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2015年5月31日 (日)

冤罪被害者に心からの(ノ∀`) アチャーを(多部未華子)ワーイ\(^〇^)/オワタ(大倉忠義)

(ノ∀`) アチャー・・・おいっ。

まあねえ・・・冤罪はあってはいけないことだけれど・・・完璧な人間なんていないからな。

法治国家として想定されるリスクの範囲内なんだよな。

ただ・・・大きな声では言えないことなんだよな。

医療ミスとか、運転ミスとか、捜査ミスとか、送検ミスとか、判決ミスとかは謝罪するしかないよなあ。

だけど・・・絶対になくならないよなあ・・・人間だもの。

その描いてはいけないことをギリギリまで描いたよね~。

おしてるな~。

おしてるよ~。

一生懸命、容疑者を追いかけるのが刑事の仕事だから・・・冤罪のひとつやふたつ我慢しろって話だよな。

すごくわかる・・・。

絶対にわからないと主張する人もいると思うよ。

♪それでいいのだ~。

で、『ドS刑事・第8回』(日本テレビ20150530PM9~)原作・七尾与史、脚本・川崎いづみ、演出・松永洋一を見た。蔑んではいけないものを蔑むからこそ・・・アブノーマルなんだよな。蔑むべきものを蔑んだらノーマルなのか。絶対蔑まない人は・・・少し頭のネジが足りない場合があるからな。軽蔑も立派な知的作業だしな。軽蔑する人を軽蔑する。バカっていう人がバカかよっ・・・小学生かっ。

今日、近所のスーパーで買い物カゴを投げて遊んでいた幼女がママにゲンコツでガツンとやられてビエーンって泣いてた。胸が熱くなった。

体罰絶対反対なんてくそくらえだっ。

まあ・・・子供に逆襲されて毒殺される場合もあるけどな。

所詮、この世は蔑むか・・・甚振るかだからな。どういう二者択一なんだよ。

担当、悪魔でお送りしております。

(ΦwΦ;)Ψ・・・飲食店連続爆破事件が発生中の川崎青空警察署管内。

特別警戒中の黒井マヤ巡査部長は行列のできる人気店に割り込もうとしたマッチョたちを瞬間接着剤Sで地面に接着する。永遠に入店できないの刑である。

「黒井さん・・・やりすぎですよ~」と代官様こと代官山巡査(大倉忠義)は一応、ツッコミを入れるのだった。

「爆弾魔\(^o^)/」と名乗る犯人らしき人物から犯行声明が届き、刑事一課長・白金不二子(吉田羊)は強行犯捜査係に鞭を入れるのだった。

「このままでは県警から怖い人たちが来るわよ・・・」

怖い人たちを恐れて蒼ざめる刑事たち。

「美味しいと評判のパンケーキ店には僕も行く予定でした」と代官様。

「バッカじゃないの」とマヤ。

「犯人は食べ物に怨みがある人間ではないでしょうか」

「バッカじゃないの」と一同。

「しかし・・・食物アレルギーのある人は美味しいものを食べている人を激しく憎悪している可能性があります」

「それ以上は差別アレルギーの人たちを刺激するので言わなくてよろしい」と釘を刺す課長。

「犯行声明に・・・警察は自分のやったことを思い知れ・・・という警察批判があるので・・・警察を怨んでいる犯人ではないでしょうか」と中根巡査(中村靖日)・・・。

「たとえば・・・冤罪事件の被害者とか・・・」と浜田巡査(八乙女光)・・・。

「すぐに極秘の警察を怨んでいるかもしれない冤罪被害者リストから・・・理工系の知識のある人間を検索しなさい」

「そのリストのことはあまり大きな声で言わない方が・・・」と有栖川係長(勝村政信)・・・。

「私の声が大きいと・・・あなたの耳がキーンとなりましたか・・・」

課長に睨まれて有栖川は恐怖で気絶するのだった。

「ところで・・・この\(^o^)/はなんて発音しましょうか」

「バンザイ」

「オワタ」

「ワーイ」

「じゃ・・・ワーイで」

「ワーイだと(^o^)だけじゃないですか・・・\(^o^)/はお手上げ要素がないと・・・」

「仕方ないでしょう・・・本編が黒と言えば黒なんです・・・レビューなんですから」

「ですね」

冤罪被害者と聞いて顔色を変える近藤巡査部長(伊武雅刀)・・・。

「今回は近藤巡査部長がFeaturingされるのね」とマヤは勘づく・・・。

近藤刑事には・・・十年前に無実の理科実験教室の先生・草壁保孝(遠山俊也)を誤認逮捕した苦い思い出があった・・・いや・・・そんなことしたら・・・懲戒免職処分になるのでは・・・。

しかも・・・草壁保孝(遠山俊也)は冤罪と判明した後も周囲から色眼鏡で見られ・・・廃棄物処理場の作業員にまで身を落していた。

職業差別に抵触していると審議のランプが点灯中です。

・・・スルーが決定しました。

状況から考えて容疑者リスト入りする草壁。

課長は容赦なく、任意での事情聴取に踏み切る。

「ふざけんな・・・誰のせいで俺は毎日、鉄くずを」

審議のランプが点灯中・・・スルー決定。

「あなたを誤認逮捕したために・・・私だって定年間際なのに巡査部長どまりなんですよ」

「ええええええ・・・そこっ」

「\(^o^)/に見覚えがありませんか・・・あなたが教室で黒板によく書いていたという情報があります」

「実験成功のヤッター絵文字です・・・それが・・・なにか」

「ああ・・・\(^o^)/ヤッターもなくはないですね」

「・・・」

しかし・・・草壁の顔色が変わったのをマヤは見逃さない。

証拠がないので事情聴取は終了する。

だが・・・草壁は重要参考人として尾行されるのだった。

一方、「BARBER 代官山」で代官山の母(岸本加世子)にカットしてもらったマヤは雑誌の特集記事「川崎青空デートマップ」に掲載された人気店が爆破現場と符号することに気がつく。

実は代官様をそこはかとなく愛しているマヤは代官様とともに評判のパンケーキ屋でテートをする。

そこで草壁が謎の人物と会っているのを目撃するマヤ。

すっかり代官さまと仲良しになった情報屋(石井正則)は謎の人物をリサーチ。

小山田彰(矢野聖人)は大学生だが・・・女子大生(野崎萌香)にストーカー行為をしたために警察から厳重注意を受けていた。小山田は小学生時代・・・子供たち向けに理科実験教室を開いていた草壁の教え子の一人だった。

落ちぶれ果てた草壁の職場へやってくる近藤刑事・・・。

「なぜ・・・小山田と会っていたのですか・・・」

「あんたら・・・人権侵害って言葉の意味を知っているか」

「たとえ一人の冤罪被害者を出しても・・・百人千人の犯罪者を刑務所に送り込んだ方がいい・・・それが刑事の割り切り方です」

「割り切ってるのか・・・」

「職務ですから・・・」

「例の・・・\(^o^)/を教えてくれたのは・・・小山田くんだ」

「どういう生徒でしたか」

「いつか・・・なにかしでかしそうな・・・危ない小学生だったよ」

「現役の教師だったらとても発言できない・・・貴重なご意見ありがとうございました」

「俺は冤罪が憎い・・・しかし・・・犯罪だって憎いよ・・・犯罪がなければ冤罪もないんだからな」

「ご協力感謝します」

「今度は・・・証拠をしっかり押さえてくれ」

「肝に銘じます」

しかし・・・小山田は危険を察したのか動かない。

そこで・・・マヤは代官さまを乾法医学准教授(ミッツ・マングローブ)所有のコスプレ衣装でヒーローに変身させ「犯人を挑発するメッセージ動画」を素晴らしいインターネットの世界にアップするのだった。

「爆弾魔よ・・・勇気があるなら警察を爆破せよ・・・耳がキーンってなったわって言わせないビーム!」

「ばっかじゃないの・・・すぐに削除しなさい・・・犯人を煽ってどうするつもり・・・」と課長。

しかし・・・時すでに遅く・・・実はかって近藤刑事が更生させた前科者であった中華屋ケンちゃん(菅裕輔)の出前した中華丼は・・・小山田によって爆弾丼にすり替えられていたのだった。

「代官様・・・ファイト!」

「ば・・・爆弾です・・・青と赤のコードのついたお約束の時限爆弾ですーっ」

慌てふためく刑事たち・・・。

その模様を撮影する・・・警官に変装した小山田・・・。

その狂気の笑顔・・・(^Д^)・・・。

しかし・・・その背後から・・・(^Д^)・・・忍びよるマヤ・・・。

兇悪なツーショット・・・(^Д^)(^Д^)・・・にお茶の間はパニックに陥るのだった。

「ぼぎゃあああん」と叫ぶマヤ。

「ひえっ」と転倒する小山田。

「確保」と課長。

背負い投げ一閃・・・小山田に手錠をかける近藤刑事だった。

「へへへ・・・どうせみんな・・・木端微塵になるのさ」と嘯く小山田。

「冥途の土産に教えてあげるわ・・・あなたがストーカーしていた女子大生ね」

「ストーカーなんかしてない・・・彼女はシャイなだけだ」

「彼女はあなたの顔を見るくらいなら毎朝ゴキブリにキスした方がマシだっていってたわよ・・・できればバナナの皮ですべって転んでトラックに轢かれてペチャンコになって犬にオシッコかけられながら死んでほしいって・・・言ってたわ」

「ひでぶっ・・・」

「黒井さん・・・爆発します・・・」

「今月の私のラッキーカラーは・・・」

「赤で~す」

マヤは愛用のムチで赤いコードを断ちきると同時に爆弾丼と代官さまを窓からふっ飛ばすのだった。

「ひでぶっ」

しかし・・・ヒーローは死なない。

お食事処「BARBER 代官山」で何事もなく朝食を食べる二人。

マヤは代官さまの母に気になっていることを訊く。

「父とはどういう関係ですか」

「ただの元カレよお・・・」

「えええええええええええええええええ」

代官山かおり(瀬戸さおり)はマヤを種ちがいの姉を見る目で見つめるのだった・・・。

しかし、そういう複雑な血縁関係はないらしい。

マヤは二人の交際に支障がないことを安堵すると同時に物足りなさも感じるのだった。

性的サディズムが変態性欲である以上、それは必然なのである。

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2015年5月30日 (土)

君と僕が愛し合うこと・・・それが僕の夢でした(山下智久)

つきつめて言えば・・・愛とは相手に「オンリー・ユー」と伝え、相手から「オンリー・ユー」と伝えられることである。

二人のために世界があり・・・世界にできるのは二人を祝福するだけなのである。

ある意味・・・バカヤローなことである。

しかし・・・そういう二人はものすごく・・・幸せなんだなあ。

知性とは・・・それを思い知ることなのである。

まあ・・・そういう愛は一瞬だけ成立したとしても・・・時の流れが無惨にも消し去っていくわけである。

だが・・・愛し合う二人にはその刹那が大切なのであって・・・。

その一瞬が永遠の扉の鍵を開くことを信じるわけである。

このドラマの主人公とヒロインが今回そこに到達したことを・・・お茶の間は受け入れるしかないんだなあ・・・。

そして・・・そこから神の支配する残酷な時は無情にも動き出すのだった。

で、『アルジャーノンに花束を・第8回』(TBSテレビ20150529PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・吉田健を見た。朝から南の島で噴火があり・・・手に汗握る一日だった。何故か、災害があると・・・ニュースショーは現地の誰かに電話をするのである。女性キャスターが現地の民宿経営者の男性に質問する。「噴火の時はどんな様子でしたか」「ダイナマイトみたいな音がしたよ」「黒い噴煙は今もあがっているのでしょうか」「今は白いね」「避難はどのようになさるのでしょうか・・・徒歩ですか」「いや・・・車だね」「避難なさらなくてよろしいのでしょうか」「まだ大丈夫です」「レベル5で全島民に避難の指示が出ているわけですが」「え・・・避難指示がでているの」「ええと・・・避難指示はお知りなんですよね」「いや・・・聞いてないなあ」「は・・・早く逃げた方がいいのではないでしょうか・・・どうして指示が届いていないのでしょうか」「いや・・・いま・・・あなたと電話で話してたんで・・・」「・・・」・・・被災者の皆さんの無事をお祈り申し上げます。

輝きに満ちた朝が来た。

輝きは眩しいものだ。

白鳥咲人(山下智久)は眴に揺れる陽光に目を覚ます。

感覚器は覚醒し、咲人の意識に情報を発信する。

夏の光・・・風に揺れるカーテン。

愛おしい女性の香り。幽かな温もり。口中の渇き。

咲人は今まで感じたことのない平穏さを感じる。

これが愛というものか・・・。

身を起こした咲人の視線を感じて望月遥香(栗山千明)は目覚める。

目に映る美しい男性の姿。

容姿、知性、体力、すべてが申し分ない理想の恋人。

その瞳に映る優しさと思いやり・・・。

思わず遥香はニコリと微笑む。

咲人も反射的にニコリと微笑む。

二人は今・・・愛の頂きに立ち・・・下界を見下ろしている。

君がいれば世界は順調だ

君が暗闇を消し去るから

君の心臓の鼓動は

僕の心臓の鼓動と同じ

君だけが僕を孤独から切り離す

君こそが僕の夢

君だけが僕に魔法をかける

君は僕のすべてだよ

「今日は僕たちの記念日だね」

「そうね」

「何をしようか」

「何をしたいのかしら」

「僕は君に贈り物がしたいな」

「まあ・・・」

「二人が暮らし始める今日の記念になるものを・・・」

「ありがとう」

「こちらこそ」

二人は歯を磨き、イチャイチャして、朝食を食べ、イチャイチャして・・・また歯を磨いた。

二人は若い・・・そして無職である。

イチャイチャするのが一番楽しいのだ。

そして二人は見つめ合い・・・微笑んだ。

誰か・・・文句ありますか。

進行性要素性障害による遷延性意識喪失状態の東京麗徳女子大学生・河口梨央は病室のベッドに横たわる。

花に近付いて行く娘を見守る大手製薬会社「興帝メディカル産業」の河口玲二社長(中原丈雄)・・・。

そして・・・梨央の監視役であり・・・親友でもある小出舞(大政絢)・・・。

進行する病状によって・・・梨央の覚醒時間は一日のうち・・・二時間程度になっていた。

「一日は二十四時間あるのに・・・この子にはもう二時間しかない・・・」

「・・・」

「これも・・・報いと言うものかもしれない・・・」

「・・・」

「私たちは医学に投資してきた・・・しかし・・・それは大きな利益を得るのが目的だ・・・つまり・・・多くの患者がいる病気が投資対象になる。優先順位というものだ。当然・・・少数しか患者のいない難病は・・・見捨てられる・・・まさか・・・自分の娘が・・・見捨てられる一人になるなんて・・・夢にも思わなかった」

「・・・」

舞には親友の父親を慰める言葉が見つからない。

梨央を救いたい気持ちは河口社長とまったく同じだからである。

「だから・・・私は・・・甘い男になってしまった・・・あんな男の口車にのせられるほど・・・愚かな男に・・・」

病室に花束を持った杉野(河相我聞)が現れる。

「今さら・・・なんだ」

「私にも・・・娘がおります・・・」

「だから・・・同情すると言うのか」

「あれから・・・私は・・・様々な方法を検討しました・・・患者を救うためにできることはないかと」

「方法・・・」

「これをご覧ください」

杉野は薬品の生成手順を示す図式を河口社長に示す。

「ALGのプロトコルが・・・今さら・・・何の役に立つ」

「我々のプロジェクトが数年かけた試行錯誤の結果、生み出したALGを・・・彼は二週間で生成に成功したのです」

「彼・・・」

「白鳥咲人です・・・彼の超知性こそが・・・ラスト・ホープなのです」

その名を聞いて・・・舞は驚きに目を瞠る。

咲人と遥香はショッピング・モールにおでかけをした。

「欲しいものがあるかい」

「咲人さんは何が欲しいの」

「僕が欲しいのは君だけだ」

「私もよ」

二人はニコリと微笑んだ。

「このまま時が止まってしまえばいい」

「じゃ・・・そうじゃないことを教えてくれる機械はいかが」

「時計だね」

「そうよ・・・二人が一緒になってからの時を刻んでくれる」

「記念品だね」

「私はこれが欲しいな」

「僕はこれがいいな」

「あなたに似合わない時計なんてないものね」

「君に相応しくない時計もないさ」

二人は・・・ニコリと微笑んだ。

二人は腕時計の贈り物をする。

時計は時を刻み始める。

もちろん・・・残り時間は少ないのである。

観覧車に母と子が乗り込んでいく。

観覧車の中に閉ざされた時間。

母と子は観覧車の回転の中に閉じ込められてどこにもいけなくなる。

アクシデントがなければ二人は誰にも邪魔されず・・・二人きりの時間を過ごすのだ。

観覧車のケージに揺られ、二人のために凍りついた世界から遠く離れて・・・時計は回る。

幸福な時間が過ぎて高みを越え地上に戻るまで。

「ドリームフラワーサービス」の竹部順一郎社長(萩原聖人)は鹿内大(勝矢)たち従業員に声をかける。

「花にはなあ・・・お前たちの声が聞こえるんだ・・・かわいいと褒めてやれ・・・そうすれば花はもっと咲き誇る」

「花」という言葉に檜山康介(工藤阿須加)は顔色を曇らせる。

配達員たちは配送車に乗り込み・・・仕事に出る。

檜山が愛している梨央が「花」のようになってしまう時は迫っている。

◉◉◉◉◉◉◉◉◉◉いつものバーガーショップで非番の柳川隆一(窪田正孝)は舞のために三千円を支払う。隆一と舞はなんだかんだ・・・うまがあうらしい。前科者と不正を働いた親の娘なのでつりあっているのだな・・・。

「すごいでしょう・・・咲人さんが・・・梨央の病気を治してくれるかもしれないのよ」

「・・・」

「檜山くんにも教えてあげてよ」

「俺は伝書鳩かよ」

「ポッポッポ」

「クルックーだよ」

「鳩は希望の徴なのよ」

しかし・・・隆一は舞の興奮に水を差す。

「だけど・・・サクちゃんのクスリで治ると喜んだのに・・・結局、ダメだっただろう・・・下手に喜んでガッカリすることになるかも・・・しれないよ」

「どうしてそんなこと言うの・・・」

「鳩はオリーブの葉をくわえなきゃならないんだよ」

「あら・・・ノアの方舟の話を知ってるの」

「塀の中じゃ・・・聖書は読み放題なんだよ」

隆一は康介をぬかよろこびさせたくなかった。

「それに・・・サクちゃんだって・・・引き受けてくれるかどうか」

「なんでよ・・・友達でしょ・・・」

「さあ・・・昔のサクちゃんと・・・今の咲人さんは・・・まるで別人みたいだからね」

「・・・男の友情ってそういうものなの?」

「・・・」

◉◉◉◉◉◉◉◉◉咲人はスーパーマーケットで買い物をしていた。

食材を手にとっていると・・・眩暈に襲われる。

揺らぐ世界。

咲人の視線の先に父親の白鳥久人(いしだ壱成)が姿を見せる。

(心霊現象でなければ・・・幻影ということになる)

咲人の思考が進む一方で・・・咲人の中に内在する幼いもう一人の咲人は呟く。

「パパ・・・」

意識は父親への思慕に傾斜する。

運動神経も退行したかのようにおぼつかない足取りで父親の幻影を追いかける咲人。

父親は浮遊移動しているようら遠ざかって行く。

そして・・・消える。

(やはり・・・脳内に異物として投与されるアルファ・リポキサンチン・グルコシドにはそれ相応の副作用があるのではないか・・・いや・・・人為的に活性化した脳内でドーパミンが過剰分泌され・・・感覚器に異常を起こさせているのかもしれない・・・情報伝達の誤作動・・・つまり・・・幻覚の発生・・・いずれにしろ・・・アルジャーノン効果には問題があるようだ)

咲人は幸福の輝きに不吉な黒い影を見出すのだった。

◉◉◉◉◉◉◉◉仕事を終えた康介は売れ残った花を持ってほぼ眠り姫となった梨央の病床を見舞う。

「一緒に食べようと思ってハンバーガー買ってきたけど・・・先に食べちゃうよ・・・なにしろ、労働者は食べないと・・・身体が資本だからさ・・・ああ・・・凄く美味いよ・・・一日、二十時間も眠ったら・・・さすがに・・・くたびれるだろうな・・・喉なんか・・・カラカラに乾いちゃうだろう・・・でも・・・こうやって・・・眠っている君の姿を見るのも悪くないさ・・・起きてたら・・・こんなにじっと見つめていられないもんな・・・寝顔を見て・・・かわいいよ・・・なんてもしも君が起きてたら・・・恥ずかしくて言えないし・・・だから・・・もう一度言っておくよ・・・君は本当にかわいいよ・・・世界で一番・・・」

思わず梨央の頬に口づける康介だった。

病室を出た康介は舞とすれ違う。

「あら・・・梨央は・・・」

「まだ・・・」

「そう・・・」

病室に入った舞は梨央が目覚めていることに気がつく。

「あ・・・今、檜山くんが・・・呼んでくる」

「いいの・・・」

「梨央・・・」

「彼の声を聞いているだけで・・・満足なのよ・・・」

「・・・」

「ここは絵本の世界だからね・・・眠り姫は眠り続けないと・・・お話が終わってしまうのよ」

舞とのデートを終えた隆一は竹部社長に呼び出される。

時間経過から考えて舞と隆一は肉体交渉を持った可能性がある。

「休みの日にすまないな・・・」

「いえ・・・充分・・・休みましたから」

「これ・・・咲人の先月分の給与だ・・・お前・・・届けてくれないか」

「ケータイの時代に伝書鳩の任務は続く・・・一家に一台ドローン的な・・・」

「なんだって・・・」

「いえ・・・もう一つ別の表の世界でマグニチュード8.5の地震が発生して震源の深さ590kmだったので日本中が揺れて都心の高層ビルではエレベーター止まりまくっておしてんです」

「わからん・・・俺も歳をとったということか・・・」

「あの・・・咲ちゃんのことなんですけど・・・まだ・・・怒ってんですか」

「俺の怒りが持続しないのは・・・知ってるだろう」

「じゃあ・・・咲ちゃんにあったら・・・そう伝えていいですか」

「もちろんさ・・・それに本当は俺・・・咲人になんか言われても仕方ない男なんだ」

「え・・・やっちゃったの」

「ちがうよ・・・やりたくてやりたくてたまらないのに・・・踏み出す勇気がなかったんだ」

「悲しい下心・・・ですね」

「ああそうだよ・・・誰にも言うなよ」

部屋で留守番をしている遥香に来客がある。

「杉野さん・・・」

「実は・・・話があってきた・・・彼は・・・」

「今・・・買い物に・・・」

「二人で暮らしているんだね・・・」

「すみません・・・」

「謝ることなんてないさ・・・愛し合っている二人が暮らし始める・・・世界の基本だろう」

「基本ですか・・・」

「ところで・・・仕事の話なんだけど・・・」

「しばらくは・・・二人で人生をエンジョイしたいんですが・・・」

「でも・・・いつまでも無職というわけにはいかないだろう・・・」

「そうですねえ・・・」

「僕に・・・就職先を世話させてもらえないか・・・優秀な研究員を遊ばせておくのは惜しいからな」

「まあ・・・彼は・・・天才ですしね・・・」

「実は・・・第二の被験者のことなんだが・・・」

「社長令嬢の・・・」

「天才の力を借りたいんだ・・・」

「少し・・・考えさせてください・・・今は・・・二人の時間を優先させたいんです」

「いわゆる一つのハネムーンだね・・・同棲時代かよっ」

「すみません」

「ごちそうさま」

杉野は去り・・・咲人が帰ってくる。

咲人は手料理に挑戦する。

「え・・・」

「どう・・・」

「どうしたら・・・パスタを不味くゆでられるのよ・・・」

「ちゃんと・・・レシピ通りにしたけど・・・」

「やはり・・・私が作るわ・・・」

「ちぇっ・・・」

「料理ぐらい・・・私の方が上手でないと・・・劣等感で鬱になるわよ」

「君が報酬的快不快の感情複合体に左右されるとは思わないけど・・・」

「私って・・・かなりの負けず嫌いなの・・・」

「なるほど・・・」

「キッチンを明け渡してもらうわよ」

「降伏条件はキスだ」

二人はキスをする。

「キスは上手ね」

「素晴らしいインターネットの世界で勉強した」

二人は微笑む。

咲人は背後から遥香を抱きしめる。

「あすなろ抱きって言うらしいよ」

「裸エプロンをリクエストしないでね」

「え・・・だめなの」

遥香は微笑んだ。

咲人は微笑んだ。

誰か・・・文句ありますか。

遥香は咲人と母親の窓花(草刈民代)の関係修復を考える。

結婚を視野に考えると・・・配偶者の親とは良好な関係であるべきなのだ。

「もう一度・・・お義母様を訪ねてみない・・・」

「母との関係修復は難しいと思う」

「でも・・・あなたには幸せでいてもらいたいし・・・そのためにはお義母様が幸せである必要があるでしょう・・・」

「そう・・・もう一つの別の世界では・・・」

「別の世界・・・」

「世界は不確定要素で満ちているからね」

「・・・ああ」

「僕と君は・・・こんなに素晴らしい出会いを果たせなかったかもしれない・・・」

「そうかもしれないわね」

「この世界の神様は優しい気がするよ」

「だから・・・」

「もう一度・・・母に会ってみるよ・・・」

「ありがとう」

遥香は白鳥家に打診して・・・母子の再会をセッティングする。

そして・・・窓花と娘の花蓮(飯豊まりえ)は咲人と遥香を出迎える。

咲人は・・・用心して花を持たなかった。

窓花本人が・・・もう一つの別の世界ではローズなのだから・・・。

そして・・・咲人には・・・もう・・・母親を恋人のように慕う必要はなくなったのだ。

咲人には遥香がいるのだ。

それでも・・・母親との関係が良好でないことは咲人に緊張感を与える。

愛する相手に裏切られるのは・・・痛恨の一撃だからである。

◉◉◉◉◉◉◉アルジャーノンは死の衝動に囚われていた。

孤独の悲哀がアルジャーノンを支配する。

ボクハセカイデタダイッピキノネズミ・・・。

その時、邪悪な影が背後から迫る。

ひっそりと忍びよる肉食動物の影・・・。

アルジャーノンは生と死の狭間で震えあがった。

死にたい/死にたくない・・・明滅する欲望。

蜂須賀大吾部長(石丸幹二)は第三被験者選定のためのリストを読んでいた。

杉野が入室する。

「見たまえ・・・全世界の知的障害者を持つ親が・・・全員、手を挙げているぞ・・・」

「咲人くんの成功の結果ですね・・・」

「そうだ・・・これが世間というものだ」

「部長は・・・咲人くんを失って・・・平気なのですか」

「平気・・・息子が成長して旅立つ・・・当然の結果じゃないか・・・君は娘が嫁入りする時に駄々をこねるタイプかな・・・私は一番弟子が独立したって賛辞を送るよ。去る者は追わず・・・それがポリシーだ・・・執着することは愚かなことだろう・・・」

「息子さんのことは・・・」

「どうしようもないことはあるだろう・・・」

「・・・」

「君も・・・新しいラボのリーダーになるのだ・・・トップに立つものはその苦さを充分に味わうものさ・・・」

「独立先をご存じなのですか」

「河口社長から話があったよ・・・仁義というものがあるからな・・・私に悪意がなかったことは・・・彼にだって本当は分かっている・・・ただ身内のことはな・・・どうしようもないのだ」

「・・・」

そこへ・・・小久保研究員(菊池風磨)があわてふためいて飛び込んでくる。

「蜂須賀部長・・・杉野さん・・・」

「なんの騒ぎだ・・・」

「アルジャーノンが・・・発作を・・・」

「何・・・」

飼育室に研究員たちが集合する。

「どういうことだ・・・このデータの異常をなぜ・・・報告しない」

「すでに・・・アルジャーノンの役割は・・・咲人さんの成功で・・・終わったものと・・・」

「馬鹿な・・・アルジャーノンがレースの先頭を走っていることに変わりはないんだぞ」

「すみません・・・」

「出血は・・・」

「ケージの壁に自分で激突したようです」

「輸血の用意をしろ・・・」

「採血します」

「これは・・・まさか・・・ALG試薬の副作用・・・」

「その可能性はある・・・」

「至急・・・咲人くんに・・・連絡を・・・」

◉◉◉◉◉◉

もう一つの別の世界では・・・息子を捨てた母親は・・・みじめな暮らしをしていた。

娘は精神を失調した母親の世話をしながら鬱屈した日々を送っている。

半世紀前なら・・・「お母さんを施設にいれろっていう人もいるけど・・・そんなこと出来ないわ・・・親を施設に入れるなんて・・・そんなひどいこと・・・」と言う娘は普通だったのである

しかし・・・こちらの世界では貧しいながらも・・・白鳥家の生活は保護されている。

引き籠っている窓花もどこか優雅にさえ見える。

窓花は咲人に背を向けて姿勢を正し・・・中庭を見つめている。

母の態度に戸惑いつつ・・・咲人は花蓮に謝罪する。

「この間はせっかく訪ねてきた君に・・・失礼なことを言ってすまなかった」

「咲人さんは・・・学会で非常に緊張していたので・・・」とフォローする遥香。

「あ・・・大丈夫です・・・あの・・・母からも叱られました・・・私は昔・・・お兄さんにひどいことをしたって・・・ごめんなさい」

「・・・」

「花蓮・・・君があやまることはないよ・・・君は僕よりずっと幼かったんだし・・・知的障害者の兄を持つことは・・・時には大変な重荷になることだから・・・」

「そんな・・・重荷だなんて・・・」

もう一つ別の世界では・・・兄の言葉に記憶を呼び覚まされる花蓮である。

兄が知的障害者であることでいじめにあったこと。

そのために兄を怨んだこと。

遊んでいる時にした怪我を・・・兄の責任だと嘘をついたこと。

そういう忘れていたかった記憶が今の花蓮にも蘇っている可能性はある。

中学生で家を出た兄が性的な悪戯を妹に仕掛けたことも・・・。

しかし・・・2015年のお茶の間ではいかに脚本監修の人が求めても隠蔽される可能性は高いのである。

「あなたは・・・咲人ではないわね・・・」

「・・・」

「あなたのような立派な人を私は捨てたりしないわ」

「・・・お母さん・・・」

花蓮は母親の暴言にいたたまれない思いを味わう。

「そう・・・あなたは・・・私を責めにきたわけではないのね」

「・・・」

「だったら・・・何しに来たの・・・私はただ平穏に暮らしたいだけなのに・・・」

「・・・」

「いいわ・・・私は立派になった息子を抱きしめてあげればいいのね」

「・・・」

「そのくらいの我慢はしなくちゃね・・・なにしろ・・・子供を捨てた親なんだから・・・」

「・・・」

「さあ・・・いらっしゃい・・・坊や・・・私が・・・あなたを捨てたお母さんよ」

「・・・お母さん・・・なんてことを言うの・・・ひどいわ」と花蓮・・・。

「もう・・・結構です・・・お邪魔しました」と立ち上がる咲人。

遥香は窓花を睨みつける。

その眼差しに憎しみが浮かぶ。

窓花はその目を捉え・・・一瞬、にらみ合う二人。

しかし・・・窓花の目は去って行く息子の後ろ姿に注がれる。

遥香は咲人の後を追う。

「咲人・・・」

「・・・」

「ごめんなさい」

「君があやまることはない・・・君は僕のために母親と会う場を設けてくれただけだ」

「でも・・・こんなことに・・・」

「僕には屈折した母親情念複合体がある。歪んだマザー・コンプレックス。与えられるべき愛を得られず出口を失った・・・歪みだ。母親に狂おしいほどに愛されたいと願ういびつな心・・・。これを克服しなければ・・・僕は心の平穏を得られない・・・だから・・・君は」

「だけど・・・失敗したわ・・・」

「仕方ない・・・もつれた糸を解くには・・・あまりにもひずみの時が長すぎた・・・母も僕も・・・この腐った固まりをどうすることもできないんだよ・・・」

「・・・」

「いいんだ・・・僕は幼い頃・・・母親に捨てられ・・・父には死に別れた・・・だから・・・家族はいない・・・それが現実というだけだ」

遥香は咲人の手をとった。

「私がいるわ・・・私が咲人の家族になる。いつまでもずっと一緒にいて・・・同じ時を過ごし・・・おじいさんとおばあさんになるまで・・・」

「遥香・・・君を愛している」

「私も」

「君が思うよりずっとだ」

「私の方がずっとよ」

「君さえいれば他には何もいらない」

「浮気したら殺すわよ」

二人は抱き合った。

世界は静止しかけたが・・・咲人の監視は続いている。

連絡を受けた蜂須賀は二人の元へ走りよるのだった。

「博士・・・」

「先生・・・」

「二人とも・・・緊急事態が発生した・・・何も聞かずに研究所にきてくれないか」

「まさか・・・アルジャーノンに・・・何か」

「・・・」無言で同意する蜂須賀だった。

二人の短い夏は終わったのだ。

◉◉◉◉◉

「今は小康状態だ・・・興奮を抑えるために鎮静剤を投与している」

研究室に研究者たちが集合している。

「周期性はありましたか」

咲人は小久保に尋ねた。

「あった・・・」

「何のことだ・・・」と蜂須賀。

「アルジャーノンの脳波のデータの微弱な異常と・・・ALG投与との関連を咲人さんの提案で解析していたのです」

「咲人・・・君はこれを予見していたのか」と蜂須賀。

「検出されたデータに周期性があるような気がしたのです」

小沼由美子(松本若菜)がアルジャーノンの血液検査の結果を持ってやってくる。

「ストレス系のホルモンの数値がかなり高いですね」

「ストレス・・・」

「何かが・・・アルジャーノンを抑圧しているのか・・・」

「ALGは酵素の複合体ですが・・・その要素がいくつかの体内物質を模倣したカテゴリーに分類できます。たとえばALG9は伝達物質の生成を促す作用があるでしょう」

「その通りだ・・・」

「当然、レセプターに応じる分離が発生する可能性があります」

「しかし・・・それは抑制されるように配合されている」

「脳内で変性した可能性があります」

「ああ・・・つまり・・・擬似ドーパミンや擬似エンドルフィン的なものにか・・・」

「ちょっと待ってください・・・それじゃ・・・まるで覚醒剤の話みたいだ」

「覚醒剤・・・意識の変容・・・それなら他の麻薬でも・・・」

「幻視や・・・幻聴・・・ですか」

「すると・・・アルジャーノンは幻覚で・・・幻の猫にでも追いかけられたっていうのか」

「でも・・・咲人さんは・・・異常なしですよね」と必死で非常事態からの出口を探す遥香。

「そうだな・・・小動物のアルジャーノンと人体の咲人くんでは・・・変性の影響が異なるのかもしれない・・・」

杉野は恐ろしい可能性から目をそらすように遥香に同調しようとする。

蜂須賀はじっと・・・咲人を見つめる。

「僕も・・・私も幻覚が見えるのです」

蜂須賀の顔に浮かぶ・・・悲哀の表情。

それは息子の死を告げられた時にも浮かんだものなのだろう。

「そんな・・・」

研究員としての遥香の人格は恐ろしい結論を拒否しようとする自意識と激しく衝突した。

ブラック・アウト。

遥香はショックで意識を喪失する。

「遥香・・・」

咲人は叫んだ。

騒然とする研究員たち・・・。

アルジャーノン効果の人体実験の失敗・・・それが科学者として致命的な実績であることを誰もが意識していた。

ただ一人・・・被験者である咲人を除いて・・・。

咲人には何の落ち度もなかった・・・自身が知的障害者であり・・・お利口さんになろうと望んだこと以外には・・・。

遥香は見慣れた天井を見上げる。

「気がついたかい・・・」

「私・・・」

「研究室で倒れて・・・とりあえず・・・二人で帰って来たよ」

「ごめんなさい・・・」

「トーストとスクランブルエッグを作ったんだけど・・・何故か、美味しくない」

「一種の才能ね・・・」

「休んでくれ・・・僕は研究室に戻る」

「まだ・・・何かあるのね」

「そうだ・・・君には嘘をつけないな・・・アルジャーノンの電磁的画像診断の結果・・・脳細胞に委縮が見られた」

「退行しているのね・・・副作用だけでなく・・・効果が弱くなっている」

「さすがは・・・専門分野だね」

「脳細胞が正常でないなら・・・副作用だけでは説明がつかないことよ」

「僕は・・・蜂須賀博士と共同して・・・ALGを改良する」

「待って・・・」

「・・・」

「私も行くわよ・・・いつも一緒でしょう・・・それに助手としてなら超優秀な研究員だもの」

二人は見つめ合う。

その時、チャイムがなり・・・隆一が現れる。

「やってた・・・んじゃないだろうね」

「・・・」

二人は昔のように配達車に乗り込んだ。

運転席に隆一。助手席に咲人。

「これ・・・先月分の給料・・・」

「ありがとう・・・」

「でさ・・・社長のこと・・・まだ怒ってる?」

「そんなことないよ・・・あれは・・・よくある・・・売り言葉に買い言葉・・・」

「よし・・・じゃあ・・・今から・・・社長と握手しに行こうぜ」

「ごめん・・・今・・・ちょっとトラブルがあって・・・」

隆一はすばやく咲人の表情を読みとる。

隆一もまた一種の超能力者だ・・・人の心を読みとる特殊能力を持っているのである。

「あらら・・・結構・・・深刻な感じか・・・」

「うん」

「じゃ・・・手打ちはまた・・・今度ってことで・・・」

「ごめんね・・・」

隆一は咲人の中に昔の咲人の面影を感じる。

「気にするなよ」

「隆一くん・・・君の顔が見れて・・・うれしかったよ・・・」

「・・・」

「僕のこと・・・まだ少しくらいは・・・友達だと・・・思ってくれているのかな・・・」

「何言ってんの・・・俺たち・・・親友じゃん・・・対等のさ」

「隆一くん・・・ありがとう」

「咲ちゃん・・・またね」

隆一は遠ざかる咲人の姿を見守る。

咲人が困っていることは分かる・・・しかし、おそらく自分にできることはない。

ただ・・・黙って見守るだけだ。

二人は・・・そういう仲なのだから・・・。

研究室ではアルジャーノンの病状に対する分析が始っていた。

個室では咲人が遥香と問題点の整理を行う。

そこへ・・・蜂須賀が現れた。

「あらためて・・・君には申し訳ないことを・・・」

「謝らないでください・・・」と咲人はALGの構造式を記す。

「・・・」

「先生の研究は素晴らしかった。私に素敵な夢を見させてくれた。愛する人もできた。愛されることも・・・できれば覚めたくない・・・永遠に見続けていたい・・・この上もなく素敵な夢です・・・だから力をお貸しください。私一人では無理です。あなたの頭脳を貸してください」

「もちろんだ・・・夢なんかにはさせない・・・私たちが力を合わせれば夢は現実となる」

遥香は自分が科学者となった意味を感じる。

愛する人を幸せにするために・・・できることをするのだ。

チーム蜂須賀&白鳥は始動する。

「結局、知性とは好奇心の成果ではないでしょうか」

「おやおや・・・君は理性こそが知性の証だとは思えないのかね」

「哲人政治家は必ずしも・・・民衆を幸福にしないでしょう」

「それでは・・・君は男が女のなんたるかを知りたいがために人類は発展してきたと」

「博士は僕を愛のスパルタ教育で導いたでしょう」

「結果として・・・最愛の息子を美しい助手に奪われたがね」

「何かを知ろうとすれば・・・結局、愛を知ることになります」

「愛の天使は君の耳元でそう囁くのか・・・」

「二十世紀の魔術師は言いました・・・意志こそがすべてだと・・・」

「だが・・・神の御心に叶う意志など・・・人には望むこともできないだろう」

「しかし・・・魂は・・・それを求めるのでは・・・」

「オカルトか・・・最後は結局・・・オカルトか」

「実の父と息子のような一体感だな」と愛妻家の杉野。

「あんな抽象論・・・何の役に立つんですか」と冷笑的な小久保。

「スパークよ・・・天才同志のスパーク。咲人さんの拡大した超意識に・・・蜂須賀先生が激しく刺激を与えようとしているの」とうっとりする天才愛好家の小沼研究員・・・。

研究室の夜は更けて行く。

長い片思いの果てに・・・老いた恋人との友情だけにすがりつく竹部。

「なぜ・・・素直に・・・咲人くんを受け入れてやれないんだ・・・」

執拗に黄色い毛糸で小さな靴下を編む窓花。

「どうしようもない子供を持ったどうしようもない母親なのよ・・・自分が殺した子供に優しくなんてできないわ」

「咲人くんは・・・生きているじゃないか」

「あんなの・・・咲人じゃないわ・・・咲人は・・・ウスノロマヌケなの・・・どんなに水を注いでも・・・底の抜けたバケツよ・・・私はそれが・・・馬鹿馬鹿しくなったのよ・・・あなたには分からないわ・・・自分が生んだ子供に憎しみしか感じなくなった女の気持ちが・・・結局、赤の他人なんだから」

「・・・いいじゃないか・・・自分のことはどうでも・・・大切なのは・・・今の咲人くんの気持ちだろう」

「・・・」

しかし・・・すでに壊れてしまった窓花の心には・・・どんなに正しい言葉も届かない。

花蓮の日常生活はまだ秘密らしい。

「素朴な疑問なのだが・・・」と蜂須賀。

「アルジャーノンはおそらく・・・幻覚によってパニックに陥ってる・・・たとえは悪いがシャブ中のフラッシュバックのようなものだろう」

「・・・」

「君は・・・幻覚に襲われて・・・どのように自分をコントロールしているのかね」

「私の見る幻覚は・・・恐ろしいものではないのです」

「ほう・・・」

「父です・・・亡くなった父の姿が見えるのです」

◉◉◉◉

咲人は蜂須賀博士と父親の白鳥久人の姿がシンクロする幻視の中にある。

父を失った息子と息子を失った父はお互いを憐れんだ。

◉◉◉

ひまわり寮に舞が殴りこむ。

「ちょっと・・・どうなってるのよ・・・ケータイ出ないし」

「押し掛け女房かっ」

「咲人さんの件どうなったの」

「行ったよ・・・でも・・・話せなかった」

「なんでよ」

「あいつ・・・なんだか・・・難しい顔してたんだよ・・・切羽詰まってる感じで・・・頼みごとなんてできない空気がね」

「こっちより切羽詰まってることなんてないでしょうが」

「なんだ・・・舞ちゃんか・・・」と康介が顔を出す。

「檜山くんからも言ってやってよ・・・」

「何を・・・」

「何よ・・・あんた・・・檜山くんにも言ってないの・・・」

「だから・・・苦手なんだよ・・・深刻なのは・・・」

しかし・・・二対一となった今は・・・隆一の深謀遠慮は否決されるのだった。

隆一の良識の砦は陥落した。

◉◉

咲人と遥は二人きりで愛を交わしていた。

「私・・・シャワーをあびて・・・仮眠するわね」

「おやすみのキスを忘れないで・・・」

「咲人も少しは休まないと・・・」

「追加投与したALG試薬が効いている時間を無駄にしたくない・・・なにしろ・・・残された時間が不明だからね・・・それにアルジャーノンの側を離れられない・・・アルジャーノンは僕の未来そのものだからね」

「・・・何か・・・夜食を用意するわ」

「ありがとう」

遥香は個室を出ると踊り場で自分を解放した。

とめどなく流れる涙・・・。

(神様・・・生まれてはじめて・・・あなたに祈ります・・・時間をください・・・薔薇が咲くための時を・・・)

その時・・・階下の騒ぎが耳に入る。

入口で警備員と若い男女がもめているのがわかった。

「白鳥咲人に面会したいだけです」

「急用なのよ」

遥香は警備員を制した。

「知り合いです・・・」

「・・・よかった」

「ご用件はなんでしょう・・・」

「杉野さんからお聞きでしょう」

遥香はすでに三人の用件を察している。

「いいえ」

「そんな・・・」

「とにかく・・・咲人にぼくらが来たことを取り次いでください」

「無理ね・・・あなたたちと彼がどんな関係か・・・知らないし」

「何言ってるんですか・・・」と隆一は遥香の態度に疑問を感じる。

「友達ですよ・・・あなただって・・・知ってるでしょう」

「さあ・・・彼は友達なんて・・・一人もいないと言ってたわ・・・だから・・・花屋をやめたんでしょう・・・」

「・・・嘘だ・・・何か・・・隠してる」

「お引き取り下さい」

遥香は後退し警備員が前に出る。

「ちょっと・・・何なのよ」

「咲ちゃん」

「お願いします」

◉・・・冷酷な表情を浮かべる遥香。

研究室での杉野との会話が蘇る。

「あの話だけど・・・患者の状態が良くない」

「咲人さんが知れば・・・きっと助けようとするわ・・・でも時間は有限なのよ・・・こっちが間に合わなかったら・・・ゲームオーバーよ」

「咲人くんが二人いればな・・・」

「すべては・・・優先順位の問題でしょう」

「・・・」

静謐に包まれた夜の研究所。

遥香は無慈悲な時が刻む天使の足音を聞いている。

たとえ・・・世界が滅びても咲人が助かればそれでいいのだ。

遥香は無言で愛する人の元へ帰って行く。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

Hcal008ごっこガーデン。愛と運命のまどろみ寝室セット。

エリお布団の下には爆安って書いてありませんから~。なんて素敵なラブ・ストーリー。あんなベタなセリフでこんなにうっとりさせるなんて・・・まさに・・・運命の二人だからなのでス~。愛する人以外のことは知ったこっちゃない・・・それでいいのだ~。アルジャーノン1号、2号、邪魔する人は齧っちゃって~。そして・・・隆一との友情の復活~。どうしようもない母親との愛と憎しみの果て・・・。そして・・・大ピンチの咲P先輩を・・・断固守り抜く・・・愛のスーパーブロック炸裂なのでス~・・・神様・・・もしちょっぴり間に合わなかったら時間延長でお願いしまス~

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2015年5月29日 (金)

黒い印のついた鍵(木村拓哉)白いパンの秘密(上戸彩)

戯曲「父帰る/菊池寛」は大正六年(1917年)に発表された。

およそ・・・百年の時が流れている。

しかし・・・父と子の情は・・・それほど変わらないわけである。

「俺は父親がないために苦しんだけに、弟や妹にその苦しみをさせまいと思うて夜も寝ないで艱難した・・・」

出奔した父の帰還に長男は怨みを爆発させる。

しかし・・・父親が去って行くと・・・。

「行ってお父さんを呼び返してこい」と弟に命ずるのだ。

父親の姿が見えないと知ると・・・長男自身が狂ったように家を飛び出して幕となる。

新約聖書「ルカの福音書」には「放蕩息子の帰還」というイエス・キリストの教えが伝えられている。

家を飛び出し・・・自由奔放に過ごした息子が零落して生家に戻ってくる・・・年老いた父親は息子を抱擁で迎えるのである。

それが父の愛というものだからであると・・・イエスは訓える。

二千年前まで遡上しても・・・父と子の情は・・・この世の理の一つなのである。

脚本家は「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」でも主人公を父親に捨てられた男として設定している。

今回もドラマ・オリジナル設定なので・・・きっとお気に入りの主題なんだな。

原作では非常に曖昧な「家路久」の暗黒面を「幼少期の体験の反復強迫」として説明したわけである。

非常に巧妙な仕上がりになっていると考える。

で、『アイムホーム・第7回』(テレビ朝日20150528PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・星野和成を見た。久(木村拓哉)は妻・恵(上戸彩)と事故以来、最初のキスをする・・・変化を期待した久だっだが・・・妻も息子の良雄(髙橋來)も・・・素顔を隠した仮面の存在のままであった。「妻と子供を愛したい」と思いながら・・・その顔を見ることさえできない。久の心の闇は深いのである。何故・・・自分だけが・・・妻と子供の顔を見ることができないのか・・・久は自分の妻や子供への愛を疑い・・・そして自分自身を信じることができないのだった。

久は遠い記憶を夢見ていた。

久を捨てた父親・洋蔵(北大路欣也)・・・。

幼い久は父親を慕う。

父親の手は久の手を暖かく包み込む。

しかし・・・その手は振りほどかれ・・・父親の背中は遠ざかって行く。

「お父さん・・・お父さん・・・」

久は泣きながら父親を求めるのだった・・・。

目が醒めれば・・・診療室である。

久の主治医・筑波良明(及川光博)は脳外科医だ。

脳の損傷による久の病状は順調に回復し、脳波の測定や・・・画像診断でも特に問題点を見つけられないのである。

久の悩みに医師としてアドバイスすることはないのだった。

「キッスしたのに・・・変化なしですか・・・」

「・・・」

「そのキッスは・・・ディープなやつでしたか・・・」

「関係あるんですか」

「いえ・・・些細なことが気になるタイプなのです」

「右京さんかっ」

「今回は鑑識さんもゲストに来ますからね・・・」

「それはともかく・・・僕はどうしたらいいのでしょうか」

「それは・・・精神科医の仕事なんですよ・・・まあ・・・私も医師ですから・・・精神的な問題にも一応興味はあるのですけど・・・」

「興味って・・・」

「とにかく・・・非常に特定の事柄について・・・あなたの意識は・・・感覚を遮断・・・あるいは変容させていると言えます」

「つまり・・・妻と子供だけを特別なものとして感じているということですか」

「察しが早くて・・・助かりますね・・・言わば・・・あなたの心は妻と子供が仮面をつけているように見える眼鏡をかけているわけです。触っても仮面のような感触があるということは・・・感覚器すべてに変換システムが作用しているようです」

「なんで・・・そんな器用なことが・・・」

「人間の能力は計り知れないものですよ・・・芸術家たちの仕事を考えてみてください・・・あなたにピカソのような絵が描けますか?・・・あるいはロダンのような彫刻が・・・」

「・・・」

「つまり・・・どうすれば・・・奥さんやお子さんの顔が見えるようになるか・・・と聞かれたら・・・その眼鏡を外しなさいと言う他はない」

「眼鏡なんてしてません」

「たとえですよ・・・とにかく・・・あなたの心は・・・何か問題を抱えている・・・失われたあなたの記憶は実は・・・失われていないのかもしれません」

「?」

「つまり・・・記憶はあるが思い出せない・・・あるいは思い出したくないのかもしれない」

「・・・」

「そういう封印された秘密の記憶が・・・あなたの心の扉の鍵なのかもしれない」

「秘密の記憶・・・」

「ええ・・・秘密の記憶です」

「思い出せない記憶をどうすれば思い出せるのですか」

「それがわかったら・・・私はノーベル賞をとれると思います」

「・・・」

この世界でも医師は万能ではないのだった。

一方・・・恵はストレス発散の手段としてパンをまな板に叩きつけていた。

「表情がわからないなんて・・・どういう意味なの」

妻としては・・・夫から「何を考えているのかわからない」と言われただけである。

まだ・・・自分が久にとって「不気味な仮面の女」であるという自覚はないのだった。

お茶の間的には・・・良妻賢母であり・・・巨乳であり・・・美しく献身的な女である恵が初めて夫の現状に不満を持っていることを示したことになる。

事故前の久より・・・事故後の久の方が素敵になったと夫に告げた恵だが・・・その心にも秘密が隠されていることをうっすらと匂わせたわけである。

久の失われた記憶の中に・・・恵の隠された一面があることは間違いないのだった。

家路家の電話の呼び出し音が鳴り、恵は警視庁江戸川南署(フィクション)の刑事(板尾創路)から家路久について事情聴取される。

受診のために遅刻した久は第十三営業部が社内監査を受けていることに驚く。

監査担当員の野上(六角精児)に「キンショー法は大丈夫でしょうな」と問われた轟課長(光石研)は「錦糸町生まれです」とこれ以上なく頓珍漢な返答で応じる。

「証券マンが金融商品取引法を知らないなんておかしいでしょう」と思わず解説する久だった。

「課長・・・動揺しすぎです・・・まさか、不正を・・・」

「不正なんてとんでもない・・・・私は葵インペリアル証券に一生を捧げる覚悟であります」

野上は轟課長のコンピューターから「転職情報のファイル」を発見するのだった。

「転職をお考えなんですな・・・」

誰もが人には言えない秘密を持っているものだ。

この後・・・野上は小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)の「アマチュア力士半裸画像」や五老海(いさみ)洋子(阿南敦子)の「サンバダンス」動画などを発見するのだった。

みんなオフィスに私物持ち込み過ぎである。

思わずメモをする久に「しなくていいです」と注意する小鳥遊だった。

そんな・・・ドタバタ監査を終えた家路が帰宅すると良雄は「パパ参加歓迎・親子遠足in動物園・・・6月13日(土)」の案内を見せる。

「こんなのあるのか」

「去年は一緒に行ったでしょ・・・忘れたの?」

「いや・・・忘れてないよ」

「今年も来る?」

「行くに決まってるだろう」

どうやら・・・久は息子の良雄には記憶がないことを詳しく説明していないらしい。

まあ・・・幼稚園児には難しい話ではある。

記憶というものについて正確な知識を持つことは大人にも難しい話だからな。

もちろん・・・過去五年間の記憶を失っている久には去年の遠足の記憶はない。

ただし・・・恵に「幼稚園の行事にはほとんど参加していなかった」と最近言われた記憶はあるのだった。

(だけど・・・親子遠足には参加していたのか・・・どうしてなんだろう・・・)

記憶がないので・・・理由もわからない久である。

しかし・・・忘れていたと思っていた別荘での記憶の一部を思い出すことができた久。

ひょっとしたら何かを思い出すのではないかと期待と不安を感じるのだった。

そこへ・・・息をきらした恵が帰宅・・・。

お茶の間がそんなに走ったら・・・と思わず心配するがこれはドラマである。

「大変なの・・・お父さんが・・・久さんのお父さんが・・・」

「僕の・・・お父さん・・・?」

久の父は・・・久が11歳の頃に事業に失敗して出奔し・・・それ以来消息不明だったのである。

家路洋蔵は定食屋で無銭飲食して警察に留置されていた。

取調で久の名前が出たために・・・家路家に電話があったのである。

とりあえず恵がかけつけ・・・洋蔵の証言などから久の父親である可能性が高いことを確認して帰宅したのだった。

「親父が・・・無銭飲食・・・」

半信半疑のまま・・・久は洋蔵の身元引き受けのために江戸川南署に向かう。

「いやあ・・・無銭飲食というか・・・財布を忘れただけらしいんだけど・・・店の従業員が通報しちゃってね・・・そうですか・・・十一歳の時に家出して・・・それきりってこと・・・それじゃあ・・・息子さんにも心中穏やかでないことがおありでしょうなあ・・・しかし・・・ここはどうか穏便にお願いしますよ・・・で・・・お父さんに間違いないですか・・・」

「はい・・・父だと思います」

そこへ・・・江戸川区内の一人暮らしの老人の福祉を担当するNPO法人のボランティア・北村和子(大島さと子)がやってくる。

刑事とも顔見知りらしい。老人ケアのボランティアとしてマニュアル化された笑顔を仮面のように張り付けた女である。恐ろしいほどの演技プランだな。大島さと子・・・存在感ありすぎだぞ。

「こちら・・・例の息子さん」

「あら・・・あまりお父様に似てないのねえ」

笑いながら穏やかではないことを言う女なのである。

「あの父は・・・」

「お父様・・・足がちょっと不自由なんですけど・・・とてもお元気よ」

北村が笑えば笑うほど表情を失う久だった。

係官に付き添われ、足を引きずった洋蔵が現れる。

ますます・・・どんな顔をしていいかわからない久だった。

洋蔵は悪びれた様子もなく久に言った。

「カツ丼が・・・出なかった・・・注文していいかなあ」

手続きをすませた久は・・・洋蔵にいくらかの金を渡すと後の始末を北村にまかせて帰宅するのだった。

恵の仮面を見ると・・・押さえていた感情を爆発させる久。

「何十年も家族を捨てっぱなしにしておいて・・・一言の謝罪もなく・・・カツ丼が食べたいだぜ・・・なんなんだよ・・・あいつ・・・呆れて・・・ものも言えないよ」

「それで・・・この後・・・どうなさるつもり・・・」

「しらないよ・・・勝手にしろ・・・とっとと死んじまえだよ」

事故後初めて見せる・・・久の剣幕にたじろぐ恵・・・。

「あの・・・実家の方にはお知らせした方が・・・」

「冗談じゃないよ・・・浩だって・・・おふくろのことで大変なのに・・・あんな奴のことで面倒かけられないよ」

「・・・」

恵の無言の応答に気勢をそがれる久。

「僕がそう思うのは・・・おかしいかな」

「いえ・・・あなたがそう思うのは仕方がないのかもしれませんが・・・ちょっと・・・」

「ちょっと・・・なんだい」

「今日の久さんは・・・昔の久さんのような・・・こわい顔をしているので・・・」

「こわい顔・・・僕が」

そこへパジャマ姿の良雄がやってくる。

「どうしたの・・・」

「なんでもないよ・・・」

「内緒の話・・・」

「いや・・・なんでもない・・・ただの嫌な話だよ・・・」

「いやなはなし・・・」

「大人の話だから・・・良雄は知らなくてもいいんだよ・・・それより・・・歯を磨いたのか」

「ううん」

「だめじゃないか・・・虫歯になっちゃうぞ~」

臭いものにフタをするように良雄と洗面所に向かう久を恵はお茶の間にだけ見せる憂いを含んだ瞳で見つめるのだった。

いわゆる一つの思わせぶりな表情である。

それは・・・久の父親との関係が久と良雄の関係に影を落すことへの憂慮なのか・・・それとも大人の秘密に関する憂鬱なのか・・・あるいは今の久が見せた昔の久の顔に対する複雑な心境なのか・・・それはまだ謎である。

城立大学病院では娘のすばる(山口まゆ)と妹の祥子(蓮佛美沙子)が野沢香(水野美紀)の病状について医師からの説明を受けていた。

「すでに患者本人様には病状をご説明しましたが・・・ご本人からお二人への説明を依頼されましたのでご説明いたします・・・患者の野沢香さんは胃がんでステージ1Bです。早期胃がんですが・・・リンパ節転移が認められます」

インフォームド・コンセントの時代となって・・・家族に告知するよりも患者に告知するのが一般的になっている。正しい病状を説明しなければ本人が治療方法を選択できないからである。

患者の家族は言葉を失うのであった。

病室で端末を使い、笑顔でスケジュール調整をするライター稼業の香。傍らのすばるは不安を隠せない。

「フリーライターにとっては入院なんて死活問題なのよね」と祥子に軽口をたたく香。

「それ・・・笑えません」

「心配しないで・・・とにかく・・・入院の間だけ・・・すばるのことよろしくね」

原作と違い、香は再婚しておらず・・・祥子も未婚である。

香の妹の祥子は姪のすばるをしばらく預かることになったらしい。

病院からの帰路。すばるは伯母に気持ちを吐き出す。

「連絡したいんだけど・・・」

「誰に・・・」

「・・・お義父さん」

「気持ちは分かるけど・・・お姉さんが反対しているでしょう・・・今はお義兄さんにはこのことを伝えるわけにはいかないの・・・お義兄さんも・・・いろいろとあるでしょう」

「・・・」

香の連れ子であるすばるには久とは血縁関係はない。

養子縁組をしていなければ、香が離婚した以上、すばると久は赤の他人である。

しかし・・・すばるにとって・・・久は心情的なお父さんなのである。

大人の事情は中学生の心を痛ませるのだった。

病室のベッドでは香が笑顔を消して・・・深刻な表情を浮かべている・・・。

帰宅した洋蔵は録画されたテレビ番組を見る。

経済ニュースで株式動向を解説する葵インペリアル証券の社員・・・2009年の家路久。

洋蔵はくいいるように・・・小さな画面の中の息子の姿を見つめる。

壁には小さな魚拓が飾られている。

つつましくわびしい・・・老人の生活する小さな部屋・・・。

そこに飾られているのは今はコンビニエンスストアになってしまった・・・家路酒店の店前の洋蔵と幼い久の写真なのだ。

筑波良明の診療室にやってくる久。

「僕が・・・子供の顔を認識できないのは・・・僕と父親との関係が・・・関連している可能性はあるでしょうか」

「あなたと・・・あなたのお父様・・・」

「僕の・・・その父親への・・・特別な感情が・・・つまり・・・憎しみが・・・僕に正常な親子関係を・・・その・・・」

「ああ・・・負のスパイラルってやつですか」

「・・・」

「虐待された子供が親になって・・・子供を虐待するという・・・」

「虐待はしていません」

「ええ・・・そういう単純なものではないのです」

「・・・」

「たとえば・・・無意識というものがあるという仮説があります」

「仮説なのですか」

「そうです・・・無意識を見た人はまだいませんからね」

「・・・」

「人の心の在り方を説明する一つの方便にすぎません」

「心の在り方」

「そうです・・・たとえば・・・子供の頃の嫌な記憶を大人になってすっかり忘れてしまったとします」

「はい」

「しかし・・・その記憶は意識はされないが・・・無意識の中に残っている」

「はあ・・・」

「たとえば・・・飼い犬が死んだ日に雪が降っていたとしましょう」

「ええ」

「飼い犬のことも・・・その死も・・・いつの間にか・・・忘れてしまう」

「・・・」

「ところが・・・何故か・・・雪を見ると涙がとまらない・・・」

「ああ」

「実は・・・犬が死んだのは老衰だったのですが・・・幼い子供は自分が餌をやり忘れたのが原因だと思いこむ」

「え・・・」

「しかし・・・それも忘れてしまう」

「は・・・」

「ところが何故か空っぽの皿を見るのが苦痛で・・・必ず食べ残しをするようになる」

「・・・え」

「やがて・・・皿を空っぽになるまで食べる人間を激しく憎むようになる」

「そんな・・・」

「人間の心は複雑です」

「やはり・・・僕が父親を憎んでいるから・・・息子の顔が仮面に・・・」

「わかりません・・・あなたが本当に父親を憎んでいるのかどうかも・・・わかりませんし・・・なにしろ・・・あなたの気持ちなんて・・・あなたにだってわかっているのかどうか・・・とにかく・・・CTには映りませんから・・・私にはあなたの本当の気持ちを知る術はないのです」

久は良雄を迎えに行って幼稚園教諭(大島蓉子)と園児のためのサッカークラブのコーチ・本城(田中圭)と面談をする。

「最近・・・良雄君、明るくなりましたね」

「そうですか・・・」

「サッカーでもリーダーシップを発揮するようになりました」

「へえ・・・」

「近頃は・・・良雄くんと遊ぶ機会も増えたそうですね」

「会社の部署が変わったので・・・」

「とにかく・・・親子が共に過ごすことはとても大切なことですよ」

久は壁に貼られた絵に気がつく。

「あれは・・・」

「去年の親子遠足の絵です」

「実は・・・僕には去年・・・遠足に参加した記憶が・・・ないのです」

「まったく覚えていないのですか」

背を向けた久に何故か・・・鋭い視線を送る本城なのである。

まるで死のフラグを立てているようだ。死亡率の高さでは抜群の田中圭だからな。

「ええ・・・でも・・・この絵はなんだか・・・楽しそうだ・・・僕と良雄は手をつないで・・・ゾウとペンギンとキリンを一度に見ている・・・」

ますます・・・眼光が鋭くなる本城。これは・・・殺意の一歩手前の憎悪じゃないか・・・。

そのことには全く気がつかず・・・良雄と手をつないで家路につく久。

良雄の描いた絵が・・・久の気持ちを和ませる。

たとえ・・・仮面の息子でも・・・心を通わせることはできるかもしれない。

世の中の普通の父と息子のように・・・。

久の希望は高まるのだ。

つまずいたってずっと歩いて

いつも流されないように汗をぬぐって

もう帰ろう

おかえりの笑顔が待ってる

あたたかいスープのように愛が待ってるから

しかし・・・帰宅した久を待っていた恵は動揺を隠せない。

ボランティア・北村和子と洋蔵が家路家を訪れていたのだ。

「え・・・」

「福祉を担当するものとして・・・一応・・・お話しあいをしていただきたいと考え、訪問させていただきました」

「お父様もいろいろと事情があるでしょうから・・・久さんも・・・」

「僕には特に話はありません」

祖父は孫に微笑みかける。

良雄は見知らぬ男に愛想笑いを返す。

「とにかく・・・事業に失敗して・・・背負った負債については・・・洋蔵さんが地道に働いて返済終了していますし・・・」と北村は笑みを浮かべる。

「自分で作った借金を自分で返すのは当然じゃないですか」

冷静さを失い・・・膨れ上がる感情をもてあます久。

「言いわけはしない・・・」と傲然とした態度の洋蔵。

「そりゃ・・・そうでしょう・・・僕と母さんを捨てたことは間違いなく事実なんだから」

子供のように唇を尖らせる久。

もはや自分自身をコントロールできず・・・何者かが久に憑依したようだ。

それは・・・久の中で再生され続けた満たされぬ想いの集積が無意識から噴火しているようなものだった。

僕は父親に捨てられた

僕は父親に捨てられた

僕は父親に捨てられた

「しょうがない・・・事業は男のロマンだ」

「好き勝手して・・・大人しく稼業をしていればよかったんだ」

僕を捨てた父親だ

僕を捨てた父親だ

僕を捨てた父親だ

「サラリーマンにはわからないかもしれん」

「僕をまともに見ることもできないんでしょう」

「お前の嫁に見惚れていた」

僕を愛してくれなかった父親だ

僕を愛してくれなかった父親だ

僕を愛してくれなかった父親だ

「それにしても・・・高そうな家だな・・・嫁のマンションに住まわせてもらって・・・口だけは達者になったな」

「あ・・・あああ・・・もう・・・いいです・・・お帰り下さい・・・」

お父さんなんて死ねばいい

お父さんなんて死ねばいい

お父さんなんて死ねばいい

恵は仕方なくタクシーを呼んだ。

洋蔵は呆けた表情でタクシーに乗り込む。

北村はにこやかに運転手に行先を告げる。

その夜・・・恵は咳込んで先に休んでいた。

久は妻を気遣ったが・・・妻が起きているのか寝ているのかもわからない。

「どうしたの」

気配に気がついた恵に声をかけられ・・・漸く恵が起きていることを認識する久・・・。

「大丈夫かい」

久は仮面に触れたが・・・恵の体温を感じることはできない。

「たいしたことないわ・・・」

「一日くらいゆっくり休んだ方がいいよ」

「ありがとう」

「良雄の送り迎えは僕が行くし・・・パン教室に返す予定のお皿も僕が返してくる」

「でも・・・」

「ずっと続けてたんだから・・・一日ぐらい休んでもいいじゃないか」

「・・・お父様のことだけど・・・本当にこれきりにするつもり・・・」

「だって・・・あの男と・・・何を話せばいい・・・最悪の男じゃないか・・・息子の嫁に色目なんか使いやがって・・・僕は年の離れた弟なんか欲しくない・・・」

「あなたが年の離れた弟だったんでしょう・・・まあ・・・華麗なる一族の話はさておき・・・たとえ父親が犬畜生だたとしても・・・せっかく会えたんだから・・・もっと話をするべきよ・・・親子なんだから・・・許すとか許さないとかじゃなくて・・・お互いのことを知るべきなんだわ・・・」

