アイムホーム(木村拓哉)ただいまって言いたかった人(上戸彩)
帰る家があることは素晴らしいことだ。
遠い山に日が落ちて、チャイムが響き渡り、夕闇の街で家路につく人々・・・。
それが幸せというものなのである。
この世にはそれ以上の幸せはないのだ。
原作者は問いかける。
私の帰る家はどこにあるのかと・・・。
二つの祖国を持つものは不安な気持ちに揺れるだろう。
帰るべき我が家への道筋は迷路になっている。
自分の家族はどちらの故郷にいるのか。
ゆえに・・・この物語はどこにもいない本当の自分を捜す旅路の話なのだ。
で、『アイムホーム・第1回』(テレビ朝日20150416PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・七髙剛を見た。原作にはいくつかの先行系があるが・・・最初に妄想できるのは短編小説「鍵/筒井康隆」(1978年)である。主人公は転居を繰り返してきた男で昔棲んでいた部屋の鍵を発見して過去へ遡上し始める。ノスタルジックに彩られた幻想譚である。次にコミック「火の鳥・復活篇/手塚治虫」(1970年)が妄想される。一度死んだ主人公は生物が無機質なものに感じられロボットに愛を感じるようになるのだった。この二つの作品を前提に「アイムホーム」(1999年)は結晶したものと妄想できるわけである。
そして・・・それは明らかに美しい宝石となっている。
キッドは原作者のデラシネ的な反戦思想にはまったく共鳴しないが、この作品にはいつも胸を打たれるのだった。
ドラマ化によって原作は書店を捜せばあると思うが・・・簡単に知りたい人には天使テンメイ様の記事を推奨いたします。
僕は「ただいま」って言いたかったんだ。
だから急いでいたんだ。
大手証券会社の「葵インペリアル」第一営業部のエースだった家路久は仕事を終えて家路を急いでいた。
工場を通過した久はガスの噴出に足を止める。
重大な事故の予感。
誰かに報告すべきか躊躇した一瞬。
爆発事故が発生し・・・直撃を受けた久は熱傷によって心肺停止する。
生と死の境界線を彷徨った後で蘇生した久の脳には後遺症が残された。
事故から過去、五年間の記憶が曖昧なものとなってしまったのだ。
主治医となった脳外科医の筑波良明(及川光博)は久に告げる。
「心肺停止によって心身ともにダメージを受けています。なにしろ・・・三ヶ月も意識を失っていたのですから・・・様々な高次脳機能障害が発症することが予想されます」
「たとえば・・・」
「仕事の内容が思い出せなかったり・・・親しい人間が誰だか判らなかったり・・・幽霊や怪物を見たり・・・まあ・・・色々ですよ・・・幽霊とか見えませんか」
「今のところは・・・」
「そりゃ・・・残念」
さらに三ヶ月の間、身体機能のリハリビテーションに取り組んだ久は職場に復帰することが可能なほど回復したのであった。
営業部のエースの復帰に喜んだ営業統括担当の執行役員・勅使河原洋介(渡辺いっけい)だったが・・・久が仕事内容を忘却していることを知ると・・・とりあえず第十三営業部への配置転換を命じるのだった。
「まさか・・・家路さんが・・・」
営業部の後輩で家路の休養中にエースとして頭角を現した黒木(新井浩文)は久に疑いの眼差しを向ける。
以前の久は油断のならない人物であったらしい。
かっては久の部下で今は黒木の部下となった岩下(野間口徹)や戸倉(矢野聖人)も同意する。
勅使河原に至っては・・・第十三営業部の派遣社員・小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)に久の監視を命じる。
「何かを企んでいるかもしれない」
久は何か恐ろしい男であったらしい。
しかし・・・今や簡単な仕事さえ指示を仰がなければ処理できず・・・第十三営業部の轟課長(光石研)に舌打ちされる久なのであった。
社員食堂で昼食を取る久は小鳥遊や小机部長(西田敏行)と同席する。
「気にしないでいいですよ」と小鳥遊。
「・・・」
「ここはどうせジジ捨て山だからね」と小机部長。
「え」
「私なんか・・・社長レースに敗れてここだから」
「だから・・・皆さん、社員食堂に来ないんです・・・出世している同期に会いたくないから」
「君も・・・」
「私は派遣社員なので関係ありません」
とにかく・・・第一営業部から第十三営業部へと転落した久なのである。
しかし・・・と久は思う。
僕には帰る家があると・・・。
仕事を終えた久は家路につく。
久が帰宅すると雑誌のライターをしている妻の香(水野美紀)と中学生の娘・すばる(山口まゆ)は留守だった。
