昔の自分に戸惑う男(木村拓哉)今の夫の方が好きな妻(上戸彩)
原作では主人公の妻と子供の素顔は最後まで明かされない。
ずっと仮面をつけたままである。
そのために物語の終盤はかなり痛々しい展開となる。
コミックという表現形式を見事に生かした作品なのである。
おそらくアニメ化されれば・・・表現はそのままになるだろう。
表情は・・・人の心を探る手掛かりである。
もちろん、悲しいから泣いているとは限らないし、嬉しいから笑っているとは限らない。
しかし、変化する表情は・・・それだけで生きている証になる。
原作では最後に仮面の女は一滴の涙をこぼす。
その描写が「万感の思い」を表現していることは間違いない。
仮面からあふれる「無表情の表情」が多くの読者の心を奪うのである。
この瞬間、原作は傑作となるのだ。
今回のドラマ化にあたり・・・仮面の女は素顔を最初から解禁している。
つまり・・・主人公の心象風景である・・・仮面をかぶった妻子と・・・実際の風景である素顔の妻子が混在した描写となっているのだ。
もちろん・・・上戸彩がずっと仮面をつけたままでは・・・せっかくの巨乳が台無し・・・いや、登場人物の心理があまりにもわかりにくいという状況がある。
あえて・・・言えば、木村拓哉が仮面の男という設定の場合を想像してもらいたい。
最初から最後まで仮面をかぶったスターのドラマはお茶の間向きとは言えないのである。
逆に・・・原作の肝とも言うべきシーンを封印した演出は・・・相当な覚悟を求められているとも言える。
少なくとも・・・素顔の上戸彩を見ているお茶の間に・・・仮面の女を見ているのでむしゃぶりつかない主人公の気持ちを悟らせるのは・・・一種の無茶ぶりじゃあるまいか・・・。
そういう意味で・・・木村拓哉はものすごくがんばってるよね・・・。
で、『アイムホーム・第2回』(テレビ朝日20150423PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・七髙剛を見た。人間の心理は複雑怪奇なものである。たとえば、男が狼なので気をつけるべきなのにあまりにも羊だと落胆されたりするわけである。特に女がその気になっているのにその気にならない男は人間性を疑われたりする。しかし・・・まあ・・・世界というものは基本、残酷なものだと・・・多くの人間はおそかれはやかれ気がつくのだった。男が必ずしも性的欲望を自分に対して抱かないと気がついた時、女は大人の階段を登るのです。・・・そうなのか。いや・・・そうであってほしい。
妻が仮面女であるために・・・どうしても勃起したり射精したりする気になれない家路久(木村拓哉)はたまりにたまっているために今夜も淫夢を見るのだった。
事後の喫煙をする久。
明らかに声が妻の恵(上戸彩)でも前妻の香(水野美紀)でもない第三の女はベッドで囁く。
「ねえ・・・私の事を本当に愛している?」
久は無言で女の口をふさぐところで目が覚める。
事後であったので・・・夢精している可能性があります。
ここで注意しておこう。
久の主観による描写が挿入されてもそれが事実とは限らないということである
なにしろ・・・記憶喪失と記憶の混乱により・・・かなりの障害を持つ男の主観なのである。
本当は・・・久は時々、妻の顔を思い出し、欲情して、性行為をしているのかもしれない。
ただ・・・それを失念しているだけかもしれないのである。
主治医の筑波良明(及川光博)が指摘するまで・・・久は献身的な看護をしていた妻のことを全く記憶しておらず・・・一人で闘病していたと思いこんだりしているわけだ。
僕には忘れていることがある。
そして思い出したことをまた忘れてしまう。
これが・・・このドラマの大前提なのである。
もう一つ・・・久の過去を知る人物が・・・久の過去を語る時・・・それが必ずしも真実とは限らないということも忘れてはならない。
人間は嘘をつく動物だからである。
この二点を除くと・・・この物語の醍醐味は味わえないと思う。
謎に満ちた愛の物語という・・・このドラマの本質が見えてこないからである。
視力の問題で眼鏡をかけている人には一つの例があげられる。
世界は眼鏡をかけている時とかけていない時の二種類ありますよね。
生まれてから眼鏡をかけたことのない人は今すぐ目をつぶってもらいたい。
ほら・・・ブログの続きが読めない世界があったでしょう?
