お父さんより大切なノートのために(窪田正孝)疑わしきはぶっ殺せ(優希美青)地下駐車場のバラード(関めぐみ)
両親の愛情に育まれ健全に育った子供は世界の暴力性に気がついた時にどうなるのか。
健全な肉体に健全な魂が宿ってほしいという願いも虚しく、健全な肉体に不健全な魂が宿ることはままある。
神の前の人間平等を歌う宗教は異教徒への無慈悲を許容しやすい。
厳密な定義もなく・・・「神」になろうとする一部の人々。
そういう場合の「神」はおもに「人間を支配するもの」としてのニュアンスが強い。
「顔見知りの人間の名前を書くだけで殺すことができる」という幼稚な発想で展開する世界。
「自分ルール」に過ぎない「死神のルール」に魅了される人々。
「自由」という実現困難な妄想に・・・「神」は「不完全な束縛」を与える。
飼育された豚のように生きること・・・神のルールに従順に従うこと・・・。
キラの新世界は実現目前である・・・。
で、『デスノート・第10回』(日本テレビ201509062230~)原作・大場つぐみ、小畑健、脚本・いずみ吉紘、演出・岩﨑麻利江を見た。モンゴールとイスラームの交差点アフガーンで歌舞伎揚げのような国旗が翻る。赤と緑のクリスマスカラーに死を与える黒。悪魔の目には邪悪な妄想が映るのである。エンターティメントとしての「多重人格」にはいくつかの類型がある。普遍的な精神作用としての「自問自答」から発展し、「神」が憑依する「霊媒」も「多重人格」の原型の一つである。ひとつの身体にふたつの精神が同居するアイデアは「ジギル博士とハイド氏」のようななんらかの方法で人格がスイッチする交代制多重人格に発展する。一方で瞑想により世界を感知し、周囲の人間を精神に取り込む同時性多重人格は「夢」として多くの人間が経験する。夢の中に登場する人物はすべて自分なのである。交代制多重人格で問題となるのが「記憶の共有」である。過去の選択が人格によってなされる場合、選択の結果の記憶が残留すれば人格が交代するという定義は曖昧なものになる。エンターティメントの世界では・・・別人格が行動中の記憶は喪失されるのが無難だが・・・善悪の葛藤が軸となると・・・第一の人格に第二の人格の記憶がなくて第二の人格には第一の人格がある・・・という技法が成立する。第二の人格の方が巧妙というパターンである。
キラとライトこと夜神月(窪田正孝)は明らかに多重人格の要素を踏まえた設定である。
デスノートという悪魔の力(魔法)を手に入れたライトはたちまち心を魔に汚染されて行く。
デスノートを失えば・・・ライトという善良だが平凡な男に戻るのだが・・・キラ時代の記憶は失う。
しかし、デスノートを得てキラ化してもライトとしての記憶は失わない。キラは人格として支配的であり・・・未熟で従順なライトの人格を従属させることができるからだ。
ライトがキラ化したことを・・・ライトの精神的成長と捉えるか・・・悪魔による洗脳の結果として捉えるかは・・・各人の自由だろう。殺意と殺人行為の境界線が明白であるのかどうかと同じで・・・それは人間の魂の在り方の問題にすぎない。
誰もが「死ね」と思う。
悪魔が「殺しました」と報告する。
「いや・・・そんなつもりはなかった」と言われてもな。
キラ事件の捜査官のリーダーである夜神総一郎(松重豊)の娘であり、キラ/ライトの妹である粧裕(藤原令子)が誘拐された。
誘拐犯のリーダーは警視庁の捜査官の一人・・・日村章子(関めぐみ)だった。
日村の要求は「人質とデスノートの交換」である。
デスノートを隠匿する総一郎は迷うが・・・キラは「人命尊重」の立場で交換に応じることを説得する。
この機会を利用して「デスノートの奪還」を果たそうと考えるキラだった。
エルに代わってキラ事件の対策司令官となったメロを心に抱えたニアことN(優希美青)は「人質救出作戦」を立案する。
夜神父子がデスノートを持って誘拐犯と対峙し・・・現場を仏の模木完造(佐藤二朗)、馬鹿な松田桃太(前田公輝)、そして偽タキシード仮面の相沢周市(弓削智久)・・・そして警視庁所属の特殊な突入部隊SITが包囲する。
作戦に従って・・・指定された廃墟に向かう捜査官たち。
しかし、エルの秘密基地で指揮をとるニアは体調不良をワタリ(半海一晃)に訴える。
「ニア・・・」
しかし・・・ニアはすでに別人格のメロによって支配されていたのである。
ニア/メロからメロ/ニアに変貌したメロはワタリを拘束する。
そして・・・松田の率いる突入部隊を別の場所に誘導してしまうのだった。
口元をV字に歪めるメロ・・・それは悪魔の微笑みである。
