世のよし悪しはともかくも誠の道を踏むがよい~戦う回天の詩を戦わない輩が嗤うだろう(井上真央)
良くも悪くも幕末の長州を描くことは好戦的である。
十九世紀の中盤、西欧列強の植民地主義は旺盛だった。
暗黒大陸、インド亜大陸、新大陸は続々と彼らに征服されていった。
東アジアでも、清帝国がすでに半ば侵されている。
日本では攘夷が提唱され・・・とにかく戦いを始めることになった。
長州や薩摩はその先達だったのである。
しかし・・・太平の眠りの中にあった日本の軍事力は圧倒的に劣勢であった。
現実を知る幕府は開国を決断し、現実を知らない朝廷は攘夷を迫る。
そのうねりの中で突出した長州は・・・幕府という体制の中で袋叩きに遇う。
椋梨藤太に代表される長州恭順派は・・・無条件降伏をした大日本帝国の国民の姿そのものである。
幕府という権威にひたすら追従し・・・長州藩そのものがなくなっても戦を回避するのが大前提という姿勢。
当然のことながら・・・現代人の多くは・・・それを肯定するべき衝動にかられるわけである。
そもそも・・・松下村塾の思想は・・・平和を打ち砕くテロリストのそれではないか。
そんなことをして・・・百害あって一利なしではないか。
しかし・・・恐ろしいことに・・・恭順派を追放した長州過激派は・・・そのまま・・・勝ち続け・・・ついには幕府を瓦解させてしまうのだ。
さらに・・・清帝国を打破し、ロシア帝国にも辛勝してしまう。
そして・・・第一次世界大戦では勝ち組として残るのである。
やがて・・・大日本帝国の命脈は・・・全世界を敵に回して尽きる。
その流れの中で・・・あの時、長州が滅びていればよかったのだと叫ぶことは・・・。
あまりに単純すぎるわけである。
弱肉強食と平和共存の両輪によって今も歴史の歯車は回転している。
強者に占領され・・・あらゆる反乱を封じ込めて維持されてきた平和・・・。
今、それは・・・静かに綻び始めている。
自分たちが戦わなくても・・・他の誰かが戦いを始めるからである。
米国と同盟して中国を叩くか・・・中国と同盟して米国を叩くか・・・そういう非現実的な選択が・・・幕末の長州では成立し・・・ついに「敵」をうち果たすのである。
現代人としては唖然とするしかないのだなあ。
それはもはや魔術的と言ってもいいだろう・・・。
で、『花燃ゆ・第33回』(NHK総合20150816PM8~)脚本・宮村優子、演出・安達もじりを見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は加筆修正予定の晩年の杉百合之助描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。長塚京三渾身の揺れる老衰の姿・・・揺れる親を持つお茶の間の皆さんは落涙必至・・・。まあ・・・ドラマの内容がないようだったとしても・・・。とにかく・・・長州は客観的に見れば絶体絶命ですからな。無条件降伏を受け入れた後で・・・逆襲に転じ・・・江戸を陥落させるなんて・・・想像するのも恐ろしい本当の歴史でございますからなあ・・・。そのありえない展開が現実化するところを面白おかしく描いてもらいたいものですよねえ。
元治二年二月七日(1865年3月4日)、萩にて毛利元徳の正室・銀姫は長男・興丸(後の毛利元昭)を出産。中旬に恭順派の椋梨藤太は萩を脱出。岩国藩(藩主・吉川氏)を目指すが津和野藩(藩主・亀井氏)領内で追手に捕縛され野山獄に投獄される。幕府は長州の処罰が不徹底であることから藩主親子の江戸拘引を画策するが、幕府の体制強化を望まない朝廷および薩摩藩は京都所司代へ執行猶予を沙汰する。長州周辺国もこれに従う。二月二十日、藩主親子は藩内の擾乱を鎮めるために藩士を集結させ恭順政策の停止を宣言。三月、諸隊を正規軍として布告した。毛利敬親が萩に、世子・毛利定広が山口にて藩士の融和をはかる。四月、敬親も山口に戻り、再び、山口が長州藩の居城となる。高杉晋作は下関開港の準備を進めるが攘夷派か反対し、暗殺の動きを感知したために井上聞多と出奔。元治二年四月七日、慶応元年に改元。慶応元年(1865年)五月、亡命中の桂小五郎が伊藤俊輔によって下関に帰還する。桂は藩主により用談役に就任。村田蔵六による近代洋式軍隊の創設が着手される。閏五月、坂本龍馬は最初の薩長同盟会議として下関における桂小五郎・西郷隆盛会談を設定するが不調に終わる。閏五月二十八日、椋梨藤太処刑される。
「なんでまた・・・逃げるんじゃ・・・とにかく山口に戻ろう」
瀕死の重傷から完全に復活した井上聞多が船上で言う。
癸亥丸は高杉晋作が完全に私物化している。
「あほか・・・下関開港を山口の藩庁がしぶっとるんじゃ・・・長州藩が長府藩から下関を取り上げるのは物騒じゃなんじゃと・・・難癖つけておる・・・結局、日和見根性よ・・・わしがなにかしでかすにちがいないと臆している」
「しかし・・・晋作、洋行費用の千両はどうするつもりじゃ」
「逃走資金じゃ」
「え・・・これ・・・使っちゃっていいのか」
「いいも悪いもない・・・幕府がまた攻めてきて・・・切羽詰まったら・・・また泣きついてくるに決まってる・・・その間・・・命の洗濯しても罰は当たるまい」
「どうするんじゃ」
「まず・・・下関で芸者のおうのを拾って・・・それから伊予で温泉三昧じゃ」
「・・・」
銀姫母子の伴をして萩から山口へ向かう美和は晋作と聞多の珍道中にあきれ果てた。
美和が山口に着いた頃、晋作は道後温泉を出立し愛人のおうのと琴平参詣を果たしていた。
琴平では晋作は子分千人と言われる博徒の長、日柳燕石の屋敷に逗留している。
軍師金千両を元手に大博打を打っていたのである。
日柳燕石は大胆な晋作の張りっぷりに感嘆していた。
「お若いの・・・あんた・・・大した度胸やなあ・・・」
「度胸もくそもない・・・金なんて・・・いくら賭けたって・・・たかが知れてる」
「そうかいな・・・」
「そうさ・・・もうすぐ・・・国を賭けての大博打が始るんだ・・・俺に賭けるなら今だぜ」
「こりゃ・・・たまげた・・・」
しかし・・・美和は知っていた。
晋作はすでに喀血していたのである。
回天の時は迫っていた。
美和は愚図る興丸のために亡き夫の作った数え唄を歌う。
「ひとつとせ~・・・」
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