三瀬川世にしがらみのなかりせば君もろともにわたらしものを(井上真央)
勝負事は終わってみなければわからないという言葉がある。
人生という勝負はかならず「死」で終わるので・・・ある意味、ドローと言える。
最後から二番目の徳川将軍の正室、和宮は「(当時の)今上天皇の妹であり、将軍の妻であるという立場さえなければ・・・夫と一緒に三途の川を渡りたいものだ」と第14代征夷大将軍・徳川家茂の病没を悼み、詠んでいる。
夫の後を追って死にたいほどの夫婦愛というものがうっとりさせるわけである。
なにしろ・・・ほとんどの夫は後を追ってもらえないからである。
もちろん、和宮も夫の死後、十年ほど永らえる。
それでも・・・夫婦の間に通う情愛は現代でもそこはかとなく通じるものがある。
男尊女卑の時代とはいえ・・・ここまで身分が高いと・・・女性といえども賤しくはないわけである。
幕末の一般の女性も・・・夫婦ならば夫を愛し、浮気されれば嫉妬する。
ただし・・・その表現の仕方はある程度抑制されるわけである。
後継者出産が絶対条件なので・・・側室がいるのは醜聞にはならないのである。
そのあたりの機微を伝えて行くのも歴史を題材にとったドラマの使命であると思う。
戦争である以上、戦死者はつきもので・・・第二次長州征伐でも多くの女たちが和宮と同じ気持ちを抱いたはずである。
そういう意味で・・・この作品は・・・少し物足りない。
後継者を生んだ女を・・・後継者を生めなかった女が慰めるというのは少し歪んだ情景と言える。
で、『花燃ゆ・第35回』(NHK総合20150830PM8~)脚本・金子ありさ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに人生の終盤で一瞬の輝きを見せる軍神・高杉晋作の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。うっとりでございますな。何度も書いていますが「孤独」とは幼くして親がなく年老いて子がない状態を示す言葉。孤高とは親を失くして高みを望む姿勢でございます。高杉晋作は立派な親があり、いつも晋作を心配しているわけですが・・・その親をなかったものとして人跡未踏の高山に挑むような行動に出るので庶民は圧倒されるわけでございます。突拍子もない言動、常識を越えた行動・・・そういうものを憎む一般男性たちに命を狙われつつ、やるべきことをやると寿命が尽きる。なんてスマートなんだ・・・でございます。まあ・・・いろいろとおかしな設定の中で・・・晋作の妻に晋作を讃える主人公は素晴らしかったと思うのですな。もう・・・それ以上はきっと高望みというものだと思う今日この頃でございます。しんみりしちゃったものなあ・・・どんだけ高杉晋作が好きなんだよ・・・。
慶応二年(1866年)二月、唐津藩主(世嗣)で幕府老中の小笠原長行が広島に入る。長州支藩の藩主を召喚するが拒絶される。長州は挙国(藩)一致体制に入っていた。三月、毛利敬親の名代・宍戸備後助が小笠原と交渉を開始する。四月、小笠原は長州に「最後通告」をして五月末を期限と定める。薩摩藩は幕命による出兵を拒否。五月、幕府軍は芸州口、大島口、石州口、小倉口の長州境界線に兵力を結集させる。六月、伊予松山軍(藩主・松平勝成)は大島に上陸、住民を虐殺。幕府海軍の巨艦・富士山丸(排水量1000トン)に対し高杉晋作は丙寅丸(推定排水量100~300トン)で特攻、機関不調の富士山丸は退避。長州艦隊は下関戦争で西洋艦隊との実戦を経験しており、蒸気船の丙寅丸、癸亥丸、帆船の庚申丸、丙辰丸の四隻で艦隊として活動したのに対し、実戦経験のない幕府海軍は艦隊として統制が不足していた。