取引現場となる廃墟に正面から侵入する夜神父子。
ステージのある施設の檀上には拘束された粧裕と軽機関銃で武装した男が一人。
客席を挟んだキャットウォークには日村が現れる。
日村は狙撃銃で夜神親子を威嚇射撃し、足止めをする。
裏口から侵入した模木と相沢は突入時間に備えて待機する。
「日村くん・・・君は一体」と父。
(何者なんだ・・・この女)と息子。
「私の狙いはデスノートのみ・・・娘さんの命に興味はありません」
「・・・」
父は・・・交換の条件を出す。
「息子にデスノートを持たせて・・・そちらにやる・・・娘の側の男も遠ざけて・・・私を娘の側にやってくれ・・・それに私たちは丸腰だ・・・そちらの武装解除を要求する」
「良いでしょう」
息子は日村に・・・父は娘に接近する。
息子は支援部隊の突入に合わせて・・・歩調を緩める。
日村はデスノートを手にする。
その時・・・扉が開く。
現れたのは武装解除された模木と相沢・・・そして武装した男二人を従えたメロだった。
「黒いレザージャケットの・・・ニア」
「ニアじゃねえ・・・メロだ・・・俺はエルとは違う・・・疑わしい奴はぶっ殺す」
(何者なんだ・・・メロ)
「ノースリーブはサービスだ」
機関銃が掃射され・・・伏せる一同。
父は娘を救援し・・・抱擁するのだった。
「夜神・・・そして・・・部下たち・・・俺が本名を知ってることを忘れるな・・・メロ様の邪魔をする奴は・・・あはははは」
メロ一味はまんまと逃亡する。
「ちっ・・・」
秘密基地に戻った一同・・・。
「手掛かりが欲しい・・・やつらは何か言ってなかったか」
妹に尋問を開始する息子に違和感を覚える父・・・。
「犯人の一人が・・・メイソンと呼ばれてました」
キラはエルの集積したデータにアクセスする。
「この男・・・」
メイソンのリストの中に現場にいた男を発見するキラ。
「Mason Fujiyama・・・所属不明の工作員・・・」
「雲を掴むような話だな」
「しかし・・・手掛かりがないよりマシだ」
戸惑う捜査員たちの中で息子だけが・・・落ちつきを取り戻したことに不信感を強める父。
(まるで・・・顔と名前がわかっただけで・・・勝利したようじゃないか)
それだけで・・・人を殺せるのは・・・。
キラは・・・一人になると・・・ミサミサこと弥海砂(佐野ひなこ)に指令を与える。
「Mason Fujiyama・・・生田スタジオGst第二控室に公衆電話から電話をかけ仲間の名前と潜伏先の住所を伝えた後で人気の少ない場所へ行き心臓麻痺で死亡」
ミサミサは愛しいキラのために豊満な胸の谷間で温めたデスノート断片に記述する。
まもなく・・・ミサミサの控室の電話が鳴る。
キラは忠実な使徒であるテルテルこと東京地検の検事・魅上照(忍成修吾)に指令を与える。
盗品の携帯電話を使い・・・捜査本部に電話するテルテル・・・。
「私はキラです・・・私はあなたたちに正義があると信じ・・・デスノートの保有を認めていました・・・しかし・・・メロにデスノートが渡ったのは危険です・・・私は・・・メロの潜伏先を突き止めました・・・速やかなるデスノートの回収をお願いします」
「すぐにふみこみましょう」
高揚する息子に違和感を覚える父。
「キラを信じるのか・・・」
「でも・・・手掛かりです」
「それに・・・どうして・・・キラは・・・デスノートが奪われたことを知ったんだ」とバカのくせに核心をつく松田・・・。
「だって・・・手掛かりじゃないですか」
興奮する息子を訝る父だった。
「とにかく・・・突入してみましょう」
模木は進言するのだった。
突入準備中・・・父はワタリに密かに質問する。
「エルのメッセージはまだ・・・あるのか」
「ありますよ・・・あなた様宛てのものが・・・」
エルことL.Lawliet(山崎賢人)の遺言動画・・・。
「私はすでに死んでいます・・・あなたに伝えたいことはただ一つ・・・すべては計画通りです・・・私の願いはただ一つ・・・あなたには・・・生きてもらいたい・・・あなたは私にとってパパみたいなものですから・・・」
エルのメッセージに心を動かされる父だった。
メロのアジトに侵入するSIT・・・。
誘拐犯の男二人は死亡しており、メロは確保されるがデスノートは発見されない。
屋上のキラの会。
「メロの本名はどうするの」とミサミサ。
「誘拐事件についてメロの取調を私が行います・・・死神の目で見ます」とテルテル。
「それでいい・・・新世界は目の前だ」とキラ。
無人の地下駐車場・・・。
キラの前に日村が現れる。
