午後七時から午前七時の間に(本田翼)仕事ができない男は恋愛もできない(福士蒼汰)再犯者(野村周平)
飲酒運転者から免許を剥奪し、性犯罪者は去勢。
そうすれば再犯者はなくなるかと言えばそうはいかない。
飲酒した上に無免許運転で、生殖器官を失った人間がより陰湿な性的犯罪を行う。
邪悪な人間の個性を失わせることは困難なものである。
殺すしかないね。
・・・と殺伐としたキャラクター的なセリフで曖昧にするしかないわけである。
まして・・・恋の病ゆえのあやまちは・・・責めるのも省みるのも難しい。
誰かが傷つくかもしれないからもう恋なんてしない・・・ってわけにはいかないからねえ。
愛したり愛されたり愛し愛されたい・・・愛したかったり愛されたかったり愛し愛されたかったり・・・自己増殖の欲望に突き動かされた人間の・・・あやしい情念は・・・世界に波紋を投げかけるのだ。
で、『恋仲・第7回』(フジテレビ20150831PM9~)脚本・桑村さや香、演出・金井紘を見た。テレビ番組には予算配分がある。何にどれだけ予算を使うかを考えるのは主にプロデューサーの仕事だが・・・企画を考えるものにもその要素がないわけではない。たとえば、オールロケの仕事とスタジオセットの仕事では・・・予算の配分がかなり変わってくる。ロケの場合は美術費がゼロという可能性もある。・・・もちろん・・・ロケ現場を改装してセット化すれば美術費は発生する。駅舎の駅名を変更して架空の駅にしたり、実在の店舗の内装をちょっといじったり・・・まあ、それも現在ではCGによって編集所の作業になったりもする。セットを立てこむ時には美術部に仕事があり・・・装飾しないロケには仕事がないわけである。低予算の番組でタレントと技術クルーだけで仕上げる企画ばかり立てていると・・・美術費がふんだんに使える番組に眩暈を感じたりもする。今回は・・・登場人物的なリアルさを考えると・・・荒唐無稽な予算と時間の使い方があるわけだが・・・もちろん・・・恵まれたものの社会還元ということでは恵まれない人々のためにこうした余剰力の使い方があってもいいという主張もあるわけである・・・しかし、個人的には美術さんに仕事があってよかったなあ・・・と思うのだった。
約束の時間に現れない芹沢あかり(本田翼)を待つ三浦葵(福士蒼汰)。
容体の急変した山城心音(大友花恋)の治療をする蒼井翔太(野村周平)。
教え子の無事を祈るあかり・・・。
眠れない夜を過ごす男と男と女・・・。
朝方・・・心音の容体はようやく安定する。
病室に置き忘れた荷物を看護師から渡されるあかり。
葵から何度も連絡が入っている端末を見てうろたえるあかり。
お茶の間から・・・もう少しなんとかなっただろうと非難轟々である。
しかし・・・仕方ない・・・あかりはそういう女なのだ。
自分の心配より他人の心配なのである。
そういう人間を愛せば・・・必ず振り回されるのである。
早朝・・・葵の住居に向かってとぼとぼと歩くあかり。
あかりの来るのをずっと待っていた葵は高い窓から声をかける。
「あかり・・・七時が朝の七時だったとは思わなかったよ」
「ごめん」
「翔太は喜んでくれた?」
「今、そっちに行くから」
「いいよ・・・もう出勤時間だから・・・」
あかりは・・・葵が誤解しているのを想像する。
想像するが・・・葵がいない五年間に・・・翔太と過ごした時間は・・・誤解ではないことがあかりの負い目になっている。
19歳から24歳まで・・・あかりが愛し合っていたのは葵ではなく翔太だったのである。
傷ついた葵が姿を消した部屋をふりかえるあかり・・・。
過ぎ去った過去があかりの初恋を監禁するのだった。
葵は・・・翔太とあかりが過ごした夏の夜を妄想しながら・・・ゴミ箱に合格祝いのケーキを投げ込むのだった。おいしく味わう賞味期限が切れたからである。
フレッシュでなくなってしまったのだ。
食べごろのあかりを葵から奪った翔太は・・・罪の意識と愛の欲望の間で揺れる。
「そんなにボクが悪いのか」
翔太の中で囁くものがいる。
「悪いのはボクだけか・・・」
翔太は蹲る。
「ぼやぼやしている葵だって悪いし・・・まんまと騙されたあかりだって・・・」
自分の部屋に戻ったあかりを同居人の高梨恵里香(馬場園梓)が出迎える。
「夏の夜はいろいろあるものねえ・・・」
「まあ・・・誰でもそう思うよね」
あかりは・・・誤解された自分をもてあます。
美味しい自分を初恋の人に捧げられなかった悔いが・・・あかりを呪縛している。
汚れを知らない十代のように素直になれないのである。
あかりは翔太と過ごした甘い時間をなかったことにはできない女だった。
もやもやしたまま・・・出社した葵は落とし穴に落ちる。
「これ・・・どういうこと・・・」
富永美玲(山本美月)から発注された「八王子の水族館」の「ペンギンカフェ」の「プール」の模型を・・・設定変更の前の状態で作ってしまったのである。
