寂しい男(堺雅人)淋しい女(蒼井優)
さびしさには二種類ある。
かっては・・・にぎやかだったものがさびれて寂しい感じになったさびしさ。
さびしい林に雨が降って水が流れにぎやかになったと言えないこともないのにますますさびしい感じがする淋しさである。
寂しさにはさびしくても過去を懐かしむ余白があるが・・・淋しさは何をどうしてもさびしいという陰々滅々さがある。
母親がある時期までは母親と機能していた主人公は寂しいけれど医師になる。
生まれてからずっと母親が狂っていたヒロインは淋しさが高じて患者となる。
これは寂しい男と淋しい女の物語なのである。
もっと簡単に言うと・・・さびしい男とさびしい女は・・・二人になって・・・さびしさを解消できたらいいのになあという・・・恋の原理のお話です。
まあ・・・そう思って恋をしても・・・ますますさびしくなったりすることもあるけどな。
そもそも・・・他人の心を理解しようという行為は・・・さびしいからするものなんだな。
だけど・・・そんなの無理なんだな。
お腹がすいたらおにぎり食べればいいんだな。
・・・裸の大将かっ。
で、『Dr.倫太郎・第5回』(日本テレビ20150513PM10~)原案・清心海、脚本・中園ミホ、演出・水田伸生を見た。ちなみに原案者はせいしんかいという仮名の精神科医である。人間の精神は・・・宇宙や深海と同じように未知の世界である。そう言う意味では・・・現代もお医者様でも草津の湯でも治せない精神の病はあるし・・・精神科医は気休めの存在に過ぎない。なにしろ・・・精神のことは・・・ほとんど何も分かっていないのが・・・現状なのだ。もちろん・・・それでは精神科医は成り立たないので・・・何もないよりマシでしょうという姿勢で宇宙の深淵に挑んでいる。
フロイトにはじまる精神分析学による精神へのアプローチはほとんど暗礁に乗り上げている。
それでも・・・人々は・・・自我があるような気がするし・・・無意識の中で何かがドロドロとしているような感覚を味わう場合もある。
精神科医は・・・そのよくわからないものを・・・手さぐりで・・・「何かがおかしいみたいです」と記録し・・・統計的手法で・・・健康な精神と病んだ精神を分類し続けるのだった。
そして・・・十九世紀から二十世紀、そして二十一世紀と・・・時は流れていったのだ。
今、滅びかけた精神分析の手法で・・・病んだ魂を救済しようという努力を重ねる男がいた。
慧南大学病院の精神科医ヒノリンこと日野倫太郎(堺雅人)である。
彼が解離性同一症と診断した患者・夢乃/相沢明良(蒼井優)はヒノリンの自宅で彼に馬乗りになり、彼の股間を激しく刺激している。
ヒノリンは押し寄せる快楽の波に耐えながら・・・医師として患者に真摯に向き合おうと歯をくいしばって微笑む。
「これ以上・・・明良に近付くな」
「・・・」
「お前がいなければ・・・明良と私は上手くやっていける」
ユメノはヒノリンを威嚇する。
「私は・・・ただ・・・アキラさんを助けたいのです」
「本当・・・ずっと一緒にいてくれる」とアキラは救いを求める。
「はい・・・ずっと一緒にいます」
「嘘だ・・・お前もいつかきっと・・・アキラを裏切って・・・傷つける」
第一人格とも言うべきアキラを保護するために分離した第二人格のユメノはヒノリンを拒絶する。
ヒノリンが性的誘惑に耐えて生殖器を怒張させないことに当惑しつつ、ユメノは日野家からの撤退を開始する。
「待ってください」とヒノリンは夢乃/相沢明良という多重人格者を呼びとめる。
「いつでも・・・待っています・・・一緒にお茶をしましょう」
「ナンパするならチンポたてやがれ」
捨てゼリフを残して家を出るユメノだった。
その頃、幼馴染で明らかに倫太郎に片思い中の外科医・水島百合子(吉瀬美智子)は精神科医でヒノリンの主治医でもある荒木重人(遠藤憲一)を訪問していた。
荒木医師はヒノリンと百合子の先輩である。
「患者と医師の恋愛感情について教えてください」
「まず・・・前提として感情が記憶と結びつき精神複合体を形成していると考える必要がある」
「ですね」
「一般的に人間は養育者に対して愛のコンプレックスを形成する。多くの場合、それは愛の原型となる」
「いわゆる・・・両親を慕う気持ちですね」
「その前提に基づき、医師と患者には擬似親子関係が発生する」
