三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい(井上真央)
幕末ものにつきもののこの都々逸・・・。
高杉晋作が歌うのが定番だが・・・作者は未詳である。
なにしろ・・・著作権は日本には当時なかったのだ。
そもそも・・・この都々逸がいつからあるのかさえ未詳だ。
最も、都々逸の流行は幕末であったと言われている。
寄席芸人で都々逸の祖として知られる都々逸坊扇歌が末期に「都々逸もうたいつくして三味線枕楽にわたしはねるわいな」と歌ったのが嘉永五年(1852年) である。
「添い寝」か「朝寝」かと言う話もあるが・・・「明烏」的には「朝寝」に決まっている。
遊女と客が一夜を共にしていると早朝、烏が啼いてやかましいわけである。
別れを惜しむ二人には迷惑なのである。
だから・・・烏を皆殺してしまえば・・・ゆっくり朝寝を楽しめるという話だ。
歌を解釈するのはそれぞれの立場による。
高杉がこの時期に詠うのは・・・「君主」との関係であってもおかしくない。
君主と政治について語りたくとも・・・若輩ものである。
自分の父親を含めて・・・とりまきが多過ぎて・・・昵懇にはできない。
いっそ・・・いろいろな意味で身を捧げて・・・藩主と朝寝がしてみたいなあ・・・と言うわけである。
おいっ。
なお、作者候補としては遊女好きの桂小五郎も知られている。
まあ・・・芸妓を妻とした男なのでストレートにわかる話だ。
この場合の三千世界の烏とは「婚姻をめぐる身分制度」である。
おいおいっ。
もちろん、坂本龍馬だっておかしくないが・・・ヨサコイ節があるので遠慮するべきなのだ。
おいおいおいっ。
で、『花燃ゆ・第10回』(NHK総合20150308PM8~)脚本・宮村優子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は足軽と中間という武家奉公人の身分から総理大臣になった伊藤利助と池田屋で魁となる吉田稔麿の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。幕末と維新で明暗を分ける二人が好対照ですねえ。運命の妖しさがございますな。一口に狂と言っても様々な狂い方があるという・・・。それが「志」という指向性によって分岐していくような描き方がなかなかに物語性がございますな。二人の女流のバトンタッチがなかなか面白い感じです。まあ・・・少し、趣味的であるので・・・視聴率は急降下ですな。なんとなく・・・「平清盛」が思い出されます。史実と虚構のバランスはなかなかなのに・・・お茶の間にはあまり受け入れられないという。結局、お茶の間は基本的に勧善懲悪で・・・誰もが知っている名場面が見たいのですな。「池田屋」で見たいのは新撰組であって・・・吉田稔麿じゃない・・・と言う。逃げる高杉晋作や逃げない桂小五郎には違和感を感じたりするのですな・・・苦笑ですなあ。ちなみに名もなき長州の遊女二人は高橋ユウと冨手麻妙かな・・・。一瞬でしたが粒よりに見えましたぞ。
幕藩体制である。江戸には第13代征夷大将軍の徳川家定が健在だった安政四年(1857年)・・・長州藩主は第13代藩主の毛利敬親。藩主は藩においての独裁者である。しかし、将軍が政治を側近に委任するように藩主も側近に委ねる部分は多い。幕末の動乱にあたって有能な藩主は似たような政策に傾く。つまり、有能な人材の育成である。そもそも吉田松陰自身が下級武士からの抜擢なのである。椋梨藤太も名門の出身だが分家身分で一種の成り上がりである。周布政之助や高杉晋作の属する大番組は藩主直属の戦闘単位でもあるが側近集団でもある。幕府における側用人的側近筆頭をめぐる暗闘は常に展開している。独裁者は配下の下剋上を防止する意味でも派閥の抗争はある程度黙認するわけである。奥番頭、手廻頭、直目付など・・・側近筆頭の名目は流動的なのである。一方の派閥が力をつけすぎないように・・・側用人的な椋梨藤太の補佐として周布政之助を配置したりする。そうせい侯はなかなかの寝技を使う。しかし・・・この年、米国に続いてオランダも和親条約をより日本に不利な条件で追加条約とする。着々と進む西洋の侵略に・・・幕藩体制は危ういものとなっていくのだった。
「利助は江戸帰りだったな・・・」と松陰は雑談の合間に問う。
「はい・・・殿の参勤の折にお伴いたしました」
「面白かったか」
「何より・・・どこまでも続く街並みに仰天いたしました」
「であろう・・・私も江戸に出るまでは萩の城下は天下に指折りの賑わいじゃと思っておった」
