化石の微笑みと好きな人と手を繋ぐ喜びについて(杉咲花)
2013年のテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞の受賞作である。
2002年には古沢良太がデビューのチャンスを掴んだのだが・・・その後の受賞者たちの活躍ぶりを見ると・・・十年に一人の逸材という言葉が脳裏に浮かぶのだった。
新人賞の選考基準はいろいろとあるだろうが・・・何より・・・審査員の好みが大きいと思う。
たとえば・・・この賞の場合「戦争万歳」を主題に添えたりしてはいけないのだと思う。
まあ・・・そこそこのテーマとそこそこのストーリー、そしてそこそこのセリフを書けるといいんだろうなあ。
たとえば、セリフにしてもプロだって・・・なんだかなあ・・・というセリフを書いてしまう。
朝ドラ「まれ」の第六回では・・・成長したヒロインに近所の女性が「お父さんまだ帰って来ないの・・・六年もたつのに」とつぶやくのだが・・・う~ん、どうだろうと思うのだった。
六年もたつのに今さら「まだ帰って来ないのか」と問いかけるようなキャラクターじゃないんだよな。
七年後にワープして・・・六年前に父親が失踪しているという状況を一言で説明しようとして・・・明らかに不自然なセリフを書いてしまった・・・脚本家も演出もオンエアまできっと聞き流していたんだよなあ。
うかつだが・・・まあ、多くのお茶の間も聞き流してくれるかもね。
自然なセリフって・・・うっかりを許さないんだけどね。
で、『化石の微笑み』(テレビ朝日201503292340~)脚本・吉田光洋、演出・河合勇人を見た。作中に金属類回収令(昭和16年公布・昭和18年改正・昭和20年廃止)が登場する。武器生産に必要な金属資源を補うために官民所有の金属類回収を行う目的で制定された大日本帝国の勅令である。すでに昭和13年頃から不要不急の金属類の回収の呼びかけは始っている。昭和16年には国家総動員法に基づく金属類回収令を公布施行され、職場・家庭の区別なく根こそぎ回収へと進んで行くわけである。集める方ではなく出す方の立場で言うと「供出」ということになる。昭和17年には「まだ出し足らぬ家庭鉱」というスローガンが叫ばれる。マンホールの蓋・ベンチ・鉄柵・灰皿・火鉢・火箸・花器・仏具・窓格子・金銀杯・時計側鎖・煙・置物・指輪・ネクタイピン・バックル・釜・箪笥の取手・蚊張の釣手・店の看板・・・なんでもかんでも供出しないと非国民なのである。
そして時は流れた。
中村彩美(杉咲花)には認知症を発症した祖母がいる。
時々、孫のことを妹の京子(草村礼子)だと錯誤する幸子(草笛光子)だった。
彩美の母親・雅恵(堀内敬子)だけでは面倒を見きれないため・・・彩美は家の近所の高校に進学したのだった。
ある日・・・錯乱した幸子は近所の神社で土を掘り返す。
偶然、通りかかった彩美のクラスメートである宮原和哉(小関裕太)は幸子の亡夫・忠信と錯誤され・・・老婆に手を握られてしまう。
和哉にとって・・・それは特別な意味を持っていた。
和哉は強迫性障害の一種である潔癖症患者で「他人の手に触れるとパニックに陥る」という精神失調があったのだが・・・泥だらけの老婆の手には嫌悪感を感じなかったのである。
おそらく・・・人として認知されなかったのであろう。
ある意味、ショック療法であり、和哉の症状は緩和の方向に向かいだす。
老婆を捜しに来た彩美に好意を持っていた和哉は・・・忠信に成りきることで・・・京子に成りきる彩美と親睦を深めるのだった。
一体・・・幸子はなぜ神社で穴を掘っていたのか。
幸子の妹で・・・彩美の大叔母にあたる京子に事情聴取すると・・・戦争中の出来事が浮上する。
死んだ母親の形見であるペンダントを供出しなければならなくなった姉妹。
見かねた近所の少年・忠信が土中に埋めてしまうことを提案したのだった。
非国民であることを覚悟した忠信と幸子の馴れ初めだった。
戦後、ペンダントを掘り出した二人は夫婦になったのだった。
掘り出されたペンダントは妹の京子が保管していたのだ。
事情を知った彩美はペンダントを借り受ける。
しかし、そこで・・・京子は意外なことを語る。
「姉さんと二人で老人ホームに入る」と言うのだ。
何のために近所の高校に入ったのか・・・京子は母を問いつめる。
「もう・・・限界なのよ」
母の言葉にやりきれない気持ちを抱く彩美だった。
そのことを和哉に相談する彩美。
「大変だね」
「でもね・・・もうおばあちゃんから解放される・・・なんだかホッとしている自分がいるの・・・そういう自分が嫌になるの」
「しょうがないさ・・・人間だもの」
「ありがとう」
思わず彩美は和哉の手に触れようとして・・・感電したように身を引く和哉に驚くのだった。
「いや・・・違うんだ」
女として拒絶されたと勘違いした彩美は深く傷心するのだった。
「違うって・・・何が・・・もう・・・いいよ」
立ち去る彩美。立ちすくむ和哉だった。
人間に触れないという弱点を他人に告げることに抵抗がある和哉なのである。
好きな女の子に嫌われたショックで寝込む和哉。
そこに・・・小学校の同級生だった深田健介(山田裕貴)が訪ねてくる。
和哉の障害の原因は・・・健介のいじめにあった。
しかし、中学でいじめにあった健介は・・・和哉のことを思い出し・・・謝罪に訪れたのだった。
「なんで・・・今頃・・・」
「どうしても・・・あやまりたかった」
「今さらなんだよ」
逆上した和哉は思わず健介に殴りかかる。
大人しく殴られる健介に・・・和哉は慰められるのだった。
「治った・・・誰かを殴れるなんて・・・凄い」
「何の話だよ・・・俺はただ・・・ごめんなさいって」
「・・・」
「気がすんだのか」
「ありがとう・・・」
「え」
触れる・・・俺は人間を触れる・・・好きな女の子に触れるんだ。
高まった和哉は彩美の家まで走るのだった。
「何しに来たの」
「君を触りに来た・・・」
「え」
「僕は病気だったんだ」
「まさか・・・みんな!エスパーだよ!でも見たの」
「なんだ・・・それ・・・なぞの転校生なら見てたけど」
「テレビ東京って凄いよね」
「そうじゃなくて」
「パンチラはしないわよ」
「それはそれで残念だ」
事情をうちあける和哉。
「つまり・・・誰にも触れない人だったってこと」
「うん・・・でも・・・今は君の手に触れてみたい」
「いいよ」
二人はそっと手を握った。
庭の若い二人の姿に縁側の幸子は化石のような遠い記憶を蘇らせる。
そして・・・微笑む。
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