あかりという初恋の人が突然帰ってきて天国の階段を登っていた葵は・・・考えられないミスをしていることに気がつかなかったのだ。
今、階段から転落した上に自ら掘った墓穴に頭から突っ込む葵。
「プレゼンに間に合わない・・・お前・・・事務所の顔に泥を塗ったな」
営業担当の磯原(永井大)は葵を叱責する。
「お前・・・このプロジェクトからはずれろ・・・」
蒼白となる葵。
困惑する美玲。
所長の丹羽万里子(吉田羊)は葵を呼び出す。
「あなた・・・バタフライ泳げる・・・?」
「高校まで水泳部でしたから」
「じゃ・・・これ、いいんじゃない・・・水泳教室のインストラクター・・・時給千円」
「・・・」
万里子は葵に転職情報誌を渡す。
「あなた・・・建築家に向いてないと思うわ」
打ちのめされる葵・・・。
ますます困惑する美玲。
出入りの業者である冴木瑠衣子(市川由衣)は茫然とするのだった。
初恋も仕事も将来の夢も・・・すべてを一度に失いかかる葵。
世界は甘くないのである。
うっかりミスで柱のない家に住みたい人間はいないのだ。
葵にはそういう危うさがあるのだった。
大事なところでフライングする男なのである。
一方・・・もう一人の懲りない男・・・翔太は指導医の真山(奥田達士)から心音の転院について聞かされ驚く。
「北海道の心臓移植の権威が引き受けると言ってくれた」
「・・・」
翔太は心音を口実に・・・あかりを呼び出す。
「心音ちゃんを励ましてくれないか・・・」
「わかった・・・」
八月二十三日(土)の「城南花火大会」に幼馴染の星野悠真(萩原利久)と一緒に行くことが夢の心音。
初恋を胸に封じ込めようとするあかりにとって・・・心音の願いを叶えることは・・・せめてもの慰めなのである。
無理矢理な外出許可を得た心音とあかりは・・・浴衣を買いにおでかけするのだった。
ちなみに2015年の8/23は日曜日である。ついでに2014年の8/23が土曜日だ。
作品世界の現在は実は去年の話なのかもしれない。
ということは・・・「一年後」があるかもしれないわけである。
一方・・・仮病を使って設計事務所を休んだ葵。
妹の七海(大原櫻子)と居候の公平(太賀)を誘い、東京スカイツリーにおでかけする。
「東京スカイツリー・・・キターッ!」
「お兄ちゃん・・・テンションが変だよ・・・今にも変身しちゃいそう・・・」
「なんか・・・あったんだろう・・・」
お茶の間は「原因はお前だがな・・・」と叫ぶのだった。
一方・・・心音の前ではしゃぐあかり。
パンケーキを食べながら心音は問う。
「先生・・・変だよ・・・フワフワしてる」
「そんなことないよ・・・それより告白するの」
「私たちは・・・そんなんじゃ・・・」
「好きな人といつまでも一緒にいられると思ったら・・・大間違いだよ」
「・・・それ・・・心臓移植の提供者を待つ患者に言う言葉?」
「ごめん・・・でも・・・パンケーキだって・・・冷めたら美味しくなくなるでしょう」
あかりは・・・24歳の自分を冷めたパンケーキに例えるのだった。
一方、下町でもんじゃを食べる葵組。
「東京にはキラキラの下にドロドロがあるんだな」
「・・・」
「ドロドロを封じ込める土手も必要だよな」
「・・・」
「何があったんだよ」
あかりの来なかった夜のことを話す葵。
原因が自分であることはスルーする公平だった。
兄を気遣う妹・・・。
「でも・・・それだけじゃない・・・自分に才能がないことに・・・気がついてしまったんだ」
「建築家って・・・才能が必要な仕事なのか」
「豆腐作りにだって才能が必要だろう」
「考えたこともなかったよ・・・」
実りなき・・・バカとバカの会話である。
兄を案じる妹だった。
帰宅した三人を待っている美玲。
「これ・・・やっといて・・・」
後輩を案じる先輩は仕事を発注する。
「でも・・・僕は・・・」
腐っている葵は意地を張るのだった。
「じゃ・・・もう頼まない」
美玲は差し伸べた手を引っ込める。
あかり組が病院に戻ると・・・心音の母親と主治医が病室で待っている。
「来週・・・転院が決まった・・・それまでは安静に過ごしてもらう」
「そんな・・・外出許可は・・・」
「無理だ・・・」
病院では基本的に初恋より健康が優先されるのだった。
「私はただ・・・花火を一緒に見たいだけなのに・・・それが悪いことなのかな・・・」
古傷が疼くあかり・・・。
果たせなかった想いが・・・揺らめくのだ。
あかりは・・・優秀な頭脳をフル回転させるのだった。
すべてをあきらめて・・・水泳のインストラクターへの転向を決意する葵。
建築関係の資料をダンボール箱に投棄する。
その中にはあかりの望んだ「未来の家のイラスト」もあった。
砂浜と庭園に面した小さな家。大きなテレビとオープンキッチン・・・。
