たいとうじゃない・・・ばかだから・・・ともだちいない(山下智久)
知的障害とは何か・・・実は答えはない。
そもそも・・・知性というものが何かを知っている人間はまだこの世にはいないのだ。
「アルジャーノンに花束を」が傑作なのは・・・まさにそのことを人類に表明しているからだ。
誰かが「これが知性ってやつなんだ」と決めつけても「そんなことはない」と誰かが否定すればそれまでである。
それなのに・・・あたかも「知的障害」というものがあると多くの人々が考えている。
これこそが・・・人類の愚かさの証明と言える。
しかし・・・この世には不都合というものが存在する。
多くの人間が容易に実行できる作業を特定の人間が不得意だったりするのである。
実は作業そのものが実行に値しない不合理なものなのかもしれないが・・・できる人々はこう考える。
できない人は何かが劣っていると。
その都合の悪さを人は知的障害と名付けたのだ。
それをそう呼んだ方が都合がいいから。
ただそれだけのことである。
で、『アルジャーノンに花束を・第2回』(TBSテレビ20150417PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・吉田健を見た。学校教育においては効率よく教師が生徒に情報を伝達するために知能指数の標準化が求められる。あまりにも伝達の効率が悪い個人がいれば・・・授業の妨げになるからである。そのために知能指数が水準に及ばないものに「知的障害」があることを認定するのである。一方で「知的障害」を「不健康」と考えるのが医学的立場である。精神医学では「知的障害」を「精神遅滞」と呼称していたが「知恵遅れ」を差別と感じる一部意見により「知能障害」に名称変更される可能性がある。だが「遅滞」という言葉は「発達」という概念と結びつく。「発達障害」というニュアンスが生じるわけである。つまり、「知的障害」には「知的能力の発達障害」という意味が含まれる。「知的障害」と「発達障害」の境界については様々な意見があるが・・・事故による後遺症や加齢による認知症などを除外して知能の発達が遅滞する状態を言うにあたり・・・知的障害と発達障害にはさほどの差異はない。
場合によっては・・・誰かが「知的障害」というより「発達障害」という方が好ましいと感じる程度のことなのである。
知的障害を知覚できない知的障害者の場合・・・それが・・・保護者の立場から生じる感性であることは間違いないだろう。
つまり・・・親が嫌だと思うのだ。
「ドリームフラワーサービス」の従業員である白鳥咲人(山下智久)は経営者である竹部順一郎(萩原聖人)から給料を手渡される。
竹部は結婚式の通俗的な祝辞をアレンジして「堪忍袋、お袋、給料袋」などとスピーチするが・・・素行に問題のある従業員には耳に痛い内容である。
堪忍袋の容量不足で問題を起こし刑期を務めたものも多いのだ。
母親を守るために父親を刺した檜山康介(工藤阿須加)は前科者として結局、母親にも捨てられた。
知的障害者であるために中学生の時に母親に捨てられた白鳥を憐れに感じることで自分が救われた気分になる檜山だった。
そういう檜山の心理を見てとりつつ・・・共感を感じる柳川隆一(窪田正孝)・・・。
彼も両親に問題を抱えていた。
母親を捨て父親が出奔して以来・・・母親は心を病んでいる。
給料日に息子の職場にやってきた母親の京子(田中美奈子)は金を無心する。
「あれが美魔女ってやつだ」
「びまじょ」
同僚の母親を盗み見て康介は咲人に新しい言葉を教えた。
「お前のところにお父さんから連絡がなかったかしら」
現実から目を背けるもの特有の狂的な眼差しで京子は息子に問いかける。
「そんなものあるわけないだろう」
「でも・・・もうすぐ結婚記念日だし・・・ほら・・・去年は時計をプレゼントしてくれたじゃないか」
「・・・」
隆一は口を噤んだ。
美しい狂った母親は帰って行った。
脳生理科学研究センターでは復帰したアルジャーノンが迷路実験で記録を更新している。
研究チームのリーダー蜂須賀大吾(石丸幹二)は次の段階に進みたかった。
「臨床試験の準備はどうなっているかね」
「被験者がなかなか見つかりません」
「何故だ・・・知的障害を克服したいと考える人間は多いはずだ」
「しかし・・・実験にはリスクが伴います・・・脳外科的な施術には抵抗を感じる人がいますから」
「アルジャーノン効果は立証されているじゃないか」
「知的障害者関連の施設では・・・解答を保留する傾向があります」
