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2015年6月11日 (木)

心弱きもの汝の名は人間なり(堺雅人)全人類があなたの患者でも私は違います(蒼井優)

心という曖昧なものをヒトは「心」と名付けたわけである。

「心」は言葉に過ぎない。

犬や猫は複雑な言葉を持たないが・・・心は持っているらしい。

この場合の心とは「考え」とか「思い」の意味である。

犬や猫は餌を見れば「食べたい」と思うし、どうすれば餌を「食べられるか」を考える。

さらに餌を持った人間・・・たとえば飼い主が近付けば、明らかに喜びの感情を示す。

犬は尻尾をふるし、猫はニヤリとするのである・・・それはどうかな。

心の医師である主人公は「あなたとずっと一緒にいます」とか「あなたを救いたい」とか言葉巧みにヒロインに接近する。

「心」という言葉の上では通用するが・・・本当の心は言葉で存在しているわけではない。

言葉にならない心は態度で示すしかないのである。

「医師と患者」は「男と女」になってはいけないと主人公がいくら言葉を重ねても・・・男と女である現実は変わらない。

登場人物の中で・・・最も頭のおかしい主人公がついにその正体を現すのだった。

で、『Dr.倫太郎・第9回』(日本テレビ20150610PM10~)原案・清心海(協力・和田秀樹)、脚本・中園ミホ、演出・水田伸生を見た。男が女を性的に求め、女が男を性的に求めることは人間の生殖行為において極めて自然なことである。しかし、性同一性障害や、性的倒錯の精神的な病理により、それを正しいと言い切ることのできない世の中になっている。そういう個性を抑圧することは基本的人権を抑圧するからである。同時に結婚しない選択や、子供を作らない選択も否定できなくなり・・・自然な方が生きづらいところまで社会は歪みつつあるわけである。恋愛ドラマなんか見たくないという歪んだ気持ちが社会を支配し・・・男と女の自然な気持ちを嘲笑する。ある意味、このドラマはそのアンチテーゼである。なにしろ・・・主人公は「恋愛感情」を心の病と認定し、基本的に自分が恋愛することを禁じ、相手に恋愛感情をもたれたら・・・交際断行しながら・・・できれば全人類を癒したいという・・・超絶的に歪んだ人格の持ち主なのだ。

そんな・・・ヒノリンこと日野倫太郎(高橋楓翔→堺雅人)に恋をした研修医・川上葉子(高梨臨)は留学という名目で体よく海外に追放されてしまうのである。

ヒノリンの幼馴染で外科医・水島百合子(吉瀬美智子)はヒノリンを愛してしまったために・・・ずっと独身を余儀なくされているのだった。

そんな・・・ヒノリンが夢乃/相沢明良(木内心結→蒼井優)と桜の季節に路上キスしている写真が写真週刊誌「fresh」に掲載され・・・世間の下世話な関心に慧南大学病院は揺れるのである。

外科医・水島は・・・「愛しているヒノリンとドクター・ヒノリン」の間で動揺する。

しかし・・・長い歳月で外科医・水島の耐久度は恐ろしいレベルに高まっているので平気なのだ。

一方・・・愛している実の兄を・・・あらゆる女性から遠ざけようとする邪悪な妹・中畑まどか(酒井若菜)は・・・せっかく意地悪してやったのに・・・夢乃と兄が性的な行為をしていることに心の病を深めるのだった。

「こんなの・・・本当のお兄ちゃんじゃない・・・私は信じない」

ちなみに・・・まどかは夫も子供もいる・・・主婦である。

しかし・・・その描写は・・・明らかに病んでいるのだ。

円能寺一雄理事長(小日向文世)は夢乃とヒノリンの支配者として・・・飼い犬に手を噛まれた思いで憤慨する。

「どうなってんだ・・・みんな・・・金にならなさすぎるじゃないか」

「・・・」

「一体・・・あの写真は誰が撮った・・・そして誰が雑誌社に売りこんだ」

「匿名の人間から送られてきたもので・・・」

精神科主任教授の宮川貴博(長塚圭史)は言葉を濁すが、撮影者は部下の女医・矢部街子(真飛聖)である。

そして・・・雑誌社に売り込んだのはおそらく・・・兇悪な母親・菊千代/相澤るり子(高畑淳子)で・・・母親に写真を渡した夢乃が・・・写真を入手したのは・・・円能寺からである。