「保護するものとされるものということですね」
「そのために・・・愛のコンプレックスが患者から医師への感情に反映されることは多い」
「まあ・・・あくまでケース・バイ・ケースですよね」
「患者が医師に親に抱くような親近感を抱くことが・・・広い意味で転移だ・・・さらに・・・患者と医師が実際には親子でない場合、特に異性である場合は恋愛感情ほ発生させやすい。これが狭い意味で転移だ」
「転移と一般的な恋愛感情はどう違うんですか」
「患者と医師という関係性が特殊だと言う他はない」
「では・・・転移と恋心は一緒じゃないですか」
「精神分析学的には違うのだ」
「・・・で逆転移というのは」
「医師が患者の擬似恋愛感情に反応して擬似恋愛感情を抱くことだ」
「それ・・・好きですって告白されたのでその気になるのとどこが違うんですか」
「精神分析学的には違うのだ」
「だけど・・・相手は芸者なんですよ」
「え・・・だれの話だ」
「いえ・・・」
「まさか・・・日野の奴・・・夢乃さんと・・・」
「なんで、夢乃さんのこと知っているんですか」
「水島・・・守秘義務について・・・話をしようか」
「あくまで・・・一般論ですよ」
「・・・」
百合子の危機感が単なる危惧なのかどうか・・・今はまだ謎である。
まあ・・・精神科医と芸者が恋愛したって犯罪ではないわけだが。
そして・・・転移も逆転移も・・・医師と患者の信頼性を深めるために有効利用するべきだという考え方もあるのだった。
しかし、ヒノリンは恋愛を心の病の一種と考える心の病を患っているために・・・転移を受け入れず、逆転移など論外と主張する。
医師と患者は恋愛するべきではなく・・・共感するべきだと主張するのだ。
もちろん・・・その境界線はヒノリンの心の中にあるだけなのだ。
研修医としては落ち付いている福原大策(高橋一生)は研修医・葉子(高梨臨)に猛烈な恋をしていて、ヒノリンに恋愛相談を持ちかける。
しかし、医師の恋愛を認めないヒノリンはこれを完全に否定するのだった。
おわかりだろう・・・ヒノリンは完全にビョーキである。
そこに乱入する葉子は対策の担当患者が来院したことを告げる。
大滝ナミ(ハマカワフミエ)は葉子の親友であり、ギャンブル依存症だった。
対策の治療により、症状は一度緩和したのだが・・・再び症状が悪化したのだった。
ギャンブル障害は行為依存の一種である。
ギャンブルがやりたくてやりたくてたまらなくなり、やりたい気持ちを抑えるのが困難であり、ギャンブルをしないと冷や汗が止まらず、手は震え、夜も眠れず、幻覚を感じるようになり、・・・毎日ギャンブルをして、賭け金もどんどん巨額となり、ギャンブル以外のことには関心がなくなり、ギャンブルのために借金などで生活が苦しくなってもギャンブルをやめられないという・・・恐ろしい心の病なのであった。
ナミは職場恋愛で結婚の決まった相手が浮気をして破談となって軽い抑うつ感を抱き、ストレス発散のためにギャンブルに手を出したことからギャンブル障害を発症したのであった。
ギャンブル障害は薬物治療が難しく・・・特効薬がないのだ・・・大策は心理療法としてカウンセリングを行い・・・なんとか病状を改善したのだが・・・結局、完治は困難だったのである。
「どうしましょう・・・」
「例によってショック療法だ・・・今夕、六時にギャンブル大会を開催する」
「え・・・」
「君はそのことを患者に伝えたまえ」
「そんな・・・ギャンブル障害の患者にギャンブルさせるなんて・・・メチャクチャです」
「だから・・・ショック療法と言っただろう」
「・・・」
ギャンブル大会開催のために・・・丁半博打の知識を素晴らしいインターネットで研究するヒノリンだった・・・アホである。
その頃・・・夢乃/相沢明良から一千万円を受け取った菊千代/相澤るり子(高畑淳子)は一攫千金を狙い、借金返済のための一千万円を無謀なインターネット投資につぎ込み、あっという間に摩ってしまうのだった。
もう・・・ギャンブル依存症などという生易しい状態ではなく・・・ギャンブルキチガ・・・それ以上は言うなっ。
死ななきゃ治らないレベルの精神疾・・・それ以上言うな。
超悪女であるるり子は虐待し続けた娘の明良を呼び出すのだった。
「一千万円なくなっちゃった・・・また一千万円なんとかしておくれ」
