艱難辛苦をあなたに(堤真一)遮蔽物からはみださない秘訣(戸田恵梨香)夜の歩道橋にご用心(森田剛)
誰もが願うノーリスク・ハイリターン。
しかし、人間は時にハイリスク・ノーリターンに飛びこんでいく。
絶叫マシーンとかバンジー・ジャンプとかな。
もちろん・・・心がそれを求めている場合、「絶対安全」で「ドキドキできること」はノーリスク・ハイリターンだと言うことができる。
つまり・・・ノーリスク・ハイリターンとハイリスク・ノーリターンは紙一重の概念なのだ。
まあ・・・絶対安全な遊具なんてないし、思ったよりドキドキできないことはあるわけである。
そこでリスクとは危機に陥る確率であると考えることができる。
命の保証はできないけれど・・・それなりの見返りがある。
後は選択の問題だ。
かって・・・キッドは毎週のように飛行機で全国を移動していたことがある。
飛行機で太平洋を渡り、別の大陸に移動したことさえあるのだ。
なんという・・・無謀さだろうか・・・。
こわいものなしって・・・恐ろしいな。
だが・・・飛行機に乗らなくても落ちてくる奴に当たることもあるわけである。
すべてはライト兄弟が悪いんだな。
「鳥人間コンテスト」で学ぶべき一番のポイントはそこだ。
で、『リスクの神様・第8回』(フジテレビ20150902PM10~)脚本・橋本裕志、演出・石川淳一を見た。表現は一つのリスクである。前フリで語った軽口の中には航空事故の犠牲者や遺族を傷つける可能性のあるフレーズが潜んでいる。そういうものはある種の人間にとっては口に出してはならない部類に属するという判断もあるだろう。しかし、感じたことを口にしてはいけない世界で生きるのは息苦しい。だから決死の覚悟で言ってはいけないことを言う人間もいるわけである。もちろん・・・あまり深く考えないで言う人間もいる。その区別は非常に難しい。虎の尾を踏んだらダッシュで逃げるか、虎殺しの魔剣をふるうしかないしな。・・・おいっ。しかし、人間が口を閉ざすのは人を傷つけるのを惧れている場合ばかりではない。悪事の発覚を恐れて黙秘したりもする。そういうわけで隠蔽もまた一つのリスクである。
神狩かおり(戸田恵梨香)は重大なエラーをして、「謝罪」し、ペナルティーとして左遷され・・・サンライズ物産危機対策室に所属することになる。
かおりはリーダーとしてのリスク、プロジェクトのリスク、マネジメントのリスク、リレーションのリスク、ステータスのリスクなど様々なリスクを管理することを学び、一種の人間的成長を遂げる。
かおりを指導したのは・・・危機対策室長・西行寺智(堤真一)である。
危機に遭遇し、それを克服する経験を共に重ねるうちに・・・西行寺とかおりの間にはある種の感情が成長しているようだ。
かおりの手腕を高く評価する白川専務(小日向文世)はかおりの表舞台への復帰を西行寺に申し入れる。
西行寺はかおりへの打診を留保する。
同時に白川は・・・坂手社長(吉田鋼太郎)の推進する「メタンハイドレート開発プロジェクト」への疑義を西行寺に告発する。
西行寺は社内の派閥抗争もからんだ問題に即答を控える。
そこに速やかに対応するべき新たな危機が発生する。
サンライズ物産の創設期から取引がある総合衣料メーカー「トウセン」の粉飾決算を告発するメールが届いたのである。
粉飾決算の有無を見定めるために・・・副室長の財部(志賀廣太郎)は「トウセン」の取引内容を精査し、かおりと渉外担当の結城(森田剛)は「トウセン」の関連企業への聞き取り調査や、「トウセン」社員への隠密接近を展開する。
やがて・・・商品の出荷状況や、社員待遇に不透明な状況が浮かび上がる。
危機管理室の行動に対して「トウセン」から横やりが入ったことを契機として・・・西行寺とかおりは「トウセン」社長・高中桐子(高橋ひとみ)への直接対決に踏み切る。
