだ」
「あの・・・私、二番目でいいですから」
「お前って・・・最低の女だな」
「・・・私、帰ります」
傲慢なシェフはホワイトちゃんの置かれた状況を把握している。把握して見て見ぬふりをしているのである。その優しさが最後の一言で漏れる。
「寝るなら仮眠室で・・・」
しかし・・・ホワイトちゃんはいたたまれない場から逃げ出した。
行くあてもなく街を彷徨うホワイトちゃんは道に倒れた男に声をかける。
男は「三万円でどうだ」と答える。
ホワイトちゃんは赤いロードコーンを振りあげるのだった。
殺さなければ殺されるからである。
それを制止する通りすがりのたま子だった。
「だめ」
女たちのアジトに保護されるホワイトちゃん。
「プロ野球選手と結婚した女子アナだけが勝ち組」と主張するホワイトちゃん。
「花形スポーツマンとチアリーダー的な」と受け流すソムリエ。
「私はみなさんが勝つ方法を知ってます」
「教えて」と三千院。
「水着になればいいんです」
「・・・」
「死ね」とシェフ。
「どうしてですか」
「苦しんで死ね」
「私なんかいつも水着になってますよ。私はどこでも水着になれる免許持ってるんです。お尻を触られたってスキンシップ教習所卒業してますから。痴漢されるのはスカートを履くからです。男に暴力をふるわれるのは女が至らないから講習済みですよ。私の財布は免許でいっばいですから。≒なんですよ。彼氏がプロ野球選手なら私は≒プロ野球選手です。彼氏が無職なら私がどんな仕事をしていようが≒無職なんですよ。しずかちゃんがどうしてダメな男と乱暴な男と金持ちの男としか遊ばないか知ってますか。女の子はどれだけおごってもらえるかがステータスなんです」
「ドラえもんは男の子向け漫画なんだな」
「だからお風呂を覗かれても笑って許すしかないんですよ。そういう女だけがこの世をエンジョイできるんです」
「お風呂に入るでしょ」
「帰り路・・・湯ざめするんで」
「泊って行くでしょう」
「泊りません」
「パジャマあるよ」
「しずかちゃんには女の子の友達なんていらないんですよ」
「だめよ・・・お尻を触らせちゃダメ。お尻にだってあなたの心があるの。好きな人にだけ触らせて・・・そんな風に心を殺したらいつか自殺することになる」
「なんで・・・上から目線なんですか・・・まだシェフのこと好きなんですか」
「女子力なんて・・・所詮、男のための力でしょ・・・意地をはらないで」とハイジ。
「誰が意地をはってるんですか」
「女の子の気持ちはわかるのよ・・・女ですもの」
「・・・」とお茶の間。
「女同士はみじめに慰め合って癒し合うんですか」
悔し涙があふれかかるホワイトちゃん。
憐れに思うしかないたま子。
「ニコラス・ケージのパジャマもあるわよ」
「私はカラオケに行きたいだけなんだ・・・あなたと越えたい天城越え・・・」
ホワイトちゃんは誇り高く帰宅した。
「あいつ・・・すごいな」と賞賛を惜しまないシェフだった。
たま子は「バレンタインデー・フェア」を思いつく。
ヴァイオリン生演奏付で恋人たちにディナーを楽しんでもらう企画である。
察知した傲慢シェフは弦楽四重奏付のバレンタイン・フェアを開催するのだった。
歯ぎしりするたま子・・・。
しかし・・・入店を拒否された子連れの夫婦たちが・・・ヴァイオリンの音に誘われて「ビストロ・フー」に流れてくるのだった。
湧きだすように現れる子連れのカップルたち。
ハイジの提案で託児サービスも開設される。
三千院は子供たちの相手に燃えるのだった。
シェフ自慢の料理、パティシェ自慢のスイーツが炸裂し、カップルたちは恋人たちの夜を楽しむ。
やや・・・髭の濃くなったハイジは客のリクエストで挨拶し、賞賛されて感涙する。
「ハッピーバレンタインデー」
シェフは切腹せずにハイジとハイタッチを交わすのだった。
そして・・・「ビストロ・フー」は開店以来初の黒字110円を達成する。
一人当たりの配当22円である。
つぶれるぞ。
その頃・・・池辺によって公園に呼び出されたホワイトちゃんは自己中心的で排他的なストーカーのイルミネーション・サプライズの嵐に襲われる。
「ごめんなさい・・・気持ち悪いです」
免許を更新せずに池辺の一方的な愛を拒絶したホワイトちゃんはストーカーの鉄拳制裁を受けて倒れ呻くのだった。
誰か通報してくださいという願いも虚しく夜の静寂が二人を包む。
死を招きかねないたま子の美しい言葉。
しかし、それが世界観戦争なのである。
語ることはそういう恐ろしい行為なのだ。
語るものには常に覚悟が必要なのである。
その頃・・・悪魔くんと待ち合わせをしたブラックちゃんは融資先を訪問する。
「普通の会社じゃないわね」
「どうする・・・やめる?」
「もう・・・他にあてがないから・・・」
しかし・・・怪しい高級マンションの一室からは偽タキシード仮面のような怪しい男(弓削智久)が現れる。
悪魔くんを残してブラックちゃんが踏み込んだ奥の部屋には・・・。
いかにも魂を抜かれたスクール水着やセーラー服着用の女の群れが・・・。
恐ろしい凌辱の予感がお茶の間を走り抜けるのだった。
久しぶりに絶叫マシン展開である。
「わたしたちの教科書」を思い出す。
そして・・・「ビストロフー」に鍋を持って現れる傲慢シェフ。
「これを食って答えてくれ」
ポトフである。
「店なんかやめろ・・・」
「何、言ってんの」
気色ばむたま子。
「仕事なんてやめて・・・俺の嫁になれ」
「え」
なんじゃそりゃあと一部お茶の間は松田優作化するのだった。
信じられないことだがこんな場面でも胸キュンするホワイトちゃん予備軍は存在する。
それが世界観戦争の現実なのである。
そしてこの物語は「地獄の黙示録」だ・・・。
男尊女卑地獄めぐりの旅ですから。
男社会でそこそこ頑張って生きている女性さえ全否定なのである。凄いぞ。
なにしろ・・・そういう女性は裏切り者なんだからな。
次はアン・ドゥ・トロワのトロワです。
ワルツなので。
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