むすびてもまたむすびてもくろかみのみだれそめにしよをいかにせむ(小島藤子)
いよいよ・・・「池田屋事件」である。
ここから、幕末は怒涛の流れとなる。
そうなると・・・物凄く事件が連続して発生し、物語作者は取捨選択を迫られる。
吉田松陰の妹・杉文(井上真央)という歴史的にはほぼ無名の実在の主人公をめぐる物語である。
その存在を語ろうとしてお茶の間のいろいろな機微に抵触しまくるわけだが・・・まあ、基本、フィクションなのでそれはいいわけである。
問題は脚本家の構成力の問題である。
第22回から第25回までは大島里美が担当しており・・・ある種の連続性がある。
構成の基本中の基本はフリオチという二分割で・・・ここは「フラグ」と「フラグの回収」という名称で考える。
前回は「吉田稔麿と妹の吉田ふさの今生の別れ」が描かれてフラグが立ち、今回は「池田屋事件で吉田稔麿が殺害される」というフラグの回収が行われる。
問題はこの回収に・・・吉田ふさ(小島藤子)のリアクションが含まれないのである。言わばワサビ寿司を食べて・・・「辛い」と言わないようなものなのだ。
もちろん・・・主人公と主人公の夫のリアクションも大切だが・・・基本的に他人事である。
ワン・クッション置いているのでピンとこないのだ。
なぜ・・・そうなるかというと・・・「禁門の変」が迫っているわけである。
そのために「久坂玄瑞」や「入江九一」のフラグをたてる必要がある。
ついでに・・・「高杉晋作の妻・出産」や「四カ国連合艦隊の下関占拠」や「伊藤・井上の帰還」や「高杉出馬」のフラグもたてなければならない。
フラグをたてまくり、回収できなくなる・・・これを構成ミスと言います。
フラグをたててもたてても歴史的事件が続き満足に回収できない場合どうしたらいいでしょう・・・。
足軽(非藩士)の子・吉田栄太郎は藩士に立身出世して吉田稔麿となり・・・わずか一年。
辞世の句に苦渋が滲む・・・。
で、『花燃ゆ・第25回』(NHK総合20150621PM8~)脚本・大島里美、演出・橋爪紳一朗を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は池田屋事件に遭遇しつつ、路上で死んだために何故死んだのか明らかではない吉田稔麿の末期の姿描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。海街diary四姉妹描き下ろしイラストもキター!・・・大河ドラマにお茶の間向けの勧善懲悪的要素を持ち込むのは・・・ある意味で創作力の敗北と言ってもいいのですな。「戦争」に「善悪」はない・・・と言いつつ・・・第二次世界大戦は大日本帝国が一方的に悪かったという主張と似ています。当事者にとってはたまったものではないですが・・・勝者には都合がいいわけです。勧善懲悪によって・・・主人公に感情移入をして・・・自分の正義や自分の勝利を疑似体験する・・・。そういう愚民迎合を続けていると「芸術」は確実に死んでいきますからねえ。せめて・・・過去に何があって今があるのか・・・そういうことを感じ取れるドラマにしてもらいたいと願う今日この頃ですが・・・ニュータイプの力に感服してエルメスの後衛を申し出るリック・ドムのパイロットのような吉田稔麿の死でもいいのに・・・意味不明すぎるぞっ。
元治元年(1864年)三月、一橋慶喜は禁裏御守衛総督に就任する。横浜鎖港をめぐって賛成する慶喜と鎖港反対の島津久光が対立。朝議参預体制は瓦解する。高杉晋作が野山獄に投獄される。米国南北戦争で北軍のユリシーズ・グラント中将は南軍に対しバージニシア州における荒野の戦いを開始。四月、島津久光は西郷隆盛を京都に残し京都から撤退。土佐浪士・岡田以蔵捕縛。五月、幟仁親王・熾仁親王が国事御用掛に任命される。慶喜は摂津国沿岸を視察。久光は薩摩に帰陣。山内容堂が土佐勤王党の弾圧を開始。坂本龍馬、お龍と出会う。勝海舟は神戸海軍操練所を発足する。六月、新選組の山崎烝が梅田雲浜の弟子で商人の古高俊太郎を捕縛。京都守護職・松平容保の襲撃計画の容疑で池田屋に集結中の尊王攘夷・勤王浪士を急襲。斬り捨てによる勤王浪士の壊滅作戦であり、「洛中放火」などの「容疑」は捏造と疑われる。会津・桑名藩との連携もあり・・・薩摩藩の退去によって生じた洛中の動揺を鎮静化させるための計画的な治安維持行動と考えられる。長州藩士・吉田稔麿や土佐藩士・望月亀弥太も殺害される。長州藩・京都留守居役の桂小五郎の死が守居助役の乃美織江によって誤報され、激昂した長州藩士は千名を越える兵力で京都への進発を開始する。