「なにしろ・・・コンプライアンス(法令順守)が叫ばれていますからね」
「人体実験を禁止する法律などないぞ」
「先生・・・」
「どうでしょう」と冷笑的な態度の小久保(菊池風磨)が提案する。
「犯罪者の更生施設を視野に入れては・・・」
「なんだと・・・」
「ほら・・・時計仕掛けのオレンジのルドビコ療法ってやつですよ」
「犯罪者の性格矯正を理由に被験者を募るのか」と興味を示す杉野史郎(河相我聞)・・・。
「ふざけるな・・・アルジャーノン効果の最初の実証実験に犯罪者など使えるか」
激昂する蜂須賀だった。
「そもそも・・・アルジャーノン効果は洗脳ではない・・・脳機能の発育不全を改善して・・・潜在している知能を活性化するものだ」
「・・・」
「アルジャーノン効果の恩恵に浴する第一号被験者は・・・いわば・・・私の息子のようなものなのだ」
沈黙する一同。
蜂須賀が退出した後で・・・小久保は毒づく。
「何が・・・息子だよ・・・蜂須賀部長・・・少し、おかしいんじゃないか」
「何を言うの・・・それだけ崇高なものを先生は目指しているのよ」と望月遥香(栗山千明)は反論した。
「それだけとは言えない・・・」と事情を説明する西野。
「実は蜂須賀先生は・・・御子息を亡くしている。音大でヴァイオリンを専攻していた学生だった・・・彼は駅で無頼漢に絡まれてホームに突き落とされて轢死したのだ」
「え」
言葉を失う遥香だった。
脳生理科学研究センターは興帝メディカル産業の支配下にある。
蜂須賀は上から結果を求められていた。
「理屈はどうでもいい・・・金になるか・・・ならないか・・・ただそれだけのことだ」
「・・・」
「そろそろ・・・結果を出してもらいたい」
興帝メディカル産業の社長・河口玲二(中原丈雄)は蜂須賀を見下ろす。
東京麗徳女子大学に通う河口梨央(谷村美月)は小出舞(大政絢)に唆されていた。
「電話してみなさいよ・・・」
「でも・・・その気になったら連絡してほしいと言っておいたし・・・」
「だから・・・その気にさせるための電話よ」
「もう一日待ってみる」
「じれったいわね」
隆一は康介に車の交換を申し入れる。
「なんで」
「ナビが調子悪いんだ」
「ナビなしじゃ俺が困るだろう・・・」
「大丈夫・・・咲人がいるから」
「どういうこっちゃ」
「咲人は・・・人間ナビゲーションなんだよ」
「うそ」
事実だった・・・咲人は都内の地理に精通していた。
住所を言えば道順を示すことができるのだ。
「天才じゃん」
「まあ・・・右と左・・・まっすぐしか言わないけどな」
「ブーブー・・・さかなやのかど・・・みぎまがります」
「すげえな・・・風景で覚えてんのか・・・なんか・・・そういう映画見たことあるぞ」
「ブーブー・・・パンやめええええひだり」
「お前が・・・車の免許とれないなんて・・・なんか間違ってるよな」
「ブーブー・・・とうちゃこ」
「車を買う金もためてるのになあ・・・」
康介は・・・咲人をさらに憐れむのだった。
翌朝・・・三人はそろって休養日だった。
「なにすんの」
「予定なんかあるかよ」
康介の携帯に着信がある。
(もしもし・・・お久しぶりです)
「あんた・・・誰」
(え・・・忘れたんですか)
「だから・・・誰かって聞いてる」
(もう・・・いいです)
「切れちゃった」
再び・・・着信がある。
(忘れたってどういうことよ)
「あんた・・・さっきの子と違うな」
(いくら酔いつぶれたからって・・・覚えてないってことはないでしょう)
「酔いつぶれたって・・・何の話だよ」
鈍い康介とは違い隆一はそれだけで事情を察した。
「もしもし・・・お電話かわりました・・・咲人です」
(え・・・ああ・・・なんか違う人だったみたい・・・ほら・・・彼がでたわよ)
(あ・・・そうだったの)
(ほら・・・あんた話しなさいよ)
(あの・・・梨央です)
「ああ・・・梨央ちゃん・・・ごめんね・・・連絡しようと思ってたんだ」
(・・・)
「よかったら・・・遊園地に行かない」
(いいですけど・・・いつですか)
「今日・・・これから・・・」
(え)
「僕・・・友達連れて行くんで・・・よかったら」
(どうしよう・・・)
(なにがよ)
青春である。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲「アリアとその変奏曲からなる2段の手鍵盤のチェンバロのための練習曲」が流れる蜂須賀の個室。
遥香はお悔やみを述べに現れた。
「音楽家のご子息の話を聞きました・・・この曲は思い出の曲なのでしょうか」
