スプーン一杯のアイスクリームの幸せ(真木よう子)山羊を頭に乗せた少年(菅田将暉)
山羊を頭に乗せるのが悪魔であることは言うまでもないことだ。
当然、問題ガールは魔女なのである。
「ビニール傘泥棒」とか「一生の思い出」とか・・・気が遠くなる話を始める時は呪文を唱えています。
エンディングで・・・小鬼と化した主人公はカップルの邪魔をしたり、落書きしたり、悪戯をしまくるのだが、変な場所で店を始めるのもその延長戦に過ぎない。
善良な女の子やゲイたちは巻き込まれて痛い目に遭いながら、魔女の呪縛からは逃れることができないのである。
男と女が同じ人間だと認め合うことと・・・男と女が主導権を争うことは違う。
しかし、人と人は冷蔵庫のプリンや冷凍庫のアイスクリームを争うために生まれてくるのだ。
それを愛と呼んでもいいだろう。
で、『問題のあるレストラン・最終回(全10話)』(フジテレビ20150319PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。スプーン一杯の不吉が幸せの予感をたやすく奪うのが世界である。まあ・・・スプーン一杯に乗っているのが一口目のスープなのか・・・苦い薬なのかは謎である。ドラマには二種類あって心を洗うドラマか心を汚すドラマかなのだが、その二つは同じものである。美しくて楽しくて幸多いものを憎まずにはいられない人も多いのだ。なにしろ・・・クラスにはかわいい子よりも・・・以下略。
生徒会長にウナギイヌを奪われた高等遊民のドラマではシャッフルが激しいが、こちらでは省略が激しい。
スプーンが落ちてから二週間が過ぎ去って「ビストロ・フー」の最後の営業日になるわけである。
ある程度の知的能力がないと・・・「流れ」が把握できなくなってしまう可能性がある。
「どうして・・・こんなことに・・・」が少しずつ紐解かれて行くことに耐えられない人も多い。
人間には埋めがたい格差が内在している証である。
省略された出来事は次のようになっている。
①雨木社長(杉本哲太)を殴った傲慢なシェフ・門司(東出昌大)はビストロ「SYMPHONIC OMOTESANDO」を解雇される。
②「ビストロ・フー」からのスプーン落下を目撃し、警察に通報した男は・・・かねてから「世界」を憎悪している怪物で・・・幸せそうな人々を断固として許さない。
③「ビストロ・フー」は安全対策として落下防止ネットを設置する。
④しかし、おそらく、近隣住民である怪物は「騒音」「衛生問題」「害虫駆除」「鼠対策」「風紀の乱れ」などありとあらゆる難癖をビルのオーナーに仕掛ける。
⑤ノイローゼとなったビルのオーナーは店舗契約の更新を拒否する。
⑥雨木社長の謝罪の意思を認めなかった五月(菊池亜希子)は週刊誌記事を解禁する。たちまち、社会からのバッシングが巻き起こり、客商売である「ライクダイニングサービス」は経営的に問題が発生し、責任を取らされた雨木社長は解任される。
⑦スキャンダルによって息子の小学生受験に失敗した雨木社長の後妻は夫と子供を残し出奔する。
⑧東京の桜は散り、過ごしやすい季節となった。
そして、ビストロ・フーの長い一日が始るのだ。
巻髪ちゃんこと藍里(高畑充希)はガード下で魔女・田中たま子(真木よう子)に誘惑される。
「ここでレストランをやりましょう」
「いやあああああああああああ」
悪夢である。
三千院(臼田あさ美)は家族団欒のお茶の間で、ハイジ(安田顕)は銭湯の湯船で、喪服ちゃんこと結実(二階堂ふみ)はアスレチック・クラブで登壁中にそれぞれ呪いをかけられる。
三人の女と一人のゲイに同じ夢を見させるたま子の魔力恐るべしである。
雨木社長の実の娘であるパーカーちゃんこと千佳(松岡茉優)は早朝のコンビニに並ぶ週刊誌の表紙を眺め複雑な心境になる。
「セクハラ社長・電撃辞任」の文字が躍る。