「あの男のことなんか・・・知りたくもないよ・・・」

しかし・・・翌日・・・久は母親の梓(風吹ジュン)に電話をかける。

父親との再会を心に秘めて・・・。

「俺って・・・小さい頃・・・親父とどうだったのかな・・・」

「なによ・・・突然・・・」

「なんだか・・・急に気になって・・・」

「あんたは・・・お父さん子だったよ・・・」

「お父さん子・・・」

「なんてったって最初の男の子だったし・・・お父さんはお前のことを可愛がったからねえ」

「え」

「お父さんはすごく心配性でね・・・外に出歩く時は・・・いつもお前の手を離さなかったものさ」

「ええ」

「子供はいつ飛び出すかわからないから・・・絶対手を離すなって言うのが口癖だったよ」

「えええ」

「近所で三回も車にはねられた子がいたしね」

「そんな子が・・・注意力散漫にも程があるだろう・・・いや・・・それはともかく・・・そんなこと全然覚えていなかったよ」

「なつかしいねえ・・・あの人・・・今はどうしているのかねえ・・・」

「・・・」

筑波良明の診療室にやってくる久。

「記憶とは何か・・・ですか」

「ええ・・・」

「仮説では・・・」

「また仮説ですか」

「ええ・・・記憶を見た人はいませんからね」

「・・・」

「しかし・・・認知心理学では記憶のメカニズムをある程度、説明しています・・・まあ、共通認識できる程度には・・・ですが」

「はあ・・・」

「たとえば・・・今という瞬間の記憶があります」

「はい」

「これは一瞬で忘却される」

「そうですか」

「たとえば・・・私が今と言った時・・・」

「はい」

「いまのいを忘れないとどうなりますか」

「さあ」

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいって言う感じになるのです」

「ああ・・・ですね」

「いを記憶して忘却し、まを記憶して忘却するからいまという言葉が認識できるわけです。この認識を人は記憶します・・・つまり・・・私が今と言った記憶です」

「へえ・・・」

「これを短期記憶と呼びます・・・短期記憶によって・・・人は言葉の意味を見出したりする情報処理をするわけです。これもまた考えると凄い作業なんですよ」

「・・・」

「で・・・私が今と言ったことを来年、あなたがふと思い出すとしたら・・・それが所謂、長期記憶です・・・人は記憶というと・・・これをイメージするわけです」

「そうなんだ・・・」

「記憶力には個人差があります・・・私が何年何月何日何時何分何秒に今と言ったか記憶している人もいるかもしれませんが・・・多くの人が今と言ったような言わなかったような気がする程度のものです・・・記憶なんてそういう曖昧なものなんですよ」

「曖昧な・・・」

「記憶は幻想の一種ですからね・・・本当にあったことも・・・夢で見たことや・・・単に想像したことも・・・記憶として残る場合があります・・・」

「え」

「そうなると・・・本人にもそれが現実の記憶かどうかわからなくなったりします・・・」

「ええ」

「たとえば・・・飼っていた猫が飼っていた金魚を食べちゃったとしましょう・・・」

「えええ」

「ものすごく金魚が好きだったとしたら・・・猫を憎むかもしれません」

「・・・」

「でも・・・そのうち・・・いなくなった金魚を忘れて・・・猫が好きになるかもしれない」

「・・・」

「しまいには・・・猫が殺した金魚は死んで当然だったと思うようになるかもしれない」

「そんな・・・」

「記憶が曖昧なものである以上・・・それに伴う感情も移ろいやすいものなのです」

「・・・」

「それが・・・人間の心なんですよ」

体調不良の恵に代わってパン作り教室に持ち帰った皿の返却にやってきた久は講師から恵が教室に忘れていた調理ノートを渡される。

そのノートを覗き見て・・・ふと周囲を見渡した久は壁に貼られた生徒たちの集合写真を目にとめる。

そこには・・・恵と香が並んで笑っていた。

「香が・・・この教室に・・・」

写真の恵が仮面に見えたのか・・・それとも香の姿に気をとられて・・・恵そのものが目に入らなかったのか・・・についてはスルーである。

そこに祥子がやってきたからだ。

「なぜ・・・お義兄さんがここに・・・」

「祥子ちゃんこそ・・・」

「私は姉が・・・仕事が忙しくてこの教室を退会することになったので・・・届けを」

「僕は・・・妻が体調を崩したので・・・代わりに返却する皿を・・・」

「え・・・」

「恵と香が同じ教室で・・・パンを・・・」

「これって・・・偶然かしら・・・でも姉さん・・・そんなことは一言も・・・」

「妻も・・・」

「前の妻と今の妻がパン教室で密会って・・・結構・・・ミステリーですよね」

「・・・こわいぐらいだよ・・・」

久は妻が秘密を持っていたことに驚いた。

浮気がばれた男の心境か・・・。

まあ・・・香との関わりを・・・久は恵には内緒にしていたつもりだからな・・・。

男は何故かそういうことはばれないと思うものなんだな。

バレバレなんだけどな・・・。

病室で祥子は香に椿事を報告する。

「あの人に病気のことを言ったりしなかったでしょうね」

「仕事が忙しいって言っておいた・・・それより・・・なんでお義兄さんの新しい奥さんと・・・同じパン教室に・・・」

「それは今は聞かないで・・・」

「あ・・・ストーリー的な・・・」

「そうじゃなくて・・・入院中だからストレスを感じたくないの」

その件について・・・恵に尋ねるべきか迷っている久に恵から連絡が入る。

(ボランティアの北村さんから・・・連絡があって・・・久さんが鍵を持っているはずだとおっしゃるの・・・)

「鍵・・・?」

(お父様の家の鍵・・・久さんに一年ほど前に送ったそうよ・・・黒い印がついているそうだけど)

久は鍵束の中にそれがあることに気がついた。

「これ・・・親父の家の鍵だったのか・・・」

(お父様・・・今、住んでいる部屋から埼玉県にある施設に移るそうなの・・・で・・・鍵は返却する必要があるからって・・・)

「・・・わかった・・・」

帰宅した久は鍵を恵に渡す。

「鍵を送り返さずに持っていた・・・ということは・・・いつかお父様に会いにいくつもりだったのじゃあないかしら」

「僕が・・・」

「北村さんの話ですけど・・・お父様・・・久さんの出ていたテレビ番組を録画して・・・くりかえし見ていたそうよ・・・」

「テレビ番組・・・」

「・・・五年くらい前に・・・久さんはビジネスニュースに出たとか・・・」

「ああ・・・」

「お父さん・・・この家の電話番号を知っていたということは・・・久さんのことを気にかけていたってことよね・・・うれしかったんじゃないかな・・・あなたに会えて・・・」

「施設・・・って」

「要介護2だそうよ・・・身体がご不自由のようでしたし・・・三年前に脳梗塞をなさって・・・」

「自業自得だよ・・・」

「でも・・・北村さんのお話では借金のために家族に迷惑をかけないようにと家を出たみたいだし・・・まあ・・・久さんが・・・捨てられたと怨むのも仕方ないとは思うけど・・・」

「・・・」

「間違えるよ・・・人は・・・」

含みを残すセリフである。

恵もなにか・・・間違いを起こしたのか・・・。

しかし・・・ここまで結構・・・思わせぶりだからな・・・。

・・・って思わせておいて・・・「昼顔」的な何かに・・・なのか。

まあ・・・ホームドラマとよろめきは表と裏のような関係だからな。

鍵を受け取った恵は・・・返却のために出かけて行く。

「本当にいいの・・・私が返してしまって・・・」

「うん・・・頼む・・・体調は大丈夫?」

「今日は・・・一日、休んでいたから・・・」

「・・・すまない」

久は惑乱する。

恵と香のこと・・・。

そして・・・自分と父親のこと・・・。

(クソ親父・・・お父さん)

久は父への想いをふりきるように良雄のお迎えに出向く。

聖心カトレア幼稚園でお迎えを待っていた良雄は待ちくたびれて眠ってしまっていた。

「遅くなってすみません・・・」

「良雄くん・・・さっきまで起きて待っていたんですけどね・・・」

何故か・・・最初に登場した時から・・・久に含むところがあるような・・・本城である。

お迎えが恵でないことに落胆しているようでもある・・・。

「子供は・・・親をいつも待っているって言います」

「はい?」

「去年の遠足の時もそうでした・・・」

「え?」

「遠足の途中で・・・あなたは仕事の電話を受けて・・・教諭に良雄くんを預けてどこかへおでかけになったんですよ・・・」

「・・・」

「僕はみていました・・・置き去りされる良雄くんと・・・振り向きもせずに去って行くあなたを・・・このことを・・・私は・・・お伝えしたくて・・・あなたの良雄くんに対する仕打ちを・・・ひどいことをしておいて・・・忘れてしまったのでは・・・なんだかなあ・・・って思うので」

「でも・・・あの絵は・・・あんなに・・・楽しそうなのに・・・」

「楽しかったんでしょう・・・途中までは・・・ずっと楽しかったらよかったのになあ・・・あの絵はそういう良雄くんの願望の表現なのではないでしょうか・・・」

「・・・」

「子供はね・・・親の顔色をうかがっているものです・・・親が笑顔でいるかどうか・・・それは子供にとって・・・死活問題ですから・・・」

ギラギラと敵意を丸出しにする・・・本城・・・やはり・・・死ぬ気かっ・・・。

良雄を抱いて・・・家路につく久。

恵は・・・良蔵の残していった久と父親の懐かしい写真を机の上に残しておいた。

《大切な思い出でしょ?》という付箋をつけて・・・。

最低な父親は自分だったのでは・・・と久は思う。

すばるを追いかけて・・・良雄を置き去りにした自分。

公園で待ち合わせしたのに良雄を忘れた自分。

動物園で良雄と繋いでいた手を放した自分。

良蔵がふりほどいた手を久はいつも求めていたのに・・・。

「反復強迫ですねえ」と筑波医師。

「反復・・・強迫・・・」

「これは精神分析医の範疇ですが・・・あなたは本当は手を放したくなかった・・・でも父親のことは愛している・・・愛している人を認めなければならない・・・だから・・・繋いだ手を離すことは・・・正しいことなのだという・・・歪みが生じる・・・欲求不満・・・正当化・・・歪み・・・この反復があなたの心で繰り返される。やがて・・・それは・・・したくもないことをしてしまう・・・行為となって現れる。子供の手を放さなければいけない。それは愛する父親のしたことだから・・・正しいから・・・放したくもないのに・・・あるいは無意識に・・・あなたは握っている手を振りほどくのです・・・愛しているから・・・愛を拒絶してしまうのです・・・それが反復強迫という心理現象です」

久は心の持つ恐ろしさに怯えを感じる。

目が覚めると朝になっていた。

家には久しかいない・・・。

久の心に押し寄せる寂寥感。

恵の置き手紙がある。

「良雄は私の母に預けてあります。久さんのお父様の引越しを手伝ってきます」

書き添えられた良蔵の現住所・・・。

蘇る記憶。

父と手をつないで懐かしい路を行く久。

久は父を見上げる。

父の顔に浮かぶ・・・微笑み・・・。

夕暮れに仰ぎ見る

輝く青空

日暮れて辿るは

わが家へと続く道

久は走る。

父の元へ・・・。

引越しは終わり、洋蔵を囲む北村と恵。

そこへ久がたどりつく。

「ちょっと・・・待って・・・待ってください」

「久さん・・・」

恵に浮かぶ安堵の表情。

天使なのか・・・それとも浮気な天使なのか・・・。

すでに予感にざわめくお茶の間・・・。

久は最寄りの公園のベンチで・・・父親とのひとときを過ごす。

「親父が家を出た後・・・本当に大変だったんだぜ・・・浩なんかまだ本当にヨチヨチ歩きのガキだったし・・・おふくろは朝から晩まで働いて・・・自分で言うのもなんだけど・・・俺はもう子供でなんかいられなかったんだ・・・とにかく頑張った・・・死に物狂いで勉強していい会社に就職したし・・・夜も寝ないで働いて八年連続で社長賞をとったんだ・・・」

「・・・知ってるさ・・・久・・・お前のことはなんでも知ってる・・・」

「・・・お父さん・・・」

「ずっとずっと・・・お前のことを見ていた・・・」

「・・・」

「・・・ええと・・・ところで・・・あなたはどちら様ですか・・・」

「・・・え?」

恵と北村が合流する。

「お父様・・・少し・・・認知に問題があるそうなのよ・・・」

「これまではなんとか・・・一人で暮らせたのですが・・・もの忘れの頻度が・・・この間の一件も・・・」

「ああ・・・それで・・・施設・・・ですか」

「ええ・・・費用の点などで・・・財政にも限度がありますので・・・ご相談に伺ったのです」

笑顔の仮面のボランティア北村は微笑む。

久はすべての事情を察する。

時代の波が久の足元を洗っている・・・それだけのことだったのだ。

四人は待たせているタクシーの元へ戻る。

洋蔵の手を引く久。

「親父・・・施設には時々訪ねていくから・・・そこでまた・・・ゆっくり話そうな・・・」

「はい・・・ご親切にありがとうございます」

そこへ一台の自転車が乱暴な運転で突っ込んでくる。

久は洋蔵を庇って前に出たので二人の手が離れてしまう。

「危ないじゃないか」と突然、怒声をあげる洋蔵。

「こんなところで手を離すな・・・事故にあったらどうするんだ・・・久」

「・・・」

「子供の飛び出しが一番危ないんだ・・・車に轢かれたら死んじゃうぞ・・・さあ・・・久・・・お父さんの手をしっかり握りなさい」

「・・・」

恵は微笑んだ。

「親にとって・・・子供はいくつになっても子供なんですねえ」

「そうなんですよ」

ボランティア北村は日常茶飯事を見つめる微笑みを浮かべる。

杖をつき・・・よろめきながら・・・久の手を引く洋蔵。

「ありがとう・・・ありがとう・・・親父・・・」

久は何かをこらえるように呟く。

無意識の海の底に潜んだ「怨み」はチッと舌打ちするのだった。

6/13(土)

動物園で久は良雄と手をつなぎ動物たちを見た。

仮面の良雄は時々、久を見上げる。

久は笑顔を返す。

楽しそうな久と良雄を見つめる本城。

本城は咳込んでいる。

なにか・・・恐ろしい感染症が首都圏を襲う予感で背筋が凍りつくお茶の間だった。

・・・期待しても無駄だぞ・・・これは「復活の日」の前兆ではないからな。

久は父親になった自分を受け入れる。

たとえ・・・息子の仮面が外れなくても・・・その幼い手は・・・久を求めているのだから。

洋蔵の施設のベッドサイドには・・・現在の久と洋蔵の写真が飾られている。

久の部屋には・・・昔の洋蔵と幼い久の写真が飾られている。

そして・・・久には幼い良雄がいる。

洋蔵から久へ・・・久から良雄へ・・・何かがつながっているのである。

よくわからない・・・何かが・・・。

葵インペリアル証券の社内監査は問題なく終了した。

監査員の一人が探るような目付で家路に声をかける。

「去年の五月末日・・・第一営業部に監査に入った時・・・当時、茨城の支店にいた・・・あなたは何故か・・・本社におられましたよね・・・」

「え・・・」

「妙だな・・・と思ったので記憶に残っているんですよ・・・何か・・・不味い情報でも・・・隠滅しに来たのでは・・・なんてね」

もちろん・・・記憶を失っている家路に心当たりはない。

しかし・・・悪い予感を覚える家路。

昔の悪い自分は・・・いろいろとやる男だったことはもうわかっているのである。

出世のためなら・・・なんでもやる男・・・。

鬼のような家路久。

自分が何かをしているのは確実のような気がする・・・今の久なのだった。

その日は・・・去年の親子遠足の日。

いつもは参加しない行事に参加した久。

電話で呼び出され・・・本社の監査に立ち会った久。

僕は何をしたのか・・・。

久は不安になり・・・病院に行った恵に電話をする。

「去年の親子遠足の日・・・僕は何かしたかな」

(去年・・・途中でお仕事に行かれて・・・それから私のパソコンを貸してくれっておっしゃって・・・)

「君の・・・パソコンを・・・そこに何か・・・ファイルを移した・・・とか」

(さあ・・・気になるのでしたら・・・ご自分で御調べになれば・・・)

「すまない・・・具合が悪いのに」

(もう少しかかりそうなので・・・良雄のお迎え・・・お願いできますか)

久は幼稚園に向かう。

「今日はサッカーどうだった」

「コーチが休みだから・・・もりあがらなかったよ・・・風邪ひいたんだって・・・だらしないよね」

「風邪か・・・流行ってるのかな・・・帰ったらうがいしろよ」

「うん」

久は恵のデスクに座る。

手元に置かれた手帳を何気なく広げる久。

久は無意識の何かに誘導されているのだった。

手帳のスケジュールに並ぶ・・・お休みの印。

5/15 食パン×休み

5/21 バケット×休み

6/2 コロネ×休み

恵はパン教室を休みまくっていた・・・。

「なんだよ・・・皆勤賞じゃなかったのかよ・・・」

悪い久が妻のパソコンに悪い秘密を隠しているかもしれない。

しかし・・・久の無意識の何かは別のものを捜していた。

マウスを握る手は誰かに操られたように恵のパソコンのファイルを貪るのだった。

たちまち・・・久はゴミ箱のフォルダに・・・恵の秘密のファイルを発見する。

「ああ・・・これはみてはいけない・・・ふぁいる・・・みてはいけない・・・ふぁいるを・・・ぼくはみる」

モニターに広がる・・・ベッドの上風で微笑む・・・恵と本城の禁断の画像・・・。

息が止まる久。

そこへ・・・平然と・・・恵が帰宅する。

お茶の間に木霊する幻の絶叫・・・。

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Ihhc007ごっこガーデン。愛と修羅場のリビングルームセット。

アンナ工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工・・・ぴょんぴょんぴょん・・・と浮気がばれたらウサギとびでごまかすぴょん・・・ごまかせるか~・・・ダーリン相手に別の人と浮気するなんていうことは・・・想像外なのだぴょ~ん・・・まあ・・・わざとらしいほどにコンコンしてたので伏線通りですけどぴょ~ん。パパネタで涙腺緩ませておいてからのエロい展開ですか・・・そうですか・・・まさか・・・現在進行形の浮気で・・・久に対するあの献身的な態度なら・・・仮面魔女メグミですぴょ~ん

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2015年5月28日 (木)

あなたにお茶をさしあげたいのです(堺雅人)私を消そうとしてるでしょ(蒼井優)

穏やかな日々を過ごしたいと望む人。

刺激に満ちた今を追いかける人。

あなたはどちらでしょうか。

矛盾なく刺激に満ちた今を穏やかな日々として重ねる人がいるかもしれません。

欲しいものが手に入るとたちまち興味がなくなる人。

愛用の品が失われたらやりきれない気持ちで蹲る人。

あなたはどちらでしょうか。

来るものは拒まず去る者は追わず・・・そういう人もいるかもしれません。

もっと情熱的に・・・もっと淡々と・・・。

ありそうでなさそうな・・・心のときめき・・・。

あなたにもきっと心というものがあるのでしょうね。

きっと、そうだと思います。

で、『Dr.倫太郎・第7回』(日本テレビ20150527PM10~)原案・清心海、脚本・中園ミホ、演出・水田伸生を見た。血の滴るステーキを美味しいと感じる時・・・自分は他者を犠牲にしても心が痛まない人間だと知るでしょう。そういう人間の集まった社会で・・・お互いに最低限の犠牲を分かち合うのが法というものです。他人のものは盗まない。他人の命は奪わない。そういう約束の中で人々は我慢して生きるのです。それが出来ない人は少し精神が失調していることになります。だから世界には本当の悪人はいないし・・・本当の犯罪者もいないのです。しかし、頭がおかしかったですんだら警察はいらないとも思います。できたら変な人に関わらなくてすみますように・・・祈る他はないのですな。

精神科主任教授の宮川貴博(長塚圭史)は駐車場で傷ついた愛車と転倒した自転車を起こしている少年・深也(平林智志)を発見する。

愛車に傷を付けたのは深也だと断定した宮川は深也の母親で看護師の桐生薫(内田有紀)に損害賠償を請求する。

「本当に私の子がやったのでしょうか」

「そうでなかったとしたら・・・私は誰に弁償してもらえばいいのだ・・・困るじゃないか」

もちろん・・・宮川は明らかな発達障害者だが・・・そういう人間でも精神科医になれるのがこの世界なのである。

サヴァン症候群を伴う自閉症スペクトラムと診断されている深也はヒノリンこと日野倫太郎(堺雅人)の患者である。

頭のおかしな宮川に恐怖を感じた深也は逃げ出し、薫はわが子を追いかける。

「俺の車をどうしてくれるんだ」と苛立つ宮川。

その頃・・・ヒノリンは解離性同一性障害と診断した患者・ユメノあるいはアキラである夢乃/相沢明良(蒼井優)と診療室にいた。

「ギュッとして・・・」と求める患者の腕に触れるヒノリン。

「なんだい・・・抱きしめてもやれないのかい」

「ユメノさんでしたか・・・」

「言ったはずだよ・・・アキラにかかわるなって・・・」

「私はユメノさんともお話したかったのです」

「あんた・・・アキラをだまして私を消そうとしているんだろう」

「いいえ・・・そんなことはありません」

「だまされるもんか・・・」

ユメノは暴れ出して箱庭療法に使用するアイテムを散乱させる。

「ユメノさん・・・お茶を飲みませんか・・・アキラさんは飲んでくれました」

「いやなこった・・・」

ユメノはヒノリンの診療準備室に立て籠もる。

「あけてください・・・」

「・・・」

「それなら・・・このままお話しましょう」

「先生・・・」

「・・・アキラさん」

交替性の多重人格として振る舞う患者はユメノからアキラにスイッチする。

アキラは診療準備室の鍵を開け・・・ヒノリンを招きいれる。

診療室に深也が入ってくる。

自閉症スペクトラムに見られる変化を嫌う性質から・・・散乱したアイテムの整理整頓を開始する深也・・・。

箱庭療法用の動物フィギュアは行列を作るのだった。

自閉症スペクトラムとしての深也は言葉の発達にも問題があり、言語コミュニケーションに困難を伴う。

対人関係の形成にも問題があることになる。

宮川は「聾唖者に挨拶しないから無礼だ」と言うタイプの人間なのである。

もちろん・・・対人関係に問題があるのだ。

深也が患者であり、宮川が医師なのは程度の差に過ぎない。

もちろん、そういう個性の差が本人や家族にとって過酷なものであることは否めないのだ。

「私・・・何かしてしまったんですね」

「いいんですよ・・・今日はアキラさんが子供の頃の話でもしましょうか」

「いつも一人で・・・絵を描いていました・・・私・・・人見知りで・・・」

「人見知りは才能の一種だと言う人がいます。タモさんとか・・・」

「タモさん・・・」

「一人、一人が違う人間だと分かっている人は意外と少ないんですよ」

「・・・」

「それぞれの人について・・・どう接していいか・・・悩むのは・・・アキラさんが思いやりのある人だからです・・・」

「・・・私・・・何かしたんですね・・・ごめんなさい」

「いいんですよ・・・」

部屋を出た二人は片付けに熱中する深也を発見する。

「深也くんです・・・彼は片付けるのが大好きなんですよ」

「私・・・ユメノが散らかしたんですね」

「大丈夫です・・・散らかしたら・・・片づければいいんですから・・・」

理事長室には置屋の女将で元芸者の夢千代/伊久美(余貴美子)が円能寺一雄(小日向文世)に謝罪している。

「ご迷惑をかけてすみません」

「どういうことなのかね」

「夢乃は病気なのです」

「病気・・・日野先生にお世話になっています」

「なんだって・・・」

騒ぎの元が夢乃の兇悪な母親・菊千代/相澤るり子(高畑淳子)であることは秘す夢千代である。

しかし・・・権力者として自分の知らない秘事があることを我慢できない円能寺は診療室に向かう。

ヒノリンは深也と会話をしていた。

「深也くん・・・ありがとう・・・君のおかげで部屋がきれいになったよ」

うれしくてくるくる回りだす深也だった。

そこへ円能寺が権力者特有の我儘さで乱入する。

「夢乃はどこだ」

「お帰りになりました・・・今は別の患者さんの診療中です」

「夢乃はどういう病気なんだ」

「それは医師としてお答えすることはできません」

「守秘義務か・・・俺は夢乃の旦那だぞ」

「まさか・・・夢乃さんは・・・あなたと結婚を・・・」

「違う・・・芸者と旦那の関係だ・・・花柳界では俺は夢乃の親代わりだ」

「たとえ・・・ご家族でも・・・言えないことはあります」

いや・・・この場合は母親代わりの夢千代には病状を話して協力を仰ぐのだから・・・旦那である円能寺には話してもいいわけである。

しかし・・・それができない・・・ヒノリンの中には・・・夢乃に対する独占欲が芽生えている可能性がある。

その邪さは・・・ヒノリンにも夢乃にもよくない展開を招くのである。

円能寺が独善的であるように・・・ヒノリンも独善的なのである。

ここは独善と独善の争いなのだった。

その修羅場を察して逃亡する深也だった。

アキラは中庭で深也に再会する。

深也はピンクの象のフィギュアを持っていた。

「かわいいわね」

アキラは植え込みに大きな象が隠れているのに気がつく。

「あれは・・・」

「マ・・・マ・・・」

「お母さんなの?」

そこへ・・・深也の母親の薫がやってくる。

「まあ・・・深也・・・こんなところにいたの・・・」

「・・・」

深也を抱きしめる薫の姿に・・・アキラは憧れに似た想いを感じるのだった。

夢にまで見た母親の抱擁・・・アキラは与えられなかったものに愛着を感じるのだった。

喪失されたものへの愛着は・・・執着心を招き・・・補完されないことによって心に傷を負わせるのである。

夢千代的な性格を感じさせるユメノの人格は・・・防衛反応であると同時に母親の性格模倣であり・・・人間の心の持つコピー機能の成果とも言えるのだった。

ユメノはアキラを守ろうとするが・・・菊千代のコピーなので結局、守りきれないのである。

深也はサヴァン症候群という脳機能の特異性から生じる才能を持っていた。

造形力に優れた深也は子供美術展の彫刻部門でグランプリを獲得する。

宮川の愛人ポジションの矢部街子(真飛聖)は深也の個性を研究対象とすることを提案する。

宮川は脳機能局在の立場から深也の病状を解析することに興味を持つ。

ヒノリンの患者である深也を奪うために・・・街子が撮影したヒノリンとユメノのキス・シーンを円能寺に提示するのであった。

円能寺は嫉妬に我を忘れるのだった。

お座敷に夢乃を呼び出した円能寺は・・・件の写真を突きつける。

「あらあら・・・こんなことで怒っちゃダメですよお」

男を手玉にとることにかけては母親譲りの才能を持つ夢乃はキスで円能寺を宥め、写真を入手するのだった。

円能寺もなかなか本性をさらけださないのである。

こうして・・・路上キスの写真は・・・街子かせ宮川へ、宮川から円能寺へ・・・そして円能寺から夢乃へと渡って行く。

もう一人の当事者であるヒノリンは・・・医師としての致命傷になりかねない写真の存在をまだ知らない・・・。

そもそも・・・この写真はヒノリンが夢乃と恋に落ちた現場の写真である。

しかし、現在は夢乃は医師としてのヒノリンの患者となっている。

時系列を抜きにして考えれば医師が患者に性的接触をする倫理的に不適切な関係の動かぬ証拠になってしまうのだった。

「深也くんに・・・MRIを・・・それは無理です」

宮川の提案を否定するヒノリン。

「なぜだね」

「自閉症スペクトラムの患者にとって電磁的画像診断のシステムは脅威です」

「鎮静剤を投与すれば問題ないだろう」

「深也くんは実験動物ではない」

「まあ・・・母親の許可が出ればいいだろう・・・」と指示をする円能寺。

「彼女は賛成しないと思います」

「まあ・・・それは医師と患者の問題だ・・・君には夢乃の担当も外れてもらう」

「そんな権利はあなたにはありません」

「あるよ・・・君には拒否する権利はない・・・嫌なら病院から出て行きたまえ」

「え・・・」

ヒノリン親衛隊長の外科医・水島百合子(吉瀬美智子)も夢乃への嫉妬から敵となり・・・孤立したヒノリンは深也と夢乃を診療する権利を剥奪されるのである。

しかし・・・アキラがヒノリンを求めてやってくるのを止める権利は誰にもない。

「アキラさん・・・」

「この間・・・私が散らかしたものを片づけてくれた子に・・・御礼をしたいのです」

アキラは象のぬいぐるみを用意していた。

「そうですか・・・きっと喜びます・・・今夜、お祝いをするので・・・直接渡したらどうでしょう」

「・・・」

「きっと来てくださいね」

ヒノリンは患者としての夢乃に逢いたいのか・・・恋の対象に愛着を感じているのか・・・ヒノリン自身も危うい状態になっていた。

診療行為を禁じられた苦肉の策ともとれるが・・・精神的に問題のある患者を・・・医療従事者以外のものもやってくる家庭に招くのはヒノリンの失策と言っていいだろう。

その席でヒノリンは研修医の川上葉子(高梨臨)のテキサス ヒューストン精神医学校への留学を発表する。

恋愛を精神疾患の一つと考える発達障害を持つヒノリンはまったく気がつかなかったが・・・葉子を好きな研修医・福原大策(高橋一生)は突然の愛着対象の喪失に悲哀を味わうのだった。

その心的外傷は深いのだった。

その頃、アキラは「精神病なんてすべて甘え」という信念の持ち主と思えるヒノリンの守護神で実の妹の中畑まどか(酒井若菜)に猛攻撃を受けるのだった。モー子(ドラマ「木更津キャッツアイ」の登場人物)だけにな。いるのか・・・そのだじゃれだよの指摘。

「あんた・・・こんなところでなにやってるの・・・お兄ちゃんの患者か・・・なんだか知らないけど・・・家にまで来るなんて・・・おかしいんじゃないの・・・第一、お兄ちゃんには百合子さんという立派な交際相手がいるんだから・・・勘違いしないでね・・・さっさと消えなさい」

いくら・・・素人といえども・・・猛攻撃すぎる・・・モー子だけにな。

おすのかよっ。

精神病患者に対する偏見の固まりを代表するものとして勝ち誇ったまどかは・・・家に入り鍵を閉めるのだった。

アキラは打ちのめされ・・・ユメノは激怒する。

「ほらみろ・・・あんなやつ・・・ろくでなしだ」

大切な患者が実の妹から深刻なダメージを受けていることも知らず・・・葉子を好きだったことを大策から告白され驚愕するヒノリンだった。

「好きでした」とついに告白する大策。

「知ってましたよ」と葉子。

「あ・・・そうですか」

「先生は恋愛は一過性の病だと言ってましたが・・・私は一生ものだと思っています」

「あ・・・そうですか」

憐れだぞ、大策・・・憐れだ。

そして・・・葉子は明らかにストーカー気質を誇示するのだった。

深也が文字盤を使い・・・ヒノリンに自分の気持ちを伝えに来た。

おじさんたちより

ぼくはながいきするんだよ

ぼくがおとうさんになったとき

ぼくたちのこどもが

ぼくみたいにこまらないように

ママがぼくのためにがんばってるように

ぼくもがんばるよ

機械に入る

そうすれば偉い先生たちが

なにか良い方法を

おもいつくかもしれないから

ヒノリンは深也から科学の進歩には犠牲がつきものだという冷徹な事実を諭されるのだった。

深也は宮川の研究対象として身を捧げ、宮川の研究は一つの成果を上げるのだった。

つまり・・・「サヴァン症候群を伴う自閉症スペクトラムが脳内に特異的な血流変化として示される可能性」の示唆である。

まあ・・・意識の問題が解明されない限り、仇花となりかねないけどな。

一方で・・・狙いを秘匿しつつ・・・円能寺はエクレア依存症のヒノリンの主治医・荒木重人(遠藤憲一)を訪問する。

副病院長兼脳外科医主任教授の蓮見(松重豊)は視力に問題を抱えているらしい。

かってのライバル荒木は蓮見と再会して・・・何かに気がつく。

暴走する夢乃は・・・ヒノリンに復讐するために・・・例の写真を・・・賭博障害の相澤るり子に譲渡してしまうのだった。

「うわあ・・・なにこれ・・・おもしろい」

「好きに使えばいいのよ」

「( ゚∀゚)アハハ八ノヽノヽノ \/ \ 」

「( ゚∀゚)アハハ八ノヽノヽノ \/ \ 」

最も危険な母娘である。

荒木とヒノリンがいる診療室に・・・乗り込んでくるるり子。

「先生・・・患者に手を出すのって・・・医者としてどうなのかしら・・・」

「そりゃ・・・倫理的に問題がありますね」

「じゃ・・・この写真・・・五千万円で買ってちょうだい・・・」

ヒノリンは突然・・・医師として、人間として・・・男として崖っぷちに立ったのだった。

責任とるしかないよねえ。

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2015年5月27日 (水)

敵は無料で本を貸し出す奴らです(渡辺麻友)古本を安売りする奴らも鬼畜よ(稲森いずみ)

人生は戦の連続である。

書店が「戦う!」となればライバル書店だけが敵ではない。

図書館と古書店は油断がならないのである。

大型書店は基本的に小型書店を駆逐する。

素晴らしいインターネット時代になり、ネットストアが実店舗を圧迫する。

それよりも「本」が売れない時代も到来している。

それでもなんとか生き延びようとする「彼女たち」はサバイバル・ヒロインなのである。

そういう「描き方」もあったんだよなあ。

一方で視聴率*3.6%も過酷な現実である。

この枠の前番組の「銭の戦争」が平均13.3%だから10%くらい視聴者を失っているわけだ。

「銭の戦争」もみっつのドラマの激突で、TBSの「まっしろ」が平均*5.8%、NHKの「全力離婚相談」が平均*5.0%だったのでドラマは合計で20%超の視聴率を確保している。

前回の視聴率では①「マザーゲーム」*8.3% ②「美女と男子」*5.6% ③「書店ガール」*3.6%と合計が20%を割っているのでこの時間帯が低調になっていると言うこともできる。

プロデューサーは相当に心理的にきついだろうが・・・それほど気にやまないことも大切だ・・・。七月になれば何もかも遠い昔の話なのである。

音楽コンテンツが売れない時代になって・・・人間をノコギリで斬ろうとする危険領域の人間を含む愛好家にアイドルの握手サービスで売上を確保するビジネスが成功する時代である。

なりふりかまわぬ人の姿にあさましさを感じるか美しさを感じるかは人それぞれの感性が問われるんだなあ。

言いたいことが言える失うものが何もない自由っていいなあ。

で、『戦う!書店ガール・第7回』(フジテレビ20150526PM10~)原作・碧野圭、脚本・渡辺千穂、演出・木内健人を見た。精神的な困難を抱えた人のための心理療法の一つに「箱庭療法」というものがある。これは(水)「ヒノリン」にも登場するネタだが・・・ここではドラマとプロデューサーの視点で考えてみる。箱庭療法は縦57㎝横72㎝高さ7㎝の箱に砂を敷きつめ、人形や模型などの様々なアイテムを用意し、箱にアイテムを自由に配置する「遊び」を通じて庭を作る癒しの行為である。

箱というのは実は「枠」であり、アイテムとは「内容」なのである。

火曜午後10時のフジテレビ(制作は関西テレビ)の枠に何を積めるか・・・歴代プロデューサーは様々な庭を作ってきたのだった。

前回は帝国のスターを使った韓流ドラマのリメイクである。前々回はスター俳優を使ったファンタジー「素敵な選TAXI」(平均視聴率10.3%)、その前は破天荒な教師の学園もののリメイクで「GTO」(平均視聴率*7.2%)、その前が社会人が学生になる「ブラック・プレジデント」(平均視聴率*7.5%)で今回のプロデューサーはここに絡んでいる。

「ブラック・プレジデント」はどんな箱庭だっただろうか。

主人公は二枚目男優スター。優秀だがモラルに問題のある人物。これに対しヒロインは大学の講師である。恋愛要素として・・・優秀な秘書やピチピチの女学生と言ったライバルが配置されている。

しかし・・・「恋愛」よりも「お仕事」が前面に出ている。

特に「経済学」と「経済」の落差が拘りの一つになっていると言えるだろう。

キッドの観察で・・・すぐに気がつくのが「専業主婦」の不在である。

男女雇用機会均等法によって・・・不都合な存在となった「専業主婦」は実在するにも関わらずこの箱庭からは排除されているのである。

「視聴率がとれない」というのが一つの病気であるとすれば・・・これは無視できない病状の表出と言えるだろう。専業主婦はまだまだ大事なお得意さんなのである。

ちなみに「箱庭療法」というのは「おまかせ」なのであって・・・誰かが心に悩む人を導いたりはしないのが基本である。作っては壊す作業の繰り返しが病んだ人を癒すのだ。

さて・・・「戦う!書店ガール」はダブル・ヒロインである。一人は40歳の独身書店員・理子(稲森いずみ)であり、結婚歴はない。これはもう・・・「専業主婦」ではないのである。もう一人は23歳のお嬢様書店員・亜紀(渡辺麻友)。もちろん「専業主婦」ではない。

そして・・・ここでも「専業主婦」らしいレギュラー登場人物はほとんど登場しない。

ひょっとしたら専業主婦だったかもしれない理子の母は他界しているのだ。

これは・・・かなり病んでいます。

「箱庭療法」では・・・経過というものがある。

心の変化とともに箱庭の内容が転換していくわけである。

今回の「箱庭」では交際の始った亜紀と「コミックヒート」副編集長の小幡(大東駿介)の衝突が印象深い。

小幡「専業主婦になってもらいたい」

亜紀「結婚しても書店員は続けるつもりです」

小幡「ええええええええ」

なんとか・・・存在することを認めようとするが・・・断固として出来ない・・・患者の葛藤が観察できるのである。

誰が医者なんだよっ。

ペガサス書房の店長会議で谷田部社長(山中崇)に「吉祥寺店の存続」を願い出る西岡理子店長。

谷田部は「七月までに売上20%増を確保出来たら・・・考える。目標達成が出来なければ容赦なくつぶす」と回答する。

心配でかけつけたコミック担当の書店員・北村亜紀は「希望が生まれたんですね」と喜ぶのだった。

二人は「書籍」が好きすぎて「書店」も好きになってしまった変態なのである。

実は・・・それなら書店ならどこでも生きていけるので・・・何故、ペガサス書房の吉祥寺店でなければダメなのか・・・もう少し描き込むとよかったよねえ。

原作には・・・一号店が吉祥寺店という大ヒントがあるよね。

理子が最初に配属された店舗とか・・・亜紀が最初に本を買った店舗とか・・・何でもいいんだから。

同時に「吉祥寺」という都心ではないが・・・それなりに人気の街をもう少しアピールするべきだよねえ。

さらに言うならばペガサス書店というものがどのくらい「大手」なのかも説明不足である。

吉祥寺店の店舗構成もよくわからない。

専門店ではないので・・・従業員数から考えると百貨店的大型店にも見えるし・・・そうでもないように見えるのが難点なのである。

そういうディティールが少し不足していると考える。

高田愛子(工藤綾乃)の勤めるブックカフェ店は店内にあってもよかったのにな。

サイン会の場所となった多目的スペースはどこだったんだろう・・・。

吉祥寺店の店舗に愛着を湧かせなくてはダメなのだ。

恋人よりも書店が好きな女二人の話なんだから。

理子の出世を憎み、店舗閉鎖のリストラを目指すイヤミな野島エリア・マネージャー(木下ほうか)の策略により、理子に不信感を募らせ、移動願いを提出した書店員トリオ・・・萩原麻美(鈴木ちなみ)、遠野由香(木﨑ゆりあ)、日下圭一郎(伊野尾慧)は理子に呼び出され・・・謝罪される。

「店舗閉鎖の件で・・・頭が一杯になっちゃって・・・あなたたちの気持ちを考えられず・・・すみませんでした・・・」

誤解が解けた書店員トリオは・・・理子店長に忠誠を誓うのだった。

理子を同志と考える亜紀、最初から味方のレジ担当・尾崎(濱田マリ)、嫉妬から立ち直った経理担当(森岡豊)、理子さん一筋の三田(千葉雄大)、書店員トリオそしてその他の店員たち・・・この人たちがいないと主要メンバーはお昼休憩できないのだ・・・は一丸となって売上向上案を考える。

しかし・・・一発逆転の名案はそんなに簡単には出ない。

本当はここまでの伏線で・・・サイン会や朗読会での店員のスキルアップや、それなりの宣伝効果が潜在的要素としてあるというような流れをアピールすることもできたのだが・・・そういう解説者が置かれていないことも問題なのである。

理子にキスしようとするができない・・・理子の父親(井上順)と顔を合わせるとあわてて退散するという・・・奥さんいるんじゃないの疑惑のユニコーン堂の田代(田辺誠一)に解説させればいい。

「吉祥寺店単独のイベント展開は他店舗に問題視されるはず・・・それをコネ入社の亜紀さんや、地域振興の隠れ蓑で実行してきた理子さんは・・・本当は策士なんですよね」

「そんなことないです・・・単に結婚できなかった女なんですよ」

「う」

「アイディアは99%の努力と1%のひらめきである・・・とかなんとか書かれた実用書を読みあさり・・・考えに考え抜いたらポンというのが大切だとわかりました」

タブルヒロインをつなぐ三角形の頂点がキモオタで熟女好き設定の三田くんというのも一種の病状だよな。

亜紀の部屋を訪れた書店員トリオが「凄い・・・本棚が一杯」というのも実は甘いのである。

部屋を開けた瞬間に書棚であり・・・物凄い広いスペースなのに書棚しかなく・・・書棚に囲まれたロフトの寝室スペースしか居場所がないというのが書籍愛好家というものだ。

どんなに広くても広ければ広い分だけ書籍が増えるだけの話だ。

おまえのことかっ。

さて・・・ここで最も幻想色の濃い人気漫画家のあがちなお(浅利陽介)が登場する。

基本的に一ツ星出版の存在を左右するほどの大ヒット作を持っている男だ。

そんな男が吉祥寺店にやってくるのは誰がどう考えても亜紀とセックスがしたいという一点に理由が絞られるのだが・・・そこは今の処スルーである。

亜紀は本当は知っていて二人きりにはならず理子を巻き込むのだった。

そこへ「ブックカバーにマンガを掲載しよう」というアイディアを思いついた三田がやってくる。

自分が出版社に管理されていることも気がつかないあがちなおは「やりたい一心」で自分の人気キャラクターの使用許可を出すのだった。

ベテランの理子は「さすがに・・・無理があるのでは・・・」と躊躇する。

しかし・・・あがちなおは担当編集者の木幡に頼めばなんとかなると非常識な約束をするのだった。

木幡は「先生・・・キャラクターの二次使用に関しては・・・本社に決定権があるという契約です」と常識的な説得をする。

「だって・・・作者自身がいいと言ってるのに・・・おかしいだろう」

「しかし・・・出版もビジネスですので・・・」

「なんとかしてよ・・・」

仕方なく上司の編集長(池田鉄洋)にお伺いをたてる木幡。

「バカいってんじゃないよ。キャラクターは億単位で金を稼ぐためのアイテムだよ・・・そんなことで安売りしたら・・・商品価値が下がるだろう・・・そんなの言うまでもないだろう」

ここで・・・木幡は「話題作りの一環です」という説明の仕方もあるし・・・風通しのいい会社なら・・・そういう展開もありえる。

しかし・・・一ツ星出版は姑息な出版社という設定なのである。

恋人の亜紀と担当コミック作家・・・そして上司と勤務する会社の板挟みになって苦悶する木幡。

なんとか・・・「無理でした」と報告しようとするが・・・。

亜紀が「彼は今、一生懸命みんなのために戦っているはずです・・・信じて待ちましょう」と話しているのを聞き・・・判断力を失うのであった。

まあ・・・あらゆる読者が・・・コミック作家のファンであるわけはないが・・・ファンの異常な執着力は発揮され・・・コミック付ブックカバーは大成功。

「カバーおつけしてよろしいでしょうか」

「つけまくって・・・」

ということで・・・吉祥寺店は前月比124%の売上を達成する。

いや・・・ここは200%くらいは達成しないとダメだろう。

イベント効果は一過性だしな。

第二弾は難しいに決まっているし。

成功に湧く・・・吉祥寺店書店員一同・・・。

一方・・・木幡は重大な命令違反で・・・総務部に左遷が決定したのだった。

まあ・・・新聞に取り上げられるほどアピールできたら・・・お咎めなしの可能性はあるよね。

なにしろ・・・話題になったものが勝ちの世界なんだから・・・。

もちろん・・・低視聴率で話題になるのは・・・いろいろとアレでしょうけれど・・・。

それもまた・・・通過点って考えないと箱庭療法は成立しませんのでっ。

だから・・・誰が患者だよっ。

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2015年5月26日 (火)

犯人は許しても妹の恋人は許さない!(相葉雅紀)事件簿でちぇきらっ!(沢尻エリカ)ともだちいなくなっちゃった(有村架純)そうです・・・私が第一の名無しさんです(足立梨花)

本当の友人とは・・・相手が最悪の状態の時も友人でいられる存在です。

とはいうものの・・・相手が自分への殺人未遂で服役中でも友情を失わない人は天使かおバカさんだよねえ。

春ドラマもいよいよ・・・中盤の終了・・・。

春を飾る頭のおかしい人祭りも佳境に入ってきましたな。

その中でも・・・「何が正気ってやつなんだ」的境界を彷徨う「ようこそ」・・・。

主人公のお人好しも過ぎれば病気である。

主人公の臆病にはすでに病が入っている。

「用心深いお人好し」って結構難しいキャラクター設定だよな。

臆病な人なら「お人好し」を演じている可能性があるし・・・お人好しなら「呑気」だしねえ。

記憶力に問題があるので間違いを繰り返すというのなら・・・一家全員がそういう傾向にある。

つまり・・・家族としてのビョーキなんだな。

現実世界の事件でよく耳にする「彼女を殺して自分も死のうと思った」・・・。

それで警察に逮捕されて・・・裁判等で国民の税金を浪費されるのもアレなんで・・・。

「切腹」を復活させるべきだよね。

「彼女を殺して自分も死のうと思った」

「はい、あちらでどうぞ・・・切腹は介錯つきにしますか・・・名人クラスですと別料金になりますが・・・」

で、『ようこそ、わが・第7回』(フジテレビ20150525PM9~)原作・池井戸潤、脚本・黒岩勉、演出・中江功を見た。すべての犯行が唯一の一人に・・・という縛りはついに解かれてしまった。一枚の絵となるシグソー・パズル的な面白さでは一歩後退である。しかし、パズルとしては「この犯行はこの犯人」的な面白みも残されている。公式の倉田家取材メモは「何があったか覚えてないの」的な人に親切なコンテンツと言えるだろう。本当は自分で一覧を作った方が探偵気分を味わえます。

家族の誰かが発狂しているというのが・・・夢オチ並みの禁じられた「手」であることは間違いない。

主人公・倉田健太(相葉雅紀)が「臆病」と「お人好し」の間で二重人格化。

父の太一(寺尾聰)は臆病が過ぎて呑気な家族に復讐。

母の珪子(南果歩)は鈍感が過ぎて周囲の人間を犯罪者にするキャリア。

妹の七菜(有村架純)は「ななな」と呼べる名前なんて嫌だと怨みを持っている。

猫のガスがニャンコ星人である可能性も捨てきれない。

このように・・・いつでも「真犯人」になれる。

実は・・・このうちの誰かが保原万里江(足立梨花)を操っていた可能性もある。

その場合、犯人はカジウラなので沙粧妙子以外には逮捕できません。

今回の場合、ニット帽の男がカジウラ的である可能性も出て来た。

シークレット配役が「嵐」である場合の可能性順位は・・・。

①魔王で怪物くんで死神くんな鍵のエキスパート

②家族をぶっこわす人

③チームを優勝に導けなかった監督

④金田一少年の事件簿関係者でチョコレートなもう一人のお兄ちゃん

その他の帝国関係者だった場合は「おまえかっ」と言うことにしています。

それ以外だった場合は「また、おまえかっ」と言う可能性が高まります。

「名無しさんを罠にかけようとした主人公」は七菜を庇って腰のあたりを刺される。

駆けつけた明日香(沢尻エリカ)は救急車を呼ぶ。

市民病院に搬送された健太はERで緊急手術を開始。

ナカノ電子部品の領収書刑事部長・太一も合流。

その頃・・・一部お茶の間から「くそBBA死ね」指定を受ける健太の母親・珪子(南果歩)は陶芸教室の講師でストーカーの波戸清治(眞島秀和)と温泉地の山中で窯の火を見つめていた。

そこへ・・・セレブ女友達・下村民子(堀内敬子)から妖しい「主人がギックリ腰なのでいけません」電話が・・・。

「それじゃ・・・二人きりに・・・」

「大丈夫・・・ご主人には内緒にしておくから・・・」

「えええ」って・・・無防備にも程があるだろうというお茶の間の激昂が木霊するのだった。

もはや・・・この時点で・・・民子の罠が完成である。

「実は・・・息子さんには話したんですが・・・私の心にはあなたへの愛の炎が燃えさかっています」

「そんな・・・」

そこで・・・事件の着信である。

「駅まで送ってください」

「いや・・・火の番をしないと・・・」

窯の火を消火する珪子に・・・賞賛の声はなく・・・。

「事情を説明すればいいじゃないか」

「タクシー呼べばいいじゃないか」

「ストーカー行為を告白されたんだから警察呼べばいいじゃないか」

非難の声が渦巻くのだった。

しかし・・・これを機会に好きになってもらえるかもと・・・おそらく期待した波戸は紳士的に珪子を麓の駅に送り届けたらしい。

鉄道を経由して病院に到着する珪子・・・手術室から出て来た急ぎ足のオペ看護師(2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング195位)を拘束する珪子。

「私の血を輸血してください・・・私の血液一緒です・・・私は母親です・・・なんでもしますから・・・私の息子を助けてください」

「汚い手で触らないで・・・急がないと・・・息子さん・・・死にますよ・・・手を離してください」

「あらあら・・・」

役柄が凄いのか・・・役者が凄いのか・・・好感度の急降下とどまる所なしの2015年度ドラマ登場人物ナンバーワンである。

そこに担当医(2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング105位)が登場。

「手術は無事すみました・・・もう少しで死ぬところでしたが・・・急所を少し外れていたので・・・ただし・・・神経を少しやられているので軽い後遺症は残るでしょう・・・プロのアスリートでなければ・・・日常生活に支障はないと思います」

「ありがとう・・・と言いきれない微妙な病状ですね」とは言わない一同だった。

「命に別条なければすべてよし」というお約束だからである。

そこへ・・・木下巡査(夙川アトム)と牧方刑事(乃木亮介)と名もない刑事(俵山峻)がやってくる。

「容疑者を逮捕したので・・・面通しをお願いします」

生死の境を彷徨った息子に身体を預けて微笑む珪子に非難轟々である。

逮捕された容疑者は・・・七菜の元カレ・辻本正輝(藤井流星)・・・ではなくて七菜の親友の万里江だった。

アメ女のセンターまめりん(ドラマ「あまちゃん」の登場人物・・・紅白歌合戦出場)にそっくりと言われた万里江は辻本に告白するが・・・辻本が七菜に好意を寄せていると知り激怒。

「あんな生霊女(若春子・・・ドラマ「あまちゃん」の登場人物・・・現代では生霊となっている)に負けるなんて冗談じゃない・・・」と復讐鬼と化したのだった。

「あまちゃん」見てない人にわからない情報はいらないだろう・・・。

そんな非国民がいるのかっ。

おいっ。

万里江は・・・七菜の携帯から「七菜と辻本くんの恥ずかしい写真」をコピーすると・・・その画像の流出を材料に辻本を脅迫。

辻本に七菜との交際を終了させることを強要するのだった。

アナウンサーの就職試験中の七菜を思いやり・・・万里江の強迫に屈する辻本。

しかし・・・その後も七菜を見守り続けたのである。

一方・・・万里江は七菜を苦しめることに快感を覚え、倉田家の合鍵を作り、倉田家に不法侵入し、倉田家に盗聴器を仕掛け、倉田家に別のストーカーがいることを知ると、名無しさんのコピーキャット(模倣犯)となり・・・ガスに脅迫文をくくりつけたり・・・ハイヒールを悪戯したりして・・・捜査を撹乱するために七菜の携帯電話を盗みだし・・・今回は七菜のパソコンの「別の恥ずかしい写真」を入手するために侵入・・・護身用のナイフで誤って健太を刺してしまった・・・と警察で証言する。

そういう捜査情報を被害者家族でもないのに・・・どこからか入手してきて健太に説明するジャーナリスト・明日香だった・・・。

(A)倉田少年の事件簿

(B)倉田青年の事件簿

(C)倉田中年の事件簿

から(B)を選択する健太。

「しかし・・・万里江さんはすべての犯行を認めたわけじゃないんですね」

「ええ・・・最初に花壇を荒らしたり・・・ガスをポストに入れたりしたのは自分ではないと言ってるし・・・盗聴器も一つしか仕掛けていないと言っているそうよ」

「宅配ピザも・・・」

「車は傷つけたが自転車は傷つけていない・・・」

「五万円も・・・」

「まあ・・・犯罪者の証言なので信憑性に疑問は残りますけどね」

「母さんの不倫疑惑写真とか・・・ゴミの件とか・・・」

「名無しさんがもう一人いる可能性はありますね」

「名無しさん・・・二号が・・・」

「量産型もあるかもしれませんね」

「・・・そんな・・・こわいこと言わないでください」

「世界は名無しさんでいっぱいですよ」

「ひーっ」

とにかく・・・ドラマの歴史に「堕ちた読者モデル」がまた一人・・・加わったのだ。

ウシジマくんがいけないんじやないかな。

七菜は辻本くんと仲直りをする。

元のような関係に戻れるかどうかは・・・まだ不明だ。

珪子はブローチを波戸に返却する。

しかし・・・主婦たちとの交流の場である陶芸教室はやめないのだった。

とにかく・・・珪子は・・・民子をノーマークなのである。

これは・・・不用心という意味でやはり頭がおかしいレベルだ。

一方、総務部契約社員のシルビア/西沢摂子(山口紗弥加)は「例のドリル」の売却先が決まると言う。

太一は売却先の信用調査を青葉銀行の知人(小市慢太郎)に依頼。

「売却先が倒産間近」との情報を得て手形での取引は問題があると持川社長(近藤芳正)に報告するが・・・。

「売却先は近く吸収合併されて・・・負債は清算される予定」という業界情報を告げられるのだった。

またしても・・・不正の摘発に失敗する太一・・・。

小心者というより・・・うかつなんじゃないのか。

もはや・・・うつけ夫婦・・・。

ついに週刊誌ネタとなった倉田家の事件・・・。

ニット帽の男(シークレット)は・・・週刊誌を読んで・・・もの思いにふけるのだった・・・。

円タウン出版社の蟹江(佐藤二朗)は退院する健太を酒席に招き・・・サプライズ・パーティーを手伝うが・・・パーティーには招かれない。

お呼ばれされないと・・・怨恨が生まれる可能性があります。

とにかく・・・プロのアスリートにはなれない軽度の障害を負った健太を祝福する家族と明日香だった。

そこへ・・・「近所で頻発する空き巣被害」の参考人として・・・珪子に任意同行を求める二人の刑事がやってくる。

ついに容疑者となった珪子。

もちろん・・・濡れ衣なのだろうが・・・やっていてもおかしくないと思わせる珪子って凄いな・・・。

これで追い詰められた珪子が自殺でもすれば・・・好感度は上がるのか・・・それとも・・・お茶の間の一部は快哉を叫ぶのか・・・。

2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング

①位 ニット帽の男(真の名無しさん)

②位 明日香(特ダネ狙い)

③位 勤務中に飴をなめる男(スクールゾーン)

④位 牧方刑事

⑤位 牧方刑事の同僚刑事(スクールゾーン)

⑥位 市民病院の病室担当看護師(出番が少なかった怨み)

⑦位 主婦(秘宝館の呪い)

⑧位 民子(次の名無しさん候補)

⑨位 銀行員(小市慢太郎)

⑩位 ガス(ニャンコ星人)

名無しさん殿堂入り

万里江(逮捕)

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2015年5月25日 (月)

高杉晋作、学習院御用掛を辞し、久坂玄瑞、京都藩邸御用掛を仰せ付かること(井上真央)(=゚∇゚)ノよお!(黒島結菜)

誰が何と言おうと高杉晋作の正妻・雅を演じる黒島結菜の主人公への親しみを込めたコレしか・・・記憶に残っていないのだった。

コレがこのドラマの正式トーンでいいんじゃないか・・・妙に歴史の中に主人公を取り入れなくても・・・。

「旦那様、帰って来た~?」

「来ない~」

「うちも~」

こういう感じの二人の方がお茶の間の爽やかな共感を誘うと思う。

だって・・・ほとんど帰ってこないんだから・・・。

二人の夫は早死にするが、二人は長生きである。

「参ったよ~、晋作、下関で遊女身請けしちゃってさ~」

「雅さまはいいよ~。実子ありだしさ~。うちなんか京都の芸妓の方に実子ありだよ~」

「あらあら」

「だよね~」

「だね~」

どうせ深夜アニメみたいな大河ドラマって言われることは確実なんだし・・・。

ハードな男たちのドタバタと・・・のんびりソフトな女たちのお留守番・・・。

そういうメリハリでいいと思います。

で、『花燃ゆ・第21回』(NHK総合20150524PM8~)脚本・金子ありさ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は序盤に鮮やかな殺陣を披露した後、潜水艦のように隠密行動で影の薄い、維新の立役者・桂小五郎描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。下剋上的観点で見ますと、金子→松陰→井伊→松洞という死を描いてきたのですから長井の切腹も描くべきですよねえ・・・。それでこそ、長州藩主の毛利敬親が意外と深みのある人物であるような気がしてくるわけですし・・・。一方で天涯孤独ゆえに必死になってなりふり構わずご機嫌とりに精を出す久坂と・・・背負っている家が重いだけにそれ以上に過激になることに父親をはじめとした親戚衆が気を揉む高杉・・・二人のすれ違いを描くだけでも充分に面白くなりそうなのに・・・妻の嫉妬を全面に押し出すという・・・まあ・・・脚本家が脚本家でございますからねえ。せっかく・・・支藩の話が出て来たので長府藩(下関)の第13代藩主の毛利元周の反対を制して中山忠光(権大納言中山忠能の七男)の光明寺党が砲撃命令を下すという・・・久坂玄瑞の陰険な策士的側面も見たいのになあ・・・と感じる今日この頃でございます。綾瀬はるか嬢三連打うっとりでございました。だから私信はコメント欄で・・・。

Hanam021文久三年(1863年)二月、朝廷に対する陳情建白の類を受け付ける機関となった学習院御用掛に高杉晋作が就任。晋作は功名勤皇家の俗物根性に辟易する。上海帰りの晋作にとって攘夷はスローガンではなかった。三月、将軍徳川家茂が上洛した折、晋作はこのまま将軍を京に留め置き攘夷を決行するべきとして、あくまで幕府に対する嫌がらせとしての攘夷を考える京都藩邸御用掛の久坂玄瑞と衝突。決裂して萩に召喚される。ふてくされた晋作は西行にあやかって東行を名乗り剃髪。十八歳になった正妻・雅と子作りに着手する。攘夷一色となった京都で将軍を脅迫した破約攘夷派はついに五月攘夷決行の約束を勝ち取る。幕府はあくまで形式的な攘夷という態度をとり、各藩が個々に戦闘を開始することを禁ずる。しかし、権大納言中山忠能の七男・中山忠光を萩に連れ帰った久坂玄瑞は忠光を党首とする光明寺党を結成。あくまで幕命を順守し、攘夷に消極的な長府藩主を恫喝し、外国艦船砲撃事件を開始する。停泊するアメリカ商船ペンブローク号は突然の攻撃に驚愕し、逃走する。この快挙に朝廷は褒勅の沙汰を下すのだった・・・。

萩城下は突然の城主の引越しに騒然としていた。

城下町の中心部にある久坂の屋敷で文は探索を重ねている。

人々の心を読んでいるのである。

「戦やけ・・・」

「戦ってなんじゃろうか」

「異人と喧嘩するんやけ」

「物騒じゃな」

「萩の街は放火されるかもしれんけえ」

「異人が来るとう・・・」

「いや・・・黒船から大砲の弾が飛んでくるんやと」

「くわばらくわばら」

萩の町人たちは噂話をし、あるものは逃げ支度を始めている。

本来、萩の城は・・・徳川幕府に慮ってあえて防備の薄い城構えになっていると兄の松陰が言っていたことを文は思い出す。

軍学者として兄は実戦となった時は戦国大内氏が築いた山口城を主城とすることを藩主に進言していた。計画通りに藩主一族は山口に移転したのである。

作戦の主力は長崎と横浜を往来する外国船が通過する下関の封鎖である。

長州藩士たちは下関に動員され・・・萩は当然のことながら無防備となる。

留守を預かる藩士たちは戦々恐々としている。

杉一族は隠し目付けとして空白地帯となった萩の治安維持を命じられている。

文はそのために耳をすましているのである。

文の探索結果は弟敏三郎が文書化して・・・兄梅太郎に送る。

梅太郎は配下の忍びを手配して不届き者の盗み・略奪などに備えるのである。

文は触手を伸ばして郷村にも耳を傾ける。

いくつかの郷村では一揆の気配があった。

治安が維持され比較的平和な長州藩とはいえ・・・支配されるものは隙あらば支配を脱しようとするものなのである。

しかし・・・今の処、暴発に至る兆候はない。

文は・・・生家の側の松本村に酔狂な庵を構えている高杉晋作の心を捉えた。

どうやら・・・晋作は妻との愛の営みを終え、昼間から寝物語をしているのだった。

「旦那様・・・城下は大騒ぎなのに・・・のんびりしておられていいのですか」

「なあに・・・俺が出て行ったって負け戦は変わらないよ・・・」

「負けるのですか・・・」

「そりゃ・・・負けるさ・・・いいか・・・お雅・・・こっちの大砲はお古ばかりだ。砲台にあるのも船に積んでいるのも・・・みんな古い・・・お前・・・男と女が石投げして・・・女が勝つと思うか」

「さあ・・・」

「女も石投げの名手がいるが・・・男が遠くから投げてきたら・・・そこまで届く石を投げられるものは少ないだろう」

「はい」

「こっちの大砲が届くところより遠くから打たれてみろ・・・手も足も出ないよ」

「さようですか」

「みんな・・・痛い目に逢うといいんだ・・・」

「・・・」

「そうすりゃ・・・俺が上海で見て来たものを少しはわかろうってものさ」

「わかるとどうなるのです」

「俺の言うことを聞くようになるんだ・・・」

「ふうん」

「俺の戦はそれからさ・・・」

文は・・・兄の見た先の世で・・・高杉がいかに・・・天才的な戦をするかを知っていた。

そこで・・・文は不安になるのだった・・・高杉が戦っている時に・・・夫の玄瑞の姿はないのだ。

「だけど・・・旦那様はお医者さまですもの・・・戦が始れば・・・仕事は山ほどある・・・」

文はそうつぶやいた。

久坂は船で長州に向かっていた。

とにかく・・・京のおしろい臭い遊女と戯れている夫を覗き見して・・・嫉妬に苦しむよりはいい・・・。

文は自分に言い聞かせるのだった。

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2015年5月24日 (日)

地球の犯罪者に飽きたところよ!(多部未華子)パンツDEタイホ!(大倉忠義)回転する性的遊具(八乙女光)

どSのSはSadism(サディズム)のSである。

どSのどはdreadnought(イギリス海軍の戦艦=弩級戦艦のモデルシップである)のどである。

ちなみに戦艦「大和」は超弩級戦艦である。

つまり・・・それまでの戦艦の常識を越えた戦艦がど級戦艦である。

しかし、大和から見れば弩級戦艦は普通の戦艦になってしまう。

世の中には超どSの人間も存在するわけで・・・もはやどSは普通のSなのである。

「どSというほどのサディズムは感じられないなあ」と言う人に訓示しています。

で、『ドS刑事・第7回』(日本テレビ20150523PM9~)原作・七尾与史、脚本・徳尾浩司(他)、演出・中島悟を見た。変死した放送作家は「コートの下は裸」という露出狂の男の話が好きだった。「変態」を笑うというのはストレートな表現である。しかし、その「お笑い」の中には様々な段階が含まれている。本来、心の病は・・・正常と異常の境界線が曖昧である以上・・・好みの問題と深く関わっているのである。この物語の根底にはサディズムへの嘲笑があるともいえるし・・・そこはかとない愛着もあるわけである。

神聖なるサドを否定したりすれば・・・頭から蒸気が噴き出すサド信者には許し難いチャレンジだが・・・嘲笑がサディズムの一種だと考えれば・・・あんたも好きねえと言う他ないんだな。

ちなみに・・・キッドは黒いパンストが大好きだし、脱がせたパンストで両手首を縛り、両腕を頭の上にあげさせて両方の腋の下を舐めあげながら・・・そこまでだっ。

・・・変態人格は脳内座敷牢に隔離しましたのでご安心ください。

川崎青空警察署の管内で連続失踪事件が発生する。

共通する特徴は二点。

第一に失踪者の衣服だけが残されていること。

第二に残された衣服の側には「ミステリーサークル」が発生していること。

八人目の失踪者が報告されたことにより、刑事一課長・白金不二子(吉田羊)は強行犯捜査係に事件として捜査を命じるのだった。

一方、お食事処「BARBER 代官山」のお茶の間で食後のお茶を楽しんでいた黒井マヤ巡査部長(多部未華子)はテレビ番組に出演中のUFO研究家の田宮ユウホウ(手塚とおる)が失踪事件に言及したことに関心を持つ。

幼稚園のばら組時代に田宮ユウホウの著書「ぼくらの頭上にUnidentified Flying Object(未確認飛行物体)がいる!」を愛読していたマヤは「宇宙人に誘拐された可能性がある」という田宮の指摘に激しく同意するのであった。

代官さまこと代官山巡査(大倉忠義)は「宇宙人による誘拐説」を鼻で笑うが、マヤの信者である代官山の母(岸本加世子)に大声で叱られ耳がキーンとなるのだった。

マヤは代官さまと一緒に田宮の主宰する「UFOイベント」に参加する。

田宮に暗示をかけられた代官さまは・・・「キーン」という宇宙からのメッセージを聞きとる。

もちろん・・・それは耳鳴りに過ぎなかったが・・・たちまち田宮の信奉者となる代官さま。

奴隷に信仰の自由を許さないマヤは不快を感じるのだった。

サディズムは複数分野で機能する言葉であるために定義が錯綜している。

限定的な意味では嗜虐における加害者の性的倒錯を示すが、虐待を好む嗜好そのものを指す場合もある。

つまり、苛めるのが好きか、苛めると性的興奮を感じるかという問題である。

もちろん・・・その区別がつかない人もお茶の間には多数存在するのだ。

・・・誰に説明してるんだよ。

マヤは好きな人をいじめたいタイプであり、同時に人の苦悶する顔のマニアでもある。

もちろん・・・代官さまを苛めるのは好意の表現である。

代官さまが息も絶え絶えの状態の時に優しく抱いてもらうのがマヤのうっとりポイントなのだ。

・・・だから誰に説明しているのだっ。

マヤは田宮が「現場に残されていたミステリーサークルはピクトグラム(絵文字)タイプだった」と言う言葉に反応し、捜査関係者しか知り得ない「魚の形」を描いてしまったことで犯人であることを確信する。