「この曲はグレン・グールドがピアノで弾いたものだが・・・弦楽器での合奏も可能だ。息子はそのヴァイオリンのパートを受け持ち練習に励んでいたものだ。ヴァイオリンケースをめぐるささいなトラブルで人命が損なわれるなんて愚かなことだと思わないかね」
「・・・」
「知能の高低と善悪は無関係だと言うものもいるが・・・この曲はバッハの弟子のゴルトベルクがカイザーリンク伯爵のために演奏し・・・その不眠症の悩みを解消したと言われることから俗にゴルトベルク変奏曲とも呼ばれるんだ。その時、ゴルトベルクは十四歳だったという。素晴らしい知的発達の成果がここにある。知能の高さは要するに情報処理能力の優秀さだ。犯罪のリスクを計算できる知能があれば犯罪が不合理であると察することができる。つまり・・・犯罪を趣味とする人間以外は知能が低いゆえに犯罪を起こすのだ」
「統計学的にはそうなります」
「知能の劣るものは同時に社会的弱者でもある。知能指数100以下のものは基本的に搾取される対象だ。人類全体を知能指数150以上に引き上げれば新世界は必ずやってくる」
「先生の崇高な理想に共感いたします」
「しかし・・・愚かな社会は飛躍のチャンスを見逃そうとしているのだ」
「私には・・・臨床試験の被験体候補者について考えがあります」
「ほう・・・」
合理性を神と崇める師と弟子は見つめ合う。
それは神と天使もしくは悪魔と魔女のようだった。
咲人と隆一そして康介は八景島シーパラダイスにやってきた。
「結局、お前もくるのか」
「お前だけだと・・・咲人に何をするかわからんからな」
「なんだよ・・・お前は咲人の兄貴なのか」
「お前こそ」
「可愛い子が来るとは限らないぞ」
「だから・・・俺はそういうことを」
「まさか・・・お前・・・DTなのか」
「ち・・・ちがう」
「チューもまだだったりしてな」
「チューしました」
「え」
「あのこと・・・チューしました」
咲人は近付いてくる梨央を指差した。
白い服の巨乳お嬢様・梨央と赤い服のスレンダー美女・舞を視認した隆一と康介は一瞬で喉が渇くのだった。
咲人は知能に欠陥があることをさらけ出し言い続ける。
「チューしました」
「え」
困惑する二人。
舞は眉をひそめる。
「おいおい・・・舞いあがりすぎだよ・・・咲ちゃん」
隆一は必死にごまかすのだった。
康介は舞の黒いストッキングに目を奪われていた。
束の間の幸福な時間。
咲人は梨央にまかせ・・・隆一と康介は舞の争奪戦を開始する。
しかし・・・舞は梨央のことが気にかかるのだった。
シロイルカのショーに目を奪われる梨央。
隆一と康介に囲まれる舞。
一瞬の空白の時。
咲人は空飛ぶイルカ・・・青い風船に目を奪われる。
ふらふらと風船を追いかける咲人。
四人が気がついた時・・・咲人の姿はない。
「迷子のお知らせをいたします・・・」
保護されていた咲人は四人を見ると安堵で泣きだすのだった。
「う、うえーん」
舞は決断した。
「帰ろう・・・」
「え」
「あ」
「おい・・・ちょっと待てよ」
しかし、舞は梨央の手を取って去るのだった。
「ちぇっ」
「あいつら・・・ひどいじゃないか」と義憤に燃える康介。
「バレちゃったら・・・しょうがないさ」と大人ぶる隆一。
「そんなこと」
「だったら・・・お前は咲ちゃんみたいな女の子と付き合えるか」
「・・・・・・・・・・つ、付き合える」
「なんだよ・・・その微妙な間は」
梨央と舞はパーラーのテーブルを囲んだ。
「おかしいと思ったけど・・・」
「・・・」
「私はね・・・梨央みたいな超お嬢様は・・・結局親の決めた結婚をするだろうと思ってる」
「まあ・・・」
「だから・・・一回くらい・・・好きな相手と恋をしてもいいかなって・・・友達として思ってた」
「そんな風に考えてたんだ」
「だけど・・・アレはないよね」
「アレって・・・」
「だって・・・あの人・・・知的障害者でしょう・・・」
「でも・・・可愛かったよ」
「え」
「私・・・好きになっちゃった」
「それ・・・普通じゃないよ」
「普通って何・・・」
「う・・・それを言うか」
「ドリームフラワーサービス」に遥香がやってきた。
応対する竹部社長。
「咲人の・・・知能を向上させる・・・ですって?」
「私たちの研究にご協力いただければ・・・咲人さんの知的障害はかなり改善されると考えます」
「ははは・・・それじゃ・・・咲人の願いが叶って・・・咲人はお利口さんになるわけか」
「咲人さんは・・・お利口さんになりたいのですか」
「私は・・・咲人は今のままで・・・幸せだと思いますがね」
「・・・」