このドラマは主観と客観という二つの視点が脈絡なくチェンジしていくという難解な手法によるものなのです。
つまり、恐ろしく手強いドラマと言えるのでございます。
目が覚めた久は寝室を出る。
妻が料理をしている気配がある。
幼い息子は妻にまとわりついて「絵本を読んで」とせがんでいる。
これが・・・「我が家」か・・・と久は思う。
あれが「僕の妻と息子」か・・・。
しかし、二人は仮面をつけている。
仮面に見えるだけで・・・触れば柔らかい温もりがあるはずだと久は期待する。
しかし・・・そこには・・・不気味な仮面の感触があるだけだった。
狂った久の脳は・・・何故か・・・妻と子供の顔を認識できない。
久にとって妻子は怪物だった。
それでも久はなんとか・・・夫として・・・父親として振る舞おうと努力するのだった。
朝食前のひととき・・・息子の良雄(高橋來)に絵本の「浦島太郎」を読み聞かせる久だった。
「むかしむかしうらしまはたすけたかめにつれられてりゅうぐうじょうにきてみればえにもかけないうつくしさ・・・」
久はふと思う。
竜宮城から帰還した浦島太郎は・・・自分自身ではないのかと。
病院から戻ると・・・家には見知らぬ家族が待っていたのだから。
「ついに浦島太郎は玉手箱をあけてしまいました」
「・・・」
「すると玉手箱からもくもくと白い煙がたちのぼり・・・気がつくと浦島太郎は白髪頭のおじいさんになってしまったのです」
「おとひめさまは・・・いじわるなのかな」
「何が入っているのかわからないものに・・・手を出す時には気をつけないとね」
「うん」
素直で・・・賢い息子である。
しかし・・・久は・・・息子を心から可愛いと思うことができない・・・自分に戸惑うのだった。
自分の父親に怪物あつかいされていることを息子が知ったらどんなにショックだろうか。
久は疾しい気持ちになる。
そして・・・そう感じる自分を訝しむのだった。
「さあ・・・できたよ」
仮面の女が朝食の皿を食卓に置く。
「フレンチトーストか・・・」
妻の作るフレンチトーストの味は思い出せない。
そもそも・・・妻の作るフレンチトーストを食べたことがあるのかどうかも思い出せない久だった。
怪物の作ったフレンチトーストはフレンチトーストの味がした。
「レンタルビデオ店から・・・延滞の電話があったわ・・・」
「延滞・・・」
「延滞料金・・・凄い金額になってたわよ・・・レンタルした作品は・・・淫乱巨乳OL・・・不倫はダメよ~ダメダメ・・・って・・・凄く恥ずかしいタイトルでした」
「げろげろ」
久はあわててAVソフトの捜索を開始するのだった。
発見したソレを早速、再生してみる久。
少し・・・頭がおかしい人なので勘弁してあげてください。
「課長さんダメよ~ダメダメ・・・あっ・・・あっ・・ああん・・・」
「浦島太郎が変なビデオ見てるよ」
「あなたっ」
「いや・・・これ・・・見たら・・・何か思い出すかと思って・・・」
あわてて・・・リモコンを操作した久はスタッフクレジットを再生する。
そこには・・・。
懐かしい名前があった。
僕の親友の名前だ。
AV監督の山野辺俊(田中直樹)は久の大学時代の友人だった。
休日であることを思い出した久は・・・山野辺に会いたくて会いたくてたまらなくなるのだった。
久の頭は溢れ出す山野辺の記憶でいっぱいになるのである。
まるで突然、恋人に会いたくなったように家を飛び出す久だった。
「あなた・・・どちらへ」
「友達・・・友達に会ってくる」
久は鍵束の中に・・・山野辺の部屋の鍵があることを思い出していた。
狂った久の行動力は常人の目には奇異に映るものと言える。
久はAVの制作会社の倉庫を間借りしている山野辺の部屋に無断で上がり込むと一心不乱に調理を始める。
久の心は・・・忘れていた記憶を思い出したことによる懐かしさに狂おしいまでに満たされているのだ。
帰宅した・・・山野辺は・・・唖然とするのだった。
「やあ・・・お邪魔しているよ・・・今、豚肉のピリ辛炒めを作ってるんだ」
「家路・・・」
「久しぶりにお前の作品を見て・・・懐かしくなって・・・お前の顔が見たくて・・・」