海援隊の蒸気船ユニオン号(乙丑丸)が長州側に参戦すると制海権は長州軍が完全に握ることになる。世良修蔵の第二奇兵隊が大島に進撃し、幕府軍は撤退する。芸州口では毛利親直の遊撃隊が彦根藩軍(藩主・井伊直憲)と高田藩軍(藩主・榊原政敬)を新式銃による近代戦法で壊滅・敗走させる。徳川譜代の雄・井伊・榊原の敗北を受け広島藩(藩主・浅野長訓)は出兵を拒否。石州口では大村益次郎が清末藩軍(藩主・毛利元純)と共に浜田藩軍(藩主・松平武聰)を急襲、浜田城および要所の石見銀山を占領。七月、小倉口では制海権を奪った長州軍が山縣有朋の奇兵隊で上陸戦を開始。佐賀藩は出兵拒否し、熊本藩は撤退。総督・小笠原長行は小倉城に孤立する。二十日、徳川家茂が病没し、小倉城は陥落。後詰として出陣した徳川慶喜率いる幕府軍は撤退を余儀なくされる。ここに第二次長州征伐(長幕戦争)は長州軍の圧勝に終焉する。
遊撃隊の主力はマタギと呼ばれる狩猟家たちである。昔ながらの火縄銃で猟をしていた男たちは射程距離が10倍以上のミニエー銃を与えられ、たちまち、戦闘技術を習得した。
待ち伏せを得意とする遊撃隊の戦法は地の利を得た防衛戦で無敵の力を発揮する。
行軍する幕府軍は射的の的にように殲滅されるのだった。
幕府太平の間に様式化した幕府軍の諸将の軍法は・・・鉄砲隊を迅速に散開させることも出来ず、右往左往する。海岸線を進軍すれば長州艦隊の艦砲射撃の餌食になるのである。
瀬戸内海の小島・・・坂本龍馬の指揮する科学忍者隊の秘密基地では長州海軍の旧型船舶が次々と改造され、三田尻に進出する。
小倉口から脱出する幕府艦隊は敗残兵を乗せ、旗艦・富士山丸を中心に瀬戸内海の難所を航海していた。
その背後に海援隊の亀山号、鶴川号の二隻の潜水艦が浮上する。
「小笠原長行様が尻尾を巻いて逃げちょる」
坂本龍馬は大笑した。
「まあ・・・逃がしておけ・・・やがて・・・日本国の貴重な戦力となる軍艦だ」
蒼ざめた顔で高杉晋作が微笑む。
「いや・・・せっかくなので・・・最後尾の一隻は・・・標的艦になってもらうきに」
「何をするのだ」
「技術部が開発した新型兵器の実験じゃ・・・」
「新型兵器・・・」
「そうじゃ・・・名付けて魚雷じゃ・・・」
「魚雷?」
「蒸気機関で発電し、蓄電池による推進機関を備えた鉄の筒を泳がせるんじゃき」
「鉄の筒が泳ぐのか?」
「そりゃあもう・・・かつおのごとき・・・すぴいどじゃ」
「すびいど・・・」
「速さのことじゃ・・・魚雷は目にもとまらぬ速さじゃき」
「坂本さんは・・・面白きことを考えつくのう」
「論より証拠じゃ・・・艦首発射管・・・準備」
「準備よし」
「発射じゃ」
「発射しますき」
轟音とともに亀山号から魚雷が射出される。
白い航跡が前方に現れる。
逃げる幕府の蒸気線に一直線に向かっていく魚雷。
しかし・・・それは寸前で海中に消え・・・直後に爆発して水柱をあげる。
「あちゃあ・・・失敗じゃ」
「・・・」
「まだまだ改良が必要じゃのう・・・」
「まあ・・・幕府の船にとっては・・・命拾いでよかったといえますな」
「高杉さんは優しいのう・・・」
龍馬は無邪気に笑った。
オーストリア帝国海軍が圧縮空気による魚雷の開発を公式発表したのは1866年12月のことである。
魚雷が実用化されるのはその十五年後だった。
関連するキッドのブログ→第34話のレビュー
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コメント
「もし幕末男子のマネージャーが『食の軍師』を読んだら」
まさか奥御殿に行ってからの展開を考えずに屋根の上のキービジュアル作ったわけじゃないですよね。脳内吉田松陰が崖の上から命令出すような展開を一年前から考えていたんですよね(´д`)。ね?