「幸せっていうのは不幸せを知らないことでしょう・・・頭が良くなったら・・・そういうことを知ってしまう・・・それに・・・あいつを痛い目にあわせたくないんです・・・成功すりゃまだしも失敗してもっとバカになるかもしれないでしょう・・・」
「そういうリスクはほとんどありません」
「ほら・・・ゼロじゃないんだ」
「・・・」
「私はあいつの親から・・・あいつを預かっているんです・・・あいつは今のままでいい。私はありのままの咲人が好きなんですよ」
「では・・・咲人さんの親御さんをご紹介ください」
「・・・」
「親御さんの意向を確かめたいのです」
「馬鹿な子ほど可愛いって言葉知ってるかい」
「そうではない親がいることは知っています」
遥香は咲人の母親・窓花(草刈民代)の住居を訪問した。
「何ですって・・・」
「ですから・・・咲人さんの知的障害を緩和する・・・」
「あの子の馬鹿が治るわけないでしょう」
「・・・」
「私がどれほど・・・あの子の障害にとりくんだか・・・あなた・・・おわかり?」
「・・・」
「あの子の馬鹿を治そうと・・・必死に頑張った・・・でも・・・無理だったのよ」
「・・・」
「それから・・・私と私の娘があの子のためにどれほど悩み苦しんだか・・・知らないでしょう」
「・・・」
「あの子はもう・・・私の子供じゃないの・・・私はあの子を捨てたのよ」
「あなたは・・・もう・・・咲人さんの母親ではないとおっしゃるのですか」
「はい」
遥香は唇をかみしめた。
一日の仕事を終え・・・若者たちは余暇を楽しむ。
手慰みはインディアンポーカーである。
手札は一枚。頭上にかざし・・・見えない自分の札が相手に勝っているかどうかを予測するギャンブルである。
ルールとプレイヤー間の駆け引きがあるために・・・咲人には参加できない競技だった。
知的機能に制約があり、適応行動に制約があるのだ。
遊戯に興ずる同僚たちの側で・・・咲人は遥香から贈られたイヤリングを光に翳す。
「きらきら・・・きれい」
イヤリングの輝きが咲人を魅了する。
もっと刺激を得ようと咲人は・・・照明にイヤリングを近づけ・・・発見してはいけないものを見つけてしまう。
電灯の傘に取り付けられた鏡。
それは隆一が自分の手札を盗み見るために仕掛けたイカサマの道具だった。
自分の手札を知っていれば・・・勝負に負けることはないのである。
咲人は鏡の存在を暴露してしまう。
「おい・・・咲人・・・やめろ・・・」と慌てる隆一。
「なんじゃこりゃあ・・・」と従業員の親分格である鹿内大(勝矢)が血相を変える。
「八百長じゃねえか」と神田勇樹(前田公輝)・・・。
「お前・・・俺たちが誰かってことわかってんのか」と波多光佑(斎藤嘉樹)・・・。
「ムショ帰りの・・・こわいお兄さんたちです」
「わかってんなら・・・大人しく・・・ヤキをいれさせな」
たちまち・・・私的制裁を受ける隆一だった。
隆一への激しい暴行に泣きだす咲人。
「やめて・・・やめてよ・・・やめて・・・うえーん」
なぜ・・・そうなったのかわからない。
どうやって・・・とめていいかわからない。
だけど・・・悲しい咲人だった。
「金を出しな」
「はい」
「今までの分・・・全部だよ」
「ありません」
「ごめんですんだら警察いらねえんだよ」
「・・・」
「どこかで都合つけてきな」
よろめきながら・・・外出する隆一。
後を追いかける咲人。
残業していた康介が二人と遭遇する。
「どうした・・・」
「ちょっと・・・ヘマしてよ・・・これから・・・金を少しとりかえしてくる」
「母親のところへか・・・」
「・・・」
康介は二人を不安げに見守った。
母親に捨てられた自分と母親を捨てられない隆一を心の中で天秤にかけながら・・・。
(社長・・・人生で大切なのは給料袋と堪忍袋と・・・お袋だって・・・マジで俺たちにそう言うのか)
しかし・・・バカだから母親に捨てられた咲人のことを思うと気持ちが安らぐ康介だった。
「びまじょ・・・」
「母さん・・・少し、金を返してくれ」
「何言ってるの・・・」
「ヨツバローンって・・・母さん、また借金してるのか」
「しょうがないじゃない・・・いろいろ・・お金がかかるのよ・・・お父さんが帰って来た時、きれいにしてなくちゃ」
「帰ってくるわけないだろ・・・若い女作って出て行ったんだ・・・いい加減、目を覚ましてくれよ」
「ひどいこといわないで・・・あの人は帰って来るわ・・・去年だって・・・サプライズで時計を・・・」
「俺が買ったんだよ・・・俺が買ってやったんだ」
「出て行って・・・」