封鎖中の長州藩・京都屋敷は河原町にあり、長州藩の定宿として利用された池田屋は徒歩五分の距離にある。また桂小五郎が懇意にしていた対馬府中藩の京屋敷までも徒歩五分である。
京都で暗躍する吉田稔麿は河原町のこの三点をテリトリーにしていた。
対馬府中藩では尊皇攘夷派と佐幕派によるお家騒動が起きており、桂小五郎はその仲介者として宗氏屋敷(対馬藩邸)に出入りしていたのである。
柳生新陰流の剣士である吉田稔麿は隠し目付けとして桂と在京浪士との連絡役となっていた。
昼下がり、久坂玄瑞の愛人である芸妓・辰路の使う童女の鞍馬が遊郭「霊山楼」に登楼中の稔麿に文を持ってきた。
別室に待っていた辰路は・・・急報を伝える。
「みぶろ(新撰組)がおかしな動きをみせてはります」
「例の風説がらみか・・・」
「そうどすえ・・・志士のみなはんが・・・御所に火つけをなさるという噂は御存じでしょう」
「くだらん・・・御所に放火など・・・勤皇の志士がするはずがない」
「すべてはみぶろのたくらみ・・・そやけど・・・今日は枡屋のご主人をつかまえはって・・・なにやら・・・騒動を起こすという話どす・・・」
「そりゃ・・・物騒な話じゃ」
稔麿は夕暮れの河原町に戻る。
池田屋には数名の志士が集まっていた。
「なんじゃ・・・騒がしいの」
「四条の枡屋喜右衛門が新撰組に捕縛されたきに」と土佐の望月亀弥太が叫ぶ。
「取り戻さならんという話です」と長州の出身である広岡浪秀が告げる。
「桂さんは・・・」
「藩邸じゃないでしょうか」
稔麿は池田屋を出て、長州藩屋敷に向かう。
すでに洛中は夕闇に包まれている。
家中のものは桂が「宗対馬守屋敷にいる」と告げる。
稔麿は対馬藩邸に急ぐ。
夜半に漸く、桂と合流した稔麿である。
「闇の中に斥候(うかみ)の気配があります」
「そうですか・・・」
「池田屋には宮部鼎蔵殿や北添佶摩殿など同志が集まっているそうです」
「そりゃあ・・・剣呑じゃ・・・」
あわてて・・・対馬藩邸を辞した桂は・・・門で立ち止まった。
「こりゃ・・・いけん・・・」
桂は長州一の剣士である。
闇の中に立ちこめる殺気を読んでいた。
「河原町に結界が張られている」
「新撰組ですか・・・」
「いや・・・これは・・・公儀隠密が本気になっているんじゃ・・・」
「池田屋に・・・知らせますか」
「もう遅い・・・」
稔麿は銃声を聞いた時には桂に押されて地を這っている。
銃弾が対馬藩邸の壁を穿つ。
「会津の鉄砲忍びじゃ」
「とうりゃ」
稔麿は跳ね起きて柳生流風車の術を放った。
回転する稔麿の小太刀は樹上に潜んだ忍びの首を切断する。
「逃げるしかない・・・とにかく藩邸に逃げ込むんじゃ」
桂はそう言いながら藩邸とは別の方向に走り出す。
稔麿は藩邸に続く道を選ぶ。
どちらかが生き残るかもしれない・・・という選択だった。
桂は適当な商家の屋根を選んだ。
飛びあがると闇に潜む。
仮死の術で桂は屋根瓦と一体になった。
稔麿は池田屋を避けて路地を抜けた。
そこに土方歳三、斎藤一、原田左之助らの無数の新撰組隊士が立っていた。
「こりゃ・・・てごわいけー・・・生きては帰れんじゃろうーか」
「池田屋の不逞の輩はほとんど討ち取った・・・大人しく縛につきな」
歳三は無表情に言いながら・・・抜刀した。
「ふん・・・柳生新陰流殺人剣の奥義をとくとみよ」
「そんな・・・技など・・・通用せんぞ・・・そりゃ」
「太刀割りじゃ」
稔麿は歳三の刀剣を二つに折った。
しかし、その刹那、左右から必殺の槍が稔麿の胴体を貫いている。
「む」
「ふ・・・三人一組の必殺の陣じゃ・・・左右から刺されば動けまい」
「ごふっ」
「まったく・・・刀を折るなど・・・修業の成果だねえ」
「くそったれえが」
「そりゃ」
斉藤一が正面から居合を一閃する。
稔麿の首は宙を舞った・・・。
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