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2015年3月28日 (土)

LIVE! LOVE! SING! (石井杏奈)生きて愛して歌うこと(木下百花)GIGつもり(皆川猿時)

ドラマというものがなぜあるのかはよくわからない。

しかし・・・たとえば阪神淡路大震災と東日本大震災について何かを伝えようと考えると・・・なかなかにもどかしいものがある。

それは軍艦と戦車と戦闘機を運用する集団を総理大臣が「わが軍」と述べると何故か「いけない」らしいというもどかしさに通じるものだ。

明らかに変なことが・・・変ではありませんと言われる時は大体・・・大日本帝国の敗戦がからんでいる。

そして・・・日本国という国が「憲法」という首輪をつけた犬のようなものであることが判明するのである。

もちろん・・・世界の虜囚となった日本国民が・・・その恩恵で・・・70年間、世界で起こった様々な戦争から・・・ある程度、隔離されていたことは喜ばしいことなのかもしれない。

そして・・・その状態の方が・・・来るべき世界でも国民の多くを幸福に導くのかもしれない。

しかし・・・明日、自衛隊員を全員、国外に追放して・・・「軍人ゼロ」の国家にしますという宣言に国民の半数以上が同意するだろうか。

絶対しないよねえ。

武力を保持しないが、自衛のための武力は保持する・・・そういう言葉の遊びをいつまで続けるつもりなのか。

血に飢えた野獣の前に裸で立つ人は誰ですか?

どこにいますか?

本気ですか?

それとも世界には血に飢えた野獣なんかいないのですか?

乗客百人乗せて山に突っ込むパイロットもいませんか?

そういうつもりですか?

つまり・・・そういう能天気な人々が存在する現実がある以上、もどかしいことを描くドラマはあるのです。

で、『特集ドラマ・LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと』(NHK総合20150310PM10~)脚本・一色伸幸 、音楽・大友良英、演出・井上剛を見た。東京大空襲から70年、沖縄返還から43年、北朝鮮による横田めぐみさん拉致から38年、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災から20年、東日本大震災から四年である。日本という国は次から次へと災厄に見舞われて復興につぐ復興を重ねて来たのである。沖縄だって・・・いい加減・・・本土なみに戦後になりたい気持ちはわからないでもない。しかし・・・福島原発事故はそういう気持ちにかまっていられないほどの大惨事なのだ。基地が移転するくらい我慢しろ・・・と日本国民のうち、キッドはそう思っている。もちろん・・・暴言である。しかし・・・放射能汚染がどれほど深刻であるのかは一万年くらい分からないのである。少なくとも今、生きている人が死ぬまでには解決しないことは明白だ。そういう土地に生まれた人の気持ちを想像してみてください。沖縄返還四十年が・・・東日本大震災の発生によってうやむやになった口惜しさはわかるが・・・堪えろよと考えます。