隆一は興奮状態から醒め・・・身体中が痛みだす。
「あれれ・・・これ・・・骨折れてるかな」
「だいじょうぶ・・・いたい」
「咲ちゃん・・・もう帰っていいよ」
「かえらない・・・いっしょにいます」
隆一の電話が鳴る。
「はい・・・」
(咲人か・・・どうした)
「やながわくん・・・かえらない」
(金・・・もどらなかったのか)
「やながわくん・・・ひとり・・・だめ」
(いいから・・・お前はかえってこい)
「ともだちだから・・・いっしょにいます」
隆一は電話を切った。
目がまわる。
「友達なんかじゃねえよ」
「はい」
「友達なら・・・金くれよ」
「はい」
咲人はサイフに入っていた二千円を差し出す。
「これだけか」
「かえったら・・・いちまん・・・にまん・・・もっと・・・あります」
「きゃはは・・・俺も落ちぶれたもんだ・・・バカに恵んでもらうとはな」
「バカだめ」
「いいから・・・帰れよ」
「かえりません・・・ともだち・・・」
「友達じゃねえって・・・言ってるだろう・・・いいか・・・友達ってのは対等なんだよ」
「たいとー」
「いてて」
立ち上がろうとした隆一は失神する。
「たいへん・・・やながわくん・・・おきて」
「・・・」
蜂須賀はアルジャーノンに語りかける。
「凄いぞ・・・迷路の構造を完璧に覚えているだけでなく・・・判断力が飛躍的に向上している・・・まるで私の言葉を理解しているみたいじゃないか」
アルジャーノンは考えた。
(スルト・・・コノオトコハ・・・あるじゃーのんガ・・・コトバヲリカイシテイルコトヲリカイシテイナイノカ・・・ナンテ・・・オロカナ・・・)
アルジャーノンは愚かな巨人を見つめた。
隆一を背負った咲人は助けを求めていた。
あの日のルートがよみがえる。
アルジャーノンのお母さんの家。
アルジャーノンのお母さんに助けてもらおう。
キラキラしたものをくれた・・・あの人に。
咲人は遥香の部屋にたどり着いた。
「たすけて・・・たすけて」
「え」
遥香は救急車を呼んで隆一を病院に運ぶ。
隆一は重傷だった。
咲人は待合室のイスに座る。
母親に連れられた女の子が大声で泣いている。
女の子の泣き声が霧の彼方から・・・咲人に記憶を喚起させる。
「うそつき・・・お父さんのうそつき・・・」
「だから・・・犬は買ってあげるって言っただろう・・・お兄ちゃんと二人で」
「いやだ・・・私だけの犬がいい・・・百点とったのは私だよ・・・お兄ちゃんはバカだからムリでしょ・・・」
「なんてことを言うんだ」
「この子は悪くないじゃないの」
「悪いにきまっている」
「悪いのはバカな咲人よ」
「きみは・・・それでも・・・母親か」
「うえーん」
咲人は胸が苦しくなる。
「とりあえず・・・大丈夫みたい・・・入院しなくちゃだけどね」
遥香がやってくる。
「たいとーって何ですか」
「たいとー・・・対等な関係の対等?」
「・・・」
「それなら・・・同じくらい・・・そういう意味よ・・・」
「同じ・・・同じじゃない」
「そう・・・対等・・・対等じゃない」
そこへ・・・竹部と康介が駆けつける。
「お世話になりました」
「今、一応処置が終わったところです・・・びっくりしたけど・・・とにかくよかった・・・彼がいなかったら・・・大変なことになていたかも」
「咲人は優しい・・・友達思いの奴なんです」
「ともだち・・・じゃない」
「え」
「ともだちじゃ・・・ありません・・・やながわくん・・・ぼく・・・たいとーじゃありません・・・」
「・・・」
「ともだちじゃありません」
「そんなことないぞ・・・咲人」
「やながくん・・・かなしいです・・・ぼく・・・いいこと・・・できない・・・ばか・・・だから・・・ばかはきらい・・・たいとーじゃない・・・ともだち・・・いない・・・ともだち・・・ひとりも・・・いません」
「・・・」
「ばかだから・・・ばかきらい・・・ともだち・・・いない・・・たいとーじゃない・・・うえ・・・ともだち・・・うえ・・・ばか・・・・うえうえ・・・・ばか・・・うえん・・・ばかだから・・・」
「でも・・・あなたは優しいじゃない」
「うえ・・・・うえーん」
遥香は泣いた。竹部も泣いた。康介も泣いた。隆一は心も身体も痛かった。
「ねえ・・・アルジャーノンに会いにこない?」
「あるじやのん?」
「そうよ・・・アルジャーノン」
咲人は微笑んだ。
遥香は竹部を見る。
竹部はうなだれた。
遥香に連れられて咲人は研究所にやってきた。
ケージの中のアルジャーノンを見つけてはしゃぐ咲人。
その様子を観察する横須賀。
