美人が脱いでいる時にやめろと言える男なんているのかよ(杉本哲太)パパ最低!(松岡茉優)
頭のおかしい男が総理大臣になったのか・・・。
総理大臣になって頭がおかしくなったのか。
頭がおかしいという問題もまた悩ましい。
マンガ「墓場の鬼太郎/水木しげる」の「妖怪大戦争」篇で沖縄の先の南の島から来た少年が・・・。
「島が妖怪に占領されてしまいました・・・誰か助けてください」と訴える。
街角で人々は・・・。
「きちがいか・・・」
「きちがいだな・・・」
・・・とつぶやいて通りすぎて行く。
ひどい・・・と読者は思うわけだが・・・。
実際に街角でこの少年に訴えられたら・・・。
本気で耳を傾けることができるだろうか。
事件の現場にこれでもかと積まれる慰霊の花束。
素晴らしいインターネットの世界で叫ばれる虚々実々。
新聞の朝刊で気を引く「文春」と「新潮」の見出し。
人々は恐れている。
満月の夜に自分自身がとんでもない目に会うのではないかと。
あなたの隣人がものすごいクズ野郎だったらどうしよう・・・と。
頭のおかしな連鎖は厄介だよなと。
で、『問題のあるレストラン・第9回』(フジテレビ20150312PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。「白夜の女騎士/野田秀樹」の舞台でレフ小僧といえば田山涼成で、ライト兄といえば佐戸井けん太である。実はライト兄は杉本哲太も演じている。とにかくなしくずしにロマンチックな虚構の中にいた人々がこれ以上なくロマンチックではないクズの中のクズを演じるのである。頭がおかしくなりそうだが・・・それが虚構の為せる術なのである。言葉は虚しく紡がれて暗黒の彼方に消えて行く。地獄の底に手を差し伸べても引きずり込まれる惧れがあるので君子危うきに近寄らずという言葉が生まれました。けして、虎穴にいらずんば虎児を得ずを思い出さないでください。
傲慢なシェフ・門司(東出昌大)は悪魔くんである星野大智(菅田将暉)に仲間としてアドバイスをする。
「自分の交際相手を風俗関係に売ったりしちゃダメだぞ」
「どうすれば・・・償えますか」
「とにかく・・・業者に返金して・・・誠意を尽くせ」
「はい・・・それでなんとかなりますか」
「とりかえしのつかないことをしたらとりかえしはつかないんだよ」
「ですよね」
「それでも・・・生きていくしかないんだから・・・あやまちはくりかえさないって誓うしかないだろう」
「でも・・・俺・・・バカだから・・・」
「だよな」
二人はケータリングで「LIKEDINING SERVICE」本社の会議室にランチをサービスするのだった。
雨木社長(杉本哲太)は五月(菊池亜希子)に対するパワハラの件で対応を迫られている。
「当社と社長の連名による謝罪と慰謝料二百万円の支払いが先方の要求です・・・回答期限は残り五日。これを過ぎると訴訟となるでしょう」
クレーム処理担当の法務部社員・杉崎(佐戸井けん太)が状況を説明する。
雨木社長はいつものように上の空である。
「またですか」
「表沙汰になるのはまずいですね」
重役たちの言葉にも表情を変えない雨木。
しかし、書類の上にスープをこぼすのだった。
それが単に行儀が悪いだけのようにも見え、内心の動揺を示しているようにも見える。動揺したとしたら・・・それが自分に対する批判的な言動に対する怒りなのか怯えなのかも定かではない。
雨木は心を閉ざした人間なのだ。
雨木は傲慢なシェフに声をかける。
「うまかったよ」
「ちょっと・・・お聞きしたいことがあります」
「何でしょうか」
「社長がある女性に訴えられるって聞きました」
「それで」
「訴えられるようなことをしたんですか」
「君、面白いね」
「もししたのなら・・・謝るべきです」
「会社として・・・しっかり対応している。心配しなくても店はつぶれないよ」
「信じていいんですか」