間抜けだ・・・みんな間抜けなのだ。

「とにかく・・・ヒノリンは謹慎」

「しかし・・・患者が・・・」

「後のことは・・・彼にまかせる」

「御意」

ヒノリンの主治医・荒木重人(遠藤憲一)が返り咲くのである。

荒木はヒノリンの先輩だが・・・ヒノリンの患者でもあった。

「先輩・・・大丈夫なんですか」

「大丈夫だ・・・」

荒木はストレスから・・・摂食障害を起こしていた。

研修医・福原大策(高橋一生)は恨みごとを言う。

「先生・・・恋愛禁止って言ってたのに・・・芸者さんとキスするなんて・・・」

「あれは事故のようなものだ・・・それより・・・荒木先輩が過食しないように注意してくれ」

「過食症なんですか・・・」

荒木は大量のお菓子を診察室に持ち込んでいた。

記者たちが殺到する病院。

「下世話な話ですが・・・医師と患者が治療と称して性的交渉を持つことはよくあるんですか・・・あるとしたら・・・うらやましいな」

「ここは病院です・・・お静かに」

ヒノリン親衛隊の一人・看護師・桐生薫(内田有紀)は必死に対応する。

一方、元芸者の夢千代/伊久美(余貴美子)の営む置屋にも押し寄せる記者たち。

テレビ番組のコメンテーターであり、ベストセラー作家であり、大学病院の医師であるヒノリンと新橋の売れっ子芸者とのスキャンダルはスキャンダルとして申し分ないわけである。

