動けば雷電の如く発すれば風雨の如し・・・私は負けたことがない・・・どんな戦もこわくなかった・・・私負けたりするのは違うと思ってた(高良健吾)
一種の特異点として高杉晋作がついに歴史に登場する。
高杉晋作によって徳川幕府は敗北し、ついに滅亡するのである。
戦えば必ず勝つ・・・そんな恐ろしいものが歴史を決定していくのである。
そういうことがピンと来ない人はお茶の間にもあふれているし・・・このドラマの三人の脚本家たちも深い理解があるのかどうかはわからない。
しかし・・・どう描いても「絶対に負けない人」というのは絵になってしまうのである。
サッカーのゲームを見れば一目瞭然だ・・・ゴールしなければ得点できないし勝利しなければ記憶に残らない。
得点し、勝利したものだけが・・・リプレイされるのである。
だから・・・とにかく・・・高杉晋作のしたことを淡々と描くだけで・・・大河ドラマっぽくなってしまうのである。
今回は五十代脚本家の担当である。
メインライターではないが・・・「柳生十兵衛七番勝負 最後の闘い」とか「慶次郎縁側日記」とか・・・一応時代劇のキャリアがあり・・・主人公以外の歴史的な人物の活躍をどうにかこうにか描いています。
とにかく・・・大日本帝国の成立に向けた史実が展開していくわけであり・・・それが・・・世界的な不幸を招いた事実であるという認識を強要される社会ではいろいろと困難が伴うことは察するしかないんだな。
ましてや・・・四十代の「電車男」の脚本家や、三十代の「1リットルの涙」の脚本家には多くを望まないことである。
彼女たちは・・・「戦後」のことさえ・・・体験してないわけで・・・。
もはや、戦後ではないことしか知らないわけで・・・。
幕末のことなんか・・・理解不能のお年頃なのだ。
そういう歴史の勉強には時間がかかるからねえ。
よほど好きじゃないと燃えないだろうしねえ。
で、『花燃ゆ・第32回』(NHK総合20150809PM8~)脚本・宮村優子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は三回目のお色直し・・・絶対に負けない男・高杉晋作の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。奇しくも長崎原爆忌のオンエア。圧倒的な攻撃力というもので・・・高杉晋作と原子爆弾は相通じるものがございますねえ。自然というものが・・・高杉晋作を生みだしたように・・・原子爆弾も生み出したと考えることもできます。なんとも恐ろしいことですが・・・それが真実というものでございましょう。アドルフ・ヒトラーがいなければ・・・第二次世界大戦は起こらなかったと同じくらい・・・高杉晋作がいなければ明治維新は起こらなかったと申せましょう。そういうものは・・・ストレートに描くだけで充分に魅力的なのですが・・・そういう「怪物」が誕生する背景をきっちりと描いてこその・・・ドラマだとも考えます。吉田松陰の死、久坂玄瑞の死・・・それが高杉晋作を生む。それだけで充分なのに・・・いろいろとまぜるので・・・なんだか薄味になってくる。百五十年も前の事実を描くのさえ・・・色濃く描けない・・・なんて不自由な時代なんだ・・・と瞑目するのみです。
元治元年(1864年)12月28日、長州藩恭順派は高杉晋作の挙兵を謀反として萩より下関にむけて追討軍を発する。追討軍は萩街道を南下して明木に本陣を構え、先鋒隊はさらに大田街道を南下し、絵堂に進出する。一方、すでに三田尻に進出し、藩庁により処刑された松島剛蔵によって創出されたと言える長州海軍を高杉晋作は掌握する。主力艦三隻は下関に回航される。幕府軍の撤退により、制海権は反乱軍のものとなった。萩と下関を結ぶ対角線の陸路の中間点は秋吉台の南西、伊佐付近である。しかし、脱走した赤禰武人に代わり奇兵隊総督代理となった山縣狂輔はすでに伊佐から秋吉台の山中に進出していた。旧式な追討軍と新式の反乱軍との速度差が覗われる。1月6日、奇兵隊は夜襲により、絵堂の追討軍先鋒隊を壊滅させる。