ビストロ「SYMPHONIC OMOTESANDO」は休業中である。
買い物帰りのパーカーちゃんをソムリエで弁護士の烏森(YOU)が待ち伏せし、懐くのだった。
「いやあん」
「いいじゃないのお」
冷凍庫のアイスクリームをめぐりグリーンの喪服ちゃんはレッドの巻髪ちゃんをぬかみそくさい女に仕上げる。
五月から春の便りが届き、喧騒を避けて高村新(風間俊介)の家で暮らしていることが伝えられる。
ここからは築きあげた幸福が唐突に理不尽に破壊されるシークエンスの前の段である。
登場人物たちの人間的成長が丁寧に綴られて行く。
きゃりーぱみゅぱみゅ(きゃりーぱみゅぱみゅ)が来店し、CAPSのパフォーマンスを従業員と客を巻き込んで繰り広げる。
量産型を鎧として身にまとっていた巻髪ちゃんは都会的な女同士の自然の交際を身につける。カスタマイズされた量産型として発展したのである。
東大出身のプライドに憑依されていた喪服ちゃんは「霞が関の官僚」と「表参道のウエイトレス」に職業的格差がないことを確信する。
離婚調停中の元専業主婦・三千院は働く女として息子のヒロム(庵原匠悟)を定期的に手元に置けるようになっている。
来店した初恋相手にラブレターを渡そうとしたヒロム・・・。
しかし、勇気の出ないヒロムは巻髪ちゃんでお茶を濁すのだった。
昼の部のレストランの空には虹がかかる。
「虹が出ています」と告げる巻髪ちゃん。
隠語の害虫の出現かとあわてる従業員一同。
初恋の人に微笑みかけられ立ち上がるヒロム。
悪戯な風に飛ばされた恋文を屋根に登って確保する喪服ちゃん。
雑用係という名のゼネラル・プロデューサーの雄姿を賞賛する巻髪ちゃん。
恋の花咲くレストランの成立である。
流れるような展開だ。
常連客の持田(遠藤雄弥)と恋人(入山法子)はすれ違うがたま子は仲をとりもつのだった。
休憩時間に傲慢なシェフ・門司は弟子の悪魔くんである星野大智(菅田将暉)を連れて賄いを差し入れする。
星野大智は喪服ちゃんへの謝罪を繰り返す。
「もう・・・大丈夫です・・・私は好きな人に頑張れと言わないタイプですが・・・あなたには頑張れって言えますから」
「・・・」
「星野さん・・・出身はどちらですか」
「山形です・・・高い所が好きで山羊と木登りしたこともあるっす・・・俺がてっぺんまで登ったら山羊が俺を登ったっす」
初体験の相手を克服する喪服ちゃんなのである。
東大ちゃんと中卒ちゃんの間にはそれほどの隔たりはないのだった。
傲慢なシェフはたま子を口説く。
「一緒にレストランをやらないか」
俺の女房になれから進化した傲慢なシェフ。
しかし・・・魔女は簡単には攻略できない。
魔女にとって長所は短所である。
短所を修正すれば長所も削除されてしまうというこの世の真理をわきまえている。
男と女は付かず離れずが醍醐味なんだな。
パーカーちゃんは傲慢なシェフとオムレツ勝負をしてまたもドローに持ち込む。
傲慢なシェフは・・・魔女の愛し子にフライパンを贈ることにする。
休業中の「ビストロ・シンフォニック表参道」に侵入する二人。
そこで・・・パーカーちゃんは父と腹違いの弟に遭遇する。
荒んだ父親は・・・週刊誌の記事を一瞥する。
「何が・・・二代目社長の甘えだ・・・俺は父親に何一つ与えられなかったのに」
「・・・」
「お前が大きくなったら俺のために・・・社会に復讐してくれ」
「・・・」
一人になった弟に姉は囁く。
「私は・・・あなたに何もしてあげられない・・・でも・・・私が学んだことを教えてあげる・・・一つ、人に優しくすれば自分が優しくなる・・・一つ、人のことを分かれば自分のことがわかる・・・一つ、人を笑顔にすれば自分も笑顔になれる・・・大人になったら・・・また会いましょう」
「アイドルのトップでもなく・・・芸能界のトップでもなく・・・人を笑顔にさせる天下をとるんですね」
「はじめてのももクロかっ」
汝、誰のために灯を点けるか?
