踏み切りの向こうに青春がある(松山ケンイチ)温かい朝食の匂いがする(満島ひかり)夏の日々にさよなら(前田敦子)
事実上の最終回である。
そういう意味では銭ゲバ・最終話の前回に近いテイストだ。
もちろん・・・主人公の消失ということでは泣くな、はらちゃん的であると言ってもいい。
しかし・・・お茶の間の感じる喪失感は・・・やはり・・・ここで終わっても良い感じの銭ゲバに通じる。
カエルで・・・二次元生命体で・・・人間ではないピョン吉だが・・・事実上・・・ひろしの最愛の人である。
最愛の人が死んでしまった・・・それでも生きて行く日常というものを・・・これほど淡々と描いたドラマは・・・ほとんど皆無なのではないかと考える。
この世には大前提がある。
「その人がいるから素晴らしかった人生」であったとしても「その人を失っても続けなければならない」ということである。
そうとはかぎらないじゃないか・・・。
もう終わりにしてもいいじゃないか・・・。
そういう生き方/死に方は本当にダメなのか。
からっぽになった心に吹き抜ける風の音がします。
心が死んでも生き続けるすべての屍のために・・・。
で、『ど根性ガエル・第9回』(日本テレビ20150912PM9~)原作・吉沢やすみ、脚本・岡田惠和、演出・鈴木勇馬を見た。二人が出会ってから16年の月日が流れた。14歳だったひろし(松山ケンイチ)は30歳になった。そして年をとらないピョン吉(満島ひかり)に終わりの日が突然やってくる。16年も着続けられるTシャツなんてないからだ。草臥れちゃうねえ。電脳義体なら交換できるけど・・・平面ガエルの交換技術はまだ確立されていないのだ。そして・・・その日は・・・夕焼けの向こうに迫っている。
夏の終わり・・・秋の祭り・・・。
地元の神社では福男、福女を決めるレースが行われる。
福男になったら・・・神輿の先頭で棒を担ぐことができる名誉を得る。
かっては・・・ひろしも京子ちゃん(前田敦子)と福男&福女になったことがある。
しかし・・・ここ十年は・・・ライバルの五利良イモ太郎(新井浩文)に福男の座を独占されているひろしなのである。
その間に京子ちゃんは・・・街を出て結婚した。
だが・・・今年、京子ちゃんは離婚して街に帰って来たのだった。
だから・・・頑張るんだとひろしはピョン吉に言う。
けれど・・・本心は違うのだ。
ピョン吉といい思い出を作りたい・・・ひろしはそう想っている。
真面目にトレーニングをするひろしだったが・・・ピョン吉に持ちかける。
「パンツになってみないか・・・」
「嫌だ」
下半身にピョン吉を装着すれば勝てるらしい。
ナニが超怒張しているようにしか見えないわけだが。
邪(よこしま)なことを言い出したひろしをいさめるようにゴリライモが現れる。
「負ける気がしない」
そして・・・YANSなランニングウエアの五郎(勝地涼)もやってくる。
「署の代表になったでやんす」
さらに・・・京子ちゃんもやってくる。
「はずかしながら・・・かえってまいりました」
ついにはひろしの母ちゃん(薬師丸ひろ子)までやってくる。
「元陸上部だから」
母ちゃんは抜群のスピードで走り抜けるのだった・・・。
みんなははしゃいで一本道を走りだす。
だが・・・落日の光が照らす景色。
残照なのだ。
刻々と迫る別離の時・・・。
明日、宇宙が終焉するんだ
せめて君とは笑顔で燃え尽きよう
いまだにプロポーズできない梅さん(光石研)に五郎はピョン吉を届ける。
よし子先生(白羽ゆり)の教室に梯子をかける梅さん。
「よし子先生・・・け、け、け、結婚してください」
ピョン吉は梅さんの代弁者なのか。
しかし・・・ピョン吉はよし子先生に頼みがあるのだった。
ひろしを応援するために・・・ファンファーレの指揮がしたいと申し入れるピョン吉。
居合わせた町田校長(でんでん)と京子ちゃんのおばあちゃん(白石加代子)も加わって中学校の吹奏楽部の練習に参加するピョン吉。
よし子先生によるピョン吉着衣はベローンとなるので失敗し、以外にも教師生活41年の町田校長がジャストフィットするのだった。
指揮棒を咥えたピョン吉は意味深である。
その頃・・・ひろしは・・・ピョン吉パンの制作に乗り出していた。
「ピョン吉の喜ぶことをしたい」ひろしなのだが・・・ストレートに表現するのは恥ずかしいのである。
京子ちゃんのアイディアということにしたいひろしだったが・・・京子ちゃんはすべてを暴露するのだった。
「いい話は苦手なんだよ」
「面倒くさい人ねえ」