「よく来たな・・・ハル・リドナー・・・」
日村ことハルは・・・デスノートをキラに渡す。
「Halle Lidner・・・地下駐車場で待つ男にデスノートを渡し隠れ家にもどって身元不明になるような手段で自殺」
すでに日村の運命はデスノートの支配下にあった。
日村を見送ったライトに尾行してきた父が声をかける。
「どういうことだ・・・ライト」
「父さん・・・」
「どうして・・・デスノートを持っている」
「これ、デスノートじゃないよ」
「どう見てもデスノートじゃないか・・・こっちによこせ」
「あ・・・」
「ほら・・・デスノートじゃないか・・・まさか・・・お前がキラだとは・・・」
「ちがうよ・・・今、急に渡されたんだよ」
「なせだ・・・なぜ・・・お前が」
「・・・」
「お前がキラだとしたら・・・すべては私の責任だ」
「・・・」
「育て方を間違えた・・・」
「そんなことはないよ・・・父さんが犯罪のない社会を目指して働いたように・・・僕も」
「人を殺しておいて・・・何が犯罪のない社会だ」
「父さんだって・・・犯人を逮捕して・・・死刑台に送ったことがあるだろう」
「それは・・・法的手続きにのっとっている」
「同じじゃないか・・・冤罪だったら・・・無実の人を殺してるし」
「理屈じゃないんだよ・・・ライト・・・命の重さの話だ」
「大切な人を守りたい気持ちが・・・悪に立ち向かわせるんだろう」
「いや・・・もっともやもやしたものだ」
「・・・」
「口で言ってわからないなら・・・父さんが教えてやる」
父はデスノートに自分の名前を書きこんだ。
「父さん・・・やめろよ」
「わかるか・・・ライト・・・これが命の重さだ」
「そんなの単なる無駄死にじゃないか」
「え」
「父さんが死んだって・・・何も変わらないよ」
「お前・・・こんなものがあるからいけないのだ」
デスノートに火をつける父。
猛アタックで阻止する息子。
「やめろ・・・」
「ライト・・・お前・・・父さんより・・・このノートの方が大切なのか」
「当たり前だろう・・・父さんが死んでも世界は変わらない・・・だけどデスノートは世界を変えることができるんだ・・・」
「ライト・・・」
「父さん・・・僕は学んだんだよ・・・何かを犠牲にしなければ・・・平和なんか得られないってことを・・・」
「・・・」
夜神総一郎は死んだ。
「馬鹿だな・・・父さん・・・息子のことが信じられないなんて・・・まあ・・・それぞれの信念なんてそんなものだけどさ」
その頃・・・メロは留置施設から脱走していた。
「すみません・・・」
使徒テルテルはうなだれる。
「気にするな・・・日本の警察なんて・・・そんなものだ・・・」
「・・・」
「大阪で悪いことをした警官がいたな・・・」
「はい」
「とりあえず・・・名前書いちゃえよ・・・万死に値するから」
キラは微笑んだ。
テルテルは微笑み返した。
死神のリュークは悪魔的な哄笑を響かせる。
「やはり・・・人間て面白い・・・恐ろしいくらいに・・・あはは」
凄惨な死神の笑顔。
だが・・・ある種の人間は醜悪な姿形にこそ・・・美を見出すのである。
全国の善良なお父さん涙目のダークファンタジーなんだなあ。
そして悪いお父さんはデスノートの実在を全否定します。
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コメント
ドラマ史に残るような凶悪顔が毎週観られるというか、普段の窪田君がああなる(最後の最後まであがいて小市民の振りをするところも○) という意味では、「地下アイドル?ファンで居酒屋でバイト」という設定変更は(そこまで意識していたのなら)すごいなと思うのであります。
投稿: 幻灯機 | 2015年9月16日 (水) 08時47分
人間・・・あるいは人間の心というものが
どれだけ・・・ご都合主義なものか・・・
ということを人間は忘れがちですよねえ。
自分がシンパシーを感じるものに味方しても
ちょっと都合が悪くなれば裏切る・・・。
虫も殺さぬような顔をして蚊取り線香に点火です。
国会議事堂周辺でお祭り騒ぎを楽しむ人々も
平和のことなんて本当は少しも
考えていないわけですし・・・。
庶民の若者は・・・![](http://emojies.cocolog-nifty.com/emoticon/typhoon.gif)
結局・・・
地味に生きて
そこそこ楽しいと思えれば充分。
電動のこぎりなんてノータッチで・・・。
・・・という話でございましたな。
投稿: キッド | 2015年9月16日 (水) 21時24分