我、道を見失いし時
我が迷い人のために点けた灯が
我を導くこともあり
閉店のための作業手順を話す喪服ちゃんは泣かない約束したばかりなのにもう涙なのだった。
七人のメンバーは・・・軌道に乗った「ビストロ・フー」の最後をなかなか受けとめることができない。
しかし・・・魔女たま子は気持ちを切り替えて営業準備を始めるのだった。
「シャンパン冷えてない」
「イカが解凍されてません」
夜の部の最後の客が勘定をすませると「ビストロ・フー」は終焉の時を迎える。
「どうして・・・閉店しなければならないのですか」
「これからなのに・・・奇跡のように・・・回りだしたのに」
「黒字なのに・・・」
「これでいいのよ・・・毎日が奇跡だった。みんなと一緒に働いて毎日が楽しくて仕方なかった・・・そうやって自分がまともだと思うことを続けるの。そうすれば明日は必ずやってくる」
三千院は初めて屋上に来た自分を思い出す。
生きる自信のなかった自分。
喪服ちゃんは処女だった頃を思い出す。
量産ちゃんは初期の不具合を思い出す。
ハイジは孤独なゲイだったことを思い出す。
パーカーちゃんは・・・家なき子だった頃を思い出す。
今は大切な思い出が宝物になっていた。
仲間たちと新しい一歩を踏み出すのは・・・それほど恐ろしいことではなかった。
ハイジは悲しい恋の物語を暗闇で打ち明け・・・女たちは涙するのだった。
星空が忍び笑う夜。
もうひとつの別の世界では万事が順調である。
誰かが優しさを学び、自分を学び、愛を学んだ世界。
それは夢の中にだけ存在するのだ。
悪魔の撒く不和の種は・・・あまねく世界を不調和に導くからである。
それから・・・三百日の月日が過ぎた。
女たちはたま子に召集された。
海辺の廃屋から飛び出す魔女・・・。
海中からはホテルのレストランに勤務する傲慢ななシェフと悪魔くんが現れる。
「それが・・・新店舗か・・・負ける気がしないぜ」
女たちは高慢なシェフに賛意を示す。
「だって・・・潮風と潮騒があるんですよ・・・こんな海の見える場所で食べるごはんは美味しいに決まっています・・・みんなで一緒にやりましょう」
「いやいやいや」と後ずさる一同だった。
しかし・・・魔女の呪いから逃れることはできないのである。
結局、この世にはどうしようもなく男と女が食事する場所が必要なんだから・・・。
・・・三人娘の恋の物語を夏くらいに見せてくれてもいいよ。
「わたしの大好物は・・・焼き鳥のタンとスルメ~」
どこかで誰かがあの空にむかって歌っているようだ。
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
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コメント
こんにちは
アンナちゃんのまりです(え?)
問題のあるレストラン。。。最高に楽しませていただきました。
毎回1時間がアッという間に過ぎていました。
そしてオンエアの翌日の楽しみはキッドさんのブログにお邪魔することでした。
レビューに入る前の語りも楽しく
レビューに入っても所々に散りばめられたキッドさんの微妙な台詞変更とかが楽しくてしかたありませんでした。
真木よう子さんの可愛らしさに初めて触れた作品でもありました。
若手女優3人も可愛くて可愛くて
ハイジとユーさんも味わい深くて
最高の台詞
最高のキャストだったなぁと。。。
三人娘の恋。。。私も見たいなぁ~
投稿: まり | 2015年3月20日 (金) 11時00分
☥☥✰☽✰☥☥まり様、いらっしゃいませ☥☥✰☽✰☥☥
アンナお嬢様はただ今、春ドラマごっこガーデンのセット視察中でございます。
ラウンジにドリンクバーをご用意しましたので
傲慢なバーテンダーロイドがご案内申し上げます。
問題のあるビストロ・セットもございますので
ご見学なさってはいかがですかな。
どちらのビストロもロイドによる営業中でございます。
キッドじいめはやはりシェフちゃんのポトフを贔屓しておりまする。
レビューのご愛読に恐縮でございます。
冬ドラマは大恋愛大会でしたが
(月)(木)(金)
がそれぞれに脚本家の特徴が出て
楽しゅうございました。
(木)はやはり圧倒的なポエム力が光りましたな。
主人公の呪文もなかなかでしたが
三人娘のいたいけなさに萌え~でございました。
キッドにとって杉本哲太は
思い入れのある俳優なので
素晴らしい出来栄えに毎回惚れぼれしておりましたぞ。