干したままの洗濯物を取り込み・・・アイロンをかけ始める久。
久は家事が得意だった。
そこへ・・・娘のすばるが帰宅する。
「なにしてるの」
厳しい声で久を咎めるすばる。
「あれ・・・ブラジャーにアイロンかけちゃいけないんだっけ・・・ごめん・・・父さん、うっかりしてた・・・メモしなくちゃな」
記憶の曖昧な久はメモによる補完を行っていた。
「なに言ってるの・・・」
そこへ・・・妻の香も帰宅する。
「どうして・・・家にあなたがいるの・・・」
「え」
「事故でおかしくなったという話は聞いていたけど・・・忘れたの・・・私たち離婚して・・・もう五年になるのよ」
「あ・・・」
「どうやって・・・家に入ったのよ」
久はメモをたどり・・・記憶から喪失されている事実を見出す。
「そうか・・・僕たちは離婚していたのか」
「・・・」
「ごめん・・・鍵を持っていたから・・・つい・・・これ・・・返します」
久は鍵束から野沢家の鍵を抜く。
かって家路家だったこの家は・・・今は野沢香・すばる母娘の住居だったのだ。
香がもはや妻ではないことに驚き・・・混乱しながら・・・茫然とする二人を残し・・・久は退去した。
五年前に離婚した久は新しい家庭を築いていたのだった。
しかし・・・久は新しい家族との思い出を何一つ思い出せないのだった。
それどころか・・・野沢家からさほど離れていない新しい家路家に存在する現在の妻・恵(上戸彩)と四歳になる息子の良雄(高橋來)には異常なまでの違和感を持つ久なのである。
久は鍵束を見た。
十本あった鍵は九本になっている。
何故・・・こんなに鍵を持っているのか・・・久は当惑する。
そのうち・・・一本は家の鍵だが・・・残りの八本の鍵についての記憶は欠落しているのだった。
久は帰宅する・・・家で待っていたのは・・・仮面をつけているとしか思えない妻と息子だった。
笑っているのか・・・怒っているのか・・・表情が何も読みとれないのだ。
原作では・・・妻と子は常に「仮面」をつけたキャラクターという久視点の存在だったが・・・ドラマでは・・・久の主観と・・・現実的客観の映像が交錯する演出になっている。
原作では見えない恵と良雄の表情を見るのは新鮮で・・・なんだか得した気分になるのだった。
表現方法としては選択が難しいところだが・・・ドラマ版はこれでよかったと考える。
どちらにしろ・・・人間の顔が仮面をかぶったように見えるという病状はかなり超現実的な設定でお茶の間には想像が難しいかもしれないからな。
二つの視点を見せることで状況はわかりやすくなっているはずだ。
とにかく・・・原作では想像するしかなかった久の妻は上戸彩似の美しい人だったのである。
物語は久の視点で語られて行くのでたとえば・・・医師の説明を聞く恵の後ろ姿などの説明的描写などはかなり控えめである。仮面の妻と子供は久にとってもミステリアスな存在なのでリアルな描写はかなり抑制されているのである。つまり・・・いかにも久が一人で闘病しているような描写でもそこには妻が存在している可能性があることを想像する必要がある。社会復帰した久はようやく・・・妻が仮面をつけているように見えるところまで・・・回復したということなのである。看病しているのに認知されないのは悲しいことですよ。
僕には忘れていることがある。
そして思い出したことをまた忘れてしまう。
人間が「わかっていること」は記憶の連鎖あるいは連続性のもたらす意識である。
生まれてから現在に至るまでの記憶の集積が自分というものを形成している。
脳を損傷したことによる記憶の脱落により・・・久の人格は変容してしまっている。
どう変わったのかを本人は知ることができない。
そして・・・他人の気持ちは想像の範囲で察するしかないものであるために周囲の人々にも久が変わったことは気付かれにくい。
現在の久は自分というものを見出せない不安から・・・穏やかなキャラクターになっている。
しかし・・・お茶の間は・・・周囲の人々の反応から・・・かっての久がそうではなかったことを感じ取るのだった。
少なくとも・・・五年前に離婚した家族の家の近所に新居を構える久はどこか・・・傲慢な気配を漂わせる。
そして・・・離婚した家族の顔は認識できるのに・・・現在の家族の顔が認識できないのは一種の呪いと考えることもできる。
どういう経緯で久が離婚に至ったのかは今は明らかではないが・・・少なくとも娘のすばるには両親の離別という苦痛を与えているのである。
「ただいま」
「おかえりなさい」
仮面妻の恵はにこやかに久を迎える。