「トウセン」は帳簿上では黒字経営が続いており、経理部長の小松史郎(阿南健治)は不正会計を否定する。
「しかし、広告費の割合が異常な額になっています」
「企業イメージを高めるためにゴージャスな外国タレントを起用するなど・・・相応の予算配分です。それによって我が社は躍進を続けているので問題はありません」と主張する高中社長。
「それにしては・・・社員の給与などが減額されているようですが」
「海外に出店するための資産を確保しています。さらなる飛躍のために必要な処置です」
高中社長は澱みなく答えるのだった。
しかし、「トウセン」から出荷された「商品」が納品先で確認できないなど・・・対策室の不審は深まる。
在庫管理のトリックを暴くために・・・商品倉庫への潜入を開始する結城。
事務室に侵入した結城は納品リストの入手に成功するが、侵入が発覚して逃走後、何者かに歩道橋の階段から突き落とされ、資料を奪い返された上に負傷してしまう。
緊急搬送され救命処置により一命をとりとめる結城。
病院に駆けつけた西行寺とかおり。
そこで西行寺はサンライズ物産の顧問・天童徳馬(平幹二朗)から西行寺の父・孝雄(田中泯)が施設から消えたことについて連絡を受ける。
西行寺の動揺に不審を感じるかおり・・・。
病床の結城はかおりと雑談する。
「ニューヨークではもっと危険な目にあった・・・」
「その頃から・・・西行寺さんと仕事を・・・」
「一匹狼だった西行寺さんが日本で企業に就職するなんて・・・驚きだったよ」
「・・・」
かおりは・・・潜在している危機を探知することが危機管理の重要な手段であることを学んでいる。
西行寺について知ることはかおりにおいてすでに危機管理の領域になっていた。
ふりかかる火の粉を払う前に火の用心なのである。
手掛かりを失った対策室は・・・小松経理部長を責めることにする。
呼び出した小松に罠を仕掛けるかおり。
「トウセンの取引先企業に倒産の可能性があります。粉飾決算の可能性があるために・・・トウセンにも当局の捜査が入るかもしれません・・・ご用心ください」
「当方に問題はありませんが・・・関係資料の確認は必要ですね」
しかし、小松の顔色は変わっていた。
小松が去った後で西行寺はかおりに問う。
「倒産の可能性がある企業なんて・・・ないだろう」
「可能性は常にゼロではありません・・・しかし、当局の捜査に対応するために改竄した資料の一部を実態に戻す必要が生じます・・・そこに隙が生じるのでは・・・」
「安心したまえ・・・すでに・・・財部副室長が経理部の周囲に潜入している。
小松がマネキン型隠し金庫から裏帳簿のデータを取り出す姿を清掃員に変装した財部は見た。
入手したデータを分析し・・・「トウセン」の経営実態を掴む対策室のメンバーたち。
「ずっと赤字じゃないか・・・」
「経常利益の前倒しで・・・毎年、赤字を黒字に書き変えています」
「粉飾した差額を回収するためにハイリスクハイリターンの投資に手を出していますね」
「そして・・・投資に失敗している」
「負債は膨らみまくっているな」
「120億円の粉飾か・・・地獄だな・・・」
証拠を突きつけられて狼狽する小松部長。
「・・・す・・・すべては私の責任です」
「社長を・・・庇うのか・・・そして・・・庇護してもらうつもりか・・・」
「・・・」
「それは甘い考えだ・・・」
西行とかおりは高中社長を追及する。
「粉飾決算ですって・・・私はまったく関知していないことだわ・・・すべては経理部長の独断よ」
「これほど多額の粉飾に気がつかなかったというのは・・・経営者として問題があります。株主としてサンライズ物産は経営陣の刷新を求めることになるでしょう・・・」