男女同権へのアプローチも様々ですが
優しい性差別対応と厳しい性差別対応がございます。
厳しい方から見れば
経済力を男性に委ねた専業主婦すら女性の敵ですが
優しい方はそれを本末転倒という。
真木よう子さんの演じる主人公は
厳しさと優しさの交錯する細い道を行く。
ハイジとユーは優しさと厳しさの両面から
主人公を支えていたようでございます。
とにかく・・・素晴らしい台詞と演技でしたねえ。
そして実に洗練されたストーリー展開でした。
久しぶりのフリーホール展開で
楽しゅうこざいました。
三人娘もますますビッグに育って
スケジュール調節が難しいくらいになってほしい今日この頃でございます。
まあ・・・そういう意味で伝説になるでしょうね。
投稿: キッド | 2015年3月20日 (金) 22時26分
映画ヒミズ、Q10、あまちゃん……ときて、
WOMAN、ごちそうさん、銀二貫……ときて、
まさかこの三名が一つの作品に集結して他にもイイ役者さんが沢山出てて、第一話見逃してしまったけど、残り全部観られてよかったです。
でも、カメラが水平にパンしていくと「エウロパにも地球と同じにモノリスがっ」というあたりで終わってほしかった。
皆んな洟すすったじゃん。楽しい最後の一夜があったじゃん。伊達さん三回上手く使い切ったじゃん。世の中にはキチガイがいてそれまで静かに暮らしていたのに何か
のきっかけで奇跡のような店をつぶしてしまうって描いたじゃん。金色の、夢のような夢のお店も描けたじゃん。あとはもう、300日でも三千日でもいいから経過した後にどこかの廃屋に現れたたま子の、その口もとだけ写してニヤリくらいでいいじゃん。
かようにワタシは『Mother』の最後の面会はイラナイとか、『家政婦のミタ』で新たな家に降臨するところはイラナイとか、そんな感じなので、「この店の毎日こそが奇跡」って言っているわりには「第二の奇跡」の安売り予告みたいな方式はちょっと残念だったなーと思うのであります。
この欄ではできるだけ、わざわざネガティブなことを書きに来るつもりは無いのですが、期待していたし、先週の終りかた、一週間視聴者を待たせての今週へのつなぎかた、そしてそのあとの苦い展開もいいわーっと思っていたので、まぁ記念ポトフ。
投稿: 幻灯機 | 2015年3月21日 (土) 21時48分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
映画的手法では
クライマックスの後にエピローグがあるのが
常道で・・・所謂、余韻ですな。
ホラー映画で言えば
すべてが終わったと思ったら墓場から手がニョッキリ
・・・でございます。
群像劇では登場人物のその後が語られたりします。
ジャッキーのNG集のような掟破りも・・・。
まあ、こればかりは好みの問題ですな。
今回は「フリーホール形式」で
最後に上昇部分を持ってくるという展開。
物語全体の構造にもマッチしていたし
最終回限定でも
悪夢の「いやあああああ」と
現実の「いやいやいやいや」が
対になった徹頭徹尾ですな。
キッドはトレビアンと叫びました。
ま、いわゆるひとつのてんどん(くりかえしのギャグ)で
ございます。
ふふふ・・・「2001年宇宙の旅」は思わせぶりですからな。
高畑充希は1991年度生まれですので波瑠、瀧本美織、前田敦子、真野恵里菜、夏帆、山本美月、朝倉あき、岡本玲・・・と物凄いライバルたちに囲まれています。デビューは2005年で山口百恵系ミュージカル。「ごちそうさん」までは知る人ぞ知る実力派で・・・二階堂ふみとは「軍師官兵衛」で大河共演。
二階堂ふみと松岡茉優は実は1994年度生まれの同期です。
ドラマデビューが「受験の神様」(2007年)の子役で・・・共演してますからねえ。
で、松岡はおはガールを2年。
その間に二階堂は「神聖かまってちゃんロックンロールは鳴り止まないっ」「熱海の捜査官」「平清盛」「ヒミズ」とモデルで女優の階段をかけあがります。
松岡は「あまちゃん」でようやく「ネギ」として認知され・・・バラエティーもこなせる女優として・・・ある意味で「問題のあるレストラン」で凄さを示したとも言えますな。
ミュージカル系、モデル系、バラエティー系と・・・
それぞれの領地で磨き上げた女優魂が炸裂。
まさに・・・三人娘の記念碑のような作品でした。
歴史に刻まれたと考えます。
投稿: キッド | 2015年3月22日 (日) 06時21分