不発弾のブルースを聴かせて(松山ケンイチ)わたしの大切なあの人へ(満島ひかり)
他人の心を想像できる人が善人とは限らない。
苛められて苦しんでいる人の心が想像できなくて苛めている人はむしろ少ないのではないか。
その苦しみこそが喜びであり・・・もっと苦しめてやろうと生きがいを感じるのが人間らしい。
苛めることを苦痛に感じながら苛めをやめられないという心理を想像することもできるが・・・そういうことで苛められる苦痛が緩和するとは限らない。
しつけられた人々が穏やかに過ごす世界。
のびのびと育った人々が勝手気ままに過ごす世界。
理想の世界は常に裏側に地獄を伴っている。
国家が共同体とすれば・・・歴史を共有することは相互理解を深めるひとつの武器となるだろう。
しかし・・・歴史を共有できないように・・・様々な障害が設置されているのが敗北した奴隷たちの宿命なのである。
弱いものを併合し、強いものに征服された共同体の子孫たち。
せめて・・・誰もがその腕を縛られていることだけは・・・暗黙の了解として共有したい。
そういう話なのである。
で、『ど根性ガエル・第6回』(日本テレビ20150815PM9~)原作・吉沢やすみ、脚本・岡田惠和、演出・菅原伸太郎を見た。浅草で灯篭流しが行われた終戦の日にうなぎを食べる幸せがある。東京の街は少し静かなのに人出があってはしゃいだ気分にもなる。祈りと高揚と浴衣を着た外国人観光客。なにしろ・・・あれから七十年たっているのだ・・・風化を許してはいけないと誰かが叫んでも・・・千年後には・・・一行あるかないかの話なんだな。
階下でざわめきがある。
回り続ける扇風機のノイズに混じってさざめく人間の温もり。
惰眠をむさぼるひろし(松山ケンイチ)の夢から現実への帰還。
お茶の間のにぎやかさに誘われてひろしは起き上がる。
小さな卓袱台を囲む・・・京子(前田敦子)とおばあちゃん(白石加代子)、ゴリライモこと五利良イモ太郎(新井浩文)、町田校長(でんでん)と梅さん(光石研)・・・。そして台所には母ちゃん(薬師丸ひろ子)とノースリーブにエプロンのよし子先生(白羽ゆり)・・・ほぼ全員集合である。
「なんの騒ぎだよ」
「バカだね・・・この子は・・・昨日話しただろう」
「ひろしは・・・人の話を聞かないからなあ」
母ちゃんの胸元でピョン吉(満島ひかり)が嘆く。
町内で先の大戦の名残の不発弾が発見され・・・「不発弾の処理および除去」の作業が朝霞駐屯の陸上自衛隊・第102不発弾処理隊によって行われているのである。
不慮の事態に備えて・・・周辺住民には避難指示が出ている。
京子のアパート、ゴリラパン工場、宝寿司、中学校はすべて避難地域に入っていたのである。
どんだけご近所なんだよ。
避難地域を免れたひろしの家に全員集合していたのだった。
ちなみに・・・周辺の警戒に狩りだされた五郎(勝地涼)は警察官として任務についている。
ひろしは朝から京子ちゃんと一緒という状況に激しく勃起するのだった。
母ちゃんに握り飯を食べさせてもらいながらピョン吉は素朴な疑問を口にする。
「不発弾ってなんだい?」
ひろしの母ちゃんは最年長で七十二歳の京子のおばあちゃんに解説を求めるのだった。
ちなみに・・・町田校長は六十四歳である。
「私だって戦争が終わる二年前に生まれたので・・・戦争のことはほとんど覚えていないんだけど・・・不発弾は・・・鬼畜米英が日本人皆殺しのために投下した焼夷弾などの爆弾のうち・・・様々な不具合で爆発しないまま・・・放置され・・・忘れられた存在なのよ」
「だそうです」
「爆弾なのかい」
「爆発しなかった爆弾なのよ・・・」
「処理されるとどうなるんだい」
「爆発しなくなるのよ・・・場合によっては・・・あえて爆発させちゃうの」
「どうして・・・」
「誰もいないところで爆発させれば・・・誰も怪我しないし、死んだりもしないから」
「爆弾は・・・爆発しても死に・・・爆発しなくても死ぬ・・・可哀想な奴だなあ」
「まるで・・・ひろしくんみたい」とひろしを甚振らずにはいられない京子だった。
「ひでえな・・・俺は不発弾かよ」
「不発弾男よねえ・・・」と合意する一同。
母ちゃんは・・・ピョン吉が「死」に対してカエルにしては敏感になっていることに気を揉むのだった。
不憫だったのである。
「オレ・・・不発弾を見てみたい」
「しょうがねえなあ」
物干し台から凧揚げ風にピョン吉シャツを浮上させるひろし。
枯れたひまわり。青空の下の東京スカイツリー。夏の終わりの入道雲。
のどかな光景を見下ろすピョン吉。
タコ糸が切れて浮遊するピョン吉は風に飛ばされる・・・。
「ひろし~・・・たすけてくれよ~」
しかし、ひろしは呑気にスイカを食べるのだった。
不発弾は路地裏に佇んでいる。
アンテナに引っかかったピョン吉は不発弾を見下ろした。
「お前が不発弾かい」
「ソウダ・・・ワタシハハレツシテヒトヲコロスタメニウマレテキタ」