幕府vs松陰の妹 …… 妹の勝ち。
でも妹ってんなら飯豊まりえでお願いします。『あすなろ三々七拍子』ではピンとこなかったけど、一方『アルジャーノンに花束を』はやりすぎだと思っていたけど、朝からドンぴしゃ((c)中島悟)。ちょっと隠し玉すぎる。ふるさと納税ならぬ、受信料の配分を視聴者側に決めさせてほしいヽ(`д´)ノ
もうどうにでもなぁれ的脱線失礼しました。
投稿: 幻灯機 | 2015年9月 1日 (火) 22時05分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
キッドはオリジナルなんかこの世にはないと考えますので
アレなんですが・・・。
「東京バンドワゴン」のことをつい考えてしまうのですな。
http://www.ntv.co.jp/bandwagon/
このリンクが生きているうちに
アレは・・・
エンブレム的な問題になるのでは~と
ずっと密かに危惧しておりますぞ。
キッドの妄想では
吉田松陰は未来観測者・・・。
杉文はテレパシストなので・・・。
現在のストーリー展開は
ほぼそのまんまで妥当と考えています。
歴史スペクタルが期待できない以上・・・
鞠とか雅とかで
萌え~になれればそれでよしでございますよ。
ふふふ・・・飯豊まりえにもそれなりに魅力がありますな。
最近・・・「じみせん」と言う言葉を思いつきました。
地味な女専門というカテゴリでございます。
幻灯機様は完全にカテゴライズされておりまする。
投稿: キッド | 2015年9月 1日 (火) 23時07分
やっぱり高杉さんはかっこいいですな(^^♪このドラマやはり文さんよりも松陰先生が主役に始まり、高杉さんと伊之助さんの二人に先生の死後バトンタッチでよかったのじゃない?と思います。文章から察するにキッドさんも高杉さん(実在の)がお好きなのかな?脚本というよりやはり企画の段階で何か間違ってましたよねこのドラマ(;^ω^)
このドラマの高杉さんもカッコいいことはカッコいいのですが、やはり何を考えて動いて何を目指して行動してきたのかの描写が薄いですからね。文さんが主役だとどうしてもそっちに出番とられるし。
ちなみにキッドさんは幕末の登場人物で好きな人物を上げるとしたら、ベストスリーは誰ですか?私の周りではやはり竜馬さんや土方歳三あたりが人気っぽい印象ですが。
日本がどういう風に変わるかそれとも変わらないのか先行き不透明なところは幕末と現代は通じるところがなくもないし、実際は明治維新以降の日本は現代の日本人が思っているほど明るいものではなかったと私は思っていますが、やはり若者が集まって時代を動かしたという意味ではロマンを感じますよね。
いろいろ騒がれている今だからこそ世の中を変えるということはどんなことなのか考えさせられるドラマにしてほしかったなと思っています。まあその前に今はオリンピックが無事に開催できるようにまずはしないと(^^;)
投稿: 出雲 | 2015年9月 2日 (水) 01時04分
~~☀~~出雲様、いらっしゃいませ~~☀~~
まあ・・・杉文を主人公にするならするで
兄を幕府に、夫を薩摩と会津に殺された女の
時代に翻弄する姿を描くのがストレートだったと思います。
歴史スペクタクルを描くなら・・・語り部として
杉文を織り込んでいくのもありでしたな。
歴史ファンタジーと化した本作・・・。
それなら魔法を使うくらいでよかったのに・・・。
まあ・・・とんでも大河としてキッドは
それなりに楽しんでおりまする。
高杉さんをもてあます高杉(父)はわりと
丁寧に描かれていたような気がします。
幕末登場人物ベスト10・・・そそりますな。
甲乙つけがたいですが・・・。
①勝海舟
②西郷隆盛
③坂本龍馬
④篤姫
⑤高杉晋作
⑥井上聞多
⑦吉田松陰
⑧近藤勇トリオ
⑨岡田以蔵
⑩大村益次郎
・・・こんな感じですかねえ。
新撰組では・・・近藤勇のおバカな感じがそそりますな。
沖田土方も加えてトリオでランクインです。
世の中というものはいつだって同じようなものと
キッドは考えています。
オリンピックをめぐるドタバタは
町内会のお祭りレベルですな。
人の顔色うかがうことがベースの人々が
上にたつとろくなことがない証でございます。
まあ・・・基本的に主役は
アスリートなので・・・
主催者はおもてなしの心を忘れないでもらいたい。
利権とか・・・嫉妬とか・・・
そういうネガティブな要素が
だだもれなのはお粗末ですが・・・
五輪開催に反対の人も多いので
決まったことにうだうだ言わない潔さが求められます。
まあ・・・70%直下型が
いつくるのか・・・そこが一番問題ですな。
復興支援と五輪の美しいリンクもそれなりにうっとりすると考えます。
投稿: キッド | 2015年9月 2日 (水) 07時28分
文さんが語り部いいですね♪文さんは主役じゃなくて語り部のほうが良かったかもしれません。それにしてもキッドさんの好きな幕末の人物半分は長州藩ですな。
長州じゃないところでは一位の勝さんは私も好きですよ。竜馬さんや新選組の人たちは司馬遼太郎先生の小説の影響でファンが増えましたよね。篤姫は大河の影響が大きいですね。高杉さんは小説やドラマではそこまで有名なのはなかったかな?