「・・・」
社長の発言を聞かされた小松部長はすべてを白状するのだった。
「社長が・・・銀行から融資を受けるために・・・赤字を黒字にしろと・・・指示を・・・」
「あなたのしたことは犯罪です・・・」
「恐ろしい・・・金額です・・・実際にはない・・・あることになっている・・・恐ろしい金額」
「・・・」
「次の決算で行う粉飾に耐えきれず・・・私はメールを・・・」
「・・・告発したのはあなただったのか」
「自分で自分を止めるのは・・・難しいのです」
粉飾決算の暴露により・・・企業イメージの低下は避けられなかったが・・・なんとか倒産を免れる「トウセン」だった。
「また・・・西行寺さんに上を行かれました」
「いや・・・小松部長を追い込んだのは君だ・・・君は充分・・・実績をあげている」
「私は・・・この部署に必要ですか」
「専務から・・・話があったのか」
「・・・はい」
「ここに残るのも・・・専務の元へ戻るのも・・・君の自由だ」
「・・・」
種子島(古田新太)は調査報告をする。
「広告費とニューヨーク出店準備費の計算の辻褄がどうしても合わない・・・株につぎ込んだ額を差し引いても毎年5億の使途不明金があるのだ・・・TOUSENの海外投資だが裏の窓口はアジアグローバル証券だ・・・」
西行寺は・・・ハゲタカファンドと組んで烏丸屋を乗っ取ろうとしたアジアグローバル証券の代表・フォー(木下ほうか)の顔を想起する。
「あの男か・・・」
フォーは坂手社長ともつながっている謎の存在だった。
「それから・・・結城を襲った男はトウセンとは無関係らしい」
「それは・・・対策室に敵対しているものがあるということか」
「目付けの目付けだよ・・・」
その時、行方不明だった父親が発見されたという連絡が入る。
思わず・・・西行寺を尾行するかおり。
いつもの海岸で事情を説明する天童・・・。
「君の生まれた家の前に佇んでいるところを警官が保護したらしい・・・」
「とっくに人手に渡っているのに・・・」
「そこまでして彼は会社の危機を救ってくれたのだ・・・」
「自分の家族を犠牲にしてまで・・・救うほどの価値が会社にあったのでしょうか・・・」
「資源のない我が国にとって・・・石油の一滴は血の一滴だ・・・エネルギーの確保は国民にとって死活問題なのだ」
「私には・・・すべてが言いわけに聞こえます」
「・・・」
「私の父親の事件は・・・隠れ蓑で・・・本当はもっと巨大な利権についての密約があったのでしょう・・・あの呪われたソビエト連邦との間に・・・」
二人の会話を黙って聞く老いた父親の眼差しに正気の気配がある。
そして・・・立ち聞き名人となったかおりは唇をかみしめる。
かおりは過去の事件を検索し・・・西行寺の生い立ちを知るのだった。
決意を秘めて西行寺に対峙するかおり。
「私は対策室に残ります」
「・・・」
「西行寺さん・・・あなたの目的は復讐ですか・・・もし、そうなら・・・私は破滅の危機から・・・会社を救わなければなりません」
「危機に際し・・・人は・・・優先順位をつけなければならない・・・それが君の答えか」
「私は・・・あなたの答えを聞いているのです」
西行寺は沈黙した。
沈黙もまたリスクの一つである。
恐怖の体験を重ねるうちに人は恐怖に麻痺する場合がある。
その精神に宿るものが正気なのか・・・狂気なのか・・・判断するのは難しい。
関連するキッドのブログ→第7話のレビュー
| 固定リンク
« キラとライト(窪田正孝)メロとニア(優希美青)邪悪なる善意と正義なる悪意の隙間で(山崎賢人) | トップページ | 職務質問には素直に応じること(北川景子)ただいま潜伏中(川口春奈)凌辱されても無抵抗(門脇麦)旅立ちの時間と場所をお知らせします(中村ゆり) »
コメント