イベント会場で田宮がファンの一人とアイコンタクトをしたのを見逃さなかったマヤは・・・追跡を開始する。

男は武藤(松嶋亮太)というリサイクルショップ「ムトー」の経営者だった。

リサイクルショップで失踪者のしていたネックレスと同じ形のものを発見したマヤは失踪者の関係者の聞き込みを開始するが・・・代官さまは単独捜査を申し出る。

仕方なく、少しうざい浜田巡査(八乙女光)をパートナーとして代用するマヤだった。

失踪届けを出した失踪者の婚約者は「花嫁が結婚式場から逃げ出したくなるタイプの男」だった。

一方、代官さまは田宮から次に宇宙人が現れる場所を聞き出す。

現場で張りこみを開始した代官さまは・・・着衣を残して失踪してしまうのだった。

刑事までが失踪・・・。

捜査員一同は本気モードになるのだった。

それでいいのかよ。

失踪直前に田宮が代官さまと会っていた目撃情報を掴んだマヤだったが・・・田宮には当日のアリバイがあった。

しかし・・・有栖川係長(勝村政信)は失踪現場近くの防犯カメラに・・・武藤の車が映っていたことを突き止める。

情報屋から・・・武藤が田宮の夜逃げを手伝った過去があることを聞きだしたマヤは二人の共犯を確信するために・・・浜田代理に回させるのだった。

「もっと・・・もっと」

「もっと・・・もっと」

「ちっ」

田宮は人気回復のために宇宙人誘拐事件を必要とした。

武藤は夜逃げ屋として失踪を代行していた。

二人は共犯となったのだった。

「宇宙人が誘拐したのなら・・・借金取りも諦めるしかないものな」

「そんなことはないね」

「・・・あ、あなたは・・・」

「たとえ銀河の果てに逃げても取り立てますよ」

「・・・ウシジマくんとその手下・・・」

失踪人不足に悩んだ田宮は代官さまを誘拐して産業廃棄物処理場で処理することを企んだのだった。

拳銃で武装した田宮はパンツ一丁(窓から逃げ出す間男の正装)の代官さまを盾にするが・・・マヤはまとめてお仕置きするのだった。

パンツ一丁で犯人を逮捕した代官さまの雄姿を撮影するマヤは性的快感を覚えるのだ。

マヤと代官さまの愛がどこに向かっていくのか・・・知ったこっちゃないけどな。

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2015年5月23日 (土)

あんたの顔なんか見たくない・・・あんたなんか死んだ方がいい・・・と私は母親に言われたことを記憶しています(山下智久)

素晴らしいインターネットの世界にある人間の愚かさについての情報・・・。

ほとんどのネズミには興味のない光と影をひょっとしたらアルジャーノンは見ていたのかもしれない。

世間知らずの子供がつかのま味わう優越感。

人間よりもイルカを愛する人々の興奮。

はした金のために死体を埋める人。

自分を守るために他人を傷つけることに夢中になる人。

自分以外の人間を蔑むために努力を惜しまない人。

何かを求めて彷徨う人々・・・。

そういう人たちの原動力は「英知」なのである。

「英知」だけが人に幸福をもたらすのだ。

たとえ・・・一寸先が闇だったとしても・・・。

で、『アルジャーノンに花束を・第7回』(TBSテレビ20150522PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・松田礼人を見た。「知」が人間にもたらす様々な不幸。知性を誇る人々はそれを「知」とは呼べないと言い逃れる。「知」と「愚」が表裏一体のものであることを理解する「知」に欠けているからである。それでも人間は「知」に期待する。子育てをする様々な動物たちよりも・・・人間がずっと上手に子供を育てることができると証明しようとする。しかし、運命は人知を越えて・・・人間を嘲笑するものだ。「知性」の光と影をあますところなく謳いあげる・・・この物語はそういう「知の結晶」のひとつである。

「アルジャーノン効果の福音」を世に示すとある学会の会場。

ALG試薬の投与とナノマシーン埋め込み手術によって知的障害者ではなくなった白鳥咲人(山下智久)は第一被験者であり、同時に脳生理科学研究センターの研究者として檀上に上がる。

「世界に存在する膨大な知識、それを理解する知能、そしてそれを活用する知性・・・それを英知とあえて呼ぶとすれば・・・かっての私は・・・英知のもたらす恩恵から疎外されていた・・・と言えるでしょう」

スクリーンには知的障害者だった咲人の記録映像が映し出されている。

「無垢だった彼は・・・無邪気に微笑んでいるように見えるかもしれません。しかし・・・彼の理解をはるかに超えた現実は・・・彼にとって常に脅威でした。彼には善悪の区別ができません。ルールというものが理解できず、してはいけないことをして・・・叱られることになる。しかし、彼はなぜ叱られるのかは理解できないのです。彼が常に微笑んでいるのは・・・叱られることを恐れるからです。微笑んでいれば人々の叱責が和らぐことを彼の拙い知性は学んだのです。彼の微笑みはそういう憐れな防御の姿勢だったのです」

静まりかえる会場の聴衆。

「しかし・・・今の私には・・・彼のように微笑み続ける必要はありません。世界に守るべきルールがあることを知っているからです。運命が私から奪い去った知性を・・・私に与えてくれたアルジャーノン効果に私は感謝します。世界は今も愚かさによるあやまちを繰り返しています。学ぶべき知識を学べない人々は世界に貢献することは難しい。学校も教師も・・・知的障害者を指導する能力を充分持っているとは言えません。しかし、「英知」から疎外された人々を救う手段がついにもたらされたのです。アルジャーノン効果によって人類の知性は飛躍的に向上するでしょう。無益な争いの根底にある愚かさは解消され・・・素晴らしい新時代が到来することを・・・私は最初の被験者として願います。私にそう考える力を与えてくれたアルジャーノン効果の開発者・・・蜂須賀氏にもう一度・・・盛大な拍手を・・・」

聴衆は沸き立ち惜しみない拍手をおくる。

「素晴らしいスピーチだった・・・」

蜂須賀大吾部長(石丸幹二)は「理想の息子」を抱擁する。

蜂須賀は押し掛けた取材陣に応対するために再び檀上に上がる。

咲人は控室に戻った。

咲人は眩暈を感じていた。

聴衆の中に・・・亡き父・白鳥久人(いしだ壱成)の姿を見たような気がしたのだった。

(馬鹿な・・・パパは・・・死んでしまったのだ)

刻一刻と進化する咲人の知能は合理的な説明を求めて推論を重ねる。

(パパの未整理の記憶が・・・意識に混入してきたのか)

咲人はそれが幻視であったと結論付けようとしていた。

咲人の中にはアルジャーノン効果の恩恵以前の膨大な記憶が蓄積されている。

ほとんどが関連付けられず放置されていた記憶である。

現在の咲人は記憶された出来事の意味を吟味することが可能であった。

しかし・・・すべての記憶を完全に理解することは・・・今の咲人にも困難なのである。

そこには・・・二十八年間の咲人の人生のすべてが記録されているからである。

死んだ父親の幻影は・・・そういう情報処理の過程で生み出された。

咲人はそのように考える。

しかし・・・咲人の異常に気がついた人間が二人いた。

一人は・・・咲人が自分のために捧げられた犠牲であるという衝撃の事実を知らされた河口梨央(谷村美月)・・・。

そして・・・もう一人は信念に基づき続けて来た研究に懐疑的になった望月遥香(栗山千明)だった。

遥香は・・・アルジャーノン効果が人間の精神に恐ろしい副作用をもたらしているのではないかと疑念を持ったのである。

漠然とした性善説の信奉者である遥香は・・・尊敬する蜂須賀の思考に邪悪な歪みを見出し、咲人がその影響下に置かれることで本来持っていた善良な精神を失いつつあるのではないかと危惧したのである。

遥香は愚かにも邪悪な知性の存在を否定する思想を持っているのである。

しかし・・・遥香に内在する矛盾が・・・咲人への率直なアドバイスをためらわせていた。

控室にやってきた遥香は言葉を捜すうちに無為な時間を過ごす。

そこへ・・・キモオタメガネ男子として猫背の眼鏡っ娘をこよなく愛する小久保研究員(菊池風磨)が理想の癒し系眼鏡っ娘である咲人の妹・花蓮(篠川桃音→飯豊まりえ)をエスコートして現れる。

「やあ・・・咲人さん・・・紹介するよ・・・君の可愛い妹・・・花蓮さんだ」

幼い花蓮が・・・幼い咲人にどんな仕打ちをしたのか・・・預かり知らぬ小久保なのである。

「お兄ちゃん・・・私・・・小さかったので・・・お兄ちゃんのこと・・・よく覚えていないの・・・でも・・・お兄ちゃんのことを大好きだったことは覚えている・・・だから・・・お兄ちゃんが生きていると知って・・・会いたくてたまらなくなったの・・・こうしてお兄ちゃんに会えて・・・とてもうれしいわ」

「確かに・・・君は幼かったので記憶違いをしているよ。君は知的障害者だった兄をひどく憎んでいた。君はよく・・・君の幼い・・・友人たちにこう言ったものだ・・・あれは本当のお兄ちゃんではない・・・お兄ちゃんは拾われて家に来たんだってね・・・君はいつも・・・僕がいなくなればいいのにと僕に言ってたよ・・・お兄ちゃんがバカだなんてサイテーだって」

「・・・」

「今の僕には特に君に用はない・・・だからここから出ていきなさい」

「・・・お兄ちゃん」

「出て行け」

花蓮は言葉を失い、茫然と部屋を出た。

展開に驚いた小久保はあわてて後を追う・・・。

遥香はついに重い口を開いた。

「今のあなたには・・・知的障害者を兄に持つ・・・幼い子供の日常の困難さを想像できるはずでしょう」

「だから・・・彼女が自分にとって都合の悪い過去をなかったことにしたように・・・僕にもそうしろと?」

「あなたは嘘は嫌いですものね。でも・・・私にはあなたが本心を隠しているように見える」

「・・・」

「だってそうでしょう・・・あなたが・・・過去の家族の過ちを本当に許す気がないのなら・・・なぜ花束を持って・・・お母様に逢いに行ったの・・・」

「そして・・・どうなったか・・・あなたは知っているはずだ」

「お母様も・・・苦しんだのよ・・・その結果・・・心が」

「責められるのは捨てた母親ではなくて・・・捨てられた子供なのか」

「昔のあなたなら・・・妹さんが・・・あなたを慕って会いにきたことを素直に喜んだはずよ」

「それは・・・彼が・・・ひどい仕打ちをひどい仕打ちだと気付かないほど愚かだったからだ」

「・・・咲人さんのことをそんな風に・・・言わないで」

追い詰められた遥香は暴力衝動に突き動かされ咲人に手を挙げる。

しかし、それは咲人になんなくガードされるのだった。

「私も・・・咲人です」

咲人は遥香を見つめる。

遥香は・・・耐えきれずに咲人から目をそらすのだった。

しかし・・・遥香の言葉は・・・咲人の心に反省を促す。

咲人にとって遥香は世界で一番好きな女の子・・・。

天使も同然だったからである。

(その通り・・・今の僕には・・・母や妹の苦悩は理解できる・・・そしてそれを許容することも可能だ・・・裏切られることには慣れているのだから)

咲人はもう一度・・・家族との関係修復を試みることにするのだった。

「白鳥さんの質疑応答の時間になりました」

研究員の一人・・・小沼由美子(松本若菜)が呼び出しにくる。

咲人の心の変化を読み取れない遥香は取り残された気分を感じるのだった。

アルジャーノンは咲人を見つめる。

咲人は研究所の中庭に咲いた黄色い花を見る。

黄色が好きなのは誰なのか?

咲人の母親・窓花(草刈民代)は黄色い毛糸で何かを編み始める。

柳川隆一(窪田正孝)は広場で飛ばされた黄色い風船を見る。

黄色い風船は隆一に咲人を思い出させる。

あれは・・・いつだっただろう・・・咲人が黄色い風船を追いかけて煙突に登ってしまった。

咲人が隆一にとって・・・憐れを誘う同僚だった頃・・・。

「話・・・聞いてるの」

東京麗徳女子大学の学生である小出舞(大政絢)が隆一に声をかける。

河口梨央と檜山康介(工藤阿須加)・・・四人はダブル・デートをしている。

「聞いてるよ・・・とにかく・・・梨央ちゃんの病気は・・・治るわけだろう・・・」

「何を他人事みたいに・・・」

「え・・・他人事じゃないの・・・」

「ま・・・あんたと・・・私たちは確かに他人だけどね・・・」

「えええええ」

「とにかく・・・あの咲人さんが現れてびっくりよ・・・そして・・・感動的なスピーチ」

「・・・」

「運命よねえ・・・」

「運命か・・・」

そうなのだ・・・咲人がいなければ・・・前科者の花屋の従業員と・・・女子大生がこうしてデートしていることもなかった・・・と隆一は思う。

梨央に想いを寄せる康介の気持ちはさらに複雑だった。

「でも・・・咲人さんが・・・私のための実験台だったなんて・・・私・・・なんていったらいいのか」

「そんなことあえて言わなくてもいいんじゃないか・・・自分が実験台だなんて言われて・・・いい気分のわけないし・・・」

鬱屈をなだめながら康介は梨央を慰める

「だよな・・・最近、咲人ちゃん・・・傷つきやすいお年頃だから・・・」

「傷つきやすい・・・」

「なにしろ・・・いきなり・・・知らないで済んでたことをさ・・・ものすごいスピードで知りすぎちゃうわけで・・・」

「そうかもね・・・小学生がいきなり・・・大人になっちゃったんですものね」

「とにかくさ・・・咲人が賢くなったクスリで・・・梨央ちゃんのしんこーせいようそせいなんたらでせんえんせいいしきなんたらが治るんでしょう」

「進行性ようしょせいしょうがいよ」

「言えてねえ・・・」

「うるさいわね」

「とにかく・・・終わりよければすべてよしじゃん」

隆一の軽薄さになんとなく癒される三人の若者たちだった。

白鳥家には「ドリームフラワーサービス」の竹部順一郎社長(萩原聖人)が訪問していた。

竹部と・・・親友の妻である・・・未亡人との関係性は具体的には描かれない。

竹部は未亡人・窓花に気があるがそれを隠しているようにも見えるし、結局、なんだかんだ深い仲になっているようにも見える。

咲人の妹の花蓮は二人の仲を公認しているようにも見えるし・・・気付かない風を装っているようにも見える。

しかし・・・様々な状況が・・・竹部に未亡人との交流を・・・咲人に知らせていない結果を生んでいるわけである。

ま・・・息子を捨てた母親と・・・息子の面倒を見ている父親代わりの男が・・・性的交渉を持つことは・・・どこか汚れたものを感じさせないこともないのである。

この曖昧さはかなり深みがあるな。

「咲人が怒るのは仕方ないわ・・・あなたは・・・咲人にひどいことしたから・・・」

「そうなんだ」とうなだれる花蓮。

「でも・・・気にすることないわ・・・私はもっとひどいことをしているんだから・・・」

そこまで分かっているが・・・頭のおかしい・・・窓花なのである。

竹部を見送りに出た窓花・・・。

その仲睦まじい姿を一輪の黄色い花を持った咲人は見た。

咲人の花は・・・なかなか愛する人に届かないのだ。

「咲人・・・」

「・・・」

気不味い空気が・・・竹部と未亡人の不適切な関係を物語るのである。

不倫とは言えないが・・・儒教的には二夫に見えずが道徳的なのである。

とにかく・・・咲人にとってはいろいろな意味で裏切られた状況なのだった。

「夢を届ける安全運転花に込め」

よくわからない標語の下で・・・咲人の状況を話す遥香。

「つまり・・・研究所での仕事が忙しい・・・というわけですね」

「ですが・・・咲人さんが・・・ここでこれまで通り仕事をして・・・お仲間の皆さんと過ごすことに価値があると思うのです」

「価値が・・・」

「ここは・・・咲人さんにとって・・・故郷のようなものだと私は思います」

「まあ・・・ろくでもない故郷ですがね」

「ひどいな・・・社長」

従業員たちは笑う。

「まあ・・・ここにいるのは問題のある奴ばかりですからね・・・そう言う奴らにだって・・・気を許せる場所は必要でしょう」

「しかし・・・僕にはもう・・・必要ないようです」

「咲人さん・・・」

「咲人・・・」

「母といつから・・・交際していたのですか」

「いつって・・・」

「ひょっとして・・・父が生きている間からですか」

「なんだって・・・」

「妹はあなたの娘だったりして・・・」

「おい・・・まさか・・・それは冗談のつもりか・・・」

「なぜ・・・母のことを隠していたのです」

「それは・・・」

「僕に・・・話しても・・・仕方ないからですよね」

「・・・」

「母と寝たのですか」

「咲人・・・」

思わず手が出る竹部。

「・・・」

冷やかに見つめる咲人。

「出て行け・・・」

「はい」

「咲人さん・・・」

「仕方ないでしょう・・・ここに僕の居場所はもうないのです」

「・・・」

隆一と康介は咲人に何か言いたかった。

しかし・・・言葉は見つからないのだった。

無言の別れ・・・。

遥香は自分が咲人に追い詰められているのを感じる。

「人間は・・・何かを手に入れた時・・・何かを失くすものでしょう・・・」

「・・・」

「私は・・・お利口さんになった・・・だから・・・馬鹿ではいられない・・・ただそれだけです」

「・・・」

遥香には分かっていた。

咲人に自分が求める・・・無垢ゆえの純粋さ・・・。

それを咲人から奪ったのが遥香自身であるということを・・・。

昔・・・遥香は・・・蜂須賀を愛していたような気がする。

そのために・・・遥香は・・・咲人を犠牲にした。

今・・・遥香は・・・蜂須賀に幻滅している。

だからといって・・・犠牲にした咲人を・・・手に入れようとする自分は・・・あまりにもひどい女なのではないか。

遥香はそういう幻の自分に呪縛されているのである。

咲人の加速する精神的進化は・・・そのすべてを見通している。

追い詰められた遥香は・・・ALG試薬に激しい憎悪を感じる。

「こんなものがあるからいけないの」

遥香の気持ちは原爆を生みだした原子物理学者の気持ちなのである。

遥香は恐ろしい科学の成果を床に叩きつけた。

「何をしているんですか・・・」

小久保は遥香の狂態に驚愕する。

蜂須賀は・・・自分の研究が賞賛を集めたことを確信した。

隠していた不都合な事実を明らかにする時が来たのである。

杉野(河相我聞)は「興帝メディカル産業」の河口社長(中原丈雄)を招く。

「娘の病状は進行している・・・投薬を開始してくれ」

「残念ですが・・・それはできません」

「なぜだ・・・」

「お嬢さんの病状に・・・ALGは適合しないことがわかったのです」

「なんだと・・・」

同席していた梨央と舞に驚きが浮かぶ。

蜂須賀は無表情に告げた。

「残念です」

「すぐに・・・別の可能性を・・・」

「残念ながら・・・我々にはそのような余力がありません」

「なに・・・お前にいくらつぎ込んだのか・・・わかっているのか」

「もちろん・・・今やそれ以上の資金援助が・・・世界中の企業から・・・約束されておりますので」

「お前・・・最初からそのつもりで・・・」

「滅相もありません・・・すべては運命です」

「・・・」

「お察しします・・・私も・・・大切な一人息子を亡くしていますから・・・」

蜂須賀は微笑んだ。

それを・・・相手の娘本人の目の前で言う蜂須賀に・・・杉野は狂気を感じる。

杉野はそっと梨央を伺った。

梨央は微笑んでいた。

謎の微笑みに杉野は戸惑った。

隆一は舞に呼び出された。

「ついに・・・俺と他人じゃなくなる気になったの」

「だめだったのよ」

「え・・・何が・・・」

「クスリが効かないって・・・」

「え・・・じゃ」

「だめになったのよ・・・」

泣きだす舞を・・・いい女だなと思う隆一。

気のいい女だ・・・。

そして、隆一は途方に暮れた。

ひまわり寮の康介の部屋に・・・梨央がやってきた。

「・・・私・・・やはり花になってしまうみたい」

「聞いたよ・・・舞ちゃんが隆一に話して・・・俺は隆一から聞いた」

「私・・・もう覚悟はできていたの・・・だから・・・咲人さんと出会って・・・絵本のような恋をしたの・・・咲人さんなら・・・私が花になっても・・・」

「悲しまないだろうからか・・・それともすぐに忘れるだろう・・・そう思ったのか」

「そうね・・・でもね・・・私・・・檜山さんには・・・私のこと・・・ずっと忘れないでいてほしい」

「なんだよ・・・それ」

「目の前がチカチカして・・・気が遠くなるの・・・最初は数分だった・・・気がつくと記憶のない時間が過ぎている・・・それがだんだんと長くなって・・・今は一度、ブラックアウトすると・・・五時間くらい過ぎちゃう・・・そのうち・・・眠っている時間と気を失っている時間がつながっちゃいそう・・・」

「・・・」

階下では男たちが色気づいていた。鹿内大(勝矢)が下卑た笑みを浮かべる。

「なんだよ・・・咲人のコレ・・・康介に乗り換えたのか・・・いいねえ・・・娑婆は・・・淫乱な女が花盛りだ・・・喘ぎ声でも聞かせてもらおうかな・・・」

「やめてくださいよ」と隆一が男気を示す。

「なんだよ・・・お前、まさか順番待ちか」

「病気なんですよ・・・」

「え・・・エイズかよっ」

「その発言・・・もはや危険領域ですよ・・・彼女・・・眠ったままになっちゃうんです」

「なんだそれ・・・」

「一生・・・眠り続ける病気なんですよ」

「・・・」

その時・・・康介の慟哭が響く。

一同が駆けつけると・・・梨央は意識を失っていた。

「やりきれない・・・誰か・・・助けてくれよ」

「なんだよ・・・セカチューかよ」

「ポケモンか」

「そりゃ・・・ピカチューだよ」

「彼女も長澤まさみも綾瀬はるかも・・・みんな巨乳だよな・・・」

「そこかよっ」

「ここね・・・いい場面なんですけど・・・」

「ま・・・きっと・・・誰かが助けてくれるよな・・・」

「ですね」

「主人公が天才なんだから・・・」

「おいっ」

「いい加減にしろっ」

「もう、いいわっ」

「ありがとうございました~」

人間は母の胎内で生物の進化の歴史を再現すると言う。

細胞から魚類、両生類、派虫類を経て哺乳類へ・・・。

出産された乳幼児は人類の発展の歴史を追体験するという。

原始的な狩猟生活から道具を作ることを覚え、言葉を知り、愛を感じ、競争を学び、複雑な社会生活の営みへ・・・。

保護を必要とする長い幼年期の停滞を脱した咲人は暗黒時代から科学文明の時代へ驚異的な速度で到達していた。

弱肉強食と平和共存の理念が渦巻く現代社会の様相を咲人は超活性化した知性で見渡していく。

蜂須賀との夕食会に遥香が現れず、美しい研究員の小沼が着席する。

「今後、君の身の周りの世話は小沼くんに担当してもらうことになった」

「遥香・・・望月さんは・・・?」

「彼女は研究所を退職した・・・」

「退職・・・?」

「よろしくお願いします」

「安心したまえ・・・小沼くんも望月くんに勝らずとも劣らない優秀な研究員だ」

「・・・」

野心に満ちた眼差しで小沼は咲人を見つめる。

アルジャーノンのデータを解析中の小久保に咲人は訊ねる。

「望月さんはなぜ退職を・・・」

「退職・・・解雇だよ・・・なにしろ、試薬を破棄しようとしたんだから」

「そんなことをしても無意味でしょう」

「しかし・・・試薬の合成方法は蜂須賀先生だけが知る極秘事項だし・・・」

「・・・成分が明らかなのに」

「特殊なレシピがあるんだ・・・それより・・・僕は妹さんに一目惚れしちゃったんだけど・・・」

「お好きにどうぞ」

「メールアドレスを教えてくれないか」

「個人情報の入手には本人の同意が必要です」

「・・・」

咲人は試薬の合成方法についていくつかの可能性を思案する。

その中からもっとも合理的な手段を選択するのに一秒ほどを費やした。

研究員たちは・・・そんなこともできないのか・・・と咲人は驚くのだった。

咲人はアルジャーノンのデータを速読するといくつかの指示を小久保に送る。

ピックアップされた数値の異常を解析する必要があった。

小久保はアルジャーノンに給餌をする。

「お前の兄弟が・・・お前に異常があるって言ってるぞ・・・そんなことはないよな・・・痛っ」

小久保はアルジャーノンら指先をかじられた。

「どうしたんだい・・・ベイビー・・・」

「ロンドン、パリ、ニューヨーク、そして北京のアカデミーから講演依頼が来ている」

夕食の席で蜂須賀が告げる。

「咲人さんにはパスポートの手続きにお時間を割いていただきます」

「今、研究について課題が出ています」

「研究が成果をあげるためにも・・・世界との連携は必要だ」

蜂須賀の中で・・・ノーベル賞という栄誉に対する期待が膨らんでいる。

「望月研究員の解雇の件ですが・・・」

「長い・・・研究生活が・・・彼女にストレスを与えたのだろう」

「教授が面倒を見るのですか」

「ははは・・・何故だね・・・ああ・・・あのキスの件か・・・遥香くんは君の誤解を解いていないのか」

「誤解?」

「あの頃、君はマザーコンプレックスから発展した擬似恋愛感情を遥香くんに抱いていただろう・・・君の要求に応えるように私は彼女に指示した。ところが・・・彼女は偽りの恋愛はできないと言った。私はそんなことはないという実例を示すために・・・彼女にキスしてみせたのだ」

「彼女の心を尊重しなかったのですか」

「物事には優先順位というものがある。あの時点で私がもっとも尊重しなければいけなかったのは・・・咲人・・・君だ。そしてそれはこれからも変わることがない・・・私にとって最も大切なのは・・・咲人・・・私の息子・・・ただ一人だよ」

「・・・」

咲人は退席することを選んだ。

「やれやれ・・・私の息子は性的にはまだ未熟だ・・・奥手なんだねえ」

「咲人さんは非常に魅力的ですよ」

「君が・・・彼を導いてくれたまえ」

「御意」

しかし・・・咲人には蜂須賀の尊大な心が手にとるように分かっていた。

息子を喪失した蜂須賀は研究に没頭し・・・ついに理性を喪失していたのだった。

蜂須賀の肥大した自我はバランスを失い、狂気へと傾きかけている。

咲人は蜂須賀に冷水を浴びせる必要を感じた。

咲人にとって蜂須賀はもはや「知的障害者」の一人に過ぎなかったのだ。

咲人は知性の遥かな高みから蜂須賀を見下ろしていた。

目の前に「パパの幻」が現れ・・・咲人に微笑みかける。

(わかっているよ・・・パパ・・・この世に父親は一人だけだ)

研究員たちは「咲人レポート」を渡され・・・我を失った。

蜂須賀が研究室にやってくる。

「なんだ・・・今日はパスポート取得の手続きを・・・」

「海外旅行には行きません」

「何を言っている」

「この研究所も・・・今日で退職します」

「そんな勝手が許されるか・・・試薬の投与はどうするつもりだ」

「蜂須賀部長・・・」

杉野は「咲人レポート」のデータを示した。

「咲人さんは・・・試薬の合成方法を確立しています。しかも・・・おそらく・・・蜂須賀先生の合成方法より・・・スマートな行程で・・・簡単に試薬が調合できると・・・」

「そんな・・・私がこの研究にどれだけの歳月をかけたのか・・・わかっているのか」

「しかし・・・事実です」

「短い間ですが・・・お世話になりました・・・蜂須賀博士・・・あなたの偉大な功績には感謝します・・・どうか・・・科学者としての志をお忘れなきよう・・・」

「志・・・だと」

「心がなければ・・・すべての科学は単なる自然現象になってしまいます」

「心・・・」

「人類にとって一番大切なのは・・・真心です」

チャイムが鳴った。

遥香は咲人の突然の訪問に驚く。

そう・・・最初もこうして私は驚いた。

それから・・・アルジャーノンを逃がして・・・彼に拾ってもらって・・・。

彼を暗闇から引き上げようと手をさしのべ・・・。

神への供物として捧げて・・・。

生まれ変わった彼を応援して・・・。

私は彼のホームランを見たのだ。

そして・・・私は・・・。

Some say love it is a river(愛は川)

Some say love it is a razor(愛は刃)

Some say love it is a hunger(愛は飢餓)

I say love it is a flower(いいえ、愛は花)

「どうしたの・・・」

「研究所を辞めて来た・・・行くところがないんだ・・・ここに置いてもらえないかな」

「・・・」

「あのキスのことなんて本当はどうでもよかったんだ」

「・・・」

「僕がずっといらだっていたのは・・・」

「・・・」

「遥香・・・君が僕への気持ちをごまかそうとしていたからだ」

「・・・」

「本当は恋してるくせに・・・本当は愛してるくせに」

「・・・そうよ」

「もう一度、言ってごらん」

「あなたに・・・恋をしているわ」

「もう一度・・・」

「咲人さん・・・私が世界で一番好きな男の子は・・・咲人さんです」

「もう・・・僕は子供じゃないよ」

「ええ・・・今の素敵な男性になった咲人さんを私は愛しているの・・・」

咲人は遥香にキスをした。

遥香は愛の花が開くのを感じる。

二人は裸になって・・・愛する男女がすることをした。

遥香の心に花園が広がる。

暗闇の中で遥香は輝く光を見た。

咲き誇る愛の花・・・。

その頃・・・アルジャーノンは運命の中にいた。

「アルジャーノン・・・そっちじゃないだろう・・・アルジャーノン」

知能も性体験も咲人に追い抜かれたことも知らず小久保はうろたえた。

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

Hcal007ごっこガーデン。愛と運命の小さなお部屋セット。

エリもう一度、もう一度って・・・どんな恥ずかしいプレーなんですかーっ。ドSモードで責められてうっとりとろりんなのでスー。原作に救いがあるのかどうかは・・・意見の別れるところですが・・・ドラマ・オリジナル・キャラクターの梨央がこういうことになると・・・助かるのは「一人だけ」がセオリーのような気がしまス~。そしたら・・・そしたら・・・咲P先輩の運命は・・・うえ~んなのですかーっ。ドラマの前の関東限定コラボCM・・・せめて愛嬌に満ちた咲人さんに戻れますように・・・乙女の祈りを捧げまス~

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2015年5月22日 (金)

マリーゴールドは黄金の恵(木村拓哉)花言葉は真心(上戸彩)

クリスチャンにとってマリーゴールドは特別な花の一つである。

特にカトリック信者にとって・・・それは聖母マリアのシンボルとして「マリアの黄金の花」の意味を持つ。

原作の「ヨシコ」にあたる久の妻の名はドラマでは「恵」である。

聖歌でマリアは「恵にあふれた方」として讃えられる。

なにしろ・・・処女懐胎して・・・神の子に恵まれた聖なる母なのである。

その名を冠したマリーゴールドの花言葉の一つに「別れの悲しみ」があるのは・・・聖なる母の聖なる息子が結局、反逆者として十字架にかけられる運命だったからだろう。

ただの母親としては「絶望」を感じるしかないわけである。

一方で・・・オレンジ色のマリーゴールドには「真心」という花言葉がある。

太陽神アポロンを愛した水の妖精クリスティや、少年クリムノンはアポロンを愛するゆえに命を失う。

死んでしまうほどの愛・・・それを真心とは言えないと言うのは冷淡の極みである。

愛するものにとってマリーゴールドは特別な花なのである。

で、『アイムホーム・第6回』(テレビ朝日20150521PM9~)原作・石坂啓、脚本・山浦雅大・林宏司、演出・田村直己を見た。2001年のフジテレビヤングシナリオ大賞受賞者の投入である。「世にも奇妙な物語」や「ハードナッツ!」などの脚本家だが・・・原作からの改編が複雑になっているので・・・チェック役が必要になったか、主人公が登場しないパートの助っ人かといろいろと妄想できるわけだが・・・おそらく・・・脚本的にもおしてるんだよね。まあ・・・大胆なチャレンジをしているわけだから・・・生温かく見守りたい。

今回の最大のアレンジは・・・「久の妻の涙」をここに持ってきたということである。

原作ではラストを飾る「アイテム」なのである。

おそらく・・・ここからドラマは原作からテイクオフしていくということなのだろう。

原作では地道に暮らしていた父親が大物キャスティングで「父帰る」をしたり、原作には登場しない・・・致死率の高さでは定評のあるキャスティングのサッカー・コーチの不倫な感じとか・・・原作から消えている前妻の再婚相手とか・・・やたらと陰謀渦巻いている模様の葵インペリアル証券とか・・・原作とは違う何かが爆発する予感に満ちているのでございます。

ここまで・・・使われた鍵をチェックしておこう。

① 前妻・香と義理の娘・すばるの暮らす野沢家の鍵

② 友人・山野辺の居室の鍵

③ 良雄の玩具を隠した秘密の倉庫の鍵

④ 義父のワイン庫の鍵

⑤ 単身赴任をした南茨城の部屋の鍵

⑥ 実家の家路家の鍵

そして・・・今回は⑦別荘の鍵を使用する。

自宅の鍵を一本とすると・・・十本の鍵なら・・・残りは二本である。

少し、鍵が足りないんじゃないかな・・・。

まあ・・・最終回に・・・「ただいま」と言って帰宅すれば・・・ハッピーエンドなのだが。

原作では爆発するのは最後だが・・・ドラマは最初に爆発しているからな・・・。

「今の家族を大切にしよう」と決意した久(木村拓哉)・・・。

しかし、妻・恵(上戸彩)と幼い息子・良雄(髙橋來)の顔は相変わらず仮面にしか見えない。

そんなある日・・・恵は蓼科高原にある別荘で週末を過ごすことを提案する。

「別荘って・・・」

「ウチの別荘に決まってるでしょう・・・母から譲ってもらった・・・」

「・・・」

「お義母さんのことが心配だと思うけど・・・たまには気分転換も必要でしょう」

「そうだね」

「良雄も楽しみでしょう」

しかし・・・良雄は浮かない顔をしている。

「バーベキューするわよ・・・」

母親に言われて漸く喜色を浮かべる良雄だった。

東京を離れれば・・・何かが変わるかもしれない・・・久は期待を込めて別荘行きに同意したのだった。

しかし・・・その夜・・・久の携帯電話には非通知の着信が繰り返される。

そして・・・家路家の扉の前には怪しい人影が佇むのだった・・・。

葵インペリアル証券の末端に位置する第十三営業部。

自分の記憶にない別荘に行くことに不安を感じる久。

同僚の四月(わたぬき)信次(鈴木浩介)は久の様子に敏感に反応する。

「どうしたの・・・」

「週末に・・・蓼科にある別荘に家族と行くことになりまして・・・」

「巨乳の美人妻と週末に高原の別荘で過ごす・・・それでなんで憂鬱な顔なんだよっ」

漸く、出社してきた小机部長(西田敏行)は二人の会話を小耳にはさむ。

「幸せはお裾わけしないとねえ・・・」

一二三(ひふみ)努(猪野学)、五老海(いさみ)洋子(阿南敦子)も激しく同意する。

そこへ・・・轟課長(光石研)が出勤し、お小言モードになって久は危機を脱するのだった。

一方、第一営業部では営業部門執行委員の勅使河原(渡辺いっけい)が営業成績トップの黒木(新井浩文)を賞賛し、第一営業部員とは思えないほど影の薄い岩下(野間口徹)と戸倉(矢野聖人)を叱責する。

「アフリカ支店に飛ばすぞ」

「それだけは勘弁してください」

「男が簡単に頭を下げるなよ」と言った傍から駐車場の車の中で小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)に頭を下げる勅使河原だった。

「頼む・・・家路久の監視を再開してくれ」

「嫌です」

「君がやってくれないと・・・僕は困ったことになるんだよ」

「・・・」

とにかく・・・充実しすぎているチョイ役軍団の出番を作るだけでも・・・プレッシャーなんだな。

一体・・・家路久はどんな恐ろしい秘密を忘却しているのか楽しみだ。

そして・・・聖心カトレア幼稚園では園児サッカークラブのコーチ・本城(田中圭)が良雄とパスを交換する。

「そうか・・・家族で別荘にいくのか・・・楽しそうだな」

「・・・さあね」

「なんだ・・・一緒に遊べるだろう・・・お父さんと・・・・・・・・・・・・・お母さんとも」

本城・・・微妙な間を作ったな。

「・・・わかんない」

どうやら・・・良雄は別荘にあまり期待していないらしい。

一方、旅行の準備をする恵はわざとらしいほどにノリノリである。

それが本心なのかどうかも・・・わからない家路。

物憂い気分になるのだった。

「どうしたの・・・お母さんのことがやはり・・・気がかり・・・」

「いや・・・なんだか・・・胸騒ぎがするんだ・・・」

「・・・」

その時、家路家の電話が鳴った。

しかし・・・それは朗報だった。

弟の浩(永井大)が母親の肝臓病の治療に希望が出て来たことを報告してきたのである。

「TIPS・・・なんだい・・・それ」

「Transjugular Intrahepatic Portosystemic Shuntの略だってさ」

「日本語で言ってくれ」

「経頚静脈的肝内門脈肝静脈シャント形成術だってさ」

「まったくわからない・・・」

「肝硬変などで門脈圧が上昇すると静脈瘤の破裂の危険や腹水がたまったりするんだって・・・だから門脈圧を低下させるために・・・専用の穿刺針を用いて肝静脈から肝実質を貫き門脈枝にガイドワイヤーを通して門脈と肝静脈の間に金属ステントを用いて短絡路を作製するんだって・・・要するに血管のないところに血管を造ってしまうらしいよ」

「・・・で、どうなるんだ」

「とにかく・・・母さん・・・今回は死ななくてすむかもしれない・・・」

「母さん・・・家に生きて家に帰れるかもしれないのか」

「それで・・・静岡の専門病院に行くことになった・・・詳しいことが決まったらまた・・・連絡するよ」

「よかったな・・・浩」

「よかったよ・・・兄さん」

とにかく久の母・母親・梓(風吹ジュン)の余命は少し延長される可能性があるらしい。

医学の進歩の勝利である。

久は母の命が長らえることに喜びを感じる。

もちろん・・・恵は喜んだ。しかし、その笑顔は久には見えない。

そして・・・久は恵と良雄とともに・・・蓼科の別荘にやってきたのだった。

長野県の蓼科高原は自然に恵まれた保養地である。

久は身も心も洗われるような気分になるのだった。

「なんか・・・蓼科最高だな・・・」

「あなた・・・ウキウキしているわね」

「だって・・・空気が美味しいじゃないか」

「あらあら・・・とうちゃこ~」

「え・・・うそ・・・」

久は想像以上にゴージャスな別荘・家路に驚くのだった。

「嘘ついてもしょうがないじゃない・・・」

恵は笑顔を絶やさない。

しかし・・・そこにはやはり演技の気配があった。

恵や良雄は・・・久とともに別荘にやってくるのは初めてではないのだった。

しかし・・・記憶のない久を気遣って・・・その点をスルーしているのである。

古い別荘を母親から譲られた恵は・・・夫の久ともに・・・別荘を設計し、リフォームしたのである。

恵のそういう思い出を・・・久は失っているのだった。

「お母さん・・・よかったわね」

「うん・・・なんだか・・・元気が出て来たよ」

「そう・・・じゃあ・・・さっそく・・・バーベキューをしましょうか」

「そうだね・・・良雄・・・準備を手伝うかい」

「うん」

家路家の三人は絆を深めようとしていた。

そこに現れる・・・第十三営業部の人々・・・。

「あれ・・・家路さん・・・奇遇ですね」

「奇遇にも程があるだろう・・・」

「うわあ・・・バーベキューですか」

「うわあ・・・私なんか・・・ちょうどお肉を」

「うわあ・・・日帰りしますから・・・大丈夫ですよ」

「うわあ・・・夜は家族水入らずで」

「蓼科まで日帰りは・・・逆につらいでしょう」

「いざとなったら社の保養所に泊りますからっ」

「それにしても・・・企業の保養施設より大きい別荘って・・・」

「別荘でバーベキュー・・・庶民の憧れです」

「病気の奥さんは・・・」

「たまには・・・息抜きが必要なんです・・・」

「・・・」

結局・・・和気藹々で・・・盛りあがるバーベキュー。

「家路がお世話になっております」

「うわあ・・・奥さん・・・本当にお美しい・・・」

「うわあ・・・良雄くん・・・可愛い・・・目元なんか・・・家路にそっくり・・・」

「え」

家路の心に刻まれた恵の言葉が蘇る。

(良雄があなたの子供だと本当に思っているの)

言葉の真意を理解できない久は不安になるのだった。

「どうしたの・・・」

「いや・・・なんでもない」

そこに近所の農家の人(神保悟志)が野菜の出張販売にやってきた。

「張り込みですか・・・」

「八百屋です」

「潜入捜査か何か・・・」

「八百屋ですってば・・・」

「まさか・・・逃亡中の殺人犯じゃ・・・」

「八百屋です・・・三千円です」

「・・・たらの芽はどうしたら美味しいですかね」

「天麩羅がお薦めです」

「バーベキューなんですけど」

「油をひいた鉄板で焼いてもいいですよ・・・ご主人・・・なんだか・・・雰囲気変わりましたね」

「え・・・」

「去年もいらしたでしょう・・・去年は無愛想な人だなと思いました・・・坊ちゃんも元気がなかったし・・・」

「・・・」

久は別荘を訪れたことがあったという可能性にようやく思い至ると同時に・・・それが事実だと知ったのである。

通り魔のようにバーベキューをエンジョイした第十三営業部の上司と同僚たちは東京方面に去って行った。

「すまない・・・せっかくの休日なのに・・・」

「いいえ・・・にぎやかで楽しかったですわ」

蓼科高原に夕闇が訪れた。

「去年も・・・ここに来たんだね」

「ええ・・・でも去年は・・・お受験のために・・・父親らしいことをしている・・・」

「アリバイ作りみたいな・・・」

「ええ・・・少し川遊びをした後は・・・良雄はドリル・・・あなたは電話でお仕事していらしたわ・・・」

「・・・」

今の久は昔の久の生きざまにやりきれなさを感じる。

どうして・・・そんな風にしか生きられなかったのか・・・。

人の性格は・・・どのように作られるかについて諸説あるが・・・基本的には記憶の堆積によるものと考えられる。

良くも悪くも久は記憶を積み重ねて・・・そうなったのだろう。

しかし、事故によって・・・過去五年間の記憶をほとんど失い、それ以前の記憶も曖昧なものになってしまった久は・・・分からないことだらけの現実に怯えながら生きている。

それが・・・今の久から・・・かってあった傲慢さを消し去っていると考えることはできる。

久は昔の久の影におびえる良雄の心を感じいたたまれなくなった。

「良雄・・・」

良雄は子供のためのスペースで積木を使って遊んでいた。

良雄の心にドリルの影があるのを久は感じる。

「何をしてるんだ」

「お家を作ってるの・・・これは木だよ」

積木を重ねただけの木に愛おしさを感じる久。

「そうか・・・木か・・・」

「うん」

「良雄・・・明日はいっぱい遊ぼうな・・・」

「・・・」

「川で魚を釣ったり、山に登ったり・・・」

「本当?」

「本当だよ」

「わ~い」

良雄は飛びあがって喜ぶのだった。

ゴージャスな別荘の天井は高いのだった。

夫の姿を見つめて微笑む恵。

良雄を寝かしつけ久と恵は庭で星を見た。

「星に願いを・・・ピーターパンだっけ・・・」

「ピノキオよ・・・ピーターパンは右から2番目の星・・・」

「すまない・・・」

「謝ることなんてなくてよ」

「僕は時々・・・自己嫌悪を感じる」

「・・・」

「君や良雄との記憶を・・・思い出を共有していないことが・・・申し訳なくて」

「そんなの・・・気にする必要ないわよ・・・そりゃ・・・思い出してくれたらいいけど・・・今のあなたは・・・前より優しいし・・・思い出なんて・・・また作ればいいでしょう」

「・・・」

「私は・・・今のあなたがいてくれるだけで・・・幸せなの・・・」

恵は頬をそっと久の肩に乗せる。

久は恵の温もりを感じたような気がする。

久は恵の手をそっと握る。

しかし、その手はやはり手袋をしているような肌触りだった。

呪い・・・という言葉が久の心に浮かぶ。

一体・・・どんな呪いが・・・自分にはかかっているのだろう。

献身的な妻が・・・慕ってくれる息子が・・・怪物に見える呪い・・・。

その時、久の携帯電話に着信がある。

それは・・・非通知のものだった。

「・・・また・・・非通知だ」

恵の中に・・・不安が膨れ上がる。

恵の心の内は秘められているが・・・いくつかのシーンで恵が・・・久と以前の家族との間に交流があることを気付いている暗示はある。

恵の心に香(水野美紀)が浮かんでいるのは間違いないだろう。

「久さん・・・あなた・・・私のことが見えているのかしら・・・」

久は秘密に触れられた気がして身構える。

「久さんは・・・変わった・・・私達との生活をずっと大事にしてくれている・・・でも・・・久さんが本当に私たちとむきあっているのか・・・わからなくなる時があるの・・・久さん・・・あなたは・・・誰を見ているの・・・」

久は息を飲んだ。

恵の仮面の目の位置から・・・こぼれ落ちる・・・一筋の涙に気がついたのだ。

(恵が泣いている・・・どうして・・・うれしくて・・・そんなわけはない・・・悲しくて・・・俺が彼女を泣かせているのだ)

久は手を伸ばす。

ふくよかな恵の胸の頂き。

しかし・・・そこは聖地のようで・・・久には触れる勇気がなかった。

久の両手は漸く恵の両腕にたどり着く。

だが・・・妻と過ごした日々が欠損した久には・・・妻を抱き寄せることができないのだった。

夫のためらいを感じた恵はその場を取り繕う。

「ごめんなさい・・・私・・・少しお酒を飲みすぎたみたい・・・先に休ませていただくわ」

恵は別荘の扉を潜った。

恵を呼び止めることも追いかけることもできない久だった。

愛している自信も愛していない自信もない。

記憶がないというのはそういう恐ろしい状態なのである。

風に瞬く無慈悲な星たちが久を見下ろす。

不安な心を宥め・・・久が寝室にやってきたのは・・・夜更けだった。

その時・・・着信がある。

送信者は・・・香の娘・すばる(山口まゆ)だった。

久は寝室から抜け出し・・・再び屋外に出る。

恵は夫の様子を窺っていた・・・。

時計が時を刻んでいく。

人と人を近付ける時・・・そして、人と人を遠ざける時。

久はまだ自分の愚かさに気がつかない。

人が何かを失うのは・・・それなりの理由があることを・・・。

「すばる・・・」

「お父さん・・・」

「どうしたんだ・・・非通知で電話していたのも・・・すばるなんだろう」

「・・・」

沈黙は肯定の証である。

「何かあったのか・・・」

「ううん・・・何でもない・・・つい・・・電話しちゃっただけ」

「・・・」

「お父さん・・・今、どこにいるの」

「蓼科というところだ・・・」

「知ってる・・・そこって八ヶ岳の側でしょう」

「うん・・・八ヶ岳の西側だ・・・」

「昔、お父さんとお母さんと八ヶ岳に登ったよ・・・覚えてる?」

「・・・ああ・・・そうだったな」

「麓から登って・・・途中で山小屋に泊って・・・それから頂上まで登ったよね」

「うん・・・覚えている・・・すばる・・・まだ小さかったのにがんばったよな」

「うん・・・死ぬかと思ったよ・・・でも・・・頂上から見えた景色を今も覚えている」

「そうか・・・いい天気だったよな」

「うん・・・いい天気だった」

「すばる・・・本当は・・・何かあったんじゃないのか」

「ううん・・・何もないよ・・・じゃあね・・・お父さん」

「すばる・・・」

電話を切る直前・・・すばるが泣いていたような気がする久。

揺れる久の心・・・。

久の心の中には・・・本当の家族が・・・香とすばるであるという記憶が居座っているのである。

思わず久は振り返る・・・。

今の家族が眠っているゴージャスな別荘がそびえ立つ。

しかし・・・その家族と過ごした時間はほんの僅かしかないと・・・感じてしまう久なのである。

「今の家族を大切にして・・・」

昔の妻の妹・祥子(蓮佛美沙子)にそう言われ・・・そうしようとした久だったが・・・たちまち心は彷徨い始めるのだった。

久にかけられた呪いは底知れぬ暗黒へと久を導いているようだ。

愛している母親さえも疎んじる昔の久の心の歪みはおそらく今の久をも呪縛しているのである。

その謎はまだ解明されていないのだろう。

黒い蝶が父と子を誘っている。

高原を吹き渡る爽やかな風。

父と子は一緒に蝶を追いかける。

良雄は夢中になって。

久は夢中になっていた頃を思い出して。

久の心から一瞬鬱屈は消え去っていた。

遥かなる山々が久を見下ろす。

蓼科山、車山、そして八ヶ岳。

遊び疲れた二人は家路に着く。

ふれあい橋の袂で良雄は見上げる斜面に生えたマリーゴールドの花を見つける。

「きれい・・・」

「うん・・・よく見つけたな」

「お母さんのために・・・持って帰りたい」

「ここは立ち入り禁止だからムリだよ」

「お母さん・・・オレンジ色が好きだし・・・なんだかしょんぼりしていたから・・・」

「・・・」

久は自分の迷いが良雄の心を傷つけたことを感じる。

(どうして・・・こうなってしまうんだろう)

久は困惑するのだった。

傷ついた子供が大人になって・・・また子供を傷つける。

あやまちは必ず繰り返されるのだ。

それもまた呪いなのである。

久と恵は帰り支度をする。

「すまなかった・・・」

「え」

「いや・・・会社の人間が来たり・・・」

言葉を濁す久。

「気にすることないですよ・・・良雄もたくさん遊んでもらって・・・きっとうれしかったと思います」

「・・・」

しかし・・・良雄は別荘の周囲から消えていた。

「良雄・・・隠れていないで出てきなさい・・・帰るのよ」

恵は広い別荘の中を探して回る。

久は外に出る。

良雄の言葉は記憶に残っている。

「あの花を・・・」

久はふれあい橋に走る。

森の中を走る久。

心の闇が・・・明るかった高原を暗がりに変えるのだった。

マリーゴールドを採取しようとして崖を登った良雄は滑落していた。

血を流して倒れている良雄を発見した久は我を忘れて・・・駆け寄る。

「あなた・・・」

「救急車を呼んでくれ・・・」

「無理よ・・・山奥ですもの」

「・・・」

突然、久の中に記憶が蘇る。

前にもこんなことがあった。

久は良雄を抱きあげた。

「僕が・・・良雄を運ぶ」

「あなた・・・」

「この道の先に・・・病院があったはずだ・・・」

「ええ・・・」

久は良雄を抱いたまま・・・走りだす。

「医者に・・・医者に見せないと・・・」

久は必死だった。

本当は動かしていけないのかもしれない。

しかし・・・何もしないではいられない・・・。

「良雄・・・・しっかりしろ・・・死んだりするなよ・・・」

久は思い出していた。

別荘で・・・良雄は熱を出したのだ。

そして・・・今と同じように・・・久は良雄を抱えて・・・病院に走ったのだ。

あの時・・・良雄はもっと・・・軽かった。

良雄は蓼科吉田病院で意識を回復した。

「傷は浅いし・・・骨折もしていない・・・意識もしっかりしているし・・・心配ありませんよ」

医師は久と恵に告げた。

命はいつも綱渡りをしながら・・・時を過ごしていくのである。

呪われた久にも救いの道は常に示されているのだった。

久は・・・仮面の上に絆創膏を貼った幼い息子を見つめるのだった。

バス亭で良雄は久の膝の上で眠ってしまった。

「去年のこと・・・思い出した」

「え」

「良雄が熱を出して・・・あの病院に運んだことだけ・・・良雄・・・少し重くなった気がする」

「当たり前でしょう・・・成長しているんだもの・・・」

「そうか・・・」

「久さん・・・よかったね・・・」

「うん」

恵はそっと久の手を握る。

よかったのは・・・良雄が無事だったことなのか・・・久が記憶をとりもどしたことなのか。

おそらく・・・両方なのだろう。

翌日、良雄は大事をとって幼稚園を休んだ。

本城は愛しい人を見つめるように・・・良雄と家路につく恵を見つめるのだった。

もちろん・・・本城は・・・何か重大な秘密を隠しているのだった。

勅使河原は久を屋上に呼び出す。

「九州支店に移動になった。九州本部の本部長になるんだ・・・」

「おめでとうございます」

「左遷だよ・・・」

「え」

「家路・・・本当に何も思い出せないのか・・・」

「はい・・・」

「おまえ・・・本当に変わったな・・・善人になった・・・すごく間の抜けた善人に・・・」

「・・・」

「まあ・・・何も思い出せない方が・・・幸せかもしれないな」

勅使河原が何か重大な秘密を握っているのかどうか・・・現時点では不明である。

脚本家がいいアイディアを最終回までに思いつくかどうかだな。

久の携帯電話にすばるからの着信がある。

「ごめんなさい・・・私・・・」

「香・・・」

「すばるが何度も電話したみたいで・・・」

「いや・・・」

「ちょっと・・・親子喧嘩しちゃって・・・そっちに逃げようとしたみたい」

「・・・」

「でも・・・もう大丈夫だから・・・」

「そうか・・・」

「煩わせて・・・ごめんね」

「いや・・・何も問題ないなら・・・」

「うん」

しかし・・・香は久に嘘をついていた。

「お父さんにこのことは話さないで・・・約束よ」

「うん・・・でもお母さん・・・」

「大丈夫・・・お母さん・・・ガンになんか負けないから・・・」

城立大学病院・・・。

香はそこに入院するのだった。

図鑑を見た良雄は花の名前を知った。

「マリーゴールド」

「危ないことしちゃダメよ」

「うん・・・今度は絶対にお母さんにプレゼントするよ」

「そういう聞きわけのないことを言っているとドローン飛ばして逮捕されるようなバカになっちゃうぞ」

「・・・」

良雄はマリーゴールドの夢を見る。

「ようやく・・・眠ったよ」

久は目の前にいる二人を大切にしようと・・・もう一度心に誓う。

「恵・・・別荘で言ったよね・・・」

「・・・」

「僕が誰を見ているか・・・わからないって・・・」

「・・・」

「僕は・・・君と良雄から・・・目そらさないって・・・決めたんだ・・・」

「久さん・・・」

久は覚悟を決めて・・・仮面の妻を見つめる。

あの唇っぽい感じがするあたり・・・あそこに唇があるのか・・・そこにキスをすけば・・・キスがてきるのか・・・キスをしているような気がする・・・キスをしているのか。

退院後・・・初めてのキス。

恵は思わず下半身から力が抜けるのだった。

本当に抜けてるみたいだぞ・・・。

さすがだな・・・。

久は・・・唾液を注ぎ込み・・・男としての本能が蘇ったような気がした。

恵は久の唾液を味わい・・・配偶者としての久を吟味する。

そういう人間の本能が呪いを打破するのではないか・・・。

久の心に希望が灯る。

もしかしたら・・・今なら・・・恵の顔が・・・。

しかし・・・そこにあるのは仮面だった。

失望を隠せない久。

恵は久の動揺を察知する。

「どうしたの・・・」

「いや・・・」

「なにか・・・あるのなら・・・おっしゃって・・・隠さないで」

「僕には・・・君が見えない・・・」

「え・・・」

「事故にあってから・・・君と良雄が何を考えているか・・・分からなくなってしまったんだ・・・悲しんでいるのか・・・怒っているのか・・・表情が読みとれないんだ・・・」

「・・・」

「僕は・・・君の顔がわからないんだよ・・・」

「久さん・・・」

めまぐるしく変わる恵の表情。

自分の夫の苦しみへのいたわり・・・そして苦しみの原因が自分にあることの驚き。

そして・・・心の痛み・・・。

久と恵は問題を共有したのだった。

ワインカラーの黄昏は人を子供に変えるわ

星を飾るみたいに灯しましょう照明を

お帰りなさい私のところへ

いつだって構わない・・・

SHYな言い訳

仮面でかくして

踊ろ踊ろ

かりそめの一夜を

きっとお前もなやめる聖母

棄てな棄てな

まじなプライドを今は

勅使河原は小鳥遊に忠告する。

「家路には深入りするな・・・それが君のためだ・・・」

その意図は不明である。

単に・・・勅使河原は小鳥遊に未練があるだけなのかもしれないし・・・。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

Ihhc006ごっこガーデン。愛の呪縛と生活の部屋セット。

アンナバーベキューぴょん、バーベーキューぴょん。タラの芽をオリーブオイルで炒めるぴょん。クロアゲハを捕まえて、高嶺の花をゲットして、ダーリンの御姫様抱っこ全力坂、仮面の涙の衝撃・・・秘密で秘密の秘密がぴょんぴょんぴょん。ですがーーーっ。ダーリンの超絶凄技キスがーーーーーっ。すべての記憶を奪うのぴょん。あっはーんで何もかも忘れちゃうのぴょ~ん。ぼぎゃああああああああんっ

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2015年5月21日 (木)

ずっとあなたと一緒にいます(堺雅人)ぎゅっとしてく~ださい(蒼井優)

ずっと昔に愛し合った人と早朝に寿司屋を捜している夢を見る。

寿司屋横町のような寿司屋の並んだ路地はどの店もシャッターが下りている。

しかし、彼女が地下に続く階段を見つけ、そこに営業中の寿司屋があった。

「ねぎとろ巻をください」

そう言いながら彼女への愛おしさがこみ上げてくるのだった。

食欲と性欲が一体化しているんだな。

愛って難しいよね。

裏番組「心がポキッとね」には主人公が発狂中に暴言を浴びせ、恐怖で神経症になった女性(岡本玲)がゲストで登場。

狂犬にかまれたら・・・我慢するしかない・・・世界は不条理そのものである。

まあ・・・結局・・・幸不幸と運不運は同じってことなんだよ。

で、『Dr.倫太郎・第6回』(日本テレビ20150520PM10~)原案・清心海、脚本・相内美生、演出・相沢淳を見た。精神のおかしい人からは一瞬も目を離せない。しかし・・・多くの人間は誰かをずっと観察しているわけにはいかないので・・・不幸な出来事は起こるのである。そして常人と狂人の区別は非常に曖昧な尺度を伴っている。善人と悪人と同じくらい判別が難しい。悪い常人と悪い狂人の場合・・・後者は悪とは言えなかったりするわけである。そういう・・・やりきれなさを表現するために登場する主人公の妹・中畑まどか(酒井若菜)なのである。一方、敵役の愛人ポジションの矢部街子(真飛聖)は出番を確保できませんでした。

テレビ番組にコメンテーターとして登場するヒノリンこと日野倫太郎(堺雅人)・・・。

「風邪をひいた時にお医者さんにかかるように・・・心が風邪をひいた時はお気軽に精神科を受診してください」

人気のヒノリンは出演者たちからも悩みを相談されるのだった。

「最近、眠れないんですが」

「お話しましょう」

「最近、娘が先住民の塚で穴を掘るんですが」

「お話しましょう」

「最近、築城しなければならないと誰かが耳元で囁くのです」

「お話しましょう」

増え続ける患者・・・ヒノリン・・・過労死コースに乗っているのではないか。

著書がベストセラーになり・・・テレビ局にはデマチをするヒノリンファンが殺到する。

研修医・川上葉子(高梨臨)はマネージャーか付き人のようにファンをかきわけるのだった。

その中にファンレターを握りしめた女・星野(山田真歩)がいる。

今回のゲスト患者である。

慧南大学病院の理事長室では・・・円能寺一雄(小日向文世)が副病院長兼脳外科医主任教授の蓮見(松重豊)や精神科主任教授の宮川貴博(長塚圭史)とテレビを見ていた。

「日野くんの人気はなかなかのものだね」と円能寺・・・。

「これで病院の受診者がまた・・・増えますね」と蓮見・・・。

「君も本でも書けばどうだ」

「いえ・・・私は・・・臨床一筋ですから」と言葉を濁す宮川・・・。

端末を忘れたヒノリン。

看護師の桐生薫(内田有紀)は机の上の端末が度々着信するのが気になる。

病院に戻ってきたヒノリンはメールの送信者がアキラこと夢乃/相沢明良(蒼井優)と知り・・・ニヤニヤする。

ヒノリンに心を開いたアキラは心に平安を見出していた。

朝から散歩に出かけ・・・風景を画像にしてヒノリンに送信したのだった。

東京新橋の花街の芸妓たちが京都の「都をどり」にならって始めた「東をどり」の季節が近づいていた。

置屋の女将で元芸者の夢千代/伊久美(余貴美子)は夢乃や小夢(中西美帆)に「芸を磨け」と発破をかけるのだった。

ヒノリンは「またお話しましょう」と返信メールを送る。

薫はヒノリン親衛隊の一人として「ストーカーではないか」と問いかける。

ヒノリンが否定していると・・・親衛隊長の外科医・水島百合子(吉瀬美智子)が現れ、薫の息子のために画材をプレゼントする。

確認しよう。

ヒノリンは出会う女性すべてにほぼ愛される存在である。

幼馴染の百合子、専属看護師の薫、研修医の葉子・・・全員がヒノリンに片思い中なのだ。

しかし、恋愛を精神病の一種と考えるヒノリンはけして女性たちの熱き思いには答えないのだった。

だが・・・夢乃/相沢明良だけが・・・例外なのでは・・・と親衛隊メンバーは疑いを隠せないのである。

その頃・・・アキラには兇悪な母親・菊千代/相澤るり子(高畑淳子)から電話がかかっていた。

麻雀牌でピラミッドを作る毒婦ルリコ。

「ヒノとかいう医者・・・ひどいのよ・・・あたしに消えろなんて・・・言うの・・・それって死ねって言うのと同じじゃない・・・私とあんたを引き裂こうとしているのよ・・・ところでお金どうなってんの・・・一千万円早く用意してよ・・・じゃないとお母ちゃん・・・本当に殺されちゃうよ・・・ああああああ」

「お母さん・・・」

アキラの心は動揺する。

ユメノはアキラに囁く。

(だから・・・あんな医者・・・頼りにならないのよ)

(先生は関係ないじゃないの)

(あんな役立たず・・・信用できないわ・・・とりあえず・・・お金作んなきゃ・・・あたしにまかせな)

(ユメノ・・・)

アキラはヒノリンに電話をかける。

「ヒノリン・・・」

「はい・・・」

「アキラにかかわるなって言ったでしょう・・・これ以上、余計なことをするんなら・・・あんたをアタシが破滅させるわよ・・・」

「・・・」

ヒノリンの様子を見逃さない親衛隊員たち。

「先生・・・大丈夫ですか」

「問題ありません」

ニヤニヤする倫太郎だった。

そこへ特上寿司、三十人前が届くのだった。

「え・・・注文してないよ」

「でも・・・川上さんて方が」

「私・・・知りません」と葉子。

「まあ・・・良いでしょう・・・おいくらですか」

「九万七千五百円です」

「九万!」

ヒノリンの中に眠るコミカドが一瞬、覚醒するのだった。

葉子は精神科を目指したのも慧南大学病院を研修先に選んだのも・・・すべてヒノリンを慕う一心からのことであった。

日々、ヒノリンの講義の録音された音源を聞き、ヒノリンに捧げる論文を作成するのである。

そのために・・・ヒノリン目当てでやってくる患者に冷淡に対応することも辞さないのであった。

葉子・・・医者としてダメだぞ・・・。

そんな日野を訪ねてやってくる星野。

「私はストーカーに狙われています」

「身の危険を感じるのですね」

「はい・・・先生、助けてくださいますか」

「いつでも・・・連絡してください・・・お話しましょう」

「先生を信じていいんですね」

「はい」

ヒノリン、無敵のヒーローなみの対応だな。

しかし・・・星野からの助けを求める電話をとった葉子は・・・。

「日野先生をお願いします」

「先生はお忙しいので・・・私がご用件を伺います」

葉子・・・医者として本当にダメだぞ・・・。

伊久美は夢乃の不始末を円能寺に侘びる。

旦那としての直感でヒノリンの関与を疑う円ちゃん。

「いえ・・・そうではありません」

身内の恥なので・・・夢乃とるり子の関係については言葉を濁す伊久美だった。

そのために円ちゃんの頭の中で夢乃とヒノリンが乳繰り合う姿が渦巻くのだった。

資産家である円ちゃんにとって夢乃もヒノリンも飼い犬に過ぎないのである。

飼い主として交配については気を使う円ちゃんだった。

ある意味、円ちゃんは登場人物の中で一番クレイジーです。

一方、エクレア依存症のヒノリンの主治医・荒木重人(遠藤憲一)は発注の電話をする。

「エ・・・エクレアが切れた・・・」

「すぐ行きます」

ヒノリンと荒木は相沢明良の治療方法について話し合う。

「解離性同一症か・・・」

「基本人格のアキラよりもユメノの方が主人格として強い意志力を持っています」

「両者を統合するつもりか」

「はい・・・どちらも相沢明良のパーソナリティとして重要です・・・ユメノの強さとアキラの優しさ・・・それが理想の女性です」

「だれが・・・お前のタイプを言えと・・・問題は賭博障害の母親だな・・・」

「おそらく・・・母親のるり子と娘の明良は共依存の関係になっています」

「るり子とユメノは戦わないのか」

「今はアキラが母親を守ろうとして・・・アキラの願いをユメノが叶えようとするために・・・結局、母親が不純な利益を得るという連鎖でしょう」

「アキラが母親との主従関係を断ち切らないと・・・アキラとユメノの主従関係も断ち切れないわけか・・・」

「私は・・・ユメノとの信頼関係を構築したいと考えています」

「芸者が相手か・・・大丈夫か・・・相手は海千山千だぞ」

「医師として患者に向き合うだけです」

「そこまで言うのなら・・・俺は何も言わねえ・・・」

ユメノにヒノリンのデータを削除されたアキラは例によって日野家を訪問する。

「アキラさん・・・」

「先生・・・」

「まあ・・・家にお入りください」

そんな二人の姿を・・・自宅に押しかけようとしていた葉子は見ていた。

その心は嫉妬で燃えあがるのだった。

ヒノリンは・・・アキラに奇妙な経験があるのかを聞く。

「ものが消えたり・・・現れたりします」

「そうですか」

「八年前に・・・母親がやりなおそうと現れてから・・・そういうことが・・・」

「そうですか」

「でも・・・私・・・お金が稼げなくて・・・母親の借金を返すことがてきなくて」

「そうですか」

「そしたら・・・あの子が・・・囁いて・・・時々・・・私は消えてしまうのです」

「大丈夫・・・あなたは消えてなんかいませんよ」

「でも・・・私・・・何もできなくて・・・」

「そんなことありません・・・アキラさん・・・あなたは何も悪くないのです」

「・・・」

「私はアキラさんともう一人のあなた・・・仮にユメノさんと呼ぶことにします。二人の仲をとりもちたいと考えています」

「私と・・・あの子を・・・」

ヒノリンはアキラに白紙のノートを手渡す。

「ここに・・・感じたことを何でも書いてください・・・それを私はユメノさんに伝えます」

アキラは白い紙を見つめて微笑む。

深まりつつあるアキラとヒノリンの信頼関係。

しかし・・・借金に追い詰められたるり子は深夜に置屋を急襲するのだった。

応対する伊久美は親代わりの女将として狂暴な母親に立ち向かう。

「何しに来たんだい」

「母親が娘に逢いに来て何が悪い」

「警察を呼ぶよ」

「警察・・・あんた・・・私は娘とやり直したいだけなんだよ」

しおらしく泣き落としにかかるるり子。

「あんた・・・かわらないねえ・・・あたしにそんな手が通用するとでも・・・」

「そうかい・・・あんたにとっても大事な金づるだもんね・・・あの子は」

夢千代は菊千代の頬を張る。

「いい加減にしな・・・母親なら母親らしく・・・あの子の前から失せちまえ」

「いやだね・・・お金がいるんだよ・・・明良・・・聴こえているんだろ・・・母ちゃん・・・お前の好きな金平糖買ってきたんだよおお・・・・あははははははは」

耳を塞ぐアキラ・・・。

「いや・・・先生がだめって・・・だってお母ちゃんが困ってるじゃないか・・・だめ・・・ああ・・・もう・・・じれったいねえ・・・」

目覚めたユメノは・・・アキラの書いたメモを見ると・・・それを破き始める。

「なんだい・・・こんなもの・・・腹の足しにもならねえじゃないか」

夢乃/相沢明良は錯乱し・・・気を失う。

翌日、夢乃は置屋から姿を消していた。

アキラは病院にやってきたが・・・応対したのは葉子だった。

「あの先生は・・・」

「勝手に入ってこないで・・・先生はあなたの相手なんてしている暇はないのよ」

葉子・・・医者として完全にダメだぞ・・・。

一方、勤務中のヒノリンに妹からの急報が入る。

日野家の庭が荒らされ、愛犬の弥助がいなくなったというのだ。

「私・・・夢乃って芸者を追い返しました・・・星野って人にも冷たくしました」

「え・・・」

「先生が好きだからです」

「ありがとう・・・しかし、今の僕には君の気持ちに応えることはできない」

「・・・」

唖然とする・・・葉子を好きな研修医・福原大策(高橋一生)である。

ヒノリン、大策、葉子、百合子、まどかによる弥助捜索活動。

ついに公園で発見される弥助・・・。

そして・・・そこにはアキラもいた。

「なんてことするの・・・」と相手が心の病であると知りつつ・・・かみつく妹のまどか・・・。

「違います・・・夢乃さんではありません・・・」と葉子。「時間的に無理です・・・きっと夢乃さんはどこかで弥助を拾ったんです」

ヒノリンは置屋に連絡をとり、百合子とともにアキラを日野家に連れ帰る。

アキラはつなぎ合わせたノートをヒノリンに差し出す。

ヒノリンはアキラの身体に異常を発見し・・・百合子にアキラを預けるのだった。

百合子はアキラの全身に「裏切り者」と書かれた悪戯書きを優しく拭き消す。

その異様な光景に・・・アキラの病を感じる百合子。

しかし、アキラの言葉に女としての心が疼く。

「先生のお母さんですか・・・」

遺影を見てつぶやく・・・アキラ。

「そうよ・・・」

「先生・・・かわいそう・・・今なら・・・お母さんの病気を治せたかもしれないのに・・・」

「倫太郎・・・そんなことまで・・・夢乃さんに言う必要があったの」

ヒノリンを詰らずにはいられない百合子。

それは二人で共有している秘密・・・百合子にとって心の拠り所だったのに。

「それも・・・治療なの」

頷くヒノリンに・・・いろいろな意味で諦めを感じる百合子だった。

ノートに書かれたヒノリンの似顔絵・・・。

淋しさに満ちた幼いアキラの心象風景。

「アキラさん・・・今度・・・女将さんと診療室に来てもらえませんか・・・」

「・・・」

「あなたの心を医師として・・・治療したいのです」

「ここで・・・こうして逢うことはできませんか」

「これだけは忘れないでください・・・私はいつもあなたと一緒にいます」

「最後に・・・私は・・・先生に・・・ぎゅっとしてもらいたい」

「はい」

背中にまわした手を伸ばしてヒノリンはアキラの顔をじっと覗きこむのだった。

二人は微笑んだ。

アキラは幼女なので・・・ヒノリンがキスしなくても憤慨しないのである。

診療室に星野がやってきた。

担当するのは葉子だった。

「私は・・・日野先生に・・・」

「あなたは・・・日野先生が大好きなんですよね・・・」

「なによ・・・」

「わかります・・・私もそうだから・・・」

「なに言ってるの」

「先生は・・・毎日ひとつだけ・・・自分のいいところをみつけなさいっておっしゃった」

「・・・」

「そうすれば・・・いつか・・・自分の好きなところが一杯になる」

「・・・」

「あなたの手紙にあったでしょう」

「あれは・・・先生に・・・」

「私も・・・先生の言葉が大好き・・・完璧な人間なんていない・・・満点なんてとれなくても・・・合格点がとれたら万歳って言葉も好きだな・・・合格点もとれなかったらどうするんだってって思うけど・・・」

