海内一致の政体を確立し自立自衛の国権を統轄せしめるべし~明治四年廃藩置県(石橋杏奈)
廃藩置県の前夜、大蔵省にあった井上馨は政府に建議する。
全国の租税をいかにして国庫におさめるか・・・という話である。
明治維新の成否はその一点にかかっている。
岩倉具視と三条実美を頂点とする王政復古の官僚システムはすでに現実的なものではなくなっているが・・・維新の元勲たちの間では暗闘が開始されている。
薩摩の大久保利通と西郷隆盛による文民統制と軍事独裁の軋轢である。
官僚派と反官僚派の対立と言うべき相克は長州にも生じている。木戸孝允を筆頭に伊藤博文、井上馨、山縣有朋らは官による全国統制を目指すが、前原一誠らは長州士族の保護を優先する。
しかし、軍事力がなければ官の統制は強制力を失う。
西郷隆盛の軍事的指導力は必要不可欠であった。
一方で西郷は・・・井上らの進める民力の活用には抵抗感がある。
武士という特権階級を否定すれば軍事力の維持は困難と想定するのである。
水面下の駆け引きは続く。
西郷は藩知事たちを東京に集め、廃藩置県のクーデターを実行し、岩倉は・・・中央から県令を派遣する。
現地出身者ではなく・・・他地方からの県令の任命。
それは・・・藩組織の解体を目指すものであった。
長州はその範となるべく・・・藩知事・毛利元徳を解任し・・・中野梧一を初代県令とする。
中野梧一は・・・彰義隊士であり、函館戦争に敗れ降伏した元幕臣だった。
で、『花燃ゆ・第39回』(NHK総合20150927PM8~)脚本・小松江里子、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は二週連続新作の久坂美和描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。別に美和は姉・寿の夫・楫取素彦と不倫関係にあるわけではないのに・・・初恋の人みたいな感じで描かれ・・・必要もなく手をとりあったりして・・・そういう描写を混ぜてくる・・・邪なスタッフの意図をお茶の間が感じちゃうわけですな・・・姉が死んで後家が後妻に入る・・・ロマンのかけらもない展開なのに・・・。どういう時代だったんだよ・・・。愛妻家だったらしい素彦は・・・亡き妻を忍んで美人ではなかったらしい美和をそれほど愛さなかったというもっともらしい話もあるのに・・・ねえ。火のない所に無理矢理、愛の炎を着火しすぎなんですな・・・。今回は・・・東京でいきなり、藩知事の権利を剥奪される元藩主たちの驚愕こそが・・・醍醐味だろうに・・・。全国に配置される・・・地元出身でないことが条件の県令たちのことこそ・・・説明すべきですよねえ。そもそも・・・楫取素彦はその流れに乗って・・・足柄県参事、熊谷県権令、群馬県県令と出世していくわけですしねえ。楫取家としてつながりのある下士や百姓たちに新制度を説明し・・・新政府の官僚になっていく姿を描くべきなのに・・・旧藩主の遺言を主人公が託されるという・・・とんでも展開に・・・まあ・・・基本的に・・・幕末をこよなく愛する一部愛好家は唖然とするしかないですよねえ。
明治三年(1870年)山口藩の一揆を鎮圧した新政府は中央集権化の次の一手として廃藩置県を準備する。すでに財政的な破綻に失敗した小藩の中には廃藩を申し出るものもあった。薩長を中心とした政府軍の編成とともに・・・藩の解体を軍事的にも政治的にも進展させることが急務だったのである。士族による軍事独裁政権下の農業立国を目指す西郷隆盛を大久保は東京に招聘する。すべては・・・西郷軍とも言うべき軍事力の利用のためである。明治四年(1871年)一月、西郷は上京する。維新功労者の新政府登用を求めるためである。六月、大久保は人事刷新を行い、自らは大蔵卿となり、参議を木戸孝允と西郷に定めた。薩長の和解を目論んだものだが・・・近代化を求める木戸や大久保と・・・保守的な西郷には路線の違いがあった。七月、山縣と井上は廃藩置県を提議する。新政府による中央集権化の策として西郷は心を動かされる。島津、毛利、鍋島など有力な藩知事たちは皇居に召しだされ・・・廃藩の詔勅を告げられる。続いて再分化された県の統合が進められる。中央集権化のために県令には旧藩とは無縁の人間が配置される。薩長の有能な人材は・・・各地に天下っていったのである。十一月、岩倉具視を正使とする大使節団が米国に渡航する。木戸孝允、大久保利通を伴うために・・・留守を預かる実力者は西郷一人となる。西郷の監視役として井上は神経をすり減らすのだった。