「・・・そうか」
久は戸惑いを感じる。
記憶にある山野辺はもう少し・・・若かったのである。
五年間の記憶を失った久にとって山野辺は突然、五歳年老いたのだ。
「・・・」
「家路・・・事故に会ったって聞いていたが・・・元気そうだな」
「うん・・・でも・・・俺・・・少し混乱しているんだ」
「・・・」
「でも・・・淫乱巨乳OLを見て・・・すぐにお前の作品だってわかったよ・・・すごくスタイリッシュな作品だったから・・・」
「おいおい・・・AVだぜ・・・抜けるか抜けないか・・・それだけだ」
「・・・」
「半年前・・・突然電話してきて・・・お前、俺に・・・いつまでAVなんて撮ってるんだって言ってたじゃないか」
「俺・・・そんなこと言ったのか・・・」
「覚えてないのか・・・」
「俺は・・・記憶喪失らしい・・・」
「そうか・・・いい匂いだな・・・学生時代を思い出すよ」
「・・・だろう」
二人は豚肉のピリ辛炒めを食べた。
「懐かしい味だ・・・」
「だろう・・・」
「本当に記憶喪失なのか」
「五年間くらい・・・まるで思い出せない・・・」
「五年・・・」
「なあ・・・俺の最初の結婚のこと・・・知ってるよな」
「ああ・・・最初の奥さんな・・・確かライターをやっていて・・・知りあってすぐに結婚するって聞いて驚いたよ・・・結婚式にも出たしな」
「俺・・・どうして離婚したのかな・・・」
「さあ・・・何もかも思い出さなくてもいいんじゃないか・・・時には思い出さない方が幸せなこともある・・・」
「・・・」
「今のお前には美人の奥さんがいるんだし・・・」
「美人なのか・・・」
「なんだよ・・・贅沢な奴だな・・・奥さんとなんかあったのか・・・」
「いや・・・すごく尽くしてくれている・・・だけど・・・なんだか・・・それが重いんだよ」
「おい・・・本当に・・・何も覚えていないのか」
「うん・・・それどころか・・・思い出してもまた忘れてしまったりするんだ」
「そりゃ・・・大変だな・・・」
「あのさ・・・俺、また・・・来てもいいかな・・・」
「・・・いいさ・・・友達だからな・・・」
「俺さ・・・ある人に俺は友達なんていない人間だって言われたことがある・・・」
「・・・」
「だから・・・友達がいたことを思い出して・・・凄くうれしかったんだ」
「確かに・・・お前は・・・友達なんていないタイプだったよ・・・」
「・・・」
「でも・・・俺たちは確かに友達だったよ」
山野辺は複雑な微笑みを浮かべた。
久はその笑顔に安らぎを感じるのだった。
「だけど・・・家路・・・お前は少し変わったよ」
「そうか・・・」
「うん・・・昔のお前はもっとギラギラしていた」
「ギラギラ・・・」
「そう・・・自信に満ち溢れていて・・・」
「昨日のことも忘れたりする人間が・・・自信なんて持てないよ」
「・・・そうか」
久は家に戻った。
山野辺と過ごした時間があまりにも楽しくて・・・自分の家に馴染めない自分を憐れに思う。
そしてそう思うことは・・・妻や息子に対して後ろめたさを生じさせる。
ますます・・・自分の家にいることが息苦しい久だった。
「山野辺っていう・・・大学時代の親友に会ってきた」
「そうなの・・・」
山野辺の名前を聞いた妻の顔色が変わったことに久は気がつかない。
なにしろ・・・妻は・・・仮面の女なのだ。
筑波良明の診療室は広い。
「先生は脳外科医なんですよね」
「そうですよ。しかし、精神科医でもあり、精神分析家でもあります」
「すごいですね」
「そうでもないですよ。あなただって証券マンで夫で父親じゃないですか・・・」
「どうして・・・妻や子供の顔が・・・」
「まだ・・・仮面のように見えるのですか」
「はい・・・見えるだけでなく・・・触っても・・・」
「私の顔はどうです・・・」
「理知的でアドバイザーとして頼もしい感じがします・・・」
「お上手ですねえ」
筑波は絶えず部屋のカーテンを開け閉めして部屋の明るさを調節する。
一種の神経症的症状と言えないこともない行動である。
「明るい方が落ち着きますか・・・それとも暗い方が」
「はあ・・・」