「恐ろしい奴だな」
「ダガ・・・オレハカタワダッタノデヤクタタズダ」
「そうかい・・・そいつは残念だったな」
「イイノサ・・・ハレツスルモバクダン・・・ハレツシナイノモバクダンダ」
「ふ~ん」
「ヒトトシテウマレテバクダンニナルヨリマシダ」
「そういうものかい」
「ソウイウモノサ」
不発弾は不発だった一生を終えた。
京子が・・・五郎が・・・ゴリライモが・・・そしてひろしが飛ばされたピョン吉を捜し出す。
よし子先生のノースリーブのセクシーな肩を鷲掴みにしてプロポーズしようとした梅さんは・・・「ケケケケケケ警戒警報解除です」と報告するのだった。
どんなプレーなんだよっ。
政治の季節・・・立候補したゴリライモは応援演説をひろしに依頼する。
ひろしはためらうが・・・引き受けると徹夜で演説のための原稿を執筆するのだった。
しかし・・・風邪をひいて声が出なくなってしまう。
シャツを後ろ前に着て・・・ゴースト弁士のぴょん吉におまかせするひろし・・・。
「ゴリライモと私は幼馴染です・・・昔から・・・喧嘩ばかりしていた・・・宿敵です・・・しかし・・・ゴリライモにもいいところがあると・・・認めざるをえない・・・ゴリライモは乱暴者ですが・・・昔から弱いものいじめはしませんでした・・・戦う相手は・・・常に自分より強い・・・ひろしです」
「・・・」と聴衆一同。
「政治家が何をする人なのか・・・おいらは知りません・・・でも・・・弱い人を守るのが政治家の仕事だとしたら・・・ゴリライモには政治家になる・・・資格があると思います」
「・・・」とゴリライモ。
「そして・・・おいらは・・・ひろしに隠していることがありました・・・顔を合わせたら・・・ひろしが・・・どんな顔をするのか・・・こわくて・・・言えなかった・・・今は・・・ひろしの顔が見えないので・・・いい機会です・・・ひろし・・・ごめん・・・おいら・・・もうすぐ・・・死ぬかもしれない」
「・・・」とひろし。
落魄するピョン吉の姿・・・。
息を飲む聴衆・・・。
「ピョン吉・・・何を言ってんだよ」
「だまっていてごめん・・・殴ってもいいよ・・・ひろし・・・」
シャツを脱いだひろしの前で半分はがれかけたピョン吉の無惨な姿が揺れる。
ひろしの声なき叫び・・・。
喜びの音はゆがんで哀しい音まで届かない。
いつも中途半端なブルースが響く。
関連するキッドのブログ→第5話のレビュー
| 固定リンク
« お嬢さん、お入んなさい(芳根京子)トレイントレインもモータリゼーションの波にのまれて(吉本実憂)美女と野獣(神田沙也加) | トップページ | 世のよし悪しはともかくも誠の道を踏むがよい~戦う回天の詩を戦わない輩が嗤うだろう(井上真央) »
コメント
キッド様、暑中お見舞い申し上げます
私は、北三陸よりも北に住んでいますので、暑い地方の皆さまには本気でお見舞いを申し上げたいです。すみません、もう涼しい風が吹き始めてるもので…。
ど根性ガエル、3話くらいまでは超~楽しく見ていたんですけど…
あまりに切なすぎる~。
塩加減を間違えている~。
キャストは最高だと思います。満島ピョン吉は異常に可愛いし、松ケンもかっこいいし、あっちゃんも「下町の美人」でシャープな感じがイイですね。
だいぶ前の「すいか」というドラマに、雰囲気がすごく似てるなと考えつつ、白石加代子さんの圧が強すぎるせいかと思ってたら、なんとプロデューサーが同じでした!
河野英裕さんは、「今日の日はさようなら」「弱くても勝てます」も手掛けていたんですね…
美しい死、美しい敗北。その美学が、平面ガエルにも発揮されようとは…。
もうホント、すごく好きなんですけど、あと少しバカっぽさを足して欲しいのです~
投稿: なつ | 2015年8月16日 (日) 20時52分
河野英裕といえば名物Pですからねえ。
ある意味で・・・詩人ですねえ。
脚本家や演出家を問わず・・・ポエムにしてきますから。
「すいか」
「野ブタ。をプロデュース」
「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」
「セクシーボイスアンドロボ」
「Q10」
「妖怪人間ベム」
「泣くな、はらちゃん」
ああ・・・ポエムですねえ。
びょうびょうと淋しい風が吹いてますな。
甘くせつなく静かで涼しい風が吹いて行くのですな。
人間なんて・・・どんなにがんばって
どんなにはしゃいでも
いつか・・・必ず消えて行く。
だから・・・いいんじゃないの・・・。
まさに・・・爽やかな負け犬根性ここにありでございます。
まあ・・・わんぱくでもいいたくましく育ってほしい・・・という親心の真逆の精神。
うっとりするしかありません。
そして・・・あんたも好きねえ・・・と言うしかないのでございます。
投稿: キッド | 2015年8月17日 (月) 02時04分