二十一回猛士のことは嫌いでも野山獄のことは嫌いにならないでください(井上真央)
吉田松陰は野山獄で「幽囚録」を認めたと言われている。
そこで松陰は日本国のとるべき基本戦略を示している。
「急ぎ武力を整え、軍艦の運用を可能たらしめ、まず蝦夷(北海道)に諸侯(有志藩主)を配置し、カムチャッカ、オホーツク(北方領土)を奪取せよ。次に琉球(沖縄県)を服属させ藩とし、朝鮮(半島)も服属させ属国とする。これより北は満州、南は台湾、呂宋(フィリピン)を征服し領土とする」
清国がアヘン戦争において西洋列強の侵略を許したことが松陰の心に重くのしかかっていたのである。
長州藩野山獄の囚人は神州を守護するためには絶対防衛圏を構築しなければならないと夢想したのである。
恐ろしいことには・・・この松陰の夢想は・・・弟子たちの手によって一世紀足らずでほぼ現実のものとなる。
しかし、松陰の想起した満州の支配、そしてフィリピンの占領に達した時、帝国が奈落へと転落することになったとしても松陰を責めないであげてください。
で、『花燃ゆ・第7回』(NHK総合20140215PM8~)脚本・宮村優子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は野山獄の長老・大深虎之丞の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。やっぱりキターッ!でございました。しかし品川徹さんさんがこれでクランクアップなのかどうかは謎でございますな。さて・・・寅次郎が野山獄で著したものは確かに「福堂策」もあるわけで「吉田松陰全集・第二巻」に収められていていますがあくまで雑著の一つ・・・。しかし・・・獄舎論が・・・桂小五郎ひいては水戸のご老侯の胸を熱くした・・・わけはないので・・・「密航のその理由から大言壮語の大戦略」に至る国防論的「幽囚録」こそが全集第一巻収録の重要文書です。ここを避けて通るのでよく考えるとおかしな流れのストーリー展開でしたが・・・まあ・・・上手く凌いだかなあ・・・敗戦国のお茶の間ビジネスは大変だなあと遠くを見つめましたよ。天皇陛下をお守りするためには周辺諸国の侵略もやむなしという主人公の兄は大問題なのでございましょうとも。
安政二年(1855年)の暮れ、吉田松陰は野山獄から杉家蟄居の身の上となる。保護観察とも仮釈放とも言える罪人身分である。「幽囚録」で寅次郎が開陳した構想は松陰死後に現実化していく。蝦夷地(北海道)は函館戦争を経て、明治四年(1871年)に開拓使の治める直轄地となった。明治十二年(1879年)に琉球王府は廃され沖縄県となる。明治二十八年(1895年)、日清戦争に勝利した大日本帝国は清国より台湾を割譲されこれを統治する。明治三十八年(1905年)には日露戦争の勝利により南樺太がロシアから割譲され、大日本帝国が満州に進出したことにより明治四十三年(1910年)には大韓帝国を併合、オホーツク、カムチヤッカに対しては大正七年(1918年)にシベリア出兵も行われる。第二次世界大戦中に米国と開戦した大日本帝国は昭和十七年(1942年)にフィリピン全土を占領するに至る。吉田松陰が野山獄で妄想した神州日本国の防衛的領土はまさにこの時ほぼ完成したのである。そのことを大きな声で言えない現代なのだが・・・吉田松陰が獄中で願った大いなる夢は一瞬、叶いました。もちろん・・・大河ドラマでは本当のことなんか言えないのがお約束なのである。御時勢だからな。正しい歴史認識とは何かなんだな。万歳。
野山獄の虜囚となった寅次郎は夢見がちな日々を送っていた。
この時期、寅次郎は千里眼能力による未来予知夢を彷徨っている。
目を閉じれば寅次郎の未来が・・・長州藩の未来が・・・神州の未来が見えてくるのである。
しかし・・・寅次郎の見る未来は・・・幕末の兵学者の認識力を遥かに凌駕するのであった。
寅次郎は見た。松下村塾に集う若者たちを教え諭し導く自分の姿を。
寅次郎は見た。再び野山獄に戻る自分の姿を。
寅次郎は見た。江戸で斬首され小塚原回向院に葬られる自分の姿を。
寅次郎は見た。黒船を勇ましく砲撃する長州藩の砲台を。
寅次郎は見た。奇兵隊が幕府軍を打ち破る姿を。
寅次郎は見た。帝都に輝く文明開化の灯を。
寅次郎は見た。大日本帝国の連合艦隊がロシア艦隊に突進する雄姿を。
寅次郎は見た。機体に輝く金色の鷲を。
寅次郎は見た。安芸国広島の街に立ち上る地獄の雲を・・・。
以心伝心により寅次郎の見る夢を覗く文は心躍り・・・悲しみに涙する。
夢のような一年が過ぎ去っていった。
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