神戸在住の高校生・水島朝海(石井杏奈)は担任教師の岡里(渡辺大知)と交際中である。

この設定ですでに撤退する人も多いだろうが・・・まあ、もうすぐ卒業で、岡里の母親・ミドリ(南果歩)も公認の不純異性交遊なので大目に見てもらいたい。

おそらく、神戸(フィクション)の淫行条例は緩やかなのだろう。

卒業イベントの「合唱」で「しあわせ運べるように」を選曲した岡里。

「阪神淡路大震災なんて・・・チャラい」と叫ぶ朝海。

「え」

母親は「あの歌・・・震災を思い出すから・・・嫌いや」と言うが・・・朝海はそれ以来、不登校になってしまい、岡里とも連絡を断つのだった。

ちなみに「しあわせ運べるように」は神戸復興を願い神戸市内の小学校の音楽専科教諭が作詞・作曲したものである。

地震にも負けない強い心を持って

亡くなった方々の分も

毎日を大切に生きてゆこう

傷ついた神戸を

元の姿に戻そう

支え合う心と明日への希望を胸に

曲の出来栄えについては賛否あると思う。

教え子でもあり、恋人でもある朝海をいろいろな意味で案じた岡里は朝海の家に張り込み、外出した朝海を尾行する。

ストーカーじゃねえか。

三ノ宮駅で男と合流し、阪神電車に乗り込んだ朝海を詰問する岡里であった。

「どうしたんだよ・・・この人・・・誰なんだよ」

「つけてきたの・・・きもいんですけど」

「だって・・・」

「小学校の同級生の佐藤勝くんだよ・・・これから同窓会するんだ」

「え・・・」

無口な佐藤勝(柾木玲弥)は微笑む。

やがて・・・赤毛のヤンキー女・橘香雅里(木下百花)も合流するのだった。

東京を越え・・・彼らが向かうのは福島だった。

四人目はずんぐりむっくりの渡部本気(前田航基)だった。

彼らは一部帰還困難区域の富岡町や浪江町を連想させる富波町(フィクション)の出身だった。

四人の東日本震災被災児と・・・阪神淡路大震災を五歳の時に被災した教師は・・・侵入不可のゲートを越えて・・・日本に見捨てられた街へと潜入するのだった。

そこは・・・あの日のまま・・・放置され・・・復興の見込みのない廃墟だったのである。

若者たちをゲートに導いたのは牛飼いのモーさん(中村獅童)だった。

帰還困難区域に置き去りにされ、放射能汚染された牛たちに餌をやるためにトラックで通っている。

ゲートの警備員である自称シンガーソングライターつもりやん(皆川猿時)は若者たちの密航に気がつくが見て見ぬフリをするのだった。

やせ衰えた牛たちを見て香雅里ははしゃぐ。

「あの牛の名前はカルビ」

「どれがカルビ」

「食べられんぞ」

「汚染牛だもんね」

朝海たちを招集したのはずんぐりむっくりだった。

小学校の校庭に埋めたタイムカプセルを掘り出すこと。

そして・・・初恋の人である朝海に逢いたかったのだった。

「俺な」

「知ってるよ・・・あんたが私に性欲丸出しだったこと」

「性欲って・・・」

「あんなことがなかったら・・・付き合ってたりして」

「え」

ずんぐりむっくりと手をつなぐ朝海だった。

一人前に嫉妬する岡里だった。

誰もいないはずの海で幽霊のような女(ともさかりえ)に出会う若者たち。

「何してるんですか」

「釣りよ」

「え・・・」

女は廃墟でライブハウスを経営していた。

「お客さんなんかいないでしょ」

「あんたたちみたいのが来るからね」

女が未亡人であることを・・・夫らしき漁師(津田寛治)の写真で察する朝海だった。

朝海も孤児である。

同級生たちはみな・・・家を失い・・・故郷に帰ることもできず・・・各地に行っていたのだった。

漸く・・・岡里は復興した神戸がチャラいことを悟るのだった。

「ごめん・・・あの唄を・・・朝海に歌わせるのは・・・拷問みたいなことだったな」

「好きだよ・・・先生」

「俺な・・・一つ上の兄貴が震災で死んだ・・・よく覚えてないのに・・・毎日、毎日・・・責められているような気がしてる・・・二十年間ずっとだ」

「申し訳ねえんだよな」

「そうや・・・」

朝海は岡里にキスをするのだった。

若者たちはライブハウスでまどろんだ。

朝海は幻影の祭りの中にいた。

夜空に花火が咲き、蛇踊りが練り歩く。

地震なんてなかったつもり

津波なんてなかっ たつもり

原発事故なんてなかったつもり

絆なんてなかったつもり

日本が ひとつであるつもり

それで安心なつもり

みんなみんな生き てるつもり

自分が正しく生きてるつもり

つもりつもりつもり

翌朝、女は若者たちを小学校に送る。

海へ戻る女に朝海は叫ぶ。

「きっとみつかるよ」

「みつかっても・・・死んだことがわかるだけだ」

「・・・」

「つらい夢がつらい現実になるだけだ」

「うん」

荒れ果てた校舎でずんぐりむっくりは途方に暮れる。

「どこに埋めたか・・・わからんな」

しかし・・・無口な勝はタイムカプセルを探し当てるのだった。

ずんぐりむっくりは・・・ミニカーを取り戻した。

勝は・・・失われた家族写真を取り戻した。

香雅里は未来の自分への手紙を取り戻した。

「看護師さんになりましたか」

「期待が重すぎて・・・やめた・・・今は親には言えんとこで働いてる」

「キスはしましたか」

「毎晩、お客と数えきれんくらいしてる」

「・・・幸せですか」

「何も考えなければね」

「年齢バレたら大変じゃないの」

「横浜だから平気」

朝海は・・・ガチャポンのカプセルに・・・小学校の空気を封入していた。

開くと・・・澱んだ未来の匂いがする。

「復活するつもり・・・」

泣くだけ泣いて若者たちは・・・現実の世界に戻っていく。

歌えと言われれば「しあわせ運べるように」も歌う。

笑いたい時には笑う。

朝海は生きているのだ。

帰れる故郷がある人は基地があるくらい我慢しろなんだな。

関連するキッドのブログ→知られざる大震災の記録

サイレント・プア

東京が戦場になった日

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