「そんなの・・・無理よ」
「なんだい・・・それでも・・・娘かい・・・あんたなんか・・・産まなきゃよかったよ」
「ごめんなさい・・・お母さん・・・・なんとかするから・・・」
アキラを守るためにユメノが現れる。
アキラを救うために手を差し伸べるヒノリン。
「診察室にいらしてください」
「アキラを救いたいんなら・・・一千万円用意しな」
「・・・」
夢乃は旦那である慧南大学病院理事長・円能寺一雄(小日向文世)に一千万円の無心をするのだった。
「この間の一千万円は・・・男にでも貢いだのかい」
「・・・そんなことはありません・・・」
「しょうがないな・・・今夜の接待でお座敷を務めてくれ・・・相手に気に入られたら考えよう」
接待の相手はストレスを抱える行政府報道長官の池(石橋蓮司)だった。
芸者・夢乃は・・・操心術者としてはヒノリンを上回る実力者だった。
お座敷で・・・芸者・夢乃によって池は身も心も解放されるのだった。
「さすがだな・・・夢乃と遠出したくなったよ・・・どこに行きたい」
「海」
「よし・・・そこで一千万円を渡すよ」
一千万円という金額を大金と考える人は・・・富裕層とは言えません。
ご開帳の時間が迫る午後五時五十五分。
大策は診療室を飛び出した。
ギャンブルを求めてやってくるナミ。
しかし・・・大策が立ちはだかる。
「このノートに誓った言葉を思い出してください」
大策はカウンセリングで使ったノートを見せる。
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
私はギャンブルしなくても大丈夫
筆記によって自己暗示をかけるという原始的な手法である。
「そんなの何万回誓ってもギャンブルやめられません」
「そんなことはない・・・一度はギャンブルのことを忘れられたじゃありませんか」
「どいて・・・」
治療室の扉を開けるナミ。
しかし・・・ヒノリンが立ちふさがる。
「今、時刻は六時五分・・・本日は閉店です」
「え」
「医師と患者が向き合って・・・五分間だけ・・・ギャンブルを我慢できた。これが第一歩です・・・五分が三十分となり、一時間、一日、一週間、一ヶ月、一年、十年、百年・・・あなたはきっとギャンブルをやめることができます」
「・・・」
「そのために・・・私たちは全力でサポートしますよ」
ヒノリンは娘を憐れに思う母親という資金源を断ち・・・集団精神療法を推奨するのだった。
「彼女はギャンブル依存症を克服できるでしょうか」
「克服するのではない・・・ギャンブルを忘却させるのだ・・・」
「しかし・・・ナミさんは君に転移を起こしていた・・・だから・・・君にはカウセリングさせられない・・・集団精神療法で・・・ギャンブルに熱中した自己を客観視させ・・・過去に葬り去るという方向に持って行くのだ」
「・・・完治できますか」
「ギャンブル障害は完治しない」
「え」
「医者は神様じゃないんだ」
「それ・・・普通の医療ドラマなら定番ですよね」
「精神医学では常套句だよ」
「・・・」
海にやってきたアキラは約束をすっぽかし・・・彷徨いだす。
「夢乃が来ない・・・」
「え」
驚いた置屋の女将で元芸者の夢千代/伊久美(余貴美子)は藁にもすがる思いで日野家にやってくる。
「夢乃が来ていませんか」
「どうしたのです・・・」
「あの子・・・大金欲しさに遠出したのに・・・金を貰わずに約束すっぽかして・・・」
「夢乃さんはどうして大金が必要なのですか」
「まさか・・・あの子・・・先生にも・・・」
「・・・」
「ご迷惑をおかけしてすみません・・・先生も被害者だったとは・・・分かっています・・・すべてあの子の母親・・・まあ・・・親らしいことは何一つしていないのですが・・・あの子は捨てられたも同然だったのです・・・見るに見かねた先代の女将が高校まで卒業させたのです。あの子は一度は普通のOLになったのです。ところが・・・あの女・・・菊千代が現れて金の無心をするようになったのです。魔性の女ですよ・・・あれは・・・自分の娘の心を操って食いものにしているんだ・・・でも・・・仕方なく芸者になったあの子は・・・天性の素質があって・・・」
「魔性の子は魔性ですか・・・」
「・・・」
そこへアキラからヒノリンへ着信がある。
(先生・・・私・・・なんでここにいるのか・・・わからないの・・・)