「人によっては点滅している方が安らいだりするかもしれません」
「ピカピカ、パチパチですか」
「そう・・・寄せては返す波の音だったりね」
「風に瞬く星空のように」
「ニンジンの嫌いな子はいますよねえ」
「ええ」
「ニンジンの好きな子はニンジンに食欲を感じる・・・しかし、ニンジンの嫌いな子は吐き気を感じます」
「ものすごく嫌いなんですね」
「そうです・・・人間の心は驚くほどデリケートなもので・・・しかも個性があります」
「・・・」
「あなたは・・・物理的ダメージで脳に損傷を負った・・・そのために記憶が損なわれています」
「・・・」
「これは脳外科医としての私の診断・・・しかし、精神科医としては・・・あなたの心に何か問題があると感じます」
「心にですか」
「そうですよ・・・極めて限定的な視覚的情報を・・・瞬時に・・・別の視覚的情報に置換する・・・そういうアクロバットのような心理ですからね・・・あなたの病状は・・・」
「アクロバット」
「そうです・・・つまり・・・枯れ尾花を見ているのに幽霊を見たと思い、美人を見ているのにブスだと思ったり、眼鏡がブラジャーに見えたり、パンツが帽子に見えたり、Y字路が女性の股間に見えたりするようなものです」
「最後の方のたとえはよくわかりません」
「つまり・・・修正されない錯覚・・・そういう心理が生じているのです・・・まあ、倒錯心理の一種ですね」
「どうして・・・そんなことが・・・」
「わかりません・・・心理なんて・・・神の領域ですからねえ・・・日常生活に支障がなければ・・・時には無視することも大切ですよ」
「原因不明ですか」
「そうです・・・あなたの場合は脳を損傷していますし・・・奥さんや息子さんに特別な思い入れがあるからかもしれない」
「特殊な思い入れ・・・」
「そうですねえ・・・恐怖とか・・・あるいは愛とか」
「恐怖と愛じゃ・・・まるで違うじゃないですか」
「そうですか・・・私は同じようなものだと思いますけれど」
筑波は閉じたカーテンを開け、開いたブラインドを閉じて微笑む。
朝のバス亭で・・・離婚した妻・香(水野美紀)の連れ子だったすばる(山口まゆ)を見た久は声をかける。
「おはよう」
しかし、すばるは無視するのだった。
「反抗期続行中よ・・・」
背後から香の声がする。
「以前も・・・こんな風に一緒になったこと・・・あったのかな」
「あなたは・・・もっと早くに出勤していたんじゃないの・・・離婚してからはほとんど会っていないわよ」
「そうか」
離婚した記憶がない久は違和感を持つ。
香の言葉が悪い冗談にしか聞こえない。
(離婚したなんて・・・何故、そんな嫌なことを言うのか・・・いや・・・それは事実・・・僕が忘れているだけ・・・)
久の意識は揺れるのだった。
まるで仲睦まじい夫婦のように語りあう久と香を・・・。
自宅の窓から・・・恵は複雑な面持ちで見下ろす。
久の生活圏・・・狭すぎるのだが・・・少なくとも記憶を失う前の久は離婚した妻子の住まいの近辺に新居を構えるような選択をする男だったことは間違いないのだ。
何故・・・そんなことをしたのかは今はまだ不明である。
大手証券会社の「葵インペリアル」第十三営業部に出勤した久を轟課長(光石研)は舌打ちで迎える。
「第一営業部から回って来た仕事がある」
「第一から・・・」
「つまり・・・かってはお宝だったが・・・今はゴミとなった仕事ってことだ」
「何も・・・そこまでご自分を卑下なさらなくても・・・」
「俺を一緒にするな・・・お前たち向きの仕事だってことだよ」
「はあ・・・」
「弱小メーカーの鬼山機械は中根物産の関連企業ということで第一が取引していたのだ」
「大手の系列ってことですか・・・」
「しかし・・・中根は鬼山を切ったんだよ」
「つまり・・・ただの弱小メーカーになっちゃったということですね」
「そうだよ・・・それで第十三に担当替えになったんだ」
「鬼山機械ってどんな会社なんですか」
「小さな部品を作ってるそうだ」
「小さな部品を作る小さなメーカーか・・・なんだか、可愛いですね」
「何を言ってるんだ・・・怒ってんだよ」
「はあ」
