吉田松陰、松浦亀太郎の号を選びて松洞となすこと(井上真央)
なぜ・・・長州藩家老・根来主馬の武家奉公人で絵師の松浦松洞(亀太郎)が京で自刃しなければならなかったのか。
実はドラマではその経緯をじっくりと描いている。
萩・松本村の魚商人の子、亀太郎が絵師を志す途中で吉田松陰の門下生となり、そのコネクションで長州藩士の一員として江戸に留学する。
下級藩士の多かった松下村塾でも出自が町人である松太郎は塾生からそれなりの侮りを受けたことだろう。
「天皇の前での万民の平等」を説く松陰にとって・・・その現実は受容できないことであった。
松陰はことさらに亀太郎を可愛がり、ついには松洞と名付けた。
亀太郎はどれほどに松陰を敬愛したか・・・それが松陰を描いた作品に結晶しているわけである。
ストレートに描けば・・・松陰に対する松洞は・・・武市瑞山に対する岡田以蔵のようなものなのである。
しかし、剣士と絵師の違いが・・・あるいは大河ドラマの限界が・・・最後の描写を曖昧なものにするのである。
松洞にとって長井雅楽は松陰を幕府に引き渡しその命を奪った師の仇の象徴であった。
久坂玄瑞による長井暗殺計画に賛同した松洞は燃えあがる。
しかし、計画は実行に移されなかった。
絵師・松浦松洞の激昂はいかばかりであっただろう。
結局・・・同志たちは・・・臆したのである。
そして・・・松洞一人では藩の重役・長井雅楽を殺害することはいかようにしても無理であった。
そのために・・・松洞は憤死するのである。
その死は「師」の「志」を実行しなかった高弟たちの心を騒がせるのだった。
松陰の回天の事業を最初に実行したのが・・・松浦亀次郎だったのである。
そのように描けば・・・絶対に盛り上がるのだが・・・何故か寸止めする脚本と演出。
もはや・・・幕末は・・・ドラマ・スタッフが自由に描けない時代なんだな・・・きっと。
だが・・・「八重の桜」では維新政府を悪役に仕立て上げたんだから・・・逆もやろうよ・・・。
テロリズム万歳でもいいじゃないか・・・。
母の日か・・・。
で、『花燃ゆ・第19回』(NHK総合20150510PM8~)脚本・大島里美、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は酒乱の気があるが松下村塾のシンパ上役・周布政之助の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。長州が維新の原動力となれたのは密貿易により財政の豊かさを保持できたことが一因となりますが・・・周布政之助は改革派と言う名の密貿易派の首領とも言えます。そのために下級武士たちの顔役となりえたわけでございましょう。幕末下剋上にあって・・・長州藩の名門派閥の首領たちと・・・松下村塾をはじめとする草莽の志士たちの板挟みになって酒毒に冒されてしまったのでしょうな。さて・・・幼な妻・雅が本格的に登場した今回。藩主の娘くらいの凄まじいお嬢様キャラクターに造形されちゃいましたな。確かに・・・奉行の娘で用人の嫁・・・下級武士の上に身内から罪人を出している杉家にとっては雲の上の存在でしょう。ただし・・・短期間ではあるけれど藩医・久坂玄瑞は公家とも親しみ、京における長州外交の指導者となるので嫁の地位も一瞬格上げされるわけですな。夫同士が親友と言える間柄なので・・・きっと・・・夫たちの京都における女遊びを嘆く女友達になる予感がいたします。故郷で女たちが家計をやりくりして・・・仕送りすると・・・京の男たちはやりたい放題です。男のロマン・・・きっちりと表現してもらいたい今日この頃でございます。
文久元年(1861年)四月、薩摩藩主・島津茂久の実父・久光は国父として実権を掌握する。六月、長州藩は長井雅楽により「航海遠略策」を朝廷に建白する。八月、孝明天皇の妹和宮と将軍家茂の結婚を推進する幕府老中首座・安藤信正は長井と面会、長州藩が幕政に参加する好機が訪れる。公武合体に反対する攘夷派は水面下で暗躍を開始し、京には薩摩藩や長州藩の急進派が集結する。文久二年(1862年)一月、坂下門外の変において水戸藩・宇都宮藩の急進派に襲撃された安藤信正は負傷し、失脚する。長州藩における公武合体派と攘夷派の対立が再燃し、「航海遠略策」の撤回を掲げ久坂玄瑞らが入京。四月、島津久光が藩兵を率いて上京する直前、久坂らは長井暗殺計画を模索するが中止。十三日、松浦松洞が自刃する。十六日、久光が入京。攘夷志士の期待は裏切られ、朝廷の要請を受けた久光は志士鎮撫を開始する。二十三日、寺田屋に集結した攘夷派は久光によって粛清される。攘夷派と見られた西郷隆盛は失脚した。久光の参画により公武合体は進むが・・・同時に攘夷派は長州藩を軸に過激化するのだった。
