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2015年2月20日 (金)

神宮の森でシューベルトの最後のピアノソナタを私たちは分かち合いました(松岡茉優)

黒沢明監督の映画「七人の侍」は娯楽大作である。

その面白さを一言で語るのは難しいが「七人」揃えばなんとかなるという風潮はある。

「七人の刑事」もあれば「七人のおたく」もあるわけである。

「問題のあるレストラン」に「アホ」の旗が翻るのはオマージュと言っていいだろう。

「七人の侍」の守るべき相手は農民たちで、敵は野武士たちだった。

このドラマでは守るべき相手は「女が女として生きる権利」であり、敵は「それを認めない全人類」である。

つまり・・・男と女の戦いではないところが・・・ミソなのである。

妥協点を探り、現実的対応をしている女性も「敵」なのだ。

「戦争反対」を叫びつつ「政治的混乱による紛争」を辞さない人々の言動は実に危ういものだ。

だが・・・このドラマの「侍」たちの儚さは別次元にある。

それが結実する三人の幼さを残す「侍」による陽だまりのひととき・・・。

その美しさにうっとりである。

「巨悪」に戦いを挑む時、罵詈雑言をもってするのは愚の骨頂である。

美しい剣だけがその価値を持つのだ。

それが世界観戦争の最終兵器なのである。

で、『問題のあるレストラン・第6回』(フジテレビ20150219PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。人類の歴史が生み出した怪物である「ライクダイニングサービス」の社長・雨木太郎(杉本哲太)に親友の藤村五月(志田彩良→菊池亜希子)を凌辱された田中たま子(真木よう子)は復讐を誓うのだった。五月は都落ちした後に消息不明である。自殺してしまった疑いも捨てきれない。生きて再登場してもらいたいものだ。たま子は「LIKEDINING SERVICE」社の経営するビストロ「SYMPHONIC OMOTESANDO」を見下ろすビルの屋上に「ビストロ・フー」をオープンする。雨木太郎は既成事実としての「男性上位」からあくまで自然体で「女性」を見下しているのである。レストラン経営能力以外に何の武器ももたないたま子にとって・・・たとえ北風吹き抜く極寒の環境でも何が何でも物理的に「敵」を見下ろしたかったのだろう。そんなことでしか敵意を示すことができなかったのだ。そして・・・傲岸不遜の雨木にとって頭上に翻る旗は確実に目障りだったのである。しかし・・・敵は男尊女卑を肯定する全世界である。果たして・・・たま子に勝機はあるのだろうか・・・とお茶の間は危ぶむのだった。

東大出身の秀才・新田結実(二階堂ふみ)は初めての性交渉を伴う恋に我を忘れ、男尊女卑社会の底辺に蠢く悪魔くんこと星野大智(菅田将暉)に人生を賭ける決意をする。自称・恋愛依存症の量産型巻髪クルクルガール・川奈藍里(高畑充希)は「彼には同棲中の彼女がいる」と結実に忠告するが、心神喪失中の結実は聞く耳を持たないのだった。

悪魔くんは・・・高層ビルにある地下社会に結実を案内し、超法規の性的快楽を求める富裕層の大人の性の社交場に置き去りにするのだった。

支配人(遠藤要)に「融資のプレゼンテーションをしてもよろしいでしょうか」と質問する結実。

「ここには一秒で一億円稼ぐお客様が来るからね・・・君の夢が叶うかどうかは君次第だよ」

「一分で六十億円ですか」

「え」

悪魔くんは明らかに売春のための魔窟と察しながら、魔窟スタッフの米田(加藤慶祐)から十万円を受け取り退場する。

「すごいんだよ・・・物件の仲介料が十万円なんだ・・・焼き肉行こうぜ」

同棲中の恋人に連絡する鬼畜・悪魔くんなのである。

一方、藍里は同僚でストーカーの池辺(川口覚)に顔面を殴打され、部屋に引きこもるのだった。

「どうしてるかなと思って・・・ええ・・・私は大丈夫・・・店にいるのはみんないい人だし・・・え・・・やたらと電話してくるって・・・してないよ・・・してるか」

藍里の精神も破綻寸前なのであった。

ブラック結実とホワイト藍里の絶望的状況から一転・・・たま子は傲慢なシェフ・門司(東出昌大)に突然の愛の告白を受ける。

これまで・・・傲慢なシェフがたま子に冷たい態度で接していたのは・・・料理を否定されたからで・・・たま子に前言を撤回させるために・・・「心のこもった料理」を完成させるために全力を傾けていたからだと告げるシェフ。