「・・・」

「私・・・子供の頃・・・すごくわがままで・・・友達がいない子だったの・・・先生の言葉を読んで・・・生まれ変わろうと思って・・・医者になって・・・先生に告白したけど・・・ふられちゃいました・・・」

「・・・」

「私・・・ストーカーみたいに・・・先生の家まで行ったりして・・・あなたと何度かすれちがってます」

「え」

「昨日もいましたよね・・・」

「・・・」

「あんなことしたら・・・不合格になっちゃいますよ・・・でも・・・あなたの気持ち・・・私には分かります・・・だから・・・私と一緒に・・・心の風邪を治しませんか」

「・・・最後に一度だけ・・・先生に合わせてください」

ヒノリンは姿を見せる。

「あの家は・・・生まれ育った大切な家です・・・そして・・・弥助は大事な家族です・・・あの家が汚され・・・弥助が行方不明になり・・・私はとても傷つきました。何か・・・そのことについておっしゃりたいことがありますか」

星野は項垂れた。

「星野さん・・・私とお話しませんか」

葉子は微笑む。

星野は幽かに頷いた。

ヒノリンは指導医として葉子にアドバイスをする。

「ストーカーの加害者には・・・被害者の心を傷つけてしまったことを自覚させるのが有効な場合もある。もちろん・・・逆効果の場合もあるが・・・星野さんの場合は立ち直りの一歩になると考えられる。星野さんには、何ら明確な理由や根拠なく人から攻撃され、利用され、陥れられるといった不信感を抱き、対人関係に支障をきたす妄想性パーソナリティ障害の疑いと・・・そういう病気を装った虚偽性障害の疑いがある。星野さんのストーカーの対象になってしまった私は治療者として適当ではない。君に担当してもらいたいのだ」

「がんばります」

胸を張る葉子だった。

そして・・・女将に付き添われ・・・アキラがやってくる。

「よく来てくれましたね・・・アキラさん」

「先生・・・ぎゅっとして・・・」

「いいですよ・・・」

ヒノリンはアキラの両腕に触れて・・・患者の顔を見る。

ニヤリとして・・・ユメノは顔をあげた。

ついに・・・ヒノリンとユメノの対決が始る・・・。

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2015年5月20日 (水)

だけど涙が出ちゃう・・・だって女の子だものっ(稲森いずみ)泣いてる暇あったら仕事してくださいっ(渡辺麻友)

基本的に本が好きな人は読書家だよな・・・読書家は人と話しているより本を読んでいる方が好きなんだよな。

だから・・・口下手だったりするよね。

もちろん、例外はあって・・・話上手な読書家はいる。

キッドは口が上手いとよく言われたけど・・・本当は口下手なんだよな。

本当は口で言うより手の方が早いと思ってる。

でも、人前で手を出すと弾圧される世の中だから仕方なく喋るんだよな。

・・・何が言いたいんだ。

年上のヒロインが言うべきことを言わないで鬱屈していく感じが・・・本当にお茶の間に伝わっているのかなあ・・・って思って・・・。

リーダーの孤独だよな。

大阪都構想は無理があったよなあ。

第一、東京が都なのは天皇陛下がいるからなんだよな。

大阪市特別区分割構想くらいにしておけばよかったんだよな。

まあ・・・元は金髪の人だからな。

浪速のことは夢のまた夢なんだな。

で、『戦う!書店ガール・第6回』(フジテレビ20150519PM10~)原作・碧野圭、脚本・渡辺千穂、演出・白木啓一郎を見た。ダブルヒロインと言えば連続テレビ小説の常套手段である。「ふたりっ子」とか「だんだん」とか主役が双子というこれ以上なくストレートなものもある。「あまちゃん」はダブンヒロイン異種格闘技戦の様相を呈していたわけだ。あまちゃんとママというダブルヒロインであり、あまちゃんとユイちゃんというダブルヒロインであり、あまちゃんと夏ばっぱであり、あまちゃんと大女優であり・・・ある意味、ダブルヒロインのパロディーであったのだ。今度は宮崎あおいと波瑠のダブルヒロインである。連続ドラマでは「抱きしめたい! I WANNA HOLD YOUR HAND」のW浅野(浅野温子・浅野ゆう子)が金字塔と言えるだろう。今季の月9も主人公は別にいるが沢尻エリカと有村架純のダブルヒロインと言えないこともない。しかし・・・基本、母と娘か・・女友達がベースなんだな。

今回は・・・上司と部下・・・これは結構チャレンジではなかったかな。

途中で三田(千葉雄大)を挟んだ恋の三角形バトルも盛り込んだが・・・基本的に三田がキモオタで熟女好き設定なので・・・ときめきはなかったようだ。

下積み生活の長いベテラン書店員とお嬢様育ちの若手書店員の対立と仲間意識の芽生えが基本軸だが・・・少し・・・うまくはまらなかったかなあ・・・と思う中盤戦である。

年上のヒロインを少し、善人設定にしすぎちゃったんじゃないか・・・ま、いいか。

原作は結構、長編なのでどこまでとりこむかのバランスの問題もあったと妄想できる。

まあ・・・短期決戦のダブル・ヒロインの難しさも感じる・・・ここまでなのであります。

もう少し・・・分析したい気もするが・・・体力的に無理なんだな。

ペガサス書房初の女性店長として・・・苦節の歳月が無駄ではなかったと理想の書店作りを開始する吉祥寺店の西岡理子店長(稲森いずみ)・・・。

しかし、父親で元せんべい屋店主の達人(井上順)が倒れ・・・店長会議を欠席したことから・・・徐々に明らかになるペガサス書房の裏事情である。

エリア・マネージャーに昇格した野島元店長(木下ほうか)は吉祥寺店を始め、上野店、錦糸町店の三店舗の閉鎖という任務を負っている。

ペガサス書房の谷田部社長(山中崇)はネットストア化を目指し、実店舗の縮小と人員整理を目指していたのだった。

売上の下落率がワースト三位という実績を残した野島は・・・人望の厚い理子が業績を上げないように・・・策略を巡らし始める。

商売は下手だが・・・陰謀は得意だったらしい。

雑誌「NOTICE」の理子のインタビュー記事に細工して・・・萩原麻美(鈴木ちなみ)、遠野由香(木﨑ゆりあ)、日下圭一郎(伊野尾慧)たちが理子に反感を持つように仕向けるのだった。

一方、理子は吉祥寺店の七月閉店を指示され・・・我を失う。

書店員たちの行く末を考えるあまり、思考停止に陥った理子は書店員トリオの不満への対応にしくじり溝を深めて行く。

ユニコーン堂の田代(田辺誠一)からのスカウトの申し出を断った理子。

しかし、それを目撃した野島は書店員トリオに「店長は自分だけが・・・沈む船から逃れようとしている」と吹き込む。

理子は野島は無能だが・・・悪人ではないという思いこみから・・・店舗閉鎖後の書店員たちの転職先確保を相談するが・・・野島にはまったくその気はないのだった。

「店長・・・吉祥寺店は閉鎖されるんですよね」

書店員トリオに問い詰められて言葉を失う理子。

「どうして・・・それを・・・」

「野島さんから聞きました」

口止めされていた野島からの情報漏洩にうろたえる理子。

「何故・・・そんなことを・・・」と野島に尋ねる。

「だって・・・大事なことだから・・・とっくに君がみんなに話したと思いましたよ」

「・・・」

どうしても・・・野島の悪意を受け入れられない理子。

そこには・・・このバカにそんな悪だくみができるはずはないという硬直した思考が渦巻くからである。

普段の理子の言動から・・・不審を感じた北村亜紀(渡辺麻友)は三田とともに人気雑誌「NOTICE(論評)」の出版社に乗り込み、真相を究明するのだった。

野島の陰謀に気がついた亜紀は理子に身の潔白を明かすように進言する。

しかし・・・理子は上司であるエリアマネージャー野島に書店員たちの今後を託す希望を持っているため・・・歯切れが悪いのである。

スカウトの件で嫉妬に狂った三田は田代にかみつく。

だが「君はそばで彼女をささえてくれ」と軽くいなされるのだった。

本社に向かった理子は谷田部社長の意向を確かめる。

「リストラしか道はないのでしょうか」

「ペガサス書房が生き残るための決断だ・・・実力ある人材を確保して・・・実力不足の人員を整理する・・・残ったメンバーを守るためだ」

「しかし・・・人材は育てるものではないのでしょうか」

「そんな余裕は・・・ないのだよ・・・君には管理職としてキャリアを積んでもらいたい」

「・・・」

そういう状況を知らない書店員トリオは移動願いを提出して欠勤するのだった。

小幡伸光(大東駿介)は亜紀と交際中だが「男尊女卑は仕方ない」とある意味、危険な言葉を口にするのだった。

亜紀は反発を覚え、三田とともに書店員トリオの説得に乗り出す。

しかし・・・野島に洗脳されたトリオは疑心暗鬼に陥っていた。

ここで文芸書担当時代の萩原麻美の愛読書「サヨナライツカ/辻仁成」(2001年・・・2010年に中山美穂をヒロインとした映画が公開されている)が紹介されるがあくまで理子を尊敬していた麻美の回想としてのアイテムである。

約束したブックカフェ店員の高田愛子(工藤綾乃)の出番をつくるための待ち合わせ場所にトリオは現れない。

まだまだ・・・野島の正体を認めたくない理子は協力を呼び掛ける。

「一緒に社長にかけあってください」

「まだそんなこと言っているのか・・・私は三店舗をつぶせと命令されているのだ・・・そうでないと私がリストラされちゃうんだよ」

「・・・仲間じゃないですか」

「馬鹿な・・・私は別れた妻子に養育費や学費を渡さねばならない・・・守るものがあるんだよ」

「しかし・・・私には・・・彼らを解雇するなんてできません」

「じゃ・・・君は・・・ここにいる必要ないじゃないか・・・」

「・・・」

追い詰められた理子は閉店後の店内で泣き伏す。

そこへ・・・現れた亜紀。

「みんなにがんばろうって言ったけど私じゃダメでした・・・」

「・・・」

「やはり・・・理子さんじゃないと・・・誰よりも本が好きで・・・この店を愛している・・・」

「無理なのよ・・・現実は理想通りにはならないの」

「じゃ・・・なんで泣くんですか・・・口惜しいからでしょう・・・口惜しかったら・・・恰好悪くても粘って粘って・・・最後まで戦いましょう」

「・・・」

しかし・・・亜紀の言葉は理子には届かない。

理子の心を動かしたのは・・・父親が懸命にリハリビする姿だった。

「お父さん・・・」

「死んだら終わりだけど・・・生きている以上・・・がんばらないとな」

「・・・」

理子は覚悟を決めて店長会議に乗り込む。

「初の女性店長となり身が引き締まる思いでございます。皆さん・・・今後・・・三店舗が閉鎖になることをお聞きおよびでしょう・・・しかし・・・無能な前任者のせいで売上の落ちた店舗の幕引きのための店長になるのは真っ平御免です」

「なななななななななんだと・・・」と野島。

「社長・・・私にチャンスをください・・・売上を倍増させ・・・店舗を存続させるチャンスを・・・」

「・・・」

騒然とする会場。

社長は謎を秘めた表情で理子を見つめるのだった。

おや・・・この光景は裏番組の社長と美人マネージャーとかぶっているのでは・・・。

ちなみに・・・自分のことをかわいいと思っている人は60%と予想したまゆゆだが・・・答えは10%・・・じゃ・・・残りの90%は自分を美人だと思っているのか・・・。

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2015年5月19日 (火)

だってボクはお兄ちゃんだから(相葉雅紀)泣き濡れてシャワー(有村架純)彼と彼の妹と私(沢尻エリカ)彼と彼の彼女と私(足立梨花)LOVE理論(清野菜名)

おいっ。

いや・・・あくまで前フリ枠内で処理しますので。

「素敵な選TAXI」のウエイトレス関カンナ役の清野菜名がキャバクラ・ピカレスクの新人キャバクラ嬢・桐谷怜子を演じる「LOVE理論」(テレビ東京)・・・。

「ようこそ、わが家へ」から「LOVE理論」というのが今季の月曜日である。家人も推している。

まあ、両方ともキワモノですけどねっ。

今回、汚れ役を厭わない有村架純も凌駕する性感マッサージ店「聖☆変態女学院」のNo.1風俗嬢アズサを演じる小池唯(海賊戦隊ゴーカイジャーのゴーカイピンク)を指導する通称「六本木のマザーテレサ」こと大山信子(高橋ひとみ)のお言葉が・・・。

「じらしがたりない・・・枕営業が早すぎると客を逃す」

一方で・・・家康じゃねえか太一(寺尾聰)は「仕掛けを急ぎ過ぎて・・・相手に逃げる隙をあたえてしまった」

かぶっています。

ある意味、ミラクル。

で、『ようこそ、わが・第6回』(フジテレビ20150518PM9~)原作・池井戸潤、脚本・黒岩勉、演出・谷村政樹を見た。好きあった同士が交際を始めるが・・・何故かめぐりあわせが悪くて気不味くなり別れてしまう。気がつくと周囲の人々が別れた相手に猛然とアタックしている・・・恐ろしい状況である。しかし・・・社会とはそういうものなのかもしれないと妄想できるわけである。なんていうか・・・釣った魚をリリースすると隣の人が釣りあげるみたいな・・・。釣った魚を逃がすなを座右の銘に加えたい。・・・なんの話だよっ。悪意は見えないという話ですよ。

悲しいことがあると・・・いつも・・・公園のブランコを揺らす妹の七菜(有村架純)を迎えに行く倉田健太(相葉雅紀)・・・。

倉田家では幼い頃から・・・七菜は悲しいことに出会っていたのか。

母親の珪子(南果歩)か・・・原因はすべて・・・。

もう・・・二人は慣れっこなのかっ。

ガンかつぎ(ゲン担ぎ+願掛け)されまくったのかっ。

シャンプーの位置を変えたらお仕置きかっ。

そして・・・赤飯ドリア攻撃で味音痴に・・・。

・・・以上、今回の「能天気ママの秘密」でした。

雨の夜に自宅周辺にいた不審人物が七菜の元カレ・辻本正輝(藤井流星)であることを突き止めた健太と明日香((沢尻エリカ))・・・。

「もう・・・七菜につきまとわないでくれ」

「あなたは誰です」

「妹が生まれた時にお兄ちゃんとして絶対妹を守ろうと心に誓った七菜の兄です」

「・・・」

「君が猫をポストに入れたりしているのか」

「お兄さんなら・・・七菜のことをちゃんと守ってくださいよ」

辻本をそれ以上・・・追及できない臆病な健太だった。

そんな健太を無表情に見つめる明日香。

「でも・・・辻本くんは・・・ガスのこと・・・知ってましたね」

「やはり・・・あいつが・・・名無しさん」

まあ・・・注意したくらいで・・・やめる相手じゃないけどな。

もしも・・・辻本が犯人だとしても・・・現行犯逮捕するために・・・泳がせないとっ。

だが・・・倉田家の人々にそんな道理は通じないのである。

結局・・・狼に襲われても羊は滅びないものだから・・・なんだな。

七菜に辻本との交際について質問する健太と明日香。

沢尻エリカと有村架純にはさまれるって楽園すぎるよなっ。

「なんで別れたの・・・」

「なんだか変だったな・・・ラブラブだったのに・・・急に彼が別れようって言って・・・それなのにその後で待ち伏せしていたり・・・」

「気が変わったのか・・・」

「寄りを戻したいなら・・・そう言えばいいのに・・・」

「奇妙ですね」

今回のナカノ電子部品物語・・・。

「相模ドリル」から納品された三千万円分のドリルは平井(戸田昌宏)の部下によって「廃棄ドリル」と判明する。

総務部契約社員のシルビア/西沢摂子(山口紗弥加)と太一は例によって真瀬営業部長(竹中直人)を追及するが・・・「誤配」と言い逃れられ・・・結局、後日、新品が届く。

「拙速だった」というよりは「詰めが甘い」だけですよね・・・。

七菜の最終面接の日・・・早くも「就職祝い」ムードの倉田家・・・というより、能天気母さん・・・。

太一はお守りを渡す。

「母さんのなりたかった職業がアナウンサーだったから・・・女子アナを目指したんだよな」

「言わないでね」

健太は母思いの妹を愛おしく感じるのだった。

面接会場・・・。

母から「ファイア~」とメールが届く。

「ファイトだろっ」とツッコミに磨きがかかる七菜。

娘の面接時間を気にする父。

しかし・・・直後に・・・。

「画像をテレビ局の皆さんに送っておきました」

・・・とメールが届く。

お茶の間の多くが親友の顔を持った悪女・万里江(足立梨花)の犯行を疑う。

倉田家に出入りしているので・・・七菜の古い携帯電話は入手可能なのである。

合鍵を作り、盗聴器を仕掛けることも可能な一人だ。

ショックで面接に失敗する七菜だった。

しかし・・・娘が女子アナになるのが嫌で妨害している娘を溺愛する太一の線もあるぞ。脚本監修がN氏ならな・・・。

七菜はサービスでシャワーを浴びて悔し泣きを披露する。

就職祝いは残念会に変わるが全くトーンの変わらない能天気母さん。

怖い、怖いぞ・・・倉田家の母。

その模様を盗聴器発見用レシーバーで盗聴する明日香だった。

そのレシーバーは健太の私物では・・・。

シルビアに157回食事の誘いを断られている円タウン出版社の蟹江(佐藤二朗)から前借りして健太が購入したものを何故・・・明日香が・・・。

蟹江が金を貸して健太が購入、明日香が実用というシステムなのか。

健太と明日香のチュパ系作戦会議。

明日香のアドバイスで盗聴器の存在を家族に秘密にしてきた健太だったが・・・。

犯人を油断させると言うが・・・その間、家族の秘密・・・だだ漏れである。

しかし・・・善良な倉田一族には人に知られて困るような秘密はない・・・ということだ。

いや・・・おならとかしたらはずかしいぞ。

まあ、いいじゃないか。

「名無しさんに・・・罠を仕掛けたい」

「え」

そして、盗聴器のないバスルームで家族会議である。

「五人も入れるのね」と能天気母さん・・・。

盗聴器の存在に驚く父と母と妹だった。

普通は秘密にしていたことで健太はつるしあげられるよな。

「今度、母さんが羽根をのばしまくる温泉旅行の日に・・・全員が家を留守にする・・・と見せかけておいて待ち伏せして・・・もし・・・犯人がおびき出されたら・・・家に隠れた父さんと僕が名無しさんの正体を暴く」

もしも・・・相手が武装していたらどうするか・・・とかは考えない倉田家の人々だった。

うかつさに警察に届けられないリベンジポルノの件は兄と妹の秘密なのに・・・同意する両親・・・。

まあ・・・いいじゃないか。

待ち伏せ当日。

母親は「大丈夫?・・・お腹が減ったらチンしてね」とメールを送る。

しかし、陶芸教室の講師・波戸(眞島秀和)の姿もセレブ女友達・下村民子(堀内敬子)の姿も見えないので本当に旅行先にいるのかどうかも不明だ。

兄と妹は暗闇の中で端末で会話である。

「上に行ってろ」

「お兄ちゃん一人じゃ心配」

「おい」

「ありがとう・・・結構頼りにしているよ」

「お兄ちゃんですから」

明日香がシュークリームの差し入れを電話で伝えてくる。

おにぎりを注文する健太。

その時・・・裏口に不審者の影が・・・。

侵入してくるフードの怪人・・・。

男か女かもわからない・・・。

その時、帰宅途中の父からメール。

「もうすぐ、帰る」

端末のライトに気がつく怪人物。

逃げる犯人を追う健太。

裏口から表へ・・・玄関から出て来た七菜を怪人が急襲。

身を挺する健太。

転倒する兄妹。

逃走する怪人。

「お兄ちゃん・・・重い・・・え」

健太は刺されたらしい。

やってきた明日香は救急車を呼ぶ。

「七菜・・・」

「お兄ちゃん・・・私はここに・・・」

「よかった・・・」

意識を失う健太・・・。

2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング

①位 ニット帽の男(名無しさん)

②位 明日香(特ダネ狙い)

③位 父(花嫁の父になりたくない症候群)

④位 辻本(失恋マニア)

⑤位 健太(ゾンビ)

⑥位 七菜(悪魔っ子)

⑦位 母(明るい呪怨系)

⑧位 民子(今回未登場・・・フードで登場か)

⑨位 万里江(今回未登場・・・フードで登場か)

⑩位 ガス(ニャンコ星人)

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2015年5月18日 (月)

高杉晋作、上海より戻りて品川御殿山を焼き討ちせしこと(鈴木杏)

最近の大河ドラマの傾向として・・・なんだかんだ想像におまかせする手法の濫用というものがある。

吉田松陰の刑死までをおよそ、1/3の分量で描くという非常に野心的な構成をしながら・・・肝心なことは歴史上の出来事としてスルーしてしまうのだ。

木を見て森を見ない物語になってしまうのはこのためだろう。

もちろん・・・大河ドラマファンには歴史愛好家も多く、暗黙の了解というものはある程度、成立する。

しかし、お茶の間はけしてそうではないのである。

「幕末」という日本史の中では比較的、人気の高い分野であっても・・・「新撰組」は知っているが「御楯組」は知らないという程度の差は発生する。

毛利本家と吉川家との微妙な関係を関ヶ原の戦いまで遡上して連想できるものも限定されるだろう。

松下村塾の両雄、高杉晋作と久坂玄瑞の微妙な路線の違いと身分を越えた友情にももう少し説明が必要と思える。

何よりも・・・長州藩が「航海遠略策」から「破約攘夷」に転換し、長井雅楽が失脚し、御楯組が幕府によって品川御殿山に建設中の英国公使館を秘密裏に焼き討ちすることを語るためには・・・徳川家茂と孝明天皇の皇妹・和宮の婚姻成立と・・・薩摩藩士による外国人殺傷という生麦事件を語ることは絶対に必要である。

「公武合体」と「破約攘夷」は相容れない。

薩摩国の実力の前に屈し長州国が追従するわけにもいかないのである。

幕末とは結局、下剋上の解放である。

そのきっかけは異国の侵略の予感であった。

弱体化した幕藩体制が大日本帝国を生み出す・・・そういう歴史のうねりをもう少し描いてもらいたいよねえ。

以前にも言ったが・・・登場人物はほとんどが軍人(武士)である。

そして・・・女たちは基本的に軍人の妻なのである。

そこを避けて通ると・・・なんのこっちゃになると考えます。

で、『花燃ゆ・第20回』(NHK総合20150517PM8~)脚本・宮村優子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は「そうせい」の決まり文句でおなじみの長州藩の第13代藩主・毛利敬親の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。併せて長州藩の支藩構造の解説付きでサービス満点です。そもそも・・・毛利家が吉川家にわだかまりを残すのは・・・積年の恨み・・・つまり・・・それは毛利家においては反徳川の思想が潜在していることを示しているのでございますよねえ。結局、長井派と反長井派の対立は・・・尻尾をふるのか、かみつくのか・・・そういう気分の問題に帰結するのではないかと考えます。徳川幕府は結局、国内の平和を維持することで・・・そういう反乱分子を教育してしまったということになるのですな。つまり・・・民衆の力でございます。暗殺や一揆、そして革命。それに伴う暴力を否定することは簡単ですが・・・口で言うより手の方が早いという・・・真理は常に有効なのですよねえ。局部限定的には・・・ですが。幕末維新は結局、幕府を滅ぼし、内戦を経て、すべての藩(国家)が消滅するという快挙を成し遂げる。ま・・・その点に関しては女子供はほぼ無関係ですよね。そういう意味で遊女という辛酸をなめた女たちが英雄たちのパートナーとしては相応しい。芸妓・辰路(鈴木杏)の毒々しさ、最高でございましたな。映画「アリス」(2004年)の二人が遊女を演じる今季。新橋の芸者・夢乃(蒼井優)と京の芸妓・辰路は時を越えて因縁を結んでいるようです。ちなみに鈴木杏は松本潤版の「金田一少年の事件簿」(2001年)のヒロイン・七瀬美雪、井上真央は言わずと知れた松本潤版の「花より男子」のヒロイン・牧野つくしでございます。時空を越えて雌雄を決するのですね。ちなみに井上真央は1986年度生まれ、鈴木杏は1987年度生まれ・・・ほぼ同世代・・・現在、共に28歳、子役からスターの女優人生は長いのですな・・・。紆余曲折があってこの配役・・・それだけでもう感無量でございまする。主人公VS毒婦ですからあああああっ。体重か・・・体重管理の問題なのか。

Hanam020文久二年(1862年)二月、江戸幕府第14代征夷大将軍・徳川家茂と孝明天皇の皇妹・和宮の婚儀が成立する。五月、高杉晋作は上海に渡海。久坂玄瑞は吉田松陰の弟子を名目に京都にて「破約攘夷」を標榜する薩摩、土佐の志士たちと交流を深め、公卿・三条実美を通じ、「航海遠略策」の公認取り消しを実現する。六月、長井雅楽は免職。長州は「開国」から「攘夷」に藩論を転換する。七月、政事総裁職に就任した松平春嶽は政治改革に乗り出す。閏八月、陸奥会津藩主・松平容保は京都守護職に就任。志道聞多は藩命により、横浜にて蒸気機関搭載の英国帆船「ランリック」の購入交渉を開始する。(後の「癸亥丸」である)・・・長州は小型蒸気戦の「壬戌丸」と大型帆船「庚申丸」「丙辰丸」に合わせ四隻の軍艦を所有することになる。薩摩藩士による生麦事件発生。尊皇攘夷志士の間で薩摩の名声が高まる。九月、帰国した高杉は藩主後継者の毛利定広の側近として江戸に出る。三条実美とともに江戸入りした久坂らと合流。十二月、長州藩御楯組は攘夷派の期待に応えるために品川御殿山に建設中の英国公使館焼き討ちを実行する。松平容保は会津藩兵を率いて上洛。公武合体派と尊皇攘夷派の激突は迫っていた。

品川の遊郭「相模」は長州藩過激派のたまり場となっていた。

品川沖に停泊する長州軍艦「庚申丸」の乗員の休憩場所でもある。

桂小五郎や松島剛三、志道聞多などの明倫館の出身者と久坂玄瑞ら松下村塾の出身者は両校を股にかける高杉晋作によって交流を深めている。

「長州藩の人気がもう一つじゃ・・・」と桂は暗鬱につぶやいた。

剣士として名高い桂は江戸の剣術仲間の評判を気にしていた。

「薩摩の久光様は・・・公武合体派として主導権を握ろうとしたが生麦で異人を斬って攘夷派に快哉を叫ばした・・・皮肉なことよ」

「それにくらべて・・・我が藩は京では尊皇攘夷を口にするが・・・江戸では幕府に追従していると陰口を叩かれている」と久坂は愚痴る。

「西郷に言われたように・・・長井を斬るか」と桂。

「それじゃあ・・・ただの内紛です」と志道聞多と口を挟む。

言葉は丁寧だが・・・下級藩士の桂や久坂とは違い、志道は藩主から名前を授かるほどの身分の高さがある。

「しかし・・・攘夷を掲げた以上・・・何かしなければ・・・肩身が狭いのです」と品川弥二郎が口を閉ざした二人の代わりに応える。

「攘夷と口にするのは・・・たやすいがのう・・・」と松島剛三が年長者として意見を言う。

「今、長州は丙辰丸と庚申丸の軍艦しか持っておらん。二隻とも帆船じゃ・・・黒船一隻とも渡り合えんぞ・・・」

「だから・・・二万両の船を長崎で買っとけばよかったんじゃ・・・薩摩じゃ、七万両の船を買っていた」と高杉晋作が口を挟む。

晋作は買いたいものが買えなかったことで藩の上役を怨んでいた。

「まあ・・・藩論が変わったので・・・今度は買えると思います」と聞多は晋作を宥めた。

「やはり・・・どこかで異人を斬ってくるか」と晋作。

「神奈川の宿のあたりでは異人がよく散歩しているそうだな」と久坂。

二人の目はギラギラしてくるのだった。

「もう少し・・・派手なことをしないと・・・しかし、この間は久坂さんがうっかり、土佐の武市さんに話すから・・・山内様を通じて異人への斬りこみの件が若殿様にもれて・・・おしかりを受けたでしょう」と伊藤利助。

「すまん」と久坂が素直に頭を下げる。

「どうでしょう・・・幕府の用意している英国人のための屋敷を燃やしてしまうというのは」

「なるほど・・・」

「しかも・・・藩には秘密にして・・・世間には噂だけを流すのです」

「長州もやる時にはやるな・・・という感じにですな」と聞多も同意する。

「松下村塾で開発した時限発火装置が使えるな」と久坂。

「やろう・・・」と晋作が同意を示す。

「やろうやろう」と一同は熱狂的に叫ぶのだった。

遊女たちは男たちの騒ぎに寝ぼけ眼をこすった。

品川に初雪が舞い始めている。

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2015年5月17日 (日)

閃光!ヘソチラリズム(大倉忠義)山本美月ではありません(八乙女光)バッカじゃないの~連打(多部未華子)

初夏だからな。

冷やし中華はじめる季節かっ。

久しぶりにおヘソがサービスされました。

殺意に満ちた(木)(金)の後で止めを刺された感じでございます。

ミステリにはつきものの痴漢事件展開。

基本はこうだ。

①痴漢行為は犯罪です。

②痴漢は冤罪の可能性を含んでいる。

③痴漢は被害者の自演の可能性がある。

④痴漢がらみで被害者による加害者に対する強請が発生する。

⑤これらが複雑に絡んで殺人事件に至るケースがある。

このドラマの特徴は脱線である。

④あたりで脱線して②に戻り、衝突事故によって⑤という感じになっています。

しかし・・・見せ場でヘソをサービスしてくれたので本編の内容はどうでもいい感じになっています。

・・・おいっ。

で、『ドS刑事・第6回』(日本テレビ20150516PM9~)原作・七尾与史、脚本・川崎いづみ、演出・川村泰祐を見た。やはり・・・メインライターだと構成もセリフもグダグダ感が高まるよねえ。「北風と太陽」なんて決め言葉は・・・決めるところで決めないと。法廷で白金課長(吉田羊)が「これはどういうこと?」と聞いたら代官さま(大倉忠義)が「北風と太陽らしいです」と答え「?」となるくらいのわかりやすさでいいと思います。・・・ま、余計なお世話なんですけど~っ。ゆるい系なんだもんな。でも・・・どSがものたりないしい・・・だからゆるふわ系なんだよ。ゆるっとしてふわっとしてな。・・・もう、本題にはいれよ。

河川敷でヴィクトリア女学院の女子高生・河東めぐみ(恒松祐里)の遺体が発見される。

死因は頭部の傷・・・。暴行された形跡はなく・・・金銭などは残されていたが、携帯電話が紛失していた。

事件と事故両面での捜査が始る。

白金課長は学校での事情聴取をマヤ(多部未華子)に命じる。

マヤはヴィクトリア女学院の卒業生だったのだ。

しかし・・・代官様が驚いたのは・・・担任教師の小松原徹子(吉田羊=二役)が課長に瓜二つだったということだ。

しかも・・・双子でも親戚でもなくただのそっくりさんなのだった。

ゆるふわ系なのである。

マヤはかっての担任教師に軽く聞き込みをした後で・・・後輩たちに聞き込みをする。

その結果、河東めぐみが痴漢被害の常習者であることが判明する。

痴漢の常習犯でなく・・・毎日のように痴漢に会うことを生まれてから一度も痴漢にあったことのないマヤは不審に思うのだった。

そんな・・・多部ちゃんが・・・電車に乗っているのに痴漢しないなんて・・・ありえない。

何でお前が変態宣言しているのだ。

・・・失礼しました。

鉄道関係者に聞き込みに行ったマヤたちは痴漢事件が一度も立件されていないことを知る。

「示談ですか・・・心が広い子だったんですね」

「バッカじゃないの・・・」

有栖川係長(勝村政信)は河東めぐみが多額の銀行預金をしていたことをつきとめる。

痴漢加害者の事情聴取から・・・めぐみが大金を強請っていたことが判明するのだった。

一方、めぐみはデート・クラブで不純なアルバイトもしており・・・その関係者など不審人物が次々に浮上する。

もちろん・・・これはすべて例によってミスリード(されないけどな)のための煙幕であり・・・マヤはゆるふわ系特有の根拠のなさで・・・めぐみのクラスメートで学校を休んでいる水上香奈(森川葵)に焦点をあわせる。

あまりん・・・また君に会えたね・・・なんじゃ・・・お前はっ。

あまりんじゃなくて・・・香奈を尾行したマヤと代官様は・・・安藤理恵(玄覺悠子)と遭遇する。

香奈の父親・透(おかやまはじめ)は理恵に痴漢をした犯人として裁判中なのである。

「痴漢を装って強請をしていた女子高校生が死に・・・そのクラスメートの女子高生の父親が痴漢の犯人として裁判中・・・これってすごい偶然ですね」

「ばっかじゃないの・・・」

マヤは香奈を挑発するのだった。

「あなたのお父さんは痴漢したんですってね」

「父は痴漢なんかしません」

「根拠はあるの」

「このドラマ、基本的に根拠は必要ないって聞きましたけど」

「それは主人公だけに許された特権よ」

マヤは川浜線春峰駅と御風台駅間で起きた列車走行中の痴漢現場を再現するために・・・代官様を女装させようとするが・・・拒否され・・・やむなく浜田刑事(八乙女光)を起用する。

浜田はノリノリで山本美月に変装するが・・・変装したわけじゃないぞ・・・結局、お尻を代官様に触られたまま・・・強力接着剤Sの餌食となる。

いつものコーヒーカップで回る二人。

「もっと・・・もっと・・・」

「はい~っ」

「とめてっ」

「何か・・・分かりましたか・・・」

「北風と太陽ね・・・」

かったるいのでBARBER「代官山」の件をカットしたので意味不明になっています。

誰に何を説明しているんだ・・・お前はっ。

マヤは・・・真犯人に・・・ゆるふわになってもらうために・・・法廷に特別弁護人として乗り込むのだった。

いきなり・・・裁判沙汰である。

殺人事件とは無関係のような被害者のクラスメートの父親が被告の痴漢事件。

マヤは・・・酒に酔った被害者がバーで真相を喋っているVTRを入手していた。

そこには・・・被害者が・・・無実の罪の被告を嘲笑している場面が収録されていたのである。

「やってもいない痴漢の罪で・・・私は無実の男を刑務所に送り込んでやるの・・・すべての男に対する復讐なのよ」

「狂ってる」

「私を無能呼ばわりした男たちを私はけして許さない」

「あなたは・・・実際に無能なんでしょう・・・男性だけでなく・・・女性も口を揃えて・・・あなたのことを極めて無能と証言しています」

「きいいいい」

錯乱した・・・理恵は法廷で暴れるが・・・。

ファイト。ムチ。おへそ。逮捕である。

香奈の父親は無罪放免となるのだった。

「ありがとう・・・刑事さん・・・私、自首します」

香奈はめぐみの共犯者だったが・・・父親の事件が発生し、罪のない人からお金を強請るのはいけないことだと気がついたのだった。

「だから・・・もうやめようって・・・めぐみにいったら・・・もみ合いになって・・・めぐみは階段から落ちて・・・死んでしまいました」

「あなたには・・・死体遺棄および・・・傷害致死あるいは・・・殺人の嫌疑かかかります」

「・・・」

「あなたは・・・もっと早く気がつくべきだった・・・本当の喜びは・・・お金を得ることではない・・・人が嫌がる姿を観察することだと・・・」

「・・・え」

「ただの独り言よ・・・」

「独り言は一人の時に言ってください」

「大丈夫、オンエアの時にはカットになっていると思うから」

「どこに・・・そんな・・・」

根拠なんて必要ないのだ・・・どうせ妄想なんだから。

お前も・・・ゆるふわ系かっ。

今週の新事実・・・課長はネズミが怖い。とにかく・・・ゆるふわなんだな・・・。

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2015年5月16日 (土)

望んだものが手に入らないことは珍しいことではありません(山下智久)

世界は刺激で満ちている。

生物は刺激に反応して変化する。

誘蛾灯に誘われて昆虫は短い生涯を終えるのである。

人間は光の反射によって光景を感じる。

光による刺激は情報として処理され、記憶されると同時に、時には身体に興奮状態をもたらす。

目の前に障害物があるという認識は回避行動を選択させる。

処理速度が速ければ速いほど迅速な対応が可能となるのである。

現在の主人公は人為的に脳神経の処理速度を高められている状態だと妄想できる。

頭が良くなったからと言って体技が向上するのはおかしいと考える人は・・・知性というものの正体を誤解している可能性がある。

ボクサーがパンチを防御するのは知性の働きなのである。

その証拠にパンチドランカーはパンチをよけることができない。

アルジャーノン効果による脳機能の活性化によって・・・主人公は常人の動きを洞察する。

そして・・・素早い回避行動に必要な身体制御を余裕で行えるのである。

天才的なアスリートというものは恐るべき知性を秘めているのだ。

それを表現するかしないかは・・・個人の資質の問題なのである。

で、『アルジャーノンに花束を・第6回』(TBSテレビ20150515PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・酒井聖博を見た。少女マンガの伝説的な手法に「メガネをとったら美少女」というものがある。本当にそういうものがあるのか・・・誰が始めたのか・・・そういう研究は別人にまかせるとして・・・その手法に秘められた知性というものを妄想しておく。まず・・・美少女というものがあることを少女マンガ家(主に女性)は認めている。そして美少女は必ず男子生徒の心を奪うものだという確信があるわけである。一方でメガネ少女は美少女ではない。つまり、美少女ではない少女である。美醜と言う対比によれば醜い少女と言ってもいいが、ここは配慮して普通の少女ということにしておく。つまり・・・メガネ少女は全員がメガネをとったら美少女なのである。恐ろしいほどの美へのこだわりと・・・自分勝手な解釈が秘められているのが「メガネをとったら美少女」なのである。逆説的に・・・同一人物であるが何らかの変化が生じることによってなかった恋が生じることを少女マンガ家たちは暗黙の了解として提示している。つまり、基本的に本質は問われないのである。この物語のヒロインである望月遥香(栗山千明)は科学者としての理性によって「メガネをとったら美少女」の呪縛に抵抗する。しかし、その抵抗は虚しいものなのだ。一方でキモオタメガネ男子でDTの小久保研究員(菊池風磨)は生物的に同種の「眼鏡っ娘」なら交尾が可能であると判定する。神話は新たな神話を生むものなのだ。これ以上の言及は避けよと多重人格会議で裁定されました。

世界で一番キスしたい女性である遥香が自分ではない男性・脳生理科学研究センターの蜂須賀大吾部長(石丸幹二)とキスをしているのを目撃した「ドリームフラワーサービス」の従業員である白鳥咲人(山下智久)は・・・アルジャーノン効果による脳の活性化が麻痺するほどの刺激を受けるのだった。

混乱した咲人はかねてから自分に好意を示す河口梨央(谷村美月)をドライブに誘う。

咲人のショックを受けとめる覚悟を持つ梨央は咲人を抱擁し唇を奪う。

世界で一番キスしたい女性ではない梨央とキスをしたことにより・・・咲人の興奮は鎮静化するのだった。

夜が明け・・・「興帝メディカル産業」の社長令嬢である梨央の別荘のベッド・ルームで目覚める咲人。

全裸の咲人は全裸の梨央の手を振りほどき・・・瞑想にふける。

白鳥咲人監視員の一人、杉野(河相我聞)はモニター車から発信する。

「今・・・覚醒しました・・・性交渉はなかった模様です」

連絡を受けた蜂須賀は転送されたデータを解析する。

「遥香くんに情事が発覚する可能性を考慮したか・・・いや・・・童貞特有の気遅れに過ぎないかもしれないな・・・もったいないことだ」

しかし・・・恐ろしいことに梨央は巨乳ではない設定なのである。

隠し切れてないがな・・・。

一方、遥香の心は揺れていた。

夢にまで見た蜂須賀部長とのキス。

しかし・・・それは愛の表現ではないことが経緯から明瞭だった。

しかし・・・そう見せかけたプレイの可能性もある。

それにしても・・・予想以上に心が騒がないことを意外に感じる遥香だった。

それよりも・・・咲人に見られたことが気にかかるのだった。

もちろん・・・当然よ・・・実験対象でもあり、その推薦者であることから保護対象でもある咲人に無用な刺激を与えてしまった科学者として・・・反応がきになるのは・・・。

けれど・・・それだけとは言えない。

全くの対象外だと思っていた咲人が・・・瞬く間に魅力的な異性に変貌を遂げていることは明らかな事実だった。

まさか・・・私は・・・彼に魅了されている?

いけないわ・・・そんなことはあってはいけないわ。

科学者がマウスに恋するなんて・・・間違っているもの・・・。

遥香は必死に現実から目をそらすのだった。

葛藤から逃避するために咲人のデータ解析に没頭する遥香。

そんな遥香は蜂須賀から呼び出されるのだった。

蜂須賀への恋愛感情と咲人への恋愛感情を天秤にかけながら・・・やってきた遥香はそこに両者が揃っていることに激しく動揺するのだった。

「彼は・・・実の母親に会いたいそうだ」

「え」

意表をつかれる遥香。

遥香は咲人との恋愛を禁じる方便として・・・自分を咲人の擬似母として位置付けている。

それは・・・咲人が実の母と別離していることが前提なのである。

咲人が実の母親と面会してまえば・・・自分の立場が揺らいでしまうと遥香は感じる。

まさか・・・そのために・・・彼は母親と会うつもりなのりか・・・。

私の逃走経路を塞ぐ気か・・・。

「彼は・・・ご母堂の住所を知らないそうだ・・・君は手術の許可を得るために咲人くんのご母堂とコンタクトをとっただろう」

「はい・・・」

「彼に教えてやってくれ」

「それでは・・・私が案内します」

「その必要はありません」と咲人は落ちついた口調で言う。

「しかし・・・突然、咲人さんが行ったのでは・・・お母様が混乱なさるのでは・・・」

「母は知的障害者だった僕を・・・遠ざけたわけですが・・・今の僕は・・・もはや、知的障害者とはいえないでしょう・・・違いますか」

「そうですね」

「きっと・・・母は喜んでくれます。遥香さんの手を煩わせる必要はないでしょう。それに僕も親子水入らずで・・・対面を果たしたいのです」

「・・・わかりました」

「一夜にして彼は素晴らしい成長を遂げたと思わんかね・・・一体何があったのだろう」

蜂須賀は素知らぬ顔で遥香に問いかける。ちょっとした悪戯心なのだろう。蜂須賀はすべての関係者を支配下に置いているという自信があった。

「それは・・・」

遥香は何事もなかったように振る舞う咲人の心理を読みかねていた。

「咲人くん・・・君に見せたいものがある」

蜂須賀は研究所内の咲人のプライベート・ルームを公開した。

「ここが・・・君専用の勉強部屋だ・・・私からのささやかな贈りものだよ・・・君の勉強に必要なものが他にあれば・・・申し出てくれたまえ」

自分だけの勉強部屋・・・咲人は一瞬、苦悩を忘れる。

蜂須賀が自分に寄せる好意を信ぜずにはいられない・・・咲人なのである。

満足そうに教授は立ち去る。

咲人と二人きりになった遥香は関係修復をせずにはいられない。

「あの・・・昨日のことだけど・・・」

「一人にしてもらえませんか・・・勉強に集中したいのです」

言い繕うことを拒絶されたことで遥香は・・・咲人の中に例の件への拘りがあることを直感するのだった。

二人の男に縛られた遥香は宙吊りになった自分をイメージする。

遥香は修羅場からの撤退を選択するのだった。

咲人はその行為を・・・自分の気持ちに対する拒絶と判断した。

咲人の中で遥香は聖なる存在としてのバイアスによって美化されている。

遥香が売女のようなふたまたをかけることは想定外なのであった。

咲人は遥香の聖なる耳飾りを取り出した。

それは・・・知的障害者として死んだ咲人と・・・アルジャーノン効果により蘇生した現在の咲人の境界線を象徴するアイテムである。

その輝きは色褪せない。

(愛している女性が自分以外の男性を愛している・・・それはそれほど特殊な状況ではない・・・この心の痛みをのりこえるためには・・・感情に蓋をするのが効果的だろう・・・彼女への思いを封印する・・・時はいつの日にも親切な友達・・・過ぎて行く昨日を物語に変える・・・本当にそうなのか・・・実験してみる価値はあるだろう・・・)

咲人は自分の机の引き出しに・・・輝くものをそっと収納した。

神様・・・できるなら・・・私に・・・ベンツを買ってください

いかしたピンクのメルセデス・ベンツを

咲人は虚空に響く歌姫の声を聞いたような気がした。

咲人は基礎的な認知心理学の文献を読破する。

自分の知力がどのような方法で向上したのか・・・興味が湧いたのだった。

ママはきっと・・・質問する。

どうして・・・お利口さんになれたの?

すると僕はこう答える・・・体裁つけて・・・。

咲人は微笑んだ。

遥香は教授に提案する。

「咲人さんの住居であるひまわり寮にも観測機器を設置してはどうでしょうか」

咲人の推薦者である遥香は咲人が常時監視対象に置かれている状況からは疎外されている。

蜂須賀だけがすべての情報を統括しているのである。

蜂須賀は第一被験者の遥香に対する特殊な感情を刺激として利用するために遥香に一部の情報を秘匿していた。

「・・・よかろう・・・咲人くんの知的進化は常時進行中だからな」

「24時間であれほどの・・・変化が起きるとは予測していませんでした」

「そうだね・・・彼はすでに感情をコントロールする段階に進んでいる」

「なぜでしょう・・・誰にも教わらずに・・・」

「世界が彼を導いているのだ・・・」

「世界が・・・」

遥香の中で教授に対する不信感が芽生え始めている。

盲信的な追従からの脱却・・・それが咲人に対する感情に影響されていることに遥香はまだ気付かない。

遥香の精神は動揺しているのである。

モニター機器の設置に訪れた遥香に竹部社長(萩原聖人)が応対する。

「ご協力に感謝します」

「いや・・・凄い機械ですね・・・咲人は眠っている間も・・・監視されちゃうわけですか」

「・・・」

「何を考えているか・・・わかるわけですよね」

「そこまで科学は進化しておりません・・・神経細胞活性化の程度が分かるだけです」

「つまり・・・興奮しているか・・・どうかとか・・・」

「まあ・・・そうですね」

「それも・・・なんだか・・・アレですね・・・夜の部屋で一人・・・男が興奮しているなんて・・・もう」

「・・・」

「あ・・・こりゃ・・・失礼・・・咲人は研究所ですか?」

「今日は・・・白鳥窓花に面会に行かれてます」

「え・・・」

「その・・・本人の希望でしたので・・・」

「それは・・・不味いかもしれません」

「何か・・・不都合でも・・・」

「咲人のお母さん・・・窓花さんは・・・メンタルに少し問題が・・・あるのです。お会いになった時に感じませんでしたか・・・」

「さあ・・・確かに咲人さんに対しては感情的な態度でしたが・・・それは彼の知的障害の問題が尾を引いているのかと」

「母親が子供を捨てるんです・・・もう・・・その時点でまともじゃないんです」

「・・・」

遥香は竹部社長から窓花(草刈民代)に精神科の通院歴があることを明かされた。

遥香は自分のうかつさを知りながら白鳥家に向かう。

咲人は花束を抱えていた。

アルジャーノンのママである輝きの人・・・遥香に求めて得られなかったものを・・・本当のママから与えてもらうのだ。

賢くなった自分を見て母はどんなに・・・喜ぶだろうか。

咲人は遥香への思いを封じるためにも・・・無償の愛を求めていた。

チャイムを鳴らす。

「お花のお届けです・・・」

窓花は不審げな顔を見せる。

「ママ・・・」

「咲人・・・」

窓花の顔に浮かんだのは喜びではなく・・・恐怖だった。

「ママ・・・」

「何しに来たの・・・」

「ママ・・・僕は・・・」

「来ないで」

咲人は・・・心が崩壊していく音を耳にする。

朝帰りをした咲人を職場の同僚として事情聴取した隆一(窪田正孝)は康介(工藤阿須加)に同意を求める。

「おかしいだろう・・・一晩一緒にいて・・・何もないなんて」

「・・・」

「ベッドで手をつないでましたなんてさ・・・」

「手をつないでいたかどうかもわからんぞ」

「なんでだよ・・・咲ちゃんはもう・・・ホームランを打てる男なんだぜ」

「野球と・・・そういうことは違うだろう」

「いや・・・咲ちゃんのバットはビンビンだったはずだ」

「よせよ・・・」

「なんでだよ・・・お前・・・まさか・・・咲ちゃんに嫉妬してんのか」

「・・・」

「おいおい・・・いくらなんでも・・・梨央ちゃんは・・・無理だよ・・・咲ちゃんがどうのこうのじゃなくて・・・考えてみろよ・・・向こうはお嬢様・・・俺たちは前科者だぜ」

「そんなこと・・・お前に言われるまでもない」

「・・・マジなのかよっ」

隆一は困惑した。

東京麗徳女子大学の教室で小出舞(大政絢)は梨央を問いつめる。

「本当に何もなかったの・・・裸になったのに・・・」

「服が濡れてしまったからよ・・・」

「それで・・・抱き合って・・・ベッドに入って・・・」

「それだけです」

「それって・・・ある意味・・・失礼な話じゃない・・・」

「よく・・・わからないけど・・・私はすごく幸せだった・・・」

「まあ・・・あんたがいいなら・・・いいけど・・・とにかく・・・急にいなくならないでよ・・・あなたのお父さんに連絡もらった時には心臓止まるかと思ったわ」

「お父さんに・・・なぜ・・・」

舞は一瞬・・・答えに迷う。

しかし・・・嘘をつきたくない気持ちがごまかそうとする理性に勝った。

「私・・・あなたのこと・・・お父様から・・・聞いてしまったの」

「私のこと・・・」

「病気のことよ・・・」

「私に嘘はなしよ・・・友達だから・・・」

「友達だから・・・知られたくなかった・・・」

「そういうのをね・・・水くさいって言うの・・・分かる?」

「初めて・・・その言葉を使っている人に会ったわ」

「私も・・・使ったの初めて・・・だけどどういう意味なのかしらね」

「お酒を水増ししたのよ・・・つまり・・・他人行儀ってことよ」

「・・・あんたって・・・よくわからない」

「処女だって・・・知ってることは知ってるの」

遥香は白鳥家のチャイムを鳴らした。

応答はない。

そこへ・・・花蓮(篠川桃音)がやってくる。

「母に何か御用ですか」

「あなた・・・咲人さんの・・・妹さん」

「・・・兄のお知り合いですか」

花蓮と咲人は室内に入り・・・散乱した部屋と蹲る窓花を発見する。

「お母さん・・・どうしたの」

「いや・・・いやなの・・・」

「お母さん・・・」

「咲人は・・・いやなの・・・」

「すみません・・・すぐに落ち付くと思います」

「・・・」

「母は・・・知的障害者の兄を受け入れられなかったのですが・・・そういう自分自身も受け入れられなかったのです」

「・・・」

「ずっと・・・精神が不安定なんですよ・・・失礼ですが・・・あなたは・・・」

遥香は身分を明かした。

咲人は自宅に戻っていた。

モニター車から杉野は蜂須賀に報告する。

「ようやく・・・鎮静化しました・・・事故でも起こしたらどうしようかと思いましたよ」

(彼は今・・・世界の不条理を克服しようとしているのだ)

「不条理・・・ですか」

(そうだ・・・あるいは人生がけして思い通りにならないことを・・・)

「それを思い知るのは・・・」

(知性化だよ・・・知性化そのものだ)

「・・・遥香くんが到着しました」

(監視をつづけたまえ・・・)

美しい遥香の登場にマヨネーズご飯をどんぶりで食べていた鹿内(勝矢)たちは興奮する。

「咲人さんは・・・お帰りでしょうか」

「部屋にいます・・・案内しましょうか」

丁重に断った遥香の後ろ姿を従業員たちは羨望の眼差しで見つめる。

(ちくしょう・・・咲人の野郎・・・うまいことやりやがって・・・)

(バカだったくせに・・・)

(アホだったのに・・・)

しかし・・・更生を目指す男たちは口を慎むのだった。

咲人の部屋に鍵はついていなかった。

「お母様のところで・・・何があったの?」

「僕が・・・母に何かしたとでも・・・?」

「そんなことは思わないわ・・・」

「ただ・・・想像してたのと・・・違っただけです」

「・・・」

「僕は・・・もっと歓迎されると思っていた・・・しかし、実際は招かれざる客だった・・・それだけです・・・母は僕が復讐に来たとでも思ったのでしょう」

「そんなことはないわ・・・ただ・・・ちょっと・・・お母様は精神的に不安定な状態が続いているそうよ・・・あなたのことも・・・後ろめたい気持ちがあるっていうか・・・」

「母が自分の行動に自責の念を感じて精神失調になった・・・僕はそう推測して納得しましたよ・・・問題ありません」

「・・・あの・・・昨日のことなんだけど・・・あれは誤解なのよ」

「それについては・・・過去のことですし・・・もう結構ですよ・・・嘘は嫌いなんです」

遥香は言葉を封じられた。

自分が何を言いわけしようとしていたのかわからくなったのだ。

あれは・・・偽りのキスだった。

だから自分は満足しているわけではないと・・・。

それとも・・・本気のキスではないから・・・あなたが傷つく必要はないと。

いや・・・もはや・・・自分が蜂須賀の本気のキスを求めているのかどうかも自信がなくなっていた。

そもそも・・・彼は・・・誤解などしていないのではないか。

私を信じてよ

あなたを傷つけるつもりはない

そんな気はないのよ

私を信じてよ

たとえ私があなたを傷つけたとしても

そんな気はなかったって

遥香には分かっていた。咲人のためと言いながら・・・咲人を蜂須賀に犠牲として捧げたのが自分自身であることを・・・。

咲人は梨央のことを考えていた。

梨央は今の処・・・咲人の希望を叶えてくれた相手だった。

呼び出しに応じ・・・咲人を抱きしめてくれた。

しかし・・・彼女もまた・・・咲人を裏切るのだろうか。

梨央に裏切られた時、咲人は自分自身がどう変化するのか・・・それを恐れた。

母親のように・・・遥香のように・・・。

それを回避する手段を咲人は考える。

迷路の中を彷徨う咲人。

咲人はひとつの解答を得る。

裏切りを防ぐためにもっとも有効な方法は・・・先に裏切ることだった。

「君とはこれきりにしたい・・・」

「何故・・・」

「君は・・・絵本のような恋を求めているのだろう・・・」

「絵本のような・・・」

「かっての僕は・・・君の期待に応えることのできる存在だった」

「・・・」

「無垢で・・・君に何も求めない・・・知的障害者だったからだ・・・」

「・・・」

「しかし・・・今の僕は・・・そうではなくなってしまった・・・」

「・・・」

「だから・・・君の相手にはなれない・・・」

「・・・」

「それは・・・僕にとって時間の無駄だから」

「時間の無駄・・・」

「さようなら」

「・・・」

咲人は梨央の裏切りをシャットアウトしたのだった。

梨央は茫然とした。

咲人はALG研究チームの議論に参加する。

「正常なシナプスではスパインが発達するが・・・記憶に支障があるケースでは未発達であることによって・・・」

杉野の言葉を咲人は遮った。

「カルシウムイオンの局部的増加を阻害しているという予測ですか・・・」

杉野は言葉を奪われて驚く。

「その通りだ・・・」と蜂須賀が応じる。「スパインの回復を促すことも一つの重要課題と言える・・・神経細胞の正常化メカニズにATGがどのように関与しているのか・・・まだ未解明の部分は残されている・・・どうやら・・・君の知識は我々に追いついたようだな」

「自分の現状を正確に把握しようとしない人間は少ないでしょう」と咲人は答えた。

「諸君・・・我々は・・・新しい研究員を迎えることになったようだ」

「僕が・・・ですか」

「そうだ・・・君はアルジャーノン効果の研究者として・・・自分以上の適任者がいると思うかね」

「それは・・・データ不足です」

「謙遜の必要はあるまい・・・どうかね・・・そろそろ・・・今の職業や・・・住居とは決別しては・・・」

「それは・・・少し考えさせてください・・・そこには・・・友人たちがいるのです」

「そうか・・・しかし・・・その友人たちは・・・君に相応しい存在と言えるのかな・・・だが・・・それもまた・・・君の自由だ・・・とにかく・・・君の経済的自立は保障したい・・・君名義の限度額なしのカードを用意した。受け取ってくれるね」

「ありがとうございます」

研究員たちは拍手で咲人を迎え入れた。

咲人は女性たちに比べて男性との人間関係にはそれほど複雑な要素はないと思いたがっていた。

確かにかっては・・・知的障害者として対等ではなかったかもしれない。

しかし・・・今は咲人の方が賢いと言える。

仲間たちがアドバイスを必要とした時・・・今の咲人なら適切な意見を述べることができるだろう。

そうすれば・・・彼らは感謝してくれるはずだ。

女性たちの影に苛まれた咲人は男たちの光に希望を見出そうとしていたのだ。

それは童貞が女性に幻想を抱くようなものだ。

咲人は研究チームに参加し・・・健康を維持するためにトレーニングを開始する。

もちろん・・・それは同時にアルジャーノン効果が人体に与える影響を検証するためのものでもあった。

日に日にたくましくなる咲人を・・・遥香は複雑な思いで見つめるのだった。

彼を今ある姿に導いたのは・・・自分だ。

遥香はようやく・・・それを認め始めていた。

「これがALGですか」

「そうだよ・・・リノール酸系酵素の一種を使った配糖体だ・・・これが君の未発達だったシナプスを再構築する魔法の薬だった」

小久保は咲人の質問に応える。

研究員たちは咲人に対してレベルBの情報開示を許されていた。

もちろん・・・トップシークレットを知るのは蜂須賀だけである。

レベルBは咲人に対する人権無視の監視を知らない遥香と同じレベルの情報である。

「あなたは・・・記録によれば僕への投与に反対していますね」

「そうだ・・・時期尚早と思ったからだ・・・しかし・・・蜂須賀部長に押し切られた・・・今となっては杞憂だったけれどね」

「遥香は賛成したんですね」

「そりゃ・・・そうさ・・・君の推薦者だもの」

咲人は遥香の意図を正確に読みとることができた。

(ひとにぎりの善意と・・・愛する蜂須賀博士への忠誠心か・・・)

咲人よりもはるかに己を知らない康介は情熱に突き動かされていた。

東京麗徳女子大学にやってきたのだった。

僥倖に恵まれた康介は・・・舞の不在を喜んだ。

「どうなさったの・・・」

「君に会いたくて・・・」

「まあ・・・」

「わかってる・・・君が咲人と結ばれたってことは・・・でも・・・俺、どうしても君のことが忘れられなくて・・・」

「結ばれたって・・・」

「・・・」

「咲人さんにはお別れしようって言われてしまいました・・・」

「なんだって・・・」

康介は幸運の訪れに大量の脳内麻薬性物質を放出する。

しかし・・・その時・・・梨央は発作を起こして意識を喪失していた。

「梨央ちゃん・・・」

康介は助けを呼ぶべきか・・・迷う。

しかし・・・梨央の体臭が康介を惑わせる。

今・・・高嶺の花である梨央は他の誰のものでもない。

そう思うと康介は身動きできなくなった。

そこへ・・・舞が血相を変えて駆けつける。

意識を取り戻した梨央は病院で検査を受けた。

そこへアルジャーノン効果研究の影のスポンサーである梨央の父親・興帝メディカル産業の河口社長(中原丈雄)が現れた。

「お父様・・・もう病院での検査は終わりにしたいのです」

「何を言ってる・・・」

「私は残された時間を・・・自由に生きたい」

「梨央・・・お前は治るんだ・・・」

「何をおっしゃってるの」

「画期的な治療法が完成したのだ・・・次の学会での発表を一緒に見る予定だ」

「まさか・・・」

「奇跡が起きたんだよ・・・」

「・・・」

食堂でギャンブルに興じる男たち。

鹿内は咲人に声をかける。

「お前も一緒にやんねえか」

「僕は勉強しなければなりません」

「また・・・お勉強か・・・一体、何をそんなに勉強するんだ」

「人間は・・・少しでもチャンスがあるなら・・・全力でチャレンジするべきなのです。鹿内さんにだって学べることはあるはずです」

「なんだとこら・・・」

「暴力では何も解決しません」

「俺の気分がスカッとするんだよ」

しかし、空を斬る鹿内のパンチ。

咲人の活性化した脳細胞には愚鈍な常人の動きはスローモーションのように映る。

「暴力なんて・・・虚しい行為ですよ。非生産的です」

「てめえ・・・」

「まあ・・・まあ・・・咲人には悪気はないんですよ・・・一種のお勉強バカみたいなもんですから」

隆一は場を宥めるのだった。

「咲人・・・お部屋に行こうねえ・・・」

「お勉強バカって何ですか・・・」

「だから・・・勉強しすぎて空気が読めなくなる奴のことだよ」

「・・・」

隆一は咲人の部屋についてきた。

「なぜ・・・部屋に来たのですか」

「今日は・・・鹿内の大将・・・虫の居所が悪いんだよ・・・康介がいれば・・・いいのに・・・あいつ、肝心の時にいないから」

「僕は大丈夫です・・・空気を読みます」

「それだよ・・・その口の聞き方が・・・危険なんだよ」

そこへ・・・康介が戻ってきた。

「よかった・・・」

「咲人・・・お前・・・梨央さんにひどいこと言ったそうだな」

「え」

三人は公園に来た。

「僕は・・・彼女と交際する気はないので・・・正直に伝えただけです」

「彼女にだって・・・色々と事情があるんだよ・・・察しろよ」

「何をですか・・・知的障害者だから安心して近付いてきた彼女のために・・・知的障害者を演じろっていうのですか・・・僕は嘘は嫌いです」

「なんだって・・・」

「それに・・・僕はともかく・・・檜山さんだって・・・彼女と愛し合うことは難しいでしょう。彼女の地位と前科者では釣りあいません」

「な・・・なんだって」

「おい・・・咲ちゃん・・・それは言いすぎ・・・檜山もさあ・・・咲ちゃんは・・・母親に会いにいっていろいろあったみたいだから・・・今日はそっとしておいてやってよ」

「母親のことは無関係です。僕は乳離れをしたのです。柳川くんこそ・・・お母さんとは縁を切った方がいいですよ。依存関係を続けると・・・双方がダメになることがデータとして明確になっています」

「なんだと・・・こら」

「結局・・・あなたたちは・・・知的障害者だった僕の方が好きなんですね。自分より愚かで・・・見下ろすことができて・・・癒される・・・だから・・・そうでなくなった僕が・・・許せないんだ」

