ポケットの中の平和~おもしろきこともなき世におもしろくすみなすもの(黒島結菜)
妄想は虚構の一種である。
歴史が虚構である以上・・・それは妄想に過ぎない。
逆に言えば・・・共通の歴史認識とは妄想の共有なのである。
時は過ぎ去って行く。
昭和は遠ざかって行く。大正はもうあったのかどうかもわからない。明治は遠くなりにけりである。
幕末という・・・日本という国の大転換期・・・その遥かな過去に何があって現在に至るのか・・・一から妄想するのはなかなかに大変だ。
それでも・・・自分の住んでいる国がどのように成立したのかを・・・なんとなく知っておきたいと思う人間は少なくないだろう。
なにしろ・・・この国では・・・自由な歴史研究が行われ・・・妄想が統一されていないために・・・学校教育で正しい歴史を教えることに不自由があるのである。
史実に寄り添った大河ドラマでなんとなく妄想を共有したいわけである。
そういう意味で・・・かなりとんでも大河ドラマであるこの作品。
このとんでも大河の路線を「天地人」(平均視聴率 21.2%)で確立したとも言える脚本家の登場である。
すげえな・・・超とんでも大河の道をまっしぐらだな。
「花燃ゆ紀行」と本編の落差はナイアガラの滝みたいだぞ。
妄想では・・・「おもしろきこともなき世をおもしろく」の上の句に対し晋作は「民百姓を捨て駒にして」と下の句を作っていてもおかしくないと思うのだが・・・「美人妻よりおかめがなじむ」みたいなことに・・・。
まあ・・・すべては妄想だからな・・・被害妄想でも誇大妄想でも関係妄想でも受け入れるしかないのだな。
で、『花燃ゆ・第36回』(NHK総合20150906PM8~)脚本・小松江里子、演出・渡邊良雄を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は高杉晋作の死去で今後の出演が心配な正妻・高杉雅の描き下ろしでお得でございます。笑顔に続いて二枚目は憂いを秘めていてうっとりでございます。とんでも大河にあって・・・視聴継続のモチベーションのために果たした役割は大きいですよねえ。全体的に「なんだかなあ・・・」の大河にあってキャスティングだけは・・・頑張った・・・と言う他ございません。まあ・・・俳優の皆さんにとって幸福だったかどうかは別として・・・。第二次世界大戦まで続く巨大な戦史の中では・・・第二次長州征伐は「ポケットの中の戦争」だったのかもしれない。そして・・・会津の奥が戦火にさらされたようには・・・戦の惨禍が及ばなかった萩や山口の奥には・・・おそらく「ポケットの中の平和」があったのでしょう。いつの時代にも戦争と平和はあり・・・そして戦争中でも平和な人々はいるものですからねえ。
元治二年(1865年)二月、毛利元徳の長男・興丸生誕。慶応二年(1866年)七月、江戸幕府第14代征夷大将軍・徳川家茂病没。将軍職が空位となり、幕府は長州征伐継続が困難となる。この時、興丸は満一歳五ケ月。薩摩藩は島津久光・忠義父子の連名により征長反対の建白書を朝廷に提出。八月、小倉城が落城し、「長州征討止戦」の勅命が下る。これによって長州征伐は事実上の終戦となる。九月、朝廷は孝明天皇と徳川慶喜に対する薩摩藩と一部公家による抗争に発展し、朝廷改革を目的とした列参諫奏を岩倉具視が強行。騒乱を嫌う孝明天皇の逆鱗に触れる。結果として朝廷では徳川慶喜の力が強まる。十二月五日、慶喜は江戸幕府第15代征夷大将軍に就任。二十五日、孝明天皇は天然痘によって崩御。突然の病死に暗殺説が疑われる。この時、興丸は満一歳十ケ月。慶応三年(1867年)一月、満14歳の明治天皇が即位。