しかし・・・ピョン吉パンの作成に悪戦苦闘するひろしを京子ちゃんも・・・ひろしの母ちゃんも・・・ゴリライモも・・・微笑んで見守る。
ついに完成したピョン吉パン。
ひろしは・・・ピョン吉以外の人々に・・・ピョン吉パンを配って歩く。
「内緒だけどさ・・・明日、お披露目して・・・ピョン吉を喜ばせてやろうと思うんだ」
しかし・・・ファンファーレの練習終わりの・・・校長先生の背広の下にはピョン吉が潜んでいたのである。
「俺が今・・・こうしているのは・・・ピョン吉のおかげなんだよなあ・・・俺は・・・ピョン吉がいてくれるだけで・・・幸せなんだ」
「若大将か」
「ピョン吉には内緒だよ・・・知ったら・・・あいつ泣いちゃうから」
「そうねえ」
すでに号泣しているピョン吉・・・。
「泣きなさい・・・」
ひろしが去った後で・・・ピョン吉パンを見たピョン吉は泣き濡れる。
二人がかりでピョン吉シャツを絞る校長とおばあちゃん・・・。
滂沱である。
そして・・・福男・福女レースが始る。
ゴリライモの靴を踏み、五郎のシャツを掴み・・・あくまで姑息なひろし。
結局、二人に遅れをとるが・・・最後ははったりのピョン吉ジャンプで福男の座をかすめ取るのだった。
よし子先生も京子ちゃんもがんばったが・・・福女は母ちゃんが獲得する。
「やった・・・我が家が独占だ」
ピョン吉は歓喜するのだった。
その夜・・・ピョン吉とひろしは・・・うれしくて語り合う。
「今日のこと・・・思い出すと・・・ニヤニヤしちゃう」
「明日のこと・・・考えて・・・ワクワクしろよ」
体力を使い果たしたひろしは子供のように眠る。
「ひろし・・・ずっと・・・一緒にいて幸せだった」
しかし・・・その時はくる。
「なんだよ・・・せめて・・・明日まで・・・」
だが・・・ピョン吉は黒ずんでいく。
「・・・ひろし」
朝が来て目が醒めたひろしはピョン吉が消えてしまったことに気がつく。
必死にピョン吉を捜すひろし。
部屋の中。
家の外。
商店街を抜けて公園の草叢へ・・・。
母ちゃんは汚れたランニング姿のひろしを発見する。
「・・・」
ピョン吉が去って行ったことを悟る母ちゃん。
「腹減った・・・朝飯を食べよう」
「・・・そうだね」
ピョン吉の輪郭が虚しく残るTシャツを着るひろし。
焼き魚に玉子焼き・・・お漬物に味噌汁・・・。
母と子の二人だけの朝食・・・。
静かな時が流れて行く。
祭りの雑踏を抜けて神輿の前に出る福男と福女。
「ゴリライモ・・・お前はいつも変わらないねえ」
ゴリライモは気がついた。
「ひろし・・・お前も相変わらずだなあ・・・」
「京子ちゃん・・・嫁に来ないか」
京子ちゃんも気がついた。
「・・・誰があんたなんかに」
五郎も気がついた。
「先輩・・・」
みんな・・・気がついた。
「・・・」
神輿はにぎやかに街を練り歩く・・・。
「おいさ」
「おいさ」
「おいさ」
「おいさ」
世界で一番淋しい祭りが・・・続いて行く。
去年と同じように・・・。
来年もきっと同じように・・・。
それが・・・人間のはかない営みなのだから・・・。
子供たちはまだそれに気がつかない。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
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コメント
「このエンディングはイメージです」
とはならないっていうか最初っから倒叙もののように提示されておりましたんですね。
ってもう何もコメントするべきことが見つからない。消えてしまうのに、ドラマの手法として「カゲが薄くなる」とかではなく「はがれる」(=死)というように作劇する脚本力ってすごいなと思うのみです。
投稿: 幻灯機 | 2015年9月16日 (水) 08時42分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
ある生き物の記録・・・ドラマの基本の一つでございます。
誕生から・・・死亡まで描ければ理想と言えましょう。
ピョン吉の誕生は回想でしたが
この物語の中核は死に際ですからねえ。
蝋燭の炎が消える間際に輝くように・・・
残照がにわかに荒野を照らすように・・・
いのちの最後・・・それにかかわるもののあわれさ・・
喪失感の誕生・・・。
そういう何もかもがうっとりするような
淡々さで語られて行く。
いやあ・・・喪失後の
胸苦しさ・・・格別でございました・・・。
投稿: キッド | 2015年9月16日 (水) 21時31分