しかし・・・久には不気味な仮面が見えるだけである。
仮面息子の良雄もただ不気味なのだった。
仮面をつけた妻と性行為をすることは久には抵抗があった。
同じベッドに寝ながら行為にいたらないのは・・・瀕死の重傷から蘇生した夫を妻が気遣っているという状況なのだろう。
朝食を作るのは久の日課だったらしい。
久ははりきって旅館の和定食のような料理を仕上げるが・・・料理を見た良雄は泣きだすのだった。
「あなた・・・良雄は和食が苦手で・・・朝はパンにしましょうって・・・約束したばかりでしょう」
「あ」
「良雄も泣くことないでしょう・・・お父さんは・・・忘れん坊なのよ」
「ごめん・・・今、すぐにパンを焼くから・・・」
「ほら・・・お父さん謝ってるでしょう・・・謝った人にはなんて言うの」
「・・・」
「もういいよって・・・許してあげなくちゃ・・・」
「もういいよ・・・悪いのは僕なんだから」と久。
久は妻たちの顔に触れてみる。
しかし・・・その顔は陶器のように硬質な手触りなのだった。
久の手は妻や子供の温もりさえ感じることができないのだ。
思わず良雄の頬に触れた指先に力が入る。
「いたい・・・」
「あなた・・・何をするの・・・」
「あ・・・ごめん」
「いやねえ・・・さっきのこと・・・根にもっているの」
「いや・・・」
「子供みたい・・・」
すぐに泣きだす良雄の緊張した態度から・・・久が粗暴な男だった過去が醸しだされるのだった。
しかし・・・妻の恵からはそういう屈託は感じられない。
恵と久の関係も謎めいているのだった。
「ひびき野」というバスの停留所に向かう久は・・・野沢母子と肩を並べる。
「昨日は驚かせてすまなかった・・・」
「こんな時間に出勤なの・・・」
「今は・・・部署を移ったから」
「左遷されたの」とすばるは毒づく。
「・・・」
「今度は間違えないで自分の家に帰ってね」
香は皮肉を言って離れた。
バスを利用するのは久とすばるだけだった。
「お母さんとなんか・・・あったのか」
久はなんとなく母と娘に険悪なムードを感じ取っていた。
「関係ないでしょ」
「離婚したけど・・・お父さんはお父さんじゃないのか」
「実の父でもないくせに・・・」
「え・・・」
久はメモを確かめた。
十年前に久と香は結婚した。
すばるは香の連れ子で三歳だった。
つまり・・・久は三歳から八歳までのすばるの義理の父親だったのだ。
しかし・・・久のあやふやな記憶の中では・・・すばるは確かに愛しい実の娘だった。
久は自分の気持ちさえ・・・信じることができない自分に戸惑う・・・。
仕事らしい仕事もしないまま・・・久の業務は終わる。
「残業ですか・・・」と言葉をかける小鳥遊・・・。
「僕は・・・作業が遅いので・・・覚えたと思っていると忘れてしまうし」
「ポンコツですね」
「ひどいな・・・」
「気にしないでください・・・私とは比べられないほどの高給取りなんですから」
「・・・すまない」
久はメモを見る。
「しまった・・・息子を迎えに行く時間を忘れていた」
「あらあら」
初代ひょうきんアナウンサーに似た保育園の保母(山村美智)は久を嗜める。
「三十分くらい泣いてましたよ・・・彼がついていてくれたので泣きやみましたけど」
「良雄くんのサッカークラブでコーチをしています」
本城剛(田中圭)は今にも死にそうな顔で不服を申し立てる。
「あなた・・・本当に良雄くんのお父さんなんですか」
「間違いありません」
「でも・・・良雄くん・・・さっきからあなたの顔を見ようともしないし・・・」
「良雄は今・・・どんな顔をしていますか・・・怒ってますか」
「え」
おそらく事情を説明したのだろう・・・なんとか良雄を引きとることに成功した久だった。
久も不安だが・・・良雄はもっと不安なんだな。
良雄に気遣ってデザートを作る久。
「イチゴ好きだろ」
「嫌い・・・」
「え」
「ドリルをしなさい」と良雄に命じる恵。
「ドリルって・・・四歳でもう・・・そんなことを・・・」
「何言ってるの・・・あなたがやらせたんじゃない・・・」
「僕が・・・」
「・・・」
言葉も感情を示す要素なので仮面をつけていない恵と仮面の恵は幽かにトーンを変えているようだ。
とにかくゴージャスさに磨きがかかっているボデイが口ほどにものをいう人妻女優である。
「良雄って・・・前から・・・ああいう感じだったかな」
「むしろ・・・戸惑っているんじゃないかしら・・・厳しかったあなたが・・・急に優しくなったから」
「僕は・・・厳しかったのか」
仮面の上からパックをする恵は神秘的な眼差しを久に注ぐのだった。
久はバスルームに逃げるように去ろうとする。