「私がどんだけ心が痛んだと思ってるの・・・」

「俺にとっては料理がすべてだ」

傲慢なシェフに胸の内を明かされて揺れるたま子の乙女心。

「態度が悪かったのは謝る」

「わかった」

「また・・・来てもいいかな」

「いいよ・・・」

すべてをなしくずしにする・・・男と女のラブ・ゲームなのである。

ブラックとホワイトのいない世界は・・・束の間の偽りの平和を形成する。

まさに・・・三日で破られる停戦協定の世界である。

「ビストロ・フー」には元サッカー選手・前園真聖(前園真聖)が友人のロビン(ジョナサン ・シガー)とともに来店する。三千院鏡子(臼田あさ美)はパティシェ・ハイジ(安田顕)がロビンに恋したことを察知する。

周辺ではネズミ駆除が開始される。

ネズミに対して無防備な「ビストロ・フー」では実写版「レミーのおいしいレストラン」展開を避けるために店内のネズミ探索に夢中になるのだった。

すると店内から魑魅魍魎を封印した魔の箱が発掘される。

ソムリエの烏森奈々美(YOU)は独断で封印を破り、魔を解放するのだった。

ホワイトとブラックのその後を秘匿したまま・・・ドタバタでじらすテクニックなのである。

たちまち・・・世界に暗雲がたちこめる。

ヴィンテージ・ワインは1957年と1956年の間で時空を揺らがせ、客の指輪は消失し、夫婦喧嘩で予約はキャンセルされ、社員寮の湯沸かし器は故障し、社員の足は匂いだし、前園とロビンがソムリエの元カレだったためにハイジの恋心は減衰するのである。

まあ・・・そういう問題のあるレストランもありえた世界なのだった。

そして・・・捨てられる呪いの杓文字だった。

すると・・・ブラックちゃんが出戻ってくるのだった。

まったりタイム終了である。

「東大出身なので接待とか大変だったのですが・・・このお店は初めてゼネラル・プロデューサーを務めた店なので・・・経営が軌道に乗るまで見守りたいと思いまして」

厨房のシェフ・雨木千佳(松岡茉優)は生温かく洗い物をブラックちゃんに渡す。

「お帰り・・・ゼネラル・プロデューサー」

しかし・・・そこに魔窟の住人たちが現れる。

悪魔たちは辱しめたブラックちゃんをさらにいたぶるためにやってきたのだ。

「結実ちゃんは最高だよねえ。バニーガールの衣装で融資のためのプレゼンテーションをするなんて抱腹絶倒だったよ。せっかく買い手がついたのに衣装を脱がないなんてもったいなかったよ。顔面ストッキングの刑だけじゃものたりない。今度は最後まで売りきって欲しいよね。また来るでしょう・・・そうそう悪魔くんから少しは分け前もらったの・・・早く回収しないと全部使われちゃうよ・・・彼女に借金している奴だからね」