私は愛とは花のように咲くものだと考える
だから・・・君は愛の花を咲かせる種のようなもの
傷つくことをおそれていては
愛のつぼみにさえなれない
夢の中にいたら
いつまでも愛のチャンスは訪れない
「君はお利口さんになりたいかね」
「おりこうさん・・・なりたいです」
「そうか・・・それなら・・・君に魔法をかけてあげよう・・・」
「まほー」
「君はお利口になれるよ・・・世界中の誰よりも・・・」
蜂須賀は微笑んだ。
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ごっこガーデン。きらめく青春アルジャーノンパラダイスセット。エリ「咲人と一緒にシーパラデートなら一日中エンジョイできまス~。見ているだけで・・・傍にいるだけで・・・ときめきまくるに決まっているのでスー・・・美しさは罪・・・だけど甘美なお宝なんですから~・・・パチパチッと記念写真を自分で撮りまス~。じいや・・・お天気いいからランチは冷やし中華にしてね~くらげとバンバンジー多目でね~」
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コメント
「アルジャーノン」はもう2週目ですわね~。
私ゃすっかり出遅れ状態ですわ。
もう花見も終わってそろそろ端午の節句も見え始めてますわね。
柏餅パーティを楽しみにしております。
ファンタジー嫌いな方々が初回にドッと逃げてしまった雰囲気のこのドラマですが、登場人物の紹介的要素が抜けた2話目の方がますます良かったですね^^
役者さんたちの演技も素晴らしく、先が楽しみです。
ファンタジックな物語を嘘臭くない映像で伝えられる技術のおかげもあり…
この先、咲ちゃんに訪れるだろう変化がどう描かれるか、ちょっと期待してます~。
投稿: くう | 2015年4月19日 (日) 02時07分
❀❀❀☥❀❀❀~くう様、いらっしゃいませ~❀❀❀☥❀❀❀
お疲れ様でございます。
本日のティータイムには
じいめの手作りシュークリームをお召し上がりくださいませ。
帽子タイプもございますぞ。
切れ目入れただけですが~。
春の嵐も過ぎて・・・初夏の気配が
漂ってきましたな。
ご自愛くださりませ。
「アルジャーノン」は不朽の名作ですが
さすがに半世紀・・・脳機能の解明も
ある程度進み・・・
説得力不足の部分もありますねえ。
しかし・・・脚本家は
そのあたりの辻褄あわせよりも
「知性」と「愛」の問題に
踏み込んでいく気配がありますな。
知的障害者の「性」は
ものすごくこわい問題を含んでおりますからな。
二人の女子大生は
そのあたりをふまえた配置なのではないかと
推測しております。
お嬢様方には・・・美しいトリオがいれば
申し分ないのかもしれませんが・・・
連続ドラマとしては
「哲学」部分だけだと
高尚の極みになってしまいますし。
いろいろな意味で敬遠されがちなジャンルと言える作品ですが・・・。
出演者たちはきっと階段を登って行くものと考えます。
はたして・・・結末は・・・どうなるのか。
そのアレンジぶりも楽しみにしております。
投稿: キッド | 2015年4月19日 (日) 02時51分
じいやちゃま、こんにちは~
世間ではいろいろかまびすしいですが
なんせ、天使咲ちゃんなので心が洗われるようです。
あたしもあと一つどうにかなってたら
都合の上で選別されていた気がしますわ。
まあ、みんな五十歩百歩ですけどね。
そうなってくると魂のレベルでの選別だったりして(^^;
それにしてもシーパラデートは楽しかった。
イルカジャンプの水かぶりも楽しいのでスー。
愛くるしさいっぱいのP先輩は卒業?みたいなので
次回は理知Pに燃えたいと思いまする。
シーパラでイルカ模様のグラスをお土産にしたからね。
キンキンに冷えたビールで鑑賞してね~。
あと、美味しい生ハムが手に入ったから
オリーブオイルでどうぞ~。
投稿: エリ | 2015年4月19日 (日) 19時18分
✿❀✿❀✿かりん☆スー☆エリ様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
今夜はお夜食に
グリーンアスパラ、エンドウ豆、グリーンアスパラ、小松菜のペペロンチーノをご用意いたしましたぞ。
青葉の季節でございます。
河口(父)と河口(娘)が揃って
近親相姦警報が発令中でございます。
冷たい父と優しい娘ですからな~。
研究員遥香に対する小久保のアプローチは
明らかに片思いの気配がありますな。