「秀次郎・・・」
萩城下に戻り、久坂家の相続について手続きをしている美和は秀次郎が久坂の屋敷から消えていることにあわてた。
気配を探るが・・・その心は霧に包まれたように定かではない。
その朧な気配を追って美和は橋本川までやってきた。
突然、秀次郎の存在が明瞭になる。
川面にひょっこりと・・・秀次郎の幼い顔が浮かび上がる。
久坂玄瑞は水練が達者であった。
(河童の子は河童か・・・)
美和は血筋という感慨に心が波立つ。
「母上~」
その邪心を打ち消すように久坂秀次郎が笑顔を見せる。
思わず、顔が綻ぶ美和だった。
幼い久坂家当主は人間離れしたスピードで川を遡上していく。
周囲には冬の風が吹きわたっている。
「秀次郎・・・御風邪を召しますよ」
美和は叫んだ。
山口県の仮県庁となった山口城では東京行きを控えた楫取素彦が県令として赴任した中野梧一に最後の連絡業務を終えていた。
「県庁は・・・下関という案もあったと思いますが・・・」
楫取のもてなす茶を喫しながら中野は雑談としてつぶやく。
「お話した通り・・・藩・・・県内にはまだ・・・士族に特別なこだわりを持ったものがいます。これを慰撫するためには萩、下関、三田尻の重要拠点を見渡す・・・山口が・・・ということです」
「・・・なるほど・・・そのことは推薦者の井上様に・・・お聞きしております・・・なかなかに頑固なものが多いそうですな・・・」
「はい・・・中野様が・・・彰義隊にいたということだけで暗殺される惧れがあります」
「物騒ですな」
「しかし・・・長州・・・いや、山口県の主だったものは・・・そういう中野様が県令を無事に勤めてこその明治維新であると理解しております」
「・・・」
「山口の忍びのものは・・・すべて・・・中野様の警護にあたりますので・・・ご案じなされますな・・・」
「ふふふ・・・お飾りはお飾りとして・・・勤めを果たします」
「私もまもなく・・・関東に参ります・・・」
「敵地での任務はなかなかに歯ごたえがございますよ・・・どこも新旧交代には苦労しているようです」
中野は微笑んだ。
「とにかく・・・職業選択の自由、通婚の自由、服装の自由などの掟の解放と・・・私有地の許可で民を導くしかありませぬ・・・私も萩の郊外に新開地を指導して参りました。なにしろ・・・世は浪人だらけになる流れですからな・・・」
「俸禄を失うというのは・・・恐ろしいものですからなあ」
帝都・・・東京・・・。
大蔵省の事務室で井上馨は忍びからの報告に耳を傾ける。
「勝様から岩倉様に託された諸国名士録の写しでございます」
「幕府の隠密の諜報力はなかなかにあなどれんな・・・しかし、適材適所の人材を運用するには・・・重宝する・・・」
「薩摩くぐり衆では暗闘がはじまっております」
「西郷様と大久保様の主導権争いじゃ・・・西郷さんは愛すべきお方だが・・・愛が深すぎるからのう・・・」
「昨夜も酒席で井上様を商人贔屓と罵っておりましたぞ」
「西郷様は・・・農民贔屓・・・相場などというものは・・・お嫌いだからな」
「密談は鹿児島県の独自な兵制を推し進める計画です」
「密談も何も・・・となりの座敷に筒抜けの話ではないか・・・」
「・・・」
「結局・・・あの人は・・・愛するものたちに囲まれ・・・愛するものたちのために・・命を落される・・・惨いことだ」
「忍びに情けは禁物でございます」
「ふふふ・・・じゃったの」
井上馨は西洋酒をグラスに注ぐ。
明治四年が暮れようとしていた。
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