「鬼山機械の社長が・・・第一から第十三に担当替えになったことが不満なんだそうだ」
「つまり・・・ないがしろにされていると」
「そうそう・・・なにしろ・・・うちは十三だからっ・・・て俺に言わせるな」
「・・・」
「対応に格差があるというのは企業イメージを損なうからな・・・ご機嫌とってこい・・・」
「課長は・・・」
「私が出るほどのことではない」
いかにも頑固な町工場の親父的な鬼山健三社長(西岡徳馬)は久の持参した菓子折りを叩きつけるのだった。
「こんなものを持って来いなんて・・・私は言ってない」
「いや・・・ご挨拶ですよ・・・これ・・・美味しいんです」
「なめてんのか・・・バカにしてるのか・・・私を・・・」
「いえ・・・とんでもございません」
「とにかく・・・帰れ・・・仕事の邪魔だ」
「じゃ・・・あらためて・・・伺います」
同行した四月と書いてワタヌキ(鈴木浩介)は呟く。
「時間を改めてと言われてもなあ・・・」
「ワタヌキさんは・・・奥さんのことがあるから・・・後は僕がやっておきます」
「お子さんのお迎え大丈夫ですか」
「今週は妻がやってくれますから」
「そうですか」
恵の日常は謎めいているが・・・良雄の送り迎えをしたりもするらしい。
「よかったわね・・・初めて・・・お父さんが本を読んでくれて」
「・・・」
「前より・・・お父さん・・・優しくなったみたいよね」
「なんだか・・・ベタベタして・・・気持ち悪いよ」
「あらあら・・・」
良雄・・・なんだか・・・凄いぞ。
そして・・・そういう良雄に動じない恵も・・・ただものではない感じがするのだった。
しかし・・・良雄は園でトラブルを抱えているらしい。
良雄を囲むいかにも意地悪そうな園児たち。
久の主観と客観的な現実の入り組んだ時空間の推移は曖昧である。
一日の出来事が一週間だったり、一週間の出来事が一日のようにも見える。
お茶の間は混乱するかもしれないが・・・これはそういうドラマなのである。
気が強い女がタイプだったよな
人前では涙を見せないみたいな・・・
一日に何回も豚肉のピリ辛炒めを作っているように見える久だが・・・単に山野辺の部屋に入り浸っているだけなのだ。
「また・・・来たのかよ・・・何だよ・・・急に」
「いや・・・学生時代に・・・そういう話をしたような気がして」
「ああ・・・確かに・・・俺は強い女が好きだよ・・・俺が弱い男だからな」
「お前が弱いってことはないだろう・・・この年まで・・・夢をあきらめないなんて・・・なかなかできないぜ」
「それは・・・皮肉か・・・」
「だって・・・映画を撮ることを諦めたわけじゃないだろう」
「AVだって・・・映画だ」
「それは・・・どうかな」
「おいっ」
営業統括担当の執行役員・勅使河原洋介(渡辺いっけい)は第十三営業部の派遣社員・小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)に久の監視を命じている。
「特に変わったところはありません・・・仕事は真面目ですが作業能率は悪いし、早退や欠勤も目立っています・・・まさにポンコツです」
「しかし・・・あの男に限って・・・油断は禁物なんだよ」
「そんなに危険な男だったんですか」
「そうだ・・・いろいろな意味でな」
久が昔の上司に監視されている理由は謎である。
「また・・・きてるのか・・・会社、さぼってるのか」
「いや・・・今日は取引相手を夜・・・接待するんで・・・今のうちにお前とメシすませようと思って」
「俺はお前のカミさんじゃねえよ」
「・・・」
「じゃ・・・昔の映画でも見るか・・・」
「お前の作品か・・・」
「そうだ・・・お前も通行人で出てるぞ」
「へえ・・・」
「主演女優は・・・お前の今の奥さんだ」
「え・・・」
「最初にあらすじを話してやるよ」
「妻が・・・映画に・・・」
「主人公は・・・やり手の証券マンだ・・・昔のお前みたいな・・・」
「・・・」