「もちろん」
自分一人の世界で生きている男。経済力で世界から守られている男。思った通りに生きている男は・・・誰も信じていないから何も気にならないのである。
傲慢なシェフは孤独な男と気になる女の間で揺れるのだった。
「ビストロ・フー」の女たちは他愛のない会話を繰り広げる。
「スプーンとフォーク・・・どちらの歴史が古いでしょうか」とハイジ(安田顕)が問う。
「フォークかしら」と田中たま子(真木よう子)が答える。
「残念でした・・・スプーンでした」
「ローマの頃からスープはスプーンで飲んだけど、肉は手づかみだから」
「ヨーロッパ人は野蛮だからね」
「箸こそが文明のあけぼのよね」
「でも手羽先は手で食べたい」と三千院(臼田あさ美)は手羽先を手掴み。
「手で手を食べる」とシェフちゃんこと千佳(松岡茉優)。
「手って言うな」と喪服ちゃんこと結実(二階堂ふみ)。
「手だった頃は羽ばたいてたのよねえ」と弁護士の烏森(YOU)。
「やめて・・・」
「東大の先輩として弱肉強食について語るのよ」
「東大率が高すぎるのね」と接客ちゃんこと藍里(高畑充希)・・・。
たま子は烏森と「別件」に入り、三千院は離婚調停が続くためにハイジと三人娘が「ビストロ・フー」を死守することになるのだった。
シェフちゃんは食材の注文を、接客ちゃんはサービス全般を、喪服ちゃんは運営をたま子から引き継ぐ。
「私にはできません」と喪服ちゃん。
「学級委員やってたんでしょう」とたま子。
「私の学期に・・・学級崩壊しました」
かわいいよ、三人娘、かわいいよである。
回答期限まで残り四日。烏森法律事務所は臨戦体制となる。
五月と高村新(風間俊介)は仲良く参戦である。
高村は判例の資料抜きだしを手伝うらしい。
お茶の間は・・・本当に味方なのか・・・最終回まで息を抜けないキャスティングなのだった。
たま子は・・・裁判に供えての証人捜しを担当するのだった。
しかし・・・証人たちは皆、「ライクダイニングサービス」の関係者である。
当然、緘口令が敷かれ、関係者の口は重いのだった。
たま子はついに・・・尻を触らずにはいられない土田部長(吹越満)に接触する。
「お前らが訴えたって法務部の連中の睡眠時間が減るだけだよ・・・勝てっこないよ」
カレー丼は美味いがそばの不味い蕎麦屋で向いあう二人。
「勝ち負けで訴えるんじゃありません」
「バッシングの誘導か・・・怖いよな・・・頭のいい女は」
「証人になってもらえませんか」
「俺はお前の敵だろう」
「泥だらけの仲間でもあります」
「男のかぶる泥と女のかぶる泥は違うんだよ・・・生涯賃金が違うんだから」
「泥をかぶった気持ちに男も女もないでしょう」
「重さが違うんだよ」
「助けてほしいんです」
「・・・俺の娘がさ・・・同じことされたら・・・俺が社長を殺す」
「・・・」
「お前、冗談だと思うか」
烏森弁護士に「要求の全面的な受け入れ」という連絡が入る。
別件チームに緊張が走るのだった。
その頃、ハイジと三人娘は奮闘していた。
コミュニケーションの苦手なシェフちゃんは異様な圧力を持つ食材業者・槇村フーズ(LiLiCo)に辟易している。壁際に追い詰められ怪奇ネイル女の恐怖を味わうのだった。
恐怖のためにキャベツを発注ミスするシェフちゃんだった。
かわいいよ、シェフちゃんかわいいよ。
接客ちゃんは喪服ちゃんに大学生相手の接客術をレッスンするのだった。
「うえーい、わんちゃんあるかも~」
「ワンチャンスですね」
「つんだわー」
「投了ですね」
「まじだりー」
「マジでダルいわっ」
しかし、つんつん量産型男子とまきまき量産型女子の人物特定が困難な喪服ちゃんである。
かわいいよ、喪服ちゃんかわいいよ。
プレッシャーで鬱屈するシェフちゃんと喪服ちゃんは接客ちゃんを呪うのだった。
「ヘアサロンで読みたくない雑誌置かれろ」
「夕方の変な時間に目覚ましなれ」
「猫の可愛かった瞬間見逃せ」