うしみつどきの闇の中・・・三条通を東へ・・・栗田口に現れた亀太郎は林の中の小道を通り、人気のないお堂についた。
つなぎに現れたのは近在の農民を装った草の忍びである。
根来家の奉公人として入京した亀太郎は京における長州藩の動向を報告することを命じられていた。
亀太郎は公儀隠密である。
口伝で情報を受け取った京の草は東へと去って行く。
残された亀太郎は闇の中に殺気を感じた。
クナイが飛来し、亀太郎は咄嗟に木立に隠れた。
亀太郎は着物の隠し袋から十字手裏剣を取り出す。
武器はただそれだけである。
「亀太郎・・・やはり・・・幕府の草だったのか・・・」
闇の中から聞こえる声に馴染みがあった。
亀太郎は気配を窺った。
「やめておけ・・・」
闇の中から聞こえる声は移動している。
「利助か・・・お前は隠し目付けだったのだな」
「何を報告したかは・・・問わん・・・このまま消えよ・・・栗田山を越えて行け」
「大したことは密告しておらん・・・しかし・・・去るわけにもいかん・・・」
「忍びの掟か・・・」
「そうじゃ・・・掟に縛られたものの・・・どうにもならぬことは・・・忍びなら分かるじゃろう」
「・・・」
「徳川の忍びと毛利の忍びが出会ったのじゃ・・・術比べするしかあるまい・・・」
「そんな時代でもなかろうが・・・」
「ほう・・・臆したか」
「・・・」
「参る」
亀太郎は跳んだ。
右手の林の樹上に利助の気配を察したのだ。
必殺の伊賀十字撃ちを放ち、闇の中で草叢に伏せる。
しかし、その身体をクナイが貫いていた。
「馬鹿野郎・・・そんな腕で・・・俺が倒せるかよ」
耳元で利助が囁いた。
「利助・・・術の名を教えてくれ」
「猿飛だよ・・・」
「なるほど・・・こんなところでは・・・勝負にならんな」
「・・・」
「なあ・・・利助・・・忍びとしておかしなことを言うようだが・・・俺は松浦松洞として死にたい」
「亀太郎・・・」
「松陰先生に殉じて・・・俺はここで・・・自決した・・・そういうことにしてくれないか」
「末期の望みか・・・」
「・・・松陰先生・・・」
「松下村の友として聞いたぞ・・・お前の望む通りに・・・」
亀太郎は答えなかった。
利助はクナイを回収すると・・・亀太郎の骸を残し、京の都に戻って行く。
祇園はまだ・・・享楽の灯りで輝いていた。
その頃、久光の軍勢は伏見に到着している。
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コメント
先日東京出張行ってから完全に体調崩してぐったりしてる今日この頃
5月下旬になると後半編のストーリー本が出るので
それであれこれ描こうとしてるのですが、それに伴い女優陣も増えてるので、うずうずしてきますねぇ
物語としては完全にテロリスト思想の集まりですが
その辺りは大分杉家の方々とのギャップがあって
それはそれで面白い限りですね ̄∇ ̄
投稿: ikasama4 | 2015年5月15日 (金) 01時18分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
上京の儀、御苦労様でございました。
翌日は台風騒ぎがあり
屋上庭園の盆栽の避難などをして
こちらも筋肉痛でございまする。
今年も夏がやってまいりますねえ。
画伯におかれましては
体調管理にご注意くださりませ。
今年はオリジナル描き下ろしが多く
喜ばしく感じております。
女優陣の描き下ろし楽しみですねえ。
高杉家は・・・正妻が先か・・・愛人が先か・・・。
期待が高まります~。
下剋上でありながら
四民平等という近代思想にもつながって行く
松下村塾テロリズム・・・。
その辺りを拠り所にすれば
いいのになあ・・・と思っております。
まあ・・・現代の女子は
暴力革命に免疫がないのかもしれませんが・・・。
今回は画伯と同じ絵師というアーティストの死・・・。
松陰の死後・・・
仲間たちが
松陰の絵姿を求めて
彼に発注しまくった妄想が膨らみました。
ドラマはある魚屋さんの死みたいな感じに
なってしまいましたが・・・
可憐さは描かれていたと思う今日この頃でございます。
投稿: キッド | 2015年5月15日 (金) 03時34分