そういう周囲の人々の愛と欲望渦巻く中・・・。
ひたすらに「お利口さん」になって
母に頭をなでてもらい・・・
友達の役に立ちたい・・・
とせつない願いに胸を満たす咲人・・・。
その神を見つめる眼差し・・・。
まさに・・・アルジャーノンの友に相応しい美しさですな。
「アルジャーノンに花束を」の読者なら
誰しも納得の山P先輩の演技プランを感じまする。
まあ・・・知能指数100の世界では
ある程度、理解者は限定されるのでございますが・・・。
神の残酷さは
チンパンジーに人を生ませ
人にチンパンジーを生ませるような
悪戯をすること。
それを恩寵ととらえるのか
非道ととらえるかが
信仰心によって様々ですな。
今回の出会いの一コマは
すべてを理解するようになった咲人の
救いとなるのか・・・仇となるのか・・・
その辺の仕掛けもワクワクいたしますのでございます。
いよいよ物語は次なるステップへ・・・。
知能的遅滞の霧から抜け出した咲人の目に
世界はどのように映るのか・・・。
ゾクゾクいたしますなあ・・・。
投稿: キッドじいや | 2015年4月19日 (日) 19時52分
キッド様。お久しぶりです。
やっぱりキッド様のレブューが一番面白い!
ところでお姫さま山Pとチャラ窪田くんとナイト工藤くんのいるお花屋さんは、どこにありますか?毎日お花買いに行きたいですよね♪
この三人の並びが好き過ぎて、研究所に入るであろう山Pが想像出来ない。
咲くん山Pが期待以上過ぎて、俳優山下智久がいよいよ覚醒するの? 殻破っちゃうの?
って楽しみでならない今作品。
思えば、近キョリ恋愛は、そのきっかけになったかもしれないいい映画だった。
と私の個人的意見はどうでもいいですね。。。
山下くんはまだまだ才能の一部しか見せていないと思ってるんです。アイドルとして一流の彼が、俳優として本物になって行くきっかけになるかもと期待大のアルジャーノン。
最近は、この手の暗めの作品は数字的に厳しくて挑戦ではあると思うけど、最後に山下智久の評価が上がり、新たな出会いに結びつけばいいなと。
岡田くんの様な本格俳優ではなく、アイドルだからこそ出せる愛らしさが山Pの持ち味だから、アルジャーノンはぴったりなんですよね。
ホワホワしたり萌えーってなったり大笑いして号泣させて貰える最高のドラマ!
良かった。
投稿: なっち | 2015年4月21日 (火) 10時45分
お久しぶりです!
久しぶりに!作品に入り込めるドラマに満足!!
ここ最近!忘れてしまおうか?なんて(笑)
消去したくなる内容のドラマが多かったので、
今回は、堪能しております。
これが野島マジックなんでしょうか?
あらゆる箇所に、問題提起があって、
本当におもしろい!!今回は良いドラマに恵まれました!
もちろん、山Pの表現力の素晴らしさ!堪能中!!
もうちょっと、今の咲ちゃんを見ていたいですが!
1時間が短い!
投稿: ユキヒョウ | 2015年4月21日 (火) 15時17分
帝国臣民はトンチキがお好き~なっち様、いらっしゃいませ~可愛いよ山P可愛いよ
最高のドラマはまだ始ったばかりでございます。
もっともっと最高になっていくと思われます。
あまりにも素敵な花屋はなっち様の心の中で
年中無休で開店中でございますよ。
夢の扉が開くとよろしいですな。
チャラ窪田くんに可愛がられとナイト工藤くんに守られた
お姫さま山Pはまもなく眠りから目覚め新世界へ。
運命に流されて変わって行く「彼」に
チャラもナイトも戸惑い心乱されるのでしょうねえ。
二枚目としてのキャリア充分の山Pは
さらに俳優としての階段を登って行くわけです。
ちなみに山Pはすでに本物の俳優ですぞ。
「IWGP」の頃からすでに本物です。
ずっと俳優として一流ですので
誤解なきように。
アイドルの山下くんではなく
どの役も素晴らしい演技で存在感を見せておりますからね。
とくに「野ブタ」「クロサギ」「コードブルー」「プロポーズ大作戦」「あしたのジョー」は抜群でございました。
山Pが大河ドラマで坂本龍馬や織田信長を演じる日が
楽しみでございます。
俳優なら誰もが演じて見たいチャーリイ・ゴードンですが
映画「まごころを君に」(1968年)版のアカデミー主演男優賞受賞のクリフ・ロバートソンに勝るとも劣らない繊細な演技と考えます。
そのうえでファンの皆様を萌えさせるのですから
素晴らしいのでございますよねえ。
山P版チャーリーである咲人のたどる「運命」を
じっくりと堪能できる春ドラマ・・・。
トレビアンです!