「宇宙のこと考え過ぎて怖くなれ」
挟撃されて身悶える接客ちゃんだった。
かわいいよ、接客ちゃんかわいいよ。
このコーナーだけは深夜の帯でずっとやってくれと星に祈りたい。
ああっ、これで熟睡できると寝入った時にキャンセルしそこなったアラームでたたき起こされることほど不幸なことはそうないからな。
そして・・・届く屋上一杯のキャベツの山。
「ウサギを飼えばいいんじゃない」
「キャベツが消えてウサギが残りますよ」
「ウサギ食べればいいんじゃない」
「ウサギ食べれません」
「ニシキヘビを飼えばいいんじゃない」
「表参道でそんなワイルドな店できますか、首締めます」
ハイジは呆れるが・・・ギックリ腰を発症して貞子となるのだった。
一日で挫折する留守番組だった。
緊張と緩和である。
もちろん・・・フリーホールはするすると上昇中なのだ。
約束の時間に雨木は来なかった。
やって来たのは苦情処理チームである。
「このたびは申し訳ありませんでした」
「・・・」
「示談交渉を始める前に藤村五月様のプライバシーに考慮してこの事案を一切公表しないことについて双方の誓約を交わしたいと考えます」
「・・・」
「誠意を持って対応いたしますので」
誠意のかけらもない対応に唖然とする一同だった。
高村は追求した。
「雨木社長はなぜ来ないのですか」
「雨木を含め私どもは深く反省しております」
「形だけの謝罪はいりません」
「まことにもってもうしわけございません」
五月は納得できなかった。
「裁判なら・・・雨木社長と直接話せますか」
「慰謝料を払われたら・・・それで終わる可能性も否定できません」
早くも手詰まりとなる別件チーム。
その頃、本日休業中の「ビストロ・フー」に二人のジュピターによって誕生日会を台無しにされた原宿ファッション界の著名人・伊達和美(銀粉蝶)からの予約が入る。
リベンジに燃える三人娘は再び立ち上がるのだった。
ハイジは貞子となってニョロニョロした。
満月の夜・・・遅く開いた店に・・・客は殺到するのだった。
心配になって様子を見に来たたま子は店の賑わいに胸をなでおろす。
そこに・・・傲慢なシェフが現れる。
二人は焼き肉デートをするのだった。
「裁判になんのか」
「分かってんなら聞かなきゃいいのに」
「傘泥棒の話を聞いた日・・・思い出したことがあった・・・俺の小学校にあっくんって奴がいて・・・すぐ人を殴るんで・・・みんなから嫌われてた・・・俺はあっくんの最後の友達だったんだけど・・・ある日、こっちに来んなって・・・俺も友達やめたんだ・・・夏休みになってあっくんは入院した・・・あっくんの父親に腹を蹴られて・・・ずっと暴力をふるわれてたらしい・・・俺が・・・こっち来んなって言ったことはさ・・・あっくんの腹を蹴ったことになるのかなって・・・」
「それは・・・ちょっと違うんじゃない」
「もしかしたら・・・雨木社長だって・・・誰かに蹴られているのかもって」
「・・・」
「ごめん・・・俺、また変なこと言ったか」
「やられたらやりかえす・・・でもやりかえす相手をまちがえてたら・・・まちがえられた相手がやりかえさなかったら・・・そりゃ・・・いろいろあるでしょう・・・だけど・・・もう・・・そういうことじゃない・・・殺すか殺されるか・・・だから」
「・・・」
「私たちは小学生じゃないのよ」
誰かが情報をリークして・・・ハイエナが餌に飛び付く。
「雑誌の取材が入ったわ」と烏森。
「それはいい報せなの」とたま子。
「スキャンダルは両刃の剣よ・・・こちらも痛い思いはするけれど・・・痛さを感じない相手に出血させることはできる・・・」
「当然、向こうにも取材が入るわね」
「おそらく・・・かなり・・・譲歩してくるでしょう」
たちまち・・・杉崎は懐柔交渉のために連絡してくるのだった。
「なるべく・・・穏便にすませましょう」
たま子は敵地に乗り込んだ。
「本人様は・・・」