下世話なお茶の間はそういう話が大好きなのだ。

言わば歌舞伎役者の三角関係ネタのようなものだ・・・そのたとえはどうかな。

必死に憐れな夢乃(アキラ)を守ろうとする夢千代。

しかし、夢乃(ユメノ)は強靭な精神で応対する。

「ここは・・・置屋だよ・・・芸者と話したかったら花代出しな」

本来・・・ヒノリンを悪人に仕立て上げるためなら・・・記者たちの好感度をあげるべきだが・・・夢乃にはそういう悪知恵はないのだった。

ただ・・・ヒノリンを困らせてやりたいのである。

もちろん・・・愛しているから。

しかし・・・ギャンブル依存症の菊千代はひたすらに軍師金が欲しいのである。

理事長室に乗り込む菊千代。

「お前誰だ・・・」

「お忘れですか・・・菊千代ですよ」

「お前か・・・今回の件を仕掛けたのは」

「そうですよ・・・五千万円で手をうちますよ」

「お客さんがお帰りだ」

一瞬で騒動の構造を把握した円能寺だが・・・その精神に何が去来するのかは明かされない。

巨大な経済力によって円能寺もまた・・・心を腐食されているのである。

謹慎中のヒノリンを政治力にものを言わせて受診する行政府報道長官の池(石橋蓮司)・・・。

「困るよ~・・・君がいないと私はダメになっちゃうよ~」

「ご迷惑かけてすみません・・・お茶飲みますか」

「飲むよう~」

「どうしました・・・」

「板挟みなんだよ~・・・困っちゃうよ~」

ヒノリンは割り箸で池の指を挟む。

「痛いよ~」

「ですから・・・片方を折っちゃいましょう」

「え~・・・それができないから・・・困っているんだよう」

「しかし・・・一番大切なのは・・・あなた自身です」

「そうかなあ」

「じゃ・・・箸を折らないで指折っちゃいますか」

「やだよ~」

「だったら箸を折らないと・・・」

「そうかあ・・・」

円能寺は荒木とエクレアを食べる。

「せっかく・・・ヒノリンで儲けようと思ったのに・・・もう・・・君に頼むしかない」

「御意」

荒木は明らかに本心を隠しているが・・・もともと怖い顔なのでよくわからないのだった。

追い出した男を呼びもどした円能寺も・・・かなり切羽詰まっているのだ。

円能寺から金を引き出すことに失敗した菊千代は・・・置屋にヒノリンを呼び出すのだった。

夢乃を守りきれないことに憔悴し始めた夢千代も同席する。

「五千万円ちょうだいよ」

「お断りします」

「なんだよ・・・五千万円くらいいいだろう」

「あなたはギャンブル依存症です・・・病気を治すためには資金源を断つことが大切です」

「なんだい・・・娘だけじゃなく、私まで病気にする気かい」

ついに堪え切れなくなる夢千代。

「あんたは・・・いつまで自分の娘を食いものにする気だい」

「あの子は私の娘だよ・・・切っても切れない親子の縁ってものがあるのさ」

「あの子はあんたの借金返すために・・・慣れない仕事を頑張って・・・ついに病気になったんだよ」

「何言ってんだ・・・きれいごとぬかしやがって・・・あたしから円さま・・・盗ったのはあんたじゃないか」

「何を言ってるんだい」

「あたしは・・・器量だって頭の良さだってあんたには負けたさ・・・でも・・・夢乃はあんた以上の芸者になるよ・・・親の仇を娘が打つんだ」

「あんた・・・そんなことを・・・」

狂った菊千代はあることないことを口走る。

そのあることないことに付き合えば夢千代もおかしくなっていくのだった。

夢乃はその気配を察して割って入る。

「もういいよ・・・先生がその気がないなら・・・事を荒立てるまでさ・・・」

「夢乃・・・」

夢千代はユメノの狂気に傷つくのだった。

「先生もアキラのことはあきらめたらどうだい」

「私はアキラさんとずっと一緒にいると約束しましたから」

「ふん・・・できもしない約束なんてするもんじゃないよ・・・」

菊千代と夢乃は共謀して・・・記者会見を開くのだった。

「娘はあの医者に騙されて傷ものにされたんです」

そこへ・・・火元が自分であることに気がついた宮川&矢部は消火活動に乗り込む。

「乖離性同一性障害では・・・記憶に問題が発生する場合があります・・・そもそも・・・この写真はいつ撮られたものですか・・・」

「それは・・・」

「現在のあなたに・・・この時の記憶はあるのですか」

「・・・」

「答える必要はありません」と会場に乗り込むヒノリン。

「日野・・・」と宮川医師。

「日野先生・・・宮川先生は日野先生を援護しようと」と矢部医師。

「ありがとう・・・しかし、これは患者さんのためになりません」

「どういうことなんですか」とざわめく医師。

「これは医師と患者の問題です・・・守秘義務があるのでこれ以上は申し上げられません」

「そんなこといって・・・不祥事を隠蔽する気ですか」

「すべての責任は医師である、私にあります」

「夢乃さん・・・日野さんはああおっしゃってますが・・・」

その時・・・記者たちの間に立ちふさがり・・・夢乃を庇ったヒノリンの行動に・・・。

ユメノの中でアキラが目覚める。

アキラは会場から逃げ出すのだった。

「なんだよ・・・私がいるよ」と菊千代は叫ぶ。

「あなたに訊きたいことはありません」

「畜生・・・なんだい・・・あたしは夢乃の母親だよ」

しかし・・・記者たちの興味はヒノリンにあるのだった。

副病院長兼脳外科医主任教授の蓮見(松重豊)は荒木を訪ねる。

「あのことに今もわだかまっているのか・・・」

「・・・」

「過去に日野くんを巻き込むのは・・・」

「そんなことはないよ」

「しかし・・・」

「日野には・・・俺たちのような思いをさせたくないんだ」

「円能寺は・・・本当は精神科を中心とした新病院の院長に日野を据えるつもりだった」

「・・・」

「それがダメになるとお前・・・そして今度は俺だ」

「・・・」

「そういうことに・・・あいつを巻き込みたくない・・・あいつには患者と真摯に向き合ってもらいたい」

「荒木・・・」