「男には親友がいた・・・いつまでも夢を見ているような芸術家だ・・・主人公は複雑な家庭に育ち・・・どこか世界を憎んでいるようなところがあった・・・しかし、優秀な男で東京大学を卒業して証券マンになったんだ・・・しかし・・・大学時代に知り合った芸術家とは妙に深いつきあいになった。男は芸術家を蔑んだ目付で見ることもあったし、芸術家にとって男はたくさんいる友人の一人にすぎなかった。しかし・・・お互いに自分にはないものを相手に求めていたのかもしれない・・・芸術家には恋人がいた・・・。主人公は彼女を芸術家から奪い・・・結婚する」
「おい・・・それって・・・」
その時・・・妻から着信がある。
良雄が園で友達にケガをさせたらしい。
「ごめん・・・いかなくちゃ・・・」
「・・・」
残された山野辺の顔に浮かぶのは自己嫌悪だった。
良雄は園で友達を突き飛ばし・・・頭部に怪我をさせていた。
病院に久が到着するとちょうど手当が終わったところだった。
「軽傷だそうです」
「申し訳ありません」
「いいのよ・・・あまり気になさらないで・・・」
相手の母親は穏やかに微笑む。
久は恵から事情を聴く。
「家に玩具がないことをからかわれたらしいの」
「玩具がないって・・・」
「嫌だ・・・あなたが全部捨てちゃったんじゃない・・・良雄がドリルのノルマをさぼったから・・・」
「ドリルのノルマ・・・」
「それに・・・トレジャーランドのお宝ボックスが家にあるって言い張って・・・」
「東京トレジャーランドの・・・」
「子供なら誰でも行きたいところですもの・・・」
「俺は・・・良雄をトレジャーランドに連れて行ったのかな」
「いいえ・・・一度も・・・」
「・・・」
「だから・・・お宝ボックスなんてあるわけないのに・・・子供だから夢と現実がごっちゃになってしまったのかもしれないわ・・・」
「玩具か・・・」
「ほら・・・この写真に玩具の車が写ってるでしょう・・・こういうの全部捨てちゃったのよ」
久は玩具の写真を見た瞬間、忘却していた記憶が蘇ったことに気がつく。
「すまない・・・ちょっと・・・用事を思い出した・・・」
「そうですか」
キーホルダーの十本の鍵。
一本は家の鍵。一本は離婚した家族の住む家の鍵。一本は親友の山野辺の部屋の鍵。そして・・・四本目の鍵は・・・レンタル倉庫の鍵だった。
離婚した時の荷物や・・・仕事の資料などを収納してあったのだ。
そこに・・・良雄の玩具をすべて隠したのだった。
久は倉庫の扉の鍵を開く。
書類や久が仕事で獲得した社長賞などのトロフィーなどに混じり・・・片隅に良雄の玩具類があった。
そこで・・・久は・・・あるはずのないものまで発見してしまう。
トレジャーランドのお宝ボックス・・・そして・・・久と良雄のトレジャーランドでの記念写真。
行ったことのないトレジャーランドに・・・久は良雄と行ったことがあるらしい。
しかし・・・写真に映る良雄が・・・久の目にはどのように見えたかは伏されるのだった。
久はトレジャーランドのお宝ボックスをのぞいた玩具を持ちかえった。
「あ・・・飛行機・・・ロボットも・・・」
「捨てていなかったのね」
「うん」
「壊れてたのもあるけど・・・僕が頑張って修理するよ」
「ありがとう」
「良雄・・・お父さんもちょっと壊れてるんだ」
「・・・」
「でも・・・がんばって修理するから」
「あなた・・・」
久は妻を見る。
しかし・・・そこにいるのは仮面の女。
久は良雄を見る。
しかし・・・そこにいるのは仮面男子だった。
「また・・・豚肉のピリ辛炒め・・・作ってるのか」
「これで最後にするから・・・」
「この間は言いすぎた・・・恋人を奪われたなんて言ったけど・・・あれは俺の願望混じりだからな・・・お前の奥さんのことを一方的に俺が憧れていただけだ・・・なにしろ・・・自分の映画の主演女優なんだから」
「これ・・・鍵を返すよ・・・考えてみたら、いくら友人の家だからって・・・勝手にあがりこんじゃ・・・まずいよな・・・」
「まあ・・・気にするな・・・お前もいろいろと大変みたいだし・・・」
「俺たち・・・本当に友達だったんだな」
「そうさ・・・いいことばかりじゃなくても・・・なんだかんだ・・・付き合うのが・・・腐れ縁ってやつだ」
「腐れ縁か・・・」
「奥さん大事にしろよ・・・それからこれ・・・この間、上映できなかったから・・・焼いておいたよ」