「え」

「咲人・・・何を言ってるんだ」

「人間は集団の中で・・・自分より下の存在がいることに安心する傾向が顕著なのです」

「咲人・・・」

「どうやら・・・もう・・・僕はあなたたちに必要とされない存在みたいだ・・・」

「おまえ・・・どうしちゃったんだ」

「おまえ・・・誰なんだよ」

「僕は・・・白鳥咲人です・・・脳生理科学研究センターの研究員です」

咲人は・・・かっての仲間たちに別れを告げた。

結局・・・人間は・・・誰もが・・・咲人を見下していた。

そして・・・都合のいい時に利用していたのだ。

「僕は・・・もう・・・ルアーではありません」

「・・・」

咲人は赤い車で研究所に向かった。

飼育室からアルジャーノンを取り出す。

そして・・・プライベートルームに籠るのだった。

「僕は・・・結局・・・一人ぼっちだ・・・アルジャーノン、友達はお前一人だよ・・・お前も・・・そうなんだろう・・・」

アルジャーノンは咲人の言葉に耳を傾けた。

愛は花のようなもの

だけど季節はめぐっていく

君はもしかしたら・・・

冷たい土の中で・・・

冬を過ごしているだけなのかもしれない・・・

来るべき春を待つ薔薇の種のように

学会の日がやってきた。

控室で・・・咲人は蜂須賀に尋ねた。

「どうして・・・僕は舞台に立つ必要があるのでしょうか」

「君は・・・過去の自分を隠し続けることができると思うかね」

「いいえ・・・いずれ・・・僕の存在は明らかにされてしまうでしょう」

「その時・・・知的障害者だった自分を隠していたことが・・・君の誇りになるかな」

「いいえ・・・それは恥ずかしいことです」

「それなら・・・あえて・・・嘘をつく必要はないだろう・・・」

「しかし・・・僕はこわいのです・・・」

「こわい・・・何が・・・」

「知性を獲得した僕のことを・・・結局、誰も喜んでくれません・・・僕はすべてを失ってしまったような気分になることがあります」

「人間は・・・不公平な存在だ」

「不公平・・・」

「そうだ・・・この世には価値のある人間とそうでない人間がいる・・・」

「価値のある人間・・・」

「そうでない人間は・・・価値のある人間を羨むものだ・・・君は自分の価値を投げだす人間をどう思う・・・」

「愚かだと思います・・・」

「その通りだ・・・君には私がいる・・・それでは不満かね」

「私には・・・あなたがいる・・・それで充分です」

遥香は二人の会話を立ち聞きしていた。

「先生・・・お時間です」

「よし・・・行こう」

遥香は・・・咲人に精一杯の忠告をした。

「だめよ・・・そっちに行っては・・・」

「・・・」

「あなたは・・・純粋で・・・優しくて・・・」

「そして・・・愚かだったのです」

「・・・」

「あなたには・・・感謝しています・・・僕を賢くしてくれたのは・・・あなただから」

研究所で・・・結局・・・留守番をしていた小久保は・・・咲人を訪ねて来た花蓮に遭遇する。

理想の女性にめぐり会えたと確信する童貞だった。

価値を失い見捨てられつつあるアルジャーノン担当として疎外されていることも苦にならないのだった。

「兄はいないのですか」

「どこにいるか知ってます」

蜂須賀の画期的な成果の発表は続く。

「ATGの効用により・・・知的障害者ゼロ社会が到来します・・・その記念すべき被験者を紹介しましょう」

父親は娘に言った。

「いわば・・・お前を助けるための実験台だ・・・」

「実験台・・・」

知的障害者時代の咲人の映像が映し出され・・・梨央と舞は息を飲む。

「そんな・・・」

「彼は・・・もはや・・・知的障害者ではありません・・・今では・・・我々のグループの優秀な研究員となったのです・・・白鳥咲人くん・・・どうぞ、舞台へ・・・」

明るいステージに高価なスーツに身を包んだ美しい青年が現れた。

聴衆は万雷の拍手で・・・奇跡の人を迎えるのだった。

咲人は今、脚光を浴びていた。

まるで・・・花が咲いたように・・・。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

Hcal006ごっこガーデン。朝まで一緒の白いベッドルーム・セット。

エリぼぎゃあああん。朝まで一緒で・・・何もしないなんて無理なのでスー。あんなことやこんなことをやってやってやりまくるに決まっているのでスー。でも、山P先輩となら・・・ずっと手を握って寝顔を見ているだけでも充分に満足できますよ~。最初の一週間くらいは・・・もうそれで大満足間違いなし~。咲人は花のように咲いたのですね・・・でも・・・咲いた花は・・・うえ~んなのでしょうかーっ

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2015年5月15日 (金)

ピーターパンの影はどこにいる?(木村拓哉)ピーターパンのいないところに(上戸彩)

「ピーターパン/ジェームズ・バリ」の知恵ある老人ソロモンは諭す。

「世界には二つの現在は存在しない・・・現在をやりなおすことはできない」と。

ピーターパンは忠告を無視して・・・母親の元へ帰るチャンスを逃し、永遠の少年になってしまうのだ。

しかし、それが何だと言うのだろう。

ピーターパンは子供たちの中で永遠の時を生きる。

現実の光の中で影を持たないことなど我慢すればいいだけの話だ。

しかし、子供たちは思い知るのである・・・自分がピーターパンにはなれないことを。

これまでにも述べて来たが原作コミックの主人公は陰惨な世界で生きている。

これは原作者の激しい現実否定の姿勢によるものである。

原作者の主観によれば・・・前世紀末の日本の暮らしは理想には程遠かったわけだ。

「ホーム3 親の住む家」で主人公は父親と母親が弟のヒロシとその妻・サチコ、そして甥のアキラと五人で暮らしている「家路酒店」に里帰りする。美味しい母の手料理を食べ・・・妻や息子の顔が仮面に見えないことを相談するつもりだった。ところが・・・家は24時間営業のコンビニエンスストア「Bac Mart Welcome!」に変貌していた。年老いた父親は主人公を歓迎するが、両親と同居している弟は冷たい。母親は寝たきりで認知症を発症し、嫁の悪口を延々と呟き続ける。そして店の経営は行き詰っている。落胆した主人公は引きとめる父親を残して実家から逃げ出す。追いかけて来た甥は「おじさん・・・よく来れたね・・・店をコンビニにするように言ってそれきり・・・おばあちゃんを入院させようとお父さんが言った時も家で介護するべきだと言ってそれきり・・・勝手すぎますよ・・・これ、おじいちゃんが土産にって・・・」・・・主人公は懐かしい故郷がすでに消滅したことを思い知り・・・在りし日の追憶に浸る・・・。

主人公を溺愛する父親の気遣いが・・・救いになるどころか・・・重くのしかかるのである。

世紀を越えて・・・ドラマは「2015年の親の住む家」を原作からかなり修正する。

その修正の是非は・・・お茶の間に委ねることにしよう。

ただ一つ言えるのは・・・20世紀だろうが・・・21世紀だろうが・・・時は過ぎ去って行き・・・変わらないものなど何一つないということである。

問題なのは・・・今をどう生きるかなのだ。

そういう意味では・・・「2015年のホームドラマ」として・・・スタッフは新たな地平を開拓しているとキッドは考える。

たとえ・・・原作にあった「困窮」の度合いが・・・かなり甘くなっているとしても・・・。チェーン展開しているコンビニ事業者が経営に失敗した場合の悲惨さなんてストレートに言えないしね・・・。大スポンサーなんだから。

で、『アイムホーム・第5回』(テレビ朝日20150514PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・七髙剛を見た。記憶の喪失を伴う高次脳機能障害となっている主人公・家路久(木村拓哉)は仮面をつけているとしか思えない妻子をなんとか受け入れようとようやく心に決めた。障害者となった久を優しく見守る妻・恵(上戸彩)と父親としての自分を慕う幼い息子・良雄(髙橋來)の存在が感じられ始めたからである。それが・・・久の現在の現実なのである。しかし・・・妻子が仮面の怪物に見える状況は改善の気配を見せないのだった。

葵インペリアル証券の末端に位置する第十三営業部。

すぐに曖昧になる記憶を補強するために久は手帳に記されたメモを確認するのだった。

「つまり・・・これまでわかったことは・・・かっての家路さんが・・・出世に目がくらんだひ・と・で・な・し・・・だったということですね」

同僚の四月(わたぬき)信次(鈴木浩介)はメモを覗きこんで囁く。

「なんですか・・・それ」

「あれですよ・・・滝川なんとかの・・・お・も・て・な・し・・・」

2013年ブエノスアイレスで開かれたIOCの夏季東京五輪誘致のプレゼンテーションにおいて滝川クリステルが使用した「お・も・て・な・し」のフレーズは「新語・流行語大賞」を受賞した。

過去、五年間の記憶を忘却している久には理解不能なのである。

「そうか・・・浦島太郎さん・・・ですものね・・・」

「東京五輪って・・・」

「2020年に開催決定ですよ」

「ええっ」

「そこからか・・・」

「滝川クリステルがニュースJAPANのキャスターを降板したことは・・・覚えています」

「好みのタイプだったんですか・・・」

「・・・」

「見た目残念な奥さんとは・・・その後どうなんですか・・・」

「なんとか・・・やってます」

「見たいな・・・写真あるんでしょう・・・見せて下さいよ・・・見せてくれてもいいじゃ~ん」

仕方なく・・・恵と良雄と撮った家族の画像を披露する久。

「え」

「・・・」

「凄い美人じゃないですか~・・・なんか・・・国民的美少女が爆乳になりましたって感じ・・・」

「・・・」

「この家は・・・」

「妻の実家です・・・」

「美人で巨乳で逆玉って・・・家路さん・・・謙遜するのも程がありますよ・・・それじゃ・・・イヤミだよね~」

「・・・」

久は・・・切実に妻の素顔を見たいと思うのだった。

「家路さんの実家はどうなんですか・・・」

「家は・・・貧しかったよ」

「最近は帰ったんですか」

「・・・」

「帰ったら・・・何か思い出すんじゃないですか」

「・・・」

その頃・・・恵は久の前妻・野沢香(水野美紀)の通うパン教室に潜入していた。

一向に上達しない恵のパンを焼く技術に・・・手を焼いた講師(宮地雅子)はどうやら上級者らしい香を紹介する。

恵が香が久の前妻であることを知っていることはほぼ確実なのだろう。

久と香が親しくしていることを知っている恵にはなんらかの思惑があることが予想される。

家路という名を聞いて・・・ライターである香が何も感じないはずはないので・・・水面下で二人の女は怪しいバトルを展開しているらしい・・・。

その意図は今の処・・・不明である。

一方・・・聖心カトレア幼稚園の「はっぴょうかい」が近付き、カモメ組の良雄は劇「ピーターパン」でピーターパンを演じることが決定する。

プレッシャーで蒼ざめる良雄だった。

妻と子がそんなことになっているとは知らず・・・家路は・・・実家の鍵を取り出す。

そして・・・寄り道をするのだった。

懐かしい・・・故郷へ・・・。

しかし・・・五年前に「家路酒店」のあった場所にはコンビニ「イエジ」が建っていたのだった。

戸惑う久の目の前にコンビニの制服を着た七歳年下の弟・浩(永井大)が現れる。

実の弟との再会に顔が綻ぶ久。

しかし・・・浩は憎しみに満ちた目で久を睨むのだった。

「今頃・・・何しに来たんだよ・・・」

「え」

久は・・・弟が何故・・・自分に冷淡なのか・・・分からない。

稼業に身を入れず・・・久が十一歳の時に父親は出奔した。

その時・・・浩は四歳だった。

それなりに苦楽を共にした兄弟だったはずだ。

少なくとも・・・久が高校を卒業して家を出るまでは・・・。

その時・・・浩はまだ・・・小学生だった。

それから・・・母親が店をやりながら・・・浩を育て・・・浩は結婚して「家路酒店」を継いだはずなのだが・・・。

「久おじさん・・・」

見知らぬ男子中学生に声をかけられ・・・身構える久。

しかし・・・男子中学生には記憶に残る面影があった。

「アキラくん・・・いつの間にかこんなに大きくなって・・・」

「一年前は小学生でしたからね・・・」

「え・・・一年前に会ってたの・・・」

「事故で大変だったって・・・聞いてたけど元気そうですね」

「・・・僕って・・・浩・・・君のお父さんと何かあったのかな」

「会えば・・・ケンカしてたじゃないですか・・・まあ・・・おじさんは大企業に勤めるエリートだし・・・うちの親父は・・・暴走族の元リーダーだから水と油だとは思いますし・・・高卒でできちゃった結婚して・・・生まれた僕が言うのもなんですけど・・・」

「なんか・・・君には親近感を感じるよ」

「おじさん・・・なんだか・・・丸くなりましたね」

「え」

「昔は・・・高飛車の見本みたいだったのに・・・」

「・・・母ちゃん・・・いや・・・婆ちゃんも店に出てるのかな」

「今日は・・・自宅(いえ)にいると思いますよ」

「ありがとう・・・行ってみるよ」

久は近所にある実家に向かう。

おそらく・・・浩一家は・・・店舗の二階あたりで別居しているのだろう。

スティックをかついだアキラは関東における「プライド」の再放送を見てホッケー部に入部したと妄想できる。

浩は久を見送ると母親(風吹ジュン)に電話をかける。

「なんだって・・・久が帰って来たの」

「何しに来たんだろう・・・あの事・・・話そうか」

「だめよ・・・あの子には・・・まだ秘密にしておかないと・・・」

「・・・」

浩は・・・何か問題を抱えているらしい。

それは・・・素晴らしいインターネットの世界に関係しているようである。

浩は何故か・・・巨大掲示板5ちゃんねるにアクセスするのだった。

そこには・・・。

「コンビニイエジ」に対する誹謗中傷が書き込まれていたのだった・・・。

久は・・・実家から遠ざかっていた理由を思い出す。

久は・・・なんとなく母親が苦手だったのだ。

父親が出奔した後で・・・つまり久の実の父はどこかで生きているわけである・・・母親は店をきりもりしながら女手ひとつで二人の子供を育て上げた。

(母は家のことばかり考え・・・半径一メートルの範囲で生活しているような女だった)

と久は語るが・・・それは幼い久にはそう思えたという話である。

実際の母親は酒店の経営者である。

専業主婦ではないのだ。

だが・・・すでに児童から生徒になっていく久には学校という世界があり、母親は昼間の仕事を終えて家にいたわけである。

おそらく・・・父親に捨てられたショックと・・・経済的な苦しさが・・・久の中に鬱屈した感情を形成していったのだろう。

店を経営しながら家事を行い、家庭菜園までしていた母親は一種の超人だが・・・久の屈折した目には・・・生活に疲れた貧乏くさい女として映ったらしい。

久は家計を助けるためにバイトをする苦学生だった。

経済的にゆとりがあれば・・・もっと偏差値の高い学歴を得られたはずだった。

その思いが・・・母親に対するネガティブな感情を生み出し、経済的豊かさにこだわる人格を育んだようだ。

こうして・・・大学生となった久は独立し・・・やがて上昇志向の固まりのような証券マンとなったのだった。

しかし・・・それは失われた過去の話である。

今の久は・・・笑顔で久を迎える母親の老いた姿が気にかかるのだった。

「久が帰ってくるなんて久しぶりねえ・・・だじゃれじゃないわよお・・・大けがしたっていうけど・・・大丈夫だったの・・・恵さんが大丈夫だっていうから・・・見舞いにもいかなかったけど・・・元気そうで安心したわ・・・でも・・・無理しちゃだめよ・・・あなたは・・・頑張りすぎるところがあるから・・・」

(母ちゃん・・・)

久は妙に息苦しくなるのだった。

帰りにコンビニ・イエジに寄った久は弟を問いつめる。

「なあ・・・母さん・・・なんだか・・・おかしくないか」

「年取ったんだよ・・・」

「でも・・・具合が悪そうだし・・・病院に連れていった方が・・・」

「なんだよ・・・突然帰ってきて・・・偉そうに・・・余計なお世話なんだよ」

「・・・」

実は秘密を抱えて口が重い浩なのである。

腑に落ちない思いを抱えて仮面妻と仮面息子の待つ家に戻る久だった。

「お母さん・・・よく手作り野菜を送ってくれたんですよ」

「・・・」

「それなのに・・・あなた・・・貧乏くさいって言って・・・それを嫌がって・・・電話で断ったりするから・・・私、一度謝りに行ったこともあるんですよ」

「え・・・そうなの」

「優しいお母さんなのに・・・あなたはどうして・・・あんなひどいことを言うのか・・・私にも分かりませんでした」

「・・・」

「でも・・・今の久さんは・・・以前とは違って・・・その・・・優しくなったじゃないですか・・・だから・・・これから親孝行なさればいいんじゃないですか」

「・・・うん」

久は良雄が居間にいないことを不審に思う。

「幼稚園でピーターパンをやることになったんです・・・でも、あの子、人前で何かするのが苦手だから・・・ふさぎこんでいるみたい」

「ああ・・・僕にも覚えがある・・・幼稚園で桃太郎をやって・・・舞台でセリフを忘れて・・・そしたら母さんが・・・がんばれって・・・大きな声を出して・・・ますます恥ずかしくなって・・・そう言えば・・・母さんのことが苦手になったのは・・・その時からかも・・・」

「まあ・・・ひどい・・・母親なら子供を応援するのは当たり前じゃないですか」

「そうか・・・あれは・・・当たり前だったのか・・・よし・・・僕は・・・良雄を励ますよ・・・良雄の劇の練習相手をする。練習して自信を持てば・・・人前でも平気になるかもしれないし」

「だと良いんですけど」

良雄の部屋に向かった久を・・・恵は微笑んで見送る。

しかし・・・そのことを知っているのはお茶の間だけなのである。

「あなたはだあれ・・・」

「家路良雄・・・」

「そうじゃなくて・・・セリフ」

「お父さんは誰なの・・・」

「だからウェンディーだよ」

ピーターパンはティンカーベルとともにウエンディーを迎えに来る。

ウエンディーは弟たちと・・・「在らざる国」に旅立つのだった。

そこで・・・永遠の少年と冒険を繰り広げるウエンディー。

ピーターパンはウェンディーに迷える子供たちの母親になることを求める。

「じゃあ・・・あなたがお父さんになるの」

「え」

ピーターパンは父親になることを拒絶し・・・ウェンディーは夢から醒めるのだった。

ある日、ウェンデイーは自分がフック船長のような男と結婚していることに気がつく。

そして、つぶやくのだ。

「ワニに食われちまえばいいのに」

四月(わたぬき)は久に里帰りの感想を聞く。

「家のことばかり考えている母親を嫌っていたことを思い出しました」

「だから・・・君は最初の奥さんにライターなんてやってる女性を選んだのかもね」

「・・・」

「でも・・・結局、良妻賢母と仕事の両立なんてスーパーウーマンじゃなきゃ無理だし」

「・・・」

「そういう女性と結婚して専業主夫になったらどうかな」

「え」

「そしたら・・・今の君の奥さんは僕に譲ってください」

「だって、四月さん・・・奥さんいるじゃないですか」

「病弱だし・・・なんなら・・・トリカブトを・・・」

そこへ社長に怒られたので会社を仮病で休んじゃったシンドロームの轟課長(光石研)が現れる。

「ランチタイム、まぜて~」

課長は幼児退行現象を起こしている。

パン教室では恵が香にアプローチする。

「男の人って・・・バリバリ働く女性をかっこいいと思うんでしょうねえ」

「さあ・・・どうかしらね・・・でも、結婚したら・・・メシまだか~しか言わなくなるのよ」

「え~・・・そうなんですか~」

(なんで・・・別れた嫁のところにアドバイスを求めてくるのよ)

(なんで・・・別れたくせに・・・夫と親しそうなんですか)

「どこかへ行ってしまえ」とピーターパンはロストハウス仲間を追い払う。

「ああ・・・ピーターパン・・・私、死んだの」

「いいや・・・ドングリが野蛮な原住民族の矢をくいとめた・・・」

「まあ・・・」

「よかったよ・・・君が助かって!」

「・・・いいぞ、よしお、ピーターパンになりきってるな」

「でも・・・本番だと・・・みんな見てるし・・・」

「そうだ・・・こうしよう・・・魔法のマカデミアンナッツを食べるんだ」

「まほうのまかでみあんなっつ?」

「そうだ・・・お父さんと分かち合おう・・・そうすれば・・・お父さんと良雄は一心同体になれる」

「本当・・・」

「本当さ・・・さあ・・・食べて」

「うん」

「甘いだろう」

「うん」

「ガリガリするだろう」

「うん」

「一緒だろう」

「一緒だね」

「こわいのは一人ぼっちだって思うからだ」

「お父さんがいればこわくなくなる?」

「その通りさ・・・」

久はハートを叩く。

「お父さんのここにはいつも良雄がいる」

「僕のここにはいつもお父さんがいる」

「いいぞ・・・ピーターパン」

「いこう・・・ウェンディー」

ノリノリの二人だった。

久はコンビニ・イエジの素晴らしいインターネットにおける広告戦略を模索するために・・・検索してみた。

「コンビニエンスストアエイジ」の検索結果

5ちゃんまとめ コンビニエンスストアエイジ炎上事件

Switterまとめ コンビニエンスストアイエジ炎上事件

ミコミコ動画 おまいらを激昂させる暴力店長イエジ

「え・・・」

あらぬ万引きの疑いをかけられた男性客が投稿した件

(投稿者 松山茂 @shigerucamera)

これが悪徳コンビニ店主!

証拠もないのに・・・客に万引きだと言いがかり!

監視カメラを確認して冤罪発覚!

しかし、謝罪なし!

それどころか暴力で接客!

こんな店長、許せますか!

僕は泣き寝入りは嫌だ!

皆さんのご支援をよろしくです!

暴力店主・家路久を許さない!

#拡散希望

「浩のやつ・・・粘着されてんのか・・・」

その頃・・・浩は母親とお茶を飲んでいた。

「兄貴・・・突然、何しにきたんだろう・・・ずっと家に寄りつかなかったのに」

「あまり・・・お兄ちゃんを責めないでやって・・・中学の頃から酒屋手伝って・・・小さい頃から家事も手伝って・・・高校に入ってからは大学卒業するまでバイトして・・・苦しい家計を助けてくれたんだからね・・・」

「だからって・・・金の亡者みたいになって・・・」

「でも・・・なんだか・・・あの子、変じゃなかったかい」

「そういえば・・・なんだか・・・ギスギスしてなかったな・・・」

「あの子・・・頭がおかしくなったんじゃ・・・」

「まともになったとは・・・思えないよね」

とにかく・・・原作では一番久思いだった働き者の父親は消え・・・久の人間不信は蒸発した父親への怨みに置換されたようだ。

善人すぎだ父親への反発より・・・無責任な悪い父親への復讐心の方が・・・ストレートでわかりやすいということなのかもしれない。

再び実家への旅を決意する久。

母親をどこか旅行に誘い、骨休みをさせたいと思う久。

そして・・・弟の苦境をなんとかしてやりたいと考えるのだった。

コンビニエンスストア・イエジには松山茂(遠藤要)が現れた。

「だからあ、あやまってくださいよお」

「こっちが悪くないのに謝れるか」

「あなた・・・やめて」

性根から腐ったゴミみたいな男を鉄拳制裁しようとする浩を妻のサチコ(広澤草)は必死で制止するのである。

「そっちが誠意ある対応をしてくれるまでえ・・・抗議しますよお」

キモオタデブ風の男は捨てゼリフほ残して去って行く。

久は弟から事情を聞く。

松山茂はコンビニイエジの元店員だった。

勤務態度に問題があったので解雇したのだが、客として来店すると万引きを実行したのである。

茂は現行犯逮捕したが・・・何故か店内の防犯カメラの映像は停止していた。

おそらく、店の事情に詳しい茂がなんらかの細工をしたのだろう。

すべて・・・店を貶めるための計画的犯行だったのだ。

「しかし・・・証拠がないんじゃ・・・」

「店り売り上げも落ちているし・・・つぶれるって噂が出て取引先も納品を渋りだして・・・うちは・・・個人経営だし・・・苦しいから・・・なんとか嫌がらせをやめてもらいたいんですけど」

「浩・・・ここは頭を下げた方がいいんじゃないか」

「こっちは・・・何も悪くないのにか」

「・・・」

「せっかく始めた店だろう」

「何言ってんだ・・・あんたが・・・始めた店じゃないか・・・俺は個人経営のコンビニには無理があるって言ったのに・・・なんてった品揃えに流動性がなくなるし・・・24時間営業はできないし」

「コンビニイエジ」は営業時間「6:00-22:00」である。

「え・・・俺が・・・」

「資金は出す・・・協力するって言ってたくせに・・・いざ、始めたら・・・音沙汰なしって・・・」

「・・・すまなかった」

菓子折りを持った久は弟の代わりに茂の自宅を訪問し、頭を下げる。

「なにとぞご容赦くださるようにお願いします」

「あらあ・・・なあにい・・・店長さん、こないのお・・・責任者がこないんじゃあ・・・お話にならないわねえ」

久のやりての記憶喪失さんパワー始動である。

商品の卸売業者を訪問し、言葉巧みに納品再開をお願いするのだった。

そして・・・嫌がらせにやってきた茂と対決するのだった。

「あの・・・どうしても・・・苦情をとりさげてもらえませんか」

「まだそんなこといってるのお・・・うけるう・・・」

「確かに・・・店の防犯カメラには何も映ってませんでしたけど・・・向かいのマンションの防犯カメラには・・・あなたのしたことがはっきり映ってました・・・」

「え」

「これ・・・コピーですけど・・・警察に届けることもできます・・・あなたのやってることは窃盗、証拠隠滅、威力業務妨害、強要、肖像権侵害、名誉棄損になりますよ」

「・・・」

「ただ・・・あなたが・・・これまでの投稿を削除してくれれば・・・穏便にすませたいと考えてます」

「・・・それだけでいいのお・・・」

「こちらも・・・客商売なので・・・」

「わかったわよお・・・」

茂は退散した・・・。

「本当に・・・嫌がらせなくなるんですか・・・お義兄さん」

サチコは泣きだすのだった。

「なあ・・・浩・・・おふくろのことなんだけど・・・」

「兄貴・・・口止めされてたんだけど・・・おふくろ・・・肝臓をやられてる」

「え」

「来週・・・検査して・・・結果次第では入院しなくちゃならねえ・・・それで・・・おそらくもう・・・退院できないって」

浩も泣きだすのだった。

「おばあちゃん・・・死んじゃうのか」

アキラも泣きだすのだった。

久は泣くきっかけを失った。

「あんたは・・・本当に料理が上手になったねえ・・・野菜もしっかりメントリするし」

「母さんに仕込まれたからだろう・・・本当は面倒くさくて嫌だった・・・だけど習慣になっちゃったんだよ」

「そうかい・・・」

「母さん・・・来週、良雄の幼稚園で発表会があるんだ・・・よかったら・・・見に来ないか」

「いいのかい」

「是非、来てください・・・お願いします」

「どうしたの・・・久・・・泣いたりして・・・」

「タマネギが・・・」

「古典だねえ・・・」

派遣社員・小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)は営業部門執行委員の勅使河原(渡辺いっけい)に定時報告をするのだった。

「家路久に異常ありません」

「そうか・・・」

「いつまでこんなことを続けるつもりですか」

「君は家路久の本当の恐ろしさを知らないのだ」

「とにかく・・・私・・・もううんざりなんですけど・・・」

「なんだと・・・」

「誰か他の人に業務を・・・」

「まさか・・・お前・・・家路久に・・・籠絡されたのか」

「ろ・・・ろうらく?」

五月の最後の土曜日。

久は恵と幼稚園の発表会にやってきた。

病院での検査を終えてかけつける久の老いた母。

「母さん・・・走ったりして」

「なんだか・・・爽やかなの・・・シュワーってしてるの・・・歌いたい気分」

「それはおやめになった方が・・・」

舞台にピーターパンが登場する。

「え・・・良雄じゃない・・・」

「ピーターパンは五人よ・・・良雄は五番目のピーターパン」

ムービー・カメラを油断なく構える恵。

「そろそろ・・・こういうCM来るかもね」

「・・・ああ」

「稼げる間に稼がないと・・・」

「ところで・・・良雄、一番最後じゃ・・・緊張するんじゃ・・・」

「あ・・・いよいよよ」

良雄は舞台に登場した。

ウェンディーが叫ぶ。

「ピーターパン、あなたも一緒にロンドンに来ない?」

しかし・・・緊張でセリフが飛ぶ良雄。

「どんぐりだ」と叫ぶ久。

しかし、恵はあわてずにカンニングペーパーを差し上げるのだった。

「・・・ありがとう・・・でも・・・僕は人間の世界には住めない・・・だってすぐに大人になっちゃうもの・・・僕は浦島太郎じゃなくて・・・ピーターパンだから・・・未だ在らざる国に帰るよ。僕の住処・・・ネヴァーランドに・・・さよなら・・・小さなお母さん」

拍手喝采・・・。

夕陽の川べりを二組の母と子が行く。

恵と良雄・・・そして・・・久の母と久・・・。

「うれしかった・・・孫のピーターパンが見れるなんて・・・最高」

「母さん・・・」

「でもね・・・来週から入院することになっちゃった・・・」

「・・・」

「久・・・母さんの願いはただ一つよ・・・」

「・・・」

「お前が・・・いつまでも・・・母さんの息子でいること・・・ただそれだけ」

「母さん・・・」

川面を風が渡って行く。

久の元へ母の不揃いで栄養満点の野菜が届く。

恵が添えられた手紙を読み上げる。

「夏採れの野菜を送ります・・・家族で栄養つけてください・・・母より・・・ですって」

久は恵を見た。

仮面が少し悲しそうな顔に見える。

何故か・・・そう感じる久だった。

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Ihhc005ごっこガーデン。誰もが行きたい夢の国セット。アンナ最後のDVDははったりですかぴょん。女形もできるダーリンに萌え~。どんぐりころころ・・・お池にはまってさあ大変~。どじょうが出てきてこんにちわ~のところで受けるあなたはエロスぴょ~ん。もうね・・・このまま家庭円満なホームドラマでいいと思うのぴょん。優しいパパとマグロに泳げますかって聞くくらい疑いようのない美人のママに囲まれて良雄がスクスク育って行く・・・そういう日常を後、十年くらい連続ドラマにすればいいのにな~!お気楽そろそろ・・・帰ろうかなあ・・・と思っていたりして」キッドじいや「業務連絡・・・今週はgoo方面にTB飛ばない模様ですのでご了承くださりませ」

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2015年5月14日 (木)

寂しい男(堺雅人)淋しい女(蒼井優)

さびしさには二種類ある。

かっては・・・にぎやかだったものがさびれて寂しい感じになったさびしさ。

さびしい林に雨が降って水が流れにぎやかになったと言えないこともないのにますますさびしい感じがする淋しさである。

寂しさにはさびしくても過去を懐かしむ余白があるが・・・淋しさは何をどうしてもさびしいという陰々滅々さがある。

母親がある時期までは母親と機能していた主人公は寂しいけれど医師になる。

生まれてからずっと母親が狂っていたヒロインは淋しさが高じて患者となる。

これは寂しい男と淋しい女の物語なのである。

もっと簡単に言うと・・・さびしい男とさびしい女は・・・二人になって・・・さびしさを解消できたらいいのになあという・・・恋の原理のお話です。

まあ・・・そう思って恋をしても・・・ますますさびしくなったりすることもあるけどな。

そもそも・・・他人の心を理解しようという行為は・・・さびしいからするものなんだな。

だけど・・・そんなの無理なんだな。

お腹がすいたらおにぎり食べればいいんだな。

・・・裸の大将かっ。

で、『Dr.倫太郎・第5回』(日本テレビ20150513PM10~)原案・清心海、脚本・中園ミホ、演出・水田伸生を見た。ちなみに原案者はせいしんかいという仮名の精神科医である。人間の精神は・・・宇宙や深海と同じように未知の世界である。そう言う意味では・・・現代もお医者様でも草津の湯でも治せない精神の病はあるし・・・精神科医は気休めの存在に過ぎない。なにしろ・・・精神のことは・・・ほとんど何も分かっていないのが・・・現状なのだ。もちろん・・・それでは精神科医は成り立たないので・・・何もないよりマシでしょうという姿勢で宇宙の深淵に挑んでいる。

フロイトにはじまる精神分析学による精神へのアプローチはほとんど暗礁に乗り上げている。

それでも・・・人々は・・・自我があるような気がするし・・・無意識の中で何かがドロドロとしているような感覚を味わう場合もある。

精神科医は・・・そのよくわからないものを・・・手さぐりで・・・「何かがおかしいみたいです」と記録し・・・統計的手法で・・・健康な精神と病んだ精神を分類し続けるのだった。

そして・・・十九世紀から二十世紀、そして二十一世紀と・・・時は流れていったのだ。

今、滅びかけた精神分析の手法で・・・病んだ魂を救済しようという努力を重ねる男がいた。

慧南大学病院の精神科医ヒノリンこと日野倫太郎(堺雅人)である。

彼が解離性同一症と診断した患者・夢乃/相沢明良(蒼井優)はヒノリンの自宅で彼に馬乗りになり、彼の股間を激しく刺激している。

ヒノリンは押し寄せる快楽の波に耐えながら・・・医師として患者に真摯に向き合おうと歯をくいしばって微笑む。

「これ以上・・・明良に近付くな」

「・・・」

「お前がいなければ・・・明良と私は上手くやっていける」

ユメノはヒノリンを威嚇する。

「私は・・・ただ・・・アキラさんを助けたいのです」

「本当・・・ずっと一緒にいてくれる」とアキラは救いを求める。

「はい・・・ずっと一緒にいます」

「嘘だ・・・お前もいつかきっと・・・アキラを裏切って・・・傷つける」

第一人格とも言うべきアキラを保護するために分離した第二人格のユメノはヒノリンを拒絶する。

ヒノリンが性的誘惑に耐えて生殖器を怒張させないことに当惑しつつ、ユメノは日野家からの撤退を開始する。

「待ってください」とヒノリンは夢乃/相沢明良という多重人格者を呼びとめる。

「いつでも・・・待っています・・・一緒にお茶をしましょう」

「ナンパするならチンポたてやがれ」

捨てゼリフを残して家を出るユメノだった。

その頃、幼馴染で明らかに倫太郎に片思い中の外科医・水島百合子(吉瀬美智子)は精神科医でヒノリンの主治医でもある荒木重人(遠藤憲一)を訪問していた。

荒木医師はヒノリンと百合子の先輩である。

「患者と医師の恋愛感情について教えてください」

「まず・・・前提として感情が記憶と結びつき精神複合体を形成していると考える必要がある」

「ですね」

「一般的に人間は養育者に対して愛のコンプレックスを形成する。多くの場合、それは愛の原型となる」

「いわゆる・・・両親を慕う気持ちですね」

「その前提に基づき、医師と患者には擬似親子関係が発生する」

「保護するものとされるものということですね」

「そのために・・・愛のコンプレックスが患者から医師への感情に反映されることは多い」

「まあ・・・あくまでケース・バイ・ケースですよね」

「患者が医師に親に抱くような親近感を抱くことが・・・広い意味で転移だ・・・さらに・・・患者と医師が実際には親子でない場合、特に異性である場合は恋愛感情ほ発生させやすい。これが狭い意味で転移だ」

「転移と一般的な恋愛感情はどう違うんですか」

「患者と医師という関係性が特殊だと言う他はない」

「では・・・転移と恋心は一緒じゃないですか」

「精神分析学的には違うのだ」

「・・・で逆転移というのは」

「医師が患者の擬似恋愛感情に反応して擬似恋愛感情を抱くことだ」

「それ・・・好きですって告白されたのでその気になるのとどこが違うんですか」

「精神分析学的には違うのだ」

「だけど・・・相手は芸者なんですよ」

「え・・・だれの話だ」

「いえ・・・」

「まさか・・・日野の奴・・・夢乃さんと・・・」

「なんで、夢乃さんのこと知っているんですか」

「水島・・・守秘義務について・・・話をしようか」

「あくまで・・・一般論ですよ」

「・・・」

百合子の危機感が単なる危惧なのかどうか・・・今はまだ謎である。

まあ・・・精神科医と芸者が恋愛したって犯罪ではないわけだが。

そして・・・転移も逆転移も・・・医師と患者の信頼性を深めるために有効利用するべきだという考え方もあるのだった。

しかし、ヒノリンは恋愛を心の病の一種と考える心の病を患っているために・・・転移を受け入れず、逆転移など論外と主張する。

医師と患者は恋愛するべきではなく・・・共感するべきだと主張するのだ。

もちろん・・・その境界線はヒノリンの心の中にあるだけなのだ。

研修医としては落ち付いている福原大策(高橋一生)は研修医・葉子(高梨臨)に猛烈な恋をしていて、ヒノリンに恋愛相談を持ちかける。

しかし、医師の恋愛を認めないヒノリンはこれを完全に否定するのだった。

おわかりだろう・・・ヒノリンは完全にビョーキである。

そこに乱入する葉子は対策の担当患者が来院したことを告げる。

大滝ナミ(ハマカワフミエ)は葉子の親友であり、ギャンブル依存症だった。

対策の治療により、症状は一度緩和したのだが・・・再び症状が悪化したのだった。

ギャンブル障害は行為依存の一種である。

ギャンブルがやりたくてやりたくてたまらなくなり、やりたい気持ちを抑えるのが困難であり、ギャンブルをしないと冷や汗が止まらず、手は震え、夜も眠れず、幻覚を感じるようになり、・・・毎日ギャンブルをして、賭け金もどんどん巨額となり、ギャンブル以外のことには関心がなくなり、ギャンブルのために借金などで生活が苦しくなってもギャンブルをやめられないという・・・恐ろしい心の病なのであった。

ナミは職場恋愛で結婚の決まった相手が浮気をして破談となって軽い抑うつ感を抱き、ストレス発散のためにギャンブルに手を出したことからギャンブル障害を発症したのであった。

ギャンブル障害は薬物治療が難しく・・・特効薬がないのだ・・・大策は心理療法としてカウンセリングを行い・・・なんとか病状を改善したのだが・・・結局、完治は困難だったのである。

「どうしましょう・・・」

「例によってショック療法だ・・・今夕、六時にギャンブル大会を開催する」

「え・・・」

「君はそのことを患者に伝えたまえ」

「そんな・・・ギャンブル障害の患者にギャンブルさせるなんて・・・メチャクチャです」

「だから・・・ショック療法と言っただろう」

「・・・」

ギャンブル大会開催のために・・・丁半博打の知識を素晴らしいインターネットで研究するヒノリンだった・・・アホである。

その頃・・・夢乃/相沢明良から一千万円を受け取った菊千代/相澤るり子(高畑淳子)は一攫千金を狙い、借金返済のための一千万円を無謀なインターネット投資につぎ込み、あっという間に摩ってしまうのだった。

もう・・・ギャンブル依存症などという生易しい状態ではなく・・・ギャンブルキチガ・・・それ以上は言うなっ。

死ななきゃ治らないレベルの精神疾・・・それ以上言うな。

超悪女であるるり子は虐待し続けた娘の明良を呼び出すのだった。

「一千万円なくなっちゃった・・・また一千万円なんとかしておくれ」

「そんなの・・・無理よ」

「なんだい・・・それでも・・・娘かい・・・あんたなんか・・・産まなきゃよかったよ」

「ごめんなさい・・・お母さん・・・・なんとかするから・・・」

アキラを守るためにユメノが現れる。

アキラを救うために手を差し伸べるヒノリン。

「診察室にいらしてください」

「アキラを救いたいんなら・・・一千万円用意しな」

「・・・」

夢乃は旦那である慧南大学病院理事長・円能寺一雄(小日向文世)に一千万円の無心をするのだった。

「この間の一千万円は・・・男にでも貢いだのかい」

「・・・そんなことはありません・・・」

「しょうがないな・・・今夜の接待でお座敷を務めてくれ・・・相手に気に入られたら考えよう」

接待の相手はストレスを抱える行政府報道長官の池(石橋蓮司)だった。

芸者・夢乃は・・・操心術者としてはヒノリンを上回る実力者だった。

お座敷で・・・芸者・夢乃によって池は身も心も解放されるのだった。

「さすがだな・・・夢乃と遠出したくなったよ・・・どこに行きたい」

「海」

「よし・・・そこで一千万円を渡すよ」

一千万円という金額を大金と考える人は・・・富裕層とは言えません。

ご開帳の時間が迫る午後五時五十五分。

大策は診療室を飛び出した。

ギャンブルを求めてやってくるナミ。

しかし・・・大策が立ちはだかる。

「このノートに誓った言葉を思い出してください」

大策はカウンセリングで使ったノートを見せる。

私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫

筆記によって自己暗示をかけるという原始的な手法である。

「そんなの何万回誓ってもギャンブルやめられません」

「そんなことはない・・・一度はギャンブルのことを忘れられたじゃありませんか」

「どいて・・・」

治療室の扉を開けるナミ。

しかし・・・ヒノリンが立ちふさがる。

「今、時刻は六時五分・・・本日は閉店です」

「え」

「医師と患者が向き合って・・・五分間だけ・・・ギャンブルを我慢できた。これが第一歩です・・・五分が三十分となり、一時間、一日、一週間、一ヶ月、一年、十年、百年・・・あなたはきっとギャンブルをやめることができます」

「・・・」

「そのために・・・私たちは全力でサポートしますよ」

ヒノリンは娘を憐れに思う母親という資金源を断ち・・・集団精神療法を推奨するのだった。

「彼女はギャンブル依存症を克服できるでしょうか」

「克服するのではない・・・ギャンブルを忘却させるのだ・・・」

「しかし・・・ナミさんは君に転移を起こしていた・・・だから・・・君にはカウセリングさせられない・・・集団精神療法で・・・ギャンブルに熱中した自己を客観視させ・・・過去に葬り去るという方向に持って行くのだ」

「・・・完治できますか」

「ギャンブル障害は完治しない」

「え」

「医者は神様じゃないんだ」

「それ・・・普通の医療ドラマなら定番ですよね」

「精神医学では常套句だよ」

「・・・」

海にやってきたアキラは約束をすっぽかし・・・彷徨いだす。

「夢乃が来ない・・・」

「え」

驚いた置屋の女将で元芸者の夢千代/伊久美(余貴美子)は藁にもすがる思いで日野家にやってくる。

「夢乃が来ていませんか」

「どうしたのです・・・」

「あの子・・・大金欲しさに遠出したのに・・・金を貰わずに約束すっぽかして・・・」

「夢乃さんはどうして大金が必要なのですか」

「まさか・・・あの子・・・先生にも・・・」

「・・・」

「ご迷惑をおかけしてすみません・・・先生も被害者だったとは・・・分かっています・・・すべてあの子の母親・・・まあ・・・親らしいことは何一つしていないのですが・・・あの子は捨てられたも同然だったのです・・・見るに見かねた先代の女将が高校まで卒業させたのです。あの子は一度は普通のOLになったのです。ところが・・・あの女・・・菊千代が現れて金の無心をするようになったのです。魔性の女ですよ・・・あれは・・・自分の娘の心を操って食いものにしているんだ・・・でも・・・仕方なく芸者になったあの子は・・・天性の素質があって・・・」

「魔性の子は魔性ですか・・・」

「・・・」

そこへアキラからヒノリンへ着信がある。

(先生・・・私・・・なんでここにいるのか・・・わからないの・・・)

「アキラさん・・・迎えに行きますから・・・そこから動かないでください」

「先生・・・」

「アキラさんはどこに行ったんでしょう」

「海に・・・」

「場所を教えてください」

「でも・・・そこには現れなくて・・・」

「近くにいるはずです・・・波の音が聞こえましたから」

ヒノリンは海へ向かった。

浜辺で砂遊びに興じるアキラ。

愛は海のようなものだ 

あれほど慕った砂の乳房も 

波が洗い流す 

どれほど幼子が求めても

「アキラさん」

「先生・・・」

ヒノリンはお茶を差し出した。

「・・・」

「・・・」

夕陽が沈んでいく。

「先生はどうして・・・精神科医になったんですか」

「僕の母親は心を病んで・・・僕が中学生の時に自殺しました」

「・・・」

「僕は母親の病に気がつかなかった」

「・・・」

「母親が死んで・・・僕も心を失いました・・・しかし、ある日、タモさんが髪切ったと言ったんです」

「タモさん・・・」

「その一言でお客はドッと笑った。・・・凄いと思いました。だから僕もコメディアンになろうと思ったんです・・・でも人を笑わせる才能は・・・僕にはなかった・・・だから・・・誰かが心の病になったら・・・今度はきがつけるように・・・精神科医になったのです」

「ありがとう・・・先生・・・自分のことを話してくれて」

「こちらこそ・・・話をきいてくれて・・・うれしいです」

「先生のことを・・・少し・・・知ることができたわ」

「僕も・・・あなたと・・・お茶が飲めた」

「私たち・・・ずっと一緒にいられるかしら」

「ずっと一緒ですよ」

「・・・」

「・・・」

夢乃/相沢明良の触手はぬくもりを求めて砂上で蠢動した。

ヒノリンの触手は獲物を捕獲した。

夕陽は落ちた。

女将の夢千代や芸者の小夢(中西美帆)はバースデーケーキを用意して夢乃を出迎えた。

その日は夢乃の誕生日だったのだ。

しかし、夢乃はその場を逃げ出す。

「どうしたのです」

「先生・・・私・・・生まれてよかったんですか」

「よかったに決まっているじゃありませんか」

ヒノリンは夢乃を抱きしめることを懸命に堪える。

抱きしめたら一線を越えてしまう。

ヒノリンは夢乃を見つめる。

幼女のように泣く夢乃。

この人は患者だ。

私は医者だ。

懸命に自分に言い聞かせるヒノリンだった。

落ちついた夢乃を残し帰宅するヒノリン。

その後を菊千代の車が追跡する。

副病院長兼脳外科医主任教授の蓮見(松重豊)は人体の手術をした後で百合子と酒を飲む。

「主任は患者に恋愛感情を感じたことがありますか」

「ないねえ」

ふと触れあう二人。

「あ」

「失礼」

「・・・私に気があるんですか」

「・・・君は欲求不満かっ」

日野家で愛犬と戯れるヒノリン。

「お前のお母さんはどんな犬だったんだい・・・」

そこへ・・・菊千代が乱入するのだった。

「あんた・・・一体何なんだい・・・」

「え」

「あんたが・・・夢乃を邪魔してるのかい」

「・・・」

「ふん・・・なんなら・・・あんたが・・・一千万円用意してくれてもいいんだよ」

「あなたは・・・夢乃さんを不幸にする・・・縁を切ってください」

「おや・・・あんた・・・金も地位もあるのに・・・女の匂いがしないね」

「え」

「あんた・・・あの子に似ているね」

「・・・」

「あんたも・・・ろくでもない女に育てられて・・・おかしくなったんだね」

「何を・・・」

「そうか・・・あんたの母親は男狂いか・・・それで・・・あんたは女と言う女が信じられなくなったんだ」

菊千代は人の心を読む達人だった。

まさに・・・魔性の女なのだ。

「・・・」

菊千代はヒノリンの母親の遺影を発見する。

「おや・・・こんな品のいい顔して・・・男にいれあげるなんて・・・たいしたタマだねえ」

「この・・・毒婦・・・」

「あはははは・・・あんた、知らない男に母ちゃんのおっぱいとられて今でもヒーヒー泣いてんだ・・・ざまあないねえ」

母親を侮辱され・・・冷静さを失いかけるヒノリン。

何よりも・・・菊千代の言葉は・・・ヒノリンの心の闇に潜む正鵠を射ていたのである。

どうやら天才精神科医と魔性の女の心理戦争が勃発したらしい・・・。

凄いな・・・。もはや・・・これは・・・ダークファンタジーじゃないか。

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2015年5月13日 (水)

出る杭は打たれるのかよっ(稲森いずみ)能ある鷹は爪を隠しませんっ(渡辺麻友)

今季は何故か・・・レビュー対象作品が原作ありのドラマばかりである。

たとえば大河ドラマ「花燃ゆ」はオリジナルというが・・・日本史という原作があるし、主人公は実在の人物である。これをフィクションと断ると・・・世の中にはノンフィクションなんてないというのと同じだ。

もちろん・・・キッドは現実も含めて、森羅万象は「虚構」にすぎないという理念を持っているが、時には妄想と現実を区別するかのようにふるまう。

言論というものは相対的なものだからである。

出版やテレビなどというシステムは媒体(メディア)と呼ばれる。

基本的には情報伝達(コミュニケーション)のシステムは送り手と受け手、そして媒体で構成されている。

受け手の数が大きい媒体はマス(大量)をつけてマス・メディアと呼ばれるわけである。

新聞やテレビによって大衆が情報を得ることがマス・コミュニケーションである。

だから、新聞やテレビのことをマスコミと言うのは厳密には間違っている。

さて、出版物をドラマ化するのはいわばメディアをチェンジすることである。

これにも・・・小説の映画化とか、舞台劇化とか似て非なるものがあるがそれは省略する。

原作を忠実に再現するといっても・・・たとえば文章を視聴覚化することは・・・様々な矛盾を抱えている。

「爆撃によって東京は廃墟と化した」という文章を忠実に視聴覚化しようとすると予算がいくらあっても足りないわけである。

しかし、「戦前の東京の風景写真」「爆撃機の写真」「焼け跡の写真」に「「爆撃によって東京は廃墟と化した」とナレーションするだけという手法もないわけではない。

ここが原作の脚色者(ドラマのスタッフ)とお茶の間の駆け引きの醍醐味である。

また・・・より小さなメディアからより大きなメディアへのチェンジには・・・受け手の知的レベルの拡大という問題が生じる。

放送作家は先輩たちにこう教えられる。

「バカでもわかるようにするのが俺たちの仕事だ」

だから・・・バカでない人は・・・「なるほど・・・これがバカに向けた情報の送り方か」という目で・・・お楽しみくださいという・・・送り手たちの願いを感じる必要があります。

とにかく・・・そのように原作は脚色されてテレビ番組になるのである。

(月)のように原作の主人公が主人公の父親になったりするのは結構チャレンジである。

(火)は主人公をダブルにして少し若くしている。

(水)は物語をでっちあげている。

(木)はテーマにこめられた救いを増幅している。

(金)は半世紀の世界の変化を反映している。

(土)は水増しである。

みんな・・・それなりに苦労しているんだな。

で、『戦う!書店ガール・第5回』(フジテレビ20150512PM10~)原作・碧野圭、脚本・渡辺千穂、演出・白木啓一郎を見た。人は快感を求める生き物である。人が何に快感を求めるのかは個人差があるが・・・自尊心をくすぐられていい気分になるという方法がある。たとえば・・・大衆にはマス・メディアに対する憧れというものがある。情報の発信者になることは社会的に支配的な立場であるような感触があるからだ。そのために女子アナに女子が憧れるわけである。最近はそうでもないかもしれないが・・・新聞記者になるというのもそういう傾向があるわけである。新聞という巨大な企業の一員になることは・・・必ずしも新聞記者になることではない。新聞配達員や、コンビニの店員だって・・・新聞を流通させる重要な歯車である。だが・・・そのことでメディアの一員として自尊心をくすぐられる人は少しバカっぽい。そういう意味では「本を愛する書店員」も同じレベルという考え方もある。だが・・・ベストセラー作家より・・・書店員の方がお茶の間に親近感があるはずである。しかし・・・「ゴーストライター」の方に親近感を感じるという一般人が多いのが社会の醍醐味というものなのだな。あはは。

原作では小幡伸光(大東駿介)の妻である北村亜紀(渡辺麻友)が未婚であるという、様々な大人の事情を感じさせる脚色のこのドラマ・・・。

前回で急接近した一ツ星出版の「コミックヒート」の副編集長・伸光と亜紀。

デート中に伸光は改めて告白。

「つきあってください」

「はい」

「ええええええええ」

伸光の優しさを素直に受け入れることにした亜紀である。

なにしろ・・・お嬢様なのでおおらかなんだな。

そして・・・ドラマは原作の世界に一歩近づいたのである。

一方、斜陽産業である「書店」の経営危機はペガサス書房の吉祥寺店にも押し寄せる。

ペガサス書房の谷田部社長(山中崇)は「ネット書店」展開に力を傾注するために一号店である吉祥寺店を始め、上野店、錦糸町店の三店舗の閉店を決める。

それがどのくらい経営的に不可避のことであるかは説明されないが、とにかく、そのための人事として・・・吉祥寺店の野島店長(木下ほうか)は東京地区のエリア・マネージャーに昇格する。もちろん、店じまいを円滑に進めるためである。

それに伴い・・・副店長の西岡理子(稲森いずみ)は店長に昇格する。

何故か・・・理子には・・・二ヶ月後に閉店する店舗のつなぎの店長であることは明かされず、ペガサス書房初の女性店長と持ち上げられるのだった。

物語は合理化を目指す企業と、保身に汲々とするする幹部社員、責任を一身に背負うタイプのベテラン主人公Aとマイペースすぎる若手主人公B、そして混乱する現場と急展開を迎えるのだ。

理子に対する信頼に目覚めた亜紀や、店員たちは理子の昇進を無邪気に喜ぶ。

しかし・・・理子とほぼ同期の経理担当店員である畠田(森岡豊)だけは複雑な気持ちを感じるのだった。

何故・・・年下の女が・・・上司になるのか・・・と。

しかし・・・吉祥寺店のトップになった理子は理想の書店の構想に燃え・・・部下の心情には無関心だったのである。

同時に「新店長は人望があるようだ」という社長の何気ない感想は野島エリアマネージャーの心をざわつかせる。

小心者の配慮も恐ろしいものなのである。

帰宅した理子は父親で元せんべい屋店主の達人(井上順)に店長昇格を報告する。

「ふうん・・・そうか」と予想通りの塩対応の達人だったが・・・内心では娘の昇進を喜んでいたようだ。

店舗改革のために理子が打った最初の一手は人事移動だった。

「幅広い商品知識が大切」という理子の理想により、担当部署の配置転換が行われる。

そもそも・・・児童書担当の亜紀をコミックに、コミック担当の三田(千葉雄大)を児童書に配置したのも理子だった。

新人事により・・・書店員トリオは・・・慣れない部署に移動する。

文芸書担当の萩原麻美(鈴木ちなみ)は学習参考書担当に。

学習参考書担当の遠野由香(木﨑ゆりあ)は雑誌担当に。

雑誌担当の日下圭一郎(伊野尾慧)は文芸書担当に。

短期的には商品知識力の低い店員の出現となるが・・・長期的には人材が育成されるという考え方である。

もちろん・・・新店長として実績をあげる必要がある理子としては冒険的な手法である。

実際に・・・知識の低さが顧客とのトラブルの原因となる事態が発生する。

書店トリオは新人事に対する不満を感じるのだった。

「何も・・・苦手なことを・・・わざわざ・・・」と思うのである。

先行して配置転換された亜紀はトリオの不満を感じ取ると同時に、理子の深謀遠慮を感じることもできた。

初めて伸光を自宅に招いた亜紀はお弁当作りに熱中していた。

「え・・・もう・・・愛妻弁当・・・」

「違います」

いや・・・交際相手を自宅に招いた以上・・・いや、お嬢様なので婚前交渉はしないのか。

とにかく・・・亜紀は話題の書籍「嫌がらせ弁当/ttkk」をヒントに苦闘中の書店員トリオを励まし、店長の理子を援護するつもりなのである。

「反抗期の娘にキャラ弁を作り続けた母親の話か・・・」

「嫌がらせも・・・愛情表現ですからね」

「一番、是非が曖昧なテーマだよなあ」

「日本は出る杭は打たれる社会ですが帰国子女は爪を剥き出しです」

「背中に爪あと・・・一部愛好家はうっとりだね」

二人は親密交際中なのである。

人気雑誌「NOTICE(論評)」の取材で「働く女性の仕事術」についてインタビューを受ける理子。仕切ったのは野島エリアマネージャーであり・・・そこには思惑があるが悪意に鈍感な理子は気がつかない。

「書店員に大切なのは商品知識と本を愛する心です」と持論を展開するのだった。

どうやら・・・昼休みは営業休止するらしい・・・ペガサス書房。

「まっしろ」もそうだったが・・・シフトという概念はスタッフには希薄なのである。

ランチタイムに・・・書店トリオにスペシャルランチを振る舞う亜紀。

「参考書万歳」と麻美に。「文芸LOVE」と日下に。「付録を忘れるな」と由香(木﨑ゆりあ)に。

嫌がらせメッセージの入ったキャラ弁当。

トリオは一瞬、怒るが弁当が美味いので喜ぶのだった。

「がんばれ」と励ますことが許されない時代の面倒くさい応援方法らしい。

ま・・・すべては臨機応変にするしかないんだよな。

ハラスメント(嫌がらせ)の駆逐がすでにハラスメント(嫌がらせ)なんだから。

二人の主人公の阿吽の呼吸で・・・順調にスタートする・・・新店長体制。

しかし・・・本店での店長会議に・・・新店長として初めて理子が出席する日の朝・・・。

公私の私が・・・理子の幸福な気持ちを打ち砕くのだった。

食卓で意識不明の父親を発見した理子は我を忘れるのである。

救急車で運ばれる父親に付き添った理子は動顛して携帯電話を自宅に置き忘れるという失態を演じるのだった。

処置室に入った父親を見送った理子は公私の公を思い出す。

公衆電話で吉祥寺店に連絡をとる理子。

電話をとったのは邪心に囚われた畠田だった。

「父が脳梗塞で倒れて病院にいます・・・店長会議に欠席することを伝言願います」

「それは大変だ」

思わず口にする畠田だったが・・・伝言は悪意によって揉み消すのだった。

その様子に不審を感じる亜紀だった。

父親の容体が安定して再度、吉祥寺店に連絡する理子。

今度は亜紀が応対する。

電話を変わり、無断欠席の理子を責める野島エリアマネージャー。

「連絡もしないなんて・・・どういうことだ」

「畠田さんに伝言をお願いしたのですが」

「・・・」

視線をそらす畠田の様子で・・・すべての状況を把握する邪心仲間の野島だった。

「店長が君に伝言を頼んだそうだが・・・」

「電話は確かにあったのですが・・・電波状態が悪くて聞き取れませんでした」

「・・・そうか」

しかし・・・亜紀もまた・・・よからぬ男たちの気配を感知していた。

お見舞いにかけつける親友の尾崎(濱田マリ)と下心満載の三田。

「こんな息子がいたらよかったのにね」という尾崎の冗談に・・・唇をとがらせる三田。

下世話な尾崎は三田の下心を察知するのだった。

永遠の美少年キャラの三田くんを美しく描くドラマは難しいんだな。

ある意味、エロすぎるのか・・・。

今回は・・・外見は好青年だが・・・中身はキモオタなので・・・その気持ち悪い部分が滲みでてしまうというキャラ設定・・・可哀想に。

ブックカフェ店員の高田愛子(工藤綾乃)と年相応の恋をして・・・爽やかにヒロインを助ける天使にキャラ変更してもらいたいぐらいだ・・・。

妖艶な男と妖艶な女でますます妖艶になっちゃう可能性もあります。

出社した理子に・・・「無断欠席のお詫びに行く」と告げる野島。

「私は・・・無断欠席扱いになっているのですか」

「畠田くんは君の伝言内容が不明だったと言っている」

「そんな・・・畠田さんは確かにそれは大変だと労ってくれました」

「すると・・・君は畠田くんが・・・ミスをしたと報告するつもりか」

「・・・」

「部下のミスは君のミスだ。幸い・・・御家族の不幸は伝家の宝刀だ・・・父親が危篤状態の君が動顛したことは不問になるだろう。しかし・・・畠田くんのミスはただではすまない」

「・・・」

「よく考えてみたまえ・・・年下の女が上司になった・・・縁の下の力持ち的存在の彼の気持ちを・・・妻子がある彼の立場を・・・上司として・・・」

「そんなのわかりません」

畠田を連れて乱入する亜紀だった。

「どう考えても悪いのは畠田さんです。何が年下の女の上司ですか。縁の下の力持ちなら何しても良いんですか。家族があるなら人間としてダメでしょう・・・悪いことをしたら謝る。畠田さん・・・店長にあやまってください」

「・・・」

正論を押して押して押しまくるお嬢様に圧倒される大人たち。

ついに理子は決断する。

「畠田さん・・・配慮が足りず申し訳ありませんでした・・・力不足の私ですが・・・これからも部下として支えてくれるようにお願いします」

「・・・」

「エリアマネージャー、本店に無断欠席のお詫びに伺います」

心の咎めた男たちは部屋から去る。

「店長・・・」

「北村さん・・・畠田さんにあんな口を聞いてはいけないわ・・・だけど・・・うれしかった・・・ありがとう」

「・・・理子さん」

庶民って面倒くさいと思う亜紀だった。

書店を出る理子の前に畠田が現れる。

「つまらないプライドで・・・つまらない嫌がらせをして・・・すみませんでした」

「・・・」

畠田は上司が自分を査定する立場にあることを漸く思い出したのだった。

こんなに・・・嫌な人間関係はないだろうというあなたは幸せ者である。

まあ・・・こんなもんだなと思うあなたは御苦労様。

役員室で野島は説教を続ける。

「君が至らぬことを僕が代弁したまでだ・・・自分では気がつかないことはある」

「確かに・・・店長時代・・・店長の気がつかないことを私が随分フォローしましたから」

ついに牙をむく理子。

「今度は私を無能あつかいか・・・つなぎの店長のくせに・・・」

「え・・・」

口が滑った野島だった。

まあ・・・いつまでも秘密にしておける事でもない。

社長は社長室で・・・雑誌「NOTICE」の記事を読んで何やら考えている。

社長の経営者の力量はまだ明瞭ではない。

書店トリオは理子のインタビュー記事の内容に激昂していた。

「ネット書店の時代に・・・商品知識のない書店員は無用・・・ゆとり世代の教育には苦労が絶えない・・・云々」

記事内容は書店員に対する誹謗中傷に満ちていた。

「理子さんがこんなことを言うなんて・・・」

七月に店舗閉鎖という重い秘密を抱えた理子は・・・書店員たちの指弾に驚く。

「一体・・・理子さんは・・・吉祥寺店をどうするつもりなんですか」

言葉を失う理子だった。

理子は野島を問いつめる。

「なぜ・・・私を貶なことを・・・なさるのですか」

「何度言ったらわかるんだ・・・すべて上司としての・・・教育的指導だよ」

「・・・」

「私に悪意があるというのなら・・・証拠を見せたまえ・・・私が君を故意に貶めているという証拠を」

ニヤリと笑う店長。

理子は自分の甘さを痛感するのだった。

あの・・・どこか・・・頼りない店長が・・・こんなにも処世術に長けた狡猾な男だったとは。

理子は・・・例の失恋事件でも明らかなように・・・周囲に甘い幻想を抱く傾向があるのだった。

そういう意味では・・・打たれ続けた亜紀の方が強靭さを秘めている。

そこへ・・・ユニコーン堂の田代(田辺誠一)からお誘いの電話である。

弱い女になった理子は・・・入院中の父親を放置して・・・沖縄料理店「わらゆん」に向かうのである。

全国の娘を持つ父親、涙目の瞬間だ。

事情を聞いた田代は慰める。

「どうでしょう・・・思いきってユニコーン堂に来ませんか。僕はあなたをスカウトしたい。一緒に理想の書店を作りたいのです」

「田代さん・・・」

公私ともに揺れる理子の心。

その様子を・・・野島は見ていた。

・・・探偵かっ。

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2015年5月12日 (火)

お前たちは人間じゃない!(相葉雅紀)お兄ちゃんだけに見せてあげる!(有村架純)包帯探偵は死なない!(沢尻エリカ)領収書刑事シルビア復活!(山口紗弥加)画像は撮るな撮られるな!(足立梨花)

耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び・・・でも爆発!