「週刊誌の取材を受けています・・・記事にするかどうかは・・・そちら次第です・・・社長を呼んでもらえますか」
「お待ちください」
会議室には土田がいた。
「リークしたのはあなたですね」
「頭のいい女は嫌いだって言っただろう」
「私がお願いしたのは・・・あなたの手で泥を拭うことだったのに・・・」
しかし・・・二人は口を閉ざす。
会議室に傲慢なシェフはケータリングを用意する。
窓際ハゲ(田山涼成)もやってくる。
「どうしたんだ」と傲慢なシェフ。
「ここが・・・事件現場なの」
「え」
「ここで・・・私の親友は・・・殺されたのよ」
五月は「ウイークリー芸春」の記者に事件について語りはじめる。
たま子は雨木社長に対峙する。
「あなたは・・・自分が何をしたのか・・・憶えていますか」
「・・・」
「あなたは・・・彼女の顔も覚えていませんでした」
「・・・」
「あの日・・・彼女は不祥事の責任を一身に背負っていた」
「・・・」
「謝罪に訪れた彼女に・・・あなたは理不尽な要求をしたのです」
「彼女にも誤解があったと思う」
突然、服を脱ぎ出すたま子。
「やめたまえ」
「あの日、彼女を止めた人はいませんでした」
「・・・」
「この部屋にいた十六人の男たちは全員、誤解していたのですか」
「・・・」
「この部屋を出た瞬間、忘れてしまった彼女を・・・あなたたちは殺したのです」
「すまないことをした・・・心から謝罪する」
「あなたの口から・・・直接・・・謝罪してくれるのですね」
「もちろんだ」
たま子は雨木の目を見た。
雨木は深く頭を下げた。
全員が退室し・・・傲慢なシェフとたま子が残された。
「何故・・・あなたが泣いているの・・・」
「・・・」
たま子には分かっていた・・・傲慢なシェフは和解が成立したと思ったのだ。
そして・・・たま子は思い知っていた。
言葉の通じない人間がこの世に存在することを。
虚しい戦いは今、始ったのである。
しかし・・・雨木を引きずりだせたのは小さな勝利だった。
次の一手まで・・・「ビストロ・フー」に合流することはできるだろう。
三千院も森村家から我が子を一時預かることを認められて帰還する。
全員集合した「ビストロ・フー」は総力をあげて伊達をもてなすのだった。
問題児二人が仲睦まじく接待していることに微笑む伊達。
「ますます・・・いいお店になったわね」
「ありがとうございます・・・」
しかし・・・禍福は糾う縄の如しなのである。
客のスプーンは奇跡のように宙に舞い路上に落下するのだった。
その頃・・・ビストロ「SYMPHONIC OMOTESANDO」の厨房には雨木社長が現れていた。
「どうだ・・・上手いもんだろう・・・俺の謝罪っぷりは」
「さすがでございました」と窓際ハゲ。
「なにしろ・・・子供のお受験があるからな・・・裁判沙汰は絶対ダメだと女房がうるさいんだよ」
傲慢なシェフは卑劣な裏切りに逆上するのだった。
「嘘だったというのですか」
雨木社長は未熟な男が自分に敵意を抱いたことを察知した。
不遜だ・・・不遜でいいのは世界でただ一人俺だけだ。
「お前・・・首だ」
傲慢なシェフは正義の鉄槌を不遜な社長に振りかざす。
「やめてください」と縋り付く悪魔くん。
神聖な厨房は血に染まった・・・。
店と店の間の路上にパトカーがやって来た。
異変に気がつくたま子たち・・・。
「ちょっと・・・様子を見てきましょう」
しかし、屋上に現れる制服警官。
「あなたが落したのは・・・この普通のスプーンですね」
たま子の心は奈落へと吸い込まれて行くのだった。
眼球は目覚めの時を迎えてグリグリする。
世界はおいしいごはんだけでは出来ていないから。
三順目の序破急を終え・・・物語は怒涛のクライマックスになだれ込んでいくのだな。
地獄の悪夢とはこのことなのである。
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