「まさしく・・・しかし・・・御山に登れば一望できます・・・しかし・・・江戸は・・・」
「まるで果てしないからのう・・・」
江戸を見た二人の会話は・・・塾生たちの胸を疼かせるのだった。
文は読心によって・・・松陰や利助の見た江戸の情景を知っている。
同時に塾生たちの心に浮かぶ憧憬や嫉妬の情も読みとるのだった。
高杉晋作が問う。
「江戸の遊郭はどうじゃ」
利助の心は江戸の遊郭の記憶に移っている。
「さすがに・・・足軽奉公の身では参れぬか」と吉田栄太郎が呟く。
「吉原に参りましたぞ」
「なにっ」と思わず血相が変わる久坂玄瑞・・・むっつり助兵衛なのである。
「のぞいただけであろう」
「お仕えした志道聞多様がお誘いくださったのです」
「聞多めっ」と明倫館の学友である朋輩に先を越された高杉は舌うちするのだった。
「井上様には可愛がっていただきまして・・・」
「利助は・・・誰にも可愛がられるのう・・・」
「で・・・どうだった・・・吉原は・・・」
「それはもう・・・」
文は男たちの艶話好きに呆れて台所に戻った。
台所では敏三郎がつまみ食いをしながら・・・記憶を反復している。
文は敏三郎の心を読んでひやりとする。
利助の姿が浮かんだのである。
敏三郎は文の言いつけに背いて利助のあとをつけたらしい。
文は敏三郎の心に忍びこみ・・・敏三郎の記憶を追体験する。
城下の外れで利助を見つけた敏三郎はなんとなくあとを追いかけたのだった。
驚くべきことに利助は・・・松浦亀太郎を尾行していた。
そのことに気付いた敏三郎は姉のいいつけを思い出し足を止めた。
変事はその時、起こった・・・。
松浦亀太郎が振り向きざまに棒手裏剣を放ったのだ。
しかし・・・路上から利助の姿は消えていた。
敏三郎は見た。利助が道沿いの林の中に飛んだ姿を。
そして・・・利助は林の中の木から木へと飛び移り姿を消した。
恐ろしいほどの身の軽さである。
(猿飛・・・)
文は噂に聞く忍びの秘術のひとつを思い出した。
路上から亀太郎もまた姿を消していた。
敏三郎はおそるおそる城下に引き返したらしい。
公儀隠密と藩の横目付の暗闘が密かに行われていることを文は実感したのだった。
亀太郎は台所に魚を届けに来ていた。
「鯛が獲れましたので・・・」
「皆さん・・・お集まりですよ・・・おあがりなさいませ」
「はい」
亀太郎は喜々とした足取りで塾へと続く小道を歩み去る。
ふと・・・文は男たちの行く末を案じるのだった。
杉家の裏庭には夏の気配が迫っている。
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
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コメント
どうもです
現在
長井雅樂、周布政之助、前原一誠
椋梨藤太、入江九一、桂小五郎と
描きためて
後は高杉小忠太、井伊直弼、毛利慶親と
女性陣を描こうかなとあれこれ思案中です
相変わらず女性を描くのは苦手ですが
とりあえず杉文と入江さんとこと吉田さんとこでしょうね
今作での女性はとりあえず早死しないのですが
ほっとくと公開時期を逸してしまいそうになるので
注意が必要ですね; ̄∇ ̄ゞ
投稿: ikasama4 | 2015年3月10日 (火) 00時43分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
ご快調でございますね。
年末年始はお加減が悪いのではないかと
心配しておりましぞ~。
続々とニューフェイス登場ですが
バタバタと亡くなってもいきますからねえ。
現在は篤姫的には短い婚姻期間、
龍馬は修行中、
八重は嵐の前の静けさ・・・。
新撰組に至っては影も形もないという・・・。
敵と味方が混然一体となっている季節。
その後を思えば
なにもかもが美しい季節ですな。
主人公以外は男だらけの世界。
文姉の描写がなかなかにおしゃれですな。
高杉夫人とか桂夫人とか
どんなきれいどころが配役されるのかも楽しみです。
紅葉は血の色ですよね~。
幕府側もほとんど描かれないので
妄想で補完しないといけないかなあ・・・
などと考えています。
長州支藩の描かれ方も気になるところです。
維新後がどこまで描かれるのか・・・。
仁先生やキス我慢のキャスティングで
それなりに描かれる気もいたします。
まあ・・・坂の上の雲とかぶる部分は
スルーかもしれませんな。
どちらにしろ・・・久坂の死が
ひとつのピークというは
珍しい感じですからねえ。
ものすごく期待が高まります。
投稿: キッド | 2015年3月10日 (火) 07時55分