メンバーたちはたちまち事態を把握するのだった。

「ちょっと貸して」と悪魔から携帯電話を取り上げブラックちゃんの恥ずかしい写真を消去するソムリエ。

「なにするんだよ」

「ぶっこわす、水に落とす、消去するの中から一番、優しい対応をしたまでよ」

「お帰り下さい」とたま子。

「なんだよ・・・しらけるな」

「お代は結構です」・・・つぶれるぞ。

たま子はブラックちゃんを社員寮で慰める。

「田中さん・・・初めて男性とお付き合いしたのはいつですか」

「え」

「言いたくなかったら・・・いいです」

「槍投げの選手よ」

「その人とどうなったんですか」

「他の女の人の方にいっちゃった」

「ふふ・・・私、人生で今、一番盛り上がってます。はじめて女同士の恋の話をしているから」

「・・・」

「今まで会いたくて会いたくて震えるって気持ちなんか全然わからなかったから。でも今はわかります」

「西野カナかな」

「これからは恋のダウンロードしまくります・・・一度も好きになってもらえないまま十万円で売られた子がテーマのラブソングってありますかね?」

「中島みゆきで検索すると・・・もしかしたらあるかも」

「・・・」

「私にできること・・・あるかな」

「彼に・・・本当にお金を受け取ったのか・・・確かめてくれますか」

「わかった」

「ひどい・・・」座り聞きをする従業員一同。

「もっとひどい話だってありますよ・・・でも・・・くそ」とシェフちゃん。

たま子はビストロ「シンフォニック表参道」に乗り込むのだった。

対応するのはお尻を触らずにはいられない土田(吹越満)だった。

「従業員の星野さんを呼んでいただけますか」

「お話があるなら私が伺いましょう」

「星野さんに聞きたいことがあるのです」

「当社では徹底した社員教育をしていますので何も問題はないと思いますが」

「土田さん・・・私とあなたが共に働いた時間はそれほど長くありませんでしたが・・・疑問に思っていたことがあります・・・何故、私を憎むのですか」

「それは誤解ですよ」

「誤解していたのは私ではなくあなたなのでは・・・」

「わーっ、わーっ・・・なんなんだよ。わあわあ、やれセクハラだパワハラだ・・・わあわあ傷ついた傷つけられた・・・お前たちはどんだけ傷つけられ世代なんだよ」

「何の話ですか」

颯爽と現れた眼帯姿のホワイトちゃんだった。

「お前・・・欠勤するんじゃなかったのか」

「私もお話があるんです」

「何だよ」

「私、眼科に行かなければならないんです」

眼帯の下の腫れあがった眼窩。

「池辺さんに殴られました・・・これも傷つけられたことにならないんですか」

「転んだんだろう」と土田。

「俺のことをいやらしい目で見てたから」と池辺。

「お前は黙れ」と土田。

「恋愛体質だものね」と窓際ハゲの西脇(田山涼成)・・・。

「いくらケーキが好きだからってまずいケーキが好きなわけないじゃないですか・・・好きな男は好きですけど嫌いな男は嫌いですよ・・・当然」

「とにかく・・・奥で話そう」

「こわ~い」

「くそ・・・星野」

「なんですか」

「お金を受け取りましたか」

「なんだ・・・金のことすか・・・ありますよ・・・最初から一人占めする気なんかなかったし・・・」

「伝言があります・・・プラマイ・ゼロだそうです。別れる時に涙が出るのは出会った時に笑顔になれたから・・・ありがとう・・・楽しかった・・・嬉しかった・・・好きでした・・・さようなら」