しかし・・・荒木の心身症はついに荒木に出血を強いるのだった。

吐血した荒木は過食症による胃潰瘍を発症していた。

「俺もいたんだよ・・・彼女の葬儀に・・・」

「あれは俺の責任だ」

「違う・・・俺は・・・彼女を愛していた」

「えええ」

被害妄想と短期記憶障害の病状で受診した里中(町田マリー)を診察した荒木は逆転移により・・・彼女に恋愛感情を抱いてしまった。

「本当は・・・別の病院での手術を勧めるべきだった・・・しかし・・・俺は院内のしがらみに負けて・・・愛する女を売ったんだ・・・」

「荒木・・・」

ドクターX的なものになった外科医・水島百合子は緊急手術で荒木を救命する。

「先輩・・・」

駆けつけたヒノリンに荒木は告げる。

「優秀な精神科医であるためには優秀な主治医が必要だ・・・俺は・・・今、ひとつの山を越えた・・・お前も越えてみろ・・・」

「山ですか・・・」

「まあ・・・とにかく・・・お前はお前の患者に向き合えってことだ・・・」

ヒノリンの親衛隊長として・・・日野家に食糧支援する百合子・・・。

「あの時・・・桜が咲いていたから・・・彼女が患者になる前よね・・・」

「そうだ・・・」

「あの時・・・キスしたのは・・・ユメノさんだったのかしら・・・それともアキラさん」

「さあ・・・まだ・・・病気に気がついていなかったから・・・」

「大事なことよ・・・」

「しかし・・・あれは事故みたいなもので・・・」

「それは・・・あなたの逃げ口上じゃないの・・・」

「え」

「お母様のことがあるから・・・あなたは自分に恋愛を禁じている・・・」

「医師として・・・恋愛感情は・・・」

「いいわ・・・でも・・・これだけは覚えておいて・・・女にとってキスは二通りあるの・・・一生忘れたくないキスと死にたいくらい忘れたいキス・・・」

「水島・・・」

「私・・・帰る・・・明日早いから・・・」

去って行く百合子をヒノリンは追わない・・・。

その頃・・・夢乃の不在を埋めるために小夢(中西美帆)が懸命にお座敷を務める。

「池さま・・・こちら・・・手のなる方へ」

「小夢・・・お前はかわいいなあ・・・」

小夢が去ると池は割り箸を割るのだった。

「新病院の件は・・・あきらめてくれ」

顔色を変える円能寺。

「大臣の汚職が明るみに出そうなんだ・・・そっちにも査察が入るかもしれん」

「ふざけんな・・・元々・・・そっちが持ちかけた話じゃないか・・・今までいくら使わされたと思ってんだ・・・俺はお前に小遣あげる親戚のおっさんじゃねえぞ・・・馬鹿にしてるのか」

ついに・・・逆上する円能寺。

円能寺もまた・・・ある種の病に冒されているのだった。

円能寺は自分を全能の神様だと信じているのである。

大きすぎる経済力を持った人間が陥りやすい病である。

彼らは思う。金で買えないものはないと。だから・・・自分は神だと。

帰宅しない夢乃を案じて憔悴する夢千代。

「菊千代があんなことを思っていたなんて・・・私のせいで・・・夢乃は」

「あなたのせいじゃありません・・・夢乃さんはきっと帰ってきますよ」

夢乃は夕暮れの階段に腰掛けている。

百合子はヒノリンを電話で呼び出す。

「日野先生・・・急患です」

「しかし・・・僕は謹慎中で・・・」

「先生でないとダメなんです・・・特別な患者さんです」

「夢乃さんが・・・」

ひのりんは診療室に駆けつける。

夢乃は箱庭療法の砂を撫でていた。

「おまたせしました・・・」

「先生・・・アキラを消してやってよ・・・」

「ユメノさん・・・ユメノさんとアキラさんはひとつになれますよ」

「だけど・・・アキラがいると・・・うまくいくこともうまくいかないんだ・・・」

「あの時・・・アキラさんを感じたのですか」

「よくわからない・・・アキラが・・・私の邪魔をしたんだ」

「それは・・・アキラさんとユメノさんが融合し始めたってことです・・・あなたの病気は快方に向かっているんですよ」

「先生・・・どうして、アキラがいいんだい」

「ユメノさんもアキラさんも大切な人格です」

「マザコン同志だから・・・」

「・・・」

「ふ・・・私、自分で地雷を踏んじゃった」

「ユメノさん」

「つまり・・・それって自爆じゃないか」

「ユメノさん・・・」

「じゃ・・・先生・・・アキラの恋を叶えてやっておくれよ」

「え」

「アキラはね・・・生まれて初めて・・・恋をしたんだよ・・・先生に・・・」

「私は医者です・・・患者とは・・・男と女の関係にはなれません」

「ずっと一緒にいてくれるんじゃなかったのかい」

「もちろん・・・医者として・・・」

「それじゃ・・・ダメなんだよ・・・アキラの苦しみは終わらない・・・また裏切られたってことじゃないか・・・先生を信じて・・・また裏切られたってことなんだよ」

「・・・」

「じゃ・・・さよなら・・・もう・・・お会いしません」

去って行く夢乃。

ヒノリンは苦悩する。

(私は医者だ・・・私は恋愛はしない・・・彼女は患者だ・・・恋してはいけない相手だ・・・それで・・・いいのか)

ヒノリンの心の殻は破れた。

(いやだ・・・いやだ・・・彼女と・・・別れるなんて・・・耐えられない)

ヒノリンは走りだす。

百合子は驚いてヒノリンを見る。

しかし・・・ヒノリンの目に百合子は映らない。

ヒノリンが求めているのは夢乃だけ。

気配に気がついた夢乃がふりかえろうとする。

ヒノリンは夢乃を抱きしめる。

ヒノリンは夢乃をつかまえた。

求めあう心と心。身体は心に従って一心同体となって・・・。

ユメノとアキラは一つになって・・・。

ヒノリンとユメノとアキラの三角関係の終了。

唖然として二人を見守る・・・病院の人々・・・。

これは・・・もう・・・フィナーレだよな。

来週は長いエピローグか・・・。

それとも・・・ヒノリンを・・・ユメノが手玉に・・・。

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