妻を娶るは子孫相続の為なれば子なき女は去るべし(宮崎香蓮)
江戸時代の女子教育のための覚書のようなものが「女大学」である。
基本的に男尊女卑で貫かれているため、女子に基本的人権がない体裁である。
もちろん・・・当時の女性がそのように生きたとは言えない。
教科書通りに生きるのは昔も今も困難だからである。
嫁としての心得の一つがタイトルの教えである。
この辺りを発想の元として「子を産まぬ嫁を姑がいびる」という定番が生まれるわけだが、「女大学」は次のような続きがある。
「しかれども、夫人の心正しく行儀よくして妬みなくば同姓の子を養うべし」
養子があれば実子がなくても大丈夫なのである。
教えというものはこのように無理がないことが大事なのである。
まあ・・・さらに「妻に子がなくとも妾に子があれば去るに及ばず」と続き、一夫一婦制を完全に否定するところが・・・結局、男尊女卑なのだが。
で、『花燃ゆ・第11回』(NHK総合20150315PM8~)脚本・宮村優子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は憂国の志士・前原一誠のイラスト描き下ろし大公開でお得でございます。吉田松陰を描くにあたって現在の政治と一番の齟齬があるのは「国体」の問題だと思われます。なにしろ、今は「象徴」でございますからね。「主権」が天皇にあった時代の源泉をあまり大きな声では描かない姿勢が要求されていると思われます。前原一誠をあまり平民擁護的に描くのはむず痒いのですが・・・国民皆兵に反対するのが・・・国民のためなのか・・・士族という特権階級のためなのか・・・微妙でございますからねえ。「日本政記/頼山陽」(1845年)の件で言葉を濁すあたりが一種の限界ですな。すべては天朝のためと叫ぶところですからな。ともかく・・・妹を想う兄と姉の対比、藩政におけるそれぞれの方針の対比を重ねてくるあたり・・・なかなかドラマでございますよね。まあ・・・「愛する小田村と一生つながりたいから寿を嫁に出し、愛する久坂と一生つながりたいから文を嫁に出す」・・・妄想的には松陰のホモホモしさが高まりまくる今日この頃でございます。
嘉永七年(1854年)三月、ペリーと幕府は日米和親条約を締結。安政四年(1857年)十月、ハリスは修好通商条約締結を求めて江戸城に登城する。時の老中・堀田正睦は苦渋の選択を迫られるのだった。十三代将軍・家定の健康は優れず、将軍位継承問題は南紀派、一橋派の抗争として火花を散らす。十二月、下田奉行・井上清直と目付・岩瀬忠震は条約締結にむけて交渉を開始する。英国と仏国は清国を侵略中である。余波は長州におよび、幕府に対する穏健派と改革派は多数派工作を展開する。開国による密輸貿易の損失を案じる周布政之助は明倫館派閥による多数派工作に成功し、開国に備える緊縮財政を主張する椋梨藤太を一時、中央政務から遠ざけることに成功する。長州における開国反対派と開国派の誕生である。やがて経済政策としての開国反対政策は尊王攘夷という狂気を育み始めるのだった。もちろん・・・それを推進するのは藩政から遠く離れて理想論を謳歌する松下村塾の愉快な仲間たちであることは言うまでもないのだった。下級武士や明倫館からの落ちこぼれを集めた私塾はこうしてテロの温床となっていくのである。
「重臣の周布様と先生の義兄弟が組んだ謀反は成功したそうでございます」
伊藤利助がつぷやいた。
「利助は耳が早いのう・・・まるで忍びのようだ」
松陰は呟いた。
「いえ・・・巷の噂でございます」
「なにしろ・・・密貿易は・・・藩の貴重な財源だからな」と高杉晋作が嘯く。
「開国などされては・・・せっかくの財政再建が振り出しにもどってしまいます」と海岸地方の産業振興を研究する前原一誠が持論を展開する。
「幕府の狙いはあくまで貿易の一元化だからな」と久坂は応ずる。
松陰は微笑んだ。
「ところで・・・久坂くん」
「何でありましょうか」
「私は君と師弟ではなく・・・兄妹となりたいと考える」
「え」
「文と夫婦になりたまえ」
「ええ」
「何か・・・問題でも・・・」
「いえ・・・確かに・・・文様は・・・才女でございますれば」
「そうだろう・・・わが妹ながら・・・他人の心が良く分かる・・・心映え優れた女子じゃ」
「何でもお見通しのようで・・・怖い時があります」
「ふふふ・・・さすがは久坂君・・・慧眼じゃのう・・・で」
「否も応もございません」
「うん・・・めでたい」
もちろん・・・松陰にとって・・・すべては決まりきったことである。
松陰の妹と久坂玄瑞は婚姻する運命なのだ。
松陰はあまり幸福とはいえない夫婦の未来も知っているが・・・それは瑣末な出来事に過ぎない。
すべては回天の大事業のため。
民の命は天子に捧げるために在るのだから・・・。
「万歳三唱だ」
「久坂くん、結婚おめでとう」
万歳を三唱する松下村塾の若者たちだった。
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