大和魂を感じるよねえ。

我慢するにも程がある・・・だよな。

しかし・・・そうやって真珠湾を攻撃したりするとだな・・・また・・・耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶことになるんだよな。

やられたらやり返す・・・だけど相手が懲りない奴だと困るんだよね。

やる時は息の根を止める覚悟でだな。

おいっ。

まあ・・・つまり・・・この世は地獄ということだ。

どうせ・・・最後はみんな死ぬんだから・・・生きている間は和気藹々だといいのにねえ。

和気藹々が苦手な人は困るけどな。

ああ・・・どこまでも続く・・・ぬかるみだ。

それでも・・・みんな・・・何かを信じて生きて行くのです。

で、『ようこそ、わが・第5回』(フジテレビ20150511PM9~)原作・池井戸潤、脚本・黒岩勉、演出・中江功を見た。世界は愛で満ちている。転んで泣いている子供がいたら大丈夫か心配だ。スーパーマーケットで「ねえ、お芋も買ってよ、ワタシお芋大好きなんだから」と女の子がねだっているとお母さんが要望に応じて買ってあげるのかどうかが気になる。公園で一人ぼっちの男の子がいれば「一緒に遊ぼう」と誰かが言う。夕暮れに家路を急ぐ子供たち。みんなに帰る家がある。ああ・・・いつまでも・・・この平和が続きますようにと願わずにはいられない。そして・・・主人公の出番の少ないドラマが世界からなくなりますようにと。

今回、出番、多かったぞ。

倉田健太(相葉雅紀)はリビング・ルームの盗撮カメラの映像をチェックする。

そこに映っていた五万円窃盗犯は・・・妹の七菜(有村架純)だった。

七菜の真意を確かめようとした・・・健太。

しかし・・・母親の珪子(南果歩)は「五万円がみつかった」と告げる。「別の引き出しに入っていたのを七菜が見つけてくれたの」

「母さん・・・本当に呆けたんじゃないだろうな・・・二人で行った・・・初めてのデート・・・どこだか覚えてる?」と父親の太一(寺尾聰)・・・。

「鎌倉でしょう」

「・・・浅草だよ」

「そうそう・・・浅草にも行ったわねえ」

健太は母親の頭の状態も心配だったが・・・とにかく・・・妹を自分の部屋で問いただすのだった。

「ボクは・・・七菜のことをずっとみてきたつもりだ」と臆病なので本題に入れない健太だった。

「なによ・・・いやらしいわね」

「そうじゃなくて・・・これを見て」

動かぬ証拠を突きつける健太だった。

「なんで・・・こんなことを・・・お金に困ってるなら・・・相談してくれ・・・最近、前借りができるから」

「メールがきたのよ」

「メール?」

前回の引き・・・「カメラに何が映っていたのか?」に続き、「玄関先で七菜に何が着信したか?」が明らかにされる。

今回、たたみかけるな。

《引き出しから五万円盗め》

「なんだ・・・このメール・・・この指令に従ったのか」

「でも・・・警察に届けるっていうから・・・まずいと思って見つけたことにしたの」

「どうして・・・そんなことを・・・」

「画像が添付されてたのよ」

「画像・・・まさか・・・盗まれた携帯電話に・・・変な顔の画像でも」

「変な顔の画像くらいで五万円盗むと思う」

「だって・・・」

「元カレとのツーショットよ」

「え・・・まさか・・・二人とも裸でベッドでピースとかしてるんじゃないだろうな」

「サービスは背中までよ・・・」

「ちょっと・・・見せろよ」

「嫌よ・・・」

「お兄ちゃんになら平気だろう・・・風呂上がりに裸で牛乳飲んでるじゃないか」

「しょうがないなあ・・・」

「ゲゲッ・・・お前・・・お兄ちゃんの知らないとこでそんなこと してたのか?」

「知ってるとこでやるわけないでしょ?」

「そりゃ・・・そうだけどさ」

「どうしよう・・・」

「警察に届けるしか」

「お巡りさんに見られるのはやだ」

「じゃあ・・・親父に・・・」

「お父さんに見せられるけないでしょう・・・下手すりゃ死んじゃうよ」

「そうだな・・・」

いつの間にか、大人になって・・・兄を越えて行った妹だが・・・童貞でも・・・兄として妹を守らなければならない。自分だけが七菜の兄なのだから・・・沸々と沸き上がる兄としての自覚が健太に芽生え始めたその時・・・。

円タウン出版社の蟹江(佐藤二朗)からの着信がある。

(驚くな・・・ナスカちゃんが死んだ)

「え・・・嘘・・・」

(嘘だ)

前回の第三の引き・・・明日香(沢尻エリカ)転落のその後である。

そして・・・今回は明日香を突き落とした犯人を素人探偵たちが付きとめる話として展開するのだった。教科書通りで気持ちがいいぞ。

「なんなんですか」

(でもねケガして病院に運ばれちゃったんだよね)

「それも嘘でしょう」

(これは本当なのね歩道橋の階段から誰かに突き落とされたらしい)

「え」

(高円寺の北口から歩いて5分ぐらいの馬橋公園の近くの高円寺中央病院ってとこで今 治療受けてるから来てよ倉田ちゃんいた方がナスカちゃんもちょっとは元気が出ると思うんだよね)

「すぐ行きます・・・」

「お兄ちゃん・・・どうしたの」

「ちょっと・・・また後でゆっくり話そう・・・ごめんな・・・でも・・・行かなくちゃ」

いつの間にか・・・健太にとって・・・明日香の存在は大きなものになっていた。

そして・・・健太は誓ったのだ。

犯人を絶対に許さないと。

駆けつけた病院のロビーに頭に包帯を巻いた明日香を発見する健太。

「あれ・・・どうしたんですか」

「・・・こっちのセリフですよ・・・大丈夫ですか」

「・・・」

「怪我の具合ですよ」

「ああ・・・明日もう一度精密検査して異常がなければ退院だそうです」

「よかった・・・」

「編集長に聞いたんですか?」

「はい・・・そう言えば蟹江さんは?」

「シルビアちゃんのところへ行くって・・・」

「・・・」

「それから・・・メールしたんですけど・・・明日、一日だけ・・・私の仕事を代行してもらいたいんですけど」

「それは・・・いいんですけど・・・一体、何があったんですか」

明日香は健太と電話で話した後で歩道橋で背中を押されて階段落ちしたことを告げる。

「フードをかぶった男が商店街の方に逃げていくのが見えました」

「もしかして・・・犯人は名無しさんじゃないのかな・・・明日香さんはうちに来て食事をしました・・・親しい人間として・・・ターゲットにされたんじゃ・・・」

「・・・可能性は・・・ありますけど・・・そういえば・・・室内に仕掛けたカメラは?」

「それが・・・ちょっとややこしいことになっていて」

健太は明日香に事情を話した。

明日香はいくつかのアドバイスを健太にするのだった。

病院に明日香を残し帰宅する健太。

「え・・・帰ってきたの」と珪子。

「明日・・・退院できるみたいなんだ」

「ずっと・・・ついててあげればいいのに・・・彼氏なんだから」

「彼氏じゃないってば・・・」

「もう・・・壁ゴンはしたの」

「壁ドンと箪笥にゴンが合成されているのね」と七菜。

「とにかく・・・ギュッと抱きしめてあげればいいのよ」

母親の言葉で・・・つい陶芸教室の講師の講師・波戸(眞島秀和)の愛の告白「君の お母さんが好きなんです」を思い出し吐き気を感じる健太だった。

「母さん・・・最近はもうそういうこと してないでしょ?」

「え」

「朝から・・・なんの話してんのよ」と七菜。

「お父さんだって・・・昔はそりゃもう」

「え」と太一。

ストーカーに狙われ、関係者が襲われたというのに・・・この倉田家の緊張感のなさは・・・。

心臓に毛が生えている一族なのか・・・。

母親に草食系と断定された健太はソーセージを多めに食べさせられるのだった。

肉食をすると草食系男子が恋愛に積極的になるのかどうかは・・・学会でも謎とされています。・・・どこの学会だよっ。

妹とともに家を出た健太は明日香からのアドバイスを伝える。

「心当たりのないメールは中を見なければいいって。そうすれば脅されることもないだろ」

「アドレスとかも変えなくていいってこと?」

「アクセスを遮断すると逆に危険だって。画像がネットにばらまかれたりするかもしれないから」

「そっか・・・」

「とにかく何かあったらすぐ俺に言えよ」

「うん・・・明日香さんのメアド教えて」

「え」

「御礼しときたいから」

「・・・ああ」

兄より明日香の方が頼りになると妹が思っていることを確信する健太だった。

健太抜きの場面となるナカノ電子部品物語。

健太主人公版のドラマとしてはようやく・・・配分が修正されてきた。

「長嶋茂雄物語」なのに主人公を一茂にしちゃいましたって感じだからな。

人より少し舌足らずな三奈だったらまだしもな。

どの世代向けのたとえ話だよ。

ちなみに・・・今回、ランキング入りする予定の若葉(田中美麗)と高橋(橋本稜)は総務部の社員で何故かエンディングに顔つきで登場するのだ。SUPER☆GiRLSでスクールゾーンだからか。SUPER☆GiRLSはわかるがなんでスクールゾーンなんだよ・・・。

まあ・・・いいじゃないか。

総務部契約社員のシルビア/西沢摂子(山口紗弥加)に怒られた高橋・・・。

「しゅみません」である。

韓国好き芸人に迎合した脚本かっ。

まあ・・・いいじやないか。

今回の本当は主人公パートは・・・「在庫があわないネタ」である。

「三千万円分のドリル(プリント基板に穴を 開けるための極小径の道具)」のあるはずの在庫がないと言い出す摂子。

納入業者は「相模ドリル」で担当者は真瀬営業部長(竹中直人)だった。

太一は真瀬を追及してみるがあっさり交わされる。

配送課長の平井(戸田昌宏)にも恍けられる。

そのうち・・・ドリルは突然、姿を見せるのだった。

一体・・・どんなカラクリがあるのか。

そういうネタに興味のない人にはどうでもいい引きを残して今回は本当の主人公パート終了である。

最初から・・・このくらいのバランスでよかったのにな・・・。

一方、健太は入院中の明日香に変わってタウン誌の取材に励むのだった。

抹茶のシフォンケーキ、店主が高円寺で店を出すきっかけ、デニムの品揃え、阿波踊りの醍醐味、中央線の天使円ジェルズ・・・。

高円寺の人々とふれあいまくる健太だった・・・。

慣れない仕事に披露困憊して円タウン出版社に戻った健太は・・・仮眠中の蟹江を発見する。

「・・・もう朝か?」

「昼です」

「えっ?休憩?えっ?何?その ぐったりアピール・・・」

「明日香さんの仕事の引き継ぎで駆けずり回ってたんですよ」

「おうおう。おうおうおうおう。 おう。まああの。 ご苦労ちゃん。うん」

佐藤二朗全開である。

「タウン誌円スタ・・・って明日香さん一人で作ってたんですね?・・・取材して記事書いて編集してって・・・仕事の量、半端じゃないですよ」

「そんなことより・・・シルビアちゃんがお店辞めちゃったーい!・・・倉田ちゃんのお父さんってシルビアちゃんとお知り合いなんだよね?・・・お父さんにちょっと頼んで合コンをセッティングするといいと思うね」

「嫌ですよ・・・親父に合コン頼む息子なんかいませんよ!」

「じゃ・・・髪の毛、ラフにしちゃうよ」

「ありがとうございます」

髪の毛をフワッとさせられる健太。

もはや・・・佐藤二朗劇場である。

一方、お茶の間が疑いの眼差しで見つめる女子大生の女友達・万里江(足立梨花)は七菜の相談に乗っていた。

「駄目だよ。・・・女子アナ目指してんなら。・・・流出したらアウトじゃん」

「わかっちゃいるけど・・・盛りあがっちゃって」

「ノリでハメ撮りなんてダメダメだよ~・・・こういうのいっぱい撮ってたの?」

「旅行行ったときとかには色々撮ったけど・・・携帯じゃなくてパソコンに保存してある・・・」

そんな情報・・・流しちゃダメダメである。

「気を付けなよ・・・ところで・・・面接は」

「五次通って・・・次が・・・最終」

「やったじゃん・・・おめでとう」

本心か・・・それは本心なのか・・・疑わざるをえないお茶の間だった。

そんな二人を・・・七菜の元カレ・辻本正輝(藤井流星)が見つめる。

もちろん・・・辻本がツーショット画像のお相手なのである。

健太の知らないところでいろんなことをしていた七菜と辻本が何故、破局したのかは定かではないが・・・なんとなく・・・万里江がからんでいるような気がするし・・・辻本がストーカーしているのが・・・悪意なのかどうかもわからない。

ストーカー行為そのものが悪なんだよっ。

そうなのかっ。

お嬢様の安全確保のために24時間シークレットサービスが警護しております。

どこの財閥のじいやだよっ。

帰宅した健太を出迎える明日香・・・。

珪子、太一、七菜と和気藹々の明日香に戸惑う健太だった。

「七菜ちゃんが合格したら・・・お祝いしないといけませんね」と明日香。

「明日香ちゃんもジャーナリストだし・・・家族にマスコミ関係者が二人なんて素敵」と珪子。

「とにかく・・・今日は明日香ちゃんの退院を祝って乾杯だ」と太一。

「明日香ちゃん。今日はもう泊まっていっちゃってね」

「いいんですか」

「でも、お風呂、お父さん入っちゃったよ」と七菜。

「いいじゃない。お湯替えれば。私、結構やってるわよ」

「え」と心が傷つく太一だった。

唖然とするしかない健太である。

「ところで、明日香さん・・・何で ジャーナリスト目指したんですか?」と傷ついた心を話題転換で癒そうとする太一だった。

「父が報道カメラマン やってたんです。父が撮った写真にいつか私が記事を書くって約束したんです。結局・・・小学五年生のときに死んじゃいましたけど」

「え・・・」

意気消沈する一家。

「んなわけないじゃないですか。ごめんなさい。いつも言ってる冗談です」

「ああ」と和む一家。

疑うことを知らない一家なのだった。

「父は普通のサラリーマンで・・・ジャーナリストを目指したのは・・・何となくカッコイイと思ったからです」

明日香の言葉を素直に信じる一家である。

とにかく・・・両親は息子に初めて恋人が出来たことがうれしかったらしい。

やはり童貞なんだな・・・。

両親の期待にそって明日香と健太は部屋で二人きりになるのだった。

「とにかく・・・見ましょう」

「どうして・・・外の防犯カメラを・・・」

「名無しさんが七菜ちゃんにお金を盗むように指示してきたとしたら・・・そのときの家の中の混乱ぶりを盗聴して楽しんでいた可能性があります」

「なるほど・・・」

カメラには不鮮明な人影が映っていた。

「七菜ちゃんの元カレの辻本くんかもしれません」

「え」

「画像は辻本くんがリベンジポルノとして送ってきただけかもしれない」

「じゃあ・・・あの画像は名無しさんとは何にも関係ないってことですか?」

「すべては可能性の問題よ」

「可能性?」

「辻本くんなら・・・携帯を盗まなくても・・・画像は持っているでしょうし・・・携帯を盗んだ犯人にももちろん・・・可能・・・でも・・・それが誰だかわからない。たとえば陶芸の先生かもしれないし・・・そもそも名無しさんがニット帽の男とは限らない・・・もしかしたら辻本くんかもしれないでしょう」

「怪しい人が多過ぎますよね・・・明日香さん・・・あれ」

明日香は眠りに誘われていた。

仕方なくベッドに明日香を横たえる健太。

そこにお茶を持ってあらわれるニャースなコントがあって・・・。

翌日、同伴出勤する二人。

蟹江は仮眠中だった。

「・・・もう朝か」

「朝です」

「ちょっと待ってくれ・・・こんチクショー・・・君ら同じシャンプーの香りが漂ってるぜ」

「昨日・・・倉田さんちに泊まりました」

「・・・」

「ちょっと何かリアクション してくださいよ。気まずいじゃないですか」

「だってさうちはさ社内恋愛OKだから」

「・・・用事を思い出したのでちょっと出かけます」

健太は単独行動に出るのだった。

犯人の逃走経路に防犯カメラがあることに気がついたのだった。

健太がやってきたのは紳士の夜の社交場「ピンクフラミンゴ」だった。

「午前割引狙いなの?」

「お店の外にある防犯カメラの映像を見せていただけないでしょうか?」

「そういうプレイコースはないんですよ」

「プレイじゃありません」

その頃、お茶の間が疑いの眼差しで見つめる陶芸教室のセレブ女友達・下村民子(堀内敬子)は何故か・・・珪子に波戸との不倫機会を構築するのだった。エマニエル夫人関係の人なのか・・・。

「小田原の山の中なんだけど・・・波戸先生がご友人と共同でお使いになっている登り窯があるのよ」

「登り窯なんて使いこなせないですよ」

「大丈夫。波戸先生が やってくれるから。一晩 かけて火を入れ続けると電気窯では絶対出せない風合いが出るのよ。

「泊まりなんだ?」

「私たちはずっと窯にいる必要ないのよ。近くに結構いい温泉もあるし。どう?」

言葉巧みな誘惑・・・怪しい宗教団体の勧誘のようである。

気持ちが揺れる珪子だった。

「ちょっと・・・主人と相談してみる・・・」

まあ・・・そんなに巧に誘惑しなくても珪子はすぐに陥落しそうだけどな。

振り込むなって言ってるそばから振り込むタイプだよな。

「うちみたいな店はプライバシーに厳しいんだから無理だって」とピンクフラミンゴの店長。

「9時前後の映像だけで いいんです」

「それなら・・・警察に提供したけど」

「え」

「とにかく・・・一般人にはみせられないよ」

「そこをなんとか」

「しつこいな」

そこへ明日香がやってくる。

「あれ・・・明日香ちゃん・・・なんだ・・・あんた円スタの人なの」

「はい」

「それならそうと早く言ってよ。映像のデータは蟹江さんにおととい渡しといたよ」

「え」

蟹江はとっくに防犯カメラに気がついて独自の検証をしていたのだった。

「だから・・・寝不足に・・・」

「 防犯カメラの映像って退屈なんで寝てたけどね」

「で・・・フードの男は・・・」

「映ってたよ」

商店街の複数のカメラにフードの男は捉えられていた。

「あれ・・・この男・・・」

「途中で自転車に乗ったのよね」

「この自転車・・・」

それは老婆に暴言を吐いた通りすがりの男(遠藤要)だった。

明日香が抗議した男である。

自転車に張ってあった駐輪証明のステッカーに気がつく健太は再び、単独行動をするのだった。

「おいおい。どこ行きやーる? どこ行きやーる?」

主人公なので一回くらいは自力でなんとかしたいと思う健太なのである。

デザイナーとしてステッカーの特徴から高円寺 3丁目のMJエステートというマンションを割り出した健太。

駐輪場で男の自転車を発見するのだった。

「自転車見つけました」

電話で明日香に報告する健太。

(すぐに警察に連絡します)

「お願いします」

しかし、そこへ男が通りかかる。

「あなたが明日香さんを襲ったんですよね?」

「知らねえよ」

「防犯カメラにこの自転車映ってました。家だって分かっちゃったし。もう 逃げられませんよ」

「ちっ・・・あのさ・・・元はと言えばあの女が余計な口聞くからいけねえんだよ・・・恥をかかせられたら・・・誰だってあのくらいのことはするさ」

「しませんよ」

「ちょっと、背中を押しただけじゃねえか」

「下手したら死んじゃってたかもしれないんですよ?」

「そんなの・・・地球の引力が悪いんじゃないか」

「明日香さんはすっごい頑張ってるんです・・・僕は見たんだ・・・嘘だって言ってたけど・・・お父さんはカメラマンだった・・・亡くなったお父さんのために・・・ジャーナリストになったんですよ・・・」

「何言ってんだ・・・関係ないだろう」

「誰にだって不満とかあるのは分かります・・・でも・・・みんな・・・そういうの我慢して生きてるんです・・・一生懸命やってる人のこと・・・邪魔する権利なんてないんですよ」

「なんだ・・・お前・・・説教してんのか・・・何様なんだよ」

男は健太を殴り倒すのだった。

「痛い・・・」

そこへパトカーが到着する。

「あの人です」

明日香の指示で男を傷害の現行犯で逮捕する刑事たち。

「大丈夫ですか・・・」

「うん・・・ねえ・・・あなた・・・謝ってくださいよ」

「・・・」

「明日香さんに・・・謝ってください」

「・・・」

男は無言で刑事たちに連行される。

「僕・・・臆病ものなんです・・・怖くて怖くて」

「知ってます」

「・・・」

「さあ・・・帰りましょう」

「痛い・・・親父にもなぐられたことないのに」

「あ・・・アニメのセリフですね・・・ジブリかな・・・それともディズニー」

「たつのこプロじゃなかったかな」

日本サンライズである。

倉田家に戻る二人。

「健太さんのおかげで犯人つかまりました」

「ケガして女の子に家まで送ってもらうっていうのはどうかと思うけど」と七菜。

「私が勝手についてきただけです・・・ご心配していただいてありがとうございました」

「いつでも 来てね。ほら。 将来的には二世帯とかもね」

「母さんっ」

「でも・・・名無しさんとはまったく関係ない人だったんですよね?」

「・・・そうですね」

「余計なことをするのは・・・考えものだねえ」

「あ・・・お父さんにお願いがあるんですけど・・・」

「え」

怯える太一。しかし・・・明日香の願いは・・・蟹江にシルビアを紹介してもらうことだった。

実際・・・お手柄だったのは蟹江だったからである。

だが・・・この事件解決によって・・・健太はヒントを得るのだった。

「逃走経路・・・」

「名無しさん・・・夜中に行動してますからね」

「終電なくなっちゃいますよね」

「タクシー会社に聞けば・・・何か・・・分かるかも」

「でも・・・タクシー会社・・・ものすごくありますよ」

「まず・・・最寄の営業所をあたってみましょう・・・知り合いがいます」

「どんだけ・・・顔が広いんですか」

タクシー会社の営業所長は協力的だった。

「今は・・・記録が残ってますからね・・・調べてみましょう」

「ガスがポストにいれられたのはすごい雨で・・・八日から九日にかけての深夜です」

「ありますね・・・郵便局の近くから武蔵小杉まで・・・13号車だな」

「ああ・・・あの雨の日・・・フードかぶったままの客がいたな・・・新丸子の路地裏まで」と13号車の運転手。

「場所・・・わかりますか」

「タクシー運転手ですからね」

まあ・・・少し・・・ツキが過ぎているが・・・主人公だからな。

二人は教えられた住所に向かう。

「名無しさんには謝ってもらいましょうね」と明日香。

「はい・・・絶対に」と健太。

しかし・・・富裕層という名無しさんのプロファイルには合致しない質素なアパートだった。

現れたのは・・・辻本正輝だった。

「君が・・・名無しさん?」

いや・・・違うと思うぞ。

なにしろ・・・来週は最終回じゃないし・・・。

2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング

①位 ニット帽の男(名無しさん)

②位 明日香の父(亡霊)

③位 若葉(SUPER☆GiRLS)

④位 辻本(ジャニーズWEST)

⑤位 健太(主人公)

⑥位 七菜(悪魔トリタガールに憑依されている)

⑦位 高橋(芸人)

⑧位 民子(主婦売春組織の女ボス)

⑨位 八木(高田純次)

⑩位 ガス(ニャンコ星人)

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2015年5月11日 (月)

吉田松陰、松浦亀太郎の号を選びて松洞となすこと(井上真央)

なぜ・・・長州藩家老・根来主馬の武家奉公人で絵師の松浦松洞(亀太郎)が京で自刃しなければならなかったのか。

実はドラマではその経緯をじっくりと描いている。

萩・松本村の魚商人の子、亀太郎が絵師を志す途中で吉田松陰の門下生となり、そのコネクションで長州藩士の一員として江戸に留学する。

下級藩士の多かった松下村塾でも出自が町人である松太郎は塾生からそれなりの侮りを受けたことだろう。

「天皇の前での万民の平等」を説く松陰にとって・・・その現実は受容できないことであった。

松陰はことさらに亀太郎を可愛がり、ついには松洞と名付けた。

亀太郎はどれほどに松陰を敬愛したか・・・それが松陰を描いた作品に結晶しているわけである。

ストレートに描けば・・・松陰に対する松洞は・・・武市瑞山に対する岡田以蔵のようなものなのである。

しかし、剣士と絵師の違いが・・・あるいは大河ドラマの限界が・・・最後の描写を曖昧なものにするのである。

松洞にとって長井雅楽は松陰を幕府に引き渡しその命を奪った師の仇の象徴であった。

久坂玄瑞による長井暗殺計画に賛同した松洞は燃えあがる。

しかし、計画は実行に移されなかった。

絵師・松浦松洞の激昂はいかばかりであっただろう。

結局・・・同志たちは・・・臆したのである。

そして・・・松洞一人では藩の重役・長井雅楽を殺害することはいかようにしても無理であった。

そのために・・・松洞は憤死するのである。

その死は「師」の「志」を実行しなかった高弟たちの心を騒がせるのだった。

松陰の回天の事業を最初に実行したのが・・・松浦亀次郎だったのである。

そのように描けば・・・絶対に盛り上がるのだが・・・何故か寸止めする脚本と演出。

もはや・・・幕末は・・・ドラマ・スタッフが自由に描けない時代なんだな・・・きっと。

だが・・・「八重の桜」では維新政府を悪役に仕立て上げたんだから・・・逆もやろうよ・・・。

テロリズム万歳でもいいじゃないか・・・。

母の日か・・・。

で、『花燃ゆ・第19回』(NHK総合20150510PM8~)脚本・大島里美、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は酒乱の気があるが松下村塾のシンパ上役・周布政之助の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。長州が維新の原動力となれたのは密貿易により財政の豊かさを保持できたことが一因となりますが・・・周布政之助は改革派と言う名の密貿易派の首領とも言えます。そのために下級武士たちの顔役となりえたわけでございましょう。幕末下剋上にあって・・・長州藩の名門派閥の首領たちと・・・松下村塾をはじめとする草莽の志士たちの板挟みになって酒毒に冒されてしまったのでしょうな。さて・・・幼な妻・雅が本格的に登場した今回。藩主の娘くらいの凄まじいお嬢様キャラクターに造形されちゃいましたな。確かに・・・奉行の娘で用人の嫁・・・下級武士の上に身内から罪人を出している杉家にとっては雲の上の存在でしょう。ただし・・・短期間ではあるけれど藩医・久坂玄瑞は公家とも親しみ、京における長州外交の指導者となるので嫁の地位も一瞬格上げされるわけですな。夫同士が親友と言える間柄なので・・・きっと・・・夫たちの京都における女遊びを嘆く女友達になる予感がいたします。故郷で女たちが家計をやりくりして・・・仕送りすると・・・京の男たちはやりたい放題です。男のロマン・・・きっちりと表現してもらいたい今日この頃でございます。

Hanam019文久元年(1861年)四月、薩摩藩主・島津茂久の実父・久光は国父として実権を掌握する。六月、長州藩は長井雅楽により「航海遠略策」を朝廷に建白する。八月、孝明天皇の妹和宮と将軍家茂の結婚を推進する幕府老中首座・安藤信正は長井と面会、長州藩が幕政に参加する好機が訪れる。公武合体に反対する攘夷派は水面下で暗躍を開始し、京には薩摩藩や長州藩の急進派が集結する。文久二年(1862年)一月、坂下門外の変において水戸藩・宇都宮藩の急進派に襲撃された安藤信正は負傷し、失脚する。長州藩における公武合体派と攘夷派の対立が再燃し、「航海遠略策」の撤回を掲げ久坂玄瑞らが入京。四月、島津久光が藩兵を率いて上京する直前、久坂らは長井暗殺計画を模索するが中止。十三日、松浦松洞が自刃する。十六日、久光が入京。攘夷志士の期待は裏切られ、朝廷の要請を受けた久光は志士鎮撫を開始する。二十三日、寺田屋に集結した攘夷派は久光によって粛清される。攘夷派と見られた西郷隆盛は失脚した。久光の参画により公武合体は進むが・・・同時に攘夷派は長州藩を軸に過激化するのだった。

うしみつどきの闇の中・・・三条通を東へ・・・栗田口に現れた亀太郎は林の中の小道を通り、人気のないお堂についた。

つなぎに現れたのは近在の農民を装った草の忍びである。

根来家の奉公人として入京した亀太郎は京における長州藩の動向を報告することを命じられていた。

亀太郎は公儀隠密である。

口伝で情報を受け取った京の草は東へと去って行く。

残された亀太郎は闇の中に殺気を感じた。

クナイが飛来し、亀太郎は咄嗟に木立に隠れた。

亀太郎は着物の隠し袋から十字手裏剣を取り出す。

武器はただそれだけである。

「亀太郎・・・やはり・・・幕府の草だったのか・・・」

闇の中から聞こえる声に馴染みがあった。

亀太郎は気配を窺った。

「やめておけ・・・」

闇の中から聞こえる声は移動している。

「利助か・・・お前は隠し目付けだったのだな」

「何を報告したかは・・・問わん・・・このまま消えよ・・・栗田山を越えて行け」

「大したことは密告しておらん・・・しかし・・・去るわけにもいかん・・・」

「忍びの掟か・・・」

「そうじゃ・・・掟に縛られたものの・・・どうにもならぬことは・・・忍びなら分かるじゃろう」

「・・・」

「徳川の忍びと毛利の忍びが出会ったのじゃ・・・術比べするしかあるまい・・・」

「そんな時代でもなかろうが・・・」

「ほう・・・臆したか」

「・・・」

「参る」

亀太郎は跳んだ。

右手の林の樹上に利助の気配を察したのだ。

必殺の伊賀十字撃ちを放ち、闇の中で草叢に伏せる。

しかし、その身体をクナイが貫いていた。

「馬鹿野郎・・・そんな腕で・・・俺が倒せるかよ」

耳元で利助が囁いた。

「利助・・・術の名を教えてくれ」

「猿飛だよ・・・」

「なるほど・・・こんなところでは・・・勝負にならんな」

「・・・」

「なあ・・・利助・・・忍びとしておかしなことを言うようだが・・・俺は松浦松洞として死にたい」

「亀太郎・・・」

「松陰先生に殉じて・・・俺はここで・・・自決した・・・そういうことにしてくれないか」

「末期の望みか・・・」

「・・・松陰先生・・・」

「松下村の友として聞いたぞ・・・お前の望む通りに・・・」

亀太郎は答えなかった。

利助はクナイを回収すると・・・亀太郎の骸を残し、京の都に戻って行く。

祇園はまだ・・・享楽の灯りで輝いていた。

その頃、久光の軍勢は伏見に到着している。

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2015年5月10日 (日)

サプライズ・パーティー急襲!(多部未華子)回転ジャングルジムの果てに(大倉忠義)悪女の御裾分け(吉田羊)

おしたな・・・。

おしました・・・。

3333333の通過を楽しんでる暇もなかったな。

(木)(金)の修羅場が応えてるな。

中盤突入でねっとりしているのでございます。

さあ・・・まくぞ。

まくのですな。

まいてまいてまきまくる~。

手を抜くのでございますね。

それ・・・禁句ですから~。

で、『ドS刑事・第5回』(日本テレビ20150509PM9~)原作・七尾与史、脚本・山岡真介(他)、演出・松永洋一を見た。日本テレビシナリオ登竜門2005優秀賞の脚本家投入である。「セクシーボイスアンドロボ」とか「ホタルノヒカリ」とか単発登場でそれなりの切れ味を見せている。「警部補 矢部謙三」とか「霊能力者 小田霧響子の嘘」とかテレ朝でミステリ修行も積んでいるしな。そういう意味で今回はギリギリ、ミステリーだった。まあ・・・どこが面白いのかわからない面白さも面白いと言えば面白いのでギリギリ、コメディーとしても成立していたようだ。ギリギリでいいのかどうかは別として。

室内にブリザードが吹き荒れる川崎青空警察署刑事一課強行犯捜査係。

課長の白金不二子警視(吉田羊)が四十歳の誕生日を迎えたのだった。

「十三日の金曜日」と同じくらい不吉な「四十歳の誕生日」に刑事たちは戦々恐々である。

絵文字で言えばヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ~(°°;)))オロオロ(((;°°)~である。

「何を怯えているのかしら」とにらまれる有栖川係長(勝村政信)。

「何を笑っているのかしら」とすごまれる中根刑事(中村靖日)・・・。

「何で変な顔なの・・・特に眉毛と目の間の幅がむかつく」と叱責される浜田刑事(八乙女光)・・・・・・。

定年間際の近藤刑事(伊武雅刀)はひたすら息を殺し、嵐の過ぎ去るのを待つ。

その時・・・部屋の照明が消え・・・素っ頓狂な歌が聴こえてくる。

「ハッピーバースデイ~トゥ~ユ~・・・」

バースデイケーキを持った愚鈍な代官さまこと代官山脩介巡査(大倉忠義)と人の嫌がることをさせるのが大好きな黒井マヤ巡査部長(多部未華子)の登場である。

刑事たちの心は凍りつく。

うっかり転ぶ代官様。

しかし・・・バースデイケーキは白金課長が受けとめる。

「遅れてすみません・・・なにしろ・・・蝋燭四十本たてるのは時間がかかるので」とマヤ。

「これは・・・何の真似・・・」

「サプライズです・・・」

高まる緊張を切り裂く入電である。

(管内で不審事件発生、至急現場に臨場せよ)

「ちっ」と舌打ちする課長とマヤだった。

一同は事件発生を喜び現場に急行するのだった。

とあるパーティー会場でIT企業に勤務する大隣(ダイアモンド☆ユカイ)が意識不明の重体になり、病院で死亡が確認されていた。

死因はピーナッツアレルギーによるアナフィラキシーショックだった。

しかし、パーティーン会場の料理にはピーナッツは使用されておらず・・・何者かが故意にピーナッツを摂取させた可能性があった。

パーティーは大隣の専務昇進祝いであり、サプライズ企画であるシャンペンぶっかけの際中の出来事だった。

容疑者として・・・大隣に出世を邪魔されていた有田サチ(赤間麻里子)が浮上する。

しかし・・・近藤刑事はパーティーの料理を用意した料理人の有美香(入山法子)に疑いの目を向ける。

そして・・・マヤは直感で・・・大隣の腹心の部下である脇本司(柏原収史)と断定するのだった。

「なぜです・・・大隣専務昇進後・・・部長の席を用意されていた脇本さんには動機がありません」と代官様が指摘する。

「ばっかじゃないの・・・動機なんてなくたって人は人を殺すのよ」

「いや・・・それを言うとミステリじゃなくなります」

「そんなの・・・私の知ったことじゃないわ」

「主人公の言うセリフですか」

「とにかく・・・あの男はゲストの中で一番、アップが多い・・・従って彼が犯人よ」

「・・・」

おい、これ、まいているのか。

これからまきにまきます。

やたら、敵対的で周囲の人間を見下しまくる有田に辟易する刑事たち。

今回羊回といっていいくらいだが・・・舞台女優対決だと地味すぎて絵面が深夜のドキュメンタリーみたいだ。

「とにかく・・・脇本は腰ぎんちゃくのイエスマンよ、そんで大隣のお気に入り・・・私は大隣が死んでくれてよかったと思っている。殺してやりたいと思ったこともあるしね。殺そうか。殺してやろうか、しゃーっ」

「NHKのコント見ましたね」

「微妙な面白さよね~」

「女優陣はがんばってますけどね」

「だけど・・・私は殺してないわよ」

近藤刑事は有美香と大隣が交際関係にあったことをつきとめ・・・家宅捜査を行う。

「ピーナッツバターが見つかりました」

「好きなんですよ」

「たまに食べたくなりますよね」

「昔、コーヒーバターっていうのもありまして」

「よくご存じですな・・・ところで・・・あなたは大隣に暴力を振るわれていたのでしょう」

「・・・」

「ついに・・・あなたは耐えかねて・・・殺したんですね」

「いいえ・・・私たちはそういう趣味なんです・・・彼を愛していたし・・・もう殴ってもらえないと思うとどうしていいか・・・」

「病院に行きなさい」

一方、サプライズを嫌がらせの一種だと考えるマヤはサプライズ好きだった大隣の過去の記録映像を取り寄せ、BARBER「代官山」で研究にふけるのだった。

「柿ピーお好きでしょう」と代官様の母(岸本加世子)・・・。

「なぜ・・・それを」とマヤは驚く。

「まあ・・・嫌いな人の方が少ないですから」

明らかにマヤの父である警察庁次長の黒井篤郎警視監(未登場)と顔見知りであることを匂わせながらもったいぶる代官様の母だった。

情報屋(石井正則)は大隣にサプライズを仕掛けるのはいつも脇本で・・・大隣は驚いたフリをしているだけで実は脇本と組んでサプライズを装っていたことを明かし、サプライズの後で必ず大隣が脇本にサプライズ返しをしていたことを告げる。

「なんだか・・・面倒くさいですね」

「サプライズなんて基本、金持ちの道楽だから」

「今回のサプライズ返しは・・・脇本の誕生年ワインのプレゼントだったらしい」

「なんだか・・・普通ですね」

ワインを用意したのは有美香だった。

「残念でしたね・・・ゲストなのに・・・犯人じゃなくて・・・」

「殺された被害者役より・・・マシです」

「最初に殺されて回想シーンもないと・・・死んでるだけですものねえ」

「やはり・・・普通のワインみたいです・・・」と代官様。

しかし・・・マヤはワインを調べると・・・ラベルの裏側に文字が書かれていることに気がつく。

緊急捜査会議は・・・今回は何故か地球型回転ジャングルジムで行われた。

「回します」

「もっと」

ヘトヘトになる代官様だった。

もちろんマヤはニヤニヤした。

一方、白金課長は防犯カメラの映像から・・・脇本がピーナッツオイルを購入したことを突きとめていた。

パーティー会場で撮影された映像から何者かが大隣にピーナッツオイルを付着させたと思われるハンカチを渡していた。

ハンカチで口を抑えた大隣はピーナッツ成分を吸引し死に至ったのだ。

しかし、現場にハンカチは残されていなかった。

取調に応じる脇本は落ち付いていた。

「すると・・・私が・・・大隣さんを殺したと・・・何のために」

「そうですね・・・あなたと大隣さんは特殊な関係だ」

「・・・」

「やらせのサプライズをするほどの一心同体で・・・きってもきれない腐れ縁」

「そんな・・・大隣さんが・・・あなたを裏切ったとしたら・・・あなたはショックでしょうねえ」

「私を裏切る・・・」

「そうです・・・たとえば・・・あなたを部長にするのはやめた・・・とかなんとか」

「・・・」

「愛というのは・・・不思議なものです・・・深まれば深まるほど・・・憎しみと区別がつかなくなる・・・失恋した男が相手を殺すなんて・・・よくある話でしょう」

「しかし・・・私は大隣さんに・・・裏切られたり・・・していない」

「ですよねえ・・・ところで・・・サプライズにはサプライズ返しがつきものとか・・・」

「?」

「大隣さんはあなたのためにサプライズ返しのワインを用意していたんですよ」

「・・・」

「せっかくですから・・・大隣さんを悼んで献杯しましょう」

ワインはグラスに注がれる。

ワインボトルを掲げるマヤ・・・。

「おやおや・・・エチケットの裏に何か文字が見えます・・・あらあら・・・これはあなたへのメッセージですね」

マヤは脇本にそれを示した。

《親愛なる脇本新部長へ・・・驚いた?・・・まさか・・・本気で私が君を裏切るとでも?》

「・・・ああああああああああああああああ」

「どうやら・・・あなたは・・・勘違いなさったようですね」

脇本の心を大隣への愛と自責の念が引き裂いた。

ボトルを割って凶器に変え自殺を図る傷心の犯人。

マヤは女王様の鞭で阻止するのだった。

「確保」

刑事たちは容疑者を逮捕するのだった。

「愛に満ちた上司と部下だったのね・・・私もこんな忠実な部下が欲しいものねえ」

「悪戯心を起こさず・・・部下をからかったりしなければ・・・死なずにすんだんですよねえ」

陰険な火花を散らす課長とマヤだった。

もちろん・・・二人は・・・自分以外の人間を下僕と見なす点においては同じカテゴリーに属するのだ。

再び用意される課長のためのバースデーケーキ。

「気持ちだけ受け取っておくわ」

「それじゃ・・・代官様・・・課長の代わりに蝋燭を吹き消してあげたら」

「いいんですか」

代官様は蝋燭の火を一気に吹き消すのが大好きだったらしい。

馬鹿だからな。

代官様が息を吹きかけるとケーキは爆発した。

若い女王様から四十歳の女王様にいやがらせのおすそわけである。

課長はニヤニヤした。

世界は悪意に満ちている・・・それを楽しんだ者の勝ちなのだ。

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2015年5月 9日 (土)

恋人たちがドライブをしてキスをするのがデートです(山下智久)

「知」というこの世で最も謎めいた「何か」を描いて行く物語である。

原作がそうであるようにドラマもその「呪い」から逃れることはできない。

「知的障害者」を「知に不自由な人」と考えると「知的障害者でない人」は「知に自由な人」ということになる。

果たして・・・それは・・・疑うことのできない事実と言えるのか。

しかし・・・主人公が鑑賞する「接吻」を描いた画家・クリムトが生きた世紀末ウイーンを代表する哲学者・ウィトゲンシュタインは「語りえぬものについては沈黙しなければならない」と教示する。

その問題についてはスルーするのが賢明なのだろう。

十九世紀・・・すでに人類の知は複雑な領域に突入している。

専門分野の知のプロフェッショナルが生まれ・・・もはや、万能の天才は幻となっている。

そして・・・時代はもはや二十一世紀である。

人々は・・・主人公が「お利口さん」になっていく過程を・・・たとえば数式で示される。

主人公が解く問題が・・・すでに知の外にある何かだと感じる人は・・・天使テンメイ様が優しく解説してくださるので・・・参考にしていただきたい。

紹介した記事は予告編に示された数式によるものだが・・・本編も同様に解説してくれるだろうと予測する。

それはこのレビューを書き終える頃、このブログのアクセスカウンターの示す数字が悪魔がこよなく愛する3333333を通過しているのと同じくらい確実だと思われる。

で、『アルジャーノンに花束を・第5回』(TBSテレビ20150508PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・吉田健を見た。1966年に長編小説「Flours for Algernon」が出版されて後・・・世界は知的障害者を含む何かに不自由な人々に対する姿勢を変容させてきた。「差別」という言葉もうかつに使えないほどに障害を持つ人々への悪意は指弾され追及されてきたのである。少なくとも先進諸国において半世紀の間に・・・障害を持つ人々が置かれた環境は驚異的に改善されたと言えるだろう。しかし・・・それはまだ改善の余地がある道の途中であることは間違いない。この物語が色褪せないことがその証拠である。

「ドリームフラワーサービス」の従業員である白鳥咲人(山下智久)が知的能力向上施術(フィクション)を受けた成果は現実のものとなっていた。

バーチャル・システムによる迷路テストで咲人はついにネズミのアルジャーノンが残した最高記録を更新する。

脳生理科学研究センターの蜂須賀大吾部長(石丸幹二)をリーダーとする研究チームはアルジャーノン効果の人体への応用が成功したことを確信するのだった。

被験者である咲人は世界でたった一人の貴重なサンプルとなったのだ。

もちろん、それは悪魔の人体実験に他ならない。

しかし、知的障害者の治療という大義名分が研究者たちに福音となって響いていたのである。

だから・・・研究員たちは咲人を祝福し、病状の回復の喜びを分かち合うのだった。

咲人は日常生活に復帰する。

しかし、貴重な成功例である以上、咲人が画期的なナノマシーンによる脳機能イメージング技術(フィクション)により脳内を常時観測され、その行動は・・・小久保研究員(菊池風磨)をリーダーとする興帝メディカル産業の警備員チームに監視され、警護されていることは言うまでもないだろう。

人権問題に関わるため・・・その存在はお茶の間にも秘されているのだ。

「ドリームフラワーサービス」の従業員として咲人は顧客からの電話注文にも応じられるようになっていた。

「はい・・・即日配達も承っております・・・スズランの在庫はございます。お届け先を伺います。お届け時間のご指定はございますでしょうか。はい・・・承りました。スズランの花言葉は「幸せの訪れ」です。当店はお客様に幸せをお届けいたします」

「凄いぞ・・・咲人」と経営者である竹部順一郎(萩原聖人)は喜ぶ。

「マジかよ・・・」と柳川隆一(窪田正孝)は半信半疑である。

「本当に・・・頭が良くなるなんて・・・」と檜山康介(工藤阿須加)は茫然とするのだった。

咲人は仲間たちに褒められたうれしさを隠さない。

「ボクはお利口さんになりました・・・あはは」

・・・僕はお利口さんになった。

お利口さんになると世界は輝いて見える。

なぜなら・・・世界は素晴らしいことで満ちているからです。

本を読むと知らなかったことを知ることができます。

読み切れないほどの本があることも分かります。

本がいろいろなことを教えてくれるので僕はますますお利口さんになっていきます。

新しいことを知る度に世界が変わって行くのは面白い。

こんなに楽しいことがあることを僕はずっと知らなかったのです。

だけど・・・お利口さんになっても変わらないことがあります。

それは遥香と一緒に過ごす時間の楽しさです。

遥香と一緒にいるだけで僕はとても嬉しくなるのです。

ああ・・・この気持ちはまだ上手く言えません。

望月遥香(栗山千明)は蜂須賀部長の指示により、咲人の生活をサポートする役割を担っていた。

アルジャーノン効果の研究の成果を発表するにあたり・・・咲人は成功例としてお披露目されることになる。

過去の記録映像と比較して・・・知的障害が克服されたことを示す証拠として・・・咲人は洗練される必要があったのである。

咲人の服装や・・・知的向上のための書籍などはすべて研究費で賄われていた。

遥香とともに生活必需品をショッピングすることは咲人に至福の喜びを感じさせる。

まさに春爛漫である。

「桜が咲いています・・・」

「そうね」

「お団子は美味しいです」

「花より団子ね」

「桜は綺麗です・・・団子は食べ物です」

「まあ・・・」

花吹雪が舞い、遥香は思わず見惚れる。

咲人は花にも遥香の横顔にも見惚れるのだった。

咲人は父・白鳥久人(いしだ壱成)の言葉を思い出す。

「ごらん・・・ここは花屋さんだ・・・花屋さんは・・・花をいろいろな人に届ける。人は愛する人に花を贈るんだよ・・・だから花屋さんは・・・愛を届ける仕事をしているんだ」

・・・お父さん・・・僕にはあなたの言葉がわかります。

花を贈りたくなる相手。

それが愛する人なんですね。

お父さん・・・教えてくれてありがとう。

咲人は遥香に花を贈ろうと誓うのだった。

世界で一番好きな女の人は・・・愛しい人なのだから。

食後のギャンブルに熱中する花屋の従業員たち。

「フラッシュ」と鹿内大(勝矢)・・・。

「ストレートフラッシュ・・・」と隆一。

「なんだよ・・・またイカサマじゃないだろうな」

「イカサマなんかしませんよ」

「おれは負けがこんでんだよ」

「今月のツケは30・・・45・・・30・・・50・・・35・・・20・・・」

隆一は電卓をたたく。

キッチンの片付けをしていた咲人が割り込む。

「210」

「そうだよ・・・諭吉が二枚って・・・え」

「合ってる・・・」

「本当かよ」

「凄いな・・・咲人・・・人間ナビ機能に加えて・・・電卓機能も・・・」

「本当に頭よくなってんだな」

「あはは」

咲人の異能に関心する隆一たち。

しかし、咲人と同室の康介は複雑な表情でその様子を見守る。

最初に咲人に足し算を教えたのは康介だった。

咲人は遥香から小学一年生用の教科書を与えられていた。

「足し算て何ですか」

「足し算」

「どうして・・・1+1=2ですか」

「ほら・・・一円と一円で二円だろ・・・合わせて二円・・・」

「一円と十円であわせて二円」

「ちがうよ・・・そりゃ・・・十一円だろう」

「・・・」

「一円が十枚で十円だ・・・」

「・・・」

「百円が十枚で千円」

「千円が十枚で一万円・・・」

「そうそう・・・」

「一円が一万枚で一万円・・・」

「うんうん」

「あはは」

康介は輝いた咲人の顔に微笑んだ。

しかし・・・一週間で小学校の教科書を読み終えた咲人に康介は何か異常なものを感じたのだった。

次の週には中学の教科書と一緒に咲人は国語辞書と英和辞典を読んでいた。

「おい・・・咲人・・・お前・・・辞書も読むのか」

「辞書・・・読みました・・・言葉たくさんのってます」

康介は一度見た景色を忘れない咲人の特技を思い出す。

康介は国語辞書を手にとって適当なページを開く。

「234ページは・・・」

「234ページ・・・ひすい・・・翡翠・・・①カワセミの別名。雄が翡、雌が翠。②カワセミの羽の色。美しく光沢のある髪の色などにたとえる。翡翠色。③つやのある緑色の硬玉。また、硬玉と軟玉の総称。主に翡翠輝石からなり、美しさをカワセミの背にたとえた名。主産地はミャンマー・中国など。日本では新潟県糸魚川市の小滝川付近から産出・・・」

「もう・・・いいよ・・・なんだ・・・お前・・・舟を編むの人か・・・」

「舟は編むことできません・・・あはは」

康介は・・・顔をこわばらせた。

仲間たちの中で康介だけは咲人がただのお利口さんになったのではないことに気がついたのだ。

ある日、本を読んでいた咲人が突然、泣きだして康介は驚く。

「どうした・・・」

「人間はお墓に入ったら・・・出てきません」

「そうだよ・・・死んだんだから・・・」

「死んだ人にはもう・・・会えないの」

「そうだよ・・・それが死ぬってことだから」

「う・・・うえーん・・・うえーん」

「そうか・・・お前・・・死ぬってことが・・・わかったのか」

康介は泣き続ける咲人の肩を抱いた。

(咲人・・・お前は・・・一体・・・今、何歳なんだ・・・)

康介は思わずにはいられないのだった。

白鳥咲人監視員の一人、杉野(河相我聞)はモニター車から発信する。

「彼は脳生理科学研究センターに向った・・・少し早いけど引き継いでくれ」

「まだ・・・食事中なんですけど」と冷笑的な態度の小久保(菊池風磨)がセンターの食堂で応じる。

(十分ですませろよ・・・通信終わり)

「まったく・・・これじゃ・・・咲人様の召使みたいだな」

ぼやきながら小久保はランチを終えた。

監視センターのカメラに咲人が映り込む。

「ご到着か」

咲人は迷うことなく遥香の研究室に向かう。

遥香は研究員たちとデータについて意見を交わしていた。

咲人は「遥香の邪魔をしないように配慮」して・・・飼育室に向かうとアルジャーノンを移送用のケージに移す。ケージを持つと咲人に与えられたセンターの個室に向かった。

咲人はアルジャーノンのためにごちそうを用意していた。

「おいおい・・・時間外の給餌はダメだぞ・・・ま・・・いいか・・・ナッツのひとかけらくらい」

室内に蜂須賀教授が現れる。

小久保は盗聴器のボリュームをあげた。

その頃、「興帝メディカル産業」に鉢植えの交換にやってきた隆一と康介はロビーで河口梨央(谷村美月)に遭遇していた。

偶然の出会いに期待していた康介の口元はほころぶ。

「あれ・・・梨央ちゃん」と驚く隆一。

「こんにちは」

「こんなところで・・・何してるの」

「父の経営している会社です」

「ああ・・・そうなんだ・・・ええええええええ」

「檜山さん・・・この間・・・ありがとうございました」

「え」

「咲人さんがホームランを打った時・・・檜山さん・・・咲人さんに打席を譲ってくれたんですよね」

「・・・」

「優しい人なんだと思いました」

康介は心の中でニヤニヤした。

隆一はポーカーフェイスになった。

隆一の脳内では・・・大金持ちの娘の男と・・・大金持ちの娘の男の友人のどちらが得か・・・自身の将来の可能性を含めた計算が行われている。

咲人は室内に現れたのが遥香ではなく蜂須賀部長だったことに落胆しつつ・・・警戒心を強めていた。

蜂須賀部長は猫なで声で咲人に話しかける。

「咲人くん・・・君は誤解をしているようだ」

「ごかい・・・」

「私は・・・君から遥香くんを奪ったりはしない・・・私はただ・・・君が人間として成長してくれることを願っているんだよ」

「成長・・・」

「そうだ・・・愛について君にわかってもらうためのたとえ話をしたんだよ」

「たとえ話・・・嘘ですか」

「そうだな・・・もしも・・・という話だ・・・人をだます嘘とは違う」

「成長するために・・・たとえ話で・・・りかいをふかめる・・・」

「そうだ・・・ホーキング博士はこう言っている」

「ホーキング博士・・・天才科学者ですね」

「うん・・・彼は世界に不公平があることに気がつくことも人間としての成長の一つだと言ったんだ」

「不公平・・・」

「そうだ・・・人間は生まれた時から様々な不公平に遭遇する。不公平があることに気がつくということもお利口さんになった証だよ」

「・・・」

「たとえば・・・今の君は・・・昔の君が・・・随分と・・・他の人より不公平だったと思わないか」

「・・・」

「できないことが・・・たくさんあったから・・・」

「そうだ・・・しかし・・・今の君は不公平を正すために努力をしているだろう」

「お勉強すること・・・」

「そうだ・・・私は努力して成長する人間が大好きなんだよ・・・」

「・・・」

「君には・・・もっともっとやりたいことがあるだろう」

「運転」

「車の運転か・・・」

「はい」

「そのためには運転免許を取得しなければならない」

「勉強しています」

「そうか・・・それでは・・・運転免許をとれたら・・・君に私が車をプレゼントしよう」

そこへ・・・遥香が現れる。

「地下駐車場に・・・車が停めてある・・・それを中庭に出してくれ」

「はい」

「さあ・・・君のものになるかもしれない車を見に行こう」

「僕の・・・車」

真っ赤な新車を見て咲人の目は輝いた。

「息子のために買った車だったのだ」

「博士には・・・息子さんがいるのですか」

「咲人さん・・・先生の息子さんはお亡くなりになったのよ」

「・・・亡くなった・・・お墓に入ったの・・・ごめんなさい・・・博士・・・悲しい」

咲人の反応に遥香は幽かに驚く。

(論理的思考・・・共感・・・礼義・・・すべてが成長している)

「いいんだ・・・私は・・・君を息子のように感じているんだよ・・・」

「僕にはお父さん・・・います」

「もちろん・・・しかし・・・君は生まれ変わった・・・私を生まれ変わった君のもう一人のお父さんにしてもらえないかな」

「博士・・・もう一人のお父さん・・・たとえ話ですか」

「そうだ・・・たとえ話だ」

「博士は・・・僕のもう一人のお父さんです」

「ありがとう」

咲人は車のキーを受け取った。

「咲人さん・・・まだ運転はできないわよ」

「乗ってみるだけです・・・遥香も助手席に乗っていいよ・・・」

二人は新車に乗り込んだ。

「もしも・・・僕が免許をとったら・・・一緒にドライブしてください」

「・・・いいわよ」

「約束」

咲人は指を差し出した。

遥香は微笑んで咲人と指をからめ・・・指きりをするのだった。

蜂須賀部長は満足そうに口元を緩めた。

それは神の慈愛のように見えたが・・・蜂須賀が神でないために・・・悪魔の微笑みなのかもしれない。

一般人の数年分の知的成長を二週間で成し遂げるアルジャーノン効果が咲人に示されていた。

若者たちは咲人の自動車教習所へ向かう。

ニ十五歳の隆一。二十四歳の康介。二十一歳の梨央と小出舞(大政絢)・・・。

二十八歳の咲人は実は最年長である。

しかし・・・彼らにとって咲人は永遠の少年だった・・・はずだった。

「え・・・本当に教習所に通ってるの・・・」

「なんと本当なんだな」

「だって・・・学科とか・・・」

成長していく咲人の変化に最も対応の鈍い舞は疑問を呈する。

「なんとかセンターの手術が・・・効果絶大だったみたい」

「そんな・・・」

梨央と康介は発言を控える。

梨央は急速に変化する咲人を感じていたし、康介は間近で目撃しているのである。

教習を終えた咲人は四人に合流する。

「ね・・・マジで・・・免許取る気なの・・・あのね・・・ハンコいっぱいもらわないとだよ」

「ハンコいっぱいもらいました」

すでに・・・半分の課程を終えている咲人だった。

「うそ・・・」

「嘘じゃありません・・・あはは」

四人はゲームセンターでレーシングゲームに熱中する。

「ランチを賭けるわよ」と舞。

「いただきました」と隆一。

咲人はゲームに集中した。コントローラーに対応したモニター画面の反応に・・・咲人の発達する反射神経がたちまち適応していく。

情報の入力。情報の処理。最適な行動を選択する出力。

咲人の全身に拡張した神経細胞は・・・マシンと一体化するのだった。

「え・・・咲人・・・なんだよ・・・速すぎる」

隆一はたちまち咲人に追い抜かれるのだった。

「あはは」

勝利を無邪気に喜ぶ咲人。

すでに咲人は・・・世界が勝者と敗者で構成されていることに気がついていた。

咲人は隆一に学力などにおいて勝っていた。

しかし・・・隆一はそのことにまだ気がつかない。

若者たちはハンバーガーでランチをする。

「ねえ・・・免許を取ってどうするの」と梨央は咲人に聞く。

「遥香とドライブに行きます」

「え」

「遥香は世界で一番好きな女の子です」

「咲人さんにそんな人がいたなんて・・・」

驚きを隠せない梨央。

顔を曇らせる康介。

「ガッカリしましたか・・・」

咲人は梨央が自分に好意を持っていることを理解していた。

咲人が梨央ではない女性を一番好きだと言えば梨央が落胆すると理解していた。

しかし、それを口にするのがマナー違反であることを理解していなかった。

澱んだ空気を解消しようと軽口をたたく隆一。

「おいおい・・・咲ちゃん・・・それは思いあがりだよ・・・梨央ちゃんが・・・咲ちゃんのこと本当に好きなわけないだろう」

しかし・・・隆一は自分だけがそう思っているとは気がつかない。

さらに深まる沈黙・・・。

舞は隆一と咲人を食事の席から連れ出した。

「少しは空気を読んでよ・・・まあ・・・咲人さんには無理だけど・・・あんたは」

「何・・・どういうこと・・・まさか・・・梨央ちゃんが・・・マジだとでも・・・」

「そうよ・・・まあ・・・一般的な恋愛感情とは違うかもしれないけど・・・」

「違うって・・・」

「絵本みたいな・・・」

「絵本?」と咲人は反応する。

絵本みたいな恋とはどういうものなのか?

咲人は答えに悩むのだった。

「とにかく・・・少し・・・気を使いなさいよ・・・」

「・・・」

席に残された梨央と康介。

康介はおそるおそるアプローチを開始するのだった。

「あのさ・・・どうしても咲人じゃなきゃ・・・ダメなのかな」

「え」

「たとえば・・・俺とか・・・俺とか・・・俺とか・・・俺とかさ・・・」

「分身の術ですか」

「忍者ではありません」

「・・・ありがとう」

「御礼を言うところではありません」

康介でもいいとは言わない梨央だった。

康介はお嬢様のガードの堅さを知った。

咲人は部屋で「空気」について考えた。

それは・・・機微というものに関連するらしい。

蜂須賀部長は新しい本を咲人にプレゼントしてくれた。

芸術は心を豊かにします。

咲人は西洋絵画の画集を開く。

ルネッサンスの画家、サンドロ・ボッティチェッリの作品「プリマヴェーラ」に注目する咲人。

愛と美の女神は恋の天使に矢を用意させる。

春の女神・・・プリマヴェーラは恋人たちの行く手に花吹雪を舞わせるのだ。

騒がしい・・・恋の予感・・・。

絵画における恋人たちの姿を追いかける咲人は・・・世紀を越え・・・世紀末ウィーンの画家、グスタフ・クリムトの作品「接吻」にたどり着く。

装飾的に華麗でありながら甘美で妖艶なエロスの機微を咲人は感じるのだった。

誰かに心を奪われたらどうしよう

困るから心を閉じていようか

死にたくないといつも怯えていたら

生きていることも忘れそう

一週間後、咲人の学力は大学生レベルになっていた。

遥香の出す数学の問題はすでに咲人にとって簡単すぎた。

咲人は数学よりも・・・遥香の全身から発する強烈な性的魅力を堪能することに集中している。

遥香は咲人から発する男の匂いにうろたえている。

数学教師としての数式の解説は早口になっていく。

沈黙の駆け引きに耐えられなくなったのは遥香だった。

「ここまで・・・わかったかしら・・・」

「もうすぐ・・・免許が取得できます」

「え」

「一緒にドライブに行きましょう」

「そうね・・・約束ですもの」

「遥香は僕のことが好きですか」

「もちろんよ」

「・・・僕は遥香とキスがしたい」

「え・・・そういうことは恋人同士がするものよ・・・私たちは友達でしょう」

「お互いを好きな男と女は恋人同士でしょう」

「好きにもいろいろあるのよ・・・」

「・・・」

「・・・あなたは私をアルジャーノンのママだと言ったでしょう・・・」

「・・・」

「あなたにとって・・・私はママのようなものだと思うの」

「あなたは僕の母親ではありません」

「・・・今は・・・お勉強の時間でしょう・・・集中しなさい」

「・・・この問題は・・・今の僕には簡単すぎます」

咲人は席を立ち、解答を書き込むと部屋を出た。

遥香は緊張から解放され・・・思わず座り込む。

その様子は当然、別室でモニターされている。

「凄いな・・・咲人くんのアタックは・・・」と杉野。

「学力は大学生レベルでも・・・情緒は中学生なみじゃないですか」と小久保。

「おいおい・・・童貞くんが知ったような口を聞くじゃないか」

「ぼ、ぼくは・・・童貞じゃ・・・あ・・・ありません」

「君は・・・ひょっとして・・・望月くんに気があるんじゃないですか」

「そそそそそそんなこと」

「二人とも私語は慎みたまえ」と蜂須賀部長。「彼はすでに抑圧というものを充分に知っているはずだ。無意識下にあった性的衝動を発散させる出口を求め始めている。一方で急速に成長する自我を制御しようと様々な経験を求めている。鮮明になりつつある自他境界線による喪失感もあるはずだ。何しろ・・・彼は世界と自分を一体化させていたのだからな。失われる世界に対して自己を確保するために・・・自尊心が急激に育っているのだろう・・・プライドを傷つけられ・・・彼は遥香に対して攻撃的になったのだ」

「攻撃的・・・」と童貞の小久保は疑問を感じる。

「自分をないがしろにした遥香に罠を仕掛けたのだよ」

「罠・・・」

「つまり・・・自分を追わせるために逃げたのですね」

「そういうことだ・・・見たまえ・・・耐えきれなくなって遥香くんが・・・彼を捜し始めたぞ」

「遥香くんも・・・恋愛経験が豊富とは言えませんからね」

微笑みあう蜂須賀と杉野を恐ろしげに見つめる小久保だった。

咲人を懸命に捜す遥香。

待ち伏せていた咲人は遥香の背後から忍びより・・・わっと驚かせるのだった。

「そこは・・・あすなろ抱きだろう」

「少し・・・恋愛ドラマを視聴させる必要があるな」

蜂須賀と杉野は意見を交換した。

「遥香はきっと・・・捜しに来てくれると思ってました」

「咲人さん・・・」

「一緒にドライブしてくれますよね」

「ええ・・・一緒にドライブしましょう」

「約束ですからね」

「約束ですもの・・・」

微笑み合う二人。

しかし・・・遥香はすでに・・・咲人に翻弄され始めているのだった。

蜂須賀は新たなるステージの到来を確信する。

「フロイトからアドラーへ・・・世紀を越えて・・・次は自分を受け入れることを学ぶ段階だな」

「なるほど・・・傷心後の世界ということですな」

二人は悪魔の師弟として微笑み合う。

小久保は少し疎外感を感じる。

彼はネズミのアルジャーノンが無性に恋しくなった。

飼育室は閑散としていた。

アルジャーノンのデータは機械的に記録されているだけだ。

「どうやら・・・お前は用済みらしいよ・・・なにしろ・・・貴重な人間のサンプルが登場したからな」

小久保はデータの検証を開始する。

「だけど・・・俺にはお前がお似合いみたいだ・・・人間はいろいろと・・・面倒くさいものな」

アルジャーノンは小久保の愚痴に耳を傾けた。

アルジャーノンにも変化の時が訪れていた。

それは微細なデータの変化となって示される。

小久保はそれに気がついたが・・・それの意味するところを理解することはできなかった。

遥香は「ドリームフラワーサービス」を訪問している。

「咲人は・・・父親の墓参りに行っています」

「・・・」

「時間を見て・・・毎年、私が迎えに行っているんです・・・だけど・・・今年は長話になるんじゃないかな」

「?」

「ほら・・・あいつ・・・お利口さんになっちゃったから・・・」

咲人は去年までとは違う気持ちで父親の墓に向かっていた。

父親が死んだこと・・・それから十三年の歳月が過ぎたことを・・・今年の咲人は理解している。

父親が死んだ時・・・咲人は中学生だった。

今はもう大人である。

咲人は父親の記憶を呼び起こす。

お父さん・・・僕は明日、運転免許を取得するよ。試験に合格する自信があるんだ。僕には好きな女の子がいて・・・ドライブに誘うつもりなんだ。僕はその子のことが好きで好きでたまらないんだけど・・・彼女はぼくのこと・・・子供だと思っているんだ。僕はどうしたらいいのかな。どうしたら遥香と愛し合えるのかな。お父さんが答えることができないのは分かっているけど・・・訊かずにはいられないよ。お父さん、僕をドリームフラワーサービスに連れて行った時・・・もう余命宣告を受けていたんだね。どうして、僕と一緒にいられなくなったのか・・・分からなくてごめんなさい。病院のベッドに寝たまま・・・どんどんやせて行くお父さんを見て・・・僕はなんだかこわくなって・・・泣いてしまった。馬鹿な僕を残して死ななければならなかったお父さんがどんなに心配したか・・・気がつかなくてごめんなさい。お父さんは最後に僕に言った・・・僕の笑顔は世界一だって・・・泣いていないで笑えって・・・笑ったら遥香は僕のことを好きになってくれるかな・・・僕の魅力は愛嬌なのかな・・・。僕は去年よりずっとずっと悲しいよ。お利口さんになったのにおかしいよね。

咲人は墓を相手に「あいきょでしょ」のパフォーマンスを繰り返すのだった。

遥香と竹部はその姿を遠くから見ていた。

「あいつの父親は世話になった先輩でね・・・どんなにか心残りだっただろうと思うよ・・・俺も精一杯頑張って面倒見て来たつもりだけど・・・まさか・・・あいつが賢くなるとはね・・・先輩が生きてたらどんなに喜んだかな・・・それとも・・・手術に反対したかも・・・」

「私・・・咲人さんに酷いことをしてしまったんです」

「え・・・」

「咲人さん・・・私を慕ってくださって・・・」

「ええっ」

「私・・・咲人さんの気持ちに気がついていたのに・・・気がつかないフリをして・・・かえって咲人さんを傷つけてしまいました・・・」

「えええ・・・・そうですか・・・あいつが恋を・・・そりゃいい・・・先生・・・先生にその気がないのなら・・・きっぱりとふってやってください・・・今のあいつなら失恋のひとつやふたつ乗り越えますよ」

「・・・そうでしょうか」

「あいつは・・・強い奴だと・・・信じています」

「・・・」

「遥香」

「咲人さん・・・」

二人に気がついた咲人は爽やかに笑った。

遥香は微笑み返さずにはいられない。

モニター車に乗り込んだ蜂須賀部長はニヤリと笑った。

二十八歳の知的障害者が・・・健康な成人と同程度の知能を獲得した。

アルジャーノン効果の人間における臨床報告はまとめられ興帝メディカル産業の河口社長に伝えられた。

「素晴らしい・・・次の学会で発表したまえ」

「・・・公表は時期尚早かと・・・」と蜂須賀部長は言葉を濁した。

「何故だ・・・まだ何か・・・リスクがあるのか」

「世論の動向というものがあります」

「構わん・・・被験者自身が・・・実験の成果を賞賛するのだ・・・本人の幸福を他人が否定できるかね」

「・・・」

「世間が認めて初めて・・・娘が第二の被験者となることも容認できる」

「・・・」

「いいか・・・この研究には・・・娘の人生がかかっているのだ・・・」

「はい」

「撤退という道は最初からないのだよ・・・そして娘に残された時間は限られている」

「・・・」

「可及的速やかにだ・・・」

「かしこまりました」

梨央と舞は初夏の気配のする「ドリームフラワーサービス」へ続く道をたどっていた。

「しかし・・・本当に免許がとれちゃうとは・・・咲人さん・・・凄いね」

「そうね」

「どうしたの・・・浮かない顔して・・・彼があなたに相応しい男になってきているのに」

「なんだか・・・咲人さんがだんだん遠い所に行ってしまうような気がして・・・」

「何言ってるの・・・恋なんて・・・ライバルがいてナンボよ」

「・・・」

咲人は店に届けられた真っ赤な咲人号に乗り込んだ。

「すげえな」

「俺も手術してもらって車をもらいたいよ」

囃したてる職場の男たち。

「咲人号・・・発進」

隆一が友人を代表して号令をかけた。

咲人の真っ赤な車は遥香を目指して走りだす。

梨央は一歩出遅れたのだ。

「今の・・・咲人さん・・・」

「そうさ・・・彼女とドライブなんて・・・あ」

隆一は舞の剣幕に気がついて口を噤む。

康介は梨央を慰める。

「大丈夫だ・・・咲人は・・・相手にされないよ」

梨央は呟いた。

「それはそれで・・・可哀想・・・」

「あ・・・そう」

康介はお嬢様の心を読み切れないのだった。

咲人は赤い薔薇で花束を作っていた。

花屋だからである。

「赤い薔薇の花言葉は・・・あなたを愛しています・・・です」

咲人は父親の遺言に従い微笑んだ。

夕暮れの近付く研究センターの裏庭に蜂須賀は遥香を呼び出していた。

「学会で・・・成果を発表することにした」

「まだ・・・時期尚早ではないのですか」

「これは決定事項だ・・・咲人くんの存在も公表する」

「そんな・・・」

「被験者が実験を肯定することは絶対に必要なことだ・・・君にもその意味は分かるだろう」

「・・・」

「多くの人間と接することは・・・今の咲人くんにも大きなストレスとなるだろう」

「ですから」

「だが・・・君には咲人くんの要求に完璧に応えてもらいたい」

「しかし・・・彼は・・・もう・・・幼い子供ではありません」

「彼が恋人としての君を求めるなら・・・君にはそれに完璧に応じるのだ」

「そんな・・・」

「君は研究のためならすべてを捧げると・・・私に誓った・・・あれは嘘かね」

「話が違います」

「いや・・・私にはできる」

蜂須賀は遥香の口唇を奪った。

それは・・・遥香が求めてやまないものだった。

遥香の心は動顛する。

花束の落ちる音がして振り返るとそこに咲人が立っている。

遥香の心は痺れた。

咲人は去った。

蜂須賀も無表情に去った。

遥香は残された花束を力なく拾う。

夕陽が遥香の影を長く伸ばす。

響き渡る千住明の悲劇を招く悪い科学者的スコア・・・トレビアン。

研究室に戻った遥香を杉野と小久保が慰安する。

「しかし・・・公表されたら咲人は時の人ですね」

「そうだな・・・彼は栄光の道を歩くだろう」

「僕たちなんか・・・忘れ去られたりして・・・とにかく・・・このまま・・・知能が向上していけば・・・可愛い咲人は消えてしまうんでしょうね」

「変わらないわ・・・彼はどんなに知能が向上しても・・・純粋な・・・」と反発する遥香。

「少なくとも・・・無垢ではなくなるんじゃないかな」

「良くも悪くもですよね・・・」

舞が「ドリームフラワーサービス」にやってくる。

「梨央ちゃんがいなくなったって・・・」

「ここにはきてないよ」

応対する隆一と康介。

「咲人さんは・・・」

「帰ってない」

「捜してよ・・・」

「捜すっていっても・・・梨央ちゃんの行きそうな場所なんてわからないし」

「そんなに心配することないんじゃないか・・・お嬢様だって・・・子供じゃないんだし」

「だめなのよ・・・彼女を一人にはできないの・・・」

「なんで・・・」

「・・・病気なのよ」

「え」

顔色の変わる康介だった。

隆一はすばやく計算する。

それじゃ・・・お金持ちの娘の男の友達じゃダメじゃないか。せめてお金持ちの娘の夫の友達じゃないと・・・。

思い出の場所に咲人は立っていた。

遥香のくれた輝きを思いきるという選択は「男の恋愛術」の160ページに書いてあった。

しかし・・・思いきれない咲人だった。

これが未練というものなのか。

そこへ・・・咲人に呼び出された梨央が到着した。

真っ赤な車は二人を乗せて夜の高速道路を突っ走るのだった。

「どうして・・・私に電話を・・・くれたんですか」

「顔が・・・思い浮かびました・・・」

「遥香さんにふられて・・・私を思い出したのですか」

「そうです」

「そこは・・・私が好きだからって言ってください」

「そうやって・・・みんな嘘をつくのですね・・・」

「・・・咲人さん・・・変わりましたね」

真っ赤な車は夜の海に到着した。

「覚えていますか・・・最初に逢った日のことを・・・」

暗い海に向かって歩き出した咲人を梨央は追いかける。

「君は僕をクラブに誘って・・・シャンパンを口移しで飲ませました・・・」

「怒らないのですか・・・」

「なぜ・・・だってあれは・・・キスではないでしょう・・・」

「・・・」

「本当のキスは・・・」

咲人の一度見たら忘れない脳を騒がす遥香と蜂須賀の接吻・・・。

「なぜ・・・なぜだ」

咲人は立っていられずに波打ち際に跪く。

「遥香・・・なぜ・・・僕じゃダメなんだ・・・」

思わず・・・咲人に駆け寄る梨央は膝を折り咲人を抱きしめる。

「私が・・・遥香さんの代わりになります」

「・・・」

「私は・・・大丈夫・・・私には時間がないから」

「時間がない・・・」

梨央は激しく咲人の唇を奪う。

情熱のキス。

咲人はおずおずと・・・梨央の背中に手を回すのだった。

一人ぼっちの夜は終わらない気がする

ゴールは絶望するほど遠い気がする

愛なんて結局・・・

ついてる人間のためにあるんじゃないか

時に人はそう言って愛を詰るものだ。

そして、恵まれない自分を憐れむのである。

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Hcal005ごっこガーデン。愛と誘惑の駐車場セット。エリ山P先輩の魂の演技に永久保存版のハンコを押しまくりでス~。アクターとしての実力に尊敬と胸いっぱいの愛を感じるのでス~。ある時はすでに思慮深い大人・・・ある時はまだまだ幼い子供・・・青年と少年の魂が入り混じる複雑な咲人を完璧に表現した圧巻のシーンの連続に脳天ぼぎゃ~んと打ち抜かれたエリなのですよ~。じいや・・・甘くて酸っぱいキンキンに冷やしたクランベリーのジュースをお願いね・・・ドロッとしてるくらい濃いヤツよ~・・・もうノドがカラカラになっちゃったんだから~・・・それからP先輩とハチロクで峠を攻めに行きま~す

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2015年5月 8日 (金)

ヒュルリヒュルリララ絶望しています(木村拓哉)ききわけのない夫です(上戸彩)

一年前が2014年なら、五年前は2010年である。

五年間の記憶がないと一口に言うが・・・ではあなたは五年前の記憶をすぐに思い出せるだろうか。

2010年の5月7日・・・朝食は何を食べましたか?