投稿: キッド | 2015年4月21日 (火) 15時54分
絶滅危惧種~ユキヒョウ様、いらっしゃいませ~山下君愛好
ふふふ・・・よかったですねえ。
まあ・・・しかし・・・
「MONSTERS」とか「SUMMER NUDE」とかの
どうにもならない役を演じるのも
俳優の宿命でございますからねえ。
駄作があってこその名作で
全部、名作だと価値が分からなくなりますからな。
「M」や「SN」があったからこそ・・・
今回のやりがいのある役の素晴らしさが
より輝くのでございます。
野島マジックはまだまだこれから炸裂すると考えます。
今はフリにフッてますからねえ。
脚本家もセリフを手堅くまとめてきている感じがいたします。
まあ・・・なんてったって「アルジャーノン」でございますからね。
そうですねえ・・・いわゆる障害者ヒューマンものなら
これがずっと続くわけですが
そうはさせない「アルジャーノン」・・・。
素晴らしいトリオだけに
これをもう少しみたい気持ちもわかります。
なんといっても
「いまのままで咲人はいい」と周囲の人々は
思っているわけですから・・・。
おそらく・・・次回は
ラストが最初の別れのシーン。
知的障害者の咲人を堪能できると考えます。
一時間はあっという間でございますが。
投稿: キッド | 2015年4月21日 (火) 16時19分
キッドさん、こんばんは
大遅刻すみません(^_^;)
骨子はそのままですが、
ここまでの展開は、ほぼオリジナルですね。
時代なのか、野島先生だからか、
ピュアな面が強調されて、
いじめ描写がほとんど無いのが嬉しいです。
(可哀想な子だから、いじめの対象にも
ならないのでしょうけど)
後々のことを思うと、
咲人が帰れる場所があるのは救いですから。
社長は「このままでいい」と言ってくれているし、
今はみんなに可愛がられて幸せそうではあるけれど、
そのうち年も取ってくるし、
「Nのために」な柳川くんが勢いで言ってしまった
「対等じゃないから、友達じゃない」との
言葉の裏というか真意も読み取れない咲ちゃんが不憫で、
やっぱり手術を受けさせてあげたい、
と思ってしまいますわ(>_<)
咲人母の気持ちも分からなくもないです…
マンモスが本気でイカサマに気づいていなかったのにはびっくり。
鼻からうどんを出してしまいそうになりました(嘘)
投稿: mi-nuts | 2015年4月24日 (金) 00時24分
✭クイーン・オブ・ザ・ランチ✭mi-nuts様、いらっしゃいませ✭親切百回接吻一回✭
素晴らしいインターネットの世界には
遅刻も早退もありませんので
いつでもどうぞでございます。
時代も変わって表面上は
障害者に優しい社会が
実現していますからねえ。
しかし・・・誰かが楽をすれば
誰かが辛くなるのが現実というもの・・・
という側面もございます。
バリアフリーには手間暇がかかるわけですからな。
優しさによって
最も弱いところに負担がかかるということは
ありますからねえ。
オリジナル要素が
そのあたりをじわりと表現してくることに
なるでしょう。
「やながわくん」が「柳川くん」になった時
対等になった咲人に柳川くんは何を思うのか。
そして・・・さらに立場が逆転した時に。
咲人の母は・・・咲人を愛することができなかった。
一度愛せなかったものを愛せるようになったとして
それを愛とよべるのかどうか。
咲人は「対象外」という舞と
「普通とは何か」と問う梨央は
どちらかが間違っているのかどうか・・・。
答えることが難しい問いが
次々に発せられることが予想されます。
盲目の子供を持った親は
どんなにか・・・
美しい光景を我が子に見せたいと思うでしょう。
汚いものを見なくて幸せだとは
なかなか思えないのではないでしょうか。
咲人は孤独の片鱗に触れてしまったわけですが
やがて・・・完全なる孤独を知ることになるわけです。
見上げていたものを
見下ろす時・・・
そして・・・すべてを失う時・・・。
「知」というものの「恐ろしさ」を堪能できるこの物語。
すでに・・・じわじわと
凄みが滲んできておりますねえ・・・。
鼻からうどんを出すと
ヒリヒリいたしますなあ・・・。
投稿: キッド | 2015年4月24日 (金) 01時04分