「お背中流しましょうか」
「え」
「どうしたの・・・前は一緒に入ったじゃない」
「今日は・・・シャワーですませるから・・・」
仮面の女とセックスをすることに妙な抵抗を感じる久なのである。
しかし・・・恵のバストの存在感がますますとんでもない感じになってるからな。
ある意味、仮面の女だからという説得力がなくなるくらいだよな。
もう・・・演技力の問題じゃないものな。
その「圧倒的な魅力」を感じないという久の演技力は問われるけどな。
ギリギリセーフだよな。
もう・・・なんか異次元の演技パトルだよねえ。
子供とか・・・家族とか・・・。
そんなもの・・・本当に必要なのかな・・・。
激しい性行為の後で・・・抱いた女に背を向けて窓辺に佇む。
そんな夢を見た久。
無理をするからたまってるんだな。
客観的には穏やかに眠る美しい妻の寝顔・・・。
しかし・・・久の主観では冷たい仮面がじっと見つめているだけだ。
妻が眠っているのか・・・起きているのかも定かではない。
久は起きだして家族写真を眺めてみる。
しかし・・・写真の中の恵も良雄も仮面をつけているのだった。
家族の顔を思い出せないのか。
家族の顔を思い出したくないのか。
だとすれば・・・何故?
家族の顔を思い出すと心が痛むからなのか。
それは誰のせいなのか・・・。
懊悩する久は・・・別れた家族の写真を隠し持っていることに気がつく。
新しい家族を持つ時に以前の家族の記念品を持つことはある種のタブーである。
そういうことに抵抗のない久だったのか。
しかし・・・別れた家族の姿は久の目にありのままに映る。
現在の家族とは違い・・・ぬくもりのある昔の妻と娘・・・。
愛は記憶だからな。
仮面をつけた恵と良雄。
素顔の香(かおる)とすばる。
久は香とすばるこそが本当の家族であるような気持ちになる。
それは甘美な気持ちとともに罪悪感を久にもたらす。
「明日の約束・・・忘れないでね」
どこかへ出かけて行く仮面の女が久に告げる。
「もちろん」と答える久だが・・・なんのことかわからない。
この辺りの要領の良さが・・・久の油断のならないところである。
「良雄・・・すごく楽しみにしているから」と付け加える恵だった。
久はメモを確認する。
良雄の出生は・・・平成22年4月19日・・・。
明日が五歳の誕生日だった。
一緒に出かけて誕生日のプレゼントを買う予定。
そういうことを忘れてしまう久だった。
週末なので「第十三営業部」は「家路久の歓迎会」を行う部員たち。
エレベーターに乗り合わせた第一営業部の岩下と戸倉は優越感を隠さない。
「おやおや・・・こんなに早くから歓迎会ですか」
「暇な部署はうらやましいですねえ」
「四月さん・・・かってはバリバリやってたのに・・・残念ですねえ」
「・・・」
絡まれた四月をかっての部下から庇うようにエレベーターを下りる久。
一同は早い時間から飲み始める。
「私はねえ・・・社長の階段に足をかけていたんだよ・・・なにしろ・・・先代社長の娘と挙式したんだからね・・・その挙式の際中に・・・コレがアレしてさ・・・アレとコレで修羅場ったらないのよ。あぶなく・・・私はコレで会社をやめましたって事態よ。なんとか踏みとどまったけどね。第十三営業部でも部長は部長だからね」
「二次会はカラオケです」と張り切る五老海(いさみ)洋子(阿南敦子)だった。
四月はすでに泥酔していた。
「なんで歓迎会で・・・僕が解放しているんですか・・・」
「先輩・・・御苦労様です・・・握手」
「・・・」
「先輩の奥さんは・・・美人ですか」
久は仮面の妻を思い出す。
「いや・・・微妙な感じだけど・・・」
「でも・・・健康なんでしょう」
「うん・・・まあ・・・」
「何よりです・・・私の妻は・・・腎臓を病んでまして・・・」
「・・・」
「私が世話してやらねばならないのです」
「・・・」
「なにより・・・私は妻との時間を大切にしたいのです」
「・・・」
「だから・・・仕事をセーブして・・・セーブして・・・第十三部に・・・」
「そうですか・・・」
久は四月の手を握った。
そこには温もりがありました。
五年間の記憶が欠落した久は浦島太郎のようなものでもある。
「ワールドカップ・・・次はロシアですよ?」
「ブラジルは残念だったみたいだね」
「じゃ・・・大震災のことも?」
「大変だったみたいだね」
「今時の歌といえば?」
「KARAのミスターとか・・・」
「・・・」
la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la la.