久は「昔の映画のディスク」を入手した。
「今はお前の奥さんだけど・・・俺の主演女優でもあるから・・・コピーだけどな」
「当然さ・・・作品の著作権は監督のものだ」
「いつもそうだといいけどな」
山野辺は一般映画の監督をする話が流れたばかりだった。
そういう事情を久は知らない。
たとえ知ったとしても・・・すぐに忘れてしまうのだろう。
そういう冷たさは・・・久の本来の性格の余韻なのかもしれなかった。
久が席を外している時に第十三営業部に鬼山社長がやってくる。
「家路くんはいるかい」
「今・・・席を外しておりますが・・・」
「そうか・・・とにかく・・・礼を言いに来た・・・介護ロボットの件、株式公開で資金調達もできたので・・・事業として軌道に乗ったと伝えてくれ」
「はい・・・?」ワタヌキは戸惑う。
「あの男・・・変な奴だな・・・勝手に家に上がり込んで・・・俺の・・・病気の家人を勝手に介護したりして」
「え」
「なんだ・・・いないのか」
鬼山社長は上機嫌で帰って行った。
「ありました・・・業界ニュースに・・・鬼山機械が介護ロボット事業に貢献・・・話題になってます」
五老海(いさみ)洋子(阿南敦子)が素晴らしいインターネットの世界をチェックして告げる。
「なんだ・・・また・・・家路くんのお手柄か」
小机部長(西田敏行)は微笑んだ。
「こりゃ・・・部長賞出さないとだな・・・最近、奥さんと倦怠期みたいだから・・・ホテルのスイーツの宿泊券でもプレゼントしようかな・・・やはり・・・夫婦は合体しないとにっちもさっちもいきませんからな・・・うひっ」
久はありがたく部長賞を受けた。
妻が喜んだからである。
いろいろと気になる人もいる久の家のリッチな暮らしぶり。
原作では妻の実家が資産家という設定なのだが・・・ドラマでも一応そうらしい。
一泊旅行を楽しむ娘夫婦のために良雄を預かる妻の父親(堀内正美)と母親(山口美也子)は・・・。
恐ろしいほどの豪邸に住んでいた。
仮面でかくして
かりそめの一夜を
迷いこんだイリュージョン
時を止めた楽園
夜景の美しいホテルのスイート・ルーム。
「うわあ・・・おっきい窓・・・」
「・・・」
「うわあ・・・おっきいベッド・・・」
「・・・」
「おっきいわねえ」
いつもよりはしゃぐ妻だった。
恵は窓辺で久に寄り添った。
久は恵にキスしようとしてためらう・・・。
そこにいるのは不気味な仮面の女なのである。
久のためらいに気がついた恵は・・・動揺を隠しながら・・・無邪気を装うのだった。
恵・・・あまりにも・・・せつないぞ。
バスルームに去った妻。
久は思わず・・・「昔の映画」を再生する。
そこには・・・美しい恵が微笑む。
しかし・・・それが久の目にどう映ったかは・・・秘されるのである。
ただ・・・久は画面から目を背けるのだった。
これは世にも憐れな・・・ありふれた愛の物語なのだ。
関連するキッドのブログ→第一話のレビュー
ごっこガーデン。ホテルの小部屋的こころうらはらセット。アンナ「キャーッ・・・アンナのお部屋から比べると小さな窓で小さなベッドだけどダーリンと一緒ならどこでもパラダイスぴょ~ん・・・それにしても・・・寸止め、蛇の生殺し、おあずけキッスは反則ぴょん・・・じらされて女はさらに燃えるのぴょんぴょんぴょん・・・う~んいけず~ぴょん」まこ「お友達に怪我をさせても相手に恐縮される恵ママ・・・実は園のボスママでしゅかーーーーーっ。仮面じゃなくて久の前だと猫かぶってるのか・・・勉強になりましゅっ。秘密だらけのこのドラマ・・・なにしろ・・・久は謎を解いても忘れちゃうんだから・・・迷宮から脱出できないタイプなんじゃね・・・じいや・・・おらおやつはフレンチトーストが食いてーだ・・・まめぶ汁もな」mana「何より圧倒的な・・・恵の大きい胸~♪・・・とりあえず仮面はおいといて殿方はそこにむしゃぶりつくのでは~・・・これはもしかして・・・主人公の我慢ゲームなのでは┐(´-`)┌ 」
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