徳は孤ならず必ず隣あり(大沢たかお)
論語里仁篇に「子曰、徳不孤、必有鄰」がある。
君子たるもの有言実行であることが大切であると説いた孔子は・・・そこに「徳」を見出す。
つまり・・・「やるべきことをやるやつ」は孤立はしない。
かならず・・・それを支える者が現れると言うわけだ。
「殺す」と言ったからには「殺さない」と仲間に示しがつかないのは道理なのである。
そこに集うものが善であろうと・・・悪であろうと・・・組織というものはそういうものなのだと孔子は説くのだった。
性善説を唱える吉田松陰に性悪説をぶつける富永有隣の名はそういう淋しがり屋の気持ちを表現しているわけである。
強烈な自我を持ってしまったがゆえに・・・社会から浮き上がり・・・獄につながれた二人は出会い・・・激しくスパークするのだった。
イラクの捕虜収容所に過激派ばかり収容したのでものすごい組織が出来上がったというのと同じなのだ。
朱に交われば赤くなるのだった。
好むと好まざるとに関わらず歴史は繰り返すのである。
で、『花燃ゆ・第5回』(NHK総合20140201PM8~)脚本・宮村優子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は主人公の萩野山獄仲間・富永有隣描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。吉田松陰数えで二十六歳、有隣数えで三十五歳の出会い・・・変人同志馬があったわけですな。刑事もので言えば獄中で知り合った者同士が新たな悪事の仲間となる・・・という展開。しかし・・・野山獄の二人はもっと危険な意気投合をする。その結果・・・戊辰戦争勃発です。もちろん・・・この二人が意気投合しただけで明治維新が成立したわけではないでしょうが・・・結果としてそう見えるところが醍醐味なのでしょうねえ。二人が語りあうのは教養としての異国の聖典・・・。そして行きつくのが尊王攘夷。恐ろしいほどに現実とリンクしてくるのが歴史物語の妙ですな。オープニングで鹿が鷹になる描写が描かれますが・・・あれを海軍のゼロ戦と見るか・・・陸軍の隼と見るか。長州だけに。まあ・・・性善説だろうが性悪説だろうが・・・一度回りだした天は行きつくところまで止まらないのでございます。
嘉永七年(1854年)五月、徳川幕府は浦賀造船所にて初の洋式軍艦「鳳凰丸」を竣工する。建造を推進したのは老中阿部正弘である。幕府の軍拡は急速に展開していた。安政二年(1855年)一月には薩摩藩の桜島瀬戸村造船所で竣工した洋式軍艦「昌平丸」が幕府に献上される。水戸藩では洋式軍艦「旭日丸」が建造中であり、徳川幕府も急ピッチで富国強兵を進めていたのである。島津斉彬や徳川斉昭ら雄藩の藩主は幕府と協力して防衛体制を整備しつつあったのだった。将軍家定に後継者を儲けさせるために薩摩藩・江戸藩邸には篤姫もスタンバイ中なのであった。しかし、攘夷派の水戸藩と開国派の彦根藩・井伊直弼の確執が動乱の火種として生じる。欧米列国の侵略から国防するために・・・開国して富国強兵か、鎖国のまま大和魂で防衛するか・・・目指すところが微妙に食い違うところが醍醐味なのである。やがて・・・国論をまとめるために尊王思想が持ちだされ・・・祖国防衛戦争はついに成功する。しかし・・・戦艦大和が誕生する頃・・・開国百年を待てず帝国は滅亡の危機に瀕するのだった。そして、そんなことは知らぬ安政二年一月十一日、商人・茂左衛門とつるの長男・金子重之輔は岩倉獄で病没する。吉田松陰の思想による死者第一号である。そんなことで歴史に名を残すのが・・・歴史の恐ろしいところなんだな。
文は獄中の兄から伝心を受け、父や兄に伝える。
「寅兄は・・・海国図志を差し入れろと申しちょるけえ」
「そうか・・・寅の奴にまっちょけと言うとけ」
「それはできんじゃろうが・・・文は寅の心を読めても寅は文の心が読めんけえ」
「なんじゃ、不便じゃの」
父も兄も呑気だった。
気楽で世話ないのが杉家の家風である。
「まあ、草餅でも差し入れちゃれ」
母親の滝が包みを渡す。
「かいこくずしてなんやろ」
「魏源たらいう清国の学者の書いた本じゃけ・・・毛唐から国を守るには毛唐から学ぶべしと言うとるらしいな」
「ほうけえ」
「敵を知り己を知れば百戦危うからずや」
「孫子けえ」
「まあ・・・真髄じゃけえ・・・結局、根は一つや」
「あほらし」
獄中の松陰は夢を見ていた。
獄中では寝る間はいくらでもあったからである。
予知夢であった。
やせ衰えた貞吉(金子重輔)は死の淵にいる。
「なんだ・・・君は逝くのか」
「先生、お先に参ります」
「君にも見せたかった・・・天子を頂くこの帝国の栄光を・・・」
「見とうございました」
「空にはひこうきなる空飛ぶのりものがとびかっているぞ」
「ひこうき・・・人間が鳥の如く飛ぶのですか」
「そうだ・・・武士と武士が空で雌雄を決するのだ・・・やまとのはやぶさは大陸の空を雄飛する」
「なんと・・・甘美な・・・」
「その名も加藤隼戦闘隊じゃ・・・」
「かとう・・・はやぶさ・・・せん・・・」
「貞吉・・・」
「・・・」
「さだきち・・・」
貞吉の時は果てた。
松陰の夢は百年の未来を往来し収斂する。
松陰は涙で濡れた瞳を開く。
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