二月、長州問題、兵庫開港問題などの国事を列侯会議によって決することが薩摩藩によって提唱される。伊達宗城(前宇和島藩主)・山内豊信(前土佐藩主)・松平慶永(前越前藩主)らが同意に傾く。四月十二日、島津久光(薩摩藩主島津茂久の父)が藩兵を率いて入京。十四日、高杉晋作が病没。この時、興丸は満ニ歳二ケ月。五月、山内豊信(容堂)が入京し、四侯会議が開催される。長州征伐の継続の賛否が論じられる。六月、大政奉還を目指す同盟が薩摩藩と土佐藩の間で密約される。九月、小田村素太郎が楫取素彦、桂小五郎が木戸孝允、村田蔵六が大村益次郎に藩命により改名する。この時、興丸は満二歳七ケ月。十月、倒幕及び会津桑名討伐の密勅が下る。慶喜、大政奉還を表明。十一月、坂本龍馬暗殺。十二月、王政復古の大号令。毛利敬親・定広父子の官位復旧が決定し、長州は朝敵を赦免される。
「興丸様は・・・何歳になられたか・・・」
「年が明ければ数えで・・・四歳になられる・・・」
「少し・・・成長が早すぎるようだが・・・」
「守役の美和殿が何やら怪しい薬を煎じているという噂じゃ・・・」
「それにしても・・・季節がおかしいの・・・」
「去年が今年のようで来年も今年のような時間軸の乱れが感じられる・・・」
「春かと思えば夏・・・夏かと思えば年の暮れじゃ・・・」
「天変地異の前触れか・・・」
「どんど天地人の魔法でござろう」
「シュタインズ・ゲートが開くのか・・・」
「なんじゃ・・・それは・・・」
「再放送中の深夜アニメでござる・・・」
美和は船中で隊士たちの心を読んでいる。
荒れた日本海を改造型輸送船第三丁卯丸が航行している。
蒸気機関を供えているが帆走中である。
長州忍びのものたちは鬼兵隊と呼ばれ、くのいちたちは萩女衆と名付けられ、丹後国から秘密裏に上陸し、街道を経て入京することになっている。
倒幕派の忍びと公儀隠密の暗闘はすでに峠を越え、お互いに身動きできぬ状況である。
長州忍びたちは薩長同盟の密約に基づき、薩摩支援の体制をとる長州軍の上洛に備えて薩摩くぐり衆との共闘体制に入るのである。
「文さん・・・いや・・・美和様・・・」
伊藤博文となった俊輔が船室の美和に声をかける。
文は恩師の妹であり、同志の妻であり・・・毛利家の奥のものである。
そして・・・長州くのいち上洛隊の隊長であった。
俊輔にとって主筋のようなものであり博文は文の一字を受けたのだった。
隠し目付けであった博文は表向きは応接係(外交官)であったが・・・今は長州忍び上洛隊の隊長であった。
「そろそろ・・・上陸します・・・上陸艇に移る準備をしてくだされ」
「夜明けが近いですね・・・博文殿」
「はい・・・岸は一応、幕府領ですので・・・ご用心くだされ」
「知っていますか・・・義兄は楫取、桂様は木戸と名乗られたとか」
「もちろんでございます」
「楫取は香取神宮に通じ、木戸は蝦夷征伐にちなんだ氏・・・いずれも関東や陸奥に縁深い名前です・・・お殿様は・・・九州攻めの前に配下の武将に九州武士の古き名を与えた・・・織田信長の気分なのですよ」
「なるほど・・・」
「兄の夢見た・・・維新がまもなく実現します」
「しかし・・・私の出番はあまりないようです」
裏方に徹している博文は気を許した風に唇を尖らせる。
「安心してください・・・博文殿は・・・大層出世なさいますよ・・・」
「マジですかっ」
美和は微笑んだ・・・しかし・・・博文の立身出世の果ての末路については口を噤む。
夢のような慶応三年が終わろうとしていた。
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