友達以上恋人未満
セクシーな腰のきれが・・・久の過去の妖しさを示している・・・それはどうかな。
自分のノリの良さを以外に感じる久はカラオケ・ルームのトイレに向かう廊下で見知らぬ男に声をかけられる。
「あれ・・・家路さんじゃないですか・・・」
「はい」
「こんなところで・・・会えるとは・・・銀座のあの店に行きましょう」
「・・・」
雲井不動産専務の竹田雅夫(香川照之)は強引に久をタクシーに乗せる。
不安を感じていた久は車内から・・・夜の街を一人歩きするすばるの姿を目撃する。
だからといって・・・特に行動を起こさない久。
中学生がいる場所としては場違いで・・・本当にすばるを見たのか自信がなかったのか・・・それとも・・・久はそういう冷たい一面があるのかもしれなかった。
高級クラブのママ(高岡早紀)は久の耳元で囁く。
「ご無沙汰だったわね・・・どこで浮気してらしたのかしら・・・悪い人ね・・・ま・・・そういうところが・・・家路さんの魅力だけど・・・また・・・儲けさせてくださいよ」
ママと何回くらい寝たのか・・・ママに何を儲けさせたのか・・・全く思い出せない久だった。
「この男はいい男だろう」
どこの誰かもわからない男は家路のことを何でも知っているようだった。
ホステスたちは家路にうっとりとする。
「だけど・・・この男は悪い男なんです・・・なにしろ・・・自分の女をお得意さんに抱かせるような阿漕なことを平気でする人だ」
「まあ・・・こわい・・・だけど素敵」
久は自分がそういうことをした記憶が全くなかった。
「しかし・・・やる時はやるし・・・頼りになる男なんだな」
久は一瞬・・・男と自分が建築現場で話をしている情景を思い出す。
「あと・・・五百億円はいるんだ・・・」
「おまかせください・・・話はつけてあります」
「さすがだなあ・・・家路さん」
しかし・・・久にはそれが何の話なのかまったく理解できなかった。
男は酔い潰れた。
ママは囁く。
「お願いできますか・・・私、アフターなんで」
久は閉店した店内で男が目覚めるのを待った。
「あれ・・・・待っててくれたんですか」
「酔いが醒めたら・・・と思いまして」
「すいませんねえ・・・こんな落ち目の俺に付き合わせて・・・」
「落ち目・・・」
「またまた・・・家路さん・・・御存じでしょう・・・私が出世競争に負けたのを・・・」
「僕は・・・事故で・・・頭をやられて・・・いろいろなことを忘れてしまったんです」
「え・・・」
僕は一度死にました。
今、生きているのは奇跡のようなものだと言われています。
男は探るような目で久を見つめるのだった。
「そうですか・・・しかし・・・今日は楽しかった・・・昔を思い出しましたよ」
男は微笑んだ。
邪な世界では悪にもそれなりの価値がある。
時には汚濁が人を癒しさえするのだ。
久は男の語る過去の自分に馴染めない。
香の夫であり、すばるの父親だった頃の家族想いの自分を信じたかった。
しかし・・・現実の自分は家族を捨て・・・新しい家庭を作った男なのだ。
一体・・・どうして久は香と離婚することになったのか。
何一つ思い出せない久だった。
帰宅した久に香から連絡が入る。
呼び出された久は公園で別れた妻と会う。
「ごめんなさい・・・こんな時間に・・・」
「すばるがいなくなったって・・・」
「・・・」
「心当たりはないのかい」
「最近、あまり評判のよくない子と一緒にいたみたいなんだけど」
「・・・」
「金庫から五万円ほどなくなってるの・・・」
「とにかく・・・周囲を捜そう」
結局・・・すばるは見当たらなかった。
すばるの携帯電話の番号を聞き出した久は電話をかけてみる。
(・・・誰?)