「建築家になってこういう家を作ってよ」
昔のあかりの声が葵の心の中にこだまする。
それは儚い過去である。
葵は虚しい夢をくしゃくしゃに丸めて捨てた。
そこへ・・・あかりがやってくる。
「あの日のこと・・・説明させて・・・」
「俺には・・・関係ない」
「じゃ・・・お願いを聞いて・・・」
「なんだよ・・・」
「サザエさんの家の見取り図書いて・・・」
「なんじゃそりゃ・・・」
「それから・・・作ってもらいたいものがある」
あかりは新たな設計図を見せるのだった。
「・・・こんなの無理だよ」
あかりは・・・転職情報誌を発見する。
「まさか・・・建築家になるのをやめるつもり・・・」
「・・・」
「いやだよ・・・だって・・・葵が作るもの・・・好きだもの」
「・・・」
「このテーブルだって・・・あのラックだって・・・ウサギ小屋も・・・葵の作るものは心が落ち着くもの・・・」
「・・・」
「だから・・・夢をあきらめないで・・・」
「・・・」
肩を落して部屋を出るあかり・・・。
自分の存在が・・・葵を傷つけてばかりいることに落胆するのだった。
しかし・・・あかりに褒められて希望の宇宙が心に満ちる仮面ライダー・・・。
高い窓からあかりを呼びとめる・・・。
「カレー食べるか?」
「うん」
二人はやり直しのやり直しにとりかかる。
カレーは・・・七年の歳月を忘れさせる・・・いつもの味である。
苦渋を知らぬ幸福な頃の味に・・・二人の心は温められる。
「知ってるか・・・サザエさんは24歳なんだぜ」
「ええ~・・・タメなの~」
自局アニメを推しまくるドラマだった。
サザエさんは・・・一児の母なのに・・・モタモタしている二人である。
帰宅した妹は・・・兄がやる気を出しているのに・・・驚く。
優秀な妹は・・・二人分の食器が出ていることに原因があることを推察し微笑むのだった。
こうして・・・病院夏祭り化計画がスタートするのだった。
美玲から発注された仕事を仕上げ頭を下げる葵。
「迷惑かけてすみませんでした」
事務所の人々はガッツを見せた葵を生温かく迎えるのだった。
「お願いがあります・・・」
「何よ・・・」
葵は・・・事業主に・・・社会還元事業を申し出るのだった。
面白いことが好きな万里子は・・・面白がる。
工務店の棟梁(宇梶剛士)も巻き込む葵。
「無理だよ・・・ボランティアじゃないんだから」
「ボランティアでお願いします」
病院で翔太を呼び出す葵。
「お前になんか頼みたくなかったけど・・・」
「・・・」
「あかりの願いを叶えてやりたいんだ・・・」
「・・・」
「お前だって・・・そうだろう」
「そうだよ」
ポケットマネーが無尽蔵で・・・研修医とは思えない影響力を行使する翔太は・・・病院で夏祭りが開催されることを経営者に承諾させるのだった。
何者なんだ・・・。
こうして・・・その日・・・病院の廊下には露店が並び・・・会議室にはプロジェクターによる花火映像が投影される。
あかりに呼び出された心音の幼馴染は・・・擬似花火大会を満喫するのだった。
心音の夢は叶ったのである。
入院中の子供たちも・・・たこやきや・・・金魚すくい・・・風船釣り・・・綿飴を堪能するのだった。
ひょっとこのお面をかぶった葵をとうふすくいの得意なおかめのお面の万里子が激励する。
「来てくれたんですか」
「面白そうだもの・・・」
「ありがとうございます」
「よくやったわ・・・あなた・・・何か大切なものを掴んだでしょう」
「教えてくれた人がいたんです」
「じゃ・・・ご褒美にこれあげる」
葵は「花やしき」のチケットを入手した。
心音はあかりに感謝する。
「私・・・告白できた・・・来年の花火大会に誘われた・・・だから・・・転院して病気を治すよ」
「よかった・・・」
「先生も・・・がんばって・・・キックしてないで・・・冷えたパンケーキを捧げるのよ・・・まだ食べられないことはないと思うから・・・」
葵はあかりを捜した。
あかりは葵を捜した。
後片付け中の病院の廊下ですれ違う二人。
偽物の花火の前に佇むあかり・・・。
背後から翔太が現れた。
翔太はあすなろ抱きであかりを拘束する。
慣れ親しんだ男の手のひらの温もりを胸に感じるあかり・・・。
「あかり・・・もう一度・・・僕と一緒に花火を見に行ってくれ・・・悪いとは思っている・・・でも・・・後悔はしたくない・・・僕にはあかりが必要なんだ・・・あかり・・・僕と結婚してくれ」
悪く強い男の懲りないプロポーズを・・・善良で気の弱い男がなす術なく立ち聞きする。
戸惑う女の夏の季節が足早に通り過ぎて行くのだった。
そして・・・初恋と大人の恋愛は激しく火花を散らすのである。
勝負は来年の花火大会に・・・持ち越されるのかもしれない・・・。
一面終わってすぐ二面である。
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