でも龍馬伝ではかっこよく描いてもらえてましたね。それに比べると久坂さんはなんか小説でも大河でもあまりあんまり恵まれてないですな。このドラマでも何を考えて動いていたのか描写不足だし。まあ、薩摩の人たちはもっと描写不足だけど。
でもキッドさん井上馨が上位とは珍しいですね。あまり英雄のイメージがないのと、むしろ明治になってからの汚職政治家のイメージが強くてあまり上位にあがることが少ない人ですから。実際には人間的な魅力は結構あったみたいなんですけどね。それとも好きなのは幕末の時限定かな?
オリンピックはたしかにちょっとこの時代の幕府の役人みたいな人たちもちらほら見えますな。でもキッドさんの言う通り主役は選手たちだし、国民もいまさらオリンピック返上しろとか言ってないで、どうしたら次の段階の進めるか考えるいい意味での前向きさが求められているのかもしれません。最初から反対だったなら決まる前に死ぬほど反対すればよかったのですしね。
投稿: 出雲 | 2015年9月 4日 (金) 12時54分
~~☀~~出雲様、いらっしゃいませ~~☀~~
文から美和へ・・・名は体を表すといいますから
脚本家たちがこの名前の変化にロマンを感じていることは妄想できます。
兄や夫の影から光へと変貌した展開なのでしょうね。
まあ・・・お茶の間に伝わってるかどうかは別として。
小劇場的なドタバタなら・・・こういう展開もありでしょうが
大河ドラマとなると・・・なかなかねえ。
勝海舟は江戸っ子ですし・・・冒険者だし・・・
黒幕ですからね。
幕末で最も感情移入できる人物です。
西郷隆盛は辺境の人ですし、爆発的だし、悲劇の英雄ですからなんともうっとりでございます。
坂本龍馬は幕末の青春スター・・・。
このベスト3は動かせません。
幕末のヒロインは無数にいますが・・・薩摩藩から幕府へ・・・嫁いだこの人は大河ドラマの主役に相応しいヒロインでしたな。
長州藩では高杉晋作が抜群ですな。
一種のチート兵器・・・ただし使い捨て・・・。
そして・・・井上聞多は不死身人間として
妄想上は今も生きています。
吉田松陰は・・・ある意味でイエス・キリストなのですねえ。
日本を神の国に導いた功罪は天下一品です。
吉田と高杉をつなぐミッシングリンクとして久坂は
どうしても目立たない。
ゴジラとモスラの間にいるラドン。
ゴジラとガメラと・・・ギララとかガッパとか。
レイでもアスカでもない第三の女・・・。
フラウボか・・・フラウボなのか。
よくわからないたとえは・・・もういいだろう。
新撰組は庶民代表として人気ありすぎるので
もうひとつそそりません。
ただし・・・近藤勇が故郷に錦を飾っている間に
後手にまわる終盤戦はちょっとほろ苦くて
哀愁を感じます。
岡田は勝ち組なのに勝てなかった憐れさのシンボル。
大村はプロフェッショナル一直線のおタクの鑑でございます。
大衆の国・・・日本・・・。
その幻想がいつまでも続く様に・・・。
リーダーたちは誠心誠意、命を燃やしてもらいたいものです・・・
投稿: キッド | 2015年9月 5日 (土) 02時25分