ヒロインが五年間の記憶を喪失する「もう一度君に、プロポーズ」でも同じような妄想を展開したが、ここで再度、そのことを妄想してみたい。

もちろん・・・世の中には異常な記憶力の持ち主がいてスラスラと朝食のメニューを述べる場合もある。

しかし、多くの人間は困惑するものと妄想する。

日記を書いている人は記録を参照することができるだろう。

そこに朝食のことが書いてあれば・・・そういえば・・・そんなものを食べたかもしれない・・・と思うかもしれない。

ちなみにキッドはその時、ラジオの特別番組を手伝ってヘロヘロになっていたことが・・・ブログの記述から思い出される。

五年間の記憶を失っているとすれば・・・それが昨日のようなことなのである。

はたして・・・あなたは五年前の出来事を昨日のように思い出すことができるだろうか。

それができる人は素晴らしい記憶力の持ち主だと言えるだろう。

このドラマの主人公が単に五年間の記憶を失っただけではないことが・・・ドラマが進展するにつれ・・・ようやくお茶の間にも伝わってきたのではないかと思う序盤の終了である。

主人公は性格が変わった・・・周囲の人はそう思う。

確かに「上昇志向の塊のような鼻持ちならないサラリーマン」ではなくなってしまったのかもしれない。

しかし・・・失われた記憶をとりもどそうと・・・曖昧な記憶と格闘する姿勢は・・・上昇志向の名残を感じさせたりもする。

そもそも・・・人間はどこでもいい子ではいられないのである。

少なくとも夜にステーキを食べれば牛の怨みは買うものだ。

そして・・・敗者にとって勝者は常に賞賛の対象というわけではないのである。

踏みつけられて痛くないのはそういう趣味の人間だけなのだ。

しかし、記憶がなければ誰を踏んだのかもわからない。

誰が敵で誰が味方なのか・・・全くわからない戦場に・・・放り出された人間の感じる不安。

五年間の記憶がないというのは・・・誰も信じられないということだ。

この主人公はそういうものを背負っているわけである。

日本中のほとんどの人が知っている・・・東日本大震災の記憶は・・・それが2011年に発生したために・・・主人公にはないのである。

あれから・・・もう・・・四年か・・・と言われて何の事だかわからない・・・。

恐ろしいことである。恐ろしいことではないか。

ちなみに2010年の春ドラマで木村拓哉は「月の恋人~Moon Lovers」に主演していた。

で、『アイムホーム・第4回』(テレビ朝日20150507PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・田村直己を見た。記憶の喪失を伴う高次脳機能障害となっている主人公・家路久(木村拓哉)に対する妻の恵(上戸彩)の言動が・・・障害者に対する配慮を欠いていると指摘する人がいるかもしれない。記憶に障害のある人に・・・「また忘れちゃったの?」と批判的な意見を述べるのは芳しくないというわけである。特に職業的な介護の訓練を受け、認知症に対するマニュアルを学んだ人はそのように感じるかもしれない。しかし、日々、認知症者に家族として接する場合・・・そんなマニュアルのような対応なんてクソくらえなのである。なにしろ・・・人間はどこでもいい子でいられないからだ。世界で一番愛している母親に「このくそばばあ・・・どこまでぼければ気が済むんだ」といってしまうのが人間なのである。とにかく・・・このドラマでは障害を負った夫に対する妻の愛情あふれる態度が遺憾なく伝わってくる。それが・・・分からない人は・・・ある意味、別のジャンルの障害者ということになるのだった。そういうことを含めて脚本家は素晴らしい仕事をしていると言える。

家路久は失われた過去を追いかけて・・・事故に遭遇する直前に・・・単身赴任していたという葵インペリアル証券の茨城支社を訪問し・・・記録に残る当時の行きつけの店をめぐる。

勤務時間後に茨城・東京日帰りコースは無茶だが・・・思いこんだらとことんの人に何か言っても無駄なのだ。

通っていた飲食店などを巡っても記憶に触れるものはなく・・・従業員や常連客にも久のことを思い出すものはいない。

落胆した久が最後に訪れたスナック「ひとり相撲」で・・・。

「あら・・・ひーさんじゃないの・・・久しぶりね」

スナックのママ(雛形あきこ)に言われて・・・久は複雑な気持ちになる。

ママのことは思い出せないのだ。

しかし・・・酒を飲むうちに・・・営業のやり手さんモードのスイッチが入った久はカウンターに入っておつまみを作りはじめ・・・調子に乗った常連客のように振る舞いだすのだった。

冬のつばめよ

吹雪に打たれりゃ寒かろに

ヒュルリ ヒュルリララ

ついておいでと啼いてます

場末のスナックのママ熱唱である。

久の記憶にはないが・・・ママは久にキスを迫り「飲みすぎですよ・・・続きはシラフの時に」と軽くいなされた屈辱の過去というか甘い思い出があるのだった。

まあ・・・お茶の間的には寸止めだが・・・原作の心ない久なら一夜を共にしているはずである。

久と場末のスナックのママの熱い一夜は充分に妄想可能だ。

手料理好きの久は「レンコンのはさみあげ」だの「だしまきたまご」などを客たちにお出ししたあげく・・・「グ~!」を連発する。

エド・はるみによる2008年の流行語大賞受賞語である。

つまり・・・久にとって七年前はつい最近なのだ。

自分は思い出せないが自分を知っていた人に遇った興奮と酔いで・・・酩酊した久は・・・記憶から欠落しているはずの・・・単身赴任中のアパートへの家路を辿る。

久は・・・すっかり、事故に遭う直前の単身赴任時代の自分になりきってしまったのだった。

アパートの部屋の鍵は合わなかったが・・・ドアは施錠されていなかった。

「ただいま・・・と言っても・・・誰もいない・・・単身赴任中ですから~・・・おかえりなさいって誰も言わないじゃない・・・・残念!」

2004年度の波田陽区による流行語大賞ノミネート語である。

古い・・・古いぞ・・・久・・・。

酔いにまかせて・・・久は積まれていた布団にくるまって眠りに落ちるのだった。

しかし・・・別室では・・・現在の住人が熟睡中だったのである。

そして・・・この住人は・・・久の封印された過去の関係者なのだ。

翌朝、久の単身赴任時代のアパートの現在の住人・徳山正夫(平泉成)は見知らぬ闖入者に驚く。

久も驚くが・・・例によって・・・自分の現在の状態を思い出し・・・自分の失態をわびるのだった。

徳山は久の言葉を信じる人の良さを見せる。

「この部屋の前の住人が事故にあったという噂は聞いています・・・それにしても・・・記憶喪失とは・・・大変ですな・・・仕事のことなんかも・・・思い出せないのですか」

「はい・・・しかし・・・以前の私は・・・嫌な奴だと評判だったみたいです」

「なるほど・・・仕事ができて・・・敵が多かったということですな」

「・・・」

「わかります・・・実は私はこれでも以前は会社を経営していました・・・」

「え・・・社長さんなんですか」

「ま・・・会社をつぶしてしまい・・・経営者失格です・・・しかし・・・あなたがただものではないことはわかります」

「そんな・・・私なんて」

「いや・・・見ず知らずの人間の家で・・・朝ごはん作ったり・・・普通の人間にはできませんよ」

「すみません・・・勝手に自分の分まで作ってしまって・・・」

「いや・・・目玉焼きに味噌汁なんて・・・久しぶりに食べました・・・ところで・・・ご家族の方は・・・心配なさってるんじゃ・・・」

他人に言われて漸く、妻子のことを思い出す久だった。

スマホには妻からのメールが複数入っていた。

「ごめん・・・またやってしまった」

「いいのよ・・・いつものことだから・・・先に寝ちゃったし・・・気にしないで」

明るい口調で語る妻だが・・・久には感情のない機械のような声に聞こえるのだ。

「ごめん・・・会社にはこのまま出社するから・・・」

徳山は目を細めた。

「帰りを待ってくれる家族がいるっていうのは・・・いいことですな」

「・・・」

「私の女房なんて鬼のような女でね・・・会社をつぶした私を捨てて出ていきました」

久は仮面をつけたような妻の顔を思い出す。

表情のない冷たい妻・・・本当に妻は自分の帰りを待っているのか・・・久は信じることができない。

「それにしても・・・会社がつぶれるなんて・・・大変でしたね」

「いや・・・今は趣味に使う時間もできて・・・楽しいものですわ」

久は部屋を飾る水彩画に気がついた。

「この絵は・・・徳山さんが」

「まあ・・・絵は素人ですけどね・・・そうそう趣味といえば・・・あなたはベランダでハーブを育てていたんですな」

「ハーブ・・・」

「引っ越して来た時・・・そのままだったんで・・・私が引き継いだんです・・・ほら」

ベランダに並ぶハーブ植物のプランター。

「さすがに一度はもう死んでしまおうか・・・と思ったこともあります」

「そんな・・・生きてるだけで丸儲けって言うじゃないですか」

明石家さんまが娘にいまると名付けたのは1989年のことだった。

母である大竹しのぶは「いまをいきる」と言う意味だと命名の理由のニュアンスを変える。

しかし、おまるという言葉がある以上、娘にいまるなんて命名するのはアホかパーのすることであるという考え方もある。

IMALUが2010年にリリースしたセカンド・シングルのタイトルは「そんな名前 欲しくないよ」だった。

親が非常識でも子は生きていかねばならないのだ。

「落ち込んでいた時には・・・アレで随分・・・慰められた・・・前の住人・・・つまりあなたは心の優しい人だろうと思ってましたが・・・今のあなたを見ていると私の直感は間違いではなかったと思いますよ」

昔の自分を好意的に評価してくれる徳山の言葉に・・・久は安らぎを感じるのだった。

一方、一人息子の良雄(高橋來)と朝食を共にする恵はお茶の間に不機嫌そうな表情を隠さない。

「お母さん・・・昨日、遅くまで起きてたよね」

「・・・料理教室で習ったパン作りの練習をしていたのよ」

バスケットには黒く焦げたパンが積み上げられていた。

「お母さん・・・どうしてお父さんに文句を言わないの」

「仕方ないでしょう・・・お父さんは事故で・・・いろいろと大変なんですもの」

「・・・」

「帰ってきたら・・・あのパンを全部食べてもらいます」

「うえってなっちゃうね」

母と子は微笑みあうのだった。

美しい妻と可愛い息子は・・・久にとって不気味な仮面妻と仮面男子なのである。

前回・・・恵は前妻の香(水野美紀)の通う料理教室に参加したのだが・・・そこで何があったのかは今回は伏されるのである。

あるいは・・・何もなかったのかもしれない。

恵にとって大切なのは・・・少し頭の呆けた夫と・・・幼い息子と自分。

三人が幸せに暮らすことなのかもしれないのだから。

もちろん・・・本当にそうなのかはまだ秘密である。

妻が夫を愛しているかどうか。

どんな家庭でもいつの時代でも夫にとってはそれが最大の謎なのである。

・・・そうなのかっ。

・・・違うとでもっ。

徳山の運転する車で駅へ送られた久は別れ際に名刺を渡す。

「お世話になりました」

「こちらこそ・・・」

一人になった徳山は久の名刺を見る。

そこに記された社名に顔色を変える徳山だった。

恵と良雄は幼稚園に向かう。

「次の日曜日は・・・模擬面接だし・・・その次の日曜は最終模擬面接・・・忙しくなるわよ」

「その日はサッカー大会だよ」

「そうか・・・でも・・・サッカー大会はあきらめないと・・・」

「お受験優先だから」

「そうよ・・・お父さんも言ってたでしょう」

「・・・」

良雄には・・・お受験と少年サッカーの優先度についてわだかまりがあるのだった。

もちろん・・・本当はお受験よりサッカーがしたいのである。

しかし・・・恵はそれに気がつかない・・・あるいは気がついていないフリをするのだった。

たとえ・・・今は忘れていたとしても・・・それは正気だった頃の夫の方針だったからである。

恵は久の方針を尊重しているである。

なぜ・・・恵がそうするのか・・・それもまた秘密なのである。

葵インペリアル証券の受付嬢たちは囁く。

「ほら・・・エリートがきたわよ」

第一営業部のエース・黒木(新井浩文)だった。

「できる男って感じよね」

「狙ってるの」

「そうね・・・でも・・・結婚したら大変そうよね」

「まあ・・・楽して幸せにはなれないもの」

「私はのんびり暮らしたいわ」

「じゃ・・・あっちは」

遅刻ギリギリで駆けこんでくる久。

「いや・・・アレはちょっと・・・」

「問題外よねえ」

「大体、奥さんと子供いるわよ」

「そうなんだ」

第十三営業部の小机部長(西田敏行)と轟課長(光石研)は風邪で休暇をとっていた。

「二人揃ってお休みなんだ・・・」と久。

「何言ってるんですか・・・サタデー・フォーカスで失態を演じて社長に叱責されたショックで・・・休んでいるですよ」と派遣社員・小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)が毒を吐く。

「え」

「元はといえば・・・家路さんが・・・家族サービスを優先させたからです」

四月(わたぬき)信次(鈴木浩介)はニヤニヤするのだった。

家族サービス愛好家だからである。

久に徳山から着信がある。

「徳山さん・・・無事に出社できました」

「私の会社を倒産させた・・・葵インペリアル証券・・・本当にあんたがそこの社員だったとは・・・」

「え」

「いや・・・失礼した・・・あんたには無関係なのに・・・つい電話してしまった」

「徳山さん・・・」

「つまらないことで・・・電話してすまない」

驚いた久は資料室に向かうのだった。

久の監視役である小鳥遊は追跡開始である。

徳山の経営していた徳山通販は業界の大手企業だった。

第一営業部が主導した徳山通販によるコバルト通販の買収劇が事の発端である。

買収は成功し、「徳山コバルト通販」が誕生。

しかし・・・直後に・・・コバルト通販の顧客名簿流出事件が発生する。

急速に業績が悪化し・・・資金調達で無理をしたことも災いして「徳山コバルト通販」はあっけなく倒産したのであった。

買収成功後の倒産劇であったために・・・葵インペリアル証券は無傷だった。

久は・・・専務取締役を務めていた徳山社長の妻・葉子(市毛良枝)の顔を見た。

部屋に飾られた水彩画の女性だった。

徳山夫妻の家庭を壊したのが・・・自分の会社だった。

申し訳ない気分になった久は思わず担当者の黒木を訪ねるのだった。

「買収前に・・・相手の会社のことは・・・調査するよな」

「コバルトに問題があったと知っていて強引に買収をしたと言うのですか」

「いや・・・そういうこともあるかなと思って」

「私の知る限りにおいて・・・そういう事実はありません」

「そうか・・・その後・・・徳山さんとは」

「それきりですよ・・・仕事は終わったわけですから」

「それじゃ・・・あまりにも冷たいんじゃ」

「一緒に泣けばよかったとでも・・・」

「・・・」

「私の知っている家路さんなら・・・過去なんて振り返っても仕方ないとおっしゃるでしょう」

「・・・」

「随分・・・人情家になったんですね・・・」

黒木は皮肉な目で久を一瞥した。

久には返す言葉が見つからなかった。

久には振り返る過去がないのである。

家路は再び資料室に戻った。

「また・・・調べ物ですか」と小鳥遊が声をかける。

「この・・・徳山葉子さんの・・・消息を知りたいのだが・・・」

「そんなことを調べてどうするのです・・・」

「個人的に・・・ただ知りたいのです」

「ただでさえ・・・仕事が遅くて残業続きなのに・・・業務中にプライペートな用件ですか」

「・・・」

「ソーシャル・ネットで検索してみましょう」

「個人名で?」

「五年間で・・・個人情報の価値は微妙に変動しているんですよ」

「そうなの・・・」

「知らせたいことは・・・知らせる・・・知らせることに価値があれば・・・ですけどね」

「すべては・・・経済的効果か・・・」

「素晴らしいインターネットの世界では誰でも入手できる情報です・・・この人ですね」

葉子夫人は・・・とある企業に就職していた。

久は夫人が勤める企業の所在地を入手した。

「君は探偵の才能があるんじゃないか」

「あるいは・・・スパイの才能かもしれませんよ」

小鳥遊は嘯いて微笑んだ。

久はサッカークラブの良雄を迎えに行く。

「やはりサッカー大会には参加できませんか」

「え」

コーチの本城(田中圭)に問われて久は戸惑う。

「お母さんが・・・お受験の日程上・・・無理だとおっしゃっていました」

「ああ・・・最終面接のレッスンと重なっているのでした」

「まあ・・・どちらを選ぶかは・・・プライベートな問題でしょうけど・・・」

「・・・」

「良雄くん・・・時々、気になることを言うんですよね」

「気になること・・・?」

「自分には才能がないから・・・って」

「才能がない・・・」

「誰かにそう言われたのかもしれません・・・しかし、子供同士のことだと・・・あまり深入りできないですから」

「才能がないなんて・・・言われたら・・・子供にはショックでしょうね」

「まあ・・・才能があるかないかなんて・・・誰にもわからないと言ったんですけどね。まあ・・・コーチとして」

「そうなんですか」

「そうですよ・・・成長の速度には個性がありますから」

「大器晩成型の方が才能埋もれやすい時代ですよね」

「短期で結果を求める風潮がありますからね・・・まあ・・・私だって代表選手にはなれなかったサッカー少年の一人なんですけど・・・」

「・・・」

「ただいま・・・」

「お帰りなさい・・・」

仮面の妻の仮面が気のせいか・・・いつもより冷たく見える気がする久。

「昨日はすまなかった・・・」

「いいんですよ・・・」

「お母さんはずっとパンを作っていたんだ」

「パン・・・ああ・・・料理教室で」

久は黒こげのパンを見る。

「無理に食べなくてもいいですよ」

「せっかく、君が焼いたんだ・・・」

パンを口にした久は吐き気を感じた。

「まず・・・」

「え」

「まずまず・・・美味しいよ」

「まずうまって・・・下手上手みたいなこと」

「良雄・・・いいこと言った」

「結局・・・不味いんですね」

「いや・・・ヘタウマっていうのは結局、上手いってことだから・・・まずうまっていうのは・・・結局、美味いってことでしょう」

「もういいわ」

良雄は心配そうな顔で両親を見つめるが・・・久にはそれがわからない。

「まだ・・・奥さんとお子さんの顔が仮面に見えるんですか」

「・・・はい」

「そのことをご家族には・・・」

「言えませんよ・・・」

「ずっとですか」

「ずっとです・・・一日中・・・表情はおろか・・・目を開いているのか閉じているのかさえ・・・判別できません」

「それは・・・もはや・・・超能力のようなものですね」

「・・・」

「私は脳外科が専門なので・・・異常心理については・・・断言はできませんが・・・特定の個人だけに認知に問題が生じるということは・・・その人間に特別な思い入れがあるといえるかもしれません」

「特別な・・・」

「そうです・・・だって・・・そうでしょう・・・他の人間の顔は識別できるのに・・・ご家族の顔が識別できないというのは・・・無意識に・・・そのような選択をしているということです・・・心理的な障壁を作っているんですな」

「どんな思い入れなんでしょうか」

「わかりません・・・私は・・・あなたではないので・・・」

「・・・」

主治医の筑波(及川光博)が言葉を濁しているような気がする久だった。

「とにかく・・・あなたは奥さんや子供の顔を見ると無意識に仮面に置き換えてしまう。そういうシステムが構築されているんです」

「なぜ・・・そんなことを・・・」

「わかりません・・・なんらかの感情的なしこりが原因かもしれません」

「しこりって」

「愛か・・・憎しみか・・・あるいは・・・恐怖か」

「私は・・・家族を恐れているのですか」

「さあ・・・とにかく・・・これだけは申し上げておきます。あなたの奥さんはうらやましいくらいに美しい人ですし・・・お子さんは可愛い盛りです」

「・・・」

「それを感じられないあなたに・・・私は同情しますよ・・・医師としては失格かもしれませんけれど」

仕事を早退した久は南茨木の徳山家に侵入し、部屋を掃除する。

「また・・・君か」

「すみません・・・また鍵があいていたので・・・」

「盗まれるようなものがないからね」

「倒産の件・・・知らないこととはいうものの・・・御無礼いたしました」

「いいんだよ・・・社長として決断したのは・・・私だ・・・私の不覚だったのだ・・・あんたの会社の責任じゃない」

「あの・・・鍵をかけないのは・・・奥様を待っているからじゃないんですか・・・」

「・・・」

「あの絵の女性・・・奥様ですよね・・・」

「・・・」

「布団も二組・・・用意して・・・いつ奥様が帰られてもいいようにと」

「何を言っているんだ・・・私はアレがいなくなって・・・清々しとるんだ・・・なにしろ・・・アレはきつい女だったからなあ・・・」

久は徳山の虚勢を敏感に感じ取り・・・心を痛める。

終電で帰った久を恵が待っている。

「すまない・・・」

「模擬面接のことでお話があったのです」

恵は父親用の参考書を積み重ねる。

「え・・・これ・・・全部読むの・・・」

「大事なところには付箋をつけてありますから・・・」

「あの受験のことだけど・・・あまり・・・無理しなくてもいいんじゃないかな」

「なんですって・・・あなたが言い出したことじゃないですか。だから・・・私も趣味の習い事は控えて・・・良雄の受験に備えることにしたんです。あなたの看病やリハビリで大変な時も良雄の受験教室だけはなんとか続けてきましたし・・・今さら」

久はふと・・・恵の顔に怒りが浮かんだような気がした。

「あ・・・今・・・怒ってる」

「なんですって」

「いや・・・ごめん・・・そりゃ・・・怒ってるよね」

「・・・もう・・・いいです」

久は・・・恵の怒りをもっと感じてみたかった。

夫婦の寝室を出ると・・・良雄が立っていた。

「良雄・・・お前・・・本当は」

「もういいよ・・・僕・・・お受験、頑張るから・・・だから・・・ケンカしないで」

「・・・」

久は・・・良雄の仮面が歪んだように感じた。

久は登り棒を登る。

見上げると棒はどこまでも高く伸び・・・先端は虚空に消えている。

どれだけ、高い場所まで来てしまったのか・・・と久は考える。

こわくて、下を見ることはできない。

とにかく・・・上を見て登り続けるしかないのだ。

左手に力をこめて・・・右手を伸ばす。

右手に力をこめて身体を引き上げる。

必死に両足で棒をしめつける。

こんな話・・・どこかで聞いたと久は考える。

蜘蛛の糸か・・・すると・・・あの空の果てにはお釈迦様が・・・。

見上げた久の目に映ったのは・・・久を覗きこむ巨大な仮面だった。

うわっ・・・と思わず手を離した久は落下の恐怖で目を覚ました。

ベッドで妻は熟睡しているようだった。

久は気がついていないが・・・恵は徹夜をして睡眠不足だったのである。

お茶の間の夫たちは夫の身を案じる妻の健気さにうっとりとするのだった。

仮面だっていいじゃないか・・・とため息をつくのである。

模擬面接に親子三人で挑む家路家。

「お勉強なんだからちゃんとやってよ」

「嘘をつくのがお勉強なの」

「・・・」

久は良雄の反抗期を感じるのだった。

「主人は子供の教育にも熱心で主人なのです」と恵。

「御校の教育理念に感銘を受けました」と久。

「良雄さん・・・お父さんはどんな方ですか」と模擬面接官。

「お父さんは夜中にどこかへでかけて・・・朝まで帰ってこないことがあります」と良雄。

「・・・お父さん?」

「・・・・・・・・・・夜釣りです」としどろもどろになる久。

模擬面接官は久の態度が消極的すぎるとダメだしをする。

「ご両親の熱意が大切なのです・・・」

「・・・」

家路家の反省会。

「良雄にサッカーの才能がないって言ったのは・・・あなたですよ」

「え・・・僕が・・・」

「良雄がサッカー選手になりたいと言い出して・・・あなたは・・・サッカー選手になれるのはチームで一番上手な子で・・・それも東京で一番強いチームにいる子だっておっしゃって・・・良雄はそうじゃないから・・・才能がない・・・だからサッカー選手にはなれないと・・・お父さんは家の事情で・・・行きたい学校にもいけず・・・社会にでてからも大変だった・・・良雄にはそういう苦しみを味わいさせたくないから・・・お受験をして・・・進学に道筋をつけたいと・・・私はあなたの気持ちもわかったのでお受験させることにしたのです」

「・・・・」

「言い聞かせたら良雄もわかってくれたのです・・・もう一度がんばりましょう」

仕方なく同意する久だった。

久は思い悩む。

久の家は貧しかった。

統計的には親の学歴が子供の学歴に反映することは明らかなことである。

しかし・・・久はそれを人並み外れた努力で克服してきたのである。

そのことで・・・久は親を怨んでいたのだろうか。

だったら・・・恵まれた家庭で育った恵みを羨んでいたのかもしれない。

そして・・・自分より恵まれている息子を憎んで・・・。

久は暗い気持ちになるのだった。

暗い過去の自分から逃れるように久は徳山葉子に面会するのだった。

「こんなことを他人の私が言うのは僭越だと思いますが・・・ご主人はあなたの帰りを待っていらっしゃる・・・どうか・・・帰ってあげてもらえませんか」

「あなたが・・・それを言うの・・・私を主人の元へ・・・帰りたくても帰れなくさせたあなたが・・・」

「え」

久は意表を突かれた上に・・・徳山夫人からコップの水による顔面洗礼を受ける。

新たなる情報を得て黒木を訪ねる久。

「あの件・・・僕がからんでいたのか・・・」

「そうですよ・・・表面上は私の仕事ですが・・・最初に話を持ち込んだのは家路さんです。夫人の徳山専務はかなり渋っていたのですが・・・最後は家路さん自身が直接、徳山専務を口説き落としました。その巧みな話術はとても勉強になりました。ひょっとしたら色仕掛けも使ったんじゃないかと疑いましたよ。お茶の間的には明らかにされませんが・・・色事師と社長夫人・・・一部には愛好者がいると思います」

「僕はまさか・・・トラブルのことも予測していた・・・」

「いや・・・そこまではどうでしょうか・・・ただ・・・家路さんは本社に戻るために・・・必死になっていましたからね・・・」

「僕が・・・」

「困りましたね・・・家路さん・・・自分が何をしたのか・・・それぐらいは覚えておいてくださいよ・・・ねえ・・・やり手の記憶喪失さん・・・」

「・・・」

黒木はあえてそのことに触れなかったのが・・・無駄を避けるためか・・・それとも家路に対する配慮なのかは謎である。

もちろん・・・総合的な判断であることは間違いない。

人間の心はうかつには割り切れない。

しかし、久は過去の自分に絶望した。

「ひどい話だろう」

「あなたから・・・お仕事の話を聞いたのは初めてです」

「・・・」

「だから・・・本当のところがどうだったのかは・・・わかりません」

「・・・」

「でも・・・あなたはいつも・・・お仕事を一生懸命なさっていた」

「・・・」

「それだけはわかります」

恵は泣きベソをかく久を励ますように・・・久の手に自分の手を重ねた。

久は恵の温もりを感じたように思う。

おそるおそる見上げる久。

しかし・・・そこにあるのは仮面の顔だった。

「ちょっと・・・出てくる」

急に立ち上がった久に戸惑う恵みの顔をお茶の間は見た。

「それで・・・当直のドクターが病欠したのでピンチヒッターをしている私を訪ねてきたわけですね」

「私は絶望しています」

「そうですか・・・さっき・・・急患があって・・・交通事故で脳挫傷で・・・手の施しようがなかった・・・亡くなりましたよ・・・あるいは私はその人を救命できませんでした。あなたは生死の境界線を彷徨って結局、助かった。それをミラクルと言うのか・・・ラッキーと言うのか・・・よくわかりませんが・・・あなたは絶望とおっしゃるのですね。とにかく・・・命は奇跡のようなものです。そういう命がめぐり会って・・・また新たな命が生まれる。それもまた奇跡でしょう。自分を愛してくれる人に巡り合うのだって奇跡ですよ。私なんかこの二十年・・・そういうミラクルにまったく縁がありません・・・どうしてでしょうかねえ・・・まあ・・・私のことはさておき・・あなたには手を握ってくれる人がいらっしゃる。顔が仮面であることくらい目をつぶってくださいよ。あなたに絶望されたら・・・私なんか大絶望じゃありませんかっ」

激昂する主治医だった。

久は目が覚めるような気がした。

結局、久は自己憐憫の虜になっていたのだった。

翌日、久は徳山夫人に再びアタックするのだった。

「どうか・・・ご主人のところへ・・・戻ってください」

「だから・・・それはできないって・・・」

路上での土下座を敢行する久。

「ちょっとやめてちょうだい・・・土下座をすればなんとかなるっていう最近の風潮、ウンザリなのよ」

「徳山さんは・・・奥さんの似顔絵を何枚も何枚も描いていました・・・奥さんが恋しくて恋しくてこのままじゃ・・・淋しくて死んじゃうかもしれません・・・」

「・・・あなた・・・何を言ってるのよ・・・」

憐れな男を前にして・・・仕方なく久に同行する徳山夫人だった。

ききわけのない女です

仕事に疲れ・・・息も絶え絶えに徳山は帰宅する。

そこには徳山ご夫妻のためのディナーを調理をする久と徳山夫人が待っていた。

「葉子・・・」

「あなた・・・」

「さあ・・・できましたよ・・・トマトのパスタとタンシチューです・・・ハーブは自家製です」

「美味しそうだなあ・・・」

「この部屋には不似合いだわ・・・」

「徳山さんは・・・言いました・・・君には待っている家族があってうらやましいと・・・。僕は・・・徳山さんがうらやましい・・・。愛する人の顔を描けるなんて素晴らしいです。僕は事故以来・・・どうしても妻の顔が思い出せないのです・・・妻を見ても人間に・・・見えないのです・・・でも・・・それは贅沢な悩みなのかもしれません・・・逢いたくて逢いたくてたまらないのに・・・お互いに意地を張って逢えない二人より・・・僕の方がずっと幸せですものね・・・」

「あなた・・・私・・・」

「何も言うな・・・会社をつぶしたのは私だ・・・私の一生の不覚・・・痛恨の決断ミスだった。さあ・・・せっかくのごちそう・・・いただこうじゃないか」

「・・・はい・・・あら・・・おいしいわ」

「だろう・・・社長だったら・・・社員食堂のシェフに雇いたいところだよ」

「あらあら・・・」

久は仲睦まじい二人を残し家路についた。

受験ゼミナールの室長面接に臨む家路家の三人。

「主人は休日に子供の面倒を見てくれます」と恵。

「お父さんはよく遊んでくれます。お風呂にも一緒に入って遊んでくれます。サッカーの相手もしてくれます。運動会の棒登りもお父さんが毎日練習につきあってくれたので上手にやり遂げることができました」と良雄。

「お父さんの教育方針はどのようなものでしょうか」と模擬面接官。

「わ・・・私の教育方針は・・・子供の個性をそ・・・尊重して・・・あ・・・すみません、今日は子供のサッカーの試合があるので・・・これで」

「えええええええ」

試合場へタクシーを飛ばす久。

「すまない・・・人生・・・何があるかわからない・・・だから・・・今は良雄のやりたいことをやらせてあげたい」

「しょうがないなあ」と恵。

「やった~」と良雄。

「あ・・・ユニフォーム・・・どうしよう」

「予備のユニフォームがあるはずです・・・シューズは途中のスポーツショップで買いましょう」

「ありがとう・・・」

久は恵の手をとった。

その時、久は恵の仮面がはにかんだような気がした。

仮面の良雄は「目黒区青空ちびっこサッカー大会」の試合会場に飛びだしていった。

久は恵と手をつないで良雄を見送った。

恵の手は手袋のような感触だった。

しかし・・・久は手袋の中に人間の手があることを感じることができた。

久は・・・自分が壁の前に立っていることをようやく認めることができたのだ。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

Ihhc004ごっこガーデン。早朝でもなんとなく昼下がりの坂道セット。

アンナどじっ子ダーリン全開でツボ所大連発なのぴょ~ん。あたふたあたふたをドキドキワクワクで堪能するのぴょ~ん。原作では周囲が優しく優しく久を包み込むのに・・・久はスルーしたり気がつかなかったり・・・自分で自分を打ちのめすばかり・・・ドラマの久は悩みつつ・・・周囲の優しさに反応して・・・周囲に優しさを返していく。どちらも・・・人間ならではですびょん。原作見ても分からない人は・・・ドラマで練習ぴょんぴょんぴょん・・・良雄みたいな上手な嘘のつき方をマスターすればいいのぴょ~ん

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2015年5月 7日 (木)

いろはに金平糖(堺雅人)金平糖はお菓子の国の女王様(蒼井優)

(月)は小心者とストーカーの攻防戦である。小心者は臆病というくらいだから・・・心の病である。

(火)は人間よりも本が好きな人たちの話・・・心の病である。

(水)は裏表で心の病が花盛り。

(木)は記憶障害の話。

(金)は知的障害をめぐるファンタジー。

(土)はサディストっぽいヒロインの話。

(日)は社会全体が病んでいる話だ。

なんじゃ・・・こりゃ・・・ま、春だからな。

今回はセリフに「解離性同一性障害」が出てくる。

キッドの妄想は基本的に「同時性多重人格」によるものです。

で、『Dr.倫太郎・第4回』(日本テレビ20150506PM10~)原案・清心海、脚本・中園ミホ、演出・水田伸生を見た。人に心というものがあるのなら、それは個性というものの別名である。生まれた瞬間から不平等にまみれ、それぞれの道を歩く人間たちは基本的に神を呪うので神は誰にも平等な死を賜るのである。そういう人生を・・・世界を・・・神の采配を悪魔は美しいと感じるのだった。

ついに慧南大学病院の精神科医ヒノリンこと日野倫太郎(堺雅人)による解離性同一症患者・夢乃/相沢明良(蒼井優)の治療が開始される。

「もう、大丈夫ですよ」

「・・・どうして?」

しかし、そこに精神科スタッフとしては致命的なほどに空気読まない感じで乱入する看護師・薫(内田有紀)と研修医・葉子(高梨臨)である。

思えば・・・この二人・・・そういう役柄的にかぶってるよな。

ずっと・・・ウザい感じのキャラクターやらされて染まってきた気配があります。

とにかく・・・希少価値の高い天然記念物的な多重人格の患者は怯えたウサギのように逃げ出すのだった。

いろはに金平糖

金平糖は甘い

甘いはお砂糖

お砂糖は白い

白いはうさぎ

うさぎははねる

「逃げちゃいましたね・・・追いかけなくていいんですか」

箱庭療法の砂の上に夢乃/明良は一頭の馬を置いていた。

「追ったら・・・蹴られるかもしれないので・・・そっとしておきましょう」

薫は素直に従うが好奇心や嫉妬心や警戒心に満ちてウザさ多めの葉子は逃げ出した芸者を遠巻きに追いかけるのだった。

その頃、精神科主任教授の宮川貴博(長塚圭史)は厄介な患者である三浦牧子(マイコ)を診察していた。

「お薬きちんと飲んでるのに目まいと吐き気が治まりません」

「分かりましたお薬・・・増やしましょう・・・もう結構ですよ」

精神病は薬物で克服できると信じる宮川は患者の心には無頓着なのである。

はねるはかえる 

かえるは青い

青いはお化け 

お化けは消える

夢乃/明良は売店で店員とトラブルを起こしている幼女に気がつく。

「あのね、お金がないと買えないのよ」

三浦牧子の娘・千果(井上琳水)はチョコ・コロネの袋を握りしめていた。

夢乃/明良はたちまち・・・異常な精神力で千果の事情を察するのだ。

チョコ・コロネの袋をもう一つとると千果の分も一緒に支払いをすませる。

「お名前は?」

「・・・千果」

「私もね・・・お母さんを待ってるの」

「おねえちゃんも?」

「お腹すいたね」

「・・・うん」

「これ食べて待ってようか・・・」

「はい」

二人の虐げられた娘は手をつないで病院の外へ出る。

観察していた葉子の心は揺れる。

(あらら・・・心に病のある人が・・・小さい女の子を連れて・・・下界に・・・これは・・・突然、狂女が歩道橋から車道に幼女を放出するなどの・・・いろいろ危険な展開含みなのでは・・・黙って見ている場合ではないのかも・・・)

しかし・・・葉子の背後では・・・突然、女の悲鳴が聞こえ・・・騒ぎが起こっていたのだった。

「宮川先生がセクハラをなさいました」

「私はそんなことしてません」

激昂する牧子と動顛する宮川・・・。

葉子の心は新たな出来事によって更新されるのだった。

消えるは電気 

電気は光る

光るはおやじのはげあたま

色々と困ったことになる慧南大学病院精神科だった。

「あっ」と叫ぶ研修医としては落ち付いている福原大策(高橋一生)に驚く倫太郎。

「どうした・・・?」

「あれ・・・バレリーナの三浦牧子さんじゃないですか」

「有名人なの」

「これだから・・・日本人は・・・」

「君も日本人だろう・・・のっぺりしやがって」

診療中にセクハラを受けたと騒ぎたてていた牧子は・・・今度は娘がいないと騒ぎ始めた。

「ひよっとして・・・あの子・・・」と葉子は前後の記憶を関連付ける。

「なんだ・・・」

「先生の好きな芸者さんが・・・女の子を連れて出て行きました」

「ま、まずいじゃないか」

雪乃/明良と千果は病院付属の観覧車に乗っていた。

付属じゃないだろう。

「私・・・これ好きなの」

チョココロネを頬張る千果。

「じゃあ・・・あたしのも食べていいよ」

「お姉ちゃん・・・お腹すいてないの」

「あたしには金平糖があるから」

「金平糖・・・お菓子の女王様・・・」

「まあ・・・素敵な響きね・・・これはね・・・お母さんがくれたんだ」

「えっ・・・いいなあ」

「そう・・・いいでしょう」

雪乃の携帯電話に倫太郎からの着信がある。

「でて・・・いいよ」

「・・・そう」

(雪乃さん・・・今・・・女の子と一緒ですか)

「・・・」

「お姉ちゃん、もう一番高いところまできたよ」

(・・・一緒なんですね)

「・・・」

「人も車も小さくなって魔法の国みたい・・・」

雪乃/明良は通話を切った。

観覧車にかけつける倫太郎たち。

「三浦千果ちゃん・・・ですか」

「はい」

「お母さんが病院で待ってますよ」

「・・・お姉ちゃん、バイバイ・・・お姉ちゃんのお母さんも早く来るといいね」

「・・・」

葉子は千果を連れて行く。

「夢乃さん・・・」

「・・・」

「相沢明良さん」

「はい・・・」

「もう一度乗りませんか・・・よければ僕と・・・」

「よく知らない人とは・・・ちょっと・・・」

夢乃/明良の携帯電話に置屋の女将・伊久美(余貴美子)から着信がある。

(もう支度してお座敷に行く時間でしょう・・・早く帰ってらっしゃい)

「ごめんなさい・・・すぐ帰ります」

夢乃/明良は夢の世界へ帰って行く。

外科の主任教授の蓮見榮介(松重豊)は診療室の録画をチェックする。

突然、倒れる牧子。

助け起こそうとして牧子に触れる宮川。

「あれ・・・触っちゃってるじゃないか」

「・・・」

「証拠画像を記録してどうするんだ」

「有名人なので特別に話を聞いたのが失敗でした・・・画像診断だけにしておけばこんなことには・・・」

「そういう姿勢がこういう事態を招くのです」と倫太郎。

「なんだと・・・主任に向かって・・・意見するのか・・・お前は」

「彼女には・・・違和感があります・・・」

「違和感・・・」

「なんだか・・・言動が芝居がかっていると思いませんか」

「バレリーナだからだろう」

「だから・・・特別扱いしたんですね」

「・・・」

幼馴染で明らかに倫太郎に片思い中の外科医・水島百合子(吉瀬美智子)は日野家で夕食を共にする間柄だ。

「私、失敗しませんから」と普通のオムライスを作る百合子。

「僕はタモさんレシピの最初から全部まぜちゃうオムライスだ」

「それは・・・もうオムじゃないよね・・・ただのケチャップ炒めごはんだよね」

「・・・」

「夢乃さんのこと考えているでしょう?」

「彼女は深刻な解離があると疑われる」

「意識喪失・・・?」

「いや・・・おそらく解離性同一性障害だと思う」

「意識の分離なんて・・・本当にあるの・・・」

「オムライスでたとえてみようか」

「わかりにくそうだからいいわ」

「だね」

「そもそも・・・精神的苦痛に対する緊急避難的なものでしょう」

「基本的には意識の喪失だ・・・しかし、完全に喪失されなかった意識の一部が覚醒中に見る夢のような記憶を処理する。つまり・・・乖離した意識の発生だ。夢の記憶は目覚めた時には朧げに覚えているがたちまち混沌として忘却されてしまう。しかし、乖離を重ねる度に夢の意識が強化され・・・あたかも二つの意識が分離して存在しているような心理になる。まるで一人の人間の中に複数の人格があるように見える。だから解離性同一症をかっては多重人格症と呼んだわけ」

「夢乃さんと・・・明良さん・・・どちらが本来の人格なのかしら・・・」

「さあ・・・それはなんともいえない・・・乖離しているとは言え・・・本来は一つの人格だからね・・・ただ・・・明良さんにとって・・・夢乃さんは・・・文字通り・・・夢の中の存在なのだろう・・・だから・・・夢乃さんと会っている僕の記憶は朧げなんだと思う。見たことあるような気がするけれど・・・誰だったかしら・・・みたいな」

そこへ・・・(火)の谷村美月、(木)の上戸彩に比べて不足のある(水)を補うために倫太郎の妹・中畑まどか(酒井若菜)が婚家から里帰りする。

友人の結婚式に出席する時に着用する着物を物色に来たまどか。

まどかが選んだ着物は・・・倫太郎と百合子の記憶を揺らす。

不倫の匂いを漂わせて・・・男とドライブに出かける在りし日の女(宮本裕子)を・・・。

幼馴染として・・・百合子は倫太郎が心に傷を負った時空間を共有してしまったのだった。

(あの・・・倫太郎のお母様の不貞行為が・・・倫太郎を女性不信者にしてしまったのではないか)

百合子は疑っているのだった。

そんなこんなで・・・四十過ぎた倫太郎は独身なのである。そして・・・おそらく百合子も。

最後通告明日までに700万

最後通告明日までに700万

最後通告明日までに700万

相澤るり子(高畑淳子)からのメールが夢乃/明良を追いたてる。

慧南大学病院理事長・円能寺一雄(小日向文世)に「置屋の屋根の修復費用」と称して三百万円と七百万円・・・合わせて一千万円をおねだりする夢乃。

ベッドで目覚めた明良は札束を抱いていることに気がつく。

「夢乃・・・」

その時・・・倫太郎からのメールが着信する。

《あなたはもう一人ではありません・・・一緒にお茶を飲みましょう》

「・・・気持ち悪い」

揺れる夢乃/明良・・・。

相澤るり子は上機嫌で明良から現金を受けとる。

「ありがとう・・・命拾いしたわ・・・あんたは本当にいい子だよ」

るり子は明良の髪をくしゃくしゃにするように愛撫する。

「ほら・・・あんたの好きな金平糖あげる」

「・・・ありがとう」

明良は幼女のように微笑んだ。

「るり子さん・・・そろそろ・・・」と囁く愛人兼おそらく付馬の男。

「じゃあ・・・またねえ」

明良・・・いい加減に・・・夢乃・・・言わないで・・・あのクソババア・・・お母さんはいいお母さんよ・・・どこがだよ・・・今日も金平糖をくれたのよ・・・ななひゃくまんえんでこんぺいとうがどれだけかえるとおもってんだよおおおおおおおおおお・・・お母さんの金平糖は特別だもの・・・。

その頃・・・置屋では訪れた円能寺と伊久美が対話したことで・・・儚い夢乃の嘘は露見していた。

「夢乃・・・悪い男にでも貢いでいるのか」

「そんなことはないと思います・・・でも」

「思い当たることがあるのか」

「・・・」

三浦牧子が宮川教授をセクハラで訴える件に対応するために倫太郎は特命を受けていた。

三浦牧子 (旧姓・菅原牧子)

日本を代表するバレリーナだった菅原悦子の娘

1998年  全日本舞踊コンクール優勝

2001年  日本人として初めてレアールバレエ団に入団

2006年 レアールバレエ団最高位のプリンシパルに昇格

2007年 ダンサーの三浦匠と結婚

2013年 三浦匠と死別

「プロフィールを見る限り凄い人だったんだ」と倫太郎。

「だから・・・最初から言ってるじゃないですか」

「なんで・・・そんなに詳しいの」

「幼少の頃からバレエのレッスンを受けていました・・・踊る医大生と呼ばれたこともあります」

「・・・」

「とにかく・・・ご主人と共演した金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥは・・・伝説となっています」

「金平糖の・・・」

「くるみ割り人形の最高の見せ場ですよ」

「パ・ド・ドゥ・・・って」

「男と女の踊りです」

「デュエットじゃないんだ」

「その場合は同性二人です」

「へえ・・・」

「彼女は最高のパートナーを失って・・・表舞台から遠ざかり」

「愛を喪失して鬱を発症、主治医に陽性転移(擬似恋愛)して・・・つれない相手に腹を立てて・・・セクハラ騒ぎを起こした・・・君なら、どう診断するかな」

「子供が行方不明なのに・・・それを捜す努力はせずに・・・ことさら・・・子供をいかに愛していたかをアピールすることに拘泥する・・・あれを過剰に誇張された感情表出と考えるならば・・・演技性パーソナリティー障害でしょうか」

「妥当だな」

「治療はどうすればいいのでしょうか」

「愛するものとの別離は心の負担だ。時には人を絶望させるし・・・現実からの逃避を誘うこともある。彼女は今、悲劇の主人公として舞台の上で踊り続けているようなものだ。虚構と現実の境界線を彷徨っているのだ。彼女が現実の悲しみを受け入れて・・・本当の自分を取り戻す・・・それまで・・・寄り添うのだ」

「・・・時間がかかりそうですね」

「いいや・・・彼女には愛の結晶がある・・・ドラマ的にゲストにそんなに時間はかけられないから・・・いつものショック療法でいくぞ・・・」

「?」

「ところで・・・くるみ割り人形って・・・」

「チャイコフスキーの有名なバレエ作品ですよ・・・クララと言う少女がクリスマスに見る夢で・・・一幕目はクララの冒険、二幕目は勝利のご褒美にお菓子の国にご招待って感じです」

「すると・・・一幕目は少女が踊るのか」

「クララを大人が踊ることもありますが・・・まあ、筋書き的には・・・一幕目は幼いクララが、二幕目は金平糖の精という女王が脚光を浴びるので」

「すると・・・金平糖は・・・普通は大人が踊るんだね」

「そうですね」

「君は女王の相手の王子を踊れるのかな」

「真似ごと程度には・・・」

「よし・・・それでは・・・クララを誘拐することにしよう・・・」

「え・・・」

「心配するな・・・おそらく・・・今の牧子さんは・・・千果ちゃんが目に入っていない」

「・・・」

「千果ちゃんは・・・育児放棄されているんだよ」

母親の目を盗み・・・千果ちゃんと特別レッスンをする大策だった。

三人は母親の留守に三浦家のレッスン場に上がり込むのだった。

帰宅した牧子は驚く。

「あなたたち・・何をしているの」

「お嬢さんが・・・あなたを捜して病院にいらしたので・・・送らせていただきました」

「・・・」

「あなたを待つ間・・・千果ちゃんにお相手してもらっていたのですよ」

流れ出す金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥのアダージュ・・・。

踊りだす・・・金平糖の精役の千果と・・・王子役の研修医・大策・・・。

「・・・」

「あなたが踊らないというので・・・千果ちゃんに頼んだのです」

「・・・」

「千果ちゃんは・・・パパとママのパ・ド・ドゥは・・・最高だった・・・そのようにおっしゃいました」

拙いながら・・・懸命に踊る・・・娘の姿に・・・。

牧子は・・・長い夢からさめたな気分を味わうのだった。

あふれる涙・・・。

「あああああ」

「お母さん・・・泣かないで・・・ごめんなさい」

「いいのよ・・・あなたは・・・悪くないの」

「そうですよ・・・千果ちゃん・・・お父様が亡くなって・・・悲しかったですか・・・」

「・・・」

「とても・・・淋しかったでしょう」

「・・・」

「お母さんも・・・そうなのです・・・だから・・・泣いているんです」

牧子の涙は止まらない。そして千果も泣きだすのだった。

倫太郎は・・・母と娘の肩を優しく抱く。

主人公の特権で「セクハラ」と詰られることはないのである。

ネズミの巣に伊久美が乗り込んでいた。

「やっぱり・・・あんただったの」

るり子は凄惨な笑みを浮かべる。

「だったら何だい?・・・私は あの子の母親なんだ・・・娘にたかって何が悪い」

「娘を不幸にする母親なんて・・・聞いて呆れるよ・・・もうあの子を解放してやんな」

「何で他人のあんたに言われなきゃいけないのさ・・・明良のことは私が一番よく分かってる・・・あの子はねぇ・・・私がいないと寂しくて死んじゃうの・・・やっぱ、母親が一番ってことよね」

狂ったようなるり子の高笑いが響く。

帰宅した倫太郎を夢乃/明良が待っている。

「診察室に・・・でも・・・日曜だから誰もいなくて」

「雨に濡れてしまいましたね・・・とにかく・・・入って・・・着替えてください」

「・・・」

「サンドイッチは好きですか?」

「はい」

「すぐに作ります」

奥の間で・・・明良は倫太郎の母の着物に心を奪われる。

「お母さんの匂い・・・」

芸者だったるり子の記憶が蘇る。

男出入りの激しかった母。

美しい母。

「るりちゃんが・・・こぶ付きとは知らなかったな」

「あんな子・・・産まなきゃよかった」

「おいおい・・・聴こえるぞ」

「ねえ・・・好きって言って」

男と遠出に出かける母。

「ほら・・・金平糖」

明良(木村心結)は叫ぶ。

「お母さん・・・いつ頃帰ってくるの」

るり子は振り返らない。

壜に入れた金平糖を食べる。

水を飲む。

マヨネーズやケチャップをなめる。

金平糖を食べる。

壜の金平糖は半分になる。

母は帰らない。

壜の金平糖はなくなりそうだ。

しかし・・・母は帰らない。

空腹で目が回る。

明良に夢乃が囁く。

だらしないねえ・・・食べ物なんて・・・どこにでもあるだろう。

「お母さん・・・どこ・・・」

明良のつぶやきを耳に捉える倫太郎。

「明良さん・・・あなたに何があったんですか」

「・・・」

「僕はあなたの味方です」

「・・・先生」

「教えてください」

「・・・やめて」

「・・・」

「ヒノリン・・・」

「夢乃・・・さん」

「じっとみつめてくれて・・・うれしい・・・ふふ」

「僕は本当のあなたが知りたいんです」

夢乃は倫太郎を誘惑する。

じっと堪える倫太郎。

「意気地なし・・・」

夢乃は倫太郎を押し倒し馬乗りになる。

「夢乃さん・・・あなたは・・・こうやって・・・明良さんを守ってるんですね」

「ふ・・・つまんない男」

「・・・」

「私の中に入ってくるんじゃねえよ・・・明良にちょっかい出すなってんだ」

明良に投影されたるり子の影・・・その名は夢乃・・・か。

倫太郎はニヤニヤした。

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2015年5月 6日 (水)

十七歳でキッチンを読みました(稲森いずみ)愛し合えないのでケーキを食べました(渡辺麻友)

短編小説「キッチン/吉本ばなな」が発表されたのは1987年のことである。翌年、短編集「キッチン」が発刊される。

ドラマの登場人物である西岡理子(稲森いずみ)は四十歳の設定であるので「十七歳の時に読んだ」ということは二十三年前である。

つまり、1992年頃のことだ。

発表から四~五年たっていて・・・あまりタイムリーとは言えない。

もちろん・・・ベストセラーだから・・・どこかで十七歳の女の子が読んでいてもおかしくないのだが・・・なんとなく・・・そういう時差の言いわけが欲しくなるのである。

ドラマの中で引用されるのは一種の定番部分で・・・印象としてはとてつもなく浅いのである。

だから・・・なんだというわけではないのだが・・・どうせ、視聴率がここまで*6.2%↗*6.4%↘*4.6%という番組だ。

もっと趣味に走ってもよかったのじゃないかと思う。

少なくともダブルヒロインが「キッチン」VS「はてしない物語」で語りつくして平行線とかな。

・・・誰がみるんだよっ。

で、『戦う!書店ガール・第4回』(フジテレビ20150505PM10~)原作・碧野圭、脚本・渡辺千穂、演出・木内健人を見た。21世紀最初の十年間で日本にある書店数は30%減少した。書籍と言う文化はもちろん曲がり角にあるのだろうが・・・まあ、あと百年くらいは「本」というものは残るだろう。そういう斜陽産業の話である。無理に盛り上げようとしなくてもいいんじゃないのかなと思うのだ。ここまで第一話は新刊本の著者によるサイン会、第二話は雑誌に付録を梱包する話、第三回は万引き常習犯による書店員殺傷事件である。・・・死んでないぞ・・・片思いの相手である副店長の理子を守って名誉の負傷を遂げた三田孝彦(千葉雄大)は全治一週間だ。で、今回はコミック「怪獣メダル」(フィクション)のアニメ声優による朗読会を吉祥寺北商店街と協力して開催する大手書店「ペガサス書房」吉祥寺店なのである。

本来の責任者である三田が入院中のために・・・理子はお嬢様店員の三代目こと北村亜紀(渡辺麻友)に白羽の矢を立てる。

和を大切にしない帰国子女にチームワークを学んでもらおうという目論みなのだった。

愛し合ってるか~い。

・・・なんだよ・・・天国からの声か。

そうなんだよな・・・愛し合ってないんだよな。

なぜかというと・・・譲れないからなんだな。

亜紀が好きだと告白したんだから三田は亜紀と愛し合えばいいのである。

しかし・・・三田は理子が好きなので亜紀とは愛し合わないのだ。

かといって・・・三田が理子にアタックするかといえばしないのである。

そのくせ・・・理子にアプローチしてくるライバル店・ユニコーン堂の田代(田辺誠一)の動静を嗅ぎまわる三田なのだった。

なんか・・・ウジウジしてやがる。

愛し合ってるかい・・・イエーイというノリがないのは悲しいぜえ。

とにかく・・・理子の引き抜きも視野に・・・積極的にデートを申し込む田代なのである。

「また、もんじゃ食べにいきましょう」

「ええ」

「いつ・・・いくの・・・スケジュールを決めるなら今でしょう」

沖縄料理店「わらゆん」の店主・屋良部(マキタスポーツ)は二人の背中を押すのだった。

「理子さんの人生に影響を与えた一冊は何ですか」

「面接試験みたいですね」

「いや・・・単に理子さんのことを知りたいのです」

「十七歳の時に読んだキッチンです」

「吉本ばなな・・・か」

「通俗的ですみません」

「いや・・・ベストセラーだってそれなりに価値はありますからね」

「書店員としては無難な答えですよね」

「闇の中、切り立った崖っぷちをじりじり歩き、国道に出てほっと息をつく。もうたくさんだと思いながら見上げる月明かりの、心にしみ入るような美しさを、私は知っている・・・か」

「あら・・・」

「まあ・・・暗唱するならここって感じですか・・・あなたの人生はどう変わったんです」

「母がガンで死んだんです」

「・・・なるほど」

「人間は何かを選べない・・・どうにもならないことがあるって・・・そういう所が女子高校生にはぐっと来るでしょう」

「ですね・・・家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだ・・・と」

「まあ・・・父親はまだ生きているんですけどね」

「現実世界では感傷ばかりにはひたっていらませんからね」

「とにかく・・・小説って凄いなあと思いまして」

「書店員になったんですね」

「はい」

「面接官なら合格点出すなあ」

「やった~」

愛し合ってるか~い。

しかし・・・そんな理子も三田に「田代さんとお付き合いしてるんですか」と問われれば・・・。

「いやだ・・・まだ知り合ったばかりだし・・・何言ってんのよ」

愛されないことを恐れて防護幕全開なのである。

そして・・・亜紀には「付き合って下さい」と積極的に迫る編集者の小幡(大東駿介)がいるのだが・・・。

「いま・・・失恋中なので・・・」とあきらめきれない気持ちで答えないのだ。

愛し合ってるか~い・・・イエーイってみんな言わないんだよ。

いいことばかりはありゃしねえ・・・。

子供たちに人気のアニメの原作コミック「怪獣メダル」に注目した亜紀は声優による朗読会を提案する。

しかし、開催まで一週間。

萩原麻美(鈴木ちなみ)、日下(伊野尾慧)、遠野由香(木﨑ゆりあ)の書店員トリオの反応は鈍い。

「やる気がないなら・・・私、一人でやります」

理子は亜紀にチームワークの大切さを説こうとしたのに裏目に出るのだった。

愛し合いたい小幡は私情丸出しで亜紀を応援するのだった。

「何かを成し遂げようとする時は・・・正攻法だけではダメなのさ・・・コネを使うのも大切だよ」

「そういうものなの・・・」

まあ・・・亜紀は就職そのものがコネなのだが。

三田に未練がある亜紀はケーキを買って病室にお見舞いに行くが・・・理子と親しげに話す三田の姿に退散する。

なんて素敵な夜だろう

一人でケーキを食べるなんて

いつも夢見てたことさ

一人でケーキを食べるなんて

恋を振り切り、突進する亜紀は「怪獣メダル」の出版社と接触して・・・声優のスケジュールを抑える。

しかし・・・イベント開催のためには人手不足なのであった。

そんな亜紀に理子は社内報を見せる。

そこには・・・吉祥寺店トリオが書店員としての情熱を熱く語っている記事があるのだった。

「本を愛しているのはあなただけじゃないのよ」

「・・・」

会議で・・・亜紀は頭を下げるのだった。

「一人ではできません・・・私のことは嫌いになってもかまいません!・・・でもペガサス書房のことは嫌いになってもならないでください!」

「あんたの会社かっ」

「イベントを成功させたいんです」

「しょうがないわねえ」

簡単にデレるトリオである。

かわいいぞ、トリオ、かわいいぞ。

愛し合ってるか~い。

イエーイ!なんだな。

しかし、直前で問題が発生する・・・イベント会場の物販を出版社が直売することを条件に出したのである。

「じゃ・・・うちは一銭も儲からないじゃん」

店長(木下ほうか)は難色を示す。

愛し合ってないのか~い。

「やりましょう・・・始末書は私が書きます・・・ここは地元へのPR活動の方が大切です・・・地域の皆さんがきっと喜んでくれますから」

愛し合ってるのか~い。

理子の言葉に励まされる亜紀だった。

ゲラゲラポーなイベントは子供たちに混じって大きなお友達も多数参加して大盛況だった。

「これで・・・ペガサス書房が物販できたら・・・言うことなかったのに・・・」と小幡。

「一緒に口惜しがってくれてありがとう・・・」と亜紀。

「え・・・」

「一緒にお酒を飲みませんか」

「残念会・・・それともデート?」

「両方です」

悪い予感のかけらもないさ

ぼくら夢を見たのさ

とってもよく似た夢を・・・

愛し合ってるかい

イエーイ!