奇兵隊を中心とする反乱軍は大田街道を南下し、大田川と大田街道を結ぶ地点に拠点を構築する。絵堂を通過し、南下を開始した追討軍主力は待ち伏せにより各個撃破される。14日、大田街道の呑水峠で本格的な激突。追討軍は撃破され後退、15日、高杉率いる遊撃隊か奇兵隊に合流、16日、敗走する追討軍を追撃し、これを壊滅させる。秋吉台周辺を制覇した反乱軍は山縣の提案により、東に進み、山口城を奪取する。21日、毛利敬親の使者として毛利元純は萩と山口の中間地点である佐々並で反乱軍との休戦交渉が開始される。23日、追討軍に撤退命令。2月10日、休戦交渉中の中立派(鎮静会)の武士が恭順派(俗論党選鋒隊)の武士に暗殺される事件が発生。休戦が終わり、反乱軍は北上を開始。14日に奇兵隊は萩の東側に位置する東光寺に進出。癸亥丸は萩に威嚇射撃を開始。15日、萩の西側に位置する玉江へ遊撃隊が進出し、反乱軍による萩包囲が完成する。恭順派による藩政府は瓦解し、首領の椋梨藤太は脱走する。
藩庁で佇む椋梨藤太は唖然としていた。
早馬によってもたらされる情報はすべて敗報である。
「どういうことじゃ・・・」
すでに・・・周囲に人はなく・・・椋梨藤太は孤立無援である。
突然、天井から・・・赤禰武人が舞い降りた。
「お頭・・・もはや・・・これまででござる」
椋梨藤太は長州における公儀隠密の頭である。
赤禰武人もまた・・・公儀隠密の一人であったのだ。
「なぜ・・・奇兵隊を・・・とどめ置かなかったのじゃ・・・」
「松下村塾の塾生として潜入し・・・これまで草として・・・忍んでまいりましたつもりが・・・すべて見抜かれていたようなのでございます」
「なんじゃと・・・」
「それにくわえ・・・高杉様のなされよう・・・まさに・・・下剋上そのもの・・・」
「下剋上とな・・・」
「武士の世は終わりじゃと・・・百姓、町人どもに吹聴しているのです」
「馬鹿な・・・何を言うか・・・」
「武士も百姓も町人もない・・・あたらしき世を作る・・・世直しだと申します」
「・・・そのようなことが・・・」
「戯言でございます・・・しかし・・・高杉様が語りだすと・・・誰もが踊りだすのです」
「・・・」
「反乱軍に・・・百姓どもは・・・隠していた米を差し出し・・・商人どもは大金を貢いでおります」
「・・・愚かしい・・・武士のなんたるかを・・・」
「武士でございますか・・・われらは忍び・・・高杉様に踊らされるのは不本意なれど・・・もはや成す術がございませぬ・・・御免・・・」
赤禰武人は消えた。
「もはや・・・これまでか」
椋梨藤太は誰もいない政堂をゆっくりと後にした。
赤禰武人は萩から西へと抜けて行く。
比較的、包囲が薄いことを知っているのである。
冬の枯れ木の山を駈ける武人。
不意に殺気を感じ立ち止まる。
武人は足元を見る。武人自身の影から現れたのは・・・伊藤俊輔だった。
「おぬしか・・・」
「やはり・・・幕府の犬だったのですね」
「・・・まさか・・・椋梨様のことを・・・」
「はい・・・ずっと・・・あなたの影に潜んでおりましたから・・・」
「お前・・・忍びだったのか・・・」
「長州の隠し目付けでございます・・・」
「しかし・・・今の術は・・・」
「はい・・・飛騨流・・・青影の術・・・」
武人は樹上に飛びあがった。
その一瞬、俊輔に伊賀十字撃ちの手裏剣が飛ぶ。
しかし、すでに俊輔は・・・武人の背後にあった。
「なんと・・・」
「はい・・・甲賀流・・・猿飛びの術・・・」
「おぬし・・・」
「はい・・・豊臣家に仕えた甲賀と飛騨の二流の術を継承する・・・仮面の忍者にして猿飛佐助・・・それが・・・伊藤俊輔です」
「もはや・・・これまでか・・・」
「いえ・・・お逃げなされ・・・あなたのお役目は・・・すみましたゆえ・・・」
「忍びに情けなど・・・」
しかし・・・すでに・・・俊輔の姿は消えていた。
敗北感に苛まれながら・・・赤禰武人は西へ・・・。
美和は休戦中の元治二年二月七日に初産を終えた銀姫の身を清めながら・・・すべてを見ていた。
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