「アキラさん・・・迎えに行きますから・・・そこから動かないでください」
「先生・・・」
「アキラさんはどこに行ったんでしょう」
「海に・・・」
「場所を教えてください」
「でも・・・そこには現れなくて・・・」
「近くにいるはずです・・・波の音が聞こえましたから」
ヒノリンは海へ向かった。
浜辺で砂遊びに興じるアキラ。
愛は海のようなものだ
あれほど慕った砂の乳房も
波が洗い流す
どれほど幼子が求めても
「アキラさん」
「先生・・・」
ヒノリンはお茶を差し出した。
「・・・」
「・・・」
夕陽が沈んでいく。
「先生はどうして・・・精神科医になったんですか」
「僕の母親は心を病んで・・・僕が中学生の時に自殺しました」
「・・・」
「僕は母親の病に気がつかなかった」
「・・・」
「母親が死んで・・・僕も心を失いました・・・しかし、ある日、タモさんが髪切ったと言ったんです」
「タモさん・・・」
「その一言でお客はドッと笑った。・・・凄いと思いました。だから僕もコメディアンになろうと思ったんです・・・でも人を笑わせる才能は・・・僕にはなかった・・・だから・・・誰かが心の病になったら・・・今度はきがつけるように・・・精神科医になったのです」
「ありがとう・・・先生・・・自分のことを話してくれて」
「こちらこそ・・・話をきいてくれて・・・うれしいです」
「先生のことを・・・少し・・・知ることができたわ」
「僕も・・・あなたと・・・お茶が飲めた」
「私たち・・・ずっと一緒にいられるかしら」
「ずっと一緒ですよ」
「・・・」
「・・・」
夢乃/相沢明良の触手はぬくもりを求めて砂上で蠢動した。
ヒノリンの触手は獲物を捕獲した。
夕陽は落ちた。
女将の夢千代や芸者の小夢(中西美帆)はバースデーケーキを用意して夢乃を出迎えた。
その日は夢乃の誕生日だったのだ。
しかし、夢乃はその場を逃げ出す。
「どうしたのです」
「先生・・・私・・・生まれてよかったんですか」
「よかったに決まっているじゃありませんか」
ヒノリンは夢乃を抱きしめることを懸命に堪える。
抱きしめたら一線を越えてしまう。
ヒノリンは夢乃を見つめる。
幼女のように泣く夢乃。
この人は患者だ。
私は医者だ。
懸命に自分に言い聞かせるヒノリンだった。
落ちついた夢乃を残し帰宅するヒノリン。
その後を菊千代の車が追跡する。
副病院長兼脳外科医主任教授の蓮見(松重豊)は人体の手術をした後で百合子と酒を飲む。
「主任は患者に恋愛感情を感じたことがありますか」
「ないねえ」
ふと触れあう二人。
「あ」
「失礼」
「・・・私に気があるんですか」
「・・・君は欲求不満かっ」
日野家で愛犬と戯れるヒノリン。
「お前のお母さんはどんな犬だったんだい・・・」
そこへ・・・菊千代が乱入するのだった。
「あんた・・・一体何なんだい・・・」
「え」
「あんたが・・・夢乃を邪魔してるのかい」
「・・・」
「ふん・・・なんなら・・・あんたが・・・一千万円用意してくれてもいいんだよ」
「あなたは・・・夢乃さんを不幸にする・・・縁を切ってください」
「おや・・・あんた・・・金も地位もあるのに・・・女の匂いがしないね」
「え」
「あんた・・・あの子に似ているね」
「・・・」
「あんたも・・・ろくでもない女に育てられて・・・おかしくなったんだね」
「何を・・・」
「そうか・・・あんたの母親は男狂いか・・・それで・・・あんたは女と言う女が信じられなくなったんだ」
菊千代は人の心を読む達人だった。
まさに・・・魔性の女なのだ。
「・・・」
菊千代はヒノリンの母親の遺影を発見する。
「おや・・・こんな品のいい顔して・・・男にいれあげるなんて・・・たいしたタマだねえ」
「この・・・毒婦・・・」
「あはははは・・・あんた、知らない男に母ちゃんのおっぱいとられて今でもヒーヒー泣いてんだ・・・ざまあないねえ」
母親を侮辱され・・・冷静さを失いかけるヒノリン。
何よりも・・・菊千代の言葉は・・・ヒノリンの心の闇に潜む正鵠を射ていたのである。
どうやら天才精神科医と魔性の女の心理戦争が勃発したらしい・・・。
凄いな・・・。もはや・・・これは・・・ダークファンタジーじゃないか。
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