一方・・・三田は田代を訪ねる。

「引き抜きのために・・・店長に近付くなんて・・・僕は許さない」

「彼女がもっと実力を発揮できる職場があるなら・・・それはいいことだと思う。いずれにせよ・・・自分を守るために・・・好きな女性に告白することもできない根性無しの坊やに何か言われる筋合いはないね」

「・・・」

しかし・・・田代は優しく三田の肩をたたくのだった。

勇気のない君は・・・彼の歌声に耳を澄まそう。

大切なことはただ一つ。

愛することではなくて愛し合うことだ。

おい・・・命日過ぎてるぞ。

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2015年5月 5日 (火)

弱虫で臆病者で腰抜けで(相葉雅紀)乳牛じゃないの牛乳なの(有村架純)チュパチュパ(沢尻エリカ)領収書刑事の逆襲(山口紗弥加)生足じゃありません(足立梨花)

もはや・・・完全に(月)「ようこそ、わが家へ」ということだな。

まだ、迷ってたのかよ。

山田孝之の「REPLAY & DESTROY」があったしな・・・ま・・・「ウシジマくん」の続篇の方が見たかったね。

チャカチャカしすぎなんだよな。

ま・・・それがおしゃれな感じなんだろう。

何がかっこいいかは人それぞれだしな。

うえって感じだったけどな。

・・・おいっ。

25歳のハーフのなんちゃって高校生(小林涼子)のために見るけどな。

・・・見るのかよっ。

で、『ようこそ、わが・第4回』(フジテレビ20150504PM9~)原作・池井戸潤、脚本・黒岩勉、演出・谷村政樹を見た。某国から大陸間弾道ミサイルが飛来して東京が火の海になっている時に「憲法九条が改正される危険がある」とか「徴兵制が復活する惧れがある」とか「日本が戦争する国になります」とか「晩御飯のおかずは何にしよう」とかそういうレベルの危機感のなさを展開する我らが倉田一家の皆さん。まあ・・・じたばたしたって殺される時は殺される時代だという考え方もありますね。

「サラリーマン着服の裏ワザ全部教えます」的な悪の手引書要素の強い雇用者もの作家の原作から主人公チェンジでホームドラマ化されたこのドラマ。

すべてが生ぬるいが・・・キャストが豪華なので・・・それなりに楽しめる。

謎解きとしては「事件」も「犯人」も散りばめられてそれなりに妄想できるのでミステリとしては成立しているのだった。

本当は犯人が複数いると見せかけて・・・実は単独犯というのが王道だが・・・もはやそれは難しい感じになっている。

少なくとも・・・家族それぞれに悪意を抱かれる理由があり・・・ストーカー(つきまとい)を犯罪と考えれば・・・横恋慕のために七菜(有村架純)や珪子(南果歩)につきまとう辻本(藤井流星)や波戸(眞島秀和)はすでに犯人である。

犯罪者ということでは・・・ナカノ電子部品の真瀬営業部長(竹中直人)は完全にクロである。

そういう中で健太(相葉雅紀)が名無しさんと呼ぶニット帽の男を真犯人と考えると・・・登場人物の中で・・・健太と面識のない男はすべて容疑者ということになる。

しかし・・・ニット帽の男が顔出しで登場しているとは限らないのである。

それどころか・・・ニット帽の男は名無しさんではない・・・という可能性もあるのだった。

とにかく・・・正体不明の何者かが・・・家を眺め、盗聴器を仕掛け、花壇を荒らし、十万円を盗み、犯行声明をFAX送信し、猫をポストにいれ、猫の首輪にメモを残し、ハイヒールを移動させ、母親と陶芸教室の講師の密会写真を届け、健太に監視カメラだの盗聴器発見装置だの無駄な出費を強いる・・・そういう人に恨みを買ったら困ったことになるからまずいよなあ・・・と誰もが感じる恐怖や不安を煽りたてるのである。

不特定多数の誰かになりすます・・・顔を持たない人間の・・・悪意が香り立ちますな。

そうです・・・あなたがそうなのかもしれません・・・的な。

加害者も被害者も判然としないのが世の中の実相なのだから。

ハイヒール事件により、木下巡査(夙川アトム)を通じて二人の所轄の刑事が事情聴取に現れる。

「玄関の鍵は付け替えた方がいいかもしれません」

刑事は当たり障りのないアドバイスを残し去っていった。

家宅不法侵入されたというのに「犯行時刻は六時から九時の間」を言いたがる主婦や「息子の歯ブラシを間違えて使った」と言われて反論する父親に唖然としたらしい。

とにかく・・・靴の左右の区別のつかない珪子は・・・少しおかしい。

一家団欒でうどんを食べる倉田一家。

「怖くて痩せるダイエットみたい」とのほほんな妹・七菜である。

「おもち入れる?・・・おかめうどん」とやはりおかしい珪子。

「そりゃ・・・ちからうどんだろう」とたしなめる太一(寺尾聰)・・・。

「おかめうどんって何がはいってるの」と七菜。

「わかめでしょう」と完全におかしい珪子。

「時々、母さんが犬山イヌコにみえる」と思うしかない健太だった。

健太は偶然につかんだ真瀬と領収書刑事・西沢摂子こと熟女パプ「マダム・ジュセフィーヌ(ナポレオン夫人=フランス皇后)」のシルビア(山口紗弥加)の密会画像を太一に見せる。

契約社員もアルバイト禁止の社則に違反した領収書刑事の裏切りの理由を察知する太一だった。

「弱みを握られて脅されたって寸法かい」

「おっかさんの介護にお金がいるんですよ」

「そいつは・・・なんとも・・・困った話だね」

「旦那・・・すまないねえ」

「なんとか・・・工夫しねえとな」

「工夫・・・」

「こうなりゃ・・・真瀬の野郎をはめてやろうじゃねえか」

時代劇かっ。

本筋とは関係ないので・・・サラリーマンの裏事情をまとめておく。

①真瀬部長はカリタ印刷にカタログとパンフレットを発注。カタログだけを納品させ、パンフレットの代金は水増し請求し、カリタ印刷からキックバックさせ着服。

②領収書刑事はパンフレットの配布先とエドヤ運送の配達記録から真瀬の不正を暴く。

③真瀬はシルビアから情報を入手し隠蔽工作。

④営業会議で総務部長の太一が真瀬を告発。

⑤真瀬は領収書刑事に無実を証明させる。

⑥ここで密会を暴露する太一。

⑦領収書刑事と口裏を合わせ真瀬を人情家に仕立てる。

⑧社則違反を不問とすることに成功

・・・結局、真瀬はお咎めなしである。

キックバック・・・それは魚心あれば水心なのだ。

シルビアは母の介護費用について貯金を切り崩すことで対応する・・・できるなら最初からしておけ。

まあ・・・基本的にどうでもいいけどな。

真瀬のスパイである配送課長の平井(戸田昌宏)は二人を監視して犯人に立候補である。

とにかく容疑者を増やす方針なんだな。

一方、街角で老婆に暴言を吐く通行人(遠藤要)と遭遇する健太と明日香(沢尻エリカ)・・・。

「素性が知られなきゃみんな無法者ね」

「誰もが名無しさんの時代か」

名無しさんの大胆な行動から・・・明日香は盗聴の可能性を指摘する。

「犯行時間に留守だと知っていた可能性があるわ」

「そんな・・・」

しかし・・・思い当たることが多過ぎる健太だった。

円タウン出版社の蟹江(佐藤二朗)の紹介で古物商を訪れる健太と明日香。

「盗聴は犯罪ですよ」

「いえ・・・盗聴器を発見したいのです」

「なるほど・・・つまり・・・ワイヤレスマイクの探知装置をお求めですな」

「ええ」

「ワイヤレスマイク?」

「盗聴器にもピンキリですが・・・一般的に多いのはマイクとトランスミッターを利用したシステムです」

「トランスミッター?」

「つまり・・・送信機ですな。概ねFM放送と同じ電波を発信します。盗聴は受信範囲で受信機つまり、スピーカーとレシーバーで行います」

「はあ・・・」

「そこで・・・ワイドバンドレシーバーつまり・・・周波数の広帯域受信機で発信器の電波を検知するのが・・・無線式盗聴器の発見器・・・これなんか五万円でお手頃です」

「ご・・・五万円」

「一生ものよ」

「編集長・・・前借りお願いします」

「キミね・・・仕事もしてないのに・・・前借りはね・・・ホトケの顔も三度までだからね」

健太のせいで愛しのシルビアが店から消えたとは知らない蟹江編集長である。

知らぬが仏なのだ。

勇者ヨシヒコにもそろそろ会いたいよね。

家族の留守を狙い盗聴器検索を開始する健太と明日香。

しかし・・・実は盗聴器内蔵が疑われるブローチを持ちだす珪子である。

だが・・・コンセントボックス擬装型盗聴器を発見する健太と明日香だった。

「これ・・・」

「しっ」

風呂場で密談する二人。

「このタイプは電源に困らないから・・・連続盗聴が可能なのよ・・・」

「どうして・・・そのままに」

「盗聴されていることに気付いたことを秘密にしておけば名無しさんは油断するわ」

「どうして・・・君はそんなに気がまわるんだ」

「あなたが・・・うかつすぎるのよ」

「・・・」

多くのお茶の間は明日香に同意するのだった。

風呂場で密会している二人を連続帰宅で急襲する珪子と七菜だった。

「明日香さんて・・・プロレスラーみたい」

「よく言われます」

「明日香さんて・・・プロレスラーみたい」

「よく言われます」

しかし・・・太一は・・・。

「明日香さんって・・・エヴァンゲリオン」

「え・・・そっち」

「よく言われます」

「そっちもか」

まあ・・・もう・・・どうでもいいがな。

緊張感のない一家は・・・息子の彼女のような明日香を歓待するのだった。

「ストーカーは情報によって対象を支配しようとします」

「難しいのね」

「たとえば・・・スマホ普及によって利用しなくなったガラケーとかは・・・個人情報の宝庫ですからね」

あわてて・・・それぞれの古い携帯をチェックする倉田一家。

七菜の携帯電話は消失していた。

そこには・・・どうやら・・・リベンジポルノ的画像があったらしい。

またか・・・有村架純には何をしてもいい演出かっ。

明日香帰宅後に・・・また・・・五万円が紛失していることが発覚である。

そして・・・何者かが・・・一家団欒を盗聴している様子が描かれるのだった。

健太は明日香の指示で仕掛けた室内盗撮カメラの映像をチェックする。

そこには・・・つづくである。

七菜のスマホに・・・何かが着信する・・・つづくである。

帰宅途上のはぐれ刑事純情派じゃなかった明日香が歩道橋の下りにさしかかると何者かが背後から明日香を突き飛ばす。

転落し・・・出血する・・・明日香・・・つづくである。

これは・・・ひきの嵐か・・・。

2015年度倉田家嫌がらせ事件容疑者ランキング

①位 ニット帽の男(名無しさん)

②位 配送課長

③位 通行人

④位 編集長

⑤位 健太(人格障害)

⑥位 七菜(ストレス)

⑦位 古物商

⑧位 珪子(にゃーす2号)

⑨位 第一話に登場したがその後登場しない人

⑩位 ガス(ニャンコ星人)

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2015年5月 4日 (月)

後れても後れてもまた君たちに誓ひしことをわれ忘れめや(黒島結菜)

吉田松陰に「義」を求められた高杉晋作は・・・松陰の刑死により、死に場所を求める旅を開始する。

師に先立たれた以上、後を追わねば生を全うできないのである。

この論理を肯定することは・・・現代人には難しい。

特にお茶の間ビジネスとしてはいろいろアレなのである。

「松陰」の「死」について「大和魂」を避けて通ったら・・・全く意味がわからないことになるのだが・・・脚本家は物凄く頑張ってると思う。

ま、なんのこっちゃ・・・はなんのこっちゃだが。

とにかく・・・現代のお茶の間はともかく・・・。

「武士道とは葉隠れである」と信じる若者たちは「死に場所」を求めて右往左往するのである。

「死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし」なのだから・・・。

とにかく・・・松陰に先立たれた時点ですでに・・・覚悟を決めた晋作なのだが・・・。

同志たちは続々と松陰の後を追って旅立つわけである。

「いのちかけてと誓った仲間は先へ先へと逝ってしまったが・・・約束は守る」と唇を噛みしめる晋作。

しかし・・・最後は病死なので・・・ある意味、天寿を全うしてしまいました。

だが・・・松陰は・・・「生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし」と晋作に優しい。

そして・・・晋作は回天の大業をほぼ成し遂げていたのである。

それは・・・やはり・・・大和魂抜きでは語れないよね。

そんなことになるとはまだ誰も思っていない松陰死後の世界が幕を開けるのだった。

で、『花燃ゆ・第18回』(NHK総合20150503PM8~)脚本・金子ありさ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は少し前倒し気味に登場した土佐の剣士・坂本龍馬の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。このメンバーだったら種市先輩でもいいくらいなのに花のパパとは・・・ね。オランダ語でも「自由」っていわせとけば龍馬かっ。・・・でございました。まあ・・・この時期、龍馬は土佐に帰国して動向不明瞭ですし・・・岡田以蔵と中国地方の旅をしていたという噂があり・・・安政年間と文久年間の狭間・・・万延元年に萩に出没なのでございましょう。泣き虫ヒロインを彼氏(夫)が優しく慰めるという昭和の少女マンガの世界ですが・・・「ざけんなよ」「だっつーの」で一世を風靡したヤンキーモードでイケイケの文もちょっと見たい気がします。「寅兄に恥ずかしくないように・・・ガンガンいけっちゅーの」的な・・・。まあ・・・NHKなのでいろいろとアレかもしれませんが・・・「テロリズムのススメ」をやることには変わりないんだから・・・開き直っちゃえば解放されるのにと・・・思ったりもしますぞ。乱世じゃ・・・ワクワクするの~的に・・・。門を出たら二分で銃声ぐらいなら・・・お見送りの後の余韻が欲しいところでしたね。落葉と落花で韻を踏むにしても・・・。ヒロインの主張は土下座ですんだら軍隊いらないという話ですし・・・。

Hanam018安政七年(1860年)正月、高杉晋作は井上雅と祝言をあげる。二月、咸臨丸は太平洋横断航行に出航し、三月にサンフランシスコ着。三日、桜田門外の変で、大老井伊直弼が水戸浪士・薩摩浪士らに暗殺される。彦根藩士ともども死傷者多数。権力よる処刑に応じたテロリズムの開始である。これを受ける形で元号は十八日、万延に改元。各藩で保守派と改革派の軋轢が高まる。開国による自由貿易により物価の高騰が始る。外国人との直接取引を抑制するための貿易統制法令として五品江戸廻送令を幕府が施行。しかし、幕府自身が太平天国の乱で交戦中の英仏両国に軍馬一千頭ずつを輸出するなど実効性は薄かった。幕府と一橋派の暗闘の中、中立だった長州藩が長井雅楽の「航海遠略策」によって公武合体の方向性を示す。これによって長州藩と京の公家勢力の結びつきが強化される。水戸の烈公・徳川斉昭死去。エイブラハム・リンカーンが米国大統領に就任。南部諸州が合衆国から離脱。万延二年(1861年)二月、文久に改元。長州で松下村塾生を中心とした有志による一灯銭申合が組織される。文久二年(1862年)正月、土佐の坂本龍馬が久坂玄瑞と会合。長州と土佐の尊攘派同盟が検討される。

大奥の大奥と噂される篤姫の居室に服部半蔵となった山岡鉄舟が現れる。

「水戸のご老侯が・・・暗殺されました由にございます」

「そうか・・・」

「これでよろしかったのでしょうか・・・」

「水戸殿は・・・少し・・・大奥に口出しが過ぎた・・・大老暗殺の件もやり過ぎじゃ・・・公儀隠密は・・・桜田門のことも黙認したが・・・水戸殿暗殺の件も看過せよ・・・これからは・・・徳川家の正念場となろう・・・隠密たちを無駄使いできぬ・・・」

「・・・」

「忍びを育成せねばならぬ・・・」

「京の草もかなり狩られましたからな」

「いや・・・大和(日本)のうちばかりの話ではない」

「なんと・・・」

「えげれすにも・・・めりけんにも・・・忍びを送りこまねばならぬ世が来ておるのじゃ・・・」

「・・・」

「先代の服部半蔵が海を渡る時代じゃからのう・・・」

萩では文が江戸に出た夫の留守を預かっている。

長州藩軍艦「丙辰丸」は江戸と長州を往還し、藩士たちは忙しく移動していた。

文は寅次郎の死後・・・世の中が・・・寅次郎の予知した通りに動いていくのを驚嘆しながら眺めていた。

藩主・敬親に呼び出された兄・杉梅太郎は隠し目付け首領の役を申しつけられていた。

杉家が・・・長州藩の忍びの中忍となったのである。

兄婿の小田村伊之助や、その兄で「丙辰丸」の艦長である松島剛蔵までが・・・忍びとして梅太郎の組下に置かれている。

すべては・・・敬親と松陰の忍びごととして目論まれていたのだった。

「長州による天下取り」が開始されている。

だが・・・文は・・・それが寅兄の見た未来のすべてではないことも知っていた。

もちろん・・・文は寅兄の見た未来のすべてを知っているわけではない。

たとえば・・・寅兄は文たち一族の行く末は明らかにしなかった。

しかし・・・「毛利幕府が成立しないこと」を文は知っていた。

寅兄は望ましい未来を構築するために秘密を駆使していたのだ。

すべては・・・神州の存亡を賭けた密謀なのである。

文は首から下げた紐の先の・・・松陰の形見・・・米国海軍のボタンをそっと握りしめた。

(兄上・・・兄上の描いた未来が始っておりますぞ)

萩の城下を春風が吹き抜けていった。

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2015年5月 3日 (日)

私のために苦痛に歪んだ顔を見せなさい(多部未華子)あーっ(大倉忠義)ドS小学生(鈴木梨央)

支配は愛の横顔のひとつである。

人間関係は基本的に主従関係である。

対等な関係というのは無関係の別名にすぎない。

もちろん・・・時空間の変異によってその立場は流動的である。

民衆の支配者である女王様が民衆によって断頭台の露と消えることもある。

主従関係の中にこそ愛の真実があり、支配するものと支配されるものの葛藤こそが愛の醍醐味なのである。

愛するものの苦痛に歪んだ顔の甘美なこと・・・それを求める魂の存在を何人も否定することはできないのだ。

愛しているから苛めたいのである。

つまり・・・いじめは美しい行為なのです・・・おいっ。

これは・・・お茶の間にストレートに受け入れられるな。

人間の本質だからな・・・おいおいっ。

頭の悪い子は本気にしないでください。おいおいおいっ。

で、『ドS刑事・第4回』(日本テレビ20150502PM9~)原作・七尾与史、脚本・川崎いづみ、演出・川村泰祐を見た。優位に立つことで得られる高揚感。劣等を認めることで感じる安らぎ・・・人はよりよい快感を求めて世界を彷徨う生き物である。どちらを選んでもよいし、時には立場を変えてもよい。何を選ぶかはそれぞれの自由である。その一点においてのみ・・・人間は平等なのだ。

視点はとても大切だ。「平和憲法によって平和が守られている」という視点は「自衛隊という憲法違反の軍隊が平和を守っている」という視点を欠く。「誰も戦争したいとは思っていない」という言葉は「戦争の絶えない世界」を説明できない。戦争が実在する以上、そんなものはないと言うのは無理があるのである。

同じように・・・いじめが絶えることはない。

なにしろ・・・人間は・・・いじめたい生き物なのだから。

「警察に出前の注文があれば・・・そこに家庭内暴力がある」

愚鈍な代官さまこと代官山脩介巡査(大倉忠義)には察知できない危機を黒井マヤ巡査部長(多部未華子)は抜け目なく感知し・・・愛読書の「図説 拷問全書/秋山裕美」を閉じて出動するのだった。

虐待された妻を救うために暴力亭主に代官さまをけしかけるどS刑事。

ファイトの結果、苦悶する代官さまを堪能する刑事マヤなのである。

絵文字で表現すると・・・ヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ( ̄ー ̄)ニヤリと言うことになります。

川崎青空警察署刑事一課強行犯捜査係に「誘拐事件発生」の通報が入電する。

女子小学生・真島マヤ(鈴木梨央)が消息不明となり・・・真島家に犯人から誘拐の告知電話と脅迫状が届いたのだった。

どやどやと駆けつける刑事たち・・・すでに誘拐事件の捜査姿勢としては問題外です。

被害者の父親・雅史(林泰文)と母親・真美(ちはる)は脅迫状を見せる。

「娘を返してほしければ・・・十万円を用意しろ・・・他言無用」

「十万円・・・」

要求金額の少なさに疑問を感じる捜査員たち。

「誘拐は重罪です・・・要求金額が十万円ではリスクが大きすぎる・・・おっさんをカツアゲした方がマシだわ」と思わず口走る課長の白金不二子警視(吉田羊)・・・。

「良心的で堅実な犯人なのかもしれません」とフォローにならないフォローをする定年間際の近藤刑事(伊武雅刀)だった。

「十万円で娘が買えるなら・・・ですか」と有栖川係長(勝村政信)。

「娘の命でしょう・・・娘だけだと失言あつかいされますよ」と中根刑事(中村靖日)・・・。

「とにかく・・・周辺の捜査と・・・真島家での対応・・・両面で動きましょう」

捜査の結果・・・「公園で不審人物がランドセルを背負った女子小学生と同行していた」目撃情報が得られる。

前科者リストと照合して容疑者を絞り込む課長だった。

一方・・・ピザの宅配便を装った情報屋(石井正則)は意外な情報を届けるのだった。

「今回はツケということで」

情報料とピザ代金を誤認した浜田刑事(八乙女光)は「ピザ料金をツケにできる」マヤの顔の広さに感銘を受けるのだった。

真島家周辺では・・・ペットの消息不明事案が相次いでいたのだった。

そして・・・真島家の飼い犬は・・・マヤという名前だったのである。

「娘の名前とペットの名前を一緒にするなんて・・・変態の匂いがするわね」

「かなり・・・無理がありますよね」

「ネタのためのネタって最悪だわ」

「ですね」

休憩のために代官山啓子(岸本加世子)の理髪店に立ち寄った刑事マヤは・・・啓子と娘のかおり(瀬戸さおり)との些細な諍いから事件解決のヒントを得るのだった。

一方、誘拐された少女マヤは・・・ペット専門の誘拐犯・犬塚(近藤公園)と猫田(岡山天音)を完全に支配下に置いていた。

「身代金を一千万円に値上げしなさい」

「百万円でいいじゃないですか」

「父は財テクで小金をためているのよ」

「なぜ・・・自分の家から身代金を・・・」

「すべては・・・父への復讐のためよ」

「父への復讐・・・」

いろいろなこと想像して蒼ざめる小悪党たち。

「いいから・・・私の言う通りにしなさい」

小学生たちに聞き込みをする刑事マヤと代官さま・・・。

「マヤちゃんってどんなお友達・・・」

「マヤ様は・・・友達じゃありません」

「友達じゃない・・・」

「みんなの女王様です」

「・・・」

すべての事情を察する刑事マヤだった。

グルグル遊具での緊急操作会議。

「今回は最初からハードで行きます」

「やりなさい」

回されすぎた刑事マヤは少しよろめくのだった。

「大丈夫ですか」

「バッチグーよ」

刑事マヤは愛犬マヤを出動させるのだった。

「刑事犬じゃないから無理だって言ってたのに・・・」

「あなたには無理なことでも・・・私には可能ということがこの世には普遍的に存在するのよ」

「・・・」

愛犬マヤは・・・少女マヤの監禁現場にいる犬好きの男をめがけてまっしぐらである。

監禁現場の廃墟前で・・・父親が娘に贈った鞭を発見する二人。

「真島マヤ・・・出てきなさい」

「え」

「あなた・・・家出したんでしょう」

「無礼者・・・名前を名乗れ」

「私は・・・黒井マヤ・・・女王の中の女王よ」

「なんですって」

姿を見せた少女マヤ。

「あなた・・・父親がペットの犬にマヤと名付けたのが気にいらなかったのね」

「そうよ・・・無礼にもほどがあるわ」

「あなたが・・・女王様なので・・・彼には・・・愛玩物としてのマヤが必要だったのよ」

「・・・」

「つまり・・・あなたを愛しているの・・・それも愛よ」

「愛・・・」

「中学生になればわかるわ」

「そういうものなの」

「そういうものよ・・・すべては調教の仕方で変わるのよ」

「私が未熟だったと・・・」

「いえ・・・あなたは早熟よ」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

うっとりとする少女マヤだった。

こっそりと逃げようとする誘拐犯たちを女王様の鞭で捕獲する刑事マヤ。

「私の奴隷に手を出さないで・・・」

「安心しなさい・・・一端・・・預かるけど・・・刑期が終わったらお返しするわ」

「仕方ないわね・・・それが大人の事情ってやつね」

かけつけた刑事たちや両親は二人の世界に茫然とするのだった。

「なんだか・・・犯人が憐れに思えてきました」

「奴隷が奴隷に同情したって・・・世界は変わらないわよ」

「・・・」

愛犬マヤは犬に生まれた幸福を噛みしめるのだった。

帰宅した代官様は・・・すでに・・・母と妹とマヤが夕食中であると知り愕然とする。

「あの・・・俺の・・・」

「おあずけよ」

「家出したい・・・」

「無理よ・・・」

「どうしてですか」

「あなたは首輪をつけているから」

代官さまは・・・見えない首輪の感触に震える。ほくそ笑む・・・マヤ女王。

ヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ( ̄ー ̄)ニヤリと言うことです。

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2015年5月 2日 (土)

うまれてはじめてホームランを打ちました(山下智久)

1966年に長編小説「Flours for Algernon」が出版される前・・・結末については何人かの編集者が難色を示したことが逸話として残っている。

大衆が暗い結末を望まないことはある種の人々にとって動かし難い事実らしい。

しかし、ダニエル・キイスはこれを拒否し・・・今に伝わるカタチでもビジネスになると考えた編集者もまた存在したわけである。

不朽の名作が世に出ることは一種の奇跡なのである。

一方、映画やドラマはあくまで脚色された別の作品である。

文章が視聴覚化された時点で・・・もはや文学作品ではないのだ。

結末がどのように変わろうと・・・原作にはいない登場人物が出現しようと・・・それはそれぞれの責任において自由なのだと考える。

そもそも・・・原作の主人公はチャーリイゴードンであって咲人ではないのだ。

チャーリーは富士山の見える野球場でホームランを打ったりしないのである。

しかし・・・「けえかほうこく」で始り「経過報告」を通過し「ついしん」で終わるこの物語の「心」はここまでのドラマからも充分に伝わってくる。

だから・・・ドラマがどのような結末を迎えるか・・・楽しみで仕方がないのである。

「知」とは本当に不思議なものなのだ。

で、『アルジャーノンに花束を・第4回』(TBSテレビ20150501PM10~)原作・ダニエル・キイス「Flowers for Algernon」、脚本・池田奈津子(脚本監修・野島伸司)、演出・松田礼人を見た。知能指数は知能テストによって個人の知的能力が全体の水準のどの位置にあるのかを推量する目安である。もちろん、「知」の計量化は困難な作業であり・・・それがすべてとは断言できない。だが・・・知的水準というものを俯瞰しようとする場合、適切なこともある。知能指数100というのが分布の中心である。つまり・・・90~110というのが一番多い・・・大衆の占めるところなのだ。この人たちから見ると111から上の人は「頭がいい」感じになって・・・89から下の人は「ちょっとバカ」ということになるのである。

もちろん・・・次の分布である「111~130」の人たちにとっては・・・普通の人たちが「ちょっとバカ」になります。

そして・・・89以下の人たちにとって・・・その他の人たちは・・・比較の対象ではない場合があることもあります。

「比較」というのは・・・知的な作業の一つだから。

そういうことを・・・なんとなく考えることは・・・まあ、一種の恐ろしさを伴うことですが・・・原作はそういう恐ろしさの存在を少なくとも優しく教えてくれるのです。

それはちょっと気が遠くなる・・・知的な作業の成果と言えるでしょう。

素晴らしいインターネットの世界は・・・そういう恐ろしさを明確に露呈しているシステムなんだな。

凄い時代になったよなあ・・・。

バカが「私はバカだ」と宣言し続ける時代なんだものなあ・・・。

面白いよなあ。

・・・などと喜んでいるのもバカの証なんですけどね。

「ドリームフラワーサービス」の従業員である白鳥咲人(山下智久)が・・・知的能力向上施術(フィクション)を受けて数日が経過している。

脳生理科学研究センターの研究員たちは術後の咲人を検査し、経過報告書を作成するのだった。

「アルジャーノンに比べて咲人氏のアルジャーノン効果の発現値は低い推移となっています」

「記憶力、判断力などについて・・・顕著な変化は認められません」

「そもそも・・・素材が適切だったのか・・・検証する必要が生じています」

杉野史郎(河相我聞)の発言に異議を唱える望月遥香(栗山千明)・・・。

「素材というのは・・・適切な言葉とは思えません」

「素材はあくまで素材だろう・・・君は被験者に妙な感情移入をしているのではないか」

「被験者は人間であって・・・ものではありません」

「その人間に・・・リスクを伴った施術を行っているんだ・・・何を今さら・・・」

「まあ・・・素材でも被験者でも実験対象には変わりないから・・・いいじゃないですか・・・それよりも・・・脳機能イメージングによる画像診断に注目すべきです」

冷笑的な態度の小久保(菊池風磨)が割って入る。

中立的に見えるが・・・どちらにも賛成しないことで・・・遥香に肩入れしているのだ。

上位研究者である杉野はたちまちその意図を察して幽かな敵意を浮かべる。

「画像診断でも・・・特に顕著な変化を認めることはできない」

画期的なナノマシーンによる脳機能イメージング技術(フィクション)により咲人の脳内は常時観測可能になっていた。

つまり・・・咲人は超高機能的電磁観測システムを内蔵し・・・ワイヤレスで脳内をモニターされているのである。

この物語はファンタジーであり・・・超絶テクノロジーが実用化されているのだということにご配慮ください。

「大脳皮質周辺で明らかに細胞活発化の兆候があります」

「アルジャーノンの場合はもっと顕著だった」

「人間とネズミを一緒にできないでしょう」

「蜂須賀部長・・・新たな素材・・・被験者の選定を考慮するべきではないでしょうか」

杉野は研究リーダーの蜂須賀大吾(石丸幹二)に挑戦的な口調で決断を迫る。

「私は・・・経過は順調だと考える」

「・・・」

「このまま・・・様子を見ようじゃないか」

蜂須賀は杉野を見下ろすのだった。

「そういうことのようです」

「・・・部長は・・・失敗を認めたくないんじゃないのか・・・と疑いたくなるよ」

杉野は負け惜しみを呟くのだった。

研究者として高度な知性を持つ杉野の品性を研究者たちの一部は疑うのだった。

咲人は・・・施術前と変わらぬ無邪気さで・・・「せかいでいちばんすきなひと」である遥香と過ごす日々に満足しているようだった。

「次はバーチャル・システムで・・・迷路テストをします」

「ばあちゃん・・・しんだの・・・」

「西田敏行さんですか」

「あはは・・・あはは・・・」

「咲人さん・・・真面目に・・・」

「はるか・・・ぼくは・・・いつ・・・おりこうさんに・・・なりますか」

「・・・」

装置を装着した咲人の目の前に迷路が出現する。

「うわ・・・すごい・・・うわ・・・はるか・・・どこ」

「そばにいますよ」

「みえない」

遥香は咲人の手を握る。

「ここにいますよ」

「うわ・・・はるか・・・いた・・・みえないのに・・・はるか・・・いる・・・あはは・・・あはは」

咲人のテスト結果はあまり高い得点にはならなかった。

しかし・・・その様子を見る蜂須賀の顔には冷たい微笑みが浮かぶ。

「うん・・・順調だ」

一方、症状の安定した河口梨央(谷村美月)は病室から解放され、父親のオフィスを訪ねた。

興帝メディカル産業の社長・河口玲二(中原丈雄)は娘の身を案じる。

「しばらく・・・自宅で療養したらどうだ」

「いいえ・・・いつもと変わらない日常を過ごします」

「しかし・・・すでに病状のステージはあがっている・・・もしもの時に」

「お父様・・・安静にしていたって・・・病状が回復するわけではないのですよ・・・私は・・・残された時間を有意義に過ごしたいのです」

「・・・」

檜山康介(工藤阿須加)は鉢植えの納品に訪れた際に・・・偶然、梨央を目撃するのだった。

周囲の社員たちの態度から・・・梨央が社長令嬢であることを察する康介。

意中の人が雲の上の存在であることに唇を噛みしめるのだ。

梨央が・・・咲人に示す好意も不可思議に感じられる康介だった。

蜂須賀は再び、咲人と遥香をレストランでの夕食に招待する。

「覚えているかね・・・この店を・・・」

「あはは・・・きたこと・・・あります」

「そうか」

「はかせ・・・はるか・・・いっしょ・・・」

「今日は・・・手術が無事に終わったお祝いだよ」

「おいわい・・・はかせ・・・いつ・・・おりこうになりますか」

「君はもう・・・おりこうさんだ」

「おりこうさん・・・あはは」

「今日は・・・アダムとイブの話をしてあげよう」

「アダモステ・・・」

「昔々・・・アダムという男と・・・イブという女がいた」

「おとこ・・・おんな・・・」

「二人は・・・まだおりこうさんではなかった・・・」

「ばかだめ・・・」

「しかし・・・知恵の実を食べた二人は・・・おりこうさんになったんだ」

「はかせが・・・たべさせたの」

「いいや・・・昔々の話だからね」

蜂須賀は蛇のように微笑む。

「おりこうさんになった二人は・・・気がついたんだ」

「きがついた・・・」

「自分たちがハダカだったことに・・・」

「あはは・・・おふろ・・・はいるの」

「いいや・・・ずっとはだかだったんだよ」

「あはは・・・ばか・・・」

「そうだろう・・・おりこうさんになった二人はあわてて服をきたんだ」

「ふく・・・」

「はずかしくなったんだ・・・はずかしい・・・わかるかな」

「ばかだめ・・・ばか・・・はずかしい」

「そうだ・・・ところで・・・君は・・・遥香くんの裸を見たいと思うかね」

「先生・・・何をおっしゃるんですか」

「どうだ・・・きみのいちばんすきなひとのはだかだ」

「・・・」

「君が見ていないのに・・・私が遥香くんの裸を見たら・・・君はどう思う」

「先生・・・」

「はだか・・・はるかのはだか・・・はかせ・・・みたの」

「ああ・・・みたとも・・・」

「だめ・・・はるか・・・はだか・・・見ちゃだめ・・・」

「嘘よ・・・先生の嘘よ」

「うそ・・・はだか・・・はかせ・・・みてない」

「先生・・・何故・・・そんな悪い冗談を・・・」

「分からないのかね」

「・・・」

「彼はお利口さんになっていく・・・しかし・・・どんなに賢い子供も・・・最初は誰かが何かを教える必要があるんだよ」

「教育的な刺激ですか」

「そうさ・・・彼の知性に・・・私たちが着火するんだよ」

「・・・」

店が貸し切りであったので・・・周囲の人々が唖然とすることはなかった。

ウエイターは上品な客の奇妙な変態プレーに舌うちした。

河口社長は東京麗徳女子大学に通う大学生・小出舞(大政絢)と密会していた。

「これは・・・謝礼だ」

しかし・・・舞は札束の受け取りを拒否する。

「私が・・・あなたの命令に従ってお譲さんを監視していたのは・・・父の復職のためです」

「わかった・・・時期を見て君の希望に沿うようにしよう・・・」

「・・・」

「引き続き・・・娘から目を離さないでくれ」

「私はあくまで・・・彼女の友人として・・・そうするつもりです」

「そうか・・・それでは・・・君には話しておくべきかもしれないな」

「話・・・」

「娘は病気だ・・・・変性性認知症を発症している・・・今後・・・急速な記憶障害が発症し・・・やがて・・・知性は失われてしまう・・・もちろん・・・運動機能も喪失される・・・最後は花になるんだ・・・ただ咲いているだけの・・・ただ散るために・・・その時を待つ花に・・・」

「そんな・・・」

「私は・・・父親として・・・できるだけのことを・・・してやりたい」

「・・・」

舞は言葉を捜した。

「治療法はないのですか」

「今は・・・まだ・・・不治の病だそうだ」

「希望はないと・・・」

「・・・」

舞は言葉を失った。

咲人は生活環境を変えることで新たな刺激を得るために「ひまわり寮」に戻されることになった。

「いつ・・・おりこうさん・・・なれますか」

「あなたは・・・いま・・・おりこうさんの元を食べているの」

「おりこうさん・・・の・・・もと」

「そうよ・・・たとえば・・・このハンバーガーは・・・今までのハンバーガーとはちがう・・・」

「ちがう」

「おりこうさんバーガーなの」

「おりこうさんバカ」

「食べれば食べるほどおりこうさんになるの」

「ハンバーガー・・・たべたことあります」

「そうね・・・でも・・・あなたには魔法がかかっているから・・・」

「おりこうさんになる・・・まほ」

「そうよ・・・だからただのハンバーガーがおりこうさんバーガーになるのよ」

「まほ・・・すごいです」

寮に向かう道の途中にグラウンドがあり、少年たちが野球をしていた。

「やきゅう・・・」

立ち止まって野球を眺める咲人。

その姿を観察する遥香。

研究者としての視点が・・・咲人の変化を捉えていた。

(挙動が安定している・・・運動能力が向上しているのね)

二人をモニター車で追跡している小久保も興奮していた。

(凄い・・・脳内の全領域が活性化している)

電磁的に補足された咲人の脳内の血流や脳波の変化を画像処理した映像は刻一刻と変化していく。

(なにかが起こっている)

咲人は遠い記憶を回想していた。

やきゅ・・・おとうさんと・・・した・・・おとうさん・・・ぼーるなげた・・・ばっとふった・・・ぼーる・・・あたらない・・・ぼーる・・・ころがる・・・おとうさん・・・なにかいった・・・ぼーるひろう・・・おとうさんに・・・おとうさんのところに・・・ぼーる・・・もっていく・・・おとうさん・・・なにか・・・いった・・・なんて・・・とくいなこと・・・・さがす・・・さきとの・・・なにか・・・とくいなこと・・・かがや・・・く・・・かがやく・・・かがやくこと・・・みつける・・・かがやく・・・まぶしい・・・はげ・・・ひかり・・・まぶしい・・・くらくら・・・かがやき・・・おなじ・・・さきと・・・かがやく・・・こと・・・おとうさん・・・なにかいった・・・さきと・・・かがやける・・・あかるい・・・まぶしい・・・ひかり・・・さがすこと・・・おとうさん・・・やきゅ

咲人は胸が苦しくなった。

「おりこうさん・・・バーガー・・・おなか・・・いっぱい」

「え」

「に」

「え・・・」

「にんげんのに」

咲人は看板を指差していた。

「ああ・・・それは・・・打球に注意!・・・よ」

「だきゅう・・・ちゅうい」

「打ったボールに気をつけなさいってこと・・・」

「いたい・・・あぶないから・・・」

「そうそう・・・」

「だきゅ・・・にんげんのに・・・ちゅい」

「打球・・・に・・・注意」

「だきゅ・・・に・・・ちゅい」

なげました

うちました

ほーむらん

「なげました・・・うちました・・・ほーむらん」

「え・・・」

「なげました・・・うちました・・・ほーむらん・・・あはは」

「咲人さん・・・ホームランを打ちたいの?」

「おとうさん・・・きっと・・・よろこぶ」

「・・・」

「おかあさん・・・いいこ・・・いいこ・・・いい子いい子・・・してくれます」

「咲人さん・・・」

「ドリームフラワーサービス」の経営者である竹部順一郎(萩原聖人)は咲人の様子を観察してから遥香に皮肉な視線を向けた。

「結局・・・失敗ですか」

「え」

「私には・・・咲人が変わったとは思えない」

「幼稚園児が急に大人にはなりません」

「・・・」

「咲人さんは・・・ずっと・・・幼いままでしたが・・・今、ゆっくりと知的向上の過程に入ったのです」

「前にも言いましたが・・・私は別に・・・このままの咲人で構わないと思っているんです」

「・・・また・・・伺います」

遥香は片隅に置かれた野球用具に目を止める。

「野球ですか・・・」

「ええ・・・更生の一環として・・・チームを持ってます」

「咲人さんも・・・」

「ええ・・・まあ・・・攻撃も守備も立っているだけで何もできませんけど・・・」

「・・・そうですか」

柳川隆一(窪田正孝)は咲人の退院祝いを口実に梨央と舞をひまわり寮に招待した。

舞は毒舌を吐く。

「なんて・・・せまいの・・・」

「あらあら・・・庶民の暮らしに・・・いきなりダメ出しですか」

隆一は軽口で応じる。

康介は無言で梨央と咲人の様子を窺っていた。

「とにかく・・・私はともかく・・・梨央には環境が悪すぎる」

「ひどいな・・・そりゃ・・・葉山の別荘のトイレより狭い感じですけど」

「食事の時にトイレの話なんて下品よ」

「あれれ・・・まるでお嬢様はうんこしない・・・みたいな」

「やめてよ」

「まいちゃん・・・うんこ・・・あはは・・・うんこまいちゃん」

「うんこまいちゃん・・・じゃない」

「まあまあ・・・食べて食べて・・・そうそう・・・今度、俺たち野球の試合をするんだ・・・」

「野球・・・咲人さんも・・・」

「うんうん・・・咲人も・・・」

「おけつです・・・」

「おけつ・・・?」

「補欠だよ・・・補欠」

「おけつ・・・あはは」

「咲人さんたら・・・」

和気藹々である。

次の休日、咲人を餌にナンパに出かける隆一と愉快な仲間たち。

「咲ちゃん・・・わかってるよね・・・」

「おばさんだめ」

「そうそう・・・おっぱいは・・・」

「おっぱい・・・」

「どうしたの・・・おっぱいは大きい方がいい・・・でしょう」

「おっぱい・・・大きい」

「あれ・・・どうしたの・・・」

「咲人・・・顔が赤いぞ・・・」

「咲ちゃん・・・」

「はずかしい・・・おっぱい・・・はずかしいです」

「え」

「何言ってんだよ・・・」

「なんか・・・目覚めちゃったのか」

「まさか・・・手術って・・・色気づく手術なのかよ」

そこへ・・・舞の友人の絵里奈(柳ゆり菜)たちが通りかかる。

「あれ・・・この間・・・クラブに来てたよね」

隆一と愉快な仲間たちは彼女たちをカラオケに誘うことに成功する。

胸部露出の近接攻撃で誘惑される咲人・・・。

「ねえ・・・二人で・・・」

「おっぱい・・・」

「え」

咲人は心が乱れて逃げ出すのだった。

追尾していた小久保は・・・雑踏に倒れ込んだ咲人を救助するのだった。

蜂須賀は咲人を保護するように指示して自宅に招く。

「どうしたのかね」

「おっぱい・・・ドキドキ・・・だめ」

「なぜだい・・・」

「すきなひとの・・・おっぱいじゃ・・・ない・・・ドキドキ・・・だめです」

「そうか・・・遥香くんのおっぱいではないおっぱいに・・・ドキドキしたことに・・・罪の意識を感じているんだね」

「つみ・・・いしき」

「いいんだよ・・・男は・・・すきではないひとのおっぱいでも・・・ドキドキするんだ」

「でも・・・だめ・・・」

「そうだね・・・すきなひとに・・・わるいような気がするのだね」

「わるい・・・おっぱい・・・だめ・・・ドキドキ・・・だめ」

「しかし・・・大丈夫だ・・・すきなひとのおっぱいなら・・・もっとドキドキする」

「もっと・・・いっぱい・・・ドキドキ・・・」

「そうだ・・・」

「はかせも・・・ドキドキしますか」

「もちろんさ・・・遥香くんのおっぱいにだって・・・ドキドキするよ」

「はかせも・・・はるか・・・すきですか」

「いや・・・私は・・・遥香くんを愛してはいない」

「でも・・・はるか・・・はかせと・・・いつも・・・いっしょ」

「そうだね・・・遥香くんは・・・私のことを好きなのかもしれない・・・私はその気持ちを利用しているんだ・・・」

「りよう・・・」

「そうだ・・・愛は利用できるんだよ」

「わかりません」

「いや・・・今の君には・・・わかるはずだ」

「私は・・・遥香くんが・・・私を愛していることを・・・利用しているんだ」

「だめです・・・それは・・・だめです・・・」

「だめかい・・・それなら・・・君はどうする」

「・・・」

咲人は遥香の家に向かって走り出した。

蜂須賀は追跡者の小久保に指示を出す。

「彼は遥香くんの家に向かうだろう」

(なんだか・・・覗き屋になったみたいですよ・・・)

「何を言っている・・・対象を冷静に観察する・・・研究とはそういうものじゃないか」

(・・・)

「まあ・・・咲人さん・・・どうしたの・・・」

「・・・」

「とにかく・・・お入りなさい」

「はるか・・・はかせ・・・すきですか」

「え」

「はかせ・・・だめです」

「ええ・・・」

「はかせ・・・はるかを・・・あいしてません」

「えええ・・・」

「はかせ・・・はるかを・・・りよう・・・してます」

「やめて」

思わず冷静さを失う遥香だった。

「う・・・うう・・・ううーん」

沈黙した咲人に遥香は研究者としての自分を取り戻す。

(咲人さん・・・悩んでいるの・・・咲人さんが・・・悩む・・・問題に直面して・・・答えを捜している・・・凄い・・・彼は悩んでいる)

「咲人さん・・・」

「はるか・・・おこった・・・ぼくが・・・バカだから・・・ボク・・・まだオリコウサンにならない。ボク・・・オリコウサンになりたいのに・・・バカだから・・・はるかのやくにたてない・・・オリコウサンじやないから・・・オリコウサンになりたいよ・・・タイトーになって・・・ヤナガワくんのトモダチになりたい・・・タイトーになって・・・ハルカのヤクにたちたい・・・おリコウさんになりたいよ・・・う・・・うう・・・ううう」

「なれるよ・・・大丈夫・・・あなたは・・・お利口さんになれるから・・・泣かないで」

遥香は咲人をそっと抱きしめた。

小久保はため息をついた。

咲人の脳内画像は新たな輝きの兆候を示している。

「これが・・・アルジャーノン効果か・・・教授・・・データをご覧になっていますか」

(もちろんだ・・・すべては順調に進行している・・・問題ない)

小久保はもう一度・・・大きく息を吐き出した。

梨央は「ドリームフラワーサービス」にやってきた。

「あの・・・咲人さんは・・・」

「あ・・・隆一たちと出かけている」

例によって一人、別行動の康介だった。

「これ・・・咲人さんに・・・」

真新しい野球用具を差し出す梨央。

「あんた・・・なんで・・・咲人にそんなに優しくするの・・・」

「好きだから・・・」

「マジかよ・・・」

「私・・・人に恋することに・・・臆病だったんです」

「・・・」

「でも・・・咲人さんなら・・・私が突然消えても・・・笑って許してくれる気がして」

「なんだよ・・・それ・・・バカだから・・・すぐに忘れるだろうってか」

「・・・」

「大体・・・消えるってなんだよ・・・あれか・・・親の決めた許嫁とかで・・・政略結婚するとか・・・」

「まあ・・・舞と同じことを・・・」

「え」

「とにかく・・・咲人さんに・・・渡してください・・・お願いします」

「・・・」

康介は去って行く梨央の後ろ姿を悩ましげに見送る。

梨央はそっとつぶやいた。

「忘れてしまうのは・・・私の方なのにね・・・」

咲人をひまわり寮に送り届けた遥香は研究室に向かう。

蜂須賀は咲人のデータを検討中だった。

「君に第二の被験者について話さなかったことはすまなかった」

「いえ・・・私も言いすぎました」

「君が戻ってくれて助かったよ」

「咲人さんの知能はどこまで高まるのでしょうか」

「それについては・・・なんとも言えない」

「仮想の機能局在イメージでは・・・すべてが良好の傾向を示しています」

「脳の機能が局在しているかどうか・・・まだ仮説の域を出ない・・・それは意識がデータ化できない限り・・・あくまで場当たり的なものだ」

「順調に進めば・・・常人なみになることも予想できますが・・・」

「あるいは・・・それ以上になるかもしれない」

「天才に・・・ですか」

「そうだ・・・・発育が止まった神経の再生と同時に全域での活性化を進行させる・・・それによって・・・彼がどうなるのかは・・・予測不可能だ」

「・・・明日・・・彼は野球をするそうです」

「野球か・・・」

「運動という領域での刺激も・・・貴重なデータになりますね」

「その通りだ」

晴れ渡る空の下。

御殿場のグラウンドは霊山・不二に見下ろされている。

声援を送る梨央の元へ舞がやってくる。

「本当に来たのね」

「あなた一人で獣の相手はさせられないわ」

「まあ・・・」

「彼は・・・出ているの」

「ベンチよ・・・」

観客席には遥香と小久保の姿もある。

「解析用の映像を撮影しろというお達しです」

「御苦労様・・・広報用の資料というところね」

「気がかりがありますか」

「彼が・・・失望したらどうしようと思うの・・・」

「しかし・・・失望もまた知性の証でしょう・・・」

「残念だと思えるくらい・・・知性が高まったのでは・・・成功とは言えないわ」

「我々には負い目がありますからね」

「負い目・・・」

「考えてください・・・知能を高めるためというなら・・・我々は誰もが被験者になる資格があるんですよ」

「・・・」

「知的障害者の知能向上にはメリットがある・・・それは・・・我々が自ら・・・リスクを冒さない口実にすぎないのです」

「考えてもみなかったわ」

「我々はみんな・・・知能には充分恵まれていると思っていますからね」

モニター車には蜂須賀と杉野が待機していた。

「どうだ・・・彼は目覚ましい向上を見せているだろう・・・」

「・・・」

「君は・・・もう少し、視野を広げるべきだ」

「自分の不明を恥じております」

試合は進み・・・一点のリードを許したまま・・・咲人のチームは最終回の攻撃を迎えた。

二死となり・・・最後のバッターは背番号10の康介。

「監督・・・肩の調子が悪いので・・・代打をお願いします」

「そうか・・・勝つことだけが試合じゃないものな」

「咲ちゃん・・・出番が来たよ・・・」と隆一。

「でばん・・・」

「ほら・・・ヘルメットかぶって・・・来た球を打つ・・・それだけだ」

「ほら・・・彼女からのプレゼント・・・新品のバットだ」

「ばっと・・・」

咲人は梨央を見て頷いた。

「咲人さん・・・」

一球目・・・空振り・・・ワンストライク。

二球目・・・見送り・・・ツーストライク。

「ボールをよく見て・・・バーンだ」と隆一が叫ぶ。

三球目・・・ファール・・・。

「すげえ・・・当たった」と康介。

「咲人さん・・・いつもと違う」と梨央。

「え・・・何が・・・」と舞。

「笑っていないもの・・・」

「神経細胞全域が活性しています」と杉野。

「投球の軌道を学習し・・・タイミングを計算しているのだ」と蜂須賀。

「打って」と遥香は叫んだ。

咲人は遥香を見た。

「打てなかったら・・・ガッカリするんじゃないですか」

「ギャンブルの勝者に・・・ギャンブルの危険性を説く必要はないのよ」

「・・・」

第四球・・・。打球は美しい軌道を描いてフェンスを越える。

「ホームランだ」

「ホームランだ」

「ホームランだ」

「ホームランだ」

「うそおおおお」

同点だったが・・・チームの全員が我を忘れ・・・咲人を祝福する。

誰もが奇跡を見た気持ちだった。

お父さん、ボクはホームランをうちました。

みんながよろこんでくれた。

お父さんは・・・いつも・・・ボクにいろいろなことをおしえてくれた。

ボクがかがやけることをさがしてくれた。

ボクにもトクイなことがきっとあるといってくれた。

お父さんは・・・ボクのことをたくさんかんがえてくれた。

いままで・・・ずっとずっと気がつかなくて・・・ごめんなさい。

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Hcal004ごっこガーデン。愛と宿命のスタジアムセット。エリさらば・・・お利口さんじゃなかった昨日まで・・・今・・・咲人は新しい人生の第一打をかっとばしたのでス~。感動で・・・涙が止まらないから・・・打球の行方が見えないのでス~。このまま・・・いつまでもいつまでも・・・ハッピーでいいじゃないですか~。ハッピーエンドでよろしくお願いしま~ス~

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2015年5月 1日 (金)

いい人・・・じゃなかった人(木村拓哉)いいのよ・・・それでもいいの(上戸彩)

最初は「何が悪いのか今もわからない(木村拓哉)誰のせいなにのか今も分からない(水野美紀)」というタイトルにしようかと思ったのだ。

原作では愛人だった杏子の部屋で久が「手紙/由紀さおり」を口ずさむのである。

ドラマでは杏子の場面は・・・久の夢となっている。

つまり・・・今のところ、未登場である。

この歌謡曲は「別離」のモチーフとして物凄く印象的で・・・「最高の離婚」などにも妄想上の残滓が観測できる。

しかし・・・主人公(木村拓哉)ヒロイン(上戸彩)というキャスティングを主軸として考えると・・・重要な登場人物でありながら・・・サブタイトルに前の妻を登場させることは見送ることにした。

さらに言うならば・・・ドラマでは「悪いのは私」と前妻(水野美紀)が告白しているのだ。

ついでに言えば・・・原作では前妻もすでに再婚しているのである。

もちろん・・・善悪では語れぬ夫婦の関係である。

しかし、離婚を悪とするならば決定したものが悪なのだ。

原作では悪というよりもどうしようもない人だった主人公が・・・ドラマでは少し誤解されやすい人だった的にアレンジされている。

主人公に限らず・・・原作の登場人物たちはみんな・・・ある程度どうしようもない感じを漂わせている。

それをややお茶の間向けにアレンジしているわけである。

物足りない感じがしないでもないが・・・どうしようもない人間たちの荒涼とした人間関係というものは・・・基本的にお茶の間向きではないのである。

今季のレギュラーを見てみると・・・。

(月)帝国の猛獣使いに・・・美女と美少女をからめた温めのサスペンス。

(火)変態恋愛ドラマ。

(水)辺境のニヤニヤ貴公子の発狂ドラマ。

(木)帝国の大スターによる問題作ドラマ。

(金)帝国のスターの名作ドラマ。

(土)帝国の道化師とコーヒーカップミステリ。

(日)オールスターによるテロリズムのススメ。

・・・というなかなかの破天荒祭りである。

しかも・・・帝国旋風吹きまくりである。

大スターと問題作の組み合わせを深夜でやらないとなると・・・どうしてもマイナーからメジャーへの転調は必要となる。

そのために脚本家の腕前がかなり問われている。

そういう意味で・・・なかなか凄いお手並みだと思うんだな。

どうしようもない人を魅力的に描いているわけだから・・・。

その一点だけでも・・・このドラマには視聴する価値があると考えます。

※レビューの途中ですが仮記事中、(木)(金)の番組が逆になってました。お詫びして訂正させていただきます。

mi-nuts様、ご指摘ありがとうございました

で、『アイムホーム・第3回』(テレビ朝日20150430PM9~)原作・石坂啓、脚本・林宏司、演出・田村直己を見た。原作では家路久(木村拓哉)は妻の恵(上戸彩)の父親(堀内正美)の所有するマンションの一部屋に住んでいる。恵の両親の部屋に続く扉もあり、母親(山口美也子)も交えて五人で食事をしたりもする。そして・・・恵の両親も仮面をつけているのである。資産家である恵の両親もまた久にとっては表情の分からない人たちなのだ。仮面の一族と久の心理的なもつれを象徴する・・・この描写はドラマではかなり控えめになっている。原作のどうしようもなさとは・・・主人公の本心が最後まで明らかにされないという不条理さによるのだが・・・ドラマでは基本的に禁じ手なのである。お茶の間が「わからん」と言って怒りだすからだ。

目が覚めると・・・部屋には誰もいなかった。

久はカレンダーを見て・・・その日が大切な日だったことを思い出す。

慌てて礼服に着替えた久は家を出る。

妻の香(水野美紀)の父・野沢和也(寺田農)の命日だった。

七回忌の法事が行われているのだ。先に到着しているであろう・・・香と娘のすぱる(山口まゆ)の姿を捜して厨房に入りこんだ久は・・・手伝いに来ている近所の人に得意の料理を披露する。

その姿を・・・香の妹・祥子(蓮佛美沙子)が発見する。

「お義兄さん・・・どうして・・・ここへ」

その声に親戚の男が気がつく。

「お前・・・家路じゃないか・・・よく顔を出せたな」

「え」

「兄貴がお前のせいで死んだことを忘れたのか」

「ええ」

「許さねえ」

「えええ」

義理の叔父に殴られて失神する久だった。

気がつくと小部屋で祥子に介抱されている久だった。

「あの・・・本当に・・・姉と離婚したことを忘れているんですか」

「あ」

「とにかく・・・お帰りください」

「・・・」

「もうすぐ・・・姉たちも到着すると思いますので・・・」

「はい」

久は思い出していた。自分がこの家とは無関係な人間になっていたことを・・・。

「僕のせいで・・・お父さんは死んだのですか」

「父は病死ですよ・・・しかし・・・父はあなたの上司でしたし・・・会社を解雇されてすぐ・・・あなたが姉と離婚して・・・他の方と再婚されたので・・・色々と噂する親戚も多いんです・・・そういうことです」

「香の父親が・・・僕の上司・・・」

「・・・そんなこともお忘れですか・・・」

久はいたたまれない思いを抱えて帰宅した。

無表情で久を迎える現在の妻・恵・・・。

「どちらへおでかけでしたの」

「・・・」

「まあ・・・すっかり汚しちゃって・・・」

「転んじゃった」

「クリーニング代が大変ですよ」

実は恵は冗談を言っているのだが・・・久には理解できない。

なにしろ・・・妻は仮面をつけているのである。

「すみません」

「いいのよ・・・今日は良雄と遊んでくださるとおっしゃってたのに・・・」

恵は親しげに話しかけているのだが・・・久には他人行儀にしか聞こえないのである。

「すまない・・・忘れていた」

「いいのよ・・・ただ・・・もうすぐ運動会があって・・・良雄は練習を見てもらいたかったの」

「運動会・・・何をするんだい」

「障害物競走・・・親子で参加するのよ」

「君が・・・」

「あなたはお忙しいでしょう」

「いや・・・土曜日なら・・・前と違って・・・休めるから」

「まあ・・・あなたが参加してくださるの」

恵は嬉しさで顔を輝かせる・・・しかし、久には妻が喜んでいるのかどうかわからない。

「障害物競走って・・・」

「登り棒があるの・・・良雄は少し苦手みたい」

「僕は得意だった」

「よかった」

微笑む恵。しかし・・・久にはその笑顔は見えないのだった。

恵はとまどう夫の様子を心配そうに窺うが・・・それもまた・・・久には分からないのである。

久は・・・香の父親のことが気になっていた。

私物を捜査した久は・・・香の父親の名刺を発見する。

野沢和也は葵インペリアル証券の専務取締役だった。

事故によって過去五年間の記憶を失ってしまった久だったが・・・それ以前のことも記憶は曖昧だった。

香とどんな結婚生活をしていたのか・・・どうして離婚することになったのかも思い出せない久。

しかし、小机部長(西田敏行)は故・野沢専務を知っていた。

「ああ・・・営業部のエリートが野沢専務の娘婿になったという噂は聞いていたが・・・君だったのか・・・なにしろ・・・左遷街道まっしぐらだったんで・・・知らなんだ。もしも・・・コレで失敗してなかったら・・・結婚式にも呼ばれたろうに・・・だけど僕には招待状はない・・・君に捧げる祝辞もない」

「野沢専務はどんな方だったのでしょうか・・・」

「優雅な方だったねえ・・・ワインがお好きでね」

「ワイン」

「葡萄の品種に・・・ピノノワールというのがあってね・・・特にお好みだったなあ・・・」

「ピノノワール・・・」

「知っているかい・・・」

「・・・あのコレが何かご存じですか」

久は透明なシートを示した。

「さあ・・・」

「昨日から・・・何故か・・・ずっと持っているんですよ」

「それは・・・ミステリだね」

小机部長は微笑んだ。

資料室で社史を調べ・・・野沢専務の足跡を探る久。

確かに・・・野沢専務が失脚した直後に・・・久は香と離婚していたのだった。

出世のために・・・香と結婚し・・・用が済んだら離婚。

そして・・・資産家の娘と再婚。

過去の自分の姿を想像して暗澹たる思いを感じる久。

今の自分には想像もできない「悪漢」のイメージが久を戸惑わせる。

そこへ・・・派遣社員・小鳥遊(たかなし)優愛(吉本実憂)がやってくる。

「轟課長(光石研)がおよびです」

轟課長の用件は「家庭のイベントがあれば突然の業務命令あり」というお約束である。

「鬼山機械の介護ロボット事業がテレビの情報番組で紹介されることになった」

「なんとサタデー・フォーカスですよ」

「はあ」

「アシスタントが間口はるかの人気番組だ」

「宇賀なつみのそっくりさんです」

「はあ」

「鬼山社長のご指名で・・・お前がプロジェクトを代表してテレビに出演することになった」

「腐ってもエリートですね」

「それは・・・いつですか」

「来週の土曜日だ」

「生放送ですから」

「えええええええええええ」

子供の運動会を選択することは許されない展開である。

そんな久を・・・すばるが待ち伏せていた。

「どうして・・・お母さんと離婚したの」

「・・・」

「出世のために・・・お母さんと結婚して・・・おじいちゃんが亡くなったから・・・離婚したの」

「・・・」

「私たち・・・仲良しだったよね・・・あれも嘘だったの」

「・・・」

「サイテー」

すばるは駆け去った。

「おい・・・こんなに夜遅く・・・女の子一人じゃ・・・」

「サイテー・・・サイテー」

帰宅した久は仮面の妻に事情を話す。

「土曜日・・・仕事が・・・」

「いいのよ」

「テレビに出る・・・」

「凄いわね・・・自慢できるわ」

恵が怒っているのか・・・喜んでいるのか・・・久には分からない。

「でも・・・今週の日曜日・・・練習にはつきあうから」

「お願いします」

ここでは・・・家族と仕事のアンビバレンツに擬装されているが・・・実は自分の関心ごとに夢中になって・・・家族をないがしろにする展開・・・ホワイト久は充分にブラックなのである。

何がホワイトで何がブラックなのか、悪魔ならそんな区別は無意味だが、お茶の間には暗黙の了解がある。

離婚はブラックで、離婚の原因はかなりブラック、離婚を先に言い出した方がブラックで、子供がいるのに離婚はよりブラック、性格の不一致はグレー、仕事より家族サービスを要求する家族はブラック、家族サービスを認めない企業はブラック、専業主婦はグレー、妻の仕事を尊重しない夫はブラック、親友の保証人になる夫はブラック、ホスト狂いの妻は完全なるブラック・・・と言う感じ。

専業主婦はグレーなのかよっ。

男女雇用機会均等法的には・・・ブラックかもしれない・・・おいっ。世間に敵対しすぎだ。

理想の専業主婦はもはや妄想上の存在でございます。

家族サービスよりも仕事優先に協力する妻はホワイトである。

子供の気持ちはブルーであるが、対処の範囲内なのだろう。

原作を忠実に再現した入浴シーンで・・・原作にはないセリフを口にする久。

「僕たちはどんな風に結婚したのかな」

しかし・・・キッチンの恵は答えるのを避けるように水道水を全開にする。

「なにか、おっしゃった」

「いや・・・なんでもない」

もちろん・・・久と恵の結婚には・・・記憶を失った久に語りたくない恵の事情があるわけである。

それは・・・まだ明かされない。

原作では核心であり、おそらくこのドラマもそうなるのだろう。

ちなみに・・・原作では久を主人公としながら・・・現在の妻、前妻、前妻の娘の三人の女性の心理がかなり主観的に語られる。

三人はそれぞれに久を愛しながら・・・報われなかった女たちである。

つまり・・・久はそういうどうしようもない男なのだ。

そういう男を大スターが演じるのは冒険だが・・・当然、安全策も講じられる。

脚本は冒険と安全の鬩ぎ合いなのである。

運動会の練習のため、恵の母と良雄が公園に先発し、恵は別件の用事のために寄り道をする。

最後に残った久に前の妻だった香が呼び出しをかける。

それに応じる久・・・普通なら完全にブラックだが・・・心の病気であることが主人公を限りなくグレーに仕立てるのだった。

本当はブラックである久をグレーにするためのプラック化した香の援護射撃が開始されるのである。

路上で密会する香と久。

「こんなところで・・・ごめんね」

「・・・」

「さっそくだけど・・・すばるにはなるべく会わないで」

「・・・」

「あの子も・・・つらい年頃なのよ」

「すまなかった」

しかし、体調不良を醸しだしていた香はここで・・・突然、昏倒してしまう。

久は・・・恵と違って仮面をつけていず・・・感情的には現在の妻である香を背負って近所の病院まで走りだすのだった。

その時、仮面をつけている現在の妻の恵や・・・公園で久を待っている良雄は完全に蔑ろにされるのだった。

状況的にはブラックだが行動はホワイト・・・お約束の展開である。

そして・・・偶然、それを見つける恵。

ショッピング帰りの恵の買ったものは・・・家族サービスよりも仕事を優先した夫の晴れ舞台のためのスーツなのである。

思わず・・・買い物袋を落しても仕方のないところなのだった。

病因に走る久は・・・香との結婚生活を思い出していた。

取材のために訪れたライターの香。

上司が・・・専務令嬢だと紹介する。

計算高く香に接近する久。

香は父親に逆らってライター稼業を続けていた。

それでも・・・香に魅かれて行く久。

香の連れ子である幼いすばるを我が子のように感じる久。

シングル・マザーで自由業の香は・・・どこか奔放さを感じさせる。

父親の野沢専務が訪れ・・・父娘は和解し・・・オンボロのアパートから父親の援助を受けた新居に移る久と香とすばる・・・幸せな家族・・・。

それなのに・・・なぜ・・・今は・・・他人になってしまったのか。

久の心は乱れる。

夫が海外出張中の祥子は久からの連絡で嫁ぎ先から病院に駆け付ける。

「過労による貧血だと思われますが・・・確かなことは検査の結果を待って・・・」

医師に告げられて一安心する久と祥子。

「僕と香が離婚した理由を・・・祥子ちゃんは・・・なにか知ってるかい」

「ええ・・・」

「僕には・・・香とすばるを愛していた記憶しかないんだ」

「ひどい夫だったわよ・・・浮気もしていたし・・・しかも・・・一人や二人じゃなくて」

「え」

「でも・・・そのことは・・・お姉さん諦めていたみたい」

「ええ」

「お姉さんもあまり、家庭的な人じゃないし・・・夫や子供より・・・仕事が大事みたいなところがあって・・・」

「そうね・・・私も妻としては駄目な方だと思う」

ベッドで香が意識を取り戻す。

「あなたのために・・・食事を作って・・・着替えを整えたり・・・そういう尽くす妻とはほど遠かった・・・でも・・・そういうのはあなたの方が得意だったし・・・すばるは私よりあなたの方になついているくらいだった。本当にそのことには感謝している。でも・・・あなたは働く女についての認識が・・・あまりにも後進的だったのよ。私が初めて出版した本をあなたに自慢した時・・・あなたは・・・それを・・・コースター代わりにしたの・・・私の処女作の表紙を縁取ったコーヒーの染み・・・私はあなたが・・・本当の私をけして認めないのだと悟ったの・・・だから・・・離婚を切り出したのよ・・・あなたは離婚を嫌がった。でも・・・私には分かっていた。あなたが欲しいのはあなたのための家庭であって・・・家族のための家庭じゃないことを・・・あなたは家庭を欲しがったけど・・・家族を作るには不向きだったのよ」

「・・・」

「そして・・・私たちは離婚した・・・」

久には香の悲しみが理解できた。

そして・・・香と結婚していた頃の久はそれができない男だったのだと想像する。

母親と父親の話を・・・すばるは立ち聞きして・・・大人の階段を登るのだった。

翌日、父親の帰路で待ち伏せするすばる。

すばるは携帯電話の「家路久」の登録名を「お父さん」に変えていた。

「父親と母親が離婚しても・・・お父さんはお父さんだよね」

「すばる・・・」

「クッキー焼いたから・・・あげる・・・今のお父さんだったら・・・お母さんだって・・・」

「すばる・・・」

「でも・・・そうじゃなかったから・・・こうなったのよね」

「・・・」

「それから・・・これ・・・忘れていったでしょう・・・」

すばるは透明シートを翳した。

「おじいちゃんと・・・前に・・・なんか作ってたよね」

久はそれが・・・チケット(ワインラベル)の保存シート・・・ワインのラベル剥がしシールであることを思い出した。

「ありがとう・・・すばる・・・すごいぞ」

久は幼いすばるにしたように女子中学生の頭を撫で抱きしめるのだった。

娘の髪の毛をクンクン嗅いでみたい全国のお父さんたち涙目である。

原作的には近親相姦の香り漂う危ないシーンですが・・・お茶の間はけして不埒な想像をしないでくださいシーンである。

しかも・・・実子ではないので条例違反になるおそれがあります。

久は祥子に許可を得て野沢家の物置を捜索した。

そこには父親のワインのコレクションが置かれていた。

謎のキーホルダーから鍵を取り出した久は収納庫の扉を開く。

そこには「香と久の結婚十周年を祝うためのワイン」とワイン日記が残されていた。

久の義父は・・・婿をワイン仲間として飼育していたのである。

「娘婿にワインを勧める・・・娘たちには言えないが・・・男の子が欲しかった私は・・・婿の久を本当の息子のように思うことがある。家路久は仕事のできる男だ。仕事人間だ。会社には敵も多い。そういう点も私にそっくりだ。私だって仕事人間だ。私の密かな楽しみであるワインを彼と共有することは私の愉悦でもある。私は知っている。婿が仕事が出来る男と言われるのは・・・彼が人並み外れた努力家であることがその理由だと。寝る間も惜しんで働くのだから・・・仕事人間なんだ。それがなぜ悪い。私は自分を愛するように婿を愛する。願わくば娘と婿の幸せが末長く続くように。祈りをこめて・・・このワインを寝かせよう」

「お義兄さん・・・お父様のお気に入りだったわね・・・」

「・・・」

「私・・・そういうお義兄さんに・・・憧れていたのかもしれない」

義理の娘に続いて義理の妹も魅了する久なのである。

悪い男が魅力的ではないとは限らない・・・のだ。

「祥子ちゃん・・・」

「どうか・・・今度こそ・・・幸せになってください・・・お義兄さんの・・・今の家族を幸せにしてあげて」

久は答えに詰まる。

今の家族は・・・仮面をかぶっている。

今の家族を愛している実感はない。

今の家族を幸せにできる自信はない。

それを義理の妹に言っても・・・仕方ないのだった。

ただ・・・もう・・・野沢専務とワインを味わうことはできないという現実が・・・久の心に重くのしかかるのだった。

夜風に吹かれ・・・ただ一人・・・久は献杯した。

ただ一つ言えることはいくら義父のお気に入りになっても嫁に嫌われたら結婚生活は破綻するということだ。

土曜日がやってきた・・・。

「ミニスカいいよね」

「いいですね」

付き添いでやってきた小机部長と轟課長は鼻の下を伸ばす。

しかし・・・久の心は・・・良雄の掌にできた小さな豆のことで一杯だった。

仮面をつけている良雄の心がそこに示されていた。

努力を惜しまない男の・・・努力を惜しまない息子。

それが・・・良雄と久の繋がりを示しているように思えた。

(介護ロボットの応援は・・・他の人間にもできるが・・・息子を応援してやれるのは僕だけじゃないか)

結果としては・・・久の考えは予想を大きく外れる大誤算だったが・・・お茶の間としてはそれはどうでもいいことだという計算である。

「ミニスカありがとうございます」

「いつもお世話になってます」

阿鼻叫喚のスタジオである。

運動会場にスーツ姿で現れる久。

「おとうさん・・・」

「あなた・・・」

「すまない・・・またクリーニング代がかかりそうだ」

「大丈夫です・・・おこづかいから引いておきますから」

妻が冗談を言っているのかどうか久にはわからない。

しかし、お茶の間的には一同爆笑のポイントだった。

「あきらめるな・・・ヨシオ・・・がんばれ・・・ヨシオ・・・いけ・・・いけ・・・ヨシオ・・・自分の行きたい場所を見るんだ・・・下を見るな・・・落ちるなよ・・・足でぐっとしろ・・・いいぞ・・・ヨシオ・・・ヨシオ」

久とヨシオは三位を獲得した。

恵は夫の仕事鞄を抱える腕に力をこめた。

久は息子を見た。

その顔は仮面に隠されていた。

久は妻を見た。

その顔は仮面に隠されていた。

久の顔に浮かぶ・・・不安。

その久の顔を・・・恵は見ている。

ワイン・カラーの黄昏は誰もが子供に帰る時間

窓に灯る灯りは星のようにまたたく

お帰りなさいのささやき

現在の妻・恵は前の妻・香の通う料理教室に参加するのだった。

その心はまだ謎に包まれている・・・。

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Ihhc003ごっこガーデン。黄昏は逢魔の時橋(バナナの皮に注意)セット。アンナ余韻が欲しい・・・だからといって・・・古舘さんが仮面をつけていたりするとそれはそれで違うかもぴょん・・・朝ドラの受けはうまいんだぴょん。慣れって恐ろしいものぴょん。お父さんのことが大好きだったすばる・・・そりゃもう・・・ダーリンがお父さんなら・・・そうなるに決まっているのぴょ~ん。お父さんがターリンなら父親選択決定ぴょ~ん。二択問題不成立ぴょんぴょんぴょん・・・二人の妻対決・・・恵は香に勝てるのか・・・やはり・・・ダーリンは存在が罪・・・まこ仮面・・・かめん・・・かめんかまぼこ・・・板を挟んで両面にすると・・・おっ・・・これはいけるかもでしゅ~・・・勉強になりましゅ」mana「檜風呂で半身浴しなが視聴してたら久の入浴シーンに遭遇!(ノ*´▽)ノアハハハハ・・・混浴じゃ・・・妄想混浴じゃってどうですのん・・・・・・・・・・・・・(ノ∇≦*)・・・mari自分捜しはつらいもの・・・本当の自分なんて本当はないのかもしれないんですからねエリ五年間どころか・・・あらゆる記憶が失われている・・・でも部分的には覚えている悲しい久の・・・心・・・想像の翼をかなり広げないとわかりにくいかもしれませんね。仮面妻と仮面息子の悲しい心ははたして・・・久の心に届くのでしょうか・・・久の生い立ちが気になりまス~

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