「すばる・・・お父さんだ」
電話は切れた。
自宅に戻った久は深夜テレビのドキュメンタリー番組を見る。
「今の子は・・・お金目当で・・・何でもするからね・・・それから・・・若い子とやりたい男はいくらでもいるし・・・そういう需要がある以上供給すればビジネスになるわけでしょう・・・世の中にはひどい男はいくらでもいるから・・・俺たちは・・・女の子の安全を守ってるわけよ・・・囲いって・・・囲いなんてイメージ悪いでしょう・・・」
昔からいくらでもある組織的少女売春の話だった。
しかし・・・今の久にとっては胸が苦しくなるような話だった。
香から着信がある。
(すばるが帰宅しました)
久は安堵して睡魔に襲われる。
何があってもお父さんなんだ。
それだけは信じてほしい。
久は良雄と百貨店に出かけた。
付属の遊園地で良雄はカートに夢中になる。
「そろそろ・・・プレゼントを買いに行こう」
「もう一回・・・ねえ、もう一回」
「しょうがないなあ・・・」
久はテーブルで良雄を見守る。
その時・・・視野に妖しげな男と一緒のすばるが飛び込んでくる。
思わず追いかけようとして・・・良雄のことが気になる久。
「お父さん・・・すぐに戻ってくるから絶対にここを動くなよ」
「うん」
久はすばるの行方を追いかけた。
すばるは逃げ水のようにどんどん遠ざかる。
追いかけても追いかけても見失いそうになるのだった。
半年前に死にかけた男は体力が衰えている。
やがて・・・すばると男を発見した久の前に・・・危険な雰囲気の若者たちが立ちはだかる。
「おっさん・・・なんだよ」
「どいてくれ・・・その子に用があるんだ」
「あらあら・・・昼間から・・・どすけべえ丸出しかよ」
「僕はその子の父親だ」
「えー、うそー」
「嘘じゃない・・・その子はいい子だ・・・僕のかわいい娘だ・・・五歳の誕生日にバースデーケーキの蝋燭を吹き消しそこねて・・・泣きだすような・・・繊細な女の子なんだ。人参は嫌いだがホウレン草は大好きな・・・ちょっと変わったところのある子なんだよ」
「おっさん・・・何言ってんだ」
「返してくれ」
久は思わず道端のスクラップを武器として振りあげた。
「お父さん・・・」
すばるが振り返る。
若者たちは殺気立つ。
その時・・・屈強な男たちが現れた。
茫然とする久の前で若者たちは現れた男たちに捕縛される。
「はい・・・そのまま・・・そのまま・・・あなたは・・・?」
「その子の父親です」
「なるほど・・・ちょっとご足労願えますか」
「はい」
お茶の間は「良雄は!」と絶叫するのだった。
しかし・・・久の記憶からは仮面をかぶった息子の存在は消去されているのだった。
「つまりですな・・・あの男たちは囲いと称して少女たちに管理売春させていたわけです。売春していた中学生の中にあなたの娘・・・・のクラスメートがいて・・・相談されたあんたの娘さんが・・・手切れ金の五万円をもって一人で交渉に来たというわけです・・・このグループに目をつけていた我々は仕方なく逮捕に踏み切りました・・・あんたの娘さんは少しこわいもの知らずが過ぎますな・・・」
「はい・・・あの・・・私・・・離婚してまして・・・」
「ええ・・・お母さんがひきとりに見えるそうですよ」
「何か・・・お飲みになりますか」
「はい・・・あ」
久は良雄のことを思い出した。
駆け戻った遊園地にいたのは・・・ウサギのお面をかぶった別人だった。
「良雄」
久は幼い子供を放置した自分の行為に愕然とする。
僕は・・・。
僕は・・・。
僕は・・・。
「良雄」
良雄は迷子として事務所に保護されていた。
「いいお子さんですね・・・パパが迎えにくるといって・・・あの場所から動こうとしなかったのです」
「・・・」
久はいたたまれない想いがした。
事務所には妻の恵が先着していた。
「良雄・・・ごめん」
妻が怒っているのか。
息子が泣いているのか。
久にはわからない。
「ほら・・・お父さん・・・謝っているから・・・許してあげなさい・・・」
恵がどういう気持ちでそう言うのか・・・久には分からない。
「パパ・・・迷子になっちゃったの」
良雄が許してくれたのかどうか・・・分からない。
だが・・・息子の言葉に久の心はゆれる。
「そうなんだ・・・お父さん・・・また迷子になっちゃった」
久はオムライスを作った。
オムライスを・・・良雄は好きだったはずだ。
優雅なデミグラスソースではなく・・・野卑なケチャップソースのかかったオムライス。
祈るような気持ちで料理を置く久。
「うわあ・・・オムライスだ」
「よかったね・・・良雄・・・パパはちゃんと良雄の好きなオムライスを作ってくれたよ」
「ありがとう・・・パパ」
よかった・・・と久は思う。
しかし・・・良雄が本当に喜んでいるのかどうか・・・久には分からなかった。
久は出勤し・・・恵は部屋の掃除を始める。
恵は・・・家族写真の中に・・・久の昔の家族の写真を発見し顔色を変える。
僕には大切な家族がいます。
どうして大切なのかはまだわかりません。
葵インペリアル証券の受付で竹田雅夫は久を呼び出した。
「最後にひとつだけ・・・一緒に仕事がしたくて・・・」
「僕にできるかどうか・・・できたら・・・四月という同僚におまかせ願えませんか」
「家路さんがそういうなら・・・」
「信頼できる人だと思います」
呼ばれた四月は驚く。
「雲井不動産の・・・竹田専務・・・」
「私の裁量での最後の仕事なんですが・・・公募増資をお願いしたい」
「額はいかほどでしょう」
「ざっと二千億円ほどですな」
「かしこまりました」
突然の巨額取引に営業部は色めき立つ・・・。
「なぜ・・・情報が・・・」
「どこの会社ですか」
「うちの第十三営業部だ」
「え」
蒼ざめる一同である。
黒木は久に詰め寄った。
「どんな手を使ったんです」
「さあ・・・よくわからない・・・僕には難しいことなので・・・とにかく・・・僕は今・・・家のことで頭がいっぱいなんた」
「・・・」
僕は家族の名前を読んでみた
君の歌が聴こえてくる
誰かが僕の名前を呼ぶ
だけど僕は夢を見る
君のところへ続く家路
僕の家族が住む家は月光に照らされている
世田谷行きのバスにのり・・・八つ目の停留所で下車。
横断歩道を渡ってまっすぐ行った四つ角のすぐ目の前。
四階建てのマンションの四〇一号室。
そこに僕の妻と子供が待っている。
恵は仮面をつけていた。
「あなた・・・私のことを愛してるの」
「もちろんさ・・・ほら・・・ここにメモしてある」
メモには「・・・を愛していることを確信した」と書いてある。
しかし・・・誰を愛しているかについては・・・何者かによって塗りつぶされていた。
久には恵が笑っているのか・・・怒っているのかは分からない。
「じゃ・・・聞くけど・・・良雄が自分の子供だと思っているの?」
「え」
久の帰るべき場所はどこにあるのか。
旅はまだ始ったばかりなのだ。
そして・・・旅の終わりに宝石はきっと王冠に変わるのだろう。
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→昼顔
ごっこガーデン。仮面風景パート1セット。アンナ「キャー。ダーリンを待ちくたびれてお風呂に入りすぎてのぼせちゃったぴょ~ん。目のやり場に困るダーリンが最高なのだぴょんぴょんぴょん。お背中ながしサービスタイムに突入するのぴょん。洗って洗われてすべすべお肌になるのぴょ~ん」mana「四月になったら着物から綿を抜くからわたぬきさん、天敵いなけりゃ小鳥も遊ぶよタカナシさん・・・って、転移時空間を間違えた~o(≧∇≦)oキャー♪」まこ「妊娠妻を気遣って家事にいそしむ亭主の鑑・・・っていうかアンナ姉ちゃん・・・ぎゃぼーんと盛ってるんでしゅか~」シャブリ「妻も同僚も国民的美少女なのでありました~」
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