「ポエムか」

「誤解ですよ・・・私は仲良く仕事がしたかっただけです」とたま子。

「憎いんですよ。仕事ができる女を男は憎むことしかできないのです」とホワイトちゃんはレッドと化すのだった。

社員寮で・・・ブラックちゃんとレッドちゃんは合流する。

「一緒にアイス食べる?」

ピンクとグリーンのアイスクリームを差し出すレッドちゃん。

ブラックちゃんはピンクを選択するのだった。

微笑み合う二人のセーラー・ジュピターだった。稲妻パワーが炸裂し、東京大停電の発生である。

「ネズミが電線かじったのね」とハイジ。

停電時の対応ができない傲慢なシェフのビストロ。

「ビストロ・フー」は臨機応変である。

客が流出するのを察知したレッドちゃんは・・・客を「ビストロ・フー」に誘導するのだった。

「責任とって手伝って・・・」とたま子は真っ赤なスカーフをレッドちゃんに渡すのだった。

「ビストロ・フー」は強力なウエイトレスを手に入れた。

ついに集いし七人の戦士たち・・・。

オーナー・たま子。

シェフちゃん。

副シェフの三千院。

パティシェ・ハイジ。

ソムリエ・烏森。

皿洗い・喪服ちゃん。

そして、きらきらウエイトレスである。

ここで・・・傲慢なシェフの残念タイムである。

「弟が夜のお菓子を土産に買えっていうからさ」

「今日は休みだったのかと思いました」とたま子。

「休めないよ・・・シェフは俺一人だ」

「・・・」

「今度・・・海に行こう」

「今日、そちらの店に伺ったんですよ」

「ああ・・・なんかもめてたな」

「それを知ってて・・・出てきてくれなかったんですか」

「なんで・・・俺とは関係ないだろう」

「関係・・・ない」

「星野と新田とか、池辺と川奈とか、お前と土田とかの揉め事だろう」

「ポエム入ります」

傘立てにね・・・ビニール傘が並んでるの

最初に傘泥棒が来てそのうちの1本を盗んで帰っていくの

その後別の人が来て傘を差して帰っていくの

でもそれはその人の傘じゃない

その人の傘は盗まれた後だから

その次の人も気付かずに別の傘を差して帰る

その次の人もその次の人も別の傘を差して帰る

そうして最後の人はもう1本も 傘が残ってないの

傘を持ってきたのに雨にぬれて家に帰るの

私・・・思うの

2番目3番目に来た人たちはわざとじゃないけど

でもやっぱり傘泥棒だと思う

責任があるとは言わない

謝れとは言わない

でもその傘がホントに自分のものかどうか確認すべきだったと思う

濡れて帰った人のことを想像すべきだったと思う

「自転車泥棒って言う映画があってさ・・・自転車を盗まれた男が自転車を盗もうとして失敗してひどい目に遭うんだ・・・それが人生なんじゃないのか・・・それでも馬鹿を見る正直者になれってか」

「自転車を盗まれても自転車を盗まない人間だけが傘泥棒にならないのよ」

「とにかく・・・言いたいことは世界観戦争をしているってことなんだろう・・・人のこと心配しないの俺は・・・お前のことを好きでも敵なのか」

「味方なんて一人もいないのよ」

「もっとシンプルでいいじゃないか。俺とお前以外はその他ってことで」

「私はもう・・・誰の自転車も盗みたくないの・・・だって私の大切な友達は・・・自転車盗まれちゃったんだもん・・・」

「ちぇ・・・面倒くさい女だな」

神は孤独な人間に盗まれるための自転車を与えたのだ。

すべての面倒はそこから生まれたのである。

だから戦争なんてなくなればいいのにと言ってもなくならないのだ。

きらきらちゃんは寿退社で池辺は事件もみ消しのために熊本もしくは大分に左遷である。

熊本県民、大分県民涙目だな。

そして、最強の若手女優トリオは買い出しに出かけた。

ここからは今年度屈指の美しいシークエンスと言えるだろう。

最初から仲の良い幼馴染だったように集うシェフちゃん、喪服ちゃん、きらきらちゃん。

「何聞いてるの・・・」

「シューベルトのピアノソナタ第21番変ロ長調D960」

「シューベルトは死にかけていたのよね」

「何も食べれなかったのよね」

「小さい頃、少し習ってた」

「私も」

「私も」

三人はお嬢様だったのだ。

外苑で三人はシューベルトを聞いた。

イヤホンは二つ。

余ったシェフちゃんは・・・死線を乗り越えた二人に聴こえない声で囁く。

「生きていて・・・よかったね・・・生きようね」と。

ソムリエは正体をたま子に明かす。

「ちょっと待って・・・牛乳を口に含むから」

「マジ歌選手権か」

「弁護士って・・・マジですか」

「昔ね・・・依頼人の恥ずかしい事件を担当して・・・依頼人に恥だけかかせて敗訴したのよ・・・そして私はバッチを外したの・・・でも・・・もう一度・・・十年ぶりに・・・弁護士に戻ることにしたの・・・あの子たちを好きになったから」

「・・・」

「レストランは楽しい場所・・・裁判所は悲しい場所よ・・・あなたは人を楽しませて・・・怒るのは私にまかせて・・・」

「・・・」

「雨木太郎の罪を明らかにし罰を受けてもらうわ・・・藤村五月さんを紹介してください」

「・・・はい」

涙のとまらないたま子。

そうなのだ・・・本当は・・・法的に制裁してもらいたかったのだ。

罪を犯したものに謝罪してもらいたかったのだ。

ただそれだけだったのだ。

そして、物語は第三楽章へ。

関連するキッドのブログ→第五話のレビュー

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コメント

三人で聴くシューベルト。何とも言えず、良いシーンでした。これを見られただけで、大満足でした。
ああ、本当に良かったと思いました。
美しかったですね。

若手女優トリオ、確かに最強ですね。

投稿: ギボウシ | 2015年2月20日 (金) 22時10分

オチツキレイセイシズカナヒト~ギボウシ様、いらっしゃいませ~ワクイエミダイスキ!

でございましたねえ。

買い物をして公園でサボる。

これだけのことがこんなにトレビアンなことになるとは。

音楽、光景、女優三人。短いセリフ。

テレビから怪しい「何か」が
放出されていた気がいたしました。

一生、忘れられない光景ですよねえ。

投稿: キッド | 2015年2月20日 (金) 23時11分

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