ようこそ、わが家へ(相葉雅紀)パンツは見せない(有村架純)そこかしこにある危機(沢尻エリカ)
都会ではホームレスは珍しくない。
下町の商店街によく見かけるホームレスがいたりする。
ある種の病気で顔面が崩れているホームレスと毎日のようにすれちがったりもする。
そういう存在は不気味で恐ろしい。
この世界にはおぞましい現実が確かに存在するのである。
冬の季節に雑居ビルのエレベーター・ホールに蹲るホームレスもいる。
通報されて近所の派出所から警察官がやってくる。
職務質問にも無言である。
警察官が派出所に同行させたとしても・・・罪を問うことは難しいのだ。
やがて・・・ホームレスはエレベーター・ホールに舞い戻る。
こういうものは呪いの領域に属している気がする。
ドラマに登場するホームレスたちには奇妙な人間性がある。
それは非常にうそくさいのである。
しかし・・・実在するホームレスたちはただ悪臭を放つだけだ。
同様にドラマに登場するストーカーにも似た匂いがある。
そこにはどこかうそくさい・・・幻想のストーカー臭が感じられるのだ。
鼻をつまんでそれに耐えることができれば・・・そこそこサスペンスを楽しめるのかもしれません。
で、『ようこそ、わが家へ・第1回』(フジテレビ20150413PM9~)原作・池井戸潤、脚本・黒岩勉、演出・中江功を見た。原作では銀行から取引企業に出向している父親が主人公である。ドラマの主人公の息子の職業設定に比べて・・・父親のそれが濃厚なのはそのためである。気にしなければそれまでだが・・・オリジナル部分と原作部分の接合がかなり色違いになっていて・・・物凄く違和感を感じる。まあ・・・ドラマとはそういうものだと思って気がつかないフリをするしかないのだな。
銀行員だった父親・太一(寺尾聰)と幼い健太(相葉雅紀)は休日に釣りに出かけた。
そこで反社会勢力的な人々に圧迫された父親はすごすごとテリトリーを放棄する。
幼い健太は卑屈な父親の態度を軽蔑し不満を抱く。
しかし、結局、臆病者として成人した健太だった。
だが・・・あの日の父親に感じた複雑な感情のしこりは今も心にくすぶっている。
パッケージ・デザイナーという職業を選んだのもそれが原因かもしれなかった。
あげくの果て・・・健太のデザインは無難過ぎて陳腐だと酷評されることもある。
そういう時、健太は忸怩たる気持ちを味わうのだった。
その日、健太が似合わない行動に及んだのもそういう日常のストレスが噴出したと言えるのかもしれない。
帰宅途中の駅のホームで割り込み乗車をしようとした男に腹を立て・・・男を押し倒した上で叱責したのである。
「順番を守ってください」
周囲の乗客たちは健太に味方をした。
「そうだ、順番守れよ」
「謝れよ」
しかし・・・ニット帽をかぶった割り込み男は無言だった。
見知らぬ女が割って入る。
「謝るか・・・逃げるかどちらかしかないと思うんですけど」
男は逃げた。
発車のベルが鳴る。
健太はあわてて電車に乗り込んだ。
「あなたが取った行動はとても立派だったと思います」
見知らぬ女が健太に声をかけた。
美しい女だった。健太の心は騒ぐ。
「いえ・・・」
「それだけです」
「え」
「勘違いしないでくださいね」
健太は心に釘を刺された。
東急田園都市線の江田駅(神奈川県横浜市青葉区)で下車した健太は似合わない行動の結果生じたわだかまりを抱えて市営バスに乗り込む。
そして・・・車内にニット帽をかぶった男を発見するのである。
(あの男だ・・・あの男がいる・・・まさか・・・逆恨みか・・・俺に復讐する気なのか・・・暴力を振るう気か・・・俺を殴る気か・・・まさか・・・刺されたりして・・・いやだ・・・こわい・・・いやだ)
臆病な健太は身体が震えだすのだった。
降車するべき停留所でギリギリのタイミングで扉をくぐる健太。
しかし・・・発車したバスはすぐに一時停止し・・・ニット帽の男が下車してくるのだった。
「ひえ」
健太は脱兎の如く逃げ出した。
だが・・・ニット帽の男は化け物のようなスピードで健太を追いかけてくるのだった。
「ひえええええええええええええええええええええ」
家の周囲を駆けまわり・・・なんとか男をふりきった健太。
我が家に戻った健太は・・・鍵をしめようとして突然開かれた扉に支えを失い宙を舞う。
しかし、現れたのは妹の女子大生・七菜(有村架純)だった。
「パンツ、見たでしょう」
兄を見下す七菜だった。
健太の家族は他に出世争いに敗れて取引先のナカノ電子部品に総務部長として出向している父親の太一と母親の珪子(南果歩)である。
珪子は専業主婦であり、趣味で陶芸教室に通っている。
妹の七菜は父親に馬乗りになりマッサージをする孝行娘である。
もちろん・・・あざといお茶の間サービスです。
しかし、かわいいよ、七菜かわいいよと言う他ありません。
女子大生の娘にマッサージされながら死ねたら天国に行けます。
とにかく・・・そんな平穏な家族の団欒を「ストーカーのようなものに襲われた体験談」で壊すこともできない健太は・・・押し黙るのだった。
しかし・・・翌朝・・・母親の大切に育てている花壇の花は何者かに荒らされていたのだった。
背筋の凍りつく健太である。
恐怖とは予感である。
恐怖とは不明である。
恐怖とは不安である。
その根本にあるのは「死」である。
「死ぬかと思った」というのは恐怖の経験を示す言葉なのである。
想像力の発達したものは・・・荒らされた花壇から・・・自分の死を思い浮かべるものなのだ。
散らされた花弁に気がつかず・・・うっかり足をすべらせて・・・転んで頭を打って・・・死んだらどうしようと思うのだ。
それはちょっと違うんじゃないか。
何者かが荒らした花壇・・・その何者かは自分に悪意を持っているかもしれない・・・ひょっとして自分に対して殺意を持っているのではないか・・・その何者かが花びらを契るように自分を殺すかもしれない・・・こわい。
そっちそっち。
怖いもの知らずとは・・・そういう想像力のないバカのことなので・・・そういう想像力の働かない人はこのドラマ向きではないと思う。
働き過ぎて怖くて見れないと言う人は問題外として。
やがて・・・自転車のサドルが切り裂かれ、捨てたゴミがチェックされ、新聞受けには子猫の死骸が置かれ・・・と事態はエスカレートするのだった。
あの日の女に再会した健太は無防備に事情を明かす。
キッドならば尾行して・・・女の正体を見極めた上で相談するが・・・世の中はそういう人間ばかりではないからな。
女はタウン誌を発行している円タウン出版社の記者・神取明日香(沢尻エリカ)で事件に興味を示すのだった。
もちろん・・・臆病な健太は「事件」と見なされることがすでにこわいので取材を拒否するのだった。
健太は親に似て臆病者という設定だが・・・発端の事件に限らず、ゴルフクラブを持って不審者を追いかけたり、暗闇に挑んだりと・・・いざとなったらやるタイプである。そもそもデザイナーなどという明らかに不安定な職業についていることが・・・矛盾しているわけだが・・・そこはまあ・・・脚色の意向なのだろう。
つまり・・・臆病だけどちょっとバカなんだな。
本来の主人公である太一は臆病というよりは用心深いタイプと言える。
そうでなければ銀行員は勤まらないからである。
出向先は曰くありげな企業で・・・銀行からの出向者が次々に退職に追い込まれているらしい。
「青葉銀行」の同期で人事部の八木(高田純次)は「君ならその状況を改善してくれると期待している」などと友情めかしたことを言うが本心はもちろん不明である。
「ナカノ電子部品」の真瀬営業部長(竹中直人)は不正を不正とも思わない姿勢で太一を敵視する。
「おえらい銀行からの天下り様には叩きあげの気持ちが分からないのでござろう」
「いやいや・・・そんなことはございませぬ」
二人とも去年の大河ドラマ出身である。
一方・・・明らかに精神的に不安定そうな・・・太一の部下で契約社員の西沢摂子(山口紗弥加)が配置されていて・・・夜は怪しいパブにお勤めである。
そのパプに明日香の上司である蟹江編集長(佐藤二朗)が通い詰めているところが・・・偶然なのか・・・仕掛けがあるのかは謎なのである。
「ナカノ電子部品」の持川社長(近藤芳正)もコンプライアンス(法令順守)的に問題ありそうな人物である。銀行には知られたくない不正経理があるのかもしれない。
そういうわけで・・・太一もまた「嫌がらせ」のターゲットになる資格は充分なのだった。なにしろ、原作的には主人公である。
そうなると・・・倉田一家の他のメンバーも同様なタイプということになるだろう。
妹の七菜の元カレである辻本正輝(藤井流星)は七菜の親友である保原万里江(足立梨花)によればものすごいストーカー気質らしい。
若春子(「あまちゃん」のゴーストシンガー)とマメリン(「あまちゃん」のアイドル)の時空を越えた友情なんだな。
健太と七菜の母親である珪子の通う陶芸教室には・・・嫉妬深そうな主婦・下村民子(堀内敬子)も通っているし・・・講師の波戸清治(眞島秀和)は異常者をやらせたら天下一品の配役である・・・そんなことはないと思うぞ・・・。
つまり・・・倉田一家は・・・「ねらわれたご家族」なのだった。
雨の夜・・・倉田家周辺には怪しい人影が出没する。
みんな・・・フードをかぶって怪しげである。
健太を追いかけた男は・・・洗練されたファッションを身につけてショートホープの愛煙家であること以外には顔も名前も不明である。
フードをかぶったのは・・・事件に興味を持つ明日香・・・妹のストーカー・・・そして・・・陶芸教室の波戸先生だった・・・。
波戸先生は明らかに変質者の眼差しでニヤリと笑うのだった。
一同爆笑の瞬間である。
そして倉田家には「たのしいお宅ですね。またおじゃまします」とファクシミリが電送されるのだった。
はたして・・・健太とその家族は・・・この危機を乗り越えることができるのか・・・。
そして・・・月9としては健太と明日香がキスするのか・・・。
さらに・・・七菜は「ななな」と打つだけで変換される・・・いや、またしても凌辱対象なのか・・・まあ・・・そこが一番気がかりである。
相葉主人公のドラマはまたしてもレギュラー・レビューの当落線上を彷徨っているな。
これは妹が頑張るしかないんだな。
まあ